魔像
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著者名:蘭郁二郎 

「アダムはもう出来ているよ、アダムはずっと前から決ってるんだ。イヴが見つかるまで僕の手伝をして貰った人だよ……」
「えッ」
(ソレは、それは、このおれではないか!)
「ふ、ふ、もう顔色が変ってきたな。僕は浅草で逢った時から君の『甲種合格』の体に惚れていたんだ……どうだい気分は、さっきの水は味がヘンだったろう……」
「水木、俺を殺すんだな」
 洵吉は、大声で叫ぶと、水木に掴みかかろうとして椅子を刎除(はねの)けた。
 ダガ、もう薬が廻ってきたのであろうか、体には全然力がなく、不甲斐なくも、その儘床に前倒(のめ)ってしまったのだ。
 そして、大声で呪い、怒鳴っている筈の、自分の声も、洵吉の耳には、蚊の鳴くほどにも響かなかった。
 彼は薄れ行く意識の中に、もう足の先が、ジクジクと腐りはじめたような気がしてきた……。
(「探偵文学」昭和十一年五月号)



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