怪塔王
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著者名:海野十三 

     4

「――盗んだ物を、僕に返せと言うのかい。あっはっはっ、とうとう本音(ほんね)をはいたね。食事にもいけなかったり、また折角(せっかく)の殺人光線灯も役にたたなかったり、黒人が言うことをきかなかったりしたんでは、もう弱音をはくより仕方がないだろう」
 と、『顔』の怪塔王は、ほがらかに笑い、
「じゃあ、貴様の頼みをきいて、あれを返してやろうよ。こっちへ来い」
「えっ、返してくれるか」
 と、『声』の怪塔王は、大よろこびでじりじりと、近づきます。
「おっととっ、そのまま近づいちゃいけないよ。両手を高く上るんだ。頭より高く上るんだ。さもなければ、僕は貴様の恐れている秘密を黒人に――」
「待て――」
 と、『声』の怪塔王は、いたいたしい声でもって叫びました。
「あれを返してくれるなら、なんでも、貴様の言うとおりにする」
 そう言って、『声』の怪塔王は、両手を頭の上に高くあげて、しずかに『顔』の怪塔王の方へ近づいて来ました。
『顔』の怪塔王は、それを見て満足そうにほほえみました。相手は降参したのです。
「さあ、ここへ来い。このうしろへはいれ」
 と、階段のものかげを指さしました。
 顔を風呂敷で隠した『声』の怪塔王は、はじめの勢(いきおい)もどこへやら、いまはしょんぼりとして『顔』の怪塔王の言いなり放題になっています。なにが彼をそうさせたのでしょうか。それはもちろん、この怪塔が海中につかりきりだと、あとしばらくして爆発し、彼も死んでしまわねばならぬのをおそれての上のことです。
『顔』の怪塔王は、いきなり、『声』の怪塔王の両手をうしろへ縛(しば)りあげてしまいました。
「あれは本当に返してくれるのだろうね」
 と、『声』の怪塔王はまた念をおしました。

     5

 水中にながくつかっていると、怪塔は爆発するかもしれないというので、さすがに命のおしくなった『声』の怪塔王は、いまや『顔』の怪塔王に降参してしまったかたちです。彼の両手は、うしろにまわされ、しっかりとしばられてしまいました。
「さあ、君の言うとおりになったから、はやく約束どおり、君が盗んでいったものを返してくれい」
 と、『声』の怪塔王はさいそくしました。
「うむ、約束はかならず果すよ。しかしその前に、貴様の体を念いりにしらべておかねば、あぶなくて安心していられない」
「なに、体をしらべるって。ちぇっ、そんな約束をしたおぼえはない」
 と、『声』の怪塔王は、あわてました。
「ばかなことをいうな。僕の方こそ、貴様の体をしらべない約束なんかしなかったぞ。それがいやなら、やはり怪塔の爆発するのを待つことにするか」
「いや、いや、いや。それはいかん。怪塔が爆発すれば、こっちの命がない。まあ仕方がない。なんでもしらべろ」
「それみろ、余計な手間をとらせやがる」
 そういって、『顔』の怪塔王は、『声』の怪塔王の後によると、彼の体を上から下まで、念入りに調べていきました。
 すると果して、『声』の怪塔王の服の下にはたまを近よせない怪力線網がかくされていました。またその怪力線網に磁力をとおす電源もみつかりました。さっそく、そのようなあぶないものをとりのぞきました。
「さあ、これでもう貴様の体は、たまをはじきかえす力がなくなったぞ。おとなしくしたがいい」
『声』の怪塔王が、ふかい溜息(ためいき)をつくのがきこえました。
「どうかあれを早くかえしてくれたまえ」
「よし、かえしてやろう」
 と、『顔』の怪塔王は自分の顔を両手でおさえました。さあ、なにごとが始るのでしょうか。


   マスクと顔



     1

 いま怪塔の中に、とても信じられないような不思議なことが行われている。
 こっちへ顔を見せている、『顔』の怪塔王は、その両手を自分の顔にかけると、えいやと力をいれて、すぽりと顔を脱いだ。
 顔を脱いだのである。
 目、鼻、口、それから頭の髪(かみ)の毛までそっくりついて、怪塔王の顔の皮はまるで、豆の皮を剥(は)ぐようにくるくると剥がれたのであった。
 ああなんといたいたしいことだ。
 血?
 さだめしたくさんの血がどっとふきだすこととおもわれたが、そうはならなかった。ただびっしょりと玉の汗をかいた帆村荘六の顔が、その下から現れた。
 なんだ、マスクだったのか。
 マスクにしては、なんと巧妙なマスクだろう。
 帆村荘六も、このマスクを怪塔王の寝所(しんじょ)の傍(かたわら)に発見したときは生首(なまくび)が落ちている! と思って、どきっと心臓がとまりそうになったほどである。しかもその生首は、外ならぬ怪塔王の首であったではないか。おどろきは二倍になった。
 だがよくおちついて視察[#「視察」はママ]すると、生首とおもったのは、じつに巧妙なゴム製マスクであるとわかった。そのマスクも、普通のマスクやお面のように顔の前面をかくすばかりのものでなく、耳も、首も、頭部もすっかり隠してしまうし、頭髪さえちゃんと生えているものだった。ちょうど、人間の手をすっかり隠してしまう手袋のような式に、喉(のど)のあたりから上をすっぽり包んでしまう別製マスクであった。それは質のいい生ゴムでつくられてあり、例の汐(しお)ふきのような顔になっており、そして生ゴムの表面は渋色に染めてあった。マスクの合わせ目は、耳のうしろの頭髪の中にあって、このごろよく見かける噛(か)みあわせ式の金具の、特に小さくこしらえたものでかんたんに縫ったり裂いたりできるのであった。

     2

 怪塔王の巧妙なマスクを、三階の寝所で発見したときの帆村のおどろきは近頃にないものだったが、では生きている怪塔王の体はどこにあるのかと思って、あたりをみまわしたところ、その寝台の上からすうすうという寝息が聞えるので三度びっくりしました。
 寝台を見ると、寝具はたしかに人間の体のかたちにふくれていた。しかし彼は頭を毛布の中にすっぽりうずめていました。
「さては、――」
 と、帆村ははやくもぴーんと感じて、勇気をふるって寝台に近づくと、その下にある人の顔をのぞきこもうとして、そっと毛布をもちあげました。
「いまのが怪塔王のマスクであるとすれば、ほんとうの怪塔王はどんな顔をしているのであろうか」
 はやく見たいという気持と、おそろしい気持とがごっちゃになって、帆村の胸をゆすぶった。――が遂に彼は見ました!
 彼は見ました! 彼は溜息をつきました。
 その寝台の上に寝ていた怪塔王は、顔を下にむけて寝ていたのである。帆村の目にうつったのは、赭茶(あかちゃ)けた毛と白髪とが交っている、中老人らしい後頭部を見ただけでありました。
 叩きおこして、顔を見てやろうか。
 そうおもった帆村だったが、ついにそのことは思いとどまった。ここで怪塔王に目をさまされ、いろいろとおそろしい武器をつかって暴れられてはたまらない。それよりもここは、怪塔王の気づかないうちに、怪塔王が困るようなことをやっておこう。そういう考え方で、帆村はマスクをにぎったまま、その辺にあるいろいろな仕掛などを、できるだけ壊したり外したりしておいたのです。そしてマスクをもって階下におり、鏡の前で怪塔王のマスクをかぶりました。
 帆村はすっかり自分を怪塔王に変えてしまったこの巧妙なマスクに、改めておどろきの声を出しました。

