火星兵団
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著者名:海野十三 

 佐々刑事は、飛びこみざま、相手の顎を下からうんとつきあげた。ぐわんと、はげしい音がした。
「あいたっ」
 佐々刑事は思わず悲鳴をあげた。拳の骨が、くだけたと思ったのだった。相手の顎のかたいことといったら、まるで石のようだ。
 相手は、よろよろとよろめいた。その時佐々は、びっくりして、目をみはった。
「あっ、首が……」
 佐々は、自分の目をうたがった。相手の警官の肩の上から、首が、急に見えなくなってしまったのである。
 警官の首は、どこへいった?
 そんなばかな話があってたまるものではない――と、誰でも思うであろう。ところが、そのばかばかしいことが、ほんとうに起ったのである。佐々は、面くらった。そうして、背筋から冷水をざぶりとあびせかけられたような気がしたのであった。
「おれは、わけがわからなくなったぞ。おれは、相手の首を、たたき落してしまったんだ!」
 首を落された警官は、たおれもせず、そのまま、ちゃんと立っていた。白い繃帯が、ばらりととけて、ひらひらと肩にまつわる。首のないくせに、彼はなおもはげしく、佐々の方にむかって来る。彼の鉄拳が、ぶんぶん佐々の目をねらって飛んで来た。
「あれっ。おれはおかしくなったんじゃないかしらん。首のない人間と、たたかっているのだ!」
 佐々は、こんな気持の悪い思いをしたことは、生まれてはじめてだった。てっきり自分はおかしくなったのだと思った。おかしくなったから、首のない人間が、生きているように見えるのだ。
「ぶうーん」
「あっ、いた――」
 とつぜん、佐々の顎に、相手の鉄拳が、ごつんとはいった。彼は、顎が火のようにあつくなったまでしかおぼえていない。佐々は、はり板をたおすように、どすんと、うしろへたおれた。そうして気を失ってしまった。
 首のない怪人は、ここで、にやりと笑いたいところであったろう。しかし首がないので、笑うわけにはいかない。
 そこで彼は、ちょっとしゃがむと、両手をのばして、うしろに落ちていた首をひろい上げた。
 怪人が、首をぽろりと落した。
 佐々刑事も、そこまではちゃんと見ていたから、間違ない。
 ところが、そのあとで、怪人は腕をのばして、自分の首をひょいと拾い上げたのだった。その時には佐々刑事は、怪人から一撃をくってひっくりかえっていたから、何も知らない。もしも、そこまで見ていたとしたら、恐らく、佐々刑事は自分の目をうたがって、発狂してしまったかも知れない。
 怪人が、首をぽろりと落したこともほんとなら、また、首を拾い上げたことも、ほんとであった。
「そんなばかなことが!」
 と、叱られるかも知れない。だが叱られても仕方がないのである。あたりまえの考え方では、首がぽろりと落ちれば、その人間は死んでしまうのだから。死んでしまった体が、手をのばして自分の首を拾うなんてことが、出来ようはずがないのだ。普通に考えれば、そうであった。
 しかし、事実は、たしかに怪人の首がぽろりと下に落ち、そうして怪人が手をのばして、その首を拾い上げたのである。そのことは決して間違ではない。
 結局、そのように、普通では考えられないことが起ったについては、普通でないわけがあると思わなければならない。そのわけとは、どんなことであるか?
