怪塔王
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著者名:海野十三 

     1

 ○○軍港に碇泊(ていはく)している軍艦六甲では、秘密艦隊司令官池上少将をはじめ幕僚一同と、塩田大尉や一彦少年の顔も見え、会議がつづけられています。
 司令官池上少将は、一彦少年の顔をじっとみつめ、
「さあ、遠慮なく一彦君の考(かんがえ)をいってごらんなさい。怪塔王が博士を殺したと見せかけて、それでどうしたというのかね」
 一彦は、いおうか、いうまいかと、まだ口をもごもごしています。
「おい一彦君、司令官のおっしゃるとおり、君の考を大胆にいってごらん」
 塩田大尉も、そばから口をそえて、一彦をはげましました。
「はい。では、思いきっていいます」
 と、一彦は、すっくと席から立ちました。
「これまで僕が見たところでは、大利根博士邸内のエレベーター仕掛の実験室といい、猿の鍵であく秘密室といい、怪塔王が怪塔の中に仕掛けているのと同じなんです。だから博士と怪塔王は、なんだか同じ仲間のようにおもわれます。ところが、あの邸内の秘密室に、博士の血ぞめのズボンが発見されました。博士の身の上にまちがいがあったように思われます。ちょっと見ると、怪塔王が邸(やしき)へしのび入って博士を殺したように考られます。しかしこれから怪塔王が大活動をしようというとき、大事な自分の仲間を殺すなんてことは変だとおもいます。僕は――僕は、こうおもいます。怪塔王と大利根博士とは、別々の人ではなく、同じ人だとおもいます」
「なに、怪塔王と大利根博士とは、同じ人だというのか。ふうむ、それはおもいきった考じゃ」
 と、司令官はおどろかれました。
「もっとくわしくいいますと、怪塔王というのは、実は大利根博士の変装であるとおもいます」
「えっ、大利根博士が怪塔王だと――」

     2

「大利根博士が怪塔王だというのか」
 なんという大胆な考でしょう。
 一彦少年のこの大胆な言葉に、司令官をはじめ幕僚たちは、しばらくはたがいに顔を見あわせるだけで、言葉をつぐ者もありませんでした。
 そのうちに、やっと口を開いたのは塩田大尉でありました。
「一彦君。なにがなんでも、それはあまりに大胆すぎる結論だぞ。あの尊敬すべき国宝的学者が、まさか大国賊になろうとは思われない」
「でも、大利根博士邸で発見されたいろいろな怪しいことがありますねえ。あの怪しいことは、どう解いたらいいでしょうか。今もし大利根博士が怪塔王に変装しているのだと、かりに考えてみると、この怪しい節々は、うまく解けるではありませんか。博士邸と怪塔が、まったく同じような仕掛になっていること、同じ鍵であくことなど、みな合点(がてん)がいくではありませんか。どう考えても、怪塔王というのは大利根博士が化けているのだとおもいます」
「一彦君のいうところは、もっともなところがある。しかし私には、あの大利根博士が、そんな見下げた国賊になったとは、どうしても考えられないのだ」
 塩田大尉は、まだどうしても、一彦のいうことを全部信ずる気にはなれませんでした。
 ちょうどそのとき、本隊から池上司令官のところへ、怪塔ロケットを追跡中行方不明になった小浜兵曹長からの無電がはいって来たという喜ばしい報告がありました。
「おお、小浜兵曹長からの無電がはいったそうだ」
「えっ、小浜は生きていましたか」
 と、おどりあがったのは、塩田大尉です。
「うむ、生きているらしい。彼は無人島上につくられている怪塔ロケットの根拠地に不時着(ふじちゃく)しているそうだ」

     3

「えっ、無人島上に、怪塔ロケットの根拠地があるというのですか」
「根拠地とは、一体どういう意味の――」
 幕僚や塩田大尉は、このだしぬけの根拠地報告に、びっくりしました。
 司令官は、電文のおもてを見ながら、
「場所は北緯三十六度、東経百四十四度にある白骨島だとある。そこには怪塔ロケットが七八台も勢ぞろいしているそうだ」
「ふむ、怪塔ロケットは一台かぎりかと思っていましたが、七台も八台もあるのですか。これはわが海軍にとって、じつに油断のならぬ敵です」
「そうだ、怪塔ロケット一台ですら、あのとおり新鋭戦艦淡路をめちゃめちゃにしてしまったんだから、その怪塔ロケットに七八台も一しょにやって来られたのでは、わが連合艦隊をもってしても、まずとても太刀打(たちうち)ができまいな」
「残念ですが、司令官がおっしゃるとおりであります。これが砲撃や爆撃や雷撃でもって攻めて来られるのでありましたら、わが艦隊においてこっぴどく反撃する自信があるのですが、世界にめずらしい磁力砲などをもって来られたのでは、鋼鉄でできているわが軍艦は、まるで弾丸の前のボール紙の軍艦とかわることがありません」
「ううむ、残念だが、これは困ったことになった」
 さすがに武勇にひいでた士官達も、怪塔ロケットの持つ磁力砲の威力のことを考えると、たいへんにおもしろくなくなりました。
 塩田大尉は、この時、席に立上り、
「こうなれば、われわれの選ぶ道はただ一つであると思います。すなわち、大利根博士の秘密室で発見されたあべこべ砲を製造して、あれを軍艦や飛行機にとりつけるのです」
「うむ、そうするより仕方がないが、あのあべこべ砲は壊れているそうではないか」

     4

 怪塔ロケット一台さえ、もてあまし気味でありますのに、小浜兵曹長からの無電によれば、白骨島には、このような怪塔ロケットが七八台もいるという報告なのでありますから、全く驚いてしまいます。
 たのみに思う大利根博士発明のあべこべ砲は、博士の秘密室のなかにありましたが、これは壊れていて役に立たないということであります。
 塩田大尉は、司令官の前でじっと考え込んでいましたが、やがて決心の色をうかべ、
「司令官、あべこべ砲のことは、塩田におまかせくださいませんか」
「なに、まかせろというのか。塩田大尉は、どうするつもりか」
「はあ。私は、あべこべ砲をもう一度よくしらべてみます。そしてなんとか役に立つようになおしてみたいとおもいます」
「塩田大尉、お前には、あべこべ砲をなおせる見込があるのか」
「はい、私はかねて大利根博士と、新兵器のことにつきまして、いろいろと議論をいたしたことがございますので、それを思い出しながら、あのあべこべ砲を実際にいじってみたいとおもいます。机の上で考えているより、一日でもはやく手を下した方が勝だと考えます。あべこべ砲は、とてもなおせないものか、それともなおせるものか、いずれにしても、すぐにとりかかった方が、答は早く出ると思います。白骨島をすぐにも攻略したいのは山々でございますし、あの島に上陸後、音信不通となった小浜兵曹長のことも気にかかりますが、しかし御国(みくに)に仇をする怪塔王を本当にやっつけるには、今のところ、このあべこべ砲の研究より外に途(みち)がありません。ですから、私は我慢して、目を閉じ耳をふさぎ、壊れたあべこべ砲と智慧くらべをはじめたく思います。ぜひお許しを願います」
「よろしい、では許してやろう。当分、秘密艦隊の方へ出勤しなくてもよろしい」