     3

 さても巧妙にできているマスク! 首全体をつつむようにできている最新式の怪マスク!
 そのマスクの顔は、世にもおそるべき破壊力の持ちぬしである怪塔王の顔だ!
 さていま、帆村探偵は、その怪マスクを手にして覆面(ふくめん)の怪塔王とむかいあっているのです。その怪塔王は、あわれにも帆村のため、両手をうしろにしばられ、手をつかうことができなくなっています。
「さあ、このマスクは一たん貴様にかえしてやるぞ。その代り、こんどは僕のいいつけをきいて、怪塔を横須賀方面へとばせるのだ。いいか」
 と、帆村探偵が勝ちほこっていえば、覆面の怪塔王は力なくうなだれ、
「よろしゅうございます。こうなってはあなたさまのおっしゃるとおり、なんでもいたします。私としては、この海底から一刻もはやくのがれたいのです。私の一番こわいのは、海面にうきあがる以前に、この塔ロケットが爆発しやしないかということです」
「水中に永くいると、なぜ爆発するのかね」
 ロケットが海中に永くつかっていると爆発すると怪塔王はおそれていますが、帆村はなぜ爆発がおこるのかわけをしらないので、ただ不思議でありました。
「それは、ロケットをうごかす噴出ガスの原料であるところの薬品に、塩からい海水がしみこむと、だんだん熱してきて、おそろしい爆発がおこるのです」
「じゃあ、海水のはいらないようにしておけばいいのに」
「そうはいきません。どうしても金属壁の隙間(すきま)から浸みこんで来ます。さあ、帆村さん、はやくマスクをかえしてください」
「うん、マスクはここにある」
 といって、帆村はようやく怪塔王のマスクをさしだしました。
「ああ、私は手をしばられているから、マスクをかぶれやしません。紐(ひも)をほどいてください。ああ、手がいたい」

     4

 怪塔王にマスクをかえしてやったのはいいが、怪塔王は両手を帆村のためうしろにしばられているためマスクがかぶれないから、紐をほどいてくれというのです。
 帆村はそれをきいて、つよくかぶりをふりました。
「いや、だめだ。しばってある貴様の手をほどいたりすれば、貴様はどんなにおそろしいことをやるかしれない」
「ああいた、いたい」
 と、怪塔王はしきりに身もだえをします。そんなに両手が紐にくいしめられていたいのでしょうか。
「それほどいたくもないくせに、いたいいたいなどとおどかすなよ」
「いえ、ほんとにいたいのだ。ああいたい」
「いくらいたくても、僕はけっしてほどいてやらないぞ。じゃあマスクは、ぼくが貴様の顔にはめてやろう」
「えっ、あなたさまがマスクを私の顔にはめてくださるというのですか」
 怪塔王は、わざとらしくながいため息をついた。
「なにをそんなに、ため息などをつくのだ」
「いえ、ため息というほどのものではありません。さあ、では一刻もはやく、私にマスクをかぶせてください」
「うむ、いまやってやる」
 と、帆村はマスクを手にして、風呂敷で覆面している怪塔王の前に近づきました。
「そうだ。まずその覆面をとらなくては。――」
 と、帆村はマスクを下におき、両手をのばして怪塔王の覆面に手をかけました。
 ああ、いまこそ怪塔王の覆面がひきむかれるのです。その覆面の下には、はたしてどんな顔があるのでしょうか。胸はおどる! 帆村の胸は、どきどきとおどります。
 それを早くも察したものとみえ、怪塔王は覆面の下からおどかすような調子で叫びました。
「さあ、はやく覆面をとってください。しかし帆村探偵よ。この覆面の下にある我(わ)が輩(はい)の素顔を見て、腰をぬかさぬように!」

     5

 怪塔王が、いまや覆面をはぎとられようとして、その刹那(せつな)に――覆面をとるのはいいが、その覆面の下にある我が輩の素顔をみて腰をぬかすな! と叫んだ捨てぜりふ――
「うむ。――」
 と帆村は、怪塔王が放ったいたい言葉に、思わず呻(うめ)きました。
 ああなんという奇襲のおどかし文句でしょう。たしかに怪塔王の一言は、帆村の心臓をぷすりとさしとおしたようです。
 怪塔王の首全体をつつんだ風呂敷の下には、一体どんなおそろしい顔があるのでしょうか。帆村でなくても誰でも、覆面の下をみることはおそろしい気持がするではありませんか。
 殊(こと)にここは、隣家というものもないふかい海底に、横だおしになっている怪塔ロケットの中です。鬼気はひしひしと迫り、毛孔は粟(あわ)のつぶのようにたちます。
「なあに、そんなおどかし文句に、誰がのるものか」
 と帆村は、ふりはらうように言いかえしました。
「それなら、マスクをはやく。――」
 と怪塔王は、せきたてます。
 帆村は、ついに変な気持にとらわれながら、なにほどのことがあろうかと気をふるいおこし、両手を怪塔王の首のうしろにまわして、風呂敷の結び目をときにかかりました。そのとき、さすがの帆村も、この覆面の下の怪塔王の顔を見るのをおそろしく感じたものか、怪塔王の首のうしろにまわした両手が思わずぶるぶるとふるえました。
 怪塔王は、そうなるのを、さっきから熱心に待っていたようです。
「やっ!」
 大喝一声(だいかついっせい)、怪塔王の膝頭(ひざがしら)は、帆村の下腹をひどいいきおいでつきあげました。腹の皮がやぶれたろうと思ったくらいです。何条(なんじょう)もってたまりましょう。
「う、ううん。――」
 苦しそうなうめき声とともに、帆村の体は棒のようになってたおれました。

     6

 怪塔王の覆面をとるのにすっかり気をとられていて、怪塔王の足がとんで来るのを用心しそこなったのです。
 名探偵として、たいへんはずかしいことだと、帆村はのちのちまでそれをくやしがっていましたが、なにしろ大問題の怪塔王の覆面の下から、本当の顔があらわれようという息づまるような場合だったものですから、ごんな失敗をしたのです。
「う、ふふふふ、ざまを見ろ」
 怪塔王は、さきほどのおろおろ声もどこへやら、またいつものにくにくしい怪塔王のしゃがれ声にかえって、床の上にたおれている帆村を見下しました。
「……」
 帆村は、うなり声さえ立てないで、床の上にまるで死人のようによこたわっていました。さあたいへん。帆村の息はそのままたえはててしまうのではないでしょうか。
「う、ふふふふ。口ほどにもないやつだ。しかし間もなく息をふきかえすだろうから、そうだ、いまのうちに大切なマスクをかぶっておこう」
 と、怪塔王は、あわてて床の上にしゃがむと、帆村の手から例の汐ふきの顔をしたマスクをひったくりました。そしてそのマスクを目の前にさしあげ、さも感心したという風に、
「ふうん、実にうまく出来ているマスクだわい。こんないいマスクはないねえ。なにしろ顔にぴたりとあう。そして笑えばこのマスクも一しょに笑う。また怒れば怒ったで、このマスクもまた一しょに怒る。これをつけていれば、マスクをつけているとは誰もおもわないほどうまくできている」
 と言って、マスクをあげて頭からすっぽりかぶりました。そのとき怪塔王は、自分で覆面をさらりと脱いだので、その下から大問題の素顔があらわれたはずですが。――

