火星兵団
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著者名:海野十三 

 博士は鞄の中から小さなすり鉢を取出し、その中へ草の根を入れて、ごしごしとすった。すると褐色のねばねばした汁が、鉢の底にたまって来た。
 博士はその汁を筆の先につけ、苦しそうにあえいでいる病気の火星人の、手だか足だかわからないが、そのつけ根のところへ、ぬってやるのであった。
 火星人は、きいきいと声を立てた。
「どうじゃ、気持がよくなったろう。当分まあこれで、しんぼうしているんだ。もうあと、しばらくすれば、火星へつれて帰ってあげるから、元気を出しなさい」
 博士の言葉を、新田先生は、ふと聞きとがめた。博士はこの火星人をつれて、火星へ行くと言ったではないか。
「どうかね、薬をぬると、しみるかね」
 と、蟻田博士は、やさしく火星人にたずねた。地球の人間はきらいだが、火星人は好きであると見え、別人のように、やさしい声を出す博士であった。
「博士、だいぶんしみます。しかしわたしは、我慢していなければならないでしょう。そうでないと、いつまでも、もとの体になれませんからねえ」
 と、病気の火星人も、たいへん博士を信じて、たよっているらしいことが、その言葉つきからも、うかがわれた。
 そばでこの有様を見ていた新田先生は、全く不思議な気がした。
「博士、その薬は、よほどきく薬らしいですね。一体どういう病気にきく薬なのですか」
 と先生がたずねると、博士は、
「どういう病気といって、こういう病気にきくのだ。ほら、見ていたまえ。この通り火星人のくさりかかった体が、どんどんきれいに、なおっていく」
「なるほど、不思議ですなあ。そんなによくきく薬なら、わたしにも分けていただきたいですね。実は、わたしの……」
「だめだよ、新田君」
 と、博士が言った。
「この薬はね、君のような動物には、さっぱりきかないんだ」
「動物?」
 君のような動物と、博士に言われて、新田先生はむっとした。いくら弟子であると言っても、動物と呼ぶのはひどい。先生は、ここで蟻田博士の無礼をやっつけてやろうかとまで思いつめたが、しかし、今は重大な時である。ここで博士をおこらせてしまっては、人類のため大損である。先生は、一生けんめいにこらえたのだった。
 だが実は、博士は、悪気があって、先生を動物と呼んだのではなかったのだ。
 蟻田博士から、「動物」と呼ばれたことを、新田先生はいつまでも忘れることが出来なかった。が、それは博士から、「お前は動物だぞ!」と言われた時に腹が立ったという、それだけのことではなかった。それからずっと後になって、博士の言葉を、もう一度たいへんなおどろきと共に、思い出さなければならない大事件の日がやって来たからである。それはどんな大事件か、やがてわかる。
 博士は、病める火星人のために薬を塗終えた。
 火星人はたいへんに喜んだ。そうして全身をふるわせつつ、自分の体を博士の体にすりよせた。
「蟻田博士、ありがとう、ありがとう」
 よほど、うれしいらしい。
 博士は、にこにこ笑って、その病める火星人に、ゆっくり体を休ませるように言った。そうして、火星人が、そこに寝ると、その火星人の体の上に、きれをかけて暗くし、それから、どういうわけかその火星人の足を、水をいっぱい張った大きな洗面器のようなものの中に、つけさせたのであった。
 それを見ていた新田先生は、また不思議に思った。
「火星人の足を、水につけたりして、一体どうしたわけですか。おまじないなんですか」
 と、新田先生は尋ねた。
 すると博士は、首を左右に振って、
「いや、これはおまじないではない。こうすることによって、火星人はさらにいきいきとして来るのだ」
 と、博士は妙なことを言った。まるで、植物の根に水をあたえて、いきいきとさせるようなことを言った。
「え? 博士の言われることが、よくわかりませんが」
「わからないと言うのか。ふん、君にはそこまでわかるまい」


   43 寄生藻(きせいも)


 蟻田博士の手当がうまくいったのか、病気の火星人は、その後すやすやと眠り出した。
 もう一人の仲間の火星人も、気づかれがしたものか、そのそばで大きな瞼を重そうにぱちぱちしていたが、これもまた、うつらうつらと眠りについてしまった。
 急にあたりは、しんとしてしまった。地底には、博士と新田先生とが、じっと向きあっていた。師と門下生とが、ひさかたぶりに水いらずで向きあっているのであった。博士の心はどうか知らないが、新田先生の胸中には、これまでのいろいろなことが思い出されて、いたいくらいだった。
 だが、先生はいつまでも、めめしくはなかった。地球の壊滅は、もう間近にせまっているのである。めめしく涙ぐんでいる時ではない。
「博士、この火星人たちは、どうしてここにいるのですか」
 と、先生は質問の矢を博士に向けて放った。
「ああ、この二人のことかね」
 博士は、長くのびて、額に落ちかかる白い髪をかき上げながら、先生の方を向いた。
「この二人は、ずっと前わしが火星に行った時、助けて連れて来てやった火星人なんだ」
「え? 博士は火星へ行かれたことがあるのですか」
 先生は、びっくりして尋ねた。
「おや、そのことはまだ話をしてなかったかね」
「それはうそです。博士は、人間の力では火星へ行けないと言われたことが、あったではありませんか」
 と、先生はつっこんだ。
「うむ、たしかにそれは言った。しかしそれは、一般の人間をさして言ったのじゃ。わしの力は人間以上だ!」
 と、蟻田博士は、いばって言った。
 人間以上!――という言葉には、二様の意味がある。わしは、すぐれた人間だというのか、それともわしは人間ではないぞというのか、どっちであろうか。
 新田先生には、そのどっちの意味か、わかりかねた。
 といって、まさか博士に、
(博士は、人間ではないのですか?)
