怪塔王
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著者名:海野十三 

「いや、そのばかばかしいことが本当に起ったのです。では塩田大尉には、あの塔が見えるのでありますか」
「見えないはずはない、あの塔は、あの辺にたしかにあったと思ったが――」
 と、塩田大尉は甲板の上から、小手をかざし、かねて覚えのある場所をしきりにきょろきょろと眺めましたが、どうしても塔が見えません。
(変だな、たしかあの林のそばに建っていたと思うが、見えないとはどういうわけだ)
 塩田大尉の顔はだんだんと紅くなってきました。そのうちに、反対に顔がさっと蒼(あお)ざめてまいりました。
 大尉は、拳をかためると、欄干(らんかん)をとんと叩きました。
「これあ不思議だ。小浜、お前のいうとおりだ。たしかにあの塔が見えなくなった」
「やっぱり私の申しましたとおりでしょう」
「うむ、これはたしかに一大事だ。あの塔が見えなくなったとすると、あそこを調べにいった帆村探偵は一体どうなったのだろう」

     4

 九十九里浜に立っていた怪塔が、わずか一夜のうちに、かげも形もなくなってしまったというのですから、これには塩田大尉もすっかりおどろいてしまいました。
「これはすぐ偵察しなきゃならない。兵曹長、すぐ陸戦隊を用意しろ」
 兵曹長は、はっと挙手の敬礼をして駈けだしました。やがて集合を命ずる号笛(ごうてき)の音が、ぴぴーぃと聞えました。
 やがて一隊の陸戦隊員が、白いゲートル姿もりりしく、甲板へかけあがって来ました。
「気をつけ、番号!」
 銃剣をしっかり握って、水兵さんたちはさっと整列しました。
 塩田大尉はその前に進み出て、
「これから上陸して偵察任務を行う。場合によれば戦闘をするからその覚悟でいけ」
 戦闘?
 水兵さんたちは戦闘ときいて、心の中で、
(しめた!)
 と、思いました。こんな内地で戦闘があるとはもっけの幸いです。大いに奮戦して、突いて突いて、突きまくろうと決心しました。しかし敵は何者でありましょう。塩田大尉はそのことにつき一言もいわれませんでした。
 陸戦隊は、すぐさまボートを下しました。そしてそれに乗って、海岸めがけて漕(こ)ぎだしたのであります。
 まったく不思議な出来ごとがあったものです。塔のなくなった海岸の景色は、なんだかすっかり間がぬけたものになりました。
「上陸!」
 陸戦隊は一せいにボートから水際(みずぎわ)へとびおりました。
 そこでいよいよ塩田大尉を先頭に、小浜兵曹長がつきそい、陸戦隊は塔があったと思われる例の森をめがけて、勇ましく行進していきました。
 森はしずまりかえっています。白い砂も、青草も、みな黙ったきりです。迷子の怪塔はどこに立っているのでしょう。


   怪塔の一つの謎



     1

 怪塔の一階では、いま帆村探偵と一彦少年とが、しきりに小首をかしげています。
「帆村おじさん、なぜこの塔の出口が、土の壁でふさがれたんだろうね」
「ふーむ、おじさんにもよくわからないのだ。だがね一彦君、これは土の壁というよりも、むしろ土壌といった方が正しいのだよ」
「えっ、どじょう。どじょう――って、あの鬚(ひげ)のある、柳川鍋(やながわなべ)にするお魚のことだろう。なぜこの土がどじょうなの」
 帆村おじさんはくすくす笑いだしました。
「土壌って、魚のどじょうのことではない。いまいった土のことを土壌というのだよ。つまり大地を掘れば、その下にあるのは土壌ってえわけさ」
「なんだ、ただの土のことか、僕は魚のどじょうのことかと思ったから、それで驚いてしまったんだよ」
「いや、君はときどき面白いことをいうね。いま君に笑わせてもらったお陰(かげ)で、おじさんはたいへん気がおちついてきたよ」
 と、つづいてにやにや笑い、
「そこで一彦君、もう一つ君にお礼をいわなければならないことは、いま君に土壌とはどんなものかと説明している間に、この出入口をふさいでいる土壌の謎をとくことができたよ」
 帆村探偵が、この不思議な土壌は、そもそもどこから来たかという謎をといたといったものですから一彦少年は目をまるくしました。
「といたの? おじさんは謎をといたんだって。じゃあ早く教えてよ。なぜこんな土を持ってきたの」
「といてみればなんでもないことさ」と、帆村はこともなげにいってのけ、「つまり、この土壌は、大地を掘ったところにあるはずのものだから、しからばいまこの怪塔は、エレベーターのように、地上から大地の中におりているのである。さあどうだ、おもしろい考え方だろう」

     2

 怪塔が、エレベーターのように、地上から大地の中におりたという帆村の考えは、じつに思いきった見方でありました。
「おじさん、本当かい。怪塔がエレベーターのように下るんだって、ははははは」
 と、こんどは一彦君が笑いころげました。
「いや、ちっともおかしくない」と、おじさんは大真面目でいいました。「いいかね一彦君。僕たちがこの出入口の錠をはずして、この部屋へはいったときには、もちろん扉の外は道路になっていた。ところが今は、扉の外には道路がなく、そして土壌があるというのでは、塔が地中にもぐったものとしか考えられないではないかね」
「だって塔が下るなんて、信じられないや」
「一彦君、お聞き、エレベーターだって、五十人も百人ものれる大きなやつがあるんだぜ。この怪塔王という不思議な人物は、戦艦をこの塔へひっぱりつけたほどの怪力機械をもっているのだから、この怪塔を上げ下げすることなんか朝飯前だろう」
「な、なーるほど」
 一彦ははじめて塔が地中に下るわけが、なんだかわかったような気がいたしました。
 もちろん皆さまは、ずっと前からそれがよくおわかりになっていたことでしょう。軍艦淡路の陸戦隊が地上を一生懸命さがしますが、そこには塔のかげもかたちもなかったというのも、この怪塔が地面の下におりてしまったためです。塔の屋上は砂原を帽子にしてかぶったような有様になっています。ですから塔の頂上が地面のところまで下りますと、あたりの砂原と見わけがつかなくなります。そこへ風が吹いてきて、あっちへ、こっちへと砂をふきとばせば、いよいよ塔が埋まっていることがわからなくなります。
 怪塔の秘密の一つは、こうして帆村探偵のあたまのはたらきで解けました。
 怪塔王がそれと知ったら、さあ、なんと思うことでしょうか。