     7

 怪塔王は、自分の顔をつつんでいた風呂敷をぱらりと解きましたから、そのときたしかに下から怪塔王の素顔があらわれたはずです。
 ですが、たいへん残念ながら、このとき折角の怪塔王の素顔を、誰も見たものがありません。なぜって、帆村探偵は気絶して床の上にたおれていますし、三人の黒人は鉄の円筒のなかに小さくなってふるえていました。そのほか誰もその場のありさまを見ているものがなかったのです。
 作者の私の方に怪塔王がむいていればよかったのですが、あいにくと怪塔王はこっちにお尻をむけていましたので、はなはだ残念ですけれど、今回は怪塔王の素顔を見ることができませんでした。
 そう申しても、みなさんはがっかりなさるにはあたりません。なぜなら、この勇ましい帆村探偵や、えらい塩田大尉や、また小さいながらなかなかかしこい一彦少年やミチ子などが、がんばっているかぎり、いつかはマスクの下の怪塔王の素顔をひんむくときが来ることでしょう。それは一体いつのことでしょうか、あばれまわる怪塔王の秘密は、一つの事件ごとに、だんだんと身のまわりをせばめていくではありませんか。すると、怪塔王の正体がわかるのもあまり長い先のことではありますまい。
 さて、怪塔王はマスクをかぶって、すっかり元の怪塔王になりました。
 帆村探偵がこれを知ったら、おどりかかっていくでしょうに、彼はまだ夢心地で床の上にたおれています。
「う、ふふふふ」と怪塔王はあざ笑い、「すぐ殺してもいいのだけれど、今はなりよりもこの塔ロケットを海中からうきあがらせる方が大事だから、殺しているひまはない。そうだ、また一時こいつを縛(しば)ってうごけないようにしておこう」
 怪塔王は長い綱をとり出すと、すばやく帆村の体をぐるぐると巻いてしまいました。


   危い怪塔



     1

 怪塔王のため、ついに帆村探偵は、体を荒縄でもってぐるぐるまきにされてしまったのです。怪塔王は、そこではじめてほっと息をつきました。
「う、ふふふふ。さあ、これでいいぞ。これですべて、元のとおりになった。やっぱりわしは、大科学王だ。天下に誰ひとりおそれる者はないのだ」
 そういっているときに、ぴしんと大きなもの音がしました。配電盤の上についている一つのメートルの針が、ぐるぐるとまわりはじめました。それにつづいて、警鈴(けいれい)が、けたたましく鳴りだしました。
「ありゃありゃ」
「うう、ありゃありゃ」
 黒い円筒のふたが、内側からぽんとはねて、黒人の顔が三つ、ぬっと出ました。三人とも、生きている顔色とてもなく、ぶるぶるふるえて、室内をみまわしています。
 怪塔王も腰をぬかさんばかりにびっくりして、
「おや、とうとう始ったかな。――」
 と、配電盤の前にかけつけるなり、大きなハンドルに手をかけ、力をいれてううんとハンドルを廻しました。それは、強い酸性の薬をはきだす口がひらかれたのです。
 ぴしんという音は、たしかに海水が怪塔のガスの原料室の一つにしみこみ、大切な原料をおかしはじめたもの音らしいです。それがだんだんすすむと、やがてはおそろしい大爆発となって、怪塔がこなごなになるであろうことは、わかりすぎるほどわかっていました。
 ですから怪塔王は、ガスの原料を海水がおかさないように、かねてそなえつけてあった強い酸性の薬をはきださせて海水のはたらきをとどめたのです。さいわい、それがうまく利(き)いて、気味のわるいぴしんという音は、それっきりきこえなくなりました。とはいうものの、いつまたどこから海水がしみこんでこないとはいえません。あぶないあぶない。

     2

 怪塔が海水中にながくつかっていたため、いまや大心配のときが来たのです。一度は、怪塔王がみずからハンドルをとって、たかい薬をつかっておし鎮(しず)めましたけれど、いつまた、いや、そういっているうちにも、どんなひどい爆発がおこるかもしれません。
 怪塔王は、もうこの上は、ただの一秒もぐずぐずしているときではないと思いました。
 さいわい怪塔王は、帆村探偵からうばいかえしたマスクをかぶって、いつもの怪塔王になりすましていましたから、これなら黒人も安心していうことをきくだろうとおもいました。
 そうだとすれば、怪塔を爆発からすくうのは、今だ、今だけである、そう思った怪塔王は、いきなり三人の黒人の方をふりかえりざま、大喝一声(だいかついっせい)しました。
「こらっ、さっきから見ていると、お前たちはみな頭がどうかしているのじゃないか。いつもに似あわず、今日にかぎって、変なことばかりをしているじゃないか。なぜここにわしがいるのに、ぼんやり考えこんでいるのか。それとも、わしが二つにも見えるというのかね」
 そういわれて三人の黒人はびっくりです。だって、怪塔王がいきなり変な事をいいだしたのですもの。
(わしが二つにも見えるか――などというけれど、たしかに二人の怪塔王がいたのだ。いやそれともやっぱり自分は、怪塔王のいうとおり、頭が変であるために怪塔王が二つに見えたのではあるまいか。そういえば、あのえらい御主人怪塔王が二人とあるはずがない。すると自分は、真昼に夢をみていたのかしら)
 黒人は、めいめいそう思いました。すっかり怪塔王にかつがれてしまったようです。うまくいったとみるより怪塔王は、さらに声をはげまして、
「こらっ、さあさあ何をしている。お前たち、早く持場につかんか。さあ出発だぞ」

     3

 怪塔王が、いつもの調子でぽんぽんどなるので、これをきいていた黒人三人は、さっきまで二人の怪塔王をみていたことなんかどこかへ忘れてしまいました。
 めいめいに口にこそ出しませんが、ひとりひとり心の中で、
(こいつはいけない。主人のおこるのもむりはないよ。おれは、昼間から夢をみたりしたんだもの)
 というわけで、怪塔王にうまくごまかされてしまったとも気がつかず、号令にちぢみあがって円筒の中にひっこむと、怪塔をうごかす機械の前にぴったりとむきあいました。
「よいか。――次は飛行準備だ」
「はーい、飛行準備は出来ております」
 黒人は、伝声管でもって返事をいたしました。
「よろしい。――ではいよいよ出発!」
「よーう」
 と、黒人はかけごえして、使いなれた複雑な機械をあやつりはじめました。
 ごぼごぼごぼごぼ。
 海底によこたわった怪塔のお尻から、大きな白い泡がさかんにたちました。
 ごとん、ごとごとん。
 きりきりきりきり、きゅうん。
 金属のすれあう音がして、怪塔はぐぐっ、ぐぐうっと動きはじめました。
 機械の音は、刻一刻とやかましいひびきを立てはじめました。それとともに、怪塔の首がすうっと上にたち、やがていつもの怪塔と同じように、床は水平になり、壁はつっ立ちました。
 ごぼ、ごぼん、しゅうっ。
 怪音をあげて、怪塔はふかい海底から水面までをひとはしり! ついに海面に、その気味のわるい首をあらわしたかと思ったとたん、ぴゅうと空中高くまいあがりました。