   青い牢獄(ろうごく)



     1

 こちらは、白骨島です。
 勇士小浜兵曹長は、残念にも怪人団のために頭をけられ、人事不省におちいりました。
 それから後、兵曹長の身のまわりにはどんなことがあったか、それは彼には何もわかりませんでした。それからどのくらいの時間がたったか、はっきりいたしませんが、とにかく兵曹長はひとりで我にかえりました。気がついてみると、脳天がまるで今にも破れそうに、ずきんずきんと痛んでいるのです。
「ああ、痛い」
 さすがの兵曹長も、思わず悲鳴をあげました。そっと手をもっていってみると、そこの所は、餡(あん)パンをのせたように、ひどく腫(は)れあがっていました。
「ち、畜生。よくもこんなに、ひどいめにあわせやがったな」
 兵曹長は、目をぱっちりあけると、あたりをきょろきょろと眺めました。
「はて、ここはどこかしら」
 あたりは、電灯一つついていない真暗な場所でありました。そしてたいへん寒くて、体ががたがたふるえるのです。
 手さぐりで、そこらあたりをなでまわしてみますと、床は固く、そしてじめじめしていました。
「ははあ、これでみると、俺はとうとう怪塔王の一味のため、俘虜(ふりょ)になって、穴倉かどこかへほうりこまれたのにちがいない。ちぇっ、ざ、残念だ。無念だ。帝国軍人が俘虜になるとは、この上もない不名誉だ。それに、憤死した青江三空曹の仇も討たないうちに、こんな目にあうとは、かえすがえすも残念だ――なんとかして、俺はここを破って、自由な体になってやるぞ」
 小浜兵曹長は、ばりばり歯がみをして、奮闘をちかいました。
 その時、どうしたわけか、小浜兵曹長の頭の上の方から、青い光がさっと照らしつけました。

     2

 頭の上から、さっと照らしつけた青い光!
「おやっ――」
 と、小浜兵曹長は、上を見あげました。
 すると、下から二十メートルもあろうと思われる高い天井に、一つの青電灯がついたことがわかりました。
 それと共に、今小浜兵曹長のいる室内の様子が、青い光に照らし出されて、大分はっきりわかってまいりました。
 それは、実に細長い室でありました。まるで、煙突の中にいるような気がします。兵曹長の横たわっている所は、円くて、そして人間がやっと手足をのばして寝られるくらいの広さの床をもっていました。そこから上は、まっすぐに円筒形の黒い壁になっていました。
「ふん、怪塔王が好きらしい造りの牢獄だ」
 その黒い壁に、もしや上にのぼれる梯子(はしご)のようなものでもあるかと思いましたから、よく気をつけて眺めました。しかしそのような足掛(あしがか)りになるものは何一つとてなく、全くつるつるした壁でありました。
 その時、小浜兵曹長の頭に、ちらりとひらめいた疑問がありました。
「なぜ、今頃になって、天井の青い電灯がついたのだろうか」
 これはなにか、小浜兵曹長に対し、上からピストルでもうちかけるのではないかと思われました。そこで彼は身動きもせず、じっと天井の方に油断なく気をくばっていました。
 その時でありました。
「はっはっはっはっ」
 と、とつぜん破鐘(われがね)のような笑い声が、頭の上から響いて来ました。
 兵曹長は、はっと息をのみました。
「はっはっはっはっ。ふふん、やっぱり貴様だったのか。わしのロケットを執念ぶかくどこまでも追いかけて来た飛行機のりだな。なんだ、変な顔をするな。ははあ、わしがどこから見ているかわからんので、びっくりしているのだろう。あははは、こっちからは、貴様のそのぐるぐる目玉が大見えじゃ」
 という声は、正(まさ)しく怪塔王です!

     3

 怪塔王のしわがれ声は、天井裏からうすきみわるくひびいて来ます。声はきこえますが、怪塔王の姿はふしぎにも見えません。
 小浜兵曹長は、傷のいたみもわすれて、怪塔王の声のする方をじっと睨みつけていました。怪塔王は、これから何をしようというのでありましょうか。
「あははは、そんな恐しい顔をしても、もう駄目だよ。この牢獄へはいったが最後、二度と外へは出られないのだ。このへんで、すこし早目にお念仏でもとなえておくがいい」
 怪塔王のいうことは、あいかわらず憎々しいことばかりです。このとき、小浜兵曹長はきりりと眉(まゆ)をあげ、
「やい、怪塔王、貴様は俺をなぜこんなところに入れたんだ。俺がどうしたというのか」
「わかっているじゃないか。貴様は、わしの乗っていた怪塔ロケットを空中で攻撃した。そのとき一人だけやっつけたが、貴様を殺しそこなった。わしはそれを残念に思っていたところ、貴様の方から、この白骨島へ踏みこんで来たではないか。そして貴様の方では気がつかないだろうが、あの岡の上から、貴様は怪塔ロケットの根拠地をすっかり見てしまったろう。こんなとこに怪塔ロケットの根拠地があるなんてことは、絶対秘密なんだ。それを知った上からには、いよいよ貴様を殺してしまうほかない」
「ふふん、そんなことか。なんだ、ばかみたいな話ではないか」
「なにがばかだ。こいつ無礼なことをいう」
「だって、そうじゃないか。ここに怪塔ロケットの根拠地があったということは、俺は無電でもって、すっかり本隊へ知らせておいたよ。だから今では、秘密なんてえものじゃないよ。お気の毒さまだね」
「えっ、無電で知らせたのか」
 怪塔王の声は、おどろきのために、急にかわりました。ここぞとばかりに、小浜兵曹長は、
「本隊では、いまに大挙して、ここへ攻めて来るといっていたぞ」

     4

「なに? ここへ大挙して攻めてくるって?」
 怪塔王は、思わず聞きかえしました。
 小浜兵曹長が、声を大きくして、わが海空軍がこの白骨島へ攻めてくるぞと、おどろかしましたので、怪塔王もさすがにぎょっとしたようでありました。
「どうだ、おどろいたか」
 怪塔王は、それには言葉をかえさず、しばらく天井裏からの声はきこえませんでした。
「おい怪塔王、このへんで降参してはどうだ。わるいようには、はからわないぞ」
 兵曹長は、牢獄のなかから、大きな声で怪塔王をどなりつけました。
「なにをいうんだ。捕虜のくせに、口のへらない生意気なやつだ」
 と怪塔王は、ついに腹をたてたようでありました。
「まあ、そこにそうしてひとりでいばって居るがいい。いまに貴様は、自分でもって、どうしても黙らなきゃならないようにしてやる。そうだ、その前に、貴様にいいものを見せてやる」
「なんだと!」
「ふん、貴様がいま居るところを、どんなところと思っているのかね。まあいい、いま扉をあけて、外を見せてやろう。これを見たら、貴様はもうすこしおとなしくなることだろう。――さあそろそろあけるぞ」
 怪塔王の声が、まだおわらないうちに、ふしぎや、彼の頭の上で、ぎいぎいと音がして、壁に四角な穴があきました。そして青い光がすうっとはいってきました。
 おや何だろうか。
 兵曹長は、痛む体を腕でおこして、頭の上にあいた四角な壁穴をのぞきました。
「ああっ、これは!」
 兵曹長は、思わず大きな声を出しました。
 四角な壁穴の外にはあついガラスがはってありましたが、その向こうに見えたのは、おそろしい海底の風景でした。