     3

「じゃあ、帆村おじさん、この土を上へ掘っていくと、地上に出られるわけだね」
 と一彦が、塔の出入口のそとに見える土壌をゆびさしました。
「それはそうだが、ちょっと掘るというわけにもいかないね」
 といっているところへ、突然二人の頭の上で、破鐘(われがね)のような声がとどろきました。
「わっはっはっ、もういいかげんに、話をよさんか」
 そういう声はまぎれもなく、高声器から出る怪塔王のあのにくにくしい声でした。
「やっ、また出てきたな、怪塔王、声ばかりでおどかさずに、ここまで下りてきたらどうだ」
 と、帆村探偵がやりかえしました。
「ふふふふ、なにをいっとるか、この青二才奴(あおにさいめ)が。しかし貴様は、塔が地面の中にもぐったことをいいあてたのは感心じゃといっておくぞ。しかし、この塔の威力はたったそれだけのことではないぞ。こいつは貴様も知るまいがな。いや、なにかといううちに、貴様たちを片づけるのが遅くなったわい。どれそろそろとりかかるとしよう」
 気味のわるいことをいって、怪塔王の声はぷつりと切れました。
「おじさん、怪塔王が僕たちせ片づけるってどんなことをするの」
 と、一彦は心配そうに聞きました。
「なあに、たいしたことはないよ。おじさんだって男一匹だ。そうむざむざ殺されてたまるものか」
 といっているところへ、いつ現れたか二人の背後に、怪塔王がすっくと立っていました。
「わっはっはっ、もう二人とも、死ぬ覚悟はついたかな」
「なにを――」
 と、帆村はふりむきざま、たくみにピストルの引金をひき、ぱんぱんと怪塔王をねらいうちしましたが、例の強い防弾力がきいていると見え、一向(いっこう)怪塔王にはあたりません。

     4

「うふふふ、わしの体に、そんなピストルのたまがはいるものかと、さっき教えておいたじゃないか」
 と、怪塔王はにくにくしげに笑いながら、すこしずつ帆村と一彦の方にすり足で近よってきます。
 帆村は、もう駄目だとは思いましたが、それでも一彦だけはなんとか助けたいものと、うしろへかばっています。怪塔王が一歩すすめば、彼もまた一歩うしろにしりぞきます。そうしてじりじりと怪塔王におされていくうち、とうとう二人は壁ぎわへ、ぴったりおしつけられてしまいました。
「さあ、いくぞ!」
 怪塔王はいきなり大声をはりあげると、隠しもっていたフットボールほどの球を、頭上たかくさしあげました。
「これは殺人光線灯だ。貴様たち、今このあかりがつくのを見るじゃろうが、その時は、お前たちの最期だぞ。わかるじゃろう。そのときは殺人光線が貴様たちの全身を、まっくろこげに焼いているときじゃ」
 ああ、あぶないあぶない。殺人光線灯のスイッチを入れると、すぐにそのあかりはつきましょう。そうなれば帆村も一彦もくろこげになって死ぬというのですから、二人の命は、もはや風の前の蝋燭(ろうそく)とおなじことです。
(どうしよう?)
 と、一彦は帆村にしがみつきました。帆村は彫刻のようにかたくなって、怪塔王をにらみつけています。
「ちょっと待て」
 と、帆村は怪塔王に声をかけました。
「なんだ、青二才、命がおしくなったか」
「いや、お前こそ気をつけろ。いま時計を見ると、丁度(ちょうど)この塔へむかって、わが海軍の巨砲が砲撃をはじめる時刻だ。お前こそ命があぶないのだぞ」
「えっ――それは本当か」
「本当だとも。そんな手筈(てはず)がついていなければ、僕たちのような弱い二人で、なぜこんなあぶない塔の中へはいりこむものか」

     5

 怪塔が軍艦淡路から砲撃されると聞かされ、怪塔王はおどろきました。
「ああ砲撃される。そいつは気がつかなかった」
 そういったおどろきの言葉は、ほんとうに怪塔王の腹の底から出たものと見えました。
 帆村と一彦とをそこにのこしたまま、怪塔王はあわてふためき、階上にかけあがってしまいました。
 怪塔王はいま三階の自室にかえって、しきりに妙な機械の中をのぞいています。それは巧妙な地中望遠鏡でありました。地中にいてそれで地上がよく見えるという機械でありました。
 これは潜水艦の潜望鏡みたいなもので、光の入口は怪塔の近くにある欅(けやき)の木の高い梢(こずえ)のうえにありました。それから下は筒になっていて、欅の木の幹の中を通り地中にはいります。すると、そこから横に曲り怪塔の方へのびています、がその曲りかどに反射鏡がありました。
 怪塔が地上にのぼっても、またいまのように地下にもぐっても、怪塔の中からうまく地上の風景がのぞけるようになっています。まったく怪塔王はおそろしい発明家です。まだまだいくらでもおそろしい機械をもっています。
 それをのぞいた怪塔王は、怪塔がどこにいったろうと、陸戦隊が地上をうろうろさがしまわっているのが見えたものですから、もう駄目だと思いました。
「仕方がない。惜しいけれど、逃げることにしようや」
 そういって、怪塔王は、傍(かたわら)にある配電盤の上の大きなスイッチを一つ一つ入れていきました。そして最後に大きなハンドルを廻しますと、地底からおどろおどろと怪しい響が伝わってきました。そしてその響はだんだん大きくなり、やがては耳がきこえなくなるくらいはげしくなりました。


   飛ぶ塔



     1

 とつぜん怪塔の地階におこったものすごい物音!
 一体それは、なんであったでしょうか。
 らっ、たったったっ、
 らっ、たったったっ、
 とにかく、それは怪塔王が起しているものにちがいありません。
 一階にいた帆村探偵も一彦少年もこのものすごい物音には、胆(きも)をつぶしてしまいました。まわりの壁は、まるで金槌(かなづち)で叩いているかのように、がんがん鳴っています。足の下の床もびりびりびりと気味わるく震動いたします。
「おじさん、これはなんの音だろうね」
「さあ、よくわからないけれど、なんだか地べたの中で、さかんに爆発しているようだね」
「地震じゃないかしら」
「うん、地震とはちがうさ。怪塔王は、軍艦から砲撃されると聞いて、逃げだすつもりらしいのだ。してみればこの怪塔をなんとかうごかすつもりなのだろう」
「どんな風に動かすの」
「さあ、それは――」
 といっているところへ、床が壁もろともいきなりぐぐーっともちあがりました。
 と、思ううちに、またどーんと下へおちました。
 二人はとてもそこに立っていられないので、腹ばいになりました。
 どどーん、どどーんと室は四度、五度とあがったりさがったりしているうちに、一段と高い音をたてるとともに、ひゅーっと上の方にとびだしました。
「あっ、とびだした」
「うむ、やったな――」
 帆村と一彦は、いいあわせたように跳ねおきると、かたわらの小さな窓の鉄枠につかまって、一生けんめいに窓のそとをのぞきました。
 さあ、そのとき二人の眼に、どんな光景がうつったことでありましょうか。

     2

 ごうごうと、ものすごい音をたてて震える怪塔の中!
 その窓わくにとりすがって、外をのぞいた帆村探偵と一彦少年!
「ああっ、これは――」
 と、はげしいおどろきの声が、二人の口から一しょにとびだしました。
 窓の外の、まったくおもいがけない光景――ああこんなことがあってよいものでしょうか。そこに見えたものは、あの赤土の壁でもありませんでした。また二人が見なれた白い砂浜と、青い海原にとりかこまれた森の中の風景でもありませんでした。それはなにもない空でした。いや、なにもないわけではありません。白い雲が、あっちこっちにぽっかりうかんでいます。たったそれだけです。大地や海原はどこへいってしまったのでしょうか。
 二人は、大地と海原とをみつけるのに、大骨をおりました。なぜといって、二人が窓わくに顔をぎゅっとおしつけて、むりをしてはるか下をながめたときに、やっとその大地と海面とが、まるで模様かなにかのように足下に小さく見えているのを見つけたのです。おどろいたことに、怪塔はいつのまにか大地をはるかにはなれていました。そして天へむかって、ものすごい速さでびゅうびゅう飛んでいくのでありました。
「一彦君、これはたいへんだ。僕たちはいま空中をとんでいるのだよ」
「えっ、空中をとんでいるの。やはりそうだったの。僕は頭がなんだかぼんやりしてしまった」
 といったのも道理です。二人のとじこめられた怪塔は、いま空中を弾丸のようにとんでいくのでありました。今まで塔だとばかり信じていたのは、普通の塔ではなかったのです。空中を飛行機よりも早く走るといわれるあのロケット機であったことがわかりました。

