大宇宙遠征隊
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著者名:海野十三 

 艇長のもどってくる様子はなかった。
 三郎は、なんとかして、こんどこそは艇長にコーヒーをのませてあげたくて仕方がなかった。なにかいい方法はないであろうか。
 三郎は、しばらく小さい胸をいためて、考えていたが、やがて思いついたのは、今沸かしたコーヒーを、魔法瓶の中に入れて、司令室にいる艇長のところへ持っていくことだった。
「ああ、それがいいや」
 三郎は、元気づいた。早速(さっそく)魔法瓶にコーヒーをつめて司令室へ持っていった。
 ふくざつないろいろな器械にとりまかれた司令室で汗まみれになって、次々に号令を下していた艇長辻中佐は、三郎の持って来た思いがけない好物の飲物をうけとって、たいへんよろこんだ。
「ああ、艇夫。お前はなかなか気がきく少年だ。ありがとう。これで元気百倍だ」
 艇長は、湯気のたつコーヒーをコップにうつして、うまそうに、ごくりとのどにおくった。そこで三郎はたずねた。
「艇長。本艇の故障は直りそうですか」
「うん、極力やっているが、飛びながら直すのはちと無理らしい。この調子では、本艇を陸地につけて直すことになるらしい」
「本艇を陸地へつけるというと、またもう一度地球へ戻るのですか」
「いや、地球までは遠すぎて、とても引返せない。着陸するのなら、月の上だよ」
「へえ、月の上に着陸するのですか」


   月世界へ


 月の上に着陸するのだという。
 それをきいて、風間三郎少年のおどろきは大きかった。月といえば、いつも地球のうえでうつくしくながめていたあの月だ。三日月になったり、満月になったりする月。雲間にかくれる月、兎が餅(もち)をついているような汚点(おてん)のある月、いや、それよりも、いつか学校の望遠鏡でのぞいてみた月の表面の、あのおそろしいほどあれはてた穴だらけの土地! その月の上に着陸するときいては、三郎少年の胸は、あやしくおどるのだった。
「艇長。月の上へ着陸できるんですか」
 三郎は、辻中佐に、たずねないではいられなかった。
「それは出来る。なかなかむつかしいが、出来ることは出来る。わしは一度だけだが、月の上へ降りたことがある」
 さすがに艇長だけあって、辻中佐は、月の上に降りたことがあるという。三郎は、それをきいて、まず安心したが、しかしどうして月の上に降りられるのか、またどうして月の上で、人間がいきをしていられるのか、ふしぎでならなかった。
「艇長。月の上には空気がありませんね。すると人間は、呼吸(いき)ができないではありませんか」
「それはわけのない話だ。酸素吸入をやればよろしい。われわれも現に噴行艇の中で、こうして酸素吸入をしながら安全に宇宙をとんでいるではないか。だから、月の上に降りれば、一人一人が酸素吸入をやればいいのだよ」
「なるほど、そうですか。じやあ、一人一人が、酸素のタンクを背負うのですね」
「まあ、そうだよ」
 三郎少年は、やっとわかったような気がした。月の上へ降りて、背中に酸素のタンクを背負っている姿を考えると、ちょっとおかしい。
「おい、艇夫。もう外に、心配なことはないかねえ」
 艇長は、からになったコーヒー茶碗を、三郎にかえしながら、たずねた。
「いきをすることが、うまく出来るなら、もう心配はありません」
 三郎は、そう思っていたので、そのとおり返事をした。すると艇長はにやにや笑いだした。
「艇夫、お前は、月の世界へいってから、ずいぶん意外な思いをするにちがいない。今からたのしみにしておきなさい」
「なぜですか、艇長。意外なことというと、どんなことですか」
「まあ、今はいわないで置こう。とにかく、お前たちが月の上に安全に降りられるようにと、ちゃんとりっぱな宇宙服が用意してあるから、安心をしていい。それを着て、月の上を歩いてみるのだねえ。きっと目をまるくするにちがいない。まあ、後のおたのしみだ」
「そうですか。早くその宇宙服を着てみたいですね」
「そのうちに、宇宙服の着方を、だれかがおしえてくれるだろう」
 艇長と三郎とが、そんな話をしているうちに、またまた艇長のところへ、報告がどんどんあつまってきた。機関部からも、機体部からも、航空部からも、どんどん報告がやってきて、艇長は、また前のような忙しさの中に入ってしまった。
「ふむ、ふむ。やっぱり無理か。よろしい、では、本艇を月に着陸させることにしよう」
 機関部の報告によれば、このままでは、どうにもならぬということなので、艇長はついに決心をした。
「命令。本艇の針路(しんろ)を月に向けろ」
 航空士は、直ちに舵(かじ)をひいて、噴行艇の針路をかえた。
 艇長は、また叫んだ。
「命令。月に着陸の用意をせよ。――それから、本隊司令に対し、連絡をせよ」
 いよいよ艇内は、総員の活動で、にわかにさわがしくなった。


   宇宙服


「おーい。三郎君。早くこっちへ来い」
 入口から、三郎を呼ぶ者があった。
 三郎がその方へふりかえると、入口に鳥原青年の顔があった。
「鳥原さん。何の用で?」
「いよいよ月の世界へ下りることになったので、皆、むこうで宇宙服の着方をおそわっているのだ。君も早く来い」
「あ、宇宙服ですか、もう始まったんですね。じや、艇長にちょっとお許しを得ていくことにしましょう」
 三郎は、艇長に申出て、許可をうけ、鳥原青年とともに、艇夫室へ急いだ。
 艇夫室には、艇夫たちが大ぜいあつまっていた。卓子(テーブル)のうえには、高級艇員が立って皆を見下ろしている。
「もう、大たいあつまったようだな。では、宇宙服の着方をおしえる。まず、実物を見せるがこれが宇宙服だ」
 下から、大きな深海潜水服みたいなものが、さし上げられた。説明役の高級艇員は、それを卓子のうえに抱(かか)え上げた。宇宙服は、架台(かだい)にかかっていた。自分の横に、その宇宙服をおいて、説明がはじまった。
「これが宇宙服だ。ちょっと見ると、潜水服のようでもあるが、また西洋の鎧(よろい)のようにも見える。これは全部軽合金で出来ていて、圧力に充分たえるようになっている。手足の間接のところや腰のところが、まるで蜂の腹のようになっているが、これは手足の関節や腰を曲げるのに都合がいいように作ってあるのだ」
 銀びかりのする宇宙服は、見れば見るほど、ものすごいものだった。あんな大きなものを着て歩けるかと心配をするほどだった。
「……この下に、やはり軽合金と特殊ゴムとで出来た長靴をはき、宇宙服にぴっしゃり取付ける。これがその靴だ」
 靴は、みかん箱のように四角ばって、そして大きい。
「また、頭にはこの大きな兜(かぶと)をかぶる、ちょっと見ると、潜水兜に似ているが、大きさはもっと大きくて上下に長い円筒形だ。兜の額のところから、こうして二本の鞭のようなものが生(は)えていて、釣竿(つりざお)のように、だらんと下っているが、昆虫の触角(しょっかく)と似ていて、月の世界で、われわれ同志が話をするのには、なくてはならない仕掛けだ」
 妙な説明が始まった。三郎には、何のことだか、よくのみこめなかった。
「……みんな、この二本の触角をみて、ふしぎそうな顔をしているようだが、これがなかなか大切な物だぞ。つまり、月の世界には空気がないのだ。だから音というものがない。そうだろう。音は、空気の波である。空気がなければ、空気の波も起らない。だから、音がないのだ。すると、月の世界の上で、どんなにわめいても呼んでも、声はつたわらない。だから、話をするのに、音にかわる何物かを使わなければならない。そこでこの触角が役立つのであります」
 なるほど、月の世界には、空気がないから、したがって、音が出ないし、もちろん音がつたわるわけもない。これは困ることであろう。三郎にも、それは分った。
「……で、この触角のはたらきであるが、これは、人間の声に応じて、機械的に震動するようになっている。つまり私がこの兜をかぶり、兜の中でものをいうと――兜の中には空気があるから、声は出ます――すると、その声が、この触角を震動させるのである。つまり、声は空気の震動であるが、触角に伝わって、機械的な震動となって、ぶるぶるぴゅんぴゅんとふるえる。そこで私の触角と、話をしようと思う相手の人の触角とを触れさせておくと、私のいったことばは、例の震動となり、私の触角から相手の触角へ震動が伝わる。その結果、相手の耳のところにつけてある震動板――つまり高声器のようなものさ――が震動して、音を発するのだ。その音というのは、つまり私のことばであります。どうです、わかりますか」