 そのわけの一つは、顎に白い繃帯をしていた警官が、ただ者ではなかったということだ。
 怪人! そうだ、たしかに怪人であった。しかも、この怪人こそは、外ならぬ丸木であったのである。
 丸木だろう――とは、気がついていた読者もおありであろう。しかし、丸木の首が落ちても、丸木は平気で生きていられるんだとは、まさか、だれも考え及ばなかったであろう。
 怪人丸木は、自分の首を拾うと、それを小脇にかかえて、どんどん逃出した。そうして、どこへいったか、姿は闇にまぎれて見えなくなった。
 この怪事件は、佐々刑事が息をふきかえして、始めて大江山課長をはじめ、警視庁の掛官たちに知れわたったのであった。
「その曲者は、きっと丸木だろう。そのへんをさがしてみろ。裸になっている警官が、みつかるにちがいない」
 さすがに、大江山捜査課長は、すぐさま、怪人の正体を言いあてた。
「えっ、丸木があらわれたのですか」
「警官などにばけるとは、ひどい奴だ」
 と、掛官たちは、意外な面持であった。
 大江山課長は、ただちに自ら指揮をして、丸木のあとを追った。
「丸木だと思ったら、かまわないから、すぐピストルを撃て! ぐずぐずしていると、こっちがやられるぞ。あいつは、多分人間じゃないんだろう」
「えっ。課長、丸木は人間ではないのですか」
 と、部下の一人がきいた。
「うん、ばかばかしい話だが、そういう考えにならないわけにいかないのだ」
「課長!」
 その時呼んだのは、佐々刑事であった。彼は、同僚の手あつい介抱で、やっと元気をとりもどしたのだった。
「どうした、佐々。もう大丈夫か」
「さっきは、残念ながら、やっつけられましたが、もう大丈夫です。ねえ、課長。相手は人間でないそうですね。課長が、おばけの存在を認めるようになったとは驚きました。大へんなかわり方ですなあ」
「おばけというのは、どうもことばが悪いがしかし、たしかに、丸木という奴は、おばけの一種だ!」
 課長は、そう言って、唇をかんだ。

 怪人丸木は、どこへ逃げた。
 大江山課長は、部下を励まして、あたりをさがさせた。中にも、佐々刑事は、さっき丸木にやっつけられたくやしさもあって、たいへんな、はりきり方であった。
「こんど丸木に出会ったら、僕は、どんなことがあっても、あいつの首を分捕ってやる」
 佐々刑事は、そんなことを言っていた。
「怪人丸木の首を分捕る? そんなものを分捕って、どうするんだ」
 と、同僚が聞くと、佐々は肩をゆすりあげて、
「ふん、あいつの首の使い道か。僕は、あいつの首をきざんで、ライスカレーの中へたたきこむつもりだ」
「えっ、君は、あいつの首を食うつもりか。とんでもないことだ、君は食人種かね」
「食人種? そうじゃないよ。丸木が人間なら、あいつの首を食べればそりゃ食人種さ。しかし丸木は、人間じゃないんだ。だから、僕は食人種になりはしないよ」
「じゃあ、何になるかなあ」
「食化種さ。お化の味を、僕が第一番に味わってみようというわけさ。もし、おいしかったら、君にも分けてやるよ」
「じょうだんじゃない。お化の肉のはいったライスカレーなど、まっぴらだ」
「さあ、くだらんことを言わないで、早く丸木をさがし出せよ」
「くだらんことを言っているのは、佐々君、君だよ」
 そんなさわぎのうちに、とうとう不幸な半裸体の警官が見つかった。彼は、すっかり官服も帽子も奪いとられて、草むらに倒れていた。課長以下は、すぐさま手あつい介抱を加えたが、残念ながら、もうだめであった。肋骨(ろっこつ)が三本も折れて、ひどく内出血していた。
「かわいそうなことをした」
 と、大江山課長は涙をのみ、
「丸木という奴は、いよいよ人間じゃない。人間なら、こんなに残酷なことは、しないだろうに」


   20 秘密室


 こっちは、新田先生と千二少年とであった。二人は不思議な再会に、手をとって喜び合ったが、話はつきなかった。
 だが、そのうちに、新田先生は、蟻田博士が間もなく帰って来るだろうということに気がついた。そうして、同時に、まだ謎のとけない博士の秘密室のことも思いだしたのである。
 そこで、新田先生は、話をしてみても、しようがないと思ったけれど、千二少年に向かい、
「なあ、千二君。先生は、君を助けようと思って、ここへ来たのではなかったのだ。実は、君のかくれていたところは、蟻田博士の秘密室の床下だったんだよ」
「えっ、博士の秘密室?」
