踊る地平線
著者名:谷譲次
脱帽したベルモントが、円形スタンドの全方面へまんべんなく挨拶してるのが見える。
総立ちだ。
カアネエション・指輪・CAPA・帽子・すてっきなんかが雨のようにリングへ飛ぶ。
オレイハ!
オレイハ!
オレイハ!
太陽の叫喚。
人民の声。
耳(オレイハ)! 耳(オレイハ)! 耳(オレイハ)!
牛の耳を切り取ってベルモントへ与(や)れという観衆の要求(デマンド)である。
闘牛士はみんな、この牛の耳を乾(ほし)て貯めてる。これをたくさん持ってるほど名声ある闘牛士だ。ベルモントなんかには、何と素晴らしい牛の耳(オレイハ)の蒐集(コレクション)があることだろう!
現にいま、切り離したばかりの血だらけの牛の耳を提(さ)げて、彼は群集へ笑いかけている。
三頭立ての馬が「とうとう死んだ」牛の屍骸(しがい)――マイナス耳――を引きずって走り込む。
砂けむり。
牛の耳の乾物(ほしもの)――私は西班牙(スペイン)まで来て、今日はじめて「牛耳(ぎゅうじ)を取る」という意味が解った。
ページジャンプ青空文庫の検索おまかせリスト▼オプションを表示暇つぶし青空文庫
Size:62 KB
担当:undef