   すばらしい性能


 つまりつまりを連発して、説明者は汗だくだくの説明をこころみた。
 三郎には、くわしいことがのみこめなかったが、よく蟻(あり)同志が話をするとき、触角をぴくぴくうごかして、たがいに触角をふれあわせているのを見たことを思い出した。蟻は、口がきけない代りに、触角をふれあわせて、ことばを相手に通じるのであろうと思っていたが、それに似たことを、いま人間であるわれわれがやろうというのであるらしい。
「触角は、二本ずつついています。右の触角は、こっちからいう方です。左の触角は、相手のいっていることを聞きわける方です。つまり右は送信用、左は受信用といったものです。わかりましたね」
 三郎は、あの説明者が、蟻と蟻とが触角をつけあって話をしているのを例にとって説明すれば、みんなは一層はっきりわかるだろうと思った。
「そのほか、この宇宙服には、いろいろな仕掛けがついていますが、いずれも自動的にはたらくようになっているから、みなさんは、べつに手をつけなくてよろしい。つまり、その仕掛けというのは、保温装置や、酸素送出器は自動的にはたらいてくれます。照明装置や、小型電機などもついていますが、これも自動的にはたらいてくれるから、心配はいらない。つまり、暗くなれば、兜の上や、腹のところや、靴の先から、強い電灯がつくようになっている。明るくなれば、自然にスイッチが切れて消える。無電も、いつでもはたらく。号令は、みな無電で入ってくる。ずいぶん便利に出来上っている。かんしんしたでしょう」
「うまく出来ているなあ」
 艇夫たちは、口々に、このすばらしい宇宙服のことをほめた。
「ちょっと、おたずねしますが……」
 とつぜん叫んだのは、三郎であった。
「何ですか、君の質問は……」
 三郎は、ちょっとあかい顔になって、
「どうも、心配なことがあるので、おききしますが、この宇宙服を着ている間は、何にもたべられないし、何にものめないのですか」
 と、たずねた。月の世界を歩きまわっているのはいいが、そのうちに、のどがかわき、腹がへって、その場に行きだおれになってはたいへんだと思ったのである。
「ああ、飲食装置のことだね。それは、今説明するのを忘れていた。失敬(しっけい)失敬」
 と、説明者は、にが笑いをして、
「飲食物は、兜の中に入っています。そして、左の腕に三つの釦(ボタン)がついているでしょう。その三つの釦には、水、肉、薬と書いてある。水の釦を押すと、水が兜の中へ出ます。ちょうど口の前に管の出口があってそこから出るのです。だから口をあいていれば、うまく口の中へ入る。どうです、うまい仕掛けでしょう」
 と、説明者は、自分が発明者であるかのように、得意になっていった。
「……肉と書いてある釦を押すと、同じ管の出口から肉がとび出します。これはかたい肉ではなく、煮(に)たものをひき肉にしてあって、おまけに味もつけてあります。それから薬と書いてある釦からは、ねり薬がとびだします。これは野菜を精製したもので、やはり糊(のり)のようになっていますから、たべやすい。この水と肉と薬の三つを、すこしずつたべていれば充分活動ができるのです。わかりましたか」
「なぜ、おべんとうをもっていって、手でつかんで口からたべないのですか」
 三郎は、質問をした。
 すると説明者は、ぷっとふきだした。
「じょうだんじゃない。兜をかぶっているから、たべられませんよ。だから、おべんとうを下げていっても、むだです。――みなさん、釦に気をつけてくださいよ」


   着陸命令


 三郎たちは、その場で、宇宙服を配給され、それを着た。
 金属で出来た鎧(よろい)や兜(かぶと)は、見たところ、ずいぶん重そうであったが、身体につけてみると、思いのほか、そう重くはなかった。なかなかいい軽合金で作ってあるものと見える。
 さて、宇宙服を皆が着てしまったところは、実に異様な光景であった。なんだか銀色の芋虫(いもむし)の化け物に足が生え、両足で立って、さわいでいるとしか見えなかった。
「どうです。思いのほか、らくでしょう」
 と、説明者がいった。
「どうもへんですね。だって、この兜をかぶると、音は聞えないはずだが、ちゃんと、おたがいの話が聞えますよ」
 三郎は、それがふしぎでならなかった。
「それはなんでもないことです。いま、この部屋には空気があるから、あたりまえに、声が空気を伝わって聞えるのです。しかし、触角をふれあってごらんなさい。皆さんが口をきけば、触角は空気中でも同じく震動をしますから、触角をふれあっても、話は聞えるはずです。練習かたがた、ちょっと皆さん同志で、やってみてください」
 説明者がそういうので、三郎たちは、なるほどと思って、おかしいのをこらえながら、蟻のまねをして、だれかれの触角にふれてみた。
「なるほど、こいつは妙だ」
「なるほど、ちゃんとあなたの声がきこえますよ。ふしぎだなあ」
「あははは。これは奇妙だ。僕はわざと小さい声で話をしているのですよ」
 あっちでもこっちでも、この触角をつかって話をする練習が、みんなをおどろかせ、そしてよろこばせた。
 こうして艇夫たちは、宇宙服を着こなすことが出来たのだった。
「さあ、それではみなさん。それぞれの職場へ戻ってください」
「はいはい。宇宙服をぬぐのですねえ」
「いや、宇宙服を着たまま、それぞれの職場へもどってください。もうすぐ、月へ上陸することになるから、今から宇宙服に身をかためていてください」
「たばこがのめないから、つらいなあ」
「たばこはのめないですよ。しかしがまんをしてください。月の世界への上陸が失敗したり、それからまた、噴行艇の故障がうまく直らなかった日には、それこそわれわれ一同は、そろって死んでしまうわけだから、それくらいのことは、がまんをしてください」
「わかりました。たばこぐらい、がまんをします」
 異様な姿をした艇夫たちは、ぞろぞろと、それぞれの持ち場へひきあげていった。
 三郎も、艇長のところへもどった。
 司令塔に入ってみると、艇長や、その他の高級艇員たちも、いつの間に着たのか、すっかり宇宙服に身をかためて、持ち場についていた。艇長の宇宙服には「艇長」と書いた札が胸と背中にはりつけてあった。
「いつの間にか、艇長も宇宙服を着られたのですね」
「おお、お前は艇夫の風間三郎だな。どうだ、なかなか着心地がいいだろう」
「そうですねえ。思いのほか、重くはないんだけれど、なんだか動くのが大儀(たいぎ)ですね。どうもはたらきにくい」
「それはそうだ。月の上へ降りれば、もっとらくになるよ」
 艇長は、三郎の宇宙服を念入りにしらべてくれた。締め金具の一つがゆるんでいたのを見つけて、艇長はしっかりと締めてくれた。
「艇長。上陸地点の計算が出来ました」
 航空士が、図板をもって、艇長のところへやってきた。そしていつもの調子で、顔を艇長のそばへ近づけたものだから、航空士の兜と艇長の兜とが、ごつんと衝突した。
「ああ、どうも失礼を……」
「気をつけないといかんねえ」
 と、艇長は、やさしくたしなめて、航空士の手から図板をとりあげた。
「なるほど。すると『笑いの海』へ着陸すればいいんだな。ここへ着陸すると、六日と十二時間は昼がつづくんだな」
 艇長は、妙なことをいった。六日半も昼がつづくなんて、そんなことがあるだろうか。
「さようです。この計算には、まちがいありません」
「よろしい。では、今から『笑いの海』を目標に、着陸の用意をするように」
「はい、かしこまりました。あと三時間ぐらいで、月の表面に下りられる予定です」
「うむ、充分気をつけて……」
「かしこまりました」
 いよいよ噴行艇は、月世界へ向けて、着陸の姿勢をととのえたのであった。