「そうだ。蟻田博士が、たいへん大切にしている部屋なんだ。ところが、その部屋へはいってみたところ、部屋はがらん洞で、何も置いてないんだ」
「空部屋(あきべや)なんですね」
「うん、空部屋なんだよ。ただ、柱時計が二つ、壁にかかっているだけだが、この時計も、べつに変った時計でもなく、昔からよくあるやつだ。しかも、その時計は、ほこりを一ぱいかぶったまま、針はとまっているんだ。先生は、博士がなぜ、あのようなとまった古時計しかない空部屋を、大切にしているのか、わけがわからないので、困っているのだよ」
「そうですか。全く、わけがわかりませんねえ」
 と、千二も、先生も同じように首をかしげた。
「どうだ、千二君、君は床下にいて、何か秘密のあるようなものを、見なかったかね」
「床下で秘密のあるようなものというと……」
 と、千二はしきりに考えていたが、
「ああ、あれじゃないかしら」
「何だ。あれとは――」
 新田先生は、思わず声を大きくして、千二にたずねた。蟻田博士の秘密室の床下で、千二は、何を見たのであろうか。
「それは、博士の秘密だか何だか、わかりませんけれど……」
 と、千二少年は前おきをして、
「僕は床下で、たいへん太い柱を見たんです」
「なに、太い柱?」
「そうです。とても太い柱です。コンクリートの柱なんですよ。太さは、そうですね、僕たちが、学校でよく相撲をとりましたね。あの時校庭に土俵がつくってあったことを、先生はよく覚えていらっしゃるでしょう。柱の太さは、あの土俵ぐらいの太さはありましたよ」
「そうか、小学校の庭の土俵ぐらいの太さといえば、相当太い柱だね。それは柱というよりも、中に何かはいっているのじゃないかなあ」
「そうかも知れません」
「柱の上は、床についているのかね」
「さあ、それはよく、たしかめてみませんでしたけれど、もし床の上に出ているものなら、先生がおはいりになった博士の秘密室のまん中に、その柱が、にょっきり生えていなければならないはずですね。先生、そんなものが、ありましたか」
「いや、あの部屋には、決してそんな柱は見えなかったよ。不思議だなあ」
 新田先生は、腕ぐみして、不思議だなあと、くりかえした。
「いや、とにかく、その柱の中は、調べてみる必要がある。が、どこからはいればいいのかわからない。あの部屋には、別に、その入口らしいものも見えなかったがねえ」
「変ですね」
「なあ、千二君。君は、あの部屋の床下にもぐりこんでから後、もっと何か見なかったかね」
「もっと、何か見なかったかと言うんですか」
 と、千二少年は、またしきりに、前のことを思い出そうとつとめていたが、
「ああ、そうだ。僕は、時計が鳴るのを聞きましたよ、先生」
「え、時計って」
「いや、僕のかくれていた頭の上で、ぼうん、ぼうんと時計が鳴ったんです」
「ああ、そうか。千二君は、床下で、それを聞いたんだね。すると、博士のあの秘密室の柱時計が鳴ったんだな。でも、それは不思議だ」
 新田先生は、首をかしげて、妙な顔をした。
「先生、止っていた時計を直しているから、時計が鳴ったのだと思いますよ」
「ああ、そうか。時計の針を動かしていたんだね」
「きっと、そうなんでしょう。だから、ぼうんぼうんと、幾つも打ちましたよ」
「なるほど、なるほど」
「ところが、先生、それがどうも、へんなんですよ」
「へん? へんとは、何がへんなのかね」
 新田先生は、千二少年の話に、たいへんひかれた。
「その時計の鳴り方ですよ。はじめ、ぼうんと一つうち、次にぼうんぼうんと二つうち、それからぼうんぼうんぼうんと三つうち……」
「つまり、一時、二時、三時だな。すると一時間おきに鳴る柱時計は、めずらしい」
「先生、僕がへんだと言ったのは、そのことじゃありません」
 と、千二は、先生の言葉をさえぎった。
「えっ」
「僕がへんだと思ったのは、ぼうんぼうんぼうんと三つ打ったのち、こんどは四つ打つかと思ったのに、ぼうんぼうんぼうんぼうんぼうんと五つ打ったのです。それから次は六つ、次は七つと、それからのちはあたり前に打っていったのです」
 千二が床下で聞いた柱時計の不思議について、新田先生は、首をかしげて考えこんだ。
「ふうむ、柱時計が一時・二時・三時とうって四時がぬけ、それから、五時・六時・七時とうっていったと言うんだね」
「そうなんですよ、先生」
「不思議だねえ」
 と、新田先生は、四時をうたない時計の謎を、どう解いてよいか迷った。