     5

「どうだ、窓の外が見えるか。ゆっくり見物しているがいい」
 そういいすてて、怪塔王の声は、天井裏から消えてしまいました。
 窓外は、たしかに深い海底でありました。青い光に照らしだされて、大きな魚がおよいでいるのがみえました。海藻群が、ゆらゆらとまるで風をうけた林のようにゆらいでみえます。見るからに気味のわるい風景です。
 そのうちに、小浜兵曹長がとじこめられている部屋の明かりが、海底にさしたものと見えて、魚がゆらゆらとガラス戸のところへ、よって来ました。
 それをじっと見ていた小浜兵曹長は、はっとおどろきました。
 窓を外からごつんごつんと鳴らしに来る魚が見えましたので、これをとくと見なおしますと、魚も魚、たいへんな魚でありました。それは、長さ四五メートルもあるような鮫(さめ)だの、海蛇だのでありました。それ等のおそろしい魚は、みな腹をへらしているものと見え、歯をむいて小浜兵曹長の顔がみえる窓のところへ、一つ、また一つとよって来ます。おそろしい海底の有様でありました。
(怪塔王は、おれをこんな魚に食べさせようと考えているのか)
 と、小浜兵曹長は、背中がぞっとさむくなるのをおぼえました。
 だが、こんな魚に食べられてしまうのは、ざんねんです。なんとかここを逃げだす工夫はあるまいかと、兵曹長は壁をのぼるつもりで、ちょっと手をふれてみましたが、壁はぬらぬらしていて、とてものぼることはできません。さすがの勇士も、しょげていますと、その時、
「小浜さん、今たすけてあげますよ」
 と、とつぜん頭のうえで、おもいがけぬ声がしました。兵曹長はおどろいて立ちあがり、上を見上げました。そのとき、上から一本の綱がするすると下って来ました。


   生きていた帆村



     1

 おそろしい海底牢獄へ、とつぜん下された綱一本!
 兵曹長は、夢かとばかりにおどろきました。とにかく先のことはわかりませんが、これ幸(さいわい)にまずこの海底牢獄からぬけだしたがよいと思いましたので、綱につかまってどんどんあがりました。
 煙突のようにほそ長い海底牢獄を、綱をたよりにぐんぐん上へのぼっていきますと、もうあとすぐ天井にぶつかりそうなところに、一つの横穴があいていました。
 綱は、そこから下へおろされているのでありました。
「おお、ここにぬけ穴があったか」
 小浜兵曹長が、その横穴をひょいと見ると、そこに命の綱を一生懸命に引張っている帆村荘六の姿が、電灯の光に照らされて見えました。
「おお帆村君か。君は無事だったのか」
 と、うれしさ一杯で、思わず兵曹長がさけびましたところ、帆村は、
(しーっ。黙っていてください)
 と、眼と身ぶりでしらせました。
 どうやら帆村は、小浜兵曹長すくいだしの途中で、怪塔王に気どられることを、たいへんおそれているようでありました。
 小浜兵曹長にも、すぐそれがわかりましたので、あとは黙々として綱をたぐり、帆村のいる横穴へ匐(は)いこみました。
「帆村君、助けてくれてありがとう」
 と、兵曹長が思わず帆村の方へ手をさしだせば、帆村もそれをぐっと握りかえし、
「いいえ、たいしたことではありません。それより僕は、思いがけなく、小浜さんを迎えることができて、どんなにかうれしいんです」
「君こそ、よくこの島にがんばっていてくれたねえ。この島は怪塔王の根拠地らしいが、一体、怪塔王は何を計画しているのかね」
「それはいずれ後からお話しします。しかし、今は、それをお話ししているひまがないのです。それよりも、すぐここを逃げてください」

     2

「すぐ逃げろというのかね」
 と、小浜兵曹長は帆村の顔を見つめ、
「いや、僕は逃げないぞ。怪塔王と一騎うちをやって、生捕(いけどり)にしてやるんだ。あいつは悪い奴だ。わが海軍に仇をするばかりか、俺の大事な部下の青江を殺しやがった。ここまで来れば、俺は命をかけて、怪塔王をとっちめてやるんだ」
 小浜兵曹長には、青江三空曹の死が、どんなにか無念であったのでしょう。
「いや、待って下さい。怪塔王をやっつけるには時期があります。とにかく今夜、あらためて僕たちは会いましょう。こうしているうちにも、もし怪塔王がテレビ鏡をのぞけば、あなたの姿も僕の姿も、すっかり見られてしまうんです。見られたら最後、僕たちは殺されてしまいます。さあ、ぐずぐずしないで一刻も早く、ここを逃げて下さい」
 帆村は一生懸命に、小浜兵曹長に脱走することをすすめました。
「そうか。そういうことなら、残念ながら、ひとまずここを逃げよう。どっちへ逃げるのかね」
 小浜兵曹長は、おさまらぬ胸をやっとおさえました。
「わかってくれましたね。さあ、こっちへついて来て下さい」
 帆村は、持って来た綱を、くるくるとまき、束にすると、それを肩にかついで、先に立ちました。横穴はかなり長く向こうへつづいています。
 帆村と小浜の両人は、膝(ひざ)がしらが痛んで腫れあがるほど、一生けんめいに匐いました。
 横穴はいくたびも曲りましたが、やがてついに尽きて、その代りにぽっかり洞穴に出ました。小浜兵曹長は、やっと腰をのばして、やれやれと背のびをしました。かなり広い洞穴です。じめじめしているのは、やはり海近いことをものがたっているのだと思われました。帆村は先に立って、岩をしきりに押しています。

     3

 帆村は、しきりに岩を押していましたが、そのうちに、ぽっかり穴があきました。とたんに、黄いろい光がすうっとはいってきました。
「小浜さん。ここが海底牢獄の秘密の出入口なのです。さあここから出ていきましょう」
「やあ、まるで冒険小説をよんでいるような気がするなあ。さあ、君のいくところへなら、どこへでもついていくよ」
「ええ、あまり大きな声をしないで、ついてきてください」
 二人は秘密の出入口を出ました。外は明かるいお月夜でありました。くもりない濃い紺色の夜空には、銀のお盆のように光ったまんまるい月があがっていました。
「ああ、いい月だ。白骨島にも、こんなにうつくしい月が、光をなげかけるのかなあ」
 今までは、どこまでも強いばかりの小浜兵曹長だとばかり思っていましたのに、彼は月をみてこんなやさしいことをいいました。本当の勇士は、強いばかりではなく、また一面には、このようにやさしい気持をもっているものです。
 帆村の方は、そんなゆっくりした気持になれません。もしこんなことをしていることを怪塔王や見張番にみつかっては、それっきりです。ですから、兵曹長をはやくはやくとせきたてて、すぐ前を走っている塹壕(ざんごう)のような凹(へこ)んだ道を、先にたってかけだしました。
「どこへいくのかね」
 小浜兵曹長も、おくれてはならぬと帆村のあとを追って、どんどんついていきました。
 凹んだ道は、かなり曲り曲って、小高い丘の方へつづいていましたが、そこをのぼりきったところに、小さい煉瓦建(れんがだて)の番小屋のようなものがありました。
「さあ、ここへはいってください」
 帆村にせきたてられて、兵曹長が中にはいってみますと、室内は四畳半ぐらいのひろさで、中には藁(わら)が山のように積んでありました。