     3

 いま帆村探偵と一彦とは、怪塔ロケットに閉じこめられたまま、思いがけない空中旅行をしています。
 怪塔ロケットを操縦しているのは、いわずと知れた怪塔王です。
 一たい怪塔王のほんとうの名前はなんというのでありましょうか。まだだれもそれを知りませぬ。
 このロケットというのは、だいたい砲弾に尾翼を生(は)やしたようなかたちをした飛行機の一種です。飛行機とちがうところは、飛行機にはプロペラがあるのに、ロケットにはそれがありません。したがってロケットにはエンジンもありません。ではどうしてこのロケットが空中を走るかと申しますと、それはロケットのお尻の方に穴があいていて、その穴からはげしくガスがふきだすのです。その勢でロケットは前へすすむのであります。
 ガスはロケットの中にたくわえられています。怪塔王のつかっているガスは、QQ(キューキュー)ガスという世界のどこにも知られていない強いガスです。これはうんと冷して、固めて石膏(せっこう)のようにし、缶づめにしてあります。使うときは、その缶づめの栓(せん)をひらくと、その穴からQQガスがガス状になってはげしくしゅうしゅうとふきだすのです。冷して固めてあるわけは、そもそもロケットのようにガスがたくさん入用な乗り物では、ガス状のままでロケット内にたくわえるのでは、場所がせまくていくらもたくわえられません。そこで冷して固めて石膏のようにしておけばたいへん容積が小さくなります。たとえば部屋一杯のガスも、これを冷して固めると、耳かき一ぱいぐらいの粉末になります。ですから、相当の分量を積んでもたいした場所ふさぎにもなりません。
 怪塔ロケットには、いつのまにか屋根のようなものが出て、形を流線型にしています。また尾翼もいつの間にか胴中からひきだされました。古びた怪塔は、まったくここに最新のロケットに形をあらためてしまったのです。
 なんという物凄(ものすご)い怪塔でしょう。

     4

 行方不明の怪塔が、いきなりロケット機に早がわりをして天空にとびだしたのですから、これには誰しもおどろきました。
 なかでも一番おどろかされたのは、ちょうどあの時、現場ちかくの砂地を一生懸命にしらべていた軍艦淡路の陸戦隊員でありました。
 それまでは、平(たいら)な砂浜としか見えなかった大地から、ごうごうばしゃんと大音をたて、いきなり怪塔に翼を生やしたロケットがとびだしたのですから、これは、いかに戦闘にめざましい手柄をたてる皇軍勇士であっても、驚かないではいられません。
 隊長の塩田大尉さえ、
「おおっ、ありゃ何だ!」
 と叫んだきり、しばらくは天空によじのぼってゆく怪塔ロケットをただ惘然(ぼうぜん)とながめつくしたことでした。
「立ちうち! 構え!」
 大尉はやっとわれにかえって号令を下しました。だが、今さらうしろから撃ってみても、どうにもならぬことを知ると、大尉はついに撃方(うちかた)はじめを命じませんでした。
 それに代って、信号兵がえらばれ、本艦との間にさかんに手旗信号が交されました。本艦でも、まったく不意うちのありさまで、甲板にいた水兵さんたちも、あれよあれよと、ロケットの出すガスの尾を見まもるばかりでしたが、この時勇ましい爆音が艦上に聞えると思う間もなく、二台の艦載機が、カタパルトの力でさっと空中にとびだしました。これは怪塔ロケットを追跡していくためでありました。乗手は有名な金岡大尉と三隈(みくま)一等航空兵曹とでありました。
 しかしこの名手たちも、やがてがっかりして艦の方にまいもどってきました。空中からの報告が発せられました。
「司令。追跡してみましたが、とても向こうの速度がはやいので、どうすることもできません。怪ロケット機の姿を、ついに真北の方角に見失いました」

     5

 それっきり、怪塔ロケットの行方はしれなくなってしまいました。
 帆村探偵や一彦少年はぶじでいるでしょうか。また怪塔王は、次にどんなことをやろうと考えているのでしょうか。
 軍艦淡路の検察隊長塩田大尉は、こうなったことについて残念でたまりません。
 そこへ一彦の妹のミチ子が、兄のことを心配してたずねて来たものですから、塩田大尉の胸のなかは、にえくりかえるような有様でした。
「ミチ子さん、まあ、おかけなさい。ほんとうにお気の毒なことになりましたね」
 ミチ子の捷毛(まつげ)は心配のあまり涙でぬれていました。
「大尉さま、兄さんはもうかえってこられないのでしょうか。帆村おじさんも一しょに行ってしまって、あたしの身よりは、もう一人もなくなりましたわ。あたしが男だったら、怪塔王のあとを追って、兄さんたちを救いだしにいくのですけれど――」
 塩田大尉も目をしばたたき、ミチ子の頭をやさしくなでながら、
「ミチ子さんは、そう心配しないがいいですよ。私たちがきっと探しだします。本艦をこんなひどい目にあわせたのもどうやら、ミチ子さんのいう怪塔王の仕業(しわざ)のようですから、これはどうしても私たちの手で怪塔王征伐をしなければならないと思います。しかしながら、あの怪塔王は、私たち専門家が考えても不思議でならないほどの恐しい武器をもっているのです。ですから、これを征伐するにしても、なかなか研究をしてかからねばなりません。そこで私たちは、艦長などとも相談の結果、日本一の大科学者といわれる大利根博士(おおとねはくし)に来ていただくことにして博士のお智恵を借りることにきめたのです。博士に来ていただけば、必ず怪塔王征伐のいい方法がみつかるにちがいありません」

     6

 大利根博士は、日本一の科学者でありましたが、また日本一の変り者でもありました。博士はいつも地下室の研究所にたてこもっていて、なかなか外へ出て来ません。誰かがたずねていっても、よほど機嫌(きげん)のよい時でないと、顔を見せません。ですから、強い近眼鏡をかけ、ひげぼうぼうの痩(や)せた小さい顔をもった大利根博士を見た人は、よほど運がよかったことにされていました。大抵の場合は、博士邸の玄関にそなえつけてある電話機でもって、奥の間にある博士と電話で用事を話しあって、用を果すのが普通でありました。その電話さえ、時によると、博士が電話口にあらわれて来ませんために、二日でも三日でも玄関にがんばって、いくども電話をかけてみるよりしかありませんでした。
 その大利根博士が、軍艦淡路をおとずれたのは、約束より三日もあとのことでありました。
「やあ、ひどいことになったものですね」
 博士は腰をたたきながら、にこにこ顔で舷梯(げんてい)をのぼって来ました。
 艦長相馬(そうま)大佐をはじめ、幕僚たちや検察隊長の塩田大尉なども、大利根博士を出迎えていました。
「これは相当の威力をもっている秘密兵器でやられたのですね。たいへん面白い。すぐにしらべてみましょう」
 と、甲板のうえから、艦橋が飴細工(あめざいく)のように曲っているのを見上げて、しきりに首をふって感心していました。
「大利根博士、お茶をめしあがれ」
 ミチ子が水兵さんに代って、紅茶をすすめました。
「やあ――」と博士は目をまるくして、「おや、このごろは軍艦では、女の給仕をつかうようになったんですか。あっはっはっ」
 ミチ子は、顔をあかくしました。

