痴人の復讐
著者名:小酒井不木
諸君、実に、いや、実は、患者の患眼はそのまゝになって、健眼がくり抜かれて居たのであります……この恐しい誤謬がもとで、責任感の強いS教諭は、二日の後自殺しましたよ……諸君、S教諭の誤謬は、もはや御察しのことゝ思うが復讐心にもゆる私の極めて簡単なトリックの結果でした。即ち患者に麻酔をかけた後、看護婦が教諭を呼びに行った留守の間に、患眼にガーゼをかぶせて健眼をさらけ出して置いたのに過ぎません。これが私の所謂(いわゆる)チャンスです。どうです諸君、一石にして二鳥、痴人としては先ず上出来な復讐ではありませんか。
(〈新青年〉誌大正十四年十二月号発表)
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