     4

 めずらしや、海底からうかび出て、ふたたび空中高くまいあがった怪塔ロケット!
 海底では、日がさしませんから、夜はもちろん、昼間もまっくらで、あたりの様子から時刻を知ることができません。
 だが、こうして空中にとびだしてみると、あたりはいま、夜が明けはなれたばかりの朝まだきであることがわかりました。
 朱盆(しゅぼん)のように大きくて赤い朝日が、その朝、ことにふかくたちこめた海上の朝霧のかなたに、ぼんやりと見えます。
 霧は、怪塔王のために、まさに天のあたえためぐみだと、怪塔王は、じぶんでそう考えてよろこんだのです。
 しかし、一体怪塔王に、天のめぐみなどがあってよいものでしょうか。
 そうです。天のめぐみだとよろこんだのは、怪塔王の早合点(はやがてん)のようでありました。
 たんたんたんたんたん。
 どっどっどっどっどっ。
 ううーっ、ううーっ、ぶりぶりぶり。
 たちまち聞えるはげしい機関銃のひびき。そして間近にちかづくエンジンの爆音!
 飛行機だ!
 わが監視隊に属する偵察機だ!
 なんという大胆な行動だろう。このふかい霧のなかをついて、どんどん怪塔の方へ近づいて来る。
「ややっ、また出たな。なんといううるさい飛行機だろう」
 怪塔王は、にがにがしいといった顔をしました。
「正面から来るやつなら、幾台でも落してやるんだが、癪(しゃく)にさわることに、このごろ敵の飛行機のやつは、こっちの舵器のあたりがよわいことを知っているとみえ、そこのところばかり攻めて来るので、あぶなくてしようがない」
 そういって怪塔王は、あらあらしく舌打をしました。


   追跡急!



     1

 海底から浮かびあがって、爆発する心配はなくなった怪塔ロケットでありましたが、さて空中にとびあがってみますと、こんどは深い霧にまきこまれ、さらに待ちかまえていた監視飛行隊にみつけられ、ひどく急な追跡をうけたのであります。
「ちくしょう、ちくしょう!」
 と、怪塔王は配電盤をのぞきながら、たいへん怒っています。
「あっ、あぶない。また飛行機が……」
 配電盤には、四角に切った窓のようなものが三つばかり明いていて、その奥の幕に白い霧がうごいているところがうつっていました。これは怪塔王がつくった塔の外の景色をながめるテレビジョンの望遠幕です。
 おお、飛行機!
 とつぜん、そのテレビジョン望遠幕の上に、一台の飛行機の姿があらわれました。
 どこの飛行機でしょうか。
 いや、たずねるまでもありません。翼と胴とに日の丸がついているから、誰にでもすぐわかるとおりわが海軍機です。
 それより前、怪塔ロケットが海面からとびだすと、手ぐすねひいてまっていたわが監視飛行隊は、みなでもって十七機、すぐさまロケットのあとをおいかけたのですが、なにぶんにも霧が深いのと、怪塔ロケットがはやいので、だんだん姿を見うしない、せっかくの追跡もだめになったかとおもわれました。
 ところがただ一機、最後までがんばっているのがありました、いま怪塔王が見ているテレビジョン望遠幕にうつりだした一機が、そのがんばり飛行機なのでありました。
 この飛行機は、青江(あおえ)三等航空兵曹――略して青江三空曹が操縦している偵察機でありました。同乗の偵察下士は、例の小浜兵曹長でありました。
「おい、そんなにがんばって大丈夫か」
 と小浜兵曹長は伝声管をとおして、ただ夢中に舵(かじ)をとっている青江三空曹によびかけました。

     2

 そんなにがんばって大丈夫かと、小浜兵曹長にきかれたがんばり屋の青江三空曹は、お団子のようにまるい顔を「ぷーっ」とふくらませてちょっと怒っています。
「兵曹長、青江はですね、日中戦争のときからこっち、敵と名のつくものを狙ったが最後、そいつを叩きおとさないで逃したなんてことはですね、ただの一度もありゃしないのであります。がんばるもがんばらないも、あの怪塔ロケットを叩きおとすまではですね、私はなにも外のことは考えないのです」
「外のことって、なんだい」
 と、小浜兵曹長はたずねました。
「それは、つまりガソリンがきれるとかですね、敵の高射砲が盛に弾幕をつくっているとかですね、それからまた自分が死ぬなんてこと――そんなことをですね、外のことというのであります」
「ふうん、ガソリンのきれるのも、弾幕のこわいことも、自分が死ぬことも考えないのだね。すると、貴様は、俺の死ぬことは心配してくれているのだね」
「いえ、どういたしまして、自分の命はもちろんのこと、上官の命もですね、どっちも心配しておりません。そもそも私の飛行機にお乗りになったということがですね、上官の不運なのであります。それとも――」
「なんじゃ、それともとは――」
「いや、どうも私は夢中になって自分の思っていることをしゃべるくせがあっていけません。なんですか、上官は命がおしくなられたのでありますか」
「ばかをいえ。俺が若いときには、貴様より三倍も命がおしくなかった」
「今は?」
「今か。今は十倍も命がおしくない。だから、貴様そうやってがんばって操縦しているが、俺の目から見れば、まだまだがんばり方が足りんな」
 これをきいて、青江三空曹の顔は、赤いほうずきのようになりました。

     3

(まだがんばり方が足りない。おれなら、もっとがんばるんだが――)
 と、小浜兵曹長にからかわれて、青江三空曹は怒ったの怒らないのと言って、うれすぎたほおずきのように赤かった顔が、逆に青くなりました。
「これだけがんばっているのに、まだがんばり方が足りないと言うのか。兵曹長に甘く見られちゃ三空曹の名おれだ。ようし、そんなら大いにやるぞ。死んでもやる。向こうをひょろひょろ飛んでいく怪塔ロケットに、この飛行機をぶつけるまでは、おれはどんなことがあってもスピードをゆるめないぞ。あの怪塔ロケットの野郎め、こうなっては逃げようとしても、誰が逃すものか」
 青江三空曹は、武者ぶるいをしながら、怪塔ロケットを睨んで、猛然とスピードをあげました。彼の眼尻(まなじり)は、いまにもさけそうに見えます。
 小浜兵曹長は、うしろからそれを見ていて、にっこり笑いました。
 兵曹長は、わかい青江三空曹のことを、いじわるくからかったのではありませんでした。なにしろ相手は怪塔ロケットです。尋常一様のことでは、とても追いつけません。がんばり青江と言われる青江三空曹のがんばり方でも、まだまだ足りないと思ったので、思いきって彼を怒らせてしまったのです。
 兵曹長のこの計画は、すっかり的にあたりました。少年航空兵あがりの若い青江三空曹は、それこそ人間業とは思えないほどの名操縦ぶりを見せて、ともすれば見おとしそうになる怪塔ロケットのあとを、一生けんめいにおいかけています。
 ある時は密雲のなかに途方にくれ、またある時は急旋回をして方向をかえたり、ものすごい追跡ぶりです。
 いくたびか見失おうとして、それでもやっと追いすがって、じりじりと追っていくうち、両機はいつしか七千メートルの高空にのぼってしまいました。