     7

 大利根博士は、竿竹(さおだけ)のようにほそい体をいろいろに曲げては、飴細工のように曲ったり溶けたりしている軍艦淡路の艦体をいちいちていねいに見てまわりました。
 博士は感心するたびに、つよい近眼鏡のおくに眼玉をひからせたり、ぼうぼうひげをぴくりと動かしたりしました。
「塩田さん、だいたいよく見まわりました。一番おもしろいのは、この通風筒ですよ」
 といって、博士はそばにたっている通風筒を振返りました。この通風筒というのは、煙管(キセル)の雁首(がんくび)の化物みたいな、風をとおす大きな筒です。それは鉄板でできていましたが、それがまるで大風にふきとばされたようにひん曲り、しかもその上にいくつもぶつぶつと大小の穴があいているのでありました。
「塩田さん、この通風筒をすこしばかり貰(もら)ってゆきますよ。もってかえって、よく研究してみなければならぬ」
 そういうと、大利根博士は、白墨をポケットから出して、通風筒の穴のまわりに、丸印だとか三角印だとかをかきました。それから写真機を出して、その部分をいちいちていねいにうつしました。
 それがすむと、博士はどこに隠しもっていたのかへんなかたちの鋏(はさみ)をとりだし、鉄でできた通風筒をまるでボール紙をきるかのように、ざくざくざくと切りとりました。
「まあ、よく切れる鋏だこと」
 と、ミチ子は、そばからみていて、感心していいました。
 すると大利根博士は急にふりかえって、怒ったような顔をしました。
「どうも女の子は、お喋りでいけない」
 ミチ子は博士のじゃまをしたので怒られたのだなとおもい、べそをかきました。
 すると、そのときミチ子のうしろから、大きな手がちかづいて、その頭をやさしくなでました。
 ふりかえってみますと、それは塩田大尉の手でありました。


   怪塔はどこ?



     1

 ミチ子は、軍艦淡路の上で、しきりに妙なことをやって研究をしている大利根博士を、たいへんこわい人だとおもいました。
 しかし博士は、ミチ子がなにをおもおうと平気の平左(へいざ)で、なにかさかんに口のなかでぶつぶついいながら、艦内をあるきまわっていました。
 検察隊長の塩田大尉は、博士の前にすすみよって、
「大利根博士、あなたはあの怪塔ロケットが、このようなひどいことをやったのち、どこへ行ってしまったとお考えですか」
 博士は、ぎょろりと、近眼鏡のなかから眼をひからせ、
「うん、そのことなら、大体見当はついていますわい。やはり、どこか人気のないところでしょうな。海岸とか、山の中とか、そういうところですね」
「博士は、それをはっきり探しあてるにはどうすればよいとお考えですか」
「それはやはり、怪塔の科学者が、このように軍艦の鉄板などをどんな力でとかしたか、それを調べるのが先ですな。それがわかれば、その怪力に感ずる、例えば受信機のようなものを作って飛行機にのせ、空中をとびながら、怪力の強くなる方角へとたどっていけば、きっと怪塔のあるところへ行きます」
「なるほど、それはいい方法ですね。するとこの怪力を博士に調べていただかねばなりませんが、何日ぐらいかかりますか」
「さあ、そいつはよくわからんが[#「わからんが」は底本では「わかんが」]――」といって、大利根博士は額にしばらく手をあてていましたが、
「まあ、この通風筒の鉄板などをもってかえって、できるだけ早く調を終えることにしましょう。じゃあもう帰りますよ」
「博士、もうおかえりですか」
「こんな落ちつかぬところじゃ、いい考えも出ませんよ。はい、さようなら」
 そういって、大利根博士は後をふりむきもせず、すたこら帰っていきました。

     2

 それといれちがいに、小浜兵曹長が甲板へ飛出してきました。
「塩田大尉、一大事ですぞ」
「なんだ、小浜、お前にも似あわず、あわてているじゃないか」
「あっはっはっ、あわてているかもしれませんね。とにかく怪塔ロケットの行方がわかりかけたのです」
「なに、怪塔ロケットの行方が――」
 と、塩田大尉がびくりと太い眉(まゆ)をうごかし、
「ほう、それはうまい。しかし大利根博士は、怪塔から発射する例の怪力の正体がわからないうちは、とても怪塔の行方はわかるまいと言っていられたぞ」
「博士はそんなことを言われましたか。しかし、いま無線班は、怪塔から出していると思われる無線電信をつかまえたのです。それは非常に弱い無線電信で、しかもはじめは、たった二十秒間ほどしかきこえませんでしたが、たしかに軍艦淡路を呼んでいるのです」
「ほうほう」
 と、塩田大尉は前にのりだしてきた。
「なにか信号の意味でもわかればいいと思って苦心しましたが、たしかに電文をうっているのですが、符号がきれぎれになって、よく意味がききとれません。しかし淡路の呼出符号だけは、幾度もくりかえされるので、ははあ、こっちを呼んでいるなと、わかるのです」
「うむ、それから――」
 と、塩田大尉はあとを催促いたしました。
「そこで、向こうが何をいっているのかを、聞きわけることはあきらめまして、その代りその無線電信が、どの方角からやってくるかをしらべることにしてすぐとりかかりました」
「大いによろしい。そして無線電信のやってくる方角はわかったか」
「はい、始の電信はすぐ消えてしまいましたが、それから五分間ほどたちますと、またおなじ電信がはいってきたので、そいつを捕獲することに成功しました」

     3

 小浜兵曹長は、塩田大尉の前で、なおも熱心に、どうして怪電波のとんできた方角をはかったかということについて、報告をつづけています。
「塩田大尉、その方角は方向探知器の目盛(めもり)の上にあらわれました」
「どっちだ、その方角は」
 と、大尉は地図をとってひろげました。
「はあ、ここが九十九里浜で、この上を、真北から五度ばかり東にかたむいた方向に直線をひいてみます」
 といって、兵曹長は地図の上に赤鉛筆ですうっと線をかいた。
「この方角です」
 その方角というのは千葉県の香取神宮(かとりじんぐう)のそばをとおり、茨城県にはいって霞浦(かすみがうら)と北浦との中間をぬけ、水戸の東にあたる大洗(おおあらい)海岸をつきぬけて、さらに日立鉱山から勿来関(なこそのせき)の方へつらなっていた。
「ふうむ、北の方角だな。ついでにどの地点かわかるといいのだが――」
「はあ、それもやってみました」
「やった?」
「はい、ちょうど駆逐艦太刀風(たちかぜ)が、鹿島灘(かしまなだ)の東方約二百キロメートルのところを航海中でありましたので、それに例の怪電波の方角を測ってもらいました。あいにく洋上は雨風はげしく、相当波だっていますそうで、太刀風の無線班も大分苦心をして時間がかかりましたが、それでもついにわかりました。太刀風からはかった怪電波の方角は、大体真西から北へ十度ということになりました」
「そうか、真西から北へ十度かたむいているというと――日立鉱山のあたりか、勿来関のあいだとなるね」
「はい、線をひいてみますと、こうなりますから――」
 と、兵曹長は、太平洋上から青い鉛筆で線をつけだして、それをずっと西へひっぱっていった。そうするとさっきひいた赤線と、いまひいた青線とが交ったその地点こそ、勿来関!