   見張小屋の朝



     1

 小さい煉瓦建の番小屋――その中に山のように積んである藁!
「ああ、これはなかなかいい寝床がある」
 小浜兵曹長は、子供のように無邪気に藁の山へかけあがりました。
 このとき帆村は、
「では、小浜さん。だいぶん時間がたちましたから、私は怪塔ロケットへ一たん戻ります。今夜ふけてから、あらためてもう一度まいります。それまで、ここにかくれていてください」
「すぐ訊きたいこともあるんだが、あとからにするか。ではきっと、後から来てくれたまえよ、いいかね」
 小浜兵曹長は、帆村をかえしたくはなかったけれど、やむをえず、かえしました。そのあとで、彼は藁の上に大の字になって、のびのびと寝ました。よほど疲れていたのでありましょう。まもなく彼はぐっすりと寝こんでしまいました。
 やがて兵曹長が目をさましたときには、あたりはすっかり明けはなれ、明かるい日光が窓からすうっとさしこんでいました。
「あっ、とうとう夜が明けちまった。はてな、昨夜来るといった帆村探偵は、ついに顔を見せなかった。彼は一体どうしたのだろう」
 あんなに約束していった帆村が、ついに昨夜やってこなかったということは、兵曹長を不安にしました。ひょっとすると、帆村は昨夜海底牢獄から自分をすくいだしたことを怪塔王にかぎつけられ、そのためにひどい目にあっているのではないかしらんなどと心配しました。
 小浜兵曹長は、藁の上からおりて、いつもやりなれている徒手体操をはじめました。連日の奮闘で、体のふしぶしがいたくてたまりません。しかし体操をなんべんかくりかえしているうちに、だんだんなおってきたようです。それがおわると、兵曹長はふかく注意をしながら、そっと窓のところへ寄りました。
 そのとき彼の眼は「おやっ」と異様な光をおびました。

     2

 この見張小屋は、小高い丘のうえの岩かげに立っていました。そこからは、この島の怪塔ロケットの根拠地が、一目に見おろせました。
 おそろしい白骨島ではありましたが、朝の風景は、たいへんきれいでありました。目の下の広場に林のように立ちならぶ怪塔ロケットは、全身に朝日を浴(あ)びて銀色にかがやき、いまにもさっと飛びだしそうに、天空を睨(にら)んでいました。
 その広場に、ただ一人ぶらぶら歩いている人影がありました。なにか落しものでもしたと見え、背をまるくまげ、しきりに地上をさがしている様子です。なお見ていますと、その人は、深しものをしながら、だんだんこちらへ近づいてくるのでした。
「あの男は、なにを探して[#「探して」は底本では「深して」]いるのだろうか」
 小浜兵曹長は、たいへん興味をおぼえ、なおも窓のかげから、その男の行動をじっと見守っていました。
 その男はだんだん丘の方へ近づいてきます。
 そのうちに、男はふと顔をあげました。小浜兵曹長は、そのときはじめて男の顔を正面から見ることができました。
 その瞬間、兵曹長はおもわず、
「あっ、あれは怪塔王だ!」
 と叫んで、拳をにぎりました。
「たしかに怪塔王だ。あんな妙な顔をしている人間は、二人とないからな」
 それからというものは、兵曹長は、前よりも熱心にこっちへ近づいてくる男の行動をじっと見つめていました。そのうちに兵曹長は唇(くちびる)を一の字に曲げ、
「そうだ。よし、これから出かけていって、怪塔王をつかまえてやろう、あいつはまだ俺がここにいることに気がついていないようだから。うむ、こいつは面白くなった」
 と、兵曹長は自分の腕を叩いて、にっこり笑いました。

     3

 小浜兵曹長がかくれていた丘の上の見張小屋の方へ近づいてくる人影が、意外にも怪塔王らしいとわかって、兵曹長は、小屋をとびだしました。
(うまく怪塔王のうしろへ出ることができれば、ちょっとした格闘のすえ、怪塔王を捕えることができるはずだ。怪塔王さえ捕えてしまえば、いくら怪塔ロケットがあったとしても、またこの白骨島に根拠地があったとしても、怪塔王たちは俺に降参するよりほかあるまい。うん、これはじつにすばらしい考えだ。よし、怪塔王を捕えてしまえ)
 小浜兵曹長の胸は怪塔王を生けどりにした後のうれしさで、わくわくいたしました。
 彼は見張小屋を後にし、岩の間をつたわって、だんだん山をおりていきました。
 ときどき岩かどから、怪塔王の様子をうかがいましたが、どうやら怪塔王はまだこっちに気がついていないらしく、しきりに地面をさがしていました。
(よしよし、この調子なら、いましばらくは、きっと気がつかないことだろう。さあ早く怪塔王のうしろに廻ろう)
 小浜兵曹長の追跡は、いよいよ熱をくわえて来ました。こんなことは軍艦の帆桁(ほげた)から下りるより、ずっとやさしいことでした。
 だが、兵曹長はすこしやりすぎてはいないでしょうか。帆村探偵は、兵曹長が怪塔王の仲間に見られることをたいへんおそれていたのに、兵曹長は大胆にも小屋を出て、怪塔王を追いかけているのですから、ちとらんぼうのようにも思われます。
 そのうちに、小浜兵曹長はついにうまく怪塔王のうしろに出ました。怪塔王は、なにも知らないで、まだ地面をさがしています。こうなれば、怪塔王は小浜兵曹長の手の中にあるようなものです。
「やっ!」
 小浜兵曹長は、掛声もろとも、怪塔王のうしろからとびつきました。


   大格闘



     1

「この野郎!」
 小浜兵曹長は、怪塔王の背後からとびついて、砂原の上におさえつけました。
「ううーっ」
 怪塔王は、大力をふるって下からはねのけようとします。
 そうはさせないぞと、兵曹長は怪塔王の首を締(し)めるつもりで、右腕をすばやく相手ののどにまわしましたが、その時怪塔王にがぶりと咬(か)みつかれました。
「あいててて」
 犬のように咬みつかれたので、小浜兵曹長は、おもわず力をぬきました。
 すると怪塔王の腰が、鋼(はがね)の板のようにつよくはねかえり、あっという間もなく、兵曹長はどーんと砂原の上に、もんどりうって投げだされました。
「しまった」
 兵曹長も、さる者です。砂原の上にたたきつけられるが早いか、すっくと立ちあがりました。そして踵(くびす)をかえすと、弾丸のように、怪塔王の胸もと目がけてとびつきました。
「なにを!」
「うーむ」
 小浜兵曹長と怪塔王とは、たがいに真正面から組みつき、まるで横綱と大関の相撲(すもう)のようになりました。
 小浜兵曹長は力自慢でしたが、怪塔王もたいへんに強いので、油断はなりません。
 えいえいともみあっているうちに、兵曹長は得意の投(なげ)の手をかける隙をみつけました。ここぞとばかり、
「えい!」
 と大喝一声、怪塔王の大きい体を砂原の上にどーんとなげだしました。
 怪塔王は、俵を転がすように、ごろごろと転がっていましたが、やっと砂原の上に起きなおったところをみると、いつの間にか右手に、妙な形のピストル様のものを持っていました。兵曹長は、はっと立ちすくみました。

