公益に有害の鉱業を停止せざるの儀に付質問書
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著者名:田中正造 

 吾々が初め鑛毒の事に就て政府に忠告を致し質問を致したのは廿四年で、其時の鑛毒地は千六百餘町歩。然るに彼れの此れのと遁辭を構へ、或は學者の力に依て鑛毒を無くするとか、或は機械の發明に依て鑛毒を流さないとか、三度まで嘘を吐いて、其中に今日は三萬餘町の廣さに及んだ。是でも未だ何か學者の力を藉りるとか機械を据付けて毒を流さぬ樣にすると云ふやうな頭を持つて居るものと見へる。然らざれば質問書の出ない前何故に鑛業を停止してしまはないか。吾々の質問は、發いて以て快とするに非ず、事實が已むことを得ないから之を訴へるのである。最早議會も六十日以上經つた今日になつて質問しなければならぬからするので、敢て好んでする質問でも無いのに、何故今日まで之を停止しないのであるか、何か答辯が出來るつもりで居るのか。それとも地方の無頼漢或は郡吏等を頼んで拇印を取れば其れで用が濟んだと思ふて居るのか。被害人民を悉く欺きおほせても國家は承知しない。被害人民が悉く二十錢三十錢の金で誑かされて判を捺しても、そんな事は國家は知らぬ、國家が承知しない。國家は大體に立つて利害の比較を見、人民の權利を何處までも保護するのである、政府が保護しなければ吾々が保護するのである。政府は帝國憲法に、「日本臣民は所有權を侵さるゝ事なし。」と明記しあることを知れる乎。鑛業條例には、「試掘の事業公益に害ある時は所轄鑛山監督署長、採掘に就ては農商務大臣、既に與へたる認可若くは特許を取消す事を得。」とある。是だけの公益を保護し臣民を保護する所の憲法々律が顯著なるにも拘らず、此の人民を保護しない。人民を保護しなければ、人民は法律を守る義務が無い。法律を守る義務が無いどころではない、政府から強て無罪なる人民に法律を守ることの出來ない樣な事を仕向けて居るのでございます。斯樣な譯でございます。政府が法律を以て人民を保護しない、公益を保護しない。人民は法律を守るの義務が無い、又た義務なからしめたのである。故に本員等は議院法に依て質問を致しましたのでございます。大臣は帝國憲法第五十五條に依り責任を以て大臣らしき御快答あらんことを望むのである。皆樣に長く御迷惑を掛けましたことを御詫び致します。




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