 と、聞くわけにもいかない。だから先生は、この大きなうたがいを持ったまま、しばらく問題を先へ持ちこす外なかった。
「この二人を助けたとおっしゃったが、なぜ博士は助けられたのですか。一体この二人の素姓は何者ですか」
 と、先生は尋ねたのである。
「ああ、この二人の素姓かね。わしが助けた時は、二人とも子供だった。二人は、女王ラーラの子供なんだ。ラーラには、百人ばかりの子供があったが、今残っているのは、多分このロロとルルの二人だけだろうと思う」
 博士は、すこぶる奇妙な話をはじめた。先生は、博士がでたらめを言っているのではないかと思った。なぜかといって、そのラーラとかいう女王に、百人ばかりの子供があったという話であるが、そんなにたくさんの子供が生めるであろうか。
「博士、ほんとうですか、その話は。百人の子供を生むなんて、あまり不思議すぎますよ」
 博士は、仕方がないという顔で、首を左右にふった。
「ふん、お前にはそれが信じられないかも知れん。いや、むりもない。だが、それはほんとうのことなのだ。――その女王ラーラは、非常にすぐれた者じゃった。我々地球の生物のように、やさしい情ある心を持っていた。だから女王は、地球の人類と、たがいに手をとって、力になり合おうと考えた。それが、他の火星人どもの気に入らなかったのじゃ」
「火星国に、せっかく地球人類と手をにぎってやっていこうという女王ラーラが現れたのに、多くの火星人は大反対をして、とうとう女王を殺してしまった。女王だけではない。百人近い女王の子供たちも、ほとんど全部殺されてしまったのだ」
 と、蟻田博士の不思議な話は続く。
「ほう、ずいぶん残酷な話ですね」
「残酷は、元来、火星人の持って生まれた悪い性質なのだ。わしは、女王ラーラとその子供たちが死ぬところを見たが、いやもう気の毒なものじゃった。火星人は、女王たちを、森の中につくった大きな牢にぶちこんだ。その牢は、上から見ると、円形で、高い壁にかこまれ、そうして天井がなかった」
「ほほう」
「女王たちを、この天井のない牢にぶちこむと、火星人たちは、今度は水をそそぎ入れた」
「水の中に、おぼれさせるのですね」
「そうではない。水は、わずか十センチぐらいの浅いものだったが、その後で投げこんだものが、恐るべきものじゃ」
 と、博士は、その時のことを思い出してか、肩先をぶるぶるとふるわせた。
「何です、博士。そのおそるべきものと言いますと……」
 新田先生は、博士の答えをもどかしがった。
「それは、一種の藻じゃ。見たところは、たいしたことのない緑色の藻じゃが、その藻こそ、恐るべき繁殖力を持ったやつじゃ」
「繁殖力?」
「そうじゃ。つまり藻がふえるのじゃ。その藻は、水の中では大へんな勢いでふえるのじゃ。しかも、そばに他の生物がいると、それにとりつき、その生物の体から養分をすいとって、どんどん繁殖していくのじゃ。恐るべき寄生藻だ」
 と、蟻田博士は、そこでまた体をふるわせた。
「ああ、藻をつかって殺すなんて、始めて聞きました。火星の上には、とんでもない植物があるものですね」
 新田先生は、ため息をついた。蟻田博士の語り続ける女王ラーラと、その子供たちの最期ほど風がわりな、そうして気の毒なものは、ちょっと外になかろう。
 博士は、なおも語り続ける。
「――女王ラーラとその子供たちは、四日目には、その恐しい藻に包まれて、全く死んでしまったのだ」
「ああ、かわいそうに……」
「その時、わしは、森の中の一本の木の上にのぼって見ていたのだが、あまりかわいそうなので、何とかして、せめて子供だけでも助けてやりたいと思い、いろいろと助けてやる方法を考えたのじゃが、どうも、なかなかいい智慧が出ない。ところが、そのうち、ふと、思いついたことがあった」
「何です、その思いつかれたことは?」
「それはほかでもない、わしが持っていた長さ五十メートルの長い巻尺(まきじゃく)じゃ」
「巻尺? あのぐるぐるまいて、ケースにはいっているあの巻尺のことですか」
「そうじゃ、その巻尺じゃ。わしが火星へ持って行ったやつは特別につくらせたもので、丈夫な鋼鉄で出来ている。わしは、その巻尺の一端に、わしが護身用に持っていた猟銃をゆわいつけると、木の上から、やっと掛声をして、十メートルばかり離れた牢へなげこんだのじゃ」
「あはははは」
 と、新田先生は笑い出した。
「なぜ、お前は笑うのか」
「博士、ほら話はいけませんね。いくら博士がその時お若かったにしろ、そんな重いものを、十メートルも離れた遠いところへ、やすやすと投げられるものですか」
「お前こそ、何をたわけたことをいう。火星の上では、物の重さが約三分の一に減ることを、お前は知らないのか」
「火星の上では、物が軽くなる? なるほどそうでしたねえ。うっかりしていました」
 新田先生は、頭をかき、
「博士は、巻尺のさきに銃をつけ、牢の天井から投げこまれ、それからどうしたのですか」
 博士は、口をもぐもぐさせながら、
「うふふん。わしの計画は、うまく行ったのだよ。投げこんだ巻尺を、今度は手もとへたぐって、引上げてみると銃身に二つの青黒い塊がついていた。それは火星人の――いや、女王ラーラの子供だった。つまりここにいるロロとルルが、その時に巻尺を力にして、おそろしい寄生藻の牢獄をぬけ出た幸運な女王の遺児たちなのだ」
「な、なるほど。それはいいことをなさいました」
「わしが、ロロとルルとを引上げた時は、二人とも、頭から足まで寄生藻をかぶって真青だった。そのままでは、どんどん体がまいるから、わしは二人をかついで急いで木の上から下りると、二人を連れて、さらに森の中深く分入り、川の流れをさがして歩いた。小川が見つかった。わしはさっそく二人を流れにつけ、ごしごしと洗ってやったよ」
「そうでしたか。二人はよくも助かったものですね」
「ロロは割合に元気だったが、ルルの方はだいぶん弱っていた。その時は、かなりひどく寄生藻にやられていたのだ。でも、わしは出来るだけの手をつくした。その結果、ともかくも二人の体を、すっかり元のように、なおしてやった。わしは火星人に二人をうばいかえされることをおそれ、わしの宇宙艇の一室に二人をかくして、外へ出さなかったのだ。――こうして、ロロとルルの二人を、この地球へ連れて来ることが出来たのだ」
 と、蟻田博士は、深いため息とともに、不思議な話を語り終ったのだった。


   44 時おそし


 火星人ロロとルルとを助けた蟻田博士の話は、新田先生をたいへん感心させた。博士を、つめたい心の持主だとばかり思っていたのに、これをみると、なかなかやさしい心がけであった。
「ねえ、博士。博士は、火星人ロロやルルにたいして、そんなにしんせつならば、人間にたいしてももっと思いやりを持って下さってもいいではありませんか。やがて四月四日、モロー彗星に衝突されて、むなしく死んでしまわねばならぬ地球人類にたいして、危難をまぬかれる何かいい方法を考えて下さいませんか」
「人間は大きらいじゃ」
 と、老博士は、にがにがしく言って、
「それに、もうすでに時おそしじゃ。何をやっても、もう間に合わないだろうよ」
「そこを、何とかならないものでしょうか。何千年・何万年という輝かしいわが人類の歴史を考えると、このまま人類を絶滅させるには、しのびないではありませんか」
「人間たちの心がけがよくないから、そんなことになるのだよ。今ごろになって言っても、もう始らないが、わしは三十年このかた、地球人類に警告をして来たのだ。近ごろになっても、あの『火星兵団』についての警告放送をやったりしたが、誰も本気になって、それを聞かないのだ。対策を考えようとしないのだ。万事、もうおそいよ。自業自得だ」
 と、博士はあいかわらず人間たちにたいして、ひややかな言葉をはいた。
(そうでもあろうが、ここで何とかして、博士の心に、人類愛・同胞愛を起させなければならない)
 と、新田先生は自分の心を自分でむち打った。
「すると博士はどうされるのですか。四月四日の前に、ロロとルルを連れて、火星へお帰りになるのですか」
「何をばかなことを! 火星へ行くのは、ロロとルルを処刑場へ連れて行くようなものだ」
(火星なんぞへ行くものか!)