     2

「さあ、寄ってみろ。撃つぞ」
 怪塔王は、砂原の上に、妙な形のピストルを手にして、小浜兵曹長の胸もとを狙っています。
 これには、勇敢な兵曹長もちょっとひるみました。怪塔王の手にある妙な形のピストルは、このままではどうしても小浜兵曹長の胸を射ぬきそうです。
 小浜兵曹長は、じっと怪塔王を睨んで立っていました。
 兵曹長の息づかいは、だんだんとあらくなって来ます。額から頬にかけて、ねっとりした汗がたらたらと流れて来ます。
「うぬ!」
 とつぜん、兵曹長の体は、砂原の上に転がりました。ごろごろっと転がって、怪塔王の足もとを襲いました。
 そうなると、怪塔王のピストルのさきは、どこに向けたがいいのかわかりません。
 だだーん、だだーん。
 はげしい銃声がしました。砂が白くまきあがりました。
「こいつめ!」
 いつの間にか、兵曹長は砂原の上に立ちあがっていました。
 ピストルをもった怪塔王の右手に手がかかると、一本背負いなげで怪塔王の体を水車のようになげとばしました。
「ううむ」
 小浜兵曹長は、呻(うな)る怪塔王に馬のりとなりました。妙な形のピストルは、兵曹長の靴にぽーんと蹴られ、はるか向こうの岩かげにとんでいってしまいました。
「さあ、どうだ。うごけるなら、うごいてみろ」
 怪塔王は、帯革でもって後手(うしろで)にしばられてしまいました。怪塔王は、すっかり元気がなくなって砂上にすわりこんでしまいました。
「とうとう怪塔王を生けどったぞ! 怪塔王て、弱いのだなあ」
 小浜兵曹長は、両手をあげて、声高らかに万歳をとなえました。

     3

 怪塔王は捕えられてしまいました。
 小浜兵曹長は、大手柄をたてました。天にものぼるような喜びです。
 縛られてしまえば、あんがいに弱い怪塔王です。
 小浜兵曹長は、このとき怪塔王をひったてて塔のなかにはいり、ロケットを占領してしまおうと考えました。
 怪塔王も捕え、怪塔ロケットも占領してしまうとなると、これはまたたいへんな大々手柄です。いさみにいさみ、はりきりにはりきった小浜兵曹長は、
「さあ、歩け!」
 と、怪塔王をひったてました。
 怪塔王は、おそろしい形相(ぎょうそう)をして、小浜兵曹長をにらむばかりで、なにも口をきかなくなってしまいました。
 すぐ近くに見える怪塔ロケットは、舵機(だき)を修理したらしいところ、また機体のところにペンキのぬりかえられているところから見て、これが例の、青江三空曹の生命をうばった恨みの怪塔ロケットであると思われました。だから、これが数多いロケット隊の司令機みたいなものでありましょう、兵曹長は、まずこれを占領するのが一番いいことだと思ったので、怪塔王をひったてて入口へさしかかりました。
 ロケットの入口は、開いていました。
 そのとき、中から、四五人の黒人や、ルパシカを着た東洋人らしい男が出て来ましたが、兵曹長を見ると、びっくりした様子で、腰のピストルをとりだそうといたしました。
「待て」
 と、兵曹長は声をかけました。
「撃つのはいいが、撃てばその前に、俺はこの怪塔王の生命を取ってしまうがいいか」
 といって、お先まわりをして、怪塔王から奪ったピストルをさしむけました。
 これを見て、敵どもは二度びっくりです。怪塔王の生命は、兵曹長にしっかり握られているのです。うっかり撃てません。

     4

「さあどうだ。撃ちたくても、これでは撃てないだろう。この辺で、おとなしくお前たちも降参したがいいぞ」
 小浜兵曹長は、大音声をはりあげて、叫びました。兵曹長は、この大きな声が、帆村探偵に通じるであろうと思いました。もし通ずれば、彼はすぐさまここへ飛ぶようにして出てくるであろうし、そして、どんなにか喜ぶだろうと思ったのでありました。
 だが、どうしたものか、帆村探偵の姿は一向現れてまいりません。
(帆村探偵は、どうしたんだろうか?)
 兵曹長は一向合点(がてん)がいきませんでした。
 しかし、ぐずぐずしてはいられないので、彼は縛ってある怪塔王と、降参したその手下どもをうながして、とうとう怪塔ロケットのなかにはいりました。
 それは、間髪(かんぱつ)をいれない瞬間の出来事でありました。
 とつぜん、怪塔ロケットの入口の扉が、ばたんとしまりました。
「あっ――」
 と兵曹長がさけんだときは、もう扉がしまった後でありました。
 怪塔王も、手下も、兵曹長のために自由をうばわれ、勝手に身うごきもできない有様になっていたので、兵曹長はすっかり安心しきっていましたが、どうしたことでしょうか。いや、そのとき、何者とも知れず、ロケットの扉のかげに隠れていた者があって、兵曹長が中にはいったとみるより早く、扉をぱたんと閉めたのです。
「こらっ、誰だ。変な真似をするとゆるさないぞ。貴様たちは、俺が怪塔王の命を握っていて、生かそうと、殺そうと、どうでもなるということを知らないのか」
 とどなりました。
 すると、そのとき、
「あっはっはっはっ」と、無遠慮に大きな声で笑う者がありました。

     5

「誰だ。大声をあげて笑うのは。お前たちの頼みに思う怪塔王は、こうして今、俺の傍に生捕(いけどり)になっているんだぞ」
 小浜兵曹長は、たしなめるように、大きな笑い声の主へ、注意をあたえました。
「あっはっはっはっ」
 と、その声は、またおかしくてたまらないといった風に笑い、
「なにを大きなことをいっているか。貴様はそこに怪塔王を捕えているつもりで、よろこんでいるのだろう」
「なにをいっているか」
 兵曹長はどなりかえしました。
「貴様こそ、なにをいっているか、だ。貴様の捕えているのが、怪塔王か怪塔王でないか、そのお面をとってみれば、すぐわかるだろう。あっはっはっはっはっ」
「ええっ――」
 お面を取れといわれて、兵曹長はびっくりしました。そしてやっと或(ある)ことに気がつきました。
 こうなっては、早く本当のことを知らねばなりません。兵曹長は、生捕にした怪塔王の顔を見つめました。見ていますと、別にお面をかぶっているようにも見えませんでしたが、念のためと思って、怪塔王の顔に手をかけ、えいと引張ってみると、顔の皮は何の苦もなくずるずると剥(む)けました。
「あっ、マスクだったのか」
 一皮剥けて、その下から出てきたのは、変な目つきをした黒人の顔でありました。
 黒人の怪塔王?
 兵曹長は、これをどう考えたらいいか、あまりのことに迷っていますと、また天井から大きな声で、
「あっはっはっはっ。どうだ。やっとわかったか。贋物(にせもの)の怪塔王の仮面がやっとはげたんだ。そのような怪塔王でよかったら、あと幾人でも見せてやるわ」
 天井裏からおかしそうに響いてくる無遠慮な笑い声は、たしかに怪塔王にちがいありません。

