芭蕉雑記
著者名:芥川竜之介
一念の□(うなぎ)となつて七(なな)まとひ 桃青
骨刀(こつがたな)土器鍔(かはらけつば)のもろきなり 其角
痩せたる馬の影に鞭うつ 桃青
山彦嫁をだいてうせけり 其角
忍びふす人は地蔵にて明過(あけすぐ)し 桃青
釜かぶる人は忍びて別るなり 其角
槌(つち)を子に抱くまぼろしの君 桃青
今其(その)とかげ金色(こんじき)の王 峡水(けふすゐ)
袖に入る□竜(あまりよう)夢(ゆめ)を契(ちぎ)りけむ 桃青
是等の作品の或ものは滑稽であるのにも違ひない。が、「痩せたる馬の影」だの「槌を子に抱く」だのの感じは当時の怪談小説よりも寧ろもの凄い位である。芭蕉は蕉風を樹立した後、殆ど鬼趣には縁を断(た)つてしまつた。しかし無常の意を寓した作品はたとひ鬼趣ではないにもせよ、常に云ふ可らざる鬼気を帯びてゐる。
骸骨の画に
夕風や盆挑灯(ぼんぢやうちん)も糊ばなれ
本間主馬(しゆめ)が宅に、骸骨どもの笛、
鼓をかまへて能(のう)する所を画きて、
壁に掛けたり(下略)
稲妻やかほのところが薄(すすき)の穂
(大正十二年―十三年)
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