 と、蟻田博士は、はっきり言った。
「じゃ博士は、どこへ行かれるのですか。まさか四月四日に、この地球の上にとどまっていて、地球人類と共に死滅せられるわけではないでしょう」
 と、新田先生はつっこんだ。
「ふん、わしの心はきまっている。しかしそれをお前に話をするわけにはいかん」
「なぜ、話して下さらないのですか」
 新田先生は不満であった。
「わしは、そのような大切な計画を、誰にも知られたり、じゃまされたりしたくないのだ。何しろ、四月四日の大危難を切りぬけるのは、なまやさしいことではないからのう」
 博士はため息をついた。
 蟻田博士にとっても、モロー彗星の衝突事件は、たいへん困ったことらしい。新田先生は、これ以上博士をときふせることが出来なくなって、口をつぐんで、少しうつ向いた。
「ほう、ほう、ほう」
 博士は、奇妙な笑い声を立てた。
「何だ、お前はいやにしょげてしまったじゃないか。若い者のくせに、そんなことでどうなるのか」
「ですが、博士。博士のお言葉は、私から元気をうばい取ってしまいます」
「誰でも、最後まで勇気が必要だ。わしを見ろ。この通りの老人だが、どんな時にも、勇気をうしなわないで、たたかって来た。――そうだ、お前にいいものを見せてやろう。こっちへお出で」
 博士は、新田先生を手招きすると、立上って、暗くてせまい地下のわれ目を奥のほうへと、はいって行った。
(何を見せてくれるのだろう?)
 新田先生は、好奇心にかられながら博士のあとを追った。
 しばらく行くと、急に地下道がひろびろとして、りっぱな廊下や階段があらわれたのには、先生はびっくりした。
(何を見せてくれるのだろうか!)
 と新田先生は、蟻田博士のうしろについて、不思議な長い地下道を、どこまでも下りて行った。
(全く不思議だ。こんなりっぱな地下道があるとは……)
 地上は、地震で見るかげもなく、くずれてしまったのに、地下はこの通りちゃんとしているのである。地震の害は、地上の方がひどく、地下は割合に害を受けないと聞いていたが、新田先生は今それを、この地下道において、この目で見て、はっきり知ることが出来た。
 それにしても、博士はいつの間にこのようなりっぱな地下道を作ったものであろうか。先生は、底知れない博士の力に、あきれる外なかった。
「この部屋にあるのだ。さあ、わしについて、はいって来い」
 博士は、一つの部屋の扉をあけると、中へはいって行った。電灯がぱっとついた。
 先生は、どんなものが、ならんでいる部屋であろうかと、中へはいって、あたりを見まわした。
 その部屋はたいへん広かった。そうしてわけのわからぬいろいろな機械がぎっしりならんでいた。町の工場の機械室でも、これほど機械や工具のととのった部屋はあるまいと思われた。
 その部屋で、先生が一番おどろいたのは、奥まった正面に、形は魚雷のお尻に似て、非常に大きいものが、壁の中から、にゅっと出ていることであった。そのかっこうは、まるで、大きな魚雷を壁に打ちこんだようだ――とでも言おうか。
 博士は、つかつかと、その魚雷のお尻のようなもののそばによると、その下にしゃがんで、しきりに金属音を立てていたが、やがて先生に、
「さあ、こっちへ来い。頭を打たないように気をつけて、ここからはいって来い」
 と言った。先生は、腰をひくくして、そこをのぞき込んだが、あっとおどろいた。
 形は魚雷のお尻のようであるが、大きさはとても魚雷どころの騒ぎではない。大きな舵器のように見えるが、その隣にぱっくりあいている穴には、上からはしごが下っている。
 蟻田博士は、そのはしごを上って、中にはいってしまった。新田先生はおどろいたが、博士におくれないようにと、はしごを上っていった。
「おお、これは……」
 新田先生は、又もおどろきの声をあげた。
 それもそのはず、博士についてはいりこんだ魚雷のお尻みたいなものの中は、たいへんに広いのであった。
 室内は、どこのかべも安楽椅子の背中のようにじょうぶにされ、ゆびでおしてみると、中には強い「ばね」がはいっていた。つまりかべ全体が――いや、かべだけではなく、天井もとびらも――安楽椅子の背中のようにつくられてあった。それから、やたらに電車のつり皮みたいなものがぶらさがっていた。それもかべだけではなく、天井にもついているし、床にもそれがついているのだった。
 床についているつり皮! 新田先生は、こんなところにつり皮がついているなんて、じつにへんだとその時は思った。だが、それにはわけがあったのである。いずれ後にわかるが、この魚雷のお尻のようなものが、一体何であるかがわかると、何もわかってしまうのだ。
「おい、新田。何をしとる。早く来ないと見えなくなるぞ」
 蟻田博士が呼ぶので先生は気がついてふりかえると、いつの間にか博士は、おくの壁についている丸窓のような形のとびらをあけ、もう一つおくの部屋にはいって、先生をさしまねいているのであった。はたしてそのおくの部屋には、何があったであろうか?
(早くしないと、もう見えなくなるぞ)
 と、蟻田博士は、奥の部屋から新田先生をよぶ。一体何が見えるというのであろうかと、先生は、丸窓のような形をした入口をくぐって、博士のそばへ近よった。
 室内は暗かった。暗室なのだ。
 ただ、標示灯のあかりが、ぼんやりと機械の一部を照らしていた。それはのぞき眼鏡のようなものであった。博士の手が、そのあかりの中にあらわれて、のぞき眼鏡のようなものを指す。
「おい、新田。この中をのぞいて見ろ」
 蟻田博士の声だ。姿は見えないが、声だけ聞える。うすきみがわるい。
 先生は、博士の手が指さすのぞき眼鏡のようなものに、目を近づけた。
「右の横につまみがある。それを廻して、焦点を合わせるのだ」
 先生は、そののぞき眼鏡の奥に、何だか、ななめになった光り物をみとめた。しかしそれは何であるかわからないので、右手の指でつまみをさぐって廻してみた。
 すると、その光り物はだんだんはっきりして来た。
「ほう、これは彗星だ!」
 と、先生は思わず、おどろきを声に出してさけんだ。
「そうだとも、もちろん彗星だ」
「すると、この彗星はもしや……」
「もしやも何もない。それがモロー彗星なのだ。おどろくべき快速度をもって、刻々地球に近づきつつあるモロー彗星なのだ」
 博士の声が、くら闇のかべにあたってひびいた。
 ああ、モロー彗星!
