デパートの絞刑吏
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著者名:大阪圭吉 

早い話が、この事件に於て、我々はあの真珠の一件よりも、死体そのものに見られる三つの特徴の方が大事だ。第一に、頸部の絞殺致命傷並(ならび)に胸部の絞痕――最初私はこの傷を鞭(むち)様の兇器で殴り附けたものと感違いした――に与えられた暴力が、非常に強大なものなる事。第二に両手の掌中に残された横線をなす無数の怪し気な擦過傷。その中には幾つかの胼胝(たこ)も含まれる。第三に、肩、下顎部、肘等の露出個所に与えられた無数の軽い擦過傷。と、まあこの三つだね。
 先ず与えられた第一の手掛を分析検討して見よう。すると直ちに私は、犯人は数人又は非常に強力な一人の人間である、と言う推定に達する。同様にして、第二の手掛である掌中の擦過傷は、被害者が何物かを握り締めて摩擦さしたと言う事実を明確に暗示する、次に、第三の手掛である所々の軽い擦過傷を検討して見よう。軽薄ではあるが太く荒々しいあの瘡痕は、明かにナイフその他の金属類に依って与えられたものでなく、鈍重で粗雑なものであり、且(か)つ又掌中に擦過傷を与えた兇器或は同性質の兇器なる事を暗示する。そうしてこの事は、あの種の擦過傷を与える様なその物体が、犯行の当時現場に、もっと厳格に言えば格闘している被害者の身辺に、あったか、或は、直接犯人が持っていたかのどちらかだ。が、この場合私は後者だと思う。何故なら、加えられた力の量的な差こそあれ、これらの擦過傷はあの頸部胸部の絞殺瘡痕に対して質的な共通点を持っているからだ。君はあの土色に変色した皮膚が擦り破れて、出血していた被害者の頸部を思い出し給え。そうして極めて幼稚な観察と推理に依ってすら、頸部に索溝の残っていない点と言い、あの皮膚の擦り破れ方と言い、第二第三の擦過傷を与えたと同一の太く粗雑な兇器である事は容易に頷(うなず)き得る筈だ。
 従って私は、これらの個々の事実の検討から、私の分類した三つの瘡痕に加えられたそれぞれの兇器が、犯行に使用された唯一の兇器である事に帰納する。だから被害者の持っていたあの幾個所かの擦過傷は格闘の際現場に転っていた奇妙な物体に依って外部的に受けたものではなくて犯人の手から執拗に襲い掛って来る蛇の様な兇器に依って与えられたものなのだ。だが、推理を今後の過程に進めるに当って最も興味深い存在をなすものは、あの掌中に残された奇怪極まる擦過傷だよ。まさか君は、死人が綱引き遊びをしていたなんて言うまいね。
 次に、あの無数の軽い擦過傷が明かに格闘に依って与えられた軽傷である事は、まさしく疑う余地がない。しからば格闘は、従って犯行は、どこで行われたか? 勿論、屋外であれ程判然たる他殺の痕跡を加えて殺害したものを、わざわざ運び込んで屋上から投げ墜(おと)し墜死に見せかけよう、なんてナンセンスは信じられない。しかもこの場合厳重な戸締りの問題がある。しからば次のデパートの屋内で犯行が行われたとの解釈はどうか? この解釈が肯定されるためには、被害者が殺害されるまでの格闘の際、一言の救助をも求めなかった、と言う驚くべき事実だ。従って犯行は最後の場所、即ち屋上で行われた事になる。この考え方は確かに平凡である。警察も同感だろう。が、同じ同感でも私はその断定を下すまでに少くとも他の一、二の問題を明かに否定している。例えば先程私は被害者の絞殺致命傷の特徴からして、犯人は数人又は非常に強力な男と断定した。がこの内の「数人の犯人」は、以上の私の検討に依って既に否定されている。ああ言う組織の宿直員の中では、まず共謀と言う事は成立しないからだ。従って犯人は力の強い一人の男と言う結果に逢着する。その強力者とは誰だ」
