虫喰ひ算大会
◇ピンチです!◇
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著者名:海野十三 URL:../../index_pages/person1159

   自序

 本書の中に、「“虫喰ひ算”大會」の會場が、第一會場から始まつて第三十會場まである。われと思はん方は御遠慮なく、第一會場から出發して、智惠だめし根だめしをなされたい。
「虫喰ひ算」とは、そもそもどんなものであるか。
 簡單にいへば、「虫喰ひ算」とは、虫に喰はれて判讀できない數字を、推理の力によつて判定する算數學のことである。
 但し學といつても、頭の芯がじーんと痛くなり、苦しみの外に何にもないといふやうな詰らないものではない。「虫喰ひ算」は非常に面白く樂しいもので、一旦これで遊んだものは終生「虫喰ひ算」のうれしい味を忘れ得ないであらう。私も二十年來これを愛好し、時にはこれを探偵小説に組立てて書いたこともあつた(海野十三作“暗號數字”)。
 本書の中には、「虫喰ひ算」の親類筋にあたる「覆面算」もいくつか收めてある。「覆面算」といふのは、數字が虫に喰はれて穴があいてゐるのではなく、文字又は符號の覆面をつけてゐる運算なのであつて、皆さんたち名探偵はその覆面を推理の力で叩き落として數字を剥し出すのだ。
 この兩方をひつくるめて、ここに「“虫喰ひ算”大會」を開いてあるが、會場の初めの方はやさしいが、だんだん後の方の會場となるとむつかしくなる。その代り「虫喰ひ算」の魅力はだんだんに強く加はり、最後の第三十會場までが殘り少くなるのが惜しまれるやうになるであらう。第一會場を合格すれば第一階選士と名乘る。が、第三十階選士となるには、とてもたいへん[#「たいへん」は底本では「たへいん」]である。
 やさしい問題は國民學校の二年生でも解ける。一等むつかしい問題でも、中學生なら解けるであらう。しかもこの「虫喰ひ算」の魅力は大學教授をして鉛筆を嘗めながら呻らせる魔力をも備へてゐて、實に神祕なところがある。
 本書にはわざと空白を用意してあるが、そこでは部分的計算や、やりかへしをするためにせいぜい鉛筆を運動せられて然るべし。
 本書には全部で百三十二箇の問題を集め得たが、これだけ集めるのはずゐぶん苦心し、且つ長い年月を要した。もつと多くの新しい問題を探し出したいと思ふが、私が二十年で得たものはこれで全部である。同好の諸氏で御存知ならば御惠投を煩はしたい。最後に本書は次の各書を參考としたことを記し、謝意と敬意とを表する。
F.C.Boon,“Puzzle Papers in Arithmetic”
G.C.Barnard,“An Elementary Puzzle Arithmetic”
F.F.Potter and F.C.Rice,“Common Sense Arithmetic”
H.E.Dudeney,“Modern Puzzles”
A.S.E.Ackermann,“Scientific Paradoxes and Problems”
藤村幸三郎氏著「新數學パヅル」

   昭和二十一年正月七日
著者識

[#改ページ]



    一 虫喰ひ算とは?

 古い大福帳や證文や勘定書などがしみといふ虫に喰はれてをり、肝腎の數字のところが穴になつてゐる。さあたいへん、困つたことになつた。さういふとき推理の力でもつて、その穴になつた數字はかういふ數字であらねばならぬと判別する。この算數學がいはゆる「虫喰ひ算」と稱ばれるものである。
 もちろん、一金五萬兩也、右借用候事しかじかといふやうな一本建の數値だけがあつてそのうちの數字が虫に喰はれてゐるのでは、探しやうがないが、もしそれが加減乘除の運算書であれば、その一部が虫に喰はれてゐても、前後の關係から推理によつて正確に判別することができる。時には、數字の全部が虫に喰はれてゐても、それらの數字の配列が分つてさへゐれば、推理の力を積んでその全數字をいひ當てることができる。
 なほ「虫喰ひ算」に似たものに「覆面算」と名附けるものがある。これは虫喰ひ算ではその數字が虫に喰はれて穴があいてゐるのに對し、「覆面算」では符號または[#「または」は底本では「また」]文字になつてゐるのだ。もちろん數字は一から九までの外に〇の十箇だから、その覆面の符號または文字は十箇以内に限られる。
「虫喰ひ算」と「覆面算」とどつちが面白いか。それは人によつて違ふが、私はどつちも面白いと思ふ。
「虫喰ひ算」を解く鍵は、普通の場合、まづ初めに零の數字か、一の數字であらねばならぬところの穴を探し出すことにある。
「覆面算」では、同樣のこともあるけれど、同じ文字又は符號がいろいろな關係で並んでゐるところからして、ははあ、この文字はこつちの文字の二倍だなどといふ相互關係が見出されると、後は急に解けやすくなる。
 虫喰ひ算の類を解くときは、徹頭徹尾推理の力で推していくところに興味と實益があるのであつて、一かなあ、それとも二かなあ、それでなければ三かといふふうに、いちいち代入法でやつて行くやり方は面白くない。
 虫喰ひ算は、序文にも述べてあるとほり、中級以上のものは一題一題が寶石のやうに尊く且つ愛づべきものであるからして、なるべくじつくりと解いていただきたい。一日に十題も二十題も解くことは、頭も疲れるし、それに虫喰ひ算の妙味が分らないと思ふ。
 そこで本書の“虫喰ひ算”大會の設計に當つても、やさしいものとむつかしいものとを交ぜて四題ぐらゐを一會場とすることとした。
 なほ、第一會場から第三十會場までのうち、初めの三分の一ぐらゐは割合とやさしいが、それから先はだんだんと複雜難解なるものが入つて來、それだけに推理に成功すれば嬉しさがこみあげる。第二十會場以後となると、虫喰ひ算の愛好者にとつては、こたへられないほどの歡喜と興奮とをもたらすことであらうと思ふ。