 これが、モロー彗星であったか。地球人類、いや地球上の全生物のいのちをうばっていこうとする魔の彗星はこれであるか! 新田先生は、真暗な空に異様なすがたを見せているこの彗星を、食いいるように見つめている。
「どうして、こんな地底からモロー彗星が見えるのでしょう。博士、これは、どうしたわけですか」
 新田先生は、博士にたずねた。
「よけいなことは聞かないがいい。それよりも、モロー彗星をよく見ておくがいい。間もなく、雲にさえぎられて見えなくなってしまうから……」
 博士は言った。
 新田先生は、博士に叱られながらも、地底から見えるこの望遠鏡の不思議について考えた。空が見えるからには、この望遠鏡のあたまは空へ向けて出ていなければならない。そこのところがどうなっているのか、先生は知りたいと思ったのである。だが、博士は、それについて、返事をしなかった。
 モロー彗星は、博士の言ったように、間もなく雲にかくれて見えなくなってしまった。先生は、そのことを言って望遠鏡から目をはなすと、博士は、
「これから、一日増しに、大きく見えて来るじゃろう。そうして、やがて地球に衝突する一週間ぐらい前になると、モロー彗星の一番太いところは満月ぐらいの大きさになるじゃろう。そのころには、人間のなかで、気の弱い奴らは、そろそろ妙なことを口走るようになるじゃろう」
 博士は、気味の悪いことを言った。
「何とかして、地球人類を助けてやる方法はないものですかねえ」
 先生は、むだなこととは知りながら、またしても、博士にそれを相談せずにはおられなかった。
「だめじゃ。よほどの奇蹟でもないかぎりは……」
 博士の返事は、先生の考えていた通りであった。
 二人が、話をしている時、暗中で、五つの赤い電球が、しきりについたり消えたりしはじめた。すると博士は、あわてて立上った。
 ぴかぴかぴかと、しきりについたり消えたりする赤い電球は、何を知らせているのであろうか。
 蟻田博士は、くらがりでもよく目が見えるらしく、立上ると、何かしきりに機械を廻している様子だ。
 がらがら、がらがら。
 高声器の中から、雑音が出て来た。空電がはいっているらしい。博士は、なぜ高声器を働かせているのか。
「博士、どうしたのですか」
 と、新田先生はたずねた。
 だが、博士はそれに答えなかった。その代りに、高声器の中からはげしい雑音に交って、何かしきりにわめきちらしているような人の声が聞える。
 その声は、はじめ、たいへん小さかったが、しばらくすると、雑音以上に大きくなって来た。しかもその声が、日本語でしゃべっていることがわかった。
(誰だろう?)
 先生は、くらやみの中で、きき耳を立てていた。その声は、大きくなったけれど、何を言っているのか、言葉の意味がはっきりしない。しかし、その中で、
「おい、聞いているか、日本人!」
 という言葉が、くりかえされたことがわかった。
 先生は、それを聞いている中に、言葉の調子から、一人の人物を、ふと、心の中に思い浮かべたのであった。それは外でもない。刑事の佐々(さっさ)のことであった。
(佐々刑事の声によく似ているがなあ)
 と、先生が首をかしげている時、高声器からの声は、また一段と声をはり上げて、
「……火星のやつに、気を許すな。火星のやつは、どんなひどいことでも、平気でやるぞ。ゆだんするな。火星のやつは、ありゃ動物ではないんだ!」
 火星の人間は動物でない――などと、へんなことを言出した。
「おお、あれは佐々刑事の声に違いない!」
 と、新田先生は、すっかり興奮してしまった。
「何じゃ、佐々刑事? この、しおから声を出している人間は、あのがむしゃら刑事じゃったか」
 博士はちょっと驚いた様子だ。そうして、「ふん、おもしろくもない」とスイッチをぷつんと切ってしまった。とたんに、佐々の声は聞えなくなった。
「あっ、スイッチを切っちゃいけません。もっと私に、その先を聞かせて下さい」
 新田先生は、博士に迫って行った。
「こんなものを、聞くことはないよ。今さらこんな世まよいごとを聞いて、何のたしになる! モロー彗星は、もう間近に迫っているのじゃ」
 博士の口ぶりから考えると、佐々刑事の電話を新田先生に聞かせたくないらしい。博士は、切ってしまったスイッチを、再び入れようとはしないのだった。
 新田先生は、老いたる師の博士をつきのけてまでも、佐々刑事の宇宙電話を聞く気にはなれなかった。次の機会を待つよりほか仕方がないであろう。
 だが、このまま引っこんでしまうのは、たいへん惜しかったものだから、
「博士、今の電話は、火星から伝わって来たもののように思いますが、違いますか」
 博士は、そうだとは言わなかった。が、そうでないとも言わないところをみると、たしかに火星からの通信に違いないと、先生はさとってしまった。
「博士。火星人が動物でないと言うのは、ほんとうですか。動物でなければ、一体、何ですか」
「ふうん、そのことだ。が、人間には、とてもむずかしすぎる問題で、言ってもわかるまい」


   45 おそろしい仮定(かてい)


 実に奇怪な話ではある。火星人は、動物でない――と、佐々刑事は言うのだった。
 蟻田博士は、それについて、いくら新田先生に説明してもわかるまいと言って、話をしようと言わない。
 新田先生は、ぜひともこの重大な、なぞの言葉を解いてしまいたいと思うのだった。これは博士の力を借らずに、自分の力で解いて、博士にぶっつけるより外はない。
 そこで新田先生は、自分で、このなぞの言葉にぶっつかった。
(火星人は動物でない――と言う。では、いったい何であろうか)
 動物でない――と言うと、植物か鉱物か二つのうちの一つであろう。しかしそれはあまりに変なことだ。
 なぜと言って、人間は動物であり、犬や猫も動物である。動物は、文字で書いても、動くものと書く。だから動物は、動けるのである。植物や鉱物は動けない。
 そうなると、佐々刑事の宇宙電話も、とりとめのないことをしゃべったとしか考えられない。動物でなければ動くことが出来ないのだから……。
 だが、待てよ。
 ここに一つ考えのこしたことがある。鉱物が全く動かないことはわかっているが、植物の方は、全く動かないものばかりとも言えない。たとえば、蟻地獄と言われる草や、蠅取草(はえとりそう)のようなものは、自分で動いて、蟻とか蠅とかを捕えるという話である。アミーバという下等植物は、自分で体の形をかえて水中を泳ぐ。
 またいつだか見た文化映画で、『植物の生長』というのがあったが、植物の蔓(つた)が、まるで蛸(たこ)の脚(あし)のようにぐらぐらと動きまわって、どこかにまきつく棒とか縄とかないかと、しきりにさがしもとめている有様がうつっていた。その映画を見ると、植物がまるで動物とおなじように見えた。
 そんなことをだんだん考えて来ると、植物は全く動かないものだとは言いきれなくなる。さあ、問題はそこだ!
(アミーバも動く、蠅取草も動く!)
 火星人の正体を、ほり出そうとして、新田先生の推理はつづく。
 動物でない火星人!
(では、火星人が、アミーバや蠅取草のような動く植物であったとしたら、どうであろうか?)
 先生は、考えをそこまで持って来た。そこには、恐しい大驚異の世界が開かれていた。そうだ! 動く植物! 火星人なるものは、進化した動く植物だと考えては、どうであろう!
「ああ、驚くべきことだ。ああ、恐しい世界だ」
 と、新田先生は、思わず口に出して叫んだ。
 そばで蟻田博士は眠れるロロとルルを見まもっていたが、とつぜん新田先生が声を出したので、後を向いて先生をにらみつけた。
「おい、静かにせんか」
 新田先生は顔をまっ青にして、興奮のためにふるえていた。
(わかる、わかる。火星人を、進化した動く植物だと仮定して考えると、これまでに疑問だったことが、大分うまく解ける!)