     4

 方向探知器というものは、たいへん重宝(ちょうほう)な機械でありました。怪塔のかくれている地点から発射するよわい電波を、九十九里浜にいる軍艦淡路と、太平洋を航行中の駆逐艦太刀風との両方から方向を測って、その地点は勿来関だとちゃんといいあてることができるのですから、じつにすぐれた機械だといわなければなりません。わが日本には、世界にじまんをしていいほどのりっぱな方向探知器があるのは、気づよいことです。
 塩田大尉の顔は、さすがによろこびの色にあふれて、小浜兵曹長の手をかたくにぎり、
「方向探知器の方が、大利根博士よりもえらい手柄をたててしまったぞ」
「はあ、そうでありますか」
「なぜといって、大利根博士は怪塔ロケットがどこへ行ったかしらべるのは、なかなかだといっておられた」
「はあ、では大利根博士に、怪塔の行方がわかったと知らせますか」
「そうだね」
 といって、大尉はしばらく考えていましたが、
「まあ知らせないでおこう。すこし思うところもあるから」
 と、意味ありげなことをいいました。
 それはそれとして、あのよわよわしい怪電波は、果して怪塔から出ているのでありましょうか。それならば、誰があの信号を出しているのでしょうか。
 怪塔にとじこめられていた帆村探偵と一彦少年とは、いまどうしているのでしょうか。
 それはともかく、塩田大尉は、小浜兵曹長のもってきた怪電波のでている地点のしらべを、一切、艦隊旗艦にしらせました。
 司令長官はこのことを聞かれると、すぐさま勿来関へむけて、偵察機隊をむけるよう命令をだしました。
 塩田大尉や小浜兵曹長も、その人数のなかに加ることになり、九十九里浜にさよならをすることになりましたので、ミチ子を軍艦にまねいてお別れの言葉をのべ、一彦や帆村をたすけだすことをちかいました。


   偵察機出発



     1

 怪塔王がかくれているところは、勿来関の近所らしいという見当をつけ、わが塩田大尉や小浜兵曹長は、ミチ子にさよならをして、偵察機の上にのりこみました。
 偵察機隊は、すぐ空中にとびあがりました。翼をそろえてまっすぐに、北へ北へとんでいきます。九十九里浜は、まもなく目にはいらぬほど小さくなってしまいました。
「塩田大尉、平磯(ひらいそ)基地からも、爆撃機六機が勿来関へむけて出かけたと報告がありました」
 と、機上の無電機をあやつっていた小浜兵曹長が伝声管のなかから大尉に知らせて来ました。
「うむ、そうか」
 いよいよ怪塔王を征伐することになったのです。しかし怪塔王はそんなにやすやすと退治されるでしょうか。
 しばらくして塩田大尉は、
「おい、小浜兵曹長、そののち怪塔からの無電は、なにかはっきりしたことをいって来ないか」
 すると伝声管のなかから小浜のこえで、
「軍艦淡路を出てからこっち、あの怪電波はすこしもはいりません。ただいまも、一生懸命にさがしているところであります」
 と言って来ました。
「そうか、無電を打ってこないとは心配だ。空中へのぼれば、無電は一層大きくきこえるわけだから、むこうで無電を出せば、きこえない筈はないのだ」
 と、そう言っているうちに、とつぜん小浜兵曹長が、おどろいたようなこえをあげ、
「あっ塩田大尉、はいりました、はいりました。たしかに例の怪電波です。たいへん大きくきこえます。こんどは符号もよみとれそうです」
「それはすてきだ。しっかり無電をうけろ」
 さて怪塔からの無電は、どんな意味のことを放送しているのでしょうか。塩田大尉は胸をおどらせて、小浜兵曹長の報告を待っていました。

     2

 機上に、ふたたびきこえはじめた怪電波をじっときき入るのは、小浜兵曹長でありました。
 ト、ト、ト、ツート。
 ト、ト、ト、ツート。
「ふむ、分るぞ分るぞ」
 と、兵曹長は片手で受話器を耳の方におさえつけ、一字ものがすまいと、まちかまえていました。
 すると、いよいよ怪電波は、通信文をつづりはじめました。
 さあ、なにをいってくるのか?
「――カイトウオウトワボクセヨ、ホムラ」
 電文は、「怪塔王と和睦せよ、帆村」というのであります。小浜はまったく意外な電文だとはおもいましたが、すぐそのまま塩田大尉のもとに報告いたしました。
 おどろいたのは塩田大尉です。
「なんだ、怪塔王と和睦せよ――というのか。帆村荘六は気が変になったか。それともこれは怪塔王のにせ電文かもしれない」
 帝国海軍の最大主力艦であるところの、軍艦淡路をめちゃくちゃに壊した乱暴者の怪塔王を、どうしてゆるせましょう。その怪塔王と仲なおりをしなさいという帆村探偵の電文は、どう考えても腑(ふ)におちません。
 帆村探偵はとうとう怪塔王のために捕虜となり、そしてむりじいにこんな電文をうたせられたのではないでしょうか。
「おい小浜兵曹長。いまの無電は、この前軍艦淡路できいたのと、同じ無電機でうってきたのだろうか」
「はい、同じものだとおもいます。音は大きくなりましたが、向こうの機械は、よほどあやしい機械とみえまして、音がふらふらよっぱらいのようにふらついてきこえます」
「ふん、まるで上陸した夜の、貴様の足どりみたいだな」
 と、塩田大尉はおどろきの中にも、勇士のおちつきをみせて、からかえば、
「いや、どうも」
 と、兵曹長は頭をかきました。