「大分複雑になったねえ」
 喬介の説明に恍惚(うっとり)として聞き入っていた私は、とうとうその興奮を爆発さしてしまった。喬介は、煙草に火を点けてぐっと一息深く吸い込むと、眼を輝かせながら言葉を続けた。
「複雑になった? 違うよ君、簡単になったのだよ。シャーロック・ホームズ気取りになるがね、『凡(すべ)ての否定を排除すれば残れるものが肯定である』と、どうだね。そうして犯行は屋上――この場合植込みに足跡のなかった事を留意して置く必要がある。――次に、所々の特に掌中の奇怪な擦過傷、強い力を持った犯人、執拗な兇器。これらの手掛を基礎として、最後の調査をして見よう。さあ、一つ拡大鏡でも仕入れて、もう一度屋上へ登ろう」
 私達は立上って食堂を出た。何時の間にか入り込んで来た外客のために、辺りは平常のざわめきに立ち返り、階下の楽器部から明朗なジャズの音が、ギャラリーを行き交う人々の流れを縫ってゆるやかに聞えていた。
 四階の眼鏡売場で中型の拡大鏡を手に入れた私達は、人々の波を分けて、再び屋上へ出た。事件のあったためか、一般の外客は禁足してあり、ただ数人の係員が、私達の闖入(ちんにゅう)に対して、好奇の眼を瞠(みは)っていたに過ぎなかった。
 喬介は眉根に深い皺(しわ)を刻まして首を傾けながら、屋上の隅から隅へ鋭い観察を投げ掛けていたが、やがて私を促して死体の落下点と思われる東北側の隅へやって来ると、拡大鏡を振り廻して先程よりも一層綿密に鉄柵や植込みを調べ始めた。が、間もなくフッと思い切った様に其処を離れると今度は、何事か記憶を思い浮かべるかの様に、小声でぶつぶつ呟きながら、西側の虎の檻に向って歩き出した。其処で喬介は、大きなアフリカ産の牡虎が、屈托気(くったくげ)に昼寝をしている姿を見詰めながら暫く深い思案に陥っていた。が、急に向き直って、晴れ渡った大空の一角に眼をやった。と、彼はその両の眼を生き生きと輝かせながら、東側の露台へ向って大股に歩き出した。
 その露台では、今まさに大きな灰色の広告気球(バルーン)が、その異様な姿態を晒(さら)け出して、愉快な青空の中へ、むくむくと上昇し始めていた。私は思わず息を吸い込んだ。
 が、そこで私の驚いた事には、広告気球(バルーン)を揚げ掛けた気球係の男を捕えて、喬介は冷たい訊問を始めた。
「君は今朝何時に此処(ここ)へ来たかね?」
「ええ、実は昨晩少し天候が悪かったものですから責任上心配して、今朝は何日(いつ)もより少し早く六時半に出勤しました」
 捲取機(ローラー)のハンドルを逆回転させながら、係の男は愛想よく答えた。
「すると君は、六時半にこのバルコニーへ出た訳だね?」
「いいえ違います。六時半と言うのは店へ着いた時間でして、それからあの事件の噂を聞いたり屍体を見たりしていたものですから、此処へ上った時はもう七時でした」
「その時、このバルコニーの上で何にか変った処はなかったかね?」
「別に気附きませんでしたが、ただ、瓦斯(ガス)のホースが乱雑に投げ出されてあり、バルーンは非常に浮力が減って、フニャフニャになりながら、今にも墜(お)ちそうに低い処で漂っていました。が、これは天候の荒れた後によくあることです」
「バルーンは夜中にも揚げて置くのですか?」
「ええ、下に降ろして繋留(けいりゅう)して置くのが普通ですが、天候を油断してそのままにして置く時もあるのです」
「バルーンの浮力が減ったと言うのは?」
「気嚢(きのう)に穴が明(あ)いていたのです。もっともその穴は、一月程前に一度修繕した事のある穴ですが――」
