孤独
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著者名:蘭郁二郎 

 洋次郎は原が急にぞんざいな言葉で、変なことをいうので吸いかけた莨を、思わず口から離した。
 原はビクッとするように狼狽して、
 ――いやいや、騒然たる中の空虚、織る人込の中にこそ本当の孤独があるのです。恰度(ちょうど)紺碧の空の下にのみ漆黒な影があるように、……
 ダガ、洋次郎は、もう答える事が出来なかった。あの貰った莨を一口吸った時から、心臓が咽喉につかえ、体は押潰されるようにテーブルの上に前倒(のめ)って、四辺(あたり)は黝く霞み、例えようもない苦痛が、全身に激しいカッタルサを撒散(まきちら)し乍(なが)ら駈廻った。
 そうして薄れ行く意識の中に、原の毒々しい言葉を聞いた。
 ――さようなら。私は孤独を愛するのです。それを愛するばかりに、乱されたくないばかりに、あなたに死んで貰うのです。孤独は総てに忘れられ、総てに歪められた私に、タッタ一つ残された慰安です。それを荒されたくはないです。さようなら。




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