拡がる視野
著者名:宮本百合子
題材的には数年前になかった変化があって、例えば大石千代子氏のブラジル移民を描いた小説、小山いと子氏の「オイル・シェール」のような題材のもの、川上喜久子氏の朝鮮を背景とした作品など出ている。そのほか多くの婦人作家たちが、満州、支那、南洋へと見学にも出かけている。
十年前なら、秋の奈良へ行って博物館や法隆寺を見ていた婦人作家たちが、今日は満州だの蘭印だのへ出かける。
そういう風に動きの領域がひろがったことは、次第に婦人作家たちの内的世界をもひろげて行くのだけれど、今日ではまだその目で見耳にきかされることを十分理解し、洞察し、判断し、事の真実にまでわが心情にふれて行って芸術的な作品を生み出してゆくところまで婦人作家の生活と芸術の母胎は強靭になっていない。題材的にひろがった作品の多くは、芸術の美を持つのが困難な姿であらわれているのである。同時に、今日の婦人作家が、今日私たち女全体が身に経つつある転変について余り代表的な作品をおくり出していない事実についても、何故であろうかと考えさせられる。そういう現象をもたらしている内と外との事情があるとすれば、それはとりも直さず婦人作家の明日の成長にかかわることとして考えさせられることだと思う。〔一九四一年五月〕
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