    二 やさしい虫喰ひ算とその解き方

 まづやさしい虫喰ひ算の方から、その解き方を述べて行く。
【例題一】このやうな加へ算がある。四角の穴は、いはゆる虫の喰つたところである。さういふものが、この問題には四つある。これを推理で探しあてるのだ。

  1□92
  29□1
  971□
+ 2□17
――――――
 17592

 まづ右端の縱列の□から考へて行く。これは一の位である。2と1と□と7とを加へた結果、その値の一位は2となることが、この計算によつて分つてゐる。□は別として、分つてゐる2と1と7とを加へると10[#「10」は縦中横]となる。しかるに、一の位の合計の一位の數字は0ではなくて2である。するとこれは□が0ではなく、2であることが推理される。そこでその2を書き入れ、上のやうになる。

  1□92
  29□1
  9712
+ 2□17
――――――
 17592

次は十の位だ。一位から1が送られてゐることを忘れてはならぬ。やはり□が一つある。それを別にして、分つてゐる數字9と1と1と、一位からくりあがつた1とを加へると、その結果は12[#「12」は縦中横]となる。しかるに、十位の合計の十の位は9となつてゐて、2ではない。これはつまり十位の□を加へてないからかうなるわけだから、9から2を引いて7、この7が□の數字と決まる。そこで計算を整理すると次のやうになる。

  1□92
  2971
  9712
+ 2□17
――――――
 17592

 その次は百位だ。これは今までのやうには行かない。□が二つもあるからだ。分つてゐる9と7とを加へ、それに十位から上がつてきた1を加へて17[#「17」は縦中横]となる。この縱列の合計の百位の數字は5であるから、□と□との合計は8であるかもしれず、18[#「18」は縦中横]であるかもしれない。さあ分からなくなつた。
 が困ることはない。もう一つ上の千位の數字を見ると、この縱列には□がない。1と2と9と2を加へて14[#「14」は縦中横]となるが、下の合計では17[#「17」は縦中横]となつてゐる。すると百位から千位へ送られた數字は17[#「17」は縦中横]から14[#「14」は縦中横]を引いた3だと分かる。
 さうなると百位の二つの□の和は8ではなくて18[#「18」は縦中横]であらねばならぬ。18[#「18」は縦中横]でないと、3は上つてこない。
 これで一應解けたわけだ。□と□の合計が18[#「18」は縦中横]となる關係があれば、どんな數字でもいいのだ。いや、どんな數字といふわけにもいかない。二數字の和で18[#「18」は縦中横]なら、いづれも9である外にない。なぜなら9以上の數字はこの縱列に存在しないわけで、ぜひとも9でなければならないのだ。そこで答は上の如く決まつた。

  1992
  2971
  9712
+ 2917
――――――
 17592

 同じ加へ算でも、「覆面算」ふうなものが加はつた場合がある。次の例題がそれだ。

【例題二】Nといふ文字で現された數字が五箇所に入つてゐる加へ算である。もちろん、どのNも同じ數字である。

  2N8
  2N2
  88N
+ N2N
―――――
 2164

 この配列を見ると、どこから手をつけていいか分らぬやうであるが、しばらく見てゐると鍵が發見される。それは一位の四數字の和が8と2と二箇のNであり、また十位の四數字も同じく8と2と二箇のNである點だ。しかもこの合計を下列でみると、一位では4だし、十位では6となつてゐる。これだ、鍵は。
 これは一體どういふことを意味するか。一位から十位へあがつた數字は、6から4を引いた2であることを意味する。
 どうして2をあげることができるか。8と2を加へて10[#「10」は縦中横]だから、これでまづ1があがる。その外に二つのNがあるから、この和で1があがらねばならぬ。すると二つのNの和は14[#「14」は縦中横]である。よつてNは7だといふことになる。
 うそだと思つたら五箇のNに7を代入して檢算してみるがよろしい。かういふやり方では、百位のNにはつひに手をつけないで解くことができた。一刀兩斷の快味に、ちよつと似てゐる。

 引き算を一つやつてみよう。やさしいものであるが……。

【例題三】これは國民學校の一年生でもできるであらう。一位からやつて行く。

 □84562
− 8□1□3
―――――――
 6□7□7□

 2から3は引けないから、十位から10[#「10」は縦中横]を借りて、12[#「12」は縦中横]から3を引いて9が出る。
 次は十の位だ。6は既に5に減つてゐる。それから□を引いて7が出るといふからには、この□は逆算して8でなければならぬ。この際、百位から10[#「10」は縦中横]を借りた。
 次は百位だが、被減數の5は、先に1を右へ貸したから4となつてゐる。だからそれから1を引くと3であるから、□は3と決まつた。
 次は千位。これはわけなしだ。□は7であらねばならぬ。
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