「ねえ、先生。その時計が四時をうたなかったのは、時計がこわれていて、四時のところでは鳴らないのではないでしょうか」
 千二は、おもしろい答えを考えだした。
「なるほど、それも一つの考えだね」
 と、新田先生はうなずいた。
「しかし千二君、柱時計というものは、たいへんがんじょうに出来ているものだ。四時だけ鳴らないというようなことは、まず起らないと思う。とにかく、それをしらべてみようじゃないか。さあ、先生と一しょに、博士の秘密室へいこう」
 新田先生は、千二をうながして、ふたたび博士の秘密室へはいっていった。
 うすぐらい電灯がつくと、室内は、さっきと全くかわらないがらんとした部屋であった。古びた柱時計が二つ壁にかかっているのも、さっきと同じことであった。もちろん二つの時計は、どっちも動いていなかった。
 千二は、この部屋の殺風景さに、ひどく驚いたようであった。
「先生、この部屋は、何だか、気味のわるい部屋ですね」
「そうだ、あまり気味のよい部屋だとは言えないね」
 そう言って、新田先生は、つかつかと柱時計の下に歩み寄り、時計の中を見ようとしたが、背がとどかない。そこで、先生は、梯子を探しにまた外へ出なければならなかった。
 一体蟻田博士の秘密室と、そうして四時に鳴らない柱時計の謎とは、どのような関係があるのであろうか。
 柱時計の中をしらべるため、新田先生と千二少年とは、部屋を出て、梯子をさがしにいったが、その梯子は、その隣の物置のような室内にあった。
「ははあ、博士は、いつもこの梯子をつかっているのだな」
 脚立のような形をしたその西洋梯子を、新田先生は、秘密室へかつぎこんだ。そうして柱時計の下においた。ちょうど、ほどよい高さであった。
「先生、僕、梯子をおさえていますよ」
「そうかね、じゃあ、先生はのぼってみるよ」
 新田先生は、梯子をのぼった。
 先生は、時計の扉を開いてマッチをつけると、その光をたよりに中をのぞきこんだ。
「先生、何か、かわったものが、見つかりましたか」
「そうだね。時計の中には、ラジオの受信機のように、電線が、ごたごたと引張りまわしてあるよ。しかし、この電線は、何のためにあるんだか、どうもよくわからない」
「先生、四時が鳴らないわけは、わかりましたか」
「うん、今それをしらべているところだが、ええと、この歯車が、時計を鳴らす時にまわる歯車だ。すると――」
 先生は、また新しいマッチをつけて、時計の中をのぞきこんだ。
「――べつに、かわったことはないようだ。三時も四時も、ちゃんと鳴るはずだがなあ」
「四時は鳴るように、なっていますか」
「そうだよ、千二君、今、鳴らしてみよう。聞いていたまえ」
 新田先生は、時計の中へ指を入れて、歯車のかぎを引張った。
 ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん。
「あっ、四つうった」
「なあんだ、ちゃんと、四つ鳴るじゃないか」
 柱時計は、いきなり四時をうったのであった。先生と千二少年とは、拍子ぬけがして、たがいに顔を見合わせた。
 続いて次をうたせてみたが、ちゃんと五時、六時、七時……と、うつのであった。
「ふん、別に、こわれているのではないようだ」
「先生、もう一つの時計を調べましょう。四時をうたないのは、もう一つの時計かもしれませんから」
「よろしい。もう一つの時計も調べてみよう。こんどは、千二君、君が調べてみたまえ」
「ええ。じゃあ、僕が調べましょう」
 先生が下りて、梯子を隣の時計の横にかけかえた。代って、千二少年がのぼっていった。
「じゃあ、先生。僕がこの時計を鳴らしてみますよ」
 第二の時計は、千二の手によって、時をうちはじめた。
 柱時計は九時、十時、十一時……と、正しくうっていった。そうして、三時をうち、次はいよいよ四時の番だ。
「いよいよ、四時のところです。ああ、僕、何だか、気味が悪くなった」
 と、千二は、梯子の上で、すこし顔をこわばらせた。
「何だ、千二君。君は、日本少年のくせに、いくじなしだね」
「先生、僕は、勇気はあるのですよ。ただ、気味が悪いと言っただけです。先生、さあ、聞いていて下さい」
 千二は、指さきで歯車のかぎをおした。すると、第二の時計はいよいよ鳴り出した。
 ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん。
 音は四つだ!