「ははあ、それで君は先程気嚢の修繕をしていたのだね。ところで、このバルーンの浮力はどれ位あるかね?」
「標準気圧の元では600瓩(キロ)は充分あります」
「600瓩(キロ)と言うと随分な重量だねえ。いや、有難う」
 訊き終ると喬介は、広告気球(バルーン)のロープに着いて揚(あが)って行く切り抜きの広告文字(サイン)を見詰めた。
 ちょうど広告気球(バルーン)が完全に上昇してロープが張り切った時に司法主任がやって来た。
「やあ、皆さんそんな処で深呼吸をしているのですか! いや、非常に結構な事です。ところでどうですか。首飾の指紋はやっぱり被害者野口のものでしたよ。ほら、こんなにはっきりと検出されました。」
 こう言って司法主任は私達の眼前(めのまえ)へ七色に輝く美しい首飾をぶら下げた。成る程、その大粒な連珠の上には、二つの大きな指跡が、はっきりと浮び出ていた。
「ほう、結構ですね」喬介は微笑んだ。
「ところで、済みませんがその水銀とチョークの混じった何んとやら粉を、私にも一寸拝借さして下さい」
 呆気に取られている司法主任の手から、検出用具を借り受けると、捲取機(ローラー)に寄り添って、ハンドルの上へ、灰色の粉を器用な手附きで振り掛け、やがてその上を駱駝(らくだ)の刷毛(はけ)で軽く払い退けた。
「ああ、やっと今気附きましたが、今朝修繕するためにバルーンを降ろした時、瓦斯注入口(ガスゲート)の弁が開いたままになっていました」
 今まで何事か考えていた係の男が、急に口を切ってこう言った。
「弁が開いていた?」
 驚いた様に顔を上げて訊き返した喬介は、暫く考え込んでいたが、
「ほう、非常に有力な証拠だ」
 と、独りで呟くと、再び元の姿勢に戻って、拡大鏡でハンドルの表面を調べながら、係の男に言葉を掛けた。
「君は今朝グローブを嵌(は)めずに此処へ触れたね?」
「ええ、最初バルーンを降ろす時には、修繕するために急いでいましたので――」
 それから喬介は、首飾を司法主任の手から借り受け、ハンドルの上に検出された指紋と、首飾の指紋とを較べ始めた。私も喬介の横へ屈み込んで、両方の指紋を熱心に比較して見た。が、二通りの指紋は、各々全く別個のものである事に私は気附いた。
「ね。君も気附いたろう? ほら、このハンドルの上には、この人の指紋以外に、この首飾の指紋、つまり被害者の指紋は一つも見られない。これでよろしい。さあ、バルーンを静かに降ろして下さい」
 喬介の言葉に、係の男は一寸不審気な表情を見せたが、間もなく作業手袋(グローブ)を嵌めて、捲取機(ローラー)のハンドルを廻し出した。
 一呎(フィート)。二呎(フィート)。――広告気球(バルーン)は静かに下降し始めた。
 喬介は拡大鏡を、捲き込まれて行くロープに近附けて鋭い視線をその上に配っていた。が、間もなく三十五、六呎(フィート)も捲き込まれたと思う頃、広告気球(バルーン)の下降を中止さして、司法主任に声を掛けた。
「犯人を見附けました――」
 喬介のこの言葉に少からず驚いた私達は、喬介の指差した太い麻縄のロープの一部に、深く染み込んでいる少量の赤黒い血痕を認めた。
「これがつまり被害者の頸部の絞傷から流れ出た血痕です。さあ、もうバルーンの用事は済みました。揚げて下さい……ああ一寸待って下さい。全部降しちゃって下さい。まだ一事忘れていた。当っているかいないか、一寸試して見ますから」
 係の男は、呆気(あっけ)に取られたまま、再びクランクを始めた。