     4

 七千メートルの高空!
 いまや偵察機は、怪塔ロケットにおいつきそうです。
 霧はもちろんのこと、雲もなくなりました。ひろびろとした空です。地球はどこかへいってしまいました。下には蒲団の綿のような密雲が、どこまでもひろがっています。
「おい青江。貴様、とうとうがんばったな。えらいぞ」
 と、兵曹長がはじめてちょっとほめた。
「ま、まだであります」
 青江三空曹は、どなりかえしました。
「なに、まだだって」
「そうであります。私の得意とするがんばり方を十分に兵曹長にごらんにいれていないのであります」
「なんだって。まだがんばるというのか」
「いよいよこれから本当にがんばるのであります」
 青江三空曹は、じゃまものもなくなってひろびろとした高空を、おもいきりぐんぐんと愛機をとばせていく。
 そのあいだにも、小浜兵曹長はしきりと電鍵(でんけん)をたたいているのでありました。彼は偵察任務のため、青江機にのっているのであるから、機上から見た怪塔追跡の刻々の様子を、無線電信でもって本部へ知らせているのでありました。
「ただ今、わが青江機と怪塔ロケットの距離は一千五百メートル。あたりはすっかり晴れ、視界広し」
 と打てば、やがて本部からは返電があって、さらに報告をさいそくして来るのでありました。
 兵曹長はいそがしい。青江三空曹を励ましたり、怪塔ロケットを監視したり、それからまた本部へ無線電信をうったり。
 そのうちに、青江三空曹必死の追跡のかいがあり、とうとう機は怪塔ロケットと平行になりました。敵味方の二機は頭をならべて、まっしぐらに飛んでいく。怪塔の窓がよく見える。小浜兵曹長は望遠鏡を眼にあてました。

     5

 小浜兵曹長と青江三空曹との乗った偵察機ただ一機が、もうぜんと怪塔ロケットにおいすがっています。
 怪塔ロケットと偵察機とは、いままさに併行(へいこう)して高度すでに一万メートルにちかい高空をとんでいきます。
 小浜兵曹長は、やすみなく怪塔ロケットの様子を見ては、本部あてにくわしい報告を無線電信でおくっています。
「ただいま、怪塔の窓から、怪塔王が顔を出した。おそろしい眼つきでこっちをにらんでいる。あっ、顔をひっこめた」
 小浜兵曹長の報告は、なかなかくわしいものです。
 怪塔王が顔をひっこめたのは、また何か偵察機の方へ危害をくわえるつもりであろうと思われましたが、はたして間もなく、偵察機のエンジンの調子が怪しくなって参りました。
「青江三空曹、なんだかエンジンがとまりそうじゃないか。がんばり方が足りないぞ」
「そうじゃないんです。がんばっていますが、エンジンが言うことを聞いてくれません。まだ参るには早いのだが、変ですね」
「そうか、さては――」
 と、小浜兵曹長は気がついて、怪塔ロケットの方を睨みつけました。まさしくあの怪塔ロケットから出す例の怪力線が、こっちのエンジンの息の音をとめようとしているらしい。
 さっそく危険信号が、小浜兵曹長の手によって、本隊へむけ発せられました。
「怪塔ロケットの発する怪力線によって、エンジンがとまりそうだ。これ以上の追跡は、あるいはむずかしいと思う」
 すると本隊の方から、折かえして入電がありました。
「あと三十分、がんばれ。こっちでも、救援隊を手配しているところだ」
 あと三十分がんばれ! エンジンのこの調子ではその三十分が、うまくもつかしら。


   奇計



     1

 あと三十分がんばれ!
 怪塔ロケットを追う青江機の上で、偵察士の小浜兵曹長は歯がみをしました。
 青江三空曹の、人間わざとは見えないがんばりぶりにもかかわらず、エンジンの調子は、重病人の眼のようにわるくなるのでありました。
(怪塔ロケットにせっかく追いついたのに、このままでは、ぐんぐん遅れてひきはなされてしまう)
 どうにかして、あくまで怪塔ロケットにおいすがっていきたいものだと思った小浜兵曹長は、いろいろあたまをひねって、計略をかんがえました。
 そのときに小浜兵曹長のあたまにうかんだことがありました。それは、愛機に積んでいる長い綱のことでありました。これは救助作業のときにつかうもので、どの軍艦も持っている丈夫な麻綱でありました。
 兵曹長は、その綱の一番端に鋼鉄でつくってある錨(いかり)をむすびつけました。その錨は、西瓜(すいか)ぐらいの小型のものでありました。
 兵曹長は、それをつくりあげると、青江三空曹に彼のすばらしい計画をうちあけました。青江三空曹は、まったくおどろきました。しかし只今のところこうした試みでもしないかぎり怪塔ロケットのごく近くに三十分間もくっついていることはむずかしいので、結局青江三空曹もこの計画にしたがうことにしました。
「じゃあ頼むよ。このうえは、貴様の操縦術にたよるほかないのだ。しっかりやれ」
 と小浜兵曹長がはげまします。
「だ、大丈夫です。私は、死んでもがんばるつもりなのです。さあどうか錨をおろしてください」
 青江三空曹はりっぱにひきうけました。
 そこで小浜兵曹長は、錨を先につけた綱を、そろそろと機体の外におろしはじめました。

     2

 天空たかく逃げのびようとする怪塔ロケットです!
 逃がしてはなるものかと、青江機は猛追撃をしています。
 偵察席にいる小浜兵曹長は、ありったけのちえをしぼって、錨のついた麻綱をまずおろしました。
 麻綱はながくながくのびていきます。その先についている錨のおもさで、麻綱はぶらんぶらんとゆれています。そして錨はだんだんとはげしく振れていきます。
「おお、右旋回だ!」
 小浜兵曹長が、伝声管の中にさけびますと、
「はい、右旋回!」
 青江三空曹は舵(かじ)をひきました。すると飛行機は翼をかたむけるとみるまに、みごとに右へぐるりとまわっていきます。
 怪塔ロケットのお先へまわったのです。
 怪塔ロケットはまたスピードをおとしました。そしてやっとすれすれに、青江機のたらしている麻綱のそばをすりぬけました。
「はっ、はっ、はっ、怪塔ロケットもそろそろ困って来たようだ。こうなるとあぶなくて、スピードが出せないというのだろう。むりもない、もともと怪塔ロケットは、舵が半分ほど利かなくなっているのだからな」
 さきに小浜兵曹長は、体あたり戦術でもって怪塔ロケットの舵を半分ほどこわしておきました。それからこっち怪塔ロケットは、思うようにまっすぐ飛べなくなっていました。まっすぐ飛ぼうと思うと、ぐるぐるまわりをしたり、下りようとすると、ロケットの首が上にあがったり、酔っぱらいが自動車を運転しているのとおなじです。これには怪塔王もどんなにか困っていました。
 そこへ今、錨をぶらさげた麻綱がとんでもないときに鼻さきへぬっとあらわれるので、ますますロケットは飛びにくくなって来ました。スピードを落しておかないと、急に方向をかえることができません。