「なあんだ。どっちの時計も、四時をうつじゃないか」
「どうも、へんだね。君はこの時計が四時をうたなかったと言うけれど、今やってみると、第一の時計も、第二の時計も、ちゃんと四時のところで鳴ったじゃないか」
 そう言って、新田先生は、千二の顔を見た。
「おかしいですね。そんなはずはないんだが……」
「たしかに、君は四時をうたなかったと言うのだね」
「そうですとも。僕は、時計が間違なく、四時をぬかしてうったのをおぼえています。間違ありません」
 千二は、きっぱり言った。
「そうかね。それほど言うのなら、間違ないだろう。だが、柱時計は、この通りちゃんと四時をうつんだからね。おかしな話さ」
 先生は、腕ぐみをして、あきれ顔で、柱時計を見あげた。
「これには、何か、わけがあるんだ。――千二君は、この柱時計が、四時をぬかしてうったと言うのに、今鳴らしてみると、どっちの柱時計も、ちゃんと四時をうつ。なぜ、そんなことになるのだろうか。この答えが考え出せないうちは、博士の秘密は、それから先、何にもとけないんだ」
 新田先生は、呻(うな)りながら、しきりに考えた。
「うむ、これくらいの謎が、とけないようでは、地球の人類の生命を救うなんて大仕事は、出来るはずがない。ちぇっ、新田、お前のあたまも、存外ぼんくらに出来ているなあ!」
 知らない者がこれを横から見ていると、新田先生はおかしくなったんだろうと思ったであろう。そばに立っている千二少年も、何だか気味が悪くなった。
 その時であった。新田先生は、急ににこにこ顔になると、
「ああ、そうか。謎はとけたぞ!」
 と、ぴしゃりと手をうちあわせた。
「先生、わかりましたか」
 と、千二は胸をおどらせてたずねた。柱時計がなぜ四時をうたなかったかという謎を、ついに先生がといたと言うのだから。
「わかったよ、千二君。こう考えれば、柱時計が四時をうたないように聞えるではないか」
 と、新田先生は、思わずごくりとつばをのみこんで、
「いいかね。はじめ、第一時計も第二時計もとまっているんだ。そこで、針を指で動かしていくんだ。まず、どっちか第一の時計を、ぼうんと鳴らして一時さ。それから、もっと針を廻してぼうん、ぼうんで二時だ。それから、またさらに針をまわして、ぼうん、ぼうん、ぼうんで三時さ。わかるかね、千二君」
「それくらいのことなら、はじめから、僕にもよくわかっていますよ」
 千二は、先生に、ばかにされたとでも思ったのか、頬をふくらませて答えた。
「それが、わかっているね。そんなら、よろしい。第一時計は、そのままにしておいて、さて次に、第二の柱時計をうごかすのさ」
「はあ、――」
「分針を、十二のところへもっていくと、第二の柱時計は、鳴りだした。ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん、ほら五時だ。五時をうったのだ」
「えっ、五時?」
「そうだ。第二の時計は、五時から鳴りだしたのだ。次は六時、七時……とうっていった。そういうわけだから、四時をうつ音は、聞えなかったんだ」
「ええっ、何ですって」
「つまり、千二君、実際は、二つの時計が鳴ったのだ。それを、君が一つの時計が鳴ったように思ったから、四時がぬけたと思ったんだ」
「ははあ、なるほど」
 ああ、ついに、柱時計の秘密はとけた。
 千二少年は、新田先生のあたまの働きに、すっかり感心してしまった。
(四時をうたないわけは、一つの柱時計が三時をうって終り、次にもう一つの時計が、五時からうちはじめるからだ)
 なるほど、二つの柱時計を、そういう風に鳴らせば、四時のところでは、鳴らないわけだ。先生は、実にすばらしい謎をといたものだ。
 その新田先生は、謎をといたあと、別に嬉しそうな顔もせず、二つの柱時計を、じっと見あげている。
「ああ先生、どうしたんですか。何を考えているんですか」
 と、千二は、先生の様子が心配になって側へよった。
「うん、千二君。先生は今、この柱時計について、もっと重大なことを思いついたんだよ」
「えっ、もっと重大なことって?」