   近づく月面


 艇長辻中佐は、司令塔より、号令をかけるのにいそがしい。風間三郎少年は、そのそばについていて、ただもう、胸がわくわくするばかりだった。
 ああ月! 月の上に上陸するなんて、全くおもいがけないことだ!
「重力装置を徐々に戻せ」
 艇長の号令がとびだした。
「重力装置を徐々に戻せ」
 信号員が、伝声管の中へ、こえをふきこむ。するとそのこえは、機関部へ伝わって、重力装置が元へ戻されていくのであった。
 重力装置を戻すと、どんなことになるであろうか。
「おや、なんだか、身体が急に軽くなった」
 風間三郎は、おどろいて口に出していった。身体がふわりと浮き上るような気持になった。それもその筈であった。今までは、地球の上にいるのと同じくらいの重力が、乗組員たちの身体に加えられていたのだ。ところが今、それがしずかに減らされていったのである。重力が減るから、身体が軽くなる道理であった。
「おやおや、これはふしぎだ。重い宇宙服をきているのに、らくに歩けるようになったよ。金属製の宇宙服をきているとは思われない。まるで冬の外套(がいとう)を一枚きているぐらいのかるさだ」
 三郎は、ふしぎそうに司令塔の中をこつこつとあるいてみた。
 ところが、おどろきは、そのくらいではおわらなかった。彼の身体は、もっとかるくなっていったのである。冬の外套ぐらいの重さに感じていた宇宙服が、もっとかるくなって、やがて浴衣(ゆかた)をきているくらいのかるさになってしまったから、三郎は、全くびっくりしてしまいました。
「どうした、風間三郎」
 艇長辻中佐が、こえをかけた。三郎が、あんまりへんな顔をしていたからであろう。
「は、どうも気持がへんです」
「気持がへんだって。胸がむかむかしてきたのかね」
「いえ、そうではありませんです。この宇宙服の重さが急になくなって気持がへんなのです。まるで紙でこしらえた鎧をきているようで、狐に化かされたような感じです。艇長は、へんな気持がしませんか」
「はははは。そんなことは、べつにふしぎでないよ。月の上で、身体が自由にうごくようにと、この宇宙服の重さがはじめからきめられてあるんだ。これでいいのだよ」
 艇長のいうことは、三郎には、はっきりわかりかねたが、心配のことだけは、よくわかったので安心した。
 その艇長は、腕時計をちょっと見て、それからまた別な号令をかけた。
「窓を開け!」
 すると信号員が、窓を開けと、号令をくりかえした。
 窓が開くのだ。
 ごとごとごとと、妙な音がきこえたと思ったら、急にあたりがしずかになった。それまでにきこえていたエンジンのひびきも、司令塔内の話ごえも、みな急に消えてしまった。なんだか気がとおくなりそうであった。三郎はあわてて、あたりをきょろきょろ見まわした。
 それと気がついたのであろう、艇長は三郎の腕を、ぎゅっとつかんでくれた。
「あ、艇長……」
 と、三郎は叫んだ。がそのこえは、いつものこえとはちがって、たよりなかった。
「おい、風間艇夫。おどろいちゃいけないね。お前も、日本少年じゃないか。しっかりしろ」
 艇長のこえが、三郎の耳もとで、がんがんとひびいた。
 三郎は、艇長のこえに、元気をとりもどした。
「すみません、すみません」
 三郎は叫んだ。
「おい艇夫、お前は何かいっているらしいが、喋るときはお前の兜から下っている二本の触角を、わしの触角につけてから喋らないと、お前が何をいっているのやら、わしには一向お前の声がきこえないよ」
 艇長が注意をした。
「ああ、そうそう。それをすっかりわすれていた」
 三郎は、やっと気がついた。そして彼の触角を、艇長の触角の方へもっていきながら、
「ええ、たいへん失礼ですが、艇長の触角にさわらせていただきます。あのう、艇長、今まできこえていた声が、急にきこえなくなったので、おどろいたのです」
 と、目をくるくるうごかしていうと、艇長の目が兜の中で笑って、
「さっき、わしが号令をかけて、窓をあけさせたのは知っているね」
「ええ、知っていますよ」
 三郎は、自分の触角を艇長の触角からはずすまいと、一生けんめいに首をつきだしている。首の骨がいたい。
「窓をあけると、わが噴行艇の中の空気は、一せいに外へながれだして、艇内に空気がなくなったのだ。音は空気の波だから、空気がなくなれば、音は急にきこえなくなったのだ。それくらいのことは、お前にもわかるじゃろう」
「ははあ、なるほど」
 噴行艇のそとには、空気がすこしもないのである。だから窓をあけると、空気はどっと外へにげて、ひろがってしまったのである。音がきこえなくなったのは、このわけであるか。三郎はそのわけがやっとのみこめた。
「艇夫。そこの窓から、下をのぞいてみるがいい。これから着陸しようとする月の陸地が見えているよ。しかし、おどろかないがいいぞ」
 と、丸い窓を指さして、艇長はいった。