     3

 機上の塩田大尉は腕ぐみして、「怪塔王と和睦をしろ」という無電を、一体誰が出したかと思案中です。
「すると、やっぱりこれは帆村探偵が出している無電にちがいない。怪塔王が、怪塔にそなえつけの無電機をつかって、電文を打って来るのなら、こんな貧弱なそしてふらふらした、無電ではない」
 帆村が怪塔王に降参した、としか思えないのでありました。
 そのとき、平磯基地をとびだした爆撃機隊から、連絡無電がはいってきました。
「本隊は、高度三千メートルをとりて、鹿島灘上に待機中なり、貴官の命令あり次第、ただちに爆撃行動にうつる用意あり、隊長松風(まつかぜ)大尉」
 爆撃機隊は、海上三千メートルのところをぶらぶらとんでいて、塩田大尉が命令を出しさえすれば、すぐにどこでも爆撃するという電文です。いよいよおそろしい空からの爆撃戦が用意せられました。
 それでは、どこを爆撃するか。怪塔のあるところを早くみつけねばなりません。塩田大尉は水戸の上空にかかったとき、全隊にそれぞれ偵察コースを知らせ、これからばらばらにちらばって、地上にかくれている怪塔をさがすことになりました。さあ、手柄をあらわすのは、どの偵察機でありましょうか。
 午後四時十分!
 待ちに待った「怪塔が見えた!」の電文が一機から発せられました。それっというので、塩田大尉ののっている機も、その方へ急いで向かっていきました。小浜兵曹長は、「怪塔が見えた!」のしらせをうけると、自分が見つけそこなったのをたいへん残念に思いました。この上はというので、望遠鏡を地上に向けて、怪塔のすがたを早く見ようと一生懸命です。
 それは勿来関よりすこし西にいき、山口炭坑と茨城炭坑の間ぐらいの山中に、なんだか五十銭銀貨を一枚落したような、まるいものが見えました。

     4

「あっ、あれだ」
「そうだ、怪塔が見える」
 偵察機上の塩田大尉も小浜兵曹長も、思わず席からからだをのりだしました。
「爆撃機隊へ連絡!」
 大尉が叫んだので、通信員はすぐさま無電装置のスイッチを入れ爆撃機隊の司令をよびだしました。
「はい、爆撃機司令です」
 塩田大尉は、マイクを手にとって、眼下に見える怪塔のありさまを知らせました。そしてすぐさま爆撃をするように頼んだのでありました。
「承知しました。すぐ全機で急行いたします」
「頼みましたよ」
 それからものの十分とたたないうちに、東の空から爆撃機隊の翼がみえてまいりました。両隊の無電は、しきりに連絡をはじめました。そのうちに打合わせは、すっかりすみました。
 爆撃機体は二隊にわかれ、いずれも四千メートルの高度をとり、怪塔の上にしずかにすすんでいきます。
 塩田大尉も、小浜兵曹長も、偵察機の上からかたずをのんで、その行動を見守っています。
 そのうちに先にとんでいる爆撃機隊の編隊長機がまず機首をぐっと下げました。あとの僚機(りょうき)もそれにならって、順番に機首を下にしました。急降下爆撃です。
 機体の胴中から、まっくろいものが五つ六つ、ぱっと放りだされました。爆弾です。
 爆弾は仲よく一しょにかたまって、ぐんぐん下におちていきます。
 第二番機の爆弾群が、またあとをおいかけて、ぐんぐん地上の怪塔に追っていきます。
 さあどうなるのでしょう。あと数秒で、いよいよ土をふきとばし、黒煙が天にまきあがる大爆発がおこる――と思っていましたが、ところが実際は、そうなりませんでした。まことに不思議、いつまでも爆発がおこりません。

     5

 怪塔の中には、「怪塔王と和睦せよ」という無電をうった帆村荘六もいるはずですし、一彦少年も一しょのはずです。それにもかかわらず爆弾を怪塔の上に落すのは、まことに気のすすまないことでしたが、帝国海軍に仇(あだ)をなす怪塔は、たとえ一日でも、一時間でもそのままにしておけませんから、それゆえ塩田大尉は、涙をふるって爆撃隊に爆弾を落すよう命じたのでありました。
 その爆弾が、下にぐんぐんおちていったきりで、そのまま音沙汰(おとさた)なしになってしまったものですから、爆撃員はすっかり面くらってしまいました。
「爆弾を投下したが、爆発しない!」
 と、妙な電文が、塩田大尉のところにとどきました。
「爆弾を投下したが、爆発しない――というのか。そんなばかなことがあってたまるか。なあ小浜兵曹長」
「はあ、わからんでありますな。爆弾が昼寝をしているわけでもありますまい」
 爆撃機六機の落した爆弾は、ことごとく不発におわりました。一体どうしたというのでしょう。
 塩田大尉は、偵察機を急降下させて、地上の様子をさぐろうと決心いたしました。
「急降下、高度百メートル附近! 南北の方向に怪塔を偵察」
 そういう命令を出しますと、偵察機はただちに、獲物をめがけてとびおりる鷹(たか)のように地上めがけてまいおりていきました。
 塩田大尉は、双眼鏡をとってしきりに、怪塔のあたりを見ています。
 そのとき大尉は、小首をかしげ、
「ああっ、あれはなんだろう。おい、小浜あそこを見ろ」
「どこです。塔の上ですか」
 二人の双眼鏡の底には、一体どんな不思議な光景がうつったでありましょうか。

     6

 低空におりた偵察機上にあって、塩田大尉と小浜兵曹長の見たものは、怪塔がへんな傘(かさ)をきていることでありました。
 へんな傘とは、どんな形のものであったでしょうか。それは塔の頂上から五六メートル上に、不発の爆弾がたくさん同じ平面上にならんでいるのがちょうど傘をかぶったように見えるのです。
「これは不思議だ。上からおとした爆弾が、下におちないで、あのように宙ぶらりんになっている。一体どういうわけかしらん」
「塩田大尉、まるで魔術みたいですな。こいつはおどろいた」
 と、小浜兵曹長もすっかり面くらっております。
 塩田大尉は腕をこまねいて考えこんでいましたがやがてうむと大きくうなずき、
「小浜、怪塔を機銃でうってみよう。偵察機全機でうちまくってみるんだ。命令を出せ」
 大尉は機銃射撃を決心いたしました。
 命令はすぐ発せられました。
 塩田大尉ののっている司令機のうしろについていた五機の操縦士は、前門の機銃の引金をいつでも引けるように用意をして、あとの命令をまちました。
 そのうちに、
「怪塔を射撃用意! 目標は三階の窓、塔のまわりをとびながら、射撃せよ。撃ちかたはじめ!」
 命令が下るがはやいか、だんだんだんだんだん、どんどんどんどんと、さかんな射撃をあびせかけること一分あまり。
「撃ちかた、やめ!」
 で、射撃はぴたりと、とまりました。
 どうも不思議です。怪塔の窓にはたしかに板ガラスが入っているのでしょうに、すこしもこわれません。怪塔の外壁に弾丸(たま)があたれば、煙みたいなものが出るはずだが、それも見えませんでした。
 さすがの塩田大尉もいらいらしながら、塔の方をじろじろながめています。すると、――