 千二は、先生の顔と、相変らず振子のとまったままの二つの柱時計とを見くらべた。そういわれると、何だかまだ大きな秘密が、そのあたりにもやもやしているような気がする。
「そうだ。先生の考えているとおり、大胆にやってみることにしよう」
 新田先生の眉(まゆ)が、ぴくんと動いた。先生は、何かしら、一大決心を固めたものらしい。
「先生、先生。何を先生はやってみるというんですか」
「おお千二君」
 と、新田先生は、千二の方をふり向いて、急に顔をやわらげながら、
「さっきから、先生は考えていたんだが、今とうとう先生は、たいへんな大秘密をつきとめたような気がするんだ。それこそは、この蟻田博士邸内にある最大の秘密かも知れない。どうやら、これで、この屋敷にがんばっていたかいがあったようだ」


   21 寄(よ)りそう師弟(してい)


 何が、そんなに、新田先生を興奮させているのか。
「先生、大丈夫ですか」
「何が、大丈夫だって。いや、心配しないでもいいよ。そして、これから、先生のやることを見ておいで」
 新田先生は、はりきった顔に、つとめて笑いをうかばせ、なるべく千二君に恐しさをあたえないようにつとめていた。
「さあ、千二君。そこにいては、あぶないかもしれない。君は入口の扉のところへいって、なるべく体を、ぴったりと扉につけておいで」
「先生は?」
「先生は、もう一度時計を鳴らして見る」
「また、時計を鳴らすのですか」
「そうだ。だまって、見ておいで。しかし、あるいは、千二君の思いがけないようなことが起るかもしれない。が、どんなことがあっても、おどろいてはいけないよ」
「先生、僕のことなら、大丈夫ですよ」
 千二は、そう答えて、先生から言われたとおり、入口の扉のそばへ、場所をうつした。
 その間に、もう先生は、柱時計のそばにかけた梯子(はしご)を上っていた。
 先生は、
(千二君、始めるが、覚悟はいいかね)
 といった風に、千二の方を、ふりかえったが、千二が、言いつけたとおり、ちゃんと扉のところで小さくなっているのを見ると、安心の色をうかべて、時計の方へ向きなおった。それから、新田先生は、右の柱時計の針を、指さきでまわして、また、ぼうん、ぼうんと鳴らしていった。一時、二時、三時!
「さあ、こっちの時計は、これでよし。今度は、もう一つの時計の方だ」
 先生は、右の時計を三時のところでとめると、今度は、左の柱時計の方へ手をのばして、ぼうん、ぼうんと鳴らしはじめた。
 一体、何事が起るのだろうか。
 ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん。
 第二の柱時計は、あやしい音を立てて、五時をうった。
 その音を聞いていた千二は、何だか、背中がぞくぞくと寒くなるのを覚えた。
 新田先生の指が動くと、時計の針は、またぐるぐると廻って、やがてまた、ぼうん、ぼうんと、あやしい音を立てて鳴り出すのであった。
「ああ先生! 新田先生!」
 と、千二は、先生の後から、呼びかけてみたくなった。でも、どうしたわけか、のどから声が出なかった。
 第二の柱時計は、続いて、ぼうん、ぼうんと鳴りつづける。そうして、ついに八時をうってしまった。
 その時、何思ったか新田先生は、後を向いた。
「おお、千二君。よく注意しているかね。さあ、この次は、いよいよ問題の九時をうたせるから、君は、おへそに、うんと力を入れておいでよ、ね」
 千二は、返事をするかわりに、無言でうなずいた。
「さあ、いよいよ始るぞ。九時をうたせても、鼠一匹出て来なければ、ことごとく先生の失敗に終る!」
 荒鷲の巣へしのびよって、巣の中の卵へ、いよいよ手を、にゅっとのばした猟師のように、新田先生の顔は、一生けんめいな気持で真赤になっていた。
 ぼうん、ぼうん、ぼうん……
 いよいよ柱時計は九時をうち出した。
 すると、新田先生は、急に、梯子から、どかどかと下りた。そうして、時計の下の壁ぎわにぴったりと体をよせ、なおも鳴りひびく怪時計の音に、注意ぶかく聞入った。
 ぼうん! ついに時計は、九時をうち終った。
 その時、柱時計の下で、壁にぴったりと、からだをよせている新田先生のはげしい興奮の顔!