   月の引力


(おどろいては、いけない)
 艇長は、そういったが、三郎はそんなにいちいちおどろいていてはしようがないと思った。なに、おどろくものか、と度胸(どきょう)をすえて、窓から下を見おろした。
「あっ!」
 だが、やっぱり三郎はおどろきのこえをあげた。なんという怪奇な月世界の風景であろう。
 飛んでいく噴行艇の下は、まっくらであったが、それからずっと向こうの方を見ると、これはまたまぶしいまでに光る銀色の大きな陸地があった。
 よく見ると、その光る陸地は、けわしい山々が肩をならべて、そびえている。山の端(はし)が光って、その後は墨(すみ)でぬりつぶしたように、まっ黒な山脈が手前の方にあった。それより向こうの山脈は、全体がまぶしく光っていた。その間に、明るいひろびろとした原が見えていた。山脈の多くは、環(わ)のようにつらなって、まん中が低くおちこんでいた。まるで爆弾をおとしたあとのように見えた。
 光る陸地は、帯のように、左右へ長々とのびてつづいていた。ちょっと見ると、月の世界は光の帯のように見えるのであった。月は丸いものと思っていたのに、これはふしぎな見え方をするものである。
 しかし、よく気をつけてみると、噴行艇のま下にある黒いところは、やはり月の陸地であった。空も黒いけれど、そこには、たくさんの星が、きらきらとうつくしくかがやいていた。しかるに、噴行艇のま下は、黒いだけで、星は見えなかった。星は見えない黒い塊(かたまり)こそ、月の陸地であった。
 まぶしい光の帯に見えるところには、太陽の光があたっているのであった。太陽のあたらないところは、墨でぬりつぶしたように、真黒であった。これが地球であると、昼と夜との境の陸地はうすぼんやりとあかるく見えるのであるが、それは空気があるため、太陽の光がちらばって、うすぼんやりあかるく見えるのであった。しかし月には空気がない。だから、太陽のあたるところはあかるく、あたらぬところはまっくらで、その境目は、たいへんはっきりしている。昼と夜としかないのが月の世界であった。暁(あかつき)だの夕暮だのぼんやりと明るいときはない。
 だから月の世界は、あれはてたように見える。やわらかさがない。死の世界である。けものもすんでいなければ、虫もとんでいない。花もなければ、木も生えていない。
「ああ、なんというさびしい月の世界であろう」
 三郎は思わず、ため息をついた。
 ただ心地よいのは、わが噴行艇が、光の尾をひいて、いさましくとんでいることであった。噴行艇は生きている。ま下の月の世界は死んでいるのだ!
 三郎は、とうとう窓から、身体をひいた。あまり荒れはてた月の世界の光景をながく見ていると、気がへんになってくるのだった。
 三郎が妙な顔をしていると、そこへ艇長がやってきて、触角をさしだした。
 三郎も、こんどは心得て、触角をさし出した。艇長が何か話してくれるのであろう。
「どうだ。月の世界が、はっきり見えたろう。すさまじいところなので、びっくりしたろう」
 三郎は、うなずいた。
「光っている陸地が見えたろう。『笑いの海』は、あの中にある。もうすぐ着陸だ」
「ああ艇長。『笑いの海』というと、月の世界に、海があるのですか」
「ほんとうの海ではないよ。月には水がない。だから海どころか、小川も水たまりもない」
「じゃあ、いよいよへんですね、『笑いの海』だなんて……」
「それは、こうだよ。地球のうえから月を見ると、黒ずんだところがある。その黒ずんだところが、ちょうど海のように見えるので、それで『海』というのだ。『笑いの海』というのが、つまりは、岩でできた平原なんだ。降りてみれば、よくわかるがね」
「はあ、そうですか。『笑いの海』の『笑い』というのは、どんなことですか」
「それは地名だよ。伊勢湾(いせわん)の伊勢と同じことだよ。しかし一説に『笑いの海』の黒ずんだ形がなんとなく笑っている人間の横顔みたいだから、それで笑いの海というのだと説く人もある」
「へえ、笑っている人間の横顔ですって」
 三郎は、また窓から、月の世界をのぞいた。
「ほら、あそこだ。一番高い山の左をごらん。まだ形がはっきりしないが、あの黒いところが『笑いの海』だ。笑っている人間の、鼻だの口だの頬だの、あたりが見えている」
「ああ、見えます、よく見えます」
 三郎には、艇長のいったとおりの、月の面にはいっている笑いの顔の一部が見えた。
 そういううちに、噴行艇は、月面に対していよいよ高度を下げてきたものと見え、光の帯のように見えていた太陽のあたる月面は、いつのまにやら幅が川のようにひろくなり、それがなお近づいて、ますますひろくなった。やがてそれは、洪水のようにひろがり、噴行艇のま下まで明るくなった。とたんに、魚雷のような形をした噴行艇の影が、くっきりと、月面のうえに落ちて、山脈も岩の平原も、流れるようにずんずんと後へ走っていった。
「着陸用意! 重力装置を反対にしずかに廻せ!」
 艇長の号令が、無電にのって出た。
 電力装置が、反対に廻りだした。すると、噴行艇の落下速度が喰いとめられた。艇はだんだん高度を下げていきながら、もりあがってくる月面の上に、ふわりと降りた。まるで蒲団(ふとん)のうえに落ちたかのように、しずかに着陸したのであった。ごとんと、たった一回だけ艇はゆれただけでじつに見事な着陸ぶりであった。
 噴行艇は、笑いの海に、巨体をよこたえたのであった。