     3

 怪塔ロケットは、そろそろ目がまわりだしたように見えました。
 しかし追撃中の小浜兵曹長は、まだまだそんなことで手をゆるめるつもりはありませんでした。
「おい、青江、いよいよこのへんで、貴様の高等飛行の手並を見せてもらうぜ」
「はい、それを待っておりました。かならず敵を征服いたします」
 と青江三空曹は、はりきったこえで、返事をいたしました。
「うん、その調子でしっかりたのむぞ。では、おれが命令するとおりに操縦をしてみてくれ」
「はい、承知しました」
「では命令を発するぞ。――まず急上昇!」
「はい、急上昇!」
 こえのおわらないうちに、青江機は空中に垂直に立ちました。エンジンははげしい爆音を立てます。機はぐんぐん上る!
「ああ、怪塔ロケットが右へにげだしたぞ。にがしてたまるものか。――宙がえり、急降下で右へ!」
 青江機は空中に美しい輪をえがいて、くるりと一転しました。そして、そうするが早いか、たちまち機首を下にむけて、のろ牛をおそう鷲(わし)のように、猛烈なスピードでさっとまいおりるのでありました。
「うまいうまい。りっぱな手並だ、まるでおれの若いときのようだ。いや、おれの方が、もうちっと上手(じょうず)だったがね」
 と、小浜兵曹長がいいました。操縦中の青江三空曹は、ほめられたのか、それともひやかされたのか、どっちであろうかと目玉をくるくる。
 そのうちにも錨綱は、不思議なゆれかたをして、空中を大蛇のようにのたうちます。
 おどろいたのは怪塔王です。あぶなくて、ロケットを飛ばしていられません。
 繰縦をやっている三人の黒人を叱(しか)りつけ、やれもっと左へ避けろだの、やれもっと高くあがれだの、体中汗びっしょりになって号令をかけています。が、怪塔ロケットはだんだん空中にすくんで来ました。

     4

 怪塔ロケットが宙ぶらりんにすすみだしたと見て小浜兵曹長は、
「おお、今だ!」
 と、さけんだのでありました。
 なにが今だというのでありましょうか。
 そのとき小浜兵曹長は、青江三空曹にむかって風変りな命令を発しました。
「おい、青江、怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり!」
 連続宙がえりとは、たいへんな命令です。しかも怪塔ロケットの周囲をぐるぐるまわれというのですから、これはなかなかむずかしい。このへんが、操縦士のうでまえの見せどころであります。
「怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり、始めまぁす」
 と、復唱するなり、青江三空曹は桿(かん)をぐっとひいた。すると、青江機はぐっと機首をあげるなり、空中にうつくしい大きな曲線をえがいて、怪塔ロケットにせまりました。
 怪塔ロケットは、わが偵察機ににらみすくめられたようになって、その銀いろの巨体を、ぶるぶるとふるわせました。
 青江三空曹は、ここぞとたくみな操縦ぶりをみせて、怪塔ロケットのまわりを、上になり、下になりぐるぐるとまわるのでありました。
 錨のついた長い麻縄は、だんだん輪のようにまるくなりました。
 小浜兵曹長は、麻縄をありったけのばしました。
 錨はだんだんあとにおくれて、やがて偵察機の正面に来ました。
 麻綱をのばすと、その錨はまたさらに偵察機に近づきました。
「青江三空曹、もっと小さくまわれ。そして錨のさきに、こっちの麻綱をひっかけろ!」
 と小浜兵曹長は叫びました。
「えっ、錨にこっちの麻綱をひっかけるのですか」
 青江三空曹は、自分の耳をうたがうように聞きかえしました。

     5

 青江機があとにひっぱる錨づきの麻綱が、怪塔ロケットのまわりを環のようにとりまくと、小浜兵曹長は、錨のさきに、こっちの麻綱をひっかけろと命令したのです。
 ものに動じない青江三空曹も、このかわった命令には驚きのいろをかくすことができませんでした。
「そうだ、錨のさきに、こっちの麻綱をひっかけるんだ。早くしろ。しかしうまくやれよ」
 小浜兵曹長は、はげますようにいった。
「はい。やります」
 青江三空曹は頼もしい語気で、言葉すくなに答えた。そして、操縦桿をさらに手前へひいたのでした。
 機はぐっと傾いた。
 錨はふわりと機首のところをとびこえて、うしろの方へながれました。
 空中の投綱だ
 なんというむずかしい曲技でしょう。
 小浜兵曹長は、窓にかじりついて、窓外を夢中になってながめています。
 錨をさきにつけた麻縄と、彼が機体からくりだしている麻縄とが二本ならんでみえる。
「うむ、もうすこしだ! おちついて、しっかり、そして大胆に!」
 小浜兵曹長は、もうたまらなくなって、伝声管を通じて、操縦士の青江三空曹に声援です。
 青江三空曹は、それにはこたえなかった。操縦桿をにぎる彼は、そのとき緊張の絶頂にあったのだ。彼の目も、耳も、心も、反射鏡に映る錨と麻綱のほかに、なにも見えず、聞えず、感じなかったのです。
 錨と麻綱とはだんだん近づいて来ました。
「もうすこしだ。青江、しっかりやれ」
 ぴしり!
 空中で錨と綱とが、はげしくつきあたった。火花がはっきりみえたと思った。あっと思った瞬間、錨はぶうんとはねとばされました。
「ちぇーっ」

     6

 空中の曲技!
 錨のさきに、こっちの綱がうまくかかったと思った刹那(せつな)に、綱は錨をぽーんとはじいてしまいました。
「しまった」
 と、さけんだのは操縦の青江三空曹です。
「うむ、ざんねん」
 と、呻いたのは同乗の小浜兵曹長です。
 空中の曲技が、おしいところで失敗してしまいました。
「上官、やりなおしをいたします」
「うむ、おちついてやれ」
 このとき弾(はじ)かれた錨は、せっかく空中につくった美しい輪をこわしてしまいました。
 青江三空曹は、怪塔ロケットをおいながら、ふたたび綱を怪塔の胴のまわりに、ぐるぐると輪状につくりなおさねばなりませんでした。
 小浜兵曹長は、ただ呻るばかりです。
 そのうちに、ふたたび麻綱は錨をすなおにひきもどし、美しい輪が空中にえがかれました。
 いくたびか、この綱の下をぬけ出そうとして、ついにぬけだすことができなかった怪塔ロケット!
 ここぞと、青江三空曹は機体をひねって、こっちの綱を向こうの錨のそばにちかづけていきました。
 たてつづけの宙がえりに、さすがの二勇士も、このときはげしい頭痛を感じるようになりました。これ以上、あまり宙がえりをつづけると、気がとおくなり、やがては死んでしまうおそれがあります。しかし青江三空曹は、あくまで精神力でもって、そうなるのをくいとめています。
「ああもうすこしだ」
 と、小浜兵曹長が思わず口走った刹那、錨はうまく綱をひっかけました。青江三空曹のお手柄です。
 綱は錨にひっかかったまま、するするとすべりましたので、綱の輪は小さくしぼられていきます。さあこれからどうなるのか。