 司法主任は、極度の興奮のために歯をカチカチ鳴らしながら、静かに降りて来る広告気球(バルーン)と、喬介の横顔と、そうして係の男の挙動とを、等分に見較べながらつっ立っていた。
 やがて広告気球(バルーン)が降り切って、その可愛い天体の様な姿を私達の頭上に横たえると、喬介は瓦斯注入口(ガスゲート)の弁を開いてその中へ細い手首を差し込み、暫く気嚢の内底部を掻き廻していたが、間もなく美しい首飾を一つ取り出した。
「図太い野郎だ!」
 司法主任が係の男にとびかかろうとした。
「お待ちなさい。人違いですよ。犯人はバルーンです。この軽気球です。ほら、これを御覧なさい」
 喬介が、瓦斯注入口(ガスゲート)の金具、弁、新しく発見された首飾の三点に、先程の「灰色粉」を振り掛けて刷毛で払うと、三点共に同じ様な幾つかの指紋が、見る見る検出されて来た。
「御覧なさい。この人の指紋ではないでしょう?」
「ふーむ。確かに被害者野口達市の指紋だ」
 司法主任はまるで狐につままれた態(かたち)だ。喬介は私の方を振向いた。
「君。済まないがね。中央気象台へ電話を掛けて、昨晩の東京地方の気象を問い合せて下さい」
 喬介の命ずるままに六階へ降りた私は、其処の電話室で任務を済ますと、結果をノートへ記入して再び屋上へ帰って来た。喬介は、私の渡したノートを受け取ると、
「いや、有難う。753粍(ミリ)の低気圧と西南の強風か。さあ、もう用事は済みましたからバルーンを揚げて下さい。さて、これから結論の説明に移りましょう」
 言い終ると喬介は、上昇して行く広告気球(バルーン)を見上げながら煙草に火を点け、静かに口を切った。
「私は先ず、第一に、犯人は宿直員以外の強力な男である事、――この場合戸締りが厳重であった事を考慮に入れて置く――。第二に、犯行は屋上で為(な)された事、――この場合植込みにも鉄柵にもタイル床の上にも、何等の痕跡がないと言う消極的な手掛に留意して置く――。第三に、犯行に使用された唯一の兇器が、屈曲の自由な長い粗雑な表面を持った物体、端的に綱様の物である事。第四に、犯罪の動機が決定的でない事等の基礎知識の把握に成功しました。そこで私はこれらの材料をスタートとし、極めて厳格な批判の元で、出来得る限り自由な想像力を働かせ、新しい綜合的な推理に踏み出しました。間もなく私は、このバルーンのロープを兇器とする、未だ多分に粗雑ではあるが或る一つの推定に到達しました。そしてその粗雑さを克服するためにこのバルコニーへやって来て、私の概念的な粗雑な断案を、加工し整理すべき新しい材料の拾収を始めました」
 ここで喬介は、一寸言葉を切って、改めて広告気球(バルーン)を振り仰ぎながら、一段と声を高めて話し始めました。
「つまり、一昨日(おととい)の晩営業中に、二つの首飾を盗んだ野口達市君は、当然行わるべき身体検査や建物中の厳しい捜索を予期して、最も安全な場所へ、即ちバルーンの内底部へその首飾を隠して置いたのです。勿論君は」と、係の男を見ながら、「夜間にバルーンの番をしてはいないでしょうね? 宜(よろ)しい。そして昨晩、多分隠した首飾が気に懸ったのでしょう、宿直当番になった被害者は、就寝前の十時頃、バルーンの様子を見るために屋上へ登ったのです。其処で彼は、穴の明いたバルーンが、浮力の減少したためにフニャフニャと降りて来そうなのを発見して非常に驚き、急いで力任せにロープを手繰(たぐ)りバルーンを降し始めました。浮力が減少したとは言え、瓦斯(ガス)が充満してさえいれば600瓩(キロ)の浮力を持つバルーンです。被害者は掌中に幾つもの胼胝(たこ)を作りながら、夢中でバルーンを降してしまいました。