   上陸第一歩


 笑いの海に着陸すると、艇員たちは、俄(にわか)にいそがしくなった。
 号令は、無電をもって、矢(や)つぎ早(ばや)につたえられた。
 重い扉が、内側にむかって開かれた。すると、中からはしごが下ろされた。
「艇長、下艇の用意ができました」
「よろしい。わしが月の世界への第一歩をふみだすぞ」
 そういって、艇長はやおら大きな宇宙服につつんだ身体をおこし、司令塔から立ち出(い)でた。
 その後には、高級艇員たちがつきしたがった。
 三郎は、あわてて、皆の間をかけぬけると、艇長のすぐ後に追いついた。
 せまい通路をぬけると、出入口がひらいていた。艇長は、ゆうゆうとはしごを下りていく。三郎は、それにつづいた。
 はしごを下りきって、三郎は、こわごわ岩原に足を下ろした。
 ごつごつした、赤黒い岩原であったが、その上を歩いてみると、思いの外、足ざわりはわるくなかった。たしかに岩の上であるのに、畳の上を歩いているような感じであった。
「おお、このへんに足場をたてるんだな」
 艇長は、はや修理のことについて、命令をだしていた。
 三郎は、月の大地に立って、はるばるここまで自分たちをはこんでくれた噴行艇の巨体を見上げた。
 艇は、うつくしく銀色にかがやいていたが、艇長の指している附近の外廓だけが、すこし焼けたように色がかわっていた。
 艇の背中から、宇宙服を着た艇員が四五人、顔を出した。背中からも出てきたのである。
 出てきたのは、艇員ばかりではなかった。やがて大きな起重機の鉄桁(てつげた)が、にゅっとあらわれた。
 そのころ、噴行艇の横腹には、いくつもの大きな出入口がひらき、そこから、足場用の丸太がたくさん、えいさえいさと引張り出された。艇員たちは、おどろくべき早さでもって、その丸太を組み立てていった。
 三郎は、手つだうつもりであったが、むしろじゃまあつかいされた。彼はそれが不服であったが、どうも仕方がない。噴行艇の機械についての知識がないから、じゃまあつかいされても仕方がなかった。
 三郎のほかにも、じゃまあつかいされて、ふくれている者があった。それは外でもない、彼と同じく給仕をしている木曾九万一(きそくまいち)少年であった。
 この木曾少年と三郎とは、岩原のうえをぶらぶらあるいているうちに、ついに行きあった。お互いに妙な形をしているので、行き合っても、しばらくはお互いに、兜(かぶと)の硝子(ガラス)の中をのぞきこんでいたが、ようやくそれとわかって、二人は手をにぎりあった。それから、お互いの触角をふれあわせるのに手間どった。なれないこととて、急にはうまくいかない。
「かざ……三(さ)ぶ……うした」
 などと、きれぎれに、木曾少年のこえがきこえる。
(風間三郎、おい、どうしたい)
 といっているのだが、触角がさわったときだけしか、こえがきこえないので、そんな風にきれぎれになるのだった。
 でも、ようやく二人の触角は、ぴったりふれあった。
「やあ、三郎。月の世界って、殺風景(さっぷうけい)だね。まるで墓場みたいじゃないか」
「それはそうさ。生物一ぴきいないところだからね」
「しかし、なにかめずらしいものがありそうなものだね。二人で、そのへんを、ぶらぶらしてみないか」
「ああ、いいよ。いまのうちに、ちょっと歩いてくるか」
「さあ、いこう。あそこに見えるすこし高い丘のうえまでいってみよう」
 二人は歩きだした。すると、いやにぴょんぴょんと、三段とびをしているように歩けるのであった。
「どうもへんだね。地球の上の歩き心地と、ぜんぜんちがうね」
「これはおもしろいや。歩いているつもりだけれど、ふわりふわりと、とんでいるような感じだね」
 二人は、おもしろがって歩いていった。
 そのうちに、どうしたわけか、木曾少年がぴったりと足をとどめた。前かがみになって、下をみているのであった。
「どうした、クマちゃん」
 三郎は、木曾少年のところへ引きかえした。すると木曾は、岩の上から、そこに落ちていた何かをひろいあげ、目を丸くしている。
「これはなんだろう。ねえ三郎」
 木曾のさしだしたものを三郎が見ると、それは缶詰の空き缶のようなものであった。しかしそれは、地球で見る缶詰とはちがって、缶の横には三角だの、火の玉だの、妙な模様がかいてあるものだった。
 三郎は、それを見ているうちに、なんだか背筋が、ぞーっと寒くなってくるのだった。


   先住生物か


「へんな缶じゃないか」
 風間三郎は自分の触角を、木曾九万一の触角におしつけて、そういった。
「えっ、へんな缶だって。どこが、へんなの」
 木曾は、どこがへんなのか、のみこめないという顔つきだった。
「クマちゃん、ほら、このへんなしるしをごらんよ」
 と、三郎は、缶の胴中にかいてある三角だの火の玉だののしるしを指しながら、
「こんなへんな模様みたいなものを、今まで見たことがないじゃないか」
「なるほど、そういえば、へんな模様だね。なんだか判(はん)じ物(もの)みたいだけれど、だれがこんなものをかいたのかなあ」
「クマちゃん、それよりもねえ、もっとふしぎに思っていいことがあるよ。君は気がつかないか」
「え、もっとふしぎなことって。それはどんなことだい」
「それはねえ……」
 と、三郎はいいかけて、ちょっとことばをのんだ。それは三郎としても、いいだすのにちょっと勇気がいることだった。
「早くいいたまえ」
 と、木曾がさいそくした。
「……そんならいうがね。ねえクマちゃん。この月の世界には、生物はすんでいないはずだろう」
「そうさ」
「ところが、この缶詰の空き缶のころがっているところをみると、何者かがこの月にすんでいると考えられるのだ。つまり、この缶詰をあけてたべた奴(やつ)こそ、月にすんでいるふしぎな生物なんだ」
「気もちがわるくなった」
 と、木曾は胸をおさえた。
「クマちゃん。だから、われわれはゆだんはならないよ。こうしているときも、いつどこから不意に、月にすんでいる先住生物におそわれるかもしれない」
「はあ、いよいよ気もちがわるくなった」
「早くひきかえして、みんなにこの空き缶をみせて知らせてやろうじゃないか」
「そうだねえ。だが、ちょっとお待ちよ」
「なにを待てというの」
「いや、ちょっとお待ちよ。三ぶちゃん。君は、ぼくをおどかそうと思って、この月の上に、へんな生物がすんでいるなどといったんだね。わかっているよ」
 木曾少年が、急に三郎のことばをうたがいだした。
「あれ、クマちゃん。ぼくは君をおどかすようないじわるじゃないよ。なぜそんなことをいうんだい」
「だって、缶詰というものは、人間が発明したものじゃないか。月の先住生物が、人間と同じように缶詰を発明したとすると、あまりにふしぎだよ」
「このへんなしるしは……」
「そんなものは、符合だから、書こうと思えば人間にだってかけるよ。だから、この缶詰のからは、これまでに誰かこの月世界にとんできた地球人間の探険隊が、ここにすてていったものじゃないかと思う。きっとそうだよ」
 木曾少年は、この空き缶は、ずっと前に、この月世界へ探険に来た地球人間がすてていったのにちがいないという。
「そうかしら。ぼくには、そんな風には思えないんだがねえ」
 ここで、三郎と木曾との考えが、はっきりくいちがってしまった。二人は、なんだかちょっとさびしいような気もちになってだまってしまった。そして二人の足は、いつしか丘の方にむいていた。
 岩石のとぎたった光の丘をのぼるのに、案外骨が折れなかった。月の上では、すべて歩行がらくであった。ちょっと岩のわれ目をぴょんととび越(こ)えるにしても、足に大した力を加えなくても、四五メートルはらくにとびこえられる。これは月の重力が、地球のそれに比べて、わずか六分の一という、たいへん小さいものであるからであった。
 三郎と木曾とは、いつの間にか丘の上にのぼりついた。あたりのながめは急にひらけ、下界は明るく、空は黒く林も川もない荒涼たる月の世界のすさまじさが、一層二人の胸にひしひしとせまるのであった。
 二人はこのすさまじい風景にのまれたようになって、無言のまま、しばらくそこに立ちつくしていた。
 それからしばらくして、三郎は、思わずこえを出して、さけんだ。
「おや、あそこに誰かいるぞ」
 彼はおどろいて、木曾の腕をつかんだ。


