尾崎放哉選句集
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著者名:尾崎放哉 

花火があがる空の方が町だよ

一疋の蚤をさがして居る夜中

あけがたとろりとした時の夢であつたよ
(あけがたとろりした時の夢であつたよ)

おそい月が町からしめ出されてゐる
(をそい月が町からしめ出されてゐる)

わが肩につかまつて居る人に眼がない

蓮の葉押しわけて出て咲いた花の朝だ

切られる花を病人見てゐる

お祭り赤ン坊寝させてゐる
(お祭り赤ン坊寝てゐる)

陽が出る前の濡れた烏とんでる

蜥蜴の切れた尾がはねてゐる太陽

お遍路木槿の花をほめる杖つく

病人花活けるほどになりし
(病人花活ける程になりし)

朝靄豚が出てくる人が出てくる
(朝靄豚が出て来る人が出て来る)

迷つて来たまんまの犬で居る

すでに秋の山山となり机に迫り来
(已に秋の山山となり机に迫り来)

久し振りの雨の雨だれの音

都のはやりうたうたつて島のあめ売り

障子あけて置く海も暮れきる
(障子あけて置く海も暮れ切る)

あらしがすつかり青空にしてしまつた

淋しきままに熱さめて居り

淋しい寝る本がない

月夜風ある一人咳して

お粥煮えてくる音の鍋ぶた
(お粥煮えてくる音の鍋ふた)

一つ二つ螢見てたづぬる家

爪切つたゆびが十本ある

鳳仙花の実をはねさせて見ても淋しい

障子の穴から覗いて見ても留守である

入れものが無い両手で受ける

朝月嵐となる

秋山広い道に出る

口あけぬ蜆死んでゐる

せきをしてもひとり
(咳をしても一人)

墓地からもどつて来ても一人

恋心四十にして穂芒

なんと丸い月が出たよ窓

ゆうべ底がぬけた柄杓で朝

麦まいてしまひ風吹く日ばかり

今朝の霜濃し先生として行く

となりにも雨の葱畑

くるりと剃つてしまつた寒ン空

夜なべが始まる河音

よい処へ乞食が来た

雨萩に降りて流れ

師走の木魚たたいて居る

松かさそつくり火になつた

風吹きくたびれて居る青草

嵐が落ちた夜の白湯を呑んでゐる

寒ン空シヤツポがほしいな

蜜柑たべてよい火にあたつて居る

とつぷり暮れて足を洗つて居る

昼の鶏なく漁師の家ばかり

海凪げる日の大河を入れる

山火事の北国の大空

墓のうらに廻る

あすは元日が来る仏とわたくし
(あすは元日が来る佛とわたくし)

夕空見てから夜食の箸とる

窓あけた笑ひ顔だ

おそくなつて月夜となつた庵
(をそくなつて月夜となつた庵)

小さい島に住み島の雪

名残の夕陽ある淋しさ山よ

故郷の冬空にもどつて来た

雨の中泥手を洗ふ

山畑麦が青くなる一本松

窓まで這つて来た顔出して青草

渚白い足出し

貧乏して植木鉢並べて居る

霜とけ鳥光る

あついめしがたけた野茶屋

森に近づき雪のある森

肉がやせて来る太い骨である
(肉がやせてくる太い骨である)

一つの湯呑を置いてむせてゐる

やせたからだを窓に置き船の汽笛

すつかり病人になつて柳の糸が吹かれる

春の山のうしろから烟が出だした


底本:「尾崎放哉句集」彌生書房
   1997(平成9)年12月25日初版発行
   「尾崎放哉全句集」春秋社
   1997(平成9)年12月10日第3刷発行
入力:j.utiyama、浜野 智
校正:浜野 智
1998年4月28日公開
1999年3月6日修正
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