 蟻田博士は、火星人は動物でないと言った。だから植物であるというのは、答えになるではないか。
 それから又、そこの檻の中に病気で弱っている火星人ルルは、博士が日本アルプスの山中から掘出して来たという草の根を、くさりかけた体にぬって、たいへん気持がよくなったというが、この薬は動物にはきかないという。火星人は植物だからきいたのではないか。
 まだある! 火星人の残酷さだ!
 火星人は、情というものを全然知らないようである。情心(なさけごころ)は、動物だけにあるもので、植物にはないのだ。この前火星人丸木は、銀座で平気で、人殺しをやったではないか。
(火星人は、植物にきまった!)
 新田先生は、長い歎息をした。
(全く情心というものを持合わさない植物なればこそ、火星人は、あの通り残酷なんだ! ああ何という恐しいことであろう!)
 新田先生は、たいへんな結論を引っぱり出したものである。
 火星は植物の世界だ! 植物が、火星を治めているのである。ちょうど、人間が地球を治めているように! 植物がいばっている星! 植物が高い文化をもっている星! それが火星なのだ。
 新田先生は、火星へ行ったこともなければ、火星の世界をくわしく研究したわけでもなかった。しかし、火星の上で植物が万物を支配している世界を想像してみることは出来た。ああ、それは何という風がわりな興味のつきない、恐しい世界であることか!
(ゆだんはならない! 火星は植物が治めているし、わが地球は人間が治めているのだ。この二つのものは、とても手を握ってつきあっては行けないであろう。火星人は、火星兵団を送って、もはや働きかけているのだ。ゆだんはならない!)
 ゆだんはならない。――とは、佐々刑事が宇宙電話でもって、地球に住む者どもに対して警告して来たことだった。恐らく佐々刑事は、火星へ上陸するか何かして、火星人がむごたらしいことを平気でやるのに驚いたのであろう! あの心臓の強い佐々刑事が驚くとは、よほど目に余ったことが、火星の上で行われているに違いない。
「ああ大変なことになった!」
 と、新田先生は、むごたらしい火星人の幻影を両手で払いのけつつ、うめきごえを発したのであった。ああ、怪また怪!
 新田先生が、火星人のおそろしい正体について、推理をくみ立てている間、蟻田博士は、向こうを向いて、しきりに火星人の兄弟ロロとルルの寝顔を見まもっていた。
 ところが、その中に、博士もだんだんねむ気をもよおしたらしく、こっくり、こっくりと、いねむりを始めた。
「ああ、博士!」
 先生は、うしろから声をかけた。
 しかし博士の返事はなかった。そうしてあい変らず、こっくりこっくりと、いねむりをつづけるのであった。
(しょうがないなあ。ぜひ、博士に、私の推理を聞いてもらいたいのだが……そうして私の考えが正しい……火星人は植物から進化したおそるべき生物だと言ってもらいたいのだが、これはどうもしようがない)
 新田先生は、博士を起せば、博士はきっと、怒り出し、御きげんを損じてしまって、あとあとのために悪いことを知っていたので、博士をゆり起すことはさしひかえた。
 さて、こうして地底において、火星人兄弟も眠り、博士も眠っているところを見ていると、先生はだんだんへんな気持になって来るのであった。何だか、ここは東京ではなくて、火星国の中のような気がするのであった。
 その時、先生の頭に、ひらめいたことがあった。
 それは外でもない。博士のねむっている中に、さっき宇宙電話をかけて来た佐々刑事をよび出し、話をしてみたい、ということであった。佐々は、きっと地球人類のためになることを、話してくれるにちがいない。
「そうだ、それがいい。そうして今の中だ」
 先生は、宇宙電話機の前へしのびよった。そうして、高声機を、耳にかける受話機の方に切りかえ、その受話機を、大急ぎで耳にかけてスイッチをひねったのであった。
 さあ、果してうまく佐々の声が聞えるかどうか。
 新田先生は、スイッチをひねってから機械がはたらき出すまでの数秒間を、たいへん待ちわびた。
 ところが、受話機の中から、ついに佐々の声がしたのであった。
「……おい、聞いているか、日本人。こっちは、警視庁の佐々刑事だ。今、火星から宇宙電話をかけているのだ……」
 ああ、それはまちがいなく佐々刑事の声であった。
 先生は、これに対して、何とかこちらからも話しかけたいと思った。そう思って、機械を見ると、つごうのよいことに、マイクがちゃんとついているではないか。
(うん、これはしめた。マイクのスイッチを入れさえすれば、佐々刑事と話が出来るにちがいない!)
 新田先生は、今はもう博士に気がねをしている時ではないと思い、マイクのスイッチをひねった。そうしておいて、
「ああもしもし、佐々刑事さん」
 と、先生はあたりをはばかりつつ、マイクに口をよせて、宇宙電話で佐々によびかけたのであった。
 蟻田博士は、この宇宙電話機をうまく合わせておいたものらしく、
「はいはい。佐々刑事は、ここにこうして聞いているが、私をよぶ君は、全体何者かね」
 と、まぎれもなく佐々の声で返事をして来たのである。
「あっ、しめた!」
 と、先生は喜びのあまり、今にもおどり出しそうである。
「おお、佐々さん。私の声が火星へ聞えたのですね。私は新田ですよ。おわかりですか。新田です」
「おう、新田先生か。やあ、いいところで返事をしてくれた。ああ、なつかしいねえ」
 と、佐々刑事は、うわずった声で、喜びをぶちまけた。
 さあ聞え出した。宇宙電話だ!