   甲虫(かぶとむし)か鳥か


「クマちゃん、あそこに誰かいるよ」
「誰かがいるって、誰がさ」
 木曾は問いかえした。
「ほらあそこだ。この丘の下の、大砲みたいに先のとがった岩の下だよ。かげになってくらいから、はっきりわからないが、ほら、丸い頭がうごいているじゃないか」
「丸い頭が……」
「ほら、日なたへ出てきた、先頭の一人が……。おやッ」
 そこで三郎は、おどろきのこえをあげた。その拍子に、触角がはなれて、三郎のこえは木曾にきこえなくなった。木曾は、あわてて、触角を三郎の方へ近づけた。三郎のこえが、再びきこえだした。
「……あれは何者だろう。人間じゃない……」
「え、人間じゃないって」
 木曾はおどろいて、さっき三郎の指(ゆびさ)した方をみた。
「あ、あれは……」
 木曾は、その場にふるえあがった。
 怪物がいるのだ。
 大砲岩の下から、日なたへよじのぼってきた四つ五つばかりの影――それは後から見ると、ござをかぶった人間のような形に見えたが、正面を向いたところを見ると人間ではなかった。ちょうど、甲虫とペンギン鳥の合いの子をお化けにしたような異様な姿の生物であった。
「あれは何だろう」
「すごい化け物だ。月世界の生物だ」
「月世界には、生物はいないはずだが……」
「だって、あの怪物は、ちゃんとぼくたちの眼に見えているんだぜ。夢をみているわけじゃない。あれは鳥の化け物だろうか、それとも甲虫の化け物だろうか」
「どっちだか、わからない。おや、あの怪物は、手に缶詰をもっているじゃないか」
 三郎が、また重大発見をした。
 なるほど、化け鳥か化け甲虫かのその怪物は、ゴムでこしらえたむちのような手に、赤い缶を持っているのだった。見ているうちに、その怪物は日なたに出ると、並んで岩の上にこしをおろした。穴からはい出して日なたぼっこをはじめたようにみうけられた。
「おやおや、あれをごらんよ」
 三郎が、さけんだ。
 ふしぎなことを、その怪物ははじめた。手にもっていた缶詰を頭の上にのせるのであった。しばらくすると、その缶詰を頭からおろす。そして怪物は缶詰の中をのぞきこむのであった。そのときは、缶詰は、いつの間にか穴があいて中がからになっていた。怪物はその空缶を、ぽいと捨てた。そしてこんどは別の缶詰をひょいと頭の上にのせた。そして同じ動作がくりかえされたのであった。
「ふしぎ、ふしぎ」
「三ぶちゃん、あれは何をやっているのだろうね」
「あれは、缶詰をたべているのさ」
「缶詰をたべているって、頭で缶詰をたべるのかい。おかしいじゃないか。なぜ口でたべないで、頭でたべているのだろうか」
「さあ、そんなこと、ぼくにはわからないよ」
 頭で缶詰をたべる怪物なんて、きいたことがない。そのくせその怪物は、くちばしのような形をした長い口吻(こうふん)をもっていた。
 あまりふしぎな光景に、われをわすれて見とれていた風間三郎は、やがてのことに、はっとわれにかえり、
「クマちゃん。早くひきかえして、辻中佐たちにしらせようじゃないか」
「ああ、そうだったね。ぼくたちは、おもいがけなく斥候隊(せっこうたい)になっちまったね」
 そういって二人は、いつしか中ごしになっていたこしをのばした。そして岩の上をとんで、うしろへ引きかえそうとした。
 そのときだった。とつぜん、不幸なことが起った。
 三郎のすぐうしろにいた木曾が、どうしたはずみか、するっと、岩かどから足をふみはずしたのであった。
「あっ、しまった!」
 とさけんで、木曾は自分の身体をささえようとして、前にいた何にもしらない三郎の背中にしていたタンクにしがみついたのであった。空気があれば、いちはやく、そのけはいが、三郎にわかって、彼はうしろをふりむいて、応急処置ができたのであるが、なにしろ音というもののない世界だけに、三郎は木曾にしがみつかれるまで、何にも知らなかったのである。そして、
「あ、あぶない」
 と気がついたときには、もうおそかった。三郎の身体はすっかり重心をうしなっていた。そして次の瞬間には、二人は宇宙服を着たまま、丘のうえから、ごろんごろん下へころげおちはじめた。下には、例の怪物団が日なたぼっこしているのだった。二人はその前へ……。


   怪物の訊問(じんもん)


 ゆるやかに、ごろんごろんと落ちていったので、二人はべつにけがをするようなこともなかった。そして三分の二ばかりころげおちた途中で気がついて、三郎は岩かどにつかまって、おちていく自分の身体を支えたのであった。
「おい、クマちゃん。岩にしがみつけ」
 とさけんだが、この三郎のこえは、もちろん木曾にとどくはずがなかった。そして木曾は、あいかわらずごろんごろんところがって、御丁寧(ごていねい)にも、怪物団の足もとまでころげおちて、やっとそこへからだは停まった。
「ちぇっ、まずいことをやったなあ」
 怪物団の方では、気がついて、さわぎはじめた。木曾は、たちまち彼等のためにとりおさえられるし、三郎も、木曾をたすけようか、それとも報告のためにこのまま引きかえそうかと考えているうちに、いつのまにか彼等のため、とりかこまれてしまった。
 二人は、やがて怪物団の前に、引きすえられた。さあ、つつき殺されるか、生き血をすわれるのか。三郎は、もう死を観念して、どうでもなれと、大きな眼をむいて、相手をにらみつけていた。
 怪物たちは、岩かどにこしをおろし、二人を見すえながら、頭をよせて何か話をしている様子であったが、もちろん怪物たちのこえは一向(いっこう)にきこえない。
 三郎は、この間に、怪物のすがたを、くわしく見ることができた。
 とおくから見ると、この怪物は、甲虫(かぶとむし)かペンギン鳥のように思われたが、そば近く見ると、かならずしもそうではなかった。甲虫やペンギン鳥よりもずっと高等な動物のように見えた。というのは、まず第一に彼等は触角みたいなものをふりながら、おたがいに話をしている様子である。しかも、話をしながら、いろいろと、こまかく身ぶりをするところを見ても、猿なんかよりも高等な智慧(ちえ)をもった動物のように見えた。
 全くふしぎな、気持のわるい生物である。
 その怪物は、くるくるうごく、大きな顔をもっていた。顔のまん中には、蜻蛉(とんぼ)の眼玉のようにたいへん大きな眼があった。そしてその下に、黄いろい嘴(くちばし)がつきでていた。頭の上は白く禿(は)げているところがあり、頭の上には、りっぱな角のような触角が二本、にゅっと出ていた。頭の、その他のところは河馬(かば)のように妙にうす赤い色をおび、てらてらと光っていた。
 それから胴は、鳥のようにふくれていた。しかし腹のところは、鎧をきたようになっていて鳥とはちがう。背中には、甲虫の翅(はね)と同じような翅が畳みこまれているようであった。その翅のつけ根の横には、触角とはちがい、もっとぐにゃぐにゃしたゴム製の管のようなものがついていた。それはたいへん長くて、地上に達していたが、うごいているうちに、急に短くちぢんでしまうこともあった。これは手の代用物であろう。触手というものかもしれない。とにかく、いまだきいたこともないふしぎな生物であった。
 もう一つ、ふしぎなのは、その怪物の足であった。足は、その怪物の下腹のところから二本にゅっと出ていた。その足はちょっと見ると、鶴の脚(あし)に似ていた。しかしよく見ると、関節が二つもあり、大地をふまえるところには、五本の指があって、水かきのようなものがついていた。しかもこの奇妙な足は、どこから見ても丈夫に見えた。何だか、金属を組合わせて足の形にしたもののようにも見えた。
(一体、何だろう。この高等怪物は……)
 三郎は、そばへぴったりすりよってくる、木曾九万一の身体をかかえながら、眼をみはった。
 その怪物の中に、どうやら大将らしい怪物があった。その怪物は他の怪物と、しきりに連絡をしていたようであったが、やがて連絡がすんだのか顔を二人の方に向けた。
「おい、君たちは、日本人だろう」
 その怪物が、いきなり日本語で話しかけてきた。それには三郎は、びっくり仰天(ぎょうてん)した。
「ええっ!」と、三郎はいったきり、全身から、汗がふきだしてたらたらと流れた。
 ふしぎだ。なぜその怪物は、日本語をはなすのであろうか。第一空気もないのに、なぜその怪物のはなしが、三郎の耳にきこえるのであろうか。
 三郎はわが耳をうたがった。
「これこれ、べつに君たちの生命をおびやかすつもりはないから、安心して、われわれの問いにこたえなさい。君たちは日本人だろうね。今、かおいろをかえたじゃないか」
 怪物の首領は、にくいほど、はっきりした口調で、三郎たちに話しかけてくるのであった。
 三郎は、こたえたものかどうかと、考えているうちに、木曾が前にのりだした。そして手をあげて、何かものをいうような恰好(かっこう)をした。
 すると怪物の首領は、大きな頭をふって、うなずき、
「おお、そうか。君は、なかなか勇気があってえらいぞ。そうか、君たちはやっぱり日本人だったか」
 木曾が何かいったのが、怪物の首領に通じたものと見える。空気もないのに、なぜこっちのことばが向こうに通じたものであろうかと、三郎はふしぎに思った。が、それよりも、木曾に勝手なおしゃべりさせてはならないと思ったので、彼は木曾に注意をするつもりで自分の触角を木曾の方によせた。
「おい、君たち同志、勝手に話をしてはいけない」
 首領は、早くも三郎の心をみぬいて、しかりつけた。
 ああ、一体この智慧のすぐれた怪物は、一体何者なのであろうか。