そして、瓦斯注入口(ガスゲート)の弁を開き、多分一度は隠した品物の安全を確かめたでしょう、勿論まだ事件のほとぼりが冷め切っていないために、品物を持ち出す危険は避けたのでしょう。それから瓦斯(ガス)のホースをあてがい、水素瓦斯(ガス)の補充を始めます。瓦斯(ガス)が充満するに従って、バルーンの浮力は増大します。この場合、被害者は重大な過失を犯しています。即ち、最初バルーンを降す時に驚きの余り急いだため捲取機(ローラー)を使用せずに直接手で手繰(たぐ)り降してしまった事です。この推定に対しての反証は、今朝急いでグローブなしでハンドルを掴んだこの係の方の指紋以外に、被害者の指紋が検出されない限り無力です。従って、瓦斯注入口(ガスゲート)の金具又はロープを手で押さえながら瓦斯(ガス)の補充を行っていた被害者は、瓦斯(ガス)が充満されバルーンの浮力が増大するに従って、初めて捲取機(ローラー)を使用しなかった過失に気附いたのです。多分非常に驚いた彼は、急いでロープを捲取機(ローラー)の何処かへ引っ掛けて、バルーンの上昇を牽制(けんせい)しようとあせった事でしょう。が、浮力の増したバルーンは、瓦斯(ガス)のホースを投げ離し、弁を開けっぱなしたまま容赦なく上昇を始めます。被害者は夢中でその上昇を牽制する。自分の体を引き揚げられない様に注意しながら、ロープを握った両手に力を加える。が、太い粗雑なそのロープはいたずらに彼の掌中に無数の擦過傷を残したまま、どんどん延び揚(あが)って行きます。切り抜きの広告文字(サイン)ももう飛び揚ってしまった頃、前に被害者の犯した過失が、ここで恐るべき結果を齎(もた)らします。即ち、被害者の足元に手繰り取られ、蜷局(とぐろ)を巻いていたロープが、大騒ぎをしている被害者の体へ、自然と絡み附いたのです。勿論、彼は夢中で格闘を続けます。が、ロープは彼の体の所々、例えば肩、下顎部、肘等の露出個所に無数の軽い擦過傷を与え、寝巻の一、二個所を引き裂いて、更に頸部と胸部に絡み附きます。動きの取れなくなった被害者の体は、そのまま天空(そら)へ引っ張り揚げられます。バルーンが惰性的に上昇し切ってロープが強く張り切った時に、彼の呼吸は止まり、肋骨は折れ、頸部の皮膚は擦り破れて出血する。野口達市君は、文字通り天国へ登ったのです。さて――」
 喬介は、先程私の渡したノートに眼を遣(や)り、
「午前零時から二時半までに、東京地方を通過している753粍(ミリ)の低気圧と西南の強風は、バルーンを垂直上昇線から東北方へ押し出します。穴の明いていたバルーンは、低気圧の通過と相俟(あいま)って、ようやくその浮力を減じ、ロープの緊張は弛(ゆる)んで被害者の屍体は振り墜されます。デパートの屋上へではないのですよ。デパートの東北の露路(ろじ)のアスファルトの上へです。屍体が振り墜された時の震動に依って、気嚢の内底部に押し込んであった首飾の一つが、弁を開けっぱなされたままの瓦斯注入口(ガスゲート)から、死人の後を追います。最後に、勿論御承知のこととは思いますが、絞死による屍体の血液は比較的長時間に亙(わた)って流動状態にあるものですから、死後数時間を経てロープから振り落された屍体といえども、破壊された頭部の傷口からアスファルトの上へ、生々しく出血します――」
 言いおわって喬介は改めて空を振り仰いだ。
 九月の美しい青空の中に、くっきりと浮び上った夢の様な広告気球(バルーン)は、この奇妙なデパートの絞刑吏は、折からの微風に下腹を小さく震わせながら、ふわりふわりと漂っていた。




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