孤独
著者名:蘭郁二郎
洋次郎は原が急にぞんざいな言葉で、変なことをいうので吸いかけた莨を、思わず口から離した。
原はビクッとするように狼狽して、
――いやいや、騒然たる中の空虚、織る人込の中にこそ本当の孤独があるのです。恰度(ちょうど)紺碧の空の下にのみ漆黒な影があるように、……
ダガ、洋次郎は、もう答える事が出来なかった。あの貰った莨を一口吸った時から、心臓が咽喉につかえ、体は押潰されるようにテーブルの上に前倒(のめ)って、四辺(あたり)は黝く霞み、例えようもない苦痛が、全身に激しいカッタルサを撒散(まきちら)し乍(なが)ら駈廻った。
そうして薄れ行く意識の中に、原の毒々しい言葉を聞いた。
――さようなら。私は孤独を愛するのです。それを愛するばかりに、乱されたくないばかりに、あなたに死んで貰うのです。孤独は総てに忘れられ、総てに歪められた私に、タッタ一つ残された慰安です。それを荒されたくはないです。さようなら。
ページジャンプ青空文庫の検索おまかせリスト▼オプションを表示暇つぶし青空文庫
Size:3902 Bytes
担当:undef