   司令艇(しれいてい)クロガネ号


 話は、ここで風間少年たちや、月世界に不時着した噴行艇アシビキ号からはなれて、今なお堂々たる編隊でもって、大宇宙をとんでいるわが噴行艇の本隊にうつる。
 この本隊では、はじめ百七十隻だったが、途中アシビキ号をうしなって、今はのこりの百六十九隻が固まってとんでいる。
 隊の先頭には、嚮導艇(きょうどうてい)ヨカゼ号が、只一つ勇敢にも、ぐんぐんと宇宙の道を切開いていく。この嚮導艇の艇長は、松宮一平(まつみやいっぺい)といって、予備ではあるが、海軍の飛行兵曹長であった。
 その嚮導艇ヨカゼ号から二キロメートルの後方に司令艇クロガネ号が居り、その後に噴行艇の大編隊がつづいているのであった。
 司令艇クロガネ号!
 この司令艇には、大宇宙遠征隊の司令が幕僚(ばくりょう)をひきつれてのっている。
 司令は誰あろう、この前の第三次世界大戦の空戦に赫々(かくかく)たる勲功(くんこう)をたてた大勇将として、人々の記憶にもはっきりのこっている、あの隻脚(せっきゃく)隻腕(せきわん)の大竹(おおたけ)中将であった。
 この噴行艇隊は、一体なにを目的として、大宇宙遠征の途についているのであろうか。
 遠征の目的は、まだ人類が試みたことのないたいへんな仕事をするためであった。
 たいへんな仕事とは、なんであろうか。それはムーア彗星(すいせい)にある超放射元素で、ムビウムという非常に貴重な物質を採ることであった。
 ムビウム超放射元素!
 この貴重な元素のことを知っている者は、あまり多くない。このムビウムは、すばらしい放射能をもっているのだ。放射能物質でむかしからよく知られているのはラジウムである。地球には、この外ウランとかトリウムとかアクチニウムなどの放射能物質がある。
 そういう物質からは、あのふしぎなアルファ、ベータ、ガンマの放射線が出てくる。この放射線が癌(がん)という病気をなおすことは、誰でも知っているが、このごろでは、人類のためもっと貴重なはたらきをしてくれることがわかった。それは今くわしくいっているひまはないが、人間が考えたこともなかったほどのすばらしい大きな動力をひねりだす種として、たいへん貴重なものであった。
 ところが、せっかくのその種も、大動力をひねり出す種の役目をさせるには、よほどたくさんあつめなければならない。しかもこの地球にはそういう物質はすくないから、一生けんめいにラジウムその他をあつめてみても、いくらもあつまらない。地球全体の放射物質を一個所にあつめてみても、大したことはない。せめてその百倍あれば、その新動力発生法は、小さいながらも成功するのであった。
 そこで世界中の学者たちは、この折角(せっかく)の新動力発生法も、人間の力ではできない相談であるとしてあきらめてしまったが、只ここにひとり日本の若い学者で、緑川博士(みどりかわはかせ)という人だけはあきらめなかった。博士は考えた。地球にある放射物質だけをあつめたのでは少くてだめであるが、思いきって地球以外の他の場所から持ってくる工夫をすればいいではないか。
 この考えは、すばらしい思いつきだった。科学者のすばらしい夢だった。なるほど、それはおもしろい考えである。
 博士は数年前から知られている超放射元素ムビウムに目をつけた。このムビウムは、一名きを変にする元素ともいわれる。それは各国の学者が、このムビウムを発見したハンガリーの天文学者ムービー氏のことを気が変だといい、そのために、そういうへんな名がついたのだった。
 ムービー氏の発見の話をするとおもしろいのだが、長くなるから、かんたんにいうが、ムービー氏は元来素人(しろうと)天文学者であり、いつも星の光を研究していたが、ちょうど今から六年前、地球から十万光年の遠方にある名もしれない星を発見した。そのときこの星の光を分光写真にとってしらべてみると、この地球にはない元素があることがわかった。しかもこの新発見の元素は、計算をしてみるとラジウムの一万倍の放射能をもっているといって、世界中をおどろかした。そしてその元素をムビウムと名をつけたのだった。
 それを聞いた世界各国の天文学者は、あわてて自分の望遠鏡を、大空に向けた。なるほどムービー氏のいう星はあった。しかしその星の中には、ムビウムなどというすばらしい放射能の物質はいくらさがしてみてもなかった。世界中の天文学者は、ムービー氏のことを悪くいいはじめた。ムービー氏は、自分に対する非難を弁解して、いやたしかにムビウムはあったのである、自分の見たときには、まちがいなくあったのである。しかし今は、自分がその星を見てもムビウムは見あたらない。自分でもふしぎだと思う。だが、はじめに自分が見たときには、たしかにそのすばらしい超放射元素ムビウムがあった。けっして自分はうそつきではない――といった。
 これを聞いた或る国の天文学者は、ムービー氏の発見は、あれはあやしいものだ。氏がうそつきでなければ、氏は気が変であろう。われわれは今後、もうあのようなきを変にする元素のことを問題にしないであろうといって、大いにやっつけた。そしてほんとうにその後、誰もムービー氏のいうことを信じなくなり、気の毒にもムービー氏は、家出をしてしまって、今はどこにいるのか分らないのであった。


