女給
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著者名:細井和喜蔵 

 笑楽のおやじはぐっと眼に角を立てて呶鳴った。
「不味いから不味いと言ったらどうしたの? こんな料理は犬でも食べやしないよ。」
「生意気な、此の女(あま)!」
 おやじの毒つく声と形相は全く獣のように見て取られた。
「てめえらのような女は家に置けねえ、出て行きやがれ。」
 登恵子にはこう言うおやじの顔が、幾万の女を虐げて豚のように肥満している総ての料理屋の主人の代表の如く思われて、憎悪に堪えなかった。そして、
「誰が居てやるものか、畜生!」と痛烈な一語を残して敢然と其処を立ち去った。と、彼女は(女工がいい、堅実な神聖な労働がいい)とつくづく元の生活が恋しくなった。




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