     7

 塩田大尉の命令で、六機の偵察機は怪塔のまわりをぐるぐるまわりながら、はげしく機関銃をうちはじめました。
 もちろん、怪塔をねらって機関銃をうっているのですけれども、どうしたことか、弾丸はすこしも怪塔にあたりません。
「これは変だぞ」
 と、怪塔王のあやしい力をしらないうち手は、小首をかしげました。
 弾丸はどこへいったのでしょうか。
 このとき誰か塔のちかくによって、よく見たといたしますと、弾丸は、塔の壁から一二メートル外側のなんにもない宙に、ごまをふったように、じつと停っているのが見えたことでしょう。
 塩田大尉は、機上から双眼鏡の焦点をしきりにあわせていましたが、このように、弾丸の壁ができているのをみてとると、にっこりとわらいました。
「よし、これでよし」
「塩田大尉、なにがよいというのですか」
 と、小浜兵曹長がたずねました。
「うむ、つまり怪塔のまわりを爆弾と弾丸とですっかり囲んでしまったのだ。ねえ、そうだろう。上からおとした爆弾は、塔の屋上から何メートルか上に傘をさしたようにならんでいて、それから下におちてはこないし、また今うった弾丸は、怪塔のまわりに弾丸の壁をつくってしまった。だから怪塔は爆弾と弾丸とに囲まれてしまったのだ。こうなれば、怪塔の上から檻(おり)をかぶせたようなものさ。怪塔がとびだそうと思っても、爆弾や弾丸が邪魔になって、とびだせない。どうだ、うまくいったろう」
 塩田大尉は、たいへんうれしそうに見えました。
 しかし皆さん、塩田大尉の考えはまちがっていないでしょうか。怪塔は、はたして檻の中の鷲(わし)のようになったでしょうか。なにしろ相手は鉄片をそばによせつけないという、不思議な力のある怪塔ですぞ。


   怪塔王のさがしもの



     1

 怪塔王は、塔の三階の室内を、あっちへはしりこっちへかけだし、そして机のひきだしをあけたり、蒲団(ふとん)をまくったりして、しきりになにかを探していました。
「ないぞ、ないぞ。どこへいったのだろうか」
 怪塔王が顔をあげたところをみますと、きょうはどうしたわけか、頭の上からすっぽりとくろい風呂敷(ふろしき)のようなものをかぶっています。つまり顔を、くろい風呂敷で包んでいるのです。怪しい怪塔王は、いよいよもって怪しいことになりました。
「ないぞ、ないぞ。一体どこへいった」
 と、怪塔王は、きょろきょろあたりをふりかえってみました。
「やっぱりない。変だなあ」
 怪塔のまわりは爆弾と銃丸とですっかり囲まれてしまっているのに、彼は一向(いっこう)そんなことには心配しないで、なにかしら「ないぞ、ないぞ」といってくろい風呂敷を頭からかぶってさわいでいるのでありました。なにかたいへんなことが起ったらしいのです。
 そのとき、電話の呼びだしのベルが、けたたましくなりだしました。しかし怪塔王は、そんなことに、見向きもしません。
 また、室内の配電盤の上には、赤い「注意」灯がしきりについたりきえたりして、怪塔王に或(ある)ことを「注意」しているのですが、これにも怪塔王はみむきもしません。一体怪塔王は、なにをそんなにあわてているのでしょうか。
 その一階下は、つまり怪塔の二階で、ここは械械室でありました。いろいろなわけのわからない、こみいった機械がならんでいましたが、その中に、郵便箱ほどの大きさの円筒が三個、はなればなれにたっていました。これはなんであるか今までよくわかりませんでしたが、ちょうどこのさわぎのとき、円筒のふたがぱくんとあいて、そこから三人の黒人がぴょこりと顔を出しました。

     2

 今まで怪塔の中には、怪塔王一人が住んでいるばかりだとおもっていましたが、怪塔の二階にある郵便箱ほどの円筒が三つ、いずれもその蓋(ふた)があいて、なかからおもいもかけない黒人の顔がとびだしてきました.帆村探偵や一彦がこれを見たらどんなにおどろくことでしょうか。
 円筒の中にはいっている黒人は、一体なに者でありましょうか。そしてその中で、なにをしていたのでありましょうか。
「おいジャン。先生はなにをしているのかなあ」
「うん、ケンよ。ベルがじゃんじゃん鳴って、危険をしらせているのにね」
 と二人の黒人が、心配そうにいえば、もう一人のポンという黒人が、
「塔がこわれてしまってはしようがない。じゃあ、うごかしてみるか」
 といいました。
 するとジャンとケンはびっくりして、大きな眼玉をくるくるとうごかし、
「だめだよ、だめだよ。先生がちゃんとさしずをしなければ、塔はうまくうごいてくれないよ」
「そうだ、ジャンのいうとおりだ。それよりも先生がなにをしているのか、それを早くしる方法はあるまいか」
「それはない。おれたちは、この円筒のなかにはいったきりで、外へ出ようにも鎖(くさり)でつながれているから、出られやしないじゃないか」
 こういう話を、さっきから階下へ通ずる階段の途中で、じっと聞いていた一人の人物がありました。
 彼は、もういいころと思ったのか、そっと階段をのぼりきって、黒人の前へいきなり顔を出しました。
 おどろいたのは黒人です。
「わっ、先生だ!」
 三階にいるはずの怪塔王が、なぜ階下からあがってきたのでしょう。

     3

 ジャン・ケン・ポンの三人の黒人は、大あわてです。さっそく円筒のなかに首をひっこめ、蓋をがたがたしめようとしますが、あわてているので、なかなかうまくしまりません。
「おい、こら。ちょっと待て」
 と、階下から来た怪塔王は言いました。
「へーい」
 三人の黒人は、蓋を頭の上にのせたまま、また首を出しました。
 そのとき黒人は、心のなかで、「おや!」と思いました。それは怪塔王が、へんな服を着ているからでありました。それはいやに長くすそをひいた、だぶだぶの外套(がいとう)みたいな服でありました。それは黒人たちが、はじめて見る服装でありました。
(先生は、へんな服を着ているぞ)
 と、三人が三人ともそう思いました。
「こら、お前たち。あの警報ベルがなっているのが聞えるだろうな」
「は、はーい」
「あれはお前たちも知っているとおり、この塔の一部がこわれたのを知らせているのだ」
「はい、はい」
「このままでは危険だから、塔をはやくうごかさにゃあぶない」
「はあ、そのとおりです。私どももさっきからそれを申していましたので……」
「じゃあ、すぐうごかせ。よく気をつけてうごかすんだぞ」
「先生、どっちへ塔をうごかしますか」
「うん、それは――」
 と怪塔王はちょっと考えて、
「そうだ、横須賀(よこすか)の軍港へ下りるように、この塔をとばしてくれ」
「へえ、横須賀軍港! それはあぶない」
 黒人は、横須賀軍港と聞いて、顔色をかえました。

     4

「横須賀の軍港とは、ワタクシおどろきます」
 と、円筒のなかの黒人は、大きなためいきとともに、怪塔王にあわれみを乞(こ)うように言いました。
 もう一人の黒人もふるえごえを出して、
「横須賀の軍港へこの塔をもっていくと、ワタクシたちまるでわざわざ虜(とりこ)になりにいくようなものです」
 のこりの黒人は、ただひとり元気よく、
「いや、そんなことはない。横須賀軍港であろうが何であろうが、わが塔のほこりとする磁力砲でたたかえば、軍港なんかめちゃめちゃだ。ワタクシ、心配しない。オマエたちも心配することはない」
 と胸をはって、さけびました。
「いや、なかなか心配ある。軍港には、大砲ばかりでない。日本水兵なかなかつよいよ。それが塔の中へはいってくる。磁力砲では人間をふせぎきれない」
「そのときは、殺人光線でもって水兵をやっつける」
「だめだめ。殺人光線は、かずが一つしかない。大ぜいの水兵がせめてくると、殺すのがなかなか間にあわぬ」
「いや、だめでない」
「いやいやだめだめ」
 黒人がさかんに言争っているのを、そばでは、アラビヤの王様が着ているような長いマントを着た怪塔王が、むずかしい顔をして聞いていましたが、
「お前たちは黙んなさい。わしの命令だ。さあはやく、横須賀へ飛ばせるんだ」
 と、手をふれば黒人は、怪塔王のけんまくにびっくりして、円筒のなかにくびをひっこめました。
 この黒人たちは、この怪塔の運転手でありました。怪塔王が特別に教えこんであるなかなか重宝な運転手です。いよいよ怪塔はまた飛びだすことになりましたが、そのとき天井にとりつけてある高声器が、とつぜんがあがあ鳴り出しました。

