赤格子九郎右衛門の娘
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著者名:国枝史郎 

「因果を含め観念させ、自首させようと致しましたる所、さすが女の心弱く、急に自害致しましたれば止むなく拙者首打ってござる。いざ首級(くび)お受け取り下されい」

 こういうことがあってから数日経ったある日のこと、瀬戸内海を堂々と一隻の親船が駛(はし)っていた。船首に描かれた三個の文字それは「毛剃丸」というのである。
 今、甲板に腹巻を着け陣羽織を着た美丈夫が日没の余光虹よりも美しい西の空を眺めながら感慨深く佇んでいたが、これぞ赤格子九郎右衛門の娘、お菊事本名お粂であった。
 船には無数の珍器宝物高貴の織物が積んである。その為船は船足重く喫水深く見えるのであった。
 支那の港香港を指して駸々と駛って行くのである。そうしてそこで、利益の多い貿易事業をするのであった。
 しかし、一旦首を討たれ死んだはずの赤格子の娘がどうして生きているのであろう?
 贋首を使ったからである。――それはお袖の首なのであった。
 自分の生命(いのち)を狙ったというに、贋首の計を使ってまで、何故卜翁は赤格子の娘お粂の生命を救ったのであろう?
 一つはお粂を愛していたため、そしてもう一つは女の身で、復讐を心掛けた健気(けなげ)さに感動したからだということである。
 さあれ、お粂はこの時以来フッツリ海賊の生活を捨、一躍立派な貿易商に一変したということである。




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