車中有感
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著者名:上村松園 

 ひと頃のように、何でもかでも、新しい欧米風でさえあれば……それが、そのまま取り入れられて「新しい」とされていた悪夢から醒めて、戦争以後の日本の女性にも、ようやく日本美こそ、われわれにとって、まことの美であることに気づき、美容師も客も、協力して新時代の日本美を、その髪の上にも創り出そうという兆しの現われを、わたくしは、この姉妹の女性の上に見てとって、ほのぼのとした悦びを感じたのであった。
 若い母親の膝にいる幼児もまた、母親のやさしさが伝えられて、実に可愛い顔をしていた。
 わたくしは、スケッチを、その姉妹から、幼児にむけた。
 幼児は、わたくしを見ながら、にこにこと笑っていた。
 何かやはり相通じるものがあるのであろう……幼児は東京へ着くまで、わたくしのいい相手になってくれて、わたくしは、いつになく楽しい汽車の旅を味わうことが出来たのである。好きな窓外風景も、この旅行には、とんと御無沙汰してしまって……

 わたくしは、このあどけない幼児に別れるとき、ひそかに祈ったのである。
「よい日本の子となって下さい。あなたのお母様や叔母様は、立派に日本の土にしっかりと立っていなさる方であるから、お母様や叔母様を見ならってゆきさえすればきっと立派な日本の子となれるでしょうから」
 わたくしは、今もあのときの姉妹の髪と色白の横顔とが忘れられない。
 わたくしは、天平の上□を思うたびに、あのお二人を憶い出し、あの姉妹を思うたびに天平時代の女人を憶い出すのである。




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