     5

 とつぜん頭の上で、があがあ鳴りだした高声器!
 三人の黒人は、またびっくり。
 しかし、もっとびっくりしたのは怪塔王でありました。彼はすばやく腰をかがめて、床のうえにおちていた木片をつかむがはやいか、天井の高声器めがけて、ぱっとなげつけました。
 その木片は、高声器にあたらないで、そのまま下におちました。
 このとき高声器の中から、しゃがれた声がとびだしました。
「こうら、ジャンにケンにポンよ。塔を横須賀の方へ飛ばしてはならんぞ。わしの命令だ。そむいた奴は、あとで魂(たましい)を火あぶりにするぞ」
 そう言う声は、怪塔王とそっくりでありました。
「おやおや、先生はそこに立っているのに、三階からも先生の声がするぞ」
 黒人は、びっくり仰天(ぎょうてん)です。
「こうら、はやく横須賀へやれ。わしのこの顔が見えないとでもいうのか」
 と、室内の怪塔王はどなります。
「へえへ、それでは横須賀へ――」
 と黒人は頭をさげながら、心の中に、
(はて、この先生の顔はどう見ても先生にちがいないが、言葉つきがすこしちがっているような気がするぞ。しかし先生と顔がおなじ人が二人あるとは思われない。なんだかこれはわからなくなったぞ)
 そう思っているところへ、頭の上から、
「こうら、ジャンにケンにポンよ。わしの声がわからないか。お前たちの前にいるのは、にせ者のわしだぞ。言うことを聞いてはいけない」
「えっ、それでは――」
 と、三人の黒人は目をくるくるさせて天井を見あげたり、室内の怪塔王の顔をながめたり。
「わしがここにいて、命令をしているのに、お前たちはなにをさわいでいるのか」
 と、室内の怪塔王は不機嫌です。

     6

 顔の怪塔王と声の怪塔王!
 塔の中に怪塔王が二人出来てしまいました。黒人はおおよわりです。なぜって、顔の怪塔王が横須賀へ飛べというのに、声の怪塔王は横須賀へ飛んではならないと命令するのです。一体どっちにしたがったものでしょうか。
 もし帆村探偵がそこに居合(いあ)わせたなら、どっちが本当の怪塔王かを言いあてたことでしょう。その帆村探偵はこの塔の中にいるはずですが、まだ姿をみせません。一彦少年も、どこになにをしていることやら。
「なにをぐずぐずしている。塔をはやく横須賀へ――」
「いや、横須賀へ飛ばせることはならんぞ」
 顔と声との両怪塔王のけんかです。
 このとき怪塔の外では、塩田大尉指揮の編隊機がいく度(たび)となく翼をひるがえして、猛襲してまいります。そして機銃は怪塔の窓をめがけて、どどどど、たんたんたんとはげしく銃火をあびせていきます。このものすごい勢(いきおい)は、黒人たちをおそれおののかせるに十分でした。
 三人の黒人は、ふるえながら、お互(たがい)に目くばせしていましたが、やがてなにかうちあわせができたものと見え、一せいに円筒の中に姿をかくし、蓋をとじてしまいました。
 すると、まもなくごうごうと機関がまわりはじめました。塔はがたがたとゆれます。配電盤のうえのたくさんのメーターは、一時に針をうごかしました。
 がんがんがん、ごうごうごう。
「横須賀へ飛ぶんだぞ」
「だめだ。太平洋の方へ飛べ」
 両怪塔王は、互にどなりあっていますが、その声はむなしく塔内にひびくだけです。怪塔は、どんとはげしいゆれかたをしたと思うと、矢よりもはやく、しゅうしゅうと白いガスをはきながら、空にむけて飛びだしました。あっあぶない。爆弾の傘が行手をさまたげているのに――


   大爆発



     1

 怪塔は、ついに勿来関の投錨地(とうびょうち)からぬけだし、大空むけてとびだしました。ここにふたたび怪塔ロケットとなって、飛行をすることになりましたが、怪塔の上には、わが爆撃隊が落していった爆弾が、傘のようなかっこうをして、塔の行手をじゃましていました。そこへ、塔がさっととびこんでいったものですから、さあたいへん。
 どどん、がらがらがら、がんがん。
 はげしい爆発です。あたりは、まっくろなけむりでおおわれ、まるで夕立雲がひとかたまりになって下りてきたようなありさまです。
 ぴかぴかぴか、ぴかぴかぴか。
 爆発の火か、それとも電(いなずま)か、いずれともわかりませんが、目もくらむような光がきらめき、そのものすごいことといったらありません。
 塩田大尉の指揮する十数機の飛行隊は、そのまわりをとびながら、このものすごいありさまをあれよあれよとみまもっています。さすがの怪塔も、そこで粉みじんにこわれてしまったのでしょうか。
 いやいや、そうではありませんでした。
 そのとき、夕立雲のかたまりのような黒煙の上部をつきやぶり、さっと天に向けてとびだした砲弾の化物のような巨体!
「ああ、怪塔ロケットが、あんなところからとびだした」
「うむ、怪塔ロケットだ。逃すな。それ、全速力で追撃!」
 塩田大尉は全機に一大命令を発しました。
 ああら不思議、怪塔ロケットは、傘のようにかたまっていたたくさんの爆弾の炸(さ)けとぶ中をすりぬけて、天空へまいあがったのです。みれば、怪塔ロケットには、どこにもこわれたところがありません。それもそのはず、怪塔ロケットは、前もって磁力砲をいっぱいにかけてとびだしたので、鉄でできている爆弾の破片なんかみんなふきとばされてしまったのです。

     2

 怪塔ロケットは爆弾の破片をふきとばし、ものすごい姿を夕焼雲のうえにあらわしました。お尻のところからは、しゅうしゅうとガスをはなっていますが、それが夕日に映(は)えて、あるときは白く、あるときは赤く、またあるときは黄いろになり、怪塔ロケットを一そうぶきみなものにしてみせました。
 塩田大尉は、偵察機隊をひきいて雲間をぬいつくぐりつ、怪塔ロケットのあとをおいかけました。
 小浜兵曹長は、大尉のかたわらにすりよって戦(たたかい)をはじめるのに都合のよいときをねらっています。
「おい小浜、わが機はもう全速力をだしているのだろうな」
「はい、塩田大尉、速力はもういっぱいだしております」
「そうか。はやく追いつかないと、夜になってしまう。すると、さがすのに面倒だ」

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