幕末維新懐古談
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著者名:高村光雲 

 厨子(ずし)は、木瓜(ぼけ)厨子、正念(しょうねん)厨子、丸厨子(これは聖天様を入れる)、角厨子、春日(かすが)厨子、鳳輦(ほうれん)形、宮殿(くうでん)形等。
 その他、なお、舎利塔、位牌、如意、持蓮(じれん)、柄香炉(えこうろ)、常花(とこはな)、鈴(れい)、五鈷(ごこ)、三鈷、独鈷(とっこ)、金剛盤(こんごうばん)、輪棒、羯麿(かつま)、馨架(けいか)、雲板(うんばん)、魚板(ぎょばん)、木魚(もくぎょ)など、余は略します。

 前陳の各種を製作するにつき、これに附属する飾り金物(かなもの)、塗り、金箔(きんぱく)、消粉(けしこな)、彩色(さいしき)等の善悪(よしあし)を見分ける鑑識も必要であります。
 まず「飾り」であるが、飾りには、金鍍金(めっき)と「消し差し」の二つ。箔を焼きつけたものが鍍金で、消粉を焼きつけるのが「消し差し」です。
 金物の彫りの方では、唐草(からくさ)の地彫(じぼ)り、唐草彫り、蔓(つる)彫り、コックイ(極印(ごくいん))蔓などで地はいずれも七子(ななこ)です。
 塗り色にも種々ある。第一が黒の蝋色(ろういろ)である。それから、朱、青漆(あおうるし)、朱うるみ、ベニガラうるみ、金白檀(びゃくだん)塗り、梨子地(なしじ)塗りなど。梨子地には、焼金(やききん)、小判(こばん)、銀、錫(すず)、鉛(この類は梨子地の材料で金と銀とはちょっと見て分り兼ねる)。
 塗りにも、塗り方は、堅地(かたじ)と泥地(どろじ)とあって、堅地は砥粉地(とぎこじ)と桐粉地(きりこじ)とあり、いずれも研(と)いで下地(したじ)を仕上げるもの。上塗(うわぬ)りは何度も塗って研磨して仕上げるものです。泥地は胡粉(ごふん)と膠(にかわ)で下地を仕上げ、漆で塗ったまま仕上げ、研がないのです。泥地でも上物(じょうもの)は中塗りをします。
 箔にも種類があって、一つの製品を金にするにも金箔を使うのと、同じ金であっても、金粉を蒔(ま)いて金にするのと二色(ふたいろ)ある。
 箔についても、濃色(こいろ)があり、色吉(いろよし)がある。中色(なかいろ)、青箔、常色(つねいろ)等がある。その濃色は金の位でいうとヤキ金(きん)に当る。色吉が小判で、十八金位に当る。それから段々十二金、九金というように銀の割が余計になって来る。
 箔の大きさは普通三寸三分、三寸七分、四寸である。厚さにも二枚掛(が)け、三枚掛けと色々ある。これは私が仏師になった時代のことだが、今日(こんにち)ではいろいろの大きさの箔が出来ていて調法になっています。
 彩色にも、いろいろあります。極彩色、生け彩色、俗にいう桐油(とうゆ)彩色など。その彩色に属するもので、細金(ほそがね)というのがある。これは細金で模様を置くのである。描(か)くとはいえない。それから金泥で細金の如く模様を描くのがあります。
 極彩色はやっぱり絵画と同じ行き方で、胡粉で白地に模様を置き上げ、金にする所は金にして彩色にかかる。生け彩色は一旦(いったん)塗って金箔を置いて、見られるようになった時、牡丹(ぼたん)なら牡丹の色をさす。葉は葉で彩(いろど)り、金を生かして、彩色をよいほどに配して行く。これはなかなか好い工夫のものです。
 桐油彩色は、雨にぬれても脱落(はげ)ないように、密陀油(みつだゆ)に色を割って、赤、青と胡粉を割ってやるのです。余り冴(さ)えないものだが、外廻りの雨の掛かる所、殿堂なら外廓に用いられる。




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