麦畑
著者名:宮本百合子
お婆さんは、太い溜息を吐いて、又手拭で顔を拭いた。
「私が、今年は足ろくさんに当って居る事から、とっさまの事から、はあ、すっかり当てやしてない、……お前さんは、まだまだ心が堅まんねえ、量見が定まんねえから、駄目だって云われやしたの
お婆さんは、その身持ちの若松とかから来た若い女の「伺い」にひどく心を動顛させられたと見えて、神経的にボロボロ涙をこぼしながら、聞いて来た一伍一什を話して聞かせた。
その話しようが真個にもう恐ろしさや、驚きに負け切って、到底黙って辛棒して居られないと云う風なのである。
私は心の中で、漠然とした、然し可成に重苦しい陰気さを感じながら、お婆さんが旧の七月か九月には騒動が起って、自分の身が定るだろうと云われたと云う事を聞いて居た。
自分の未来等と云うものに対しては、如何那人でも本能的に知り度い心持を持って居るだろう、知り度い、非常に知って見たい、怖いもの見たさの心持があるのだ。其で居て、いざ知らされると、堪らないのだ。おばあさん、おばあさん、自分は又土に下りて、「うこぎ」の枝を切り始めた。
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