   遂に現る



     1

 錨にひっかかった綱は、するするとすべって、たくみに怪塔ロケットの胴をしめつけてしまいました。
 綱はいま怪塔ロケットの舵(かじ)の上からぎゅっとおさえています。
 青江機は、そのながい綱のさきにぶらさがっています。
「エンジン、とめ!」
 と、小浜兵曹長は号令をかけました。
 エンジンをとめろというのです。ここでエンジンをとめると、どういうことになるか。
 とにかくおどろいたのは怪塔王です。
 飛行機に追いこされ、それから先まわりされてロケットの飛行をさまたげられ、なんという意地のわるいやつだろうと舌うちをしているところへ、このような綱がぐるっとロケットの胴中をしばってしまいました。そして大事な舵の上をその綱がおさえてしまったのですから、ますますロケットの飛行はくるしくなりました。これでは、ちょうど歩いている人間の両腕、両脚をしばってしまったようなもので、走るに走れず歩くことさえなかなか大骨折です。
 だが、なんという乱暴な、そしてなんという思いきった青江機のやり方でしょう。
 いま青江機は、まったくエンジンをとめました。ですから、ロケットにひっぱられて、まるで大きい船のうしろに綱でむすびつけられている伝馬船(てんません)のように、ロケットの飛ぶまにまに、あとからついていきます。
「ちぇっ、あんなことをして、ぶらさがっていやがる」
 怪塔王は、窓の外の光景を、テレビジョンで見ながら、いくども大きな舌うちをいたしました。
「こうしていては、いつまでたっても、思うところまで逃げられやしない。なんとかしてあの飛行機をぶっつぶす方法はあるまいか」
 怪塔王は、けわしい目をぎょろりと光らせて、映写幕にうつる宙ぶらりんの青江機を、いまいましそうににらみつけました。

     2

 小浜・青江の二勇士が、おもいきった決死の大冒険をしまして、麻綱をもって愛機を怪塔ロケットにむすびつけたものですから、怪塔王は大腹立ちです。このままでは、怪塔ロケットのいくところへ、青江機がどこまでもついてくるわけですから、邪魔になるったらありません。
 怪塔王は、窓から首を出して、青江機をいまいましそうににらみつけていましたが、
「うん、よしよし。そうだ。あの飛行機をやっつけるにいい方法があった」
 と言って、顔を窓からひっこめました。なにを考えついたのでしょうか。とにかく怪塔王はいろいろといい武器をもっているので、おそろしいことです。
 こっちは小浜・青江の二勇士です。
 愛機は、さっき申したとおり麻綱でロケットにつながり、そのままひっぱられていきます。エンジンはもうとめてあります。操縦席の青江三空曹は、舵だけを一生けんめいでひいています。
「おい、青江、うまく飛んでいくなあ」
 と小浜兵曹長が声をかけました。
「はあ、エンジンをかけないでよろしいのでありますから、ガソリン節約になりましてけっこうであります」
「はっはっはっ、ガソリン節約はお国のため――というやつだな。しかし怪塔ロケットはすっかりおとなしくなったね」
「はい、おとなしくなりました。しかしあれでスピードを出しますと、まっすぐはとべないのですよ。御承知のとおりロケットの舵がこわれていますうえに、こっちの麻綱が舵の上からおさえつけていますので、スピードは出せますが、思う方向へとぶことができないのであります。つまり、どこへとぶのやらさっぱりわからないのであります」
「うん、どこへとぶやらさっぱりわからないわい。高度はいま一万メートルだが、いま何県の上空にいるやらさっぱり、下が見えないや」

     3

 怪塔ロケットにつながって、一万メートルの上空を滑走(かっそう)していく青江機上では、小浜・青江の二勇士が顔色一つかえずにのんきな話をつづけています。
「上官、まったく気持がいいですねえ。第一、エンジンをはたらかさなくてもいいからガソリンはいらないし、その上エンジンの音もプロペラの音もしないから、しずかでいい。ただうるさいのは、あの怪塔ロケットが放出するガスの音です」
「うん、ガスの音もかなわんけど、ガスの臭(におい)はいやだな。プロペラがまわらなくなったので、あの悪臭が頭の上から遠慮なくおりてくる」
「それでは毒ガスマスクを被りましょうか」
「うん、それほどのこともなかろう。ロケットのお尻の方にまわったのが、こっちの不運だ。いや、今になれると楽になるよ」
「私は、ガスの悪臭をそれほど苦に感じません」
「ほう、それほど感じないとは、貴様にしては感心だな。おれは相当つらいよ」
「いや、それほど私をほめていただかなくともいいのであります」
「貴様、きょうはいやに謙遜(けんそん)するね」
「どうも恐れ入ります。じつは昨日から風邪(かぜ)をひいていますので、鼻がきかないのであります」
「なんだって、風邪をひいていて、鼻がきかないというのか。わっはっはっ、なるほどそれなら、臭いものを嗅(か)いでも平気の平左でいられるはずだ。わっはっはっ」
「えへへへへへ」
 と、青江三空曹は、すこしきまりわるそうに笑いました。
 その時、怪塔王の顔がふたたび窓からあらわれました。青江機の方をじろりとにらみつけると、
「うふふふ。さあ日本の水兵め、神の名でもとなえるがいい」

     4

 怪塔王は、ロケットの窓から首を出し、下の青江機をにらみつけ、神の名でもとなえるがいいと、気味のわるいことを言いましたが、一体なにごとをはじめようというのでしょうか。
「おや、また怪塔王が、窓から顔をだしているぞ」
「あっ、なにか手に持っていますぞ」
 小浜・青江の二勇士が、たがいに叫びあううちに、怪塔王は半身を窓からのりだすと見る間に、かくしもっていた怪しい機械をぴったりと自分の胸にあてて、身がまえました。
「あっ、あんなものを出しやぁがった。あれはなんだろう」
「さあ、ベルクマン銃に似ていますけれども、ベルクマン銃が三つ寄ったくらいこみいった武器ですね」
「そうだ、武器にちがいない。どうするつもりかしら。ともかく戦闘準備だ。ぬかるなよ」
 怪塔王は、その怪しい武器を胸につけて身がまえると、その狙(ねらい)をロケットのうしろの方につけました。
 やがて奇妙な音響がすると、その怪しい武器の銃口とおもわれるところから、太いうす紫色の光がさっととびだしました。
 うす紫色の光線!
 あれはなんだろうとおもっているうちに、この光線はしきりに、ロケットのうしろの方をなでています。光線がロケットの外壁にあたると、そこから黄いろいような赤いようなつよい焔(ほのお)がぱっとあがりました。
「おおあれが磁力砲なんだろう。おれははじめて見たぞ」
 と、小浜兵曹長は望遠鏡から目をはなそうともしません。
 おそるべき磁力砲の力!
 それは、いまうす紫の光線を吐きながら、金属をめらめらと熔(と)かしていきます。