     6

「どうだ、小浜兵曹長。その辺で降参したらどうだ。もうなにごとも、貴様にのみこめたはずだ。貴様の脱獄したことがわかったので、こっちは計略で貴様をうまく怪塔のなかにひっぱりこんだというわけさ。あっはっはっはっ」
 怪塔王はますます笑います。小浜兵曹長はうまく、怪塔王にひっかけられたことが、やっと呑(の)みこめました。
 目をあげて、まわりを見まわしますと、いつの間に出て来たのか、いかめしい武装をした黒人が十四五人も、銃口をずらりと兵曹長へ向けてとりまいていました。
(もう駄目だ!)
 兵曹長は、腸(はらわた)がちぎれるかと思うばかり、無念でたまりませんでした。しかしこうなっては、どうすることもできません。ですから、持っていたピストルもなにもその場へ放りだして、腕組をしました。
「そうだ。そういう風に、おとなしくして貰わにゃならない。いい覚悟だ。おい皆の者、この軍人さんを逆さに縛って、しばらく例のところへ入れておけ」
 怪塔王の命令で、兵曹長は無念にも、胴中を太い綱でぐるぐる巻にされ、再びロケットの外につれだされました。
 やがて目かくしをされ、大勢にかつがれ、またもや例の海底牢獄のなかに、どーんと放りこまれてしまいました。こんどは胴と両手とを綱でぐるぐる巻にされたままですから、とてもこの前のように体の自由がききません。
 兵曹長は、この海底牢獄で幾日も幾日もくらしました。
 帆村がまた助けに来てくれるかもしれないと心待ちに待っていましたが、いつまでたっても、再び彼の姿も声も、兵曹長の前には現れませんでした。
 絶望か? 兵曹長の心も、すこし曇って来ましたが、さて或日――


   司令室



     1

 ここは怪塔の司令室です。
 この司令室は、怪塔の三階の一隅(いちぐう)にありました。
 怪塔王は、司令室にただひとり、じっと地図をみています。
 その地図は、どこの地図だったでしょうか。ほかでもありません。日本を中心とする太平洋の大地図でありました。
 怪塔王は、たいへんうれしそうな顔をしています。
 地図のうえで、日本のまわりを指さきでぐるぐるなでながら、
「うふん。いよいよこの辺が、こっちのものになるというわけだ。するとあとはもうおそろしくない国々ばかりだ」
 怪塔王は、肩をゆすって、うふうふうふと気味のわるい笑い方をいたしました。
 この司令室は、まるで電話の交換室のようになっていまして、この怪塔ロケット内のすべての機械の末端がここに集っていますから、この室にすわってさえいれば怪塔を自由にあやつることができるのでありました。いや、この怪塔内ばかりではなく、他のロケットも同様にあやつることができます。つまりいま怪塔王は、その司令配電盤を前にして、地図を見ているのでありました。なかなかうまく出来た司令配電盤でありました。そしてまた、これが怪塔王の心臓のように大事な機械でありました。
 ずずずずず。
 とつぜん警鈴がひびき、赤い注意灯がつきました。それは怪塔王のところに、無電がかかって来たのをしらせているのです。
 怪塔王は、受話器を手にとりました。
「おう、お前は監視機百九号だね。何用か」
「はい、監視機百九号です。いま小笠原(おがさわら)附近の上空を飛んでいますが、はるかに北東にむかって飛行中の空軍の大編隊をみつけました」
「なんだって、今ごろ空軍の大編隊が北東にむかっているとは――」

     2

 空軍の大編隊が、北東にむかって飛んでいるという無電に、司令室の怪塔王はびっくりしました。
 怪塔王は、その無電をかけてきた監視機にむかって、
「おいもっとくわしく知らせろ。どこの飛行機か。そして機数は?」
 すると返事があって、
「さあ、どこの飛行機か、よくわかりません。じつは、はじめからそのことが気にかかっていたのですが、電子望遠鏡でのぞいても、飛行機にはどこの国のマークもついていないのです。じつに怪しい飛行機です」
「マークがついていない飛行機か。はて、それは怪しい」
 怪しい怪塔王が怪しいなどというのです。どっちが怪しいか、おかしいことです。
「おい、飛行機のかっこうから考えて、どこの国の飛行機かわかるだろうに」
「そうですね――いやわかりません。あんなかっこうの飛行機を、今まで見たことがありません」
「日本の飛行機ではないのか」
「いや、今まであんな飛行機が日本にあったように思いません」
「一体、飛行機の数は、どのくらいいるのかね」
「機数は、すっかり数え切れませんが、ちょっと見たところ百五十機ぐらいはいるようです」
「そうか。百五十機の怪飛行隊か――そうだ。おいお前一つその飛行機の編隊の中へとびこんでみろ。すると向こうではどうするか。向こうから撃ってくれば、こっちも撃ってよろしい。その間に、敵の正体をたしかめて、すぐ無電でしらせろ」
「はい、わかりました。では、これからすぐあの編隊を追いかけましょう。こっちが全速力をだせば、あと一時間で追いつけるとおもいます」

     3

 北上するマークなしの飛行編隊は、そもそもどこの国の飛行隊でありましょうか。
 怪塔王は、その飛行大編隊が、なにを目あてにしているかが、たいへん気になりました。なんだか、いまに自分たちがいる白骨島へ攻めよせてくるように思われてなりません。
 そうこうしているうちに、怪塔王の前に、また別の警報灯がつき、つづいて警鈴が鳴りはじめました。また別のところから、至急無電なのです。
 怪塔王は、ぎくりと驚きました。
 受話器をとりあげてみると、これはやはり怪塔王の配下の監視船が発した警報でありました。
「報告。ただいま鹿島灘(かしまなだ)上を、夥(おびただ)しい艦艇が北東に向け、全速力で航行中です」
 これをきいて、怪塔王はとびあがるほどおどろきました。
「なんじゃ。こんどは夥しい艦艇が、北東へ全速力でもって走っているというのか。どうも気になる方角だ」
 鹿島灘から北東へ線をひいて、それをずんずんのばしていきますと、やがて白骨島の近くへとどきます。その線上を走っているのは、夥しい艦艇だといいます。
 それより前、監視機の方は、マークなしの飛行大編隊が、小笠原群島の上を北にむけて飛んでいるのを発見して知らせてきましたが、その後の報告によると針路はやや東に曲り、白骨島を目あてにしていることがだんだんにわかってきました。それもそのはず、いよいよ怪塔王軍に対して、いさましい戦(たたかい)をはじめるため、わが秘密艦隊が出動したのでありました。
 秘密艦隊には、空軍部隊と艦隊とがありましたが、両者は白骨島のすこし手前で一しょになることにしめしあわせてありました。
 塩田大尉と一彦少年とは、艦隊旗艦にのっていました。そして艦の見張番の知らせをいつも注意していました。