   緑川博士の計画


 ところが、わが緑川博士は、ふと思い出して、ムビウムのことを考えたのであった。なるほどムービー氏の発表があってのち、博士も自ら望遠鏡と分光器ととりくんで、ムビウムをさがしたが、ムビウムはうつらなかった。だからムビウムは、やはりうそだったと思った。
 だが後になって、博士はこう考えた。
 ひょっとすると、やはりムービー氏のいうのが本当ではないかしらん。ムービー氏がはじめ見たときには、たしかにムビウムがあり、次に見たときにはそれがなくなっていたというのはそのほんのわずかの間に、星の中に大異変が起り、ムビウムがこわれて、他の物質になってしまったのではないかと、そう思ったのである。そして、そう気短に、ものをあきらめてしまってはよろしくない。そういう大事なことはもっと念をいれて、しらべをつづけるのが科学者のつとめであると思った。
 そのようにして、博士は、ムービー氏の行方不明(ゆくえふめい)になったのちも、天文台にたてこもって研究をつづけているうちに、ついに思いがけない大発見をした。それはなんであったかというと、そのころ、天の川の端(はし)に近く、ほんのかすかな光を見せて一つの彗星がうごいているのを発見したのであった。これこそ後にムーア彗星と名づけられた新発見の彗星であった。ムーア彗星を発見したことも、わが緑川博士のお手柄であったが、それよりももっともっと大きなお手柄はこのムーア彗星には、例の超放射元素のムビウムが、非常にたくさんあって、しかも彗星の周囲へ、ムビウムをまきちらしているらしいことさえ分ったのである。
 これこそ、大発見中の大発見だ! ことにこの大発見が、緑川博士がかねて考えていた計画に非常にふかい関係がある。つまり、あのたくさんのムビウムをあつめることができれば、それにより、博士が前に研究してあった新動力発生法を、本当にやれるぞと思ったのである。
 なるほど、できそうである。ただし理屈(りくつ)の上だけでは……。だが実際にやるには、なかなかむずかしい。なぜかというと、はるかの天空を、飛行機の何万倍だか何十万倍だかのはやさで走っている彗星の中から、ムビウムを採ることは、とてもできそうではない。
 緑川博士は、それを思って、はじめはがっかりしたものである。宝ものが、目の前にとんでいるのに、ざんねんながら手がとどかないのと同じようだ。大宇宙の大きさにくらべて、人間の力のあまりにも小さいことよと、博士はがっかりしたのであった。
 博士が、がっかりしたまま、ムビウムのことを忘れてしまえば、それで何もかもおしまいであった。ところが、神のおたすけがあったというのでもあろうか、或る日緑川博士は、或る会合で、例の隻脚隻腕の猛将大竹中将の席のとなりに座ったのである。そのとき、ふとムビウムやムーア彗星のことについて口をすべらしたところ、これを耳にした中将は、
「うわーっ、そいつはおもしろい大事業だ。しかも国家的の大事業じゃないか。君、若いくせに、そんなにひかんすることはない。わしにも、すこしは考えがあるよ。どうだ、今夜これからわしの家へ来なさらんか。そして二人で、よく話をしてみようじゃないか」
 と、思いがけないことばであった。
 緑川博士は、大竹中将からこのはげましのことばをもらって、たいへんうれしかった。しかしいくら中将の考えでも、このことばかりはどうにもなるまいと思った。なにしろ、ここから何億キロメートルの何億倍というほどの、はるかの天空を走っているムーア彗星から、どうしてムビウムを採ることができようか。
 そこで緑川博士は、中将との相談にでかけていったが、あまりいい話が出るとは思っていなかった。
 ところが、大竹中将は、みごとに博士を、よろこびのために、その場におどりあがらせたのだった。その模様をいうと、
「そういう獲物(えもの)をにがすということはないよ」
 と、大竹中将は、大きな拳(こぶし)で卓子(テーブル)のうえをとんと叩いて、
「つまり、われわれに覚悟さえあればいいんだ、国家のために生命をなげだすという覚悟のことだ。わかるかね。よろしい。わしは同志をつのるよ。そして必要な人員をあつめる。そして噴行艇の大部隊をつくって大宇宙遠征をやろうではないか」
「え、どうして、そんなことが……。また、噴行艇でとびだして、なにをするのですか」
 と、そのときは緑川博士は、中将の考えがよくわからなかったので、といかえした。


   火星のニュース


「なにをするって、君、わかっているじゃないか。つまりムーア彗星のところまでとんでいって、その超放射元素ムビウムとやらを採ってくるのさ」
「それはだめです。ここから、ムーア彗星までは、たいへんな距離です」
「たいへんな遠方でもよろしい。生命のあるかぎり、いけるところまでいってみようじゃないか」
「はあ」
「なにかね、そのムーア彗星は、これからのち、もっと地球に近くならないのかね」
「え?」
 このとき、緑川博士は、すいぶん大きな声をだした。よほどおどろいたのである。博士の顔は、たちまち赤くなった。なぜ?
(ああ、そうだった。自分としたことが、なんという間ぬけだったろう!)
 博士は、われとわが頭を、拳でもって、ごつんと殴(なぐ)ったのであった。
「こら待て、いくら自分の頭だからといって、そうらんぼうに殴るとはいかん……」
「いや、大竹閣下。自分は、今閣下からいわれるまで実はたいへんなことを忘れていました」
「たいへんなことを忘れていた。それは何か。いってみなさい、それを」
「いや、外でもありません。そのムーア彗星が、やがてどのへんまで地球に近づくか、その計算をまだしてなかったのです」
「ふーん」
「そうだ。何ヶ月か何年か待てば、ムーア彗星は今よりもっと地球に近くなるかもしれない」
「そのとき、こっちから出かけていけばいいではないか」
「そうでした。閣下におっしゃられて、はじめて気がつきました。計算をしてみれば、よくわかりますが、これからのちには、きっと今よりも、ずっと地球に近づくときがあるはずです」
「じゃあ、すぐ計算にかかりたまえ」
「はい。どのへんまで近づくか、早くしりたいものですねえ」
「あわててはいかん。まちがいのない計算をたてたまえ。そのあとで、どうしてそのムビウムを採取するか、その仕掛けのことも考えるんだ。性能のいい噴行艇をそろえるにも、これから相当の日がかかるだろう、何年かあとに、一等近づいてくれると、こっちには都合がいいのだが……」
 実戦の猛将でもあり、また航空技術にもすぐれている大竹中将は、早くもこれからの方針を頭の中にたてて緑川博士をはげましたのであった。
 こういう秘話があってのちに、百七十隻(せき)の噴行艇から成る宇宙遠征隊が編成せられたのであるが、それは三年のちのことであった。そしてムーア彗星は、それからのち更に五年ののちに一等地球に近づくのであった。

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