     5

 怪塔王が、いよいよ磁力砲を使いだしたのです。空中をとんでいく怪塔ロケットの窓から半身をのりだして、しきりに妙な機械を下へ向けています。
 怪塔のお尻の方が、赤黄いろい焔をあげて、めらめらととけかかります。
 小浜兵曹長と青江三空曹とは、このありさまを、またたきもせずじっとみつめています。
「おおあれだ。たしかにあの武器だ。金属にかけると、めらめらと焔をあげてとけてしまうというおそるべき武器だ。あれが怪塔王が一番大事にしている武器なんだ。あっ、あのとおり、怪塔ロケットの壁がとろとろとけていく。おい青江、あれをみろ」
「上官、私ははじめてみました。あれが噂(うわさ)にたかい磁力砲なのですか。しかし怪塔王は、自分の乗っているロケットの壁をとかして、一体なにをしようというのでしょう」
 まったく変なことをやる怪塔王です。磁力砲はしきりにうす紫の怪力線をうちだしています。
「うん、あれはね、怪塔王のやつ、こっちが麻綱にひっかけておいた錨をねらっているのだよ。つまりあの錨をとかせば、麻綱がほどけると思ってそれでやっているのさ」
「ああ錨をとかすつもりなのですか。錨よりも、麻綱を切ればいいのに。怪塔王も、考えが足りませんね。あっ、はっ、はっ」
 と、青江三空曹が笑いました。しかし、それは彼の思いちがいでした。
「そうじゃないよ。青江、磁力砲は金属をとかす力はあるが、金属でないものにはわりあい力が及ばないのだ。だから、あのうす紫の光線は、鉄板をとかしても麻綱をとかすことは出来ないのだ。怪塔王が麻綱をねらわないで錨をねらっているわけが、これでよくわかるだろう」
 青江三空曹は、「ははん、そんなものか」と感心したりびっくりしたり。

     6

 怪塔王は磁力砲をさかんにふりまわしています。
 怪塔ロケットのお尻がめらめらととけていきますが、かんじんの錨はなかなかとけません。
「やあ、怪塔王のやつ、手がふるえていて、うまく錨にあたらないのだ」
 と、小浜兵曹長が、おもしろそうに笑いました。
「どうです上官、機関銃をあびせかけてみましょうか」
「うん、機関銃の弾丸はうまくとどくまいよ、磁力砲が弾丸をはじきかえすだろうから」
「しかし、怪塔王が磁力砲をひねくりまわしているのを、こっちはじっと手をこまぬいてみているのはたまりませんね」
「そうではない。おれは、さっきから、本隊へしきりに通信しているんだ。怪塔王がいま磁力砲をあやつっているのが見えますといってやったら、司令はよろこばれて、もっとよく観て、くわしく知らせろといわれるのだ。当分じっとしていて、怪塔王のすることをみていることにしよう」
「ああそうですか、本隊では、磁力砲のはなしをよろこんでいますか。だが、じっとしているのはつらい。もっと手が長かったら、怪塔王のあのにくい顔を下からがぁんとつきあげてやりたいがなあ」
 青江三空曹は、磁力砲に錨が焼かれるのを、じっと見ているのを、たいへんつらがっています。
「おや上官、麻綱がぷすぷすくすぶりだしましたぞ」
「なんだ、麻綱がとうとう燃えだしたか」
 怪塔ロケットの金属壁が、とろとろとけているくらいですから、そのあたりの温度はたいへんあつくなって、やがて麻綱がぷすぷすとくすぶりだしたのです。これはいけないとみまもっているうちに、ついに麻綱は、赤い焔をあげてめらめら燃えだしました。

     7

 さあたいへんです。
 怪塔ロケットと青江機とをつなぐ麻綱が、めらめらと燃えだしたものですから、さあ、たいへんなことになりました。
 小浜兵曹長は、本隊司令へ無電報告をするため、電鍵をたたきつづけていましたが、このありさまを見て、
「うむ、やっぱり燃えだしたか。怪塔ロケットは、こっちの飛行機をきり離して逃げていく気だぞ。もういけない。おい青江、エンジンをかけろ。大いそぎだ!」
 と、ふたたびエンジンをかけて飛行の用意をいいつけました。
「はい、エンジンをかけます」
 青江三空曹は、すぐさまその命令をくりかえして発火装置をまわしました。
 すると、ふたたびばくばくたるエンジンの音がきこえだし、機体がぐっとうきあがってまいりました。
「おい青江、麻綱はいよいよ切れそうになったぞ。用意はいいか」
「は、はい。もう大丈夫、飛べます」
 といっているとき、いままで怪塔の舵の上をしばっている麻綱や、錨の方ばかり気をくばっていた怪塔王は、このとき身がまえをやりなおして青江機の方にふり向きました。
「おや、上官。怪塔王がこっちを向きました」
「うん、おれも見ている。あの磁力砲でこっちをうつ気かな」
 といっているとき、果して怪塔王は磁力砲を二人の方へ向けました。そして、それみたことかといわぬばかりに、大口あいてにくにくしげにあざわらうではありませんか。
 せっかくがんばって、ここまで怪塔ロケットについて来た青江機も、いよいよお陀仏(だぶつ)になるときが来たかのようでありました。
 もちろん二勇士の心の中には、いさぎよく死ぬ決心がついていましたから、おくれはとりません。とはいえ、ここでいよいよ飛行機を怪力線でやかれるとはくやしいことです。


   空中の離れ業



     1

 怪塔ロケットと青江機をつないでいる麻綱は、いまや赤い焔(ほのお)につつまれて、めらめらと燃えだしました。いくら丈夫な麻綱でも、こうなっては間もなく燃えきれるのはわかったことです。
 麻綱が燃えきれると、せっかくおいすがることのできた怪塔ロケットと、またお別れになってしまいます。こんどお別れになったら、さてその次はそうかんたんに怪塔ロケットにおいすがることはできますまい。
「ううむ、ざんねん。麻綱が燃えきれるのを、こうして手をこまぬいて見ているなんて、なさけないことだなあ」
 と、小浜兵曹長は歯をばりばりかんで、ざんねんがっています。
「小浜兵曹長」
 青江三空曹がよびかけました。
「なんだ、青江」
「ぜひお許しねがいたいことがあります」
「なんだ、なにを許せというんだ」
「それは、つまり――あの麻綱をつたって、怪塔ロケットの中へとびこもうというのです」
「ええっ、なんだって。麻綱をつたっていって、あの怪塔を拿捕(だほ)するというのか。貴様、えらいことを考えだしたな、ううむ」
 さすがの勇猛兵曹長も、若い青江三空曹の考えだしたおどろくべき怪塔占領の計画にはびっくりして、ううむとうなりました。
「よし、では青江。綱わたりをやってよろしい」
「おお、お許しが出ましたか。私はうれしいです」
「うん、大胆にやれ、あせっちゃいかん」
「麻綱はさかんに燃えだしました。では、すぐ綱にとりついてのぼります」
 若武者青江三空曹は、バンドをはずすと、席をとびだしました。そしてあっという間もなく、青江機と怪塔ロケットをつなぐ麻綱に、ひらりととびつきました。

     2

 青江三空曹の、空中の冒険がはじまりました。
 綱にぶらさがって渡るのは、大得意でありましたが、なにしろ空中を猛烈なスピードでとんでいる綱をつたわるのですから、なまやさしいことではありません。ともすればひどい風の力で、体はふきとばされそうになります。
「青江、しっかりやれ」

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