     4

 怪塔王は、秘密艦隊の襲撃を、やっとさとりました。
「ううむ、なまいきな日本海軍め、海と空との両方から、この白骨島を攻めようというのか。さてもわが巨人力を忘れてしまったと見える。よし、そうなれば、日本壊滅の血祭に、まずやっつけてしまおう」
 怪塔王は、すっかり憤(いきどお)ってしまいました。そして、すぐさま、怪塔ロケット隊に出動準備を命じました。
「おい、みんな。猪口才(ちょこざい)にも、日本の空軍部隊と艦隊とが、こっちへ攻めて来るぞ。あいつらが白骨島につかない先に、その途中でやっつけてしまうのだ。すぐさま全部出動準備をせよ」
 さあ出動準備だ!
 怪塔王ののっている怪塔ロケットをはじめ、その僚機の中へ駈けこむ怪しい人たち。
 梯子はまきあげられ、入口の扉や窓はすっかり閉じられました。
 つぎに、エンジンは、ごうごうと響をたてて廻りだしました。
 そのとき怪塔王のところへ中から電話がかかって来ました。
「おい、なんだ」
「ああ首領? たいへんなことになりました」
 そういう声は、第一号の黒人の声でありました。
「えっ、たいへんとは、何がどうしたのか」
「この間、方向舵をなおしましたですね」
「うん、なおした」
「あの方向舵が、今こわれてしまいました。ちょっとうごかしてみただけなんですが、あれをうごかすモーターから、いきなり火が出たと思ったら、それっきりうごかなくなりました。どうしましょうか」
「どうするって、そいつは困ったな。それでは出発できないではないか。一体、なぜモーターが焼けたりしたのか。お前がよく番をしていなかったせいだ。その罰に、お前を殺しちまうぞ」

     5

 いざ出動というときになって、怪塔ロケットの司令機が故障になったという騒(さわぎ)ですから、怪塔王はかんかんになって黒人をどなりつけました。しかし、故障のモーターは、そうかんたんになおってくれません。
「困ったなあ。おい、早くモーターがなおれば、お前を殺さないでゆるしてやるよ」
 怪塔王も困って、モーターをあずかっていた黒人に、ごきげんとりの言葉をなげました。
「えっ、モーターが早くなおれば、命をたすけてくださいますか」
 黒人は、怪塔王の思いがけない言葉に、とびあがってよろこびました。だが、モーターの故障は、なかなかなおりません。その故障の箇所は、モーター全部をとりかえないとだめなことがわかりましたので、別なモーターを地下の倉庫からさがして、つけかえることにしまして、やっとなおる見込みがたちましたが、なかなか手がかかって、すぐというわけにはいきません。
 しかるに、一方監視隊の方からは、秘密艦隊がどんどん近づき、いよいよ危険が追ったという知らせです。これ以上ぐずぐずしていては、白骨島に攻めよせられることがわかりました。
 怪塔王は気が気ではなく、司令室の中を、まるで檻(おり)に入れられたライオンのようにあるきまわっていましたが、ついに我慢がしきれなくなって、
「ああ、しかたがない。じゃあ、これは後から出発ということにして、あとのロケットだけで、日本軍をむかえうつことにしよう」
 怪塔王は、そのままこの司令機の中にのこることにして、他のロケットは、全部日本軍の秘密艦隊へ向かいました。
「じゃあ、お前たちにたのむぞ。なあに遠慮することはない。日本の軍艦でも、飛行機でも、見つけ次第磁力砲でもってやいてしまえ!」


   戦機近づく



     1

 白骨島を南西に去ること百キロメートルの地点でもって、ついに怪塔王のロケット隊と、わが秘密艦隊の艦艇隊と飛行隊とが出会いました。
 そのときの状況は、語るのもまことにおそろしい有様でありました。
 ロケット隊は、横一列になって、ずんずんとすすみよりました。高度は一千メートルという低さです。
 これに対し、わが飛行部隊は三隊の梯形(ていけい)編隊にわかれ、いずれも高度を三千メートルにとり、一隊は敵のロケット隊の中央をめがけてすすみ、他の二隊は左右両方から攻めかかりました。
 艦艇隊の方は、それよりずっと遅れること十キロメートル、旗艦を中央に、そのまわりを各艦艇がぐるっと囲んで、五列の縦陣(じゅうじん)をつくり、全速力でもってすすんでいました。
 このとき、一天は晴れわたり、どこまでも展望がききます。また海上は油を流したように穏やかで、ただ艦艇のあとには、数条の浪がながくつづいていました。
 艦隊は、十数台の偵察機をとばして、近づくロケット隊の進路と隊形とをしきりに観測して、それを報告させていました。
 このとき、主力艦の上を見ますと、甲板の上に、妙な形をした大砲ぐらいの大きさの見なれない機械が、四五台ぐらい並んでいて、いいあわせたように天の一角を睨(にら)んでいるように見えました。それこそ大利根博士が研究していたという話のあるあべこべ砲でありました。
 あべこべ砲は、これからどんな働(はたらき)をするのでありましょうか。
 このとき塩田大尉は、一彦少年とともに、艦橋に立って、前方を見まもっていました。
 刻々と戦闘のはじまる時刻は近づいてまいります。
 そのとき、前衛の飛行部隊がいよいよ戦闘をはじめたという知らせが、無電班へはいってまいりました。

     2

「まだ、モーターはなおらんか」
 怪塔王は、たいへん気をもんでいます。
「はい、もうすこしのところです」
 黒人は、おどおどしながら、こたえました。
「もうすこしか。では、あと三十分ぐらいで出発できるだろうね」
「はい、それがどうも」
「三十分じゃなおらんか」
「ところが、どうも困ったことができまして……」
「なんじゃ、困ったこととは。まだなにかいけないところがあるのか」
「はい」と黒人はいいにくそうに、「いま外のモーターをしらべてみましたところ、それも故障になっているのでございます」
「えっ、なんじゃ。外のモーターも故障か。そんなことは、さっき報告しなかったじゃないか」
「はい、それがどうも……」
「どうも? どうしたというのか」
「あのときは別に故障ではなかったのでございます。ところがいましらべてみますと、故障になっておりましたのです」
「ふうん、それはおかしい」
 怪塔王は首をひねって、考えこみました。
「待てよ。さっきはどうもなかったモーターが、いましらべてみると故障になっているというのは――うん、わかった。モーターの故障は、自然の故障ではなく、誰かがわしたちに邪魔をしようとおもって、モーターをぶちこわしたのにちがいない。そしてその誰かは、どこかそのへんに隠れているのにちがいない」
「へへえ、そうなりますか」
「それにちがいない。さあ、皆をよんで、そこらの隅々(すみずみ)をさがしてみろ。きっとその悪者がみつかるだろう」
 怪塔王は、モーターをこわした者がそのへんにいるといいきりました。一体誰が怪塔ロケットのモーターをこわしたのでしょうか。

