踊る地平線
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著者名:谷譲次 

 脱帽したベルモントが、円形スタンドの全方面へまんべんなく挨拶してるのが見える。
 総立ちだ。
 カアネエション・指輪・CAPA・帽子・すてっきなんかが雨のようにリングへ飛ぶ。
 オレイハ!
 オレイハ!
 オレイハ!
 太陽の叫喚。
 人民の声。
 耳(オレイハ)! 耳(オレイハ)! 耳(オレイハ)!
 牛の耳を切り取ってベルモントへ与(や)れという観衆の要求(デマンド)である。
 闘牛士はみんな、この牛の耳を乾(ほし)て貯めてる。これをたくさん持ってるほど名声ある闘牛士だ。ベルモントなんかには、何と素晴らしい牛の耳(オレイハ)の蒐集(コレクション)があることだろう!
 現にいま、切り離したばかりの血だらけの牛の耳を提(さ)げて、彼は群集へ笑いかけている。
 三頭立ての馬が「とうとう死んだ」牛の屍骸(しがい)――マイナス耳――を引きずって走り込む。
 砂けむり。
 牛の耳の乾物(ほしもの)――私は西班牙(スペイン)まで来て、今日はじめて「牛耳(ぎゅうじ)を取る」という意味が解った。




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