 また入口の扉を背にして、何事が起るかと、目をみはっている千二少年の顔!
 ぎいーっ、ぎいーっ。
 床下にあたって、歯車か何かが、きしる音!
「ううむ……」
 と、新田先生はうなった。
 ぎいーっ、ぎいーっ。
「あっ、床が……」
 千二は、思わず驚きの声をあげた。
「しっ!」
 新田先生が、叱りつけるように叫んだ。そうして、両眼を皿のようにして床を見つめている。
 見よ! 床が、動いているのだ!
 秘密室の床が、真中のところで二つに割れて、しずかに左右に分れていく。そうして、その間から、まっくらな床下の穴が見えて来た。だんだんと、そのまっくらな四角な穴は広がっていく。
 千二少年は、息をつめて、それを見ていた。なぜこうして、床が、動きだしたのであろうか。
 新田先生は、ついに、二つの柱時計の謎をといたのだった。一方の時計を三時までうたせ、それからもう一方の時計を九時までうたせると、それが組合わせになって、この床を左右に開く仕掛が働き出すのであった。つまり、そのように二つの時計を鳴らさせるということは、錠前を鍵ではずしたことにもなり、また、床を動かす仕掛のスイッチを入れることにもなるのだった。これが蟻田博士が、この部屋に仕掛けておいたすばらしい秘密錠なのだ。
 動いて、割れる床!
 蟻田博士の秘密室には、こんな思いがけない仕掛があったのだ。博士は、床に錠前をかけておいたのでは、合鍵などをつかって人にあけられるのを恐れるあまり、こうした暗号のような仕掛をつくっておいたのだ。
 床は、いつしか、動かなくなった。ぎいーっ、ぎいーっという歯車のきしる音も、今は聞えなくなった。そうして、だだっぴろいこの秘密室の床の上には、まん中のところに、ぽっかりと四角な穴が取残されていたのであった。
 新田先生は、しずかに、柱時計の下から体を動かして、壁にそって、千二のところまで、ぐるっとまわって来た。
「どうだ、千二君。さぞ驚いたろうね」
 新田先生は、千二が、どんなにびっくりしたかと、それが心配になって、やさしくそばへ近よったのであった。
「ああ、先生。僕、大丈夫です。けれども、あまり思いがけないことが起ったので、はじめは胸がどきどきしました」
「そうだろうね。あの柱時計が、たいへんな仕掛になっていたのだ。とうとう床がひらいたよ。博士は、なかなか用心ぶかい」
「先生、床の下には、何があるんでしょうか」
「さあ、何があるか、先生には、まだよくわからない。とにかく、下をのぞいてみよう。千二君、君はついて来るかね。それとも、ここに待っているかね」
 先生は、千二の気持をたずねた。
「先生、僕は、先生の、おいでになるところなら、どこへでも、ついて行きますよ。つれて行って下さい」
「行くかね。そうか。大丈夫かね」
「先生。僕は、もう火星の化物でも何でも、恐しいなんて思いません。どこまでも戦うつもりです」
 たしかに、千二少年は、昔の千二少年とはちがって、強くなったようだ。
 火星のボートにつれこまれたり、怪人丸木にいじめられたりしている間に、彼は、だんだん勇気が出て来たのだ。そうして、世の中をさわがす怪しい物の正体を、どこまでもつきとめたいという気持で、はりきっていた。
 ことに、自分の先生である新田先生が、わざわざ学校をやすんで、千二のことを心配して、一生けんめいにやっていてくださることを知った時、千二は、自分もまた先生の親切にむくいるため、しっかりしなければいけないと、決心したのであった。
「先生、じゃあ、勇敢に、床下の様子を、さぐって見ましょう」
「ほう、千二君。ばかに元気だなあ」
 と、新田先生は、感心の言葉を洩らして、
「だが、もうそのうちにへ蟻田博士が、かえって来そうだから、早いところ、床下を探検して見よう。なるべく、足音を忍ばせ、先生のうしろについておいで」
 新田先生は、千二の肩に手をおいて、はげますように言った。
 さあ、柱時計の暗号鍵によって開かれた床下には、一体何が秘められているのであろうか。
 二つに左右に割れた床の穴に近づいて、下をのぞくと、そこには古びた木製の階段がついていた。懐中電灯をつけて、その階段の下の方を照らして見たが、光がよわくて、よく見定めることが出来なかったが、とにかく階段は、かなりはるか下までつづいているようだった。
 先生は、先になって、その階段を踏み、しずかに下りはじめた。古びた木製の階段は、ぎちぎちと音を立てた。
 この階段は、大きな煙突の中に仕掛けてあるようなかっこうをしていて、まわりは、厚い壁でとりかこまれていた。だから、ちょっと靴の先が階段の板にぶつかると、とても大きな反響がした。


   22 怪動物


 真暗な階段を、新田先生と千二少年とは、足音をしのばせつつ下りていく。
 その階段は、なかなか長くつづいていた。まるで、ふかい井戸の中にはいっていくような気がした。千二少年は、あまりいい気持ではなかった。
 先に立って、懐中電灯を光らせていた新田先生が、この時、ふと足をとめた。
(おや先生が、立止った!)