 新田先生は、うれしさのあまり、急に胸がどきどきして来た。
「ああ、うれしいです、佐々さん。あいさつはぬきにして、今ほろびんとする地球のために、必要なことだけを話し合うことにして下さい」
 先生は、ねっしんに呼びかけた。
「ああ、わかった、わかった。僕はさっきもこの宇宙電話で放送したんだが、火星人は、ゆだんが出来ないやつだよ」
「そのことですが、私は一つの推理を立てました。火星人というのは、植物の進化したやつで、動物のような情心を知らないです。だから生まれつき、たいへん残酷なんです。どうですか、その通りでしょう」
 と、先生が言えば、佐々は非常におどろいて、
「えっ、そうかね。火星人は、植物の進化したやつで、情知らずか。なるほど、そう言えば、いろいろ思いあたることがあるよ。この火星では道ばたなどで、仲間同志が殺し合うことを、平気でやっているよ。全くものすごいところだ」
 と、たいへんなことを言う。
「先をいそぎますよ。それについて佐々さん、火星人は、まだたくさん地球に攻めて来るのでしょうか」
 先生は、しんぱいなことをたずねた。
「そうとも、そうとも。火星兵団は、たいへんな人数だ。甲州の山奥で見た火星兵団なんか、ほんの一部分だ。兵団にいる兵士の総数はたいへんだ。何十億何百億人だ。何しろ火星人の子供は、一度にずいぶんたくさん生まれるのだ。子供のふえ方では、とても人間なんか、かなわないね。だから人間軍とたたかって負けるようなことはないと、火星兵団の連中は言っているよ」
 佐々刑事の言葉は、聞けば聞くほど恐しい意味を伝えて来るのであった。
 火星にいる佐々刑事と蟻田博士の地下室にいる新田先生とが交す宇宙電話は、なおも続いた。
「もしもし新田先生、聞いているかね」
「聞いていますよ、佐々さん。――で、どうなんですか、火星人の考えは? 我々地球の人間をどうするつもりなんでしょうか」
「それは、さっきもちょっと言ったが、地球の人間をひっぱって来て、飼って利用しようと思っているんだ。ちょうど、人間が豚や鶏を飼っているように、火星人は、人間を飼って、自分たちの勝手なことに使おうとしているのだ。そうなれば、地球人類の降服だ。火星人の奴隷になることだ。いや、奴隷以上のはずかしめを受けることになるだろう。だから、火星兵団に対しては、一歩もゆずってはいけない。彼等が、人間をすくってくれると思っていては大まちがいだ」
 佐々刑事の言葉は烈しい。
「でも、困ったですなあ。モロー彗星には衝突されるし、火星人にすくわれれば奴隷になるし、それじゃ地球の人間は助からない」
 と、新田先生は、ほんとうに困ってしまった。
「だから、だんぜん、火星兵団と戦うんだ」
「戦っても、どっちみち人間は助からないではないですか」
「助かるか助からないか、とにかくやってみなければわからない。戦ってたおれれば、もともとだ。もうだめだからと言って、負けるつもりになっていることがいけないんだ。せめて日本人は、建国精神によって、はなばなしく戦ってもらいたいなあ。火星兵団に降参してしまったなどという、ふがいない歴史なんか、残してもらいたくない」
 佐々刑事は、火星の上に、ただひとりがんばって、はるかに地球の人々を励ましたのであった。


   46 彗星対策(すいせいたいさく)


 三月の十何日ごろから、肉眼でもモロー彗星が見えるようになった。
 モロー彗星の位置は、南東の地平線に近い空であった。太陽が西に沈んで、あたりがほのかに暗くなると、うっすり[#「うっすり」はママ]と青白い光の尾をひいたこの妖星は、急にかがやき始める。
 日が暮れかかると、誰も彼も言い合わせたように南東の空に首を向けた。家々の窓には家族中の顔がならび、道行く人は立ちどまり、あっちに一かたまり、こっちに一かたまりと、不安な面をそろえる。
 モロー彗星は、そういう地球の上の騒ぎを知ってか知らないでか、絵にかいたようにしずかに、低い空にかかっているのであった。無言の威圧だ。
「あれが、モロー彗星ですか」
「そうですよ。今にあれがどんどん大きくなって、月よりも大きくなるそうです」
「もしもし、月よりも大きくなるどころじゃありませんよ。彗星は自分で光っているんですから、太陽よりも明かるくなりますよ」
「ほんとうですか。あれは自分で光っているんですか」
「そうですとも。今に空いっぱいに彗星がひろがりますよ」
「ええっ、何ですって」
「つまり、空というものが見えなくなってしまうのです」
「えっ、よくわかりませんなあ」
「さあ、どう言ったらいいか。つまりですな、空が見えなくなって、その代り彗星の表面ばかりが見えるようになるでしょう。その時は、他の星は全く見えなくなりますよ」
「へええ、驚きましたなあ。太陽も月も見えなくなるのですか」
「そうですとも。太陽も月も、地球から言うと、モロー彗星の向こう側になってしまうのですからねえ」
 俄か天文学者が急にふえた。
 モロー彗星が肉眼で見え出すと、騒ぎは、いよいよ大きくなった。
『モロー彗星対策相談所』とか、『延寿相談所』などという珍妙な看板が、どこの都会にも、十や十五はあらわれた。
 人々の中に、何とかしてこの際、自分たちの命を全うしたいものと思い、この珍妙な看板をかけた家の門をくぐる者が少くなかった。いや、少くないどころか、その門前は、順番を待つ人々で、長い列を作っていた。
「さあ、お次は九十番、九十番のお方!」
 と、受附の男が呼ばわると、待っていた人は番号札をにぎって、その延寿相談所長室へはいって行くのであった。
「まず、相談料をいただきます。相談料は先払で百円です」
「百円? 高いですね」
「高いと思えばおよしなさい。何しろここで、あなたの家の御家族の命が助かるか、助からないかという場合ですからな。別に私どもは、こんなことでお金をもうけようとは思わないのです。ただ、この通りたくさんのお客さんに押寄せられ、門や家がこわれそうなので、その混雑を防ぐために、少しばかり高いお金を支払ってもらって、入場整理をやっているのです。気に入らなければおよしなさい。ただし、命のせとぎわですからな」
 と、へんなことを言って、困っている人を困らせたり、おどかしたり。
 それで客は、せっかく決心をしてここまで来たのでもあるし、百円はちょっとこたえるが、それで命が助かるなら、まあ安いものだと思ってその金を支払い、さて、モロー彗星の害からのがれる方法は? と相談所長にうかがいを立てると、
「それはいい方法があります。しかし、決して、ほかの人に洩らしてはいけませんよ。つまり鉱山――銅や石炭やそういう鉱物の出る山の坑道の、奥深く逃げこんでいるのです」
「鉱山の坑道にはいっておれば、かならず助かりますでしょうか」
 と、客はふに落ちない顔である。
「そりゃもう、たしかにうまく行きますよ」
 と、モロー彗星対策延寿相談所長は、大きくうなずいた。
「モロー彗星が、地球に衝突した時を考えてごらんなさい。地上なんかにおられやしませんよ。彗星が衝突したとたんに、地上は、一せいに火事になってしまいますよ。とても熱くて、おられるものではありません。おまけに彗星は地球をこわして行きますよ。ビルヂングであろうが、岡であろうが、山であろうが、ぶっかいて行きますよ。その時人間が地上におれば、一しょに持って行かれますよ。だから、今お教えしたように、坑道の底におれば、助かるわけです。つまり地球が一皮むけたくらいでは、坑道の底におれば、まず大丈夫ですからね。どうです、たしかな方法でしょう」