     3

 やがて、黒人やルパシカを着た団員が、たくさん集ってきました。そうしてモーター焼切りの犯人を探しにかかりました。
「どうじゃ。まだ見つからんか」
 と怪塔王は、じりじりしています。
「ああ、警報ベルが鳴っています。先発隊からの無電報告らしいですよ」
 別の黒人が、怪塔王のところへ駈けてきました。
「ちぇっ、日本軍といま戦(たたかい)をはじめるというときになって、こんなさわぎがおこるなんて、なんというまずいことだ。おい、わしは戦況をきいているから、はやく悪者をさがしだすんだぞ」
 あまりのいそがしさに怪塔王は、体が一つしかないことを、どんなにか不便に思ったことでしょう。
「もしもし。わしだ。どうだ戦況は?」
 すると向こうから返事があって、
「ああ団長ですか。日本軍はいますっかりわがロケット隊をとりまきました。上へあがれば、敵の飛行隊がいますし、下へおりれば敵の艦隊がいます。そして今前方から大型の飛行機が三十機ほど、ものすごいスピードでこっちへ向かってきます」
 と、これは副司令に任命した団員の報告でありました。
「なんだ。そんなに日本軍に圧迫せられてはしようがないじゃないか。すぐさまわが無敵磁力砲でもって、どんどん日本軍の飛行機や軍艦をやっつけろ。ぐずぐずしていて、こっちの白骨島へ攻めこまれると、ちょっとやっかいなことになるじゃないか。はやく磁力砲をぶっぱなせ」
「ええ、その磁力砲ですが、その磁力砲がどうも……」
「なんだ。なにをいっている。磁力砲がどうしたと? はやく話せ」
 怪塔王の顔が、またさっと青くなりました。
「はい、磁力砲が、ちと変な工合でございまして……」

     4

「磁力砲が、ちと変な具合だって? おい、それは本当か。はやくくわしいことを話せ!」
 怪塔王は、おもわずマイクにしがみつきました。さきにはモーターが故障で、いままた磁力砲の具合がわるいとは、泣面(なきつら)に蜂がとんできてさしたように、災難つづきです。
「いや、実はさっきから磁力砲をさかんにうっているのでございます。が飛行機や軍艦が、それにあたってとろとろと溶けるかとおもいのほか、どうしたものか、敵は一向(いっこう)平気なのでございます」
「そんなばかな話があるものか。きっと磁力砲の使い方がわるいのだろう。あれだけ教えておいたのにお前たちは駄目だなあ」
「いや、私どもは、まちがいなく磁力砲をうっています」
「まちがいなくうって、相手の飛行機や軍艦がどうかならぬはずはない。たちまち赤い焔(ほのお)をあげてとけだすとか、うまくいけば、一ぺんに爆発するとか」
「あっ、困った。敵機がすぐそばまでやってきたそうです。いよいよ死ぬか生きるかの戦闘をはじめます。報告はあとからにいたします。ちょっと無電をきります」
「よし、しっかりやれ。わしは懸賞を出そう。飛行機を一機おとせば、二千円やる。軍艦なら一隻につき一万円だ」
 その返事は、ありませんでした。副司令は、日本軍と戦闘をはじめたのでしょう。どうなるのでしょうか。戦に勝つか負けるか、怪塔王は気が気でありません。
「ちょっと至急、おいでをねがいます」
 とつぜん耳もとで、ルパシカ男の声がしました。
「なんだ。モーターをこわした悪者をひっとらえたか」
「いや、そうではございません。あのう、縛っておきました小浜兵曹長がおりません」
「なんだ、あの日本軍人がいないのか」
「それからもう一つ、驚くべきことがございます」

     5

「もう一つのおどろくべきことって、それは一体なんだ」
 怪塔王は、かみつくような顔をして黒人にききました。
「はあ、それは――それは第三機械筒の中につないでおいた帆村探偵がいなくなったのでございますよ」
「えっ、帆村が、第三機械筒の中にいないって。それじゃ第三機械をうごかす者がいないではないか」
「はあ、そうでございます」
「そいつは困った。なにもかもめちゃくちゃだ。このロケットは死んでしまったも同じことだ。戦を目の前にして、とびだせないなんて、こんな腹立たしいことがあろうか」
 怪塔王は、どすんどすんとじだんだをふんでくやしがりました。
 この話によると、帆村探偵はこの怪塔ロケットの第三機械筒につながれ、その機械をうごかす役をあたえられていたことがわかります。これは勿来関の上空で、わが海軍機と戦っているうちに黒人の一人が死んだのです。そこでその黒人にかわり、かねて捕えられていた帆村荘六がむりやりに第三機械筒の中に入れられ、その機械をうごかす術をむりやりに教えこまれたのでありました。
 かしこい帆村は、筒の中につながれていると見せかけ、じつはいつの間にか筒を自由に出入りできる身になっていたのです。
 小浜兵曹長を海底牢獄からすくいだしたのも彼ですが、兵曹長を山の上にかくしておいて、その夜また行くつもりでいたところ、怪塔王にさとられ、ついに行けませんでした。
 しかし、こんど彼はとうとう兵曹長をうまくすくいだしました。そして怪塔内のモーターを焼切ったりなどして、怪塔王をすっかり閉口させています。
 さてその帆村探偵と小浜兵曹長は、いまどこにかくれているのでしょうか。
 ちょうどそのとき、怪塔王と黒人とが、大困りで顔と顔とを見合わせているうしろで、ことりと音がしました。


   二勇士



     1

 怪塔王と黒人の立っているうしろで、ことりと物音!
 怪塔王は、それを聞きのがしませんでした。
「何者か?」
 と、うしろをふりかえった怪塔王の眼にうつったものは、何であったでしょう。それは外ならぬ帆村探偵と小浜兵曹長の二人の雄姿でありました。
「うごくな、怪塔王!」
「降参しろ! うごけば命がないぞ」
「なにを!」
 怪塔王は、いかりの色もものすごく、とつぜんにあらわれた二勇士へ叫びかえしましたが、何を見たか、
「あっ、それはいかん。あぶない。ちょっと待ってくれ」
 と、俄(にわか)に怪塔王はうろたえ、ぶるぶるふるえ出しました。
「あははは。これがそんなに恐しいか。だが、これは貴様がつくったものではないか」
 小浜兵曹長はあざ笑いました。彼がいま小脇にかかえて、怪塔王に向けているのは、怪塔王秘蔵の殺人光線灯でありました。この殺人光線灯は、かねて帆村がその在所(ありか)をさがしておいたものです。このたびはこっちが失敬して、逆に怪塔王の胸にさしつけたというわけです。
 ピストルも小銃も、一向に恐しくない怪塔王ではありましたが、この殺人光線灯を見ると、まるで人間がかわったように、ぶるぶるふるえだしました。それもそのはず、殺人光線灯がどんなに恐しいものであるかは、それをこしらえた怪塔王が一番よく知っているわけですから。
 怪塔王は、(困ったなあ。たいへんなものを、盗まれてしまった!)と、歯ぎしりをしましたが、もう間にあいません。
 小浜兵曹長は、ゆだんなく殺人光線灯の狙(ねらい)を怪塔王の胸につけ、もしもうごいたら、そのときは引金をすぐ引くぞというような顔をしています。
「そこで、怪塔王どの」
 帆村は、横の方から怪塔王のそばに一歩近づきました。

     2

「そこで怪塔王どの」
 と帆村に呼びかけられ、怪塔王は額ごしにおそろしい目をぎょろりとうごかし、
「なんだ、帆村。お前たちは卑怯じゃないか。わしの大事にしていた殺人光線灯を盗んで、わしをおびやかすなんて、風上にもおけぬ卑怯な奴じゃ」

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