虹の橋
著者名:野口雨情
『おたあちやん、おたあちやん』と呼ぶ声がしました。
『あ、おきいちやんの声だ、おきいちやん、おきいちやん、勘忍して頂戴、わたしも御殿へまへりますよ、いままへりますよ。おきいちやん、おきいちやん勘忍して頂戴』
おたあちやんは、気狂(きちがひ)のやうに同じことを幾度も幾度も繰返して口ばしりました。
それから幾日もたたないうちに、おたあちやんの姿が見えなくなりました。
虹の橋も、いつとなく小さいのしか、かからなくなつて了ひました。
さうすると、また、船頭達の間に、こんな唄が謡(うた)はれるやうになりました。
湖(こすゐ)の上さ
天まで続く
虹の橋かけた
ふりわけ髪の
二人の子供
渡つて行つた
赤い下駄(かつこ)はいて
赤い草履(ぞんぞ)はいて
手々ひいて行つた
かうして、湖の船頭達の間には、この不思議な唄がいつまでも謡(うた)はれてゐました。それが軈(やが)て村の子供等にまで謡はれるやうになりましたが、誰一人この不思議な唄の意味(わけ)を知つてゐる者はありませんでした。
ただ知つてゐるのは湖の水神様(すゐじんさま)ばかりでした。
ページジャンプ青空文庫の検索おまかせリスト▼オプションを表示暇つぶし青空文庫
Size:12 KB
担当:undef