 と、相談所長はとくいである。
「なるほど、なるほど」と、客は感心してうなずいたが、
「しかし所長さん、地球が粉々にこわれるだろうという話ですが、その時は、坑道の底にいても地表にいても、やられることは同じことでしょう」
「いや、同じではありません。地表にいる人間がやられる時、坑道の底にいる人間は、まだ生きています」
「しかし、遅かれ早かれ、坑道の底にいても、やられるではありませんか」
「それは仕方がありませんよ。少しでも、いのちが長くのびれば、それでいいとしなければならんですぞ。まず五、六分は長くのびます。あまりよくばりなさるな」
 客は、あっけにとられた。百円は、ただどりをされたようなものだ。
 また別の相談所では、海中へ逃げる方法を売っていた。それは……。
「海へ逃げこむのが一ばんよろしゅうございますよ」
 と、別の相談所長は言うのであった。
「つまり、陸は安心がならないのです。陸はモロー彗星につきあたられると粉々に飛散ってしまうし、地上は、大地震の起ったように大ゆれにゆれるから、人間はつぶされてしまいますよ。そこへいくと、海の中にはいっておれば、ずっと安全ですな。どうです、おわかりかな」
 その相談所長は、そう言って鼻をうごめかすのであった。
「どうもわかりませんが、先を話して下さい。海の中に逃げこむと言っても、どうすればいいのですか」
 と、客は不思議がる。
「つまりその、潜水艦に乗っているのです。陸はいくらぐらぐらしようと、また海上にどんなに波が立とうと、海の中は、あんがい静かです。たとえぐらぐらしても、潜水艦なら、どんなにゆれても大丈夫です。上と下とがあべこべになっても、心配はありません。だから命が助かりたいと思ったら、ぜひ潜水艦の中へ、ひなんをなさるのですな」
「なるほど、潜水艦はなかなかいい思いつきですなあ」
 と、客は言ったが、
「しかし、わたしたちを乗せてくれる潜水艦は、どこにいますかねえ」
 と、たずねた。すると相談所長は、
「さあ、そこまでは知りませんよ。手前のところでは、命をのばす御相談にあずかるだけで、あなたを乗せてくれる潜水艦がどこにいるか、そんなことまで世話をやくわけにはいきませんよ」
 と、つっ放すように言った。
 人々が難儀をしている時に、ろくでもないことを言って金もうけをしようという、けしからん者がたくさん出て来た。
 モロー彗星の光は日とともにつよくなり、そうしてますます大きくなっていった。
 地球の人類の不安は、モロー彗星の大きさとともに増していった。町には気が狂った人が、だんだん人数を増していった。
 しかし、一部の人間はおちついていた。すっかり覚悟をきめてしまったのであろうと思われるが、いつものように平然として仕事をつづけていた。
 その人たちが言っている話を、横あいから聞いてみると、こんな風であった。
「どうです、モロー彗星も、だいぶん大きく見えるようになりましたね」
「そうですねえ。あなたは、どちらへ御ひなんなさいますか」
「いいえ、べつにひなんはいたしません。このままにしています」
「ははあ、どうして、ひなんなさらないのですか」
「いや、さわいでも、どうなることでもないのです。何しろ相手は彗星ですからねえ。我々に、彗星を動かす力があればともかくもですが、そんな力はないのですから、後はもう自然の成行にまかせておくよりほか仕方がありません」
「たいへんおちついておいでですね。しかし、死ぬことはおいやでしょう」
「べつにいやとも思いません。いやだと思っても、どうなることでもないのですから。それよりも、わたしは、たいへん楽しいことに思っています。つまり、地球は生まれてから八十億年もたっているのに、地球が崩壊するところが見られるのは、今日の時代の我々だけにかぎられているということは、なかなかすばらしいことではありませんか。わたしは、地球がどんなに崩壊し、そうして人間などが、どんな風に死んでいくか、ゆっくり見物しようと思っていますよ」
 と、その人は、口のあたりに微笑さえ浮かべて、そう言うのであった。


   47 ピート大尉


 怪人丸木は、甲州の山中で、しきりに火星兵団を指揮していた。
 彼は、日本上陸兵団の指揮者であるとともに、地球遠征軍の隊長でもあった。だから、世界中から兵団のことや何かについて、知らせが集って来た。
「わが火星兵団は、たいへん優勢であります。この分ではモロー彗星に衝突する日までに、地球をすっかり占領してしまうことが出来ると思います」
 と、丸木は火星に向けて放送をした。彼はもう地球を、すっかり自分の手におさめてしまったつもりでいる。
「マルキ総兵団長!」
 と、アメリカ上陸兵団から、電話がかかって来る。
「どうしたのかね」
「ただ今、当地からロケットが一台飛出しました」
「ふん、それは人間が乗っているロケットかね」
「そうであります。アメリカ一流の飛行士ピート大尉が乗りこんでいるのです。そのロケットは、火星に向けてとんでいるものと思われますが、すでにもう成層圏を通り越して、ぐんぐんとまっくらな宇宙に光の尾を引いて走っていきます」
「そうか。では、こっちからも見えるじゃろう。よろしい」
 丸木は電話を切ると、火星の宇宙艇の中にはいって、ラジオの箱のようなものの前に腰をかけた。
 その機械には、たくさんの目盛盤(めもりばん)がついていたが、丸木はそれを器用な手つきでまわした。そのうちに、ぱっと緑色の電灯が光り出したと思うと、とたんにそのラジオの箱のようなものの真中に、映画のようなものがうつり出した。その中には一台のロケットの姿があった。丸木は言った。
「ふふん、こんなロケットなら一ひねりで片附くわ」
 怪人丸木は、箱の中に映っているロケットを睨んでいる。そのロケットは、アメリカのピート大尉の乗っているものであった。
「おい、宇宙艇司令所!」
 と、丸木は電話を、別のところへかけた。
「はい、宇宙艇司令所です」
 返事があった。
「すぐ一隻を、宇宙へ飛ばすのだ。そうして、ピート大尉のロケットを追撃するのだ。そのロケットの位置は……」
 と、怪人丸木は、訳のわからぬ符号をしゃべって、ロケットの位置を知らせ、
「すぐ、そのピート機をやっつけてしまえ!」
 火星へ飛ぶロケットを撃落(うちおと)せという命令である。もしもこのまま火星へ着かせたなら、それは丸木の手落ということになるのであった。だから、そういう人間のロケットは、すぐにやっつけてしまわねばならない。
 怪人丸木の命令一下、間もなく真暗な宇宙において、すさまじい惨劇が起った。ピート大尉のロケットが、白いガスを吐きながら、真一文字に、ぐんぐんと進んでいくところは、まことに勇ましいものがあったが、そのうち、後から、異様な形をした大きな宇宙艇が現れた。それはもちろん火星兵団の宇宙艇であった。
 火星兵団の宇宙艇は、前と後とに、大きな魚の目のような窓がまぶしく光っており、艇全体が、薄桃色の光の霧のようなものでおおわれていた。形から言っても、ピート大尉のロケットを金魚ぐらいにたとえると、火星兵団の宇宙艇は、一メートル以上もある大きな鯉のようで、とても、くらべものにならなかった。宇宙艇はどんどんロケットに追いせまり、やがて、
「あっ!」
 という間に、ピート大尉の乗ったロケットは、氷の塊が熱した鉄板の上に置かれた時のように、外がわからどろどろととけ出した。
 どろどろととけ出したロケット!
 全く不思議な光景だった。
 ピート大尉の乗ったロケットは、見る見るうちに、空間から消えてしまった。
 ロケットのあとをここまで追いかけた火星の宇宙艇は、任務を果したので、うしろへもどりながら、マルキ総兵団長のところへ電話で報告をして来た。
「ピート大尉のロケットは、完全にとけ終りたり」
 怪人丸木は、それを聞いて、
「ふん、そうか。それで一先ず片づいた。火星まで行かれてたまるものか」
 と、安心した。
 しかし、安心はまだ早かった。
 ピート大尉が火星兵団の宇宙艇にやられてしまったことが、まだ人間の世界には知れていないと見え、同じアメリカのところどころから、別のロケットが、火星の方に向いて出発した。その数は五箇であった。
 怪人丸木のところへ、この報告がとびこむと、彼はまたそのロケットの追撃を命じた。そうしてロケットは、いずれもピート大尉の時と同じく、不思議にも、どろどろとけてしまって宇宙から消えて行った。
「ほう、そうか。今度もまた片づいたか。あと、ゆだんがならないから、見かけたら、すぐ追いかけて、人間の乗っているロケットをとかしてしまえ」
 怪人丸木は、そう言って、部下にしかと言いつけた。
 こうして、ロケットは、いくつとなく、火星兵団のために怪しい最期をとげてしまった。
 地球の人々にも、ロケットの最期のことがだんだん知れて来た。そうしてついに、宇宙へとび出すことが、たいへんあぶない状態にあることがわかった。


   48 なさけの先生


 さて、ある朝のことであった。
 怪人丸木は、まだ宇宙艇内の寝室の中で、しずかにねむっていた。
 火星人は、一体どうしてねむるのか、たぶん、人間はそれをよく知らないであろう。
 怪人丸木は、寝室の二重戸を下すと、大きな一つの袋の中にはいる。それは、蚊帳(かや)のように四角になっていた。だが、空気は、もれないような仕掛であった。
 その袋のすそにポンプがあった。
 そのポンプを動かすと、袋の中の空気がどんどん出ていく。そうして圧力が低くなる。圧力計の指針がぐっと左に動いて、赤いしるしのついているところまで来ると、そこでポンプは、しぜんにとまるのであった。
 それまで怪人丸木は、ぼんやりと立っていたが、ポンプがとまると、彼は急に元気になる。
 彼はまず例の長いマントを、するりとぬぐ。マントの下は例の通り、太いドラム缶の胴に、西瓜(すいか)のような頭がのっており、手や足と来たら、針金の少し太いやつを組立てて作ったような、妙に細いものであった。
 彼は、手を上にのばして、まず大きな頭をすっぽりとぬぎ、下におく。
 これがすむと、胴中(どうなか)に手をかけて、こそこそやっていたかと思うと、そのドラム缶のような胴が、真中から、たてに二つにわれる。
 すると中から、赤黒い異様な生物が、大きな目をぎょろりと光らせて、はい出して来る。まるでたこのようなかっこうだ。頭の下には、胴がほとんどなくて、たくさんの根のようなと言うか、触手(しょくしゅ)のようなと言うか、へんにぐにゃぐにゃした触手が生えている。
 彼はそのぐにゃぐにゃした触手を、袋の底にいっぱいに広げる。その時頭は、もちろん敷物の上においたフットボールの球のような有様だ。そこで彼は目をあいたまま、ねむりはじめるのだった。そうして、今も彼はよく眠っているのである。
 怪人丸木は、蚊帳のような形をした減圧箱(げんあつばこ)の中に、だらしなく眠っている。――
 朝日が、天井窓からさしこんで来た。何の音も聞えない。静かな朝であった。人間たちの、さわぎをよそに、丸木はすっかりいい気持で眠っているのだ。
 するとその時、天井からさしこんで来た光が動いた。
 朝日の光が動いたのではない。光の中に、別の人がはいって来たのである。
 影法師の人間が、減圧箱の上に影をなげかけた。大きな頭がうつった。その頭には、不思議にも鬼の角のようなものが生えていた。
 鬼か?
 鬼でもなさそうだ。角は、二本よりも、もっとたくさんあった。そうして束ねた髪の毛のように、ぶらんぶらんゆれていた。
 やがて一本の梯子が、上から下りて来た。そうして床の上についた。
 その梯子を、つたわって、下りて来る者があった。さっき影を見せていた、あの鬼のような人物だった。
 黒いマントを着ていたが、下に下立(おりた)ったところを見ると、それは外でもない千二少年であった。
 ああ、千二少年!
 千二は、今までどこにいたのであろう? 今、千二はただ一人で下りて来た。だが、かわったすがたをしている。黒マントはまだいいとして、たいへんかわっているのは彼の頭部であった。
 角が生えているのかと思ったが、そうではなかった。千二は、妙なかぶとのようなものを、頭にかぶっているのだ。そのかぶとのようなものは、きっちり千二の頭にはまっていたが、そのかぶとの上には、あちらこちら螺旋(らせん)のようなものがぶらさがっていて、千二が歩く度にゆれた。
 とつぜん、あらわれた千二少年!
 妙な形のかぶとのようなものを、かぶっている千二少年!
 その千二は、少し様子がおかしかった。目と言えば、うすく半分だけあいている。歩くかっこうと言えば、頭の方が先に出る。操り人形みたいである。
 その千二少年は、よろよろとよろめきながら、怪人丸木の眠る減圧箱のそばによった。
「ねえ、隊長。もう起きる時間ですよ」
 と、千二は火星語ですらすらと言った。
 丸木は、それが聞えないのか、まだ、眠っている。
 千二は、もう一度同じような調子で言った。
 すると、眠っていた丸木は、ぶるぶると長い手足をふるわせた。と思うと間もなく、丸木は大きな頭を持ち上げて、ぐらぐらとふった。それは、まるで猫がひる寝から目がさめて、背のびをする時のかっこうに、よく似ていた。
「おお、もうそんな時間か」
 丸木はそう叫ぶより早く、体をぐっとちぢめると、床の上を目にもとまらぬ早さで這出した。そうして、あっと思う間もなく、かたわらにおいてあったドラム缶のような、胴の中にとびこんだ。胴はたちまち左右から寄って、ぱちんと、しまってしまった。
 すると、胴中に生えていた手足が、急に勢いよく、ばたばた動き出した。そうして、かたわらにおいてあった首の方へ手をのばすと、それをひょいと肩にのせたのであった。――とたんに、完全な丸木氏が出来あがってしまった。
 不思議な丸木の朝の日課であった。
 千二少年は、少しも驚く様子がなく、そばにじっと立っていた。
 不思議な日課を終えた丸木は、減圧箱の中から出て来た。
 そこで彼は、減圧箱を足でぽんと蹴った。
 すると減圧箱は、ゴム風船がちぢむ時のように見る見る小さくなった。そうして誰もさわらないのに、ポストぐらいの大きさのものになると、ことことと音を立て、ひとりで部屋のすみのところへいった。そこでは、どうしたわけか、かたりと音がして、その折りたたまれた減圧箱を、部屋の隅に、動かないようにくくりつけてしまったのであった。――火星人が持って来た宇宙艇には、このような不思議な働きをするものが、いくつもあった。
「おう、千二。きょうはきげんはどうかね」
 丸木はそう言って、千二のそばへ寄って来た。
「はい、上きげんであります」
 千二は、あざやかな火星語でそう答えた。
 丸木は、手足をばたばたと動かした。それは、うれしいという気持をあらわしているのだった。
 火星人は植物だから情心(なさけごころ)などはなかった。しかし丸木は、火星人の中でもすぐれた人物だったので、このごろ情心というものを自分の心にも植えてみようと思った。丸木はそのために、千二を使っているのであった。
 千二少年は、あれからずっと丸木のため、きびしく監禁されていたが、少年は一度は大きな悲しみに沈み、その後あきらめたのか、ほがらかになった。
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