 と、千二は、すぐ、それに気がついた。
 その時、先生の手が、千二の肩を、静かにおさえた。
(動いてはいけない。静かに!)
 と、先生の手は、言っているようだった。
 千二は、もちろん、動かなかった。そうして、これは何事かがあるのだと思ったので、耳をすまして、先生の合図をまった。
「おい、千二君。君には、聞えないかね」
 新田先生が、千二の耳もとに口をつけて言った。この井戸の中のような階段にはいって後、始めてのことばである。
「えっ、聞えないか――とは、一体何が?」
 千二は、自分の耳に、全身の注意を集めた。
「ああ、――」
 千二は、その時、思わず、低く叫んだのであった。
 何か、聞えるようだ。
 気のせいかと思うが、そうではない。何だか、口笛を吹いているような音が、地底(ちてい)から、聞えて来るのだった。
「先生、僕にも聞えます。口笛を吹いているような音でしょう」
「そうだ」
 先生のあつい息が、千二の耳たぶにかかった。
「おい千二君。あの音は、一体、何の音だろうね」
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 地底から、かすかに響いて来るその気味の悪い怪音は、一体、何であったろうか。
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 誰かが、地底で、口笛を吹いているように聞える。
 だが、まさか、こんな地底に、人間がいるとは思われない。
 では、機械の音ででもあろうか。
 新田先生と千二とは、よりそって、なおもその怪音に聞入った。
「千二君、機械の音にしては、何だかへんだね。だって、早くなったり遅くなったりするようだよ」
「そうですか。機械の音でないとすると、何でしょうか」
「どうも、わからない」
 と、先生は吐きだすように言った。
「もし、地底に、誰かがかくれているのだったら、われわれは今、たいへんあぶないことをやりはじめたことになるのかも知れない。と言って、せっかくここまで来たのだから、このまま引きかえすのも残念だ」
 新田先生は、どうしようかと困っているらしい。
「先生、やっぱり、下へおりてみようではありませんか」
 と、千二は、勇敢に言った。
「下へおりると言うのだね。よし、そんなら、行ってみよう。さらに一そう用心をしておりて行くのだよ」
 それから二人は、さらに足音を忍ばせて階段をおりて行った。
 すると、階段が尽(つ)き、二人はしめっぽい土のうえにおりた。
 懐中電灯の光でさぐってみると、あたりは、なかなか広い。それだけに、気味の悪さは、一そう加わった。
「おお、あの見当だ。おや、ぽうっとあかりが見えるぞ」
 暗い廊下の奥に、穴でもあるらしく、下からぽうっと、光が天井の方へ映っている。
「何の光であろうか?」
 新田先生と千二とは、やっと並んで歩けるほどの、狭いその廊下をしのび足で、奥へ前進して行った。
「這って行こう」
 先生の注意で、千二も、しめっぽい土の廊下に腹ばった。
 ひゅう、ひゅう、ひゅう。
 ひゅん、ひゅん、ひゅん。
 奇妙な笛みたいな音は、だんだん大きくなって来た。
 千二は、その音を聞いているうちに、いつか、どこかで、そのような音を聞いたことがあるような気がして来た。
(はてな! 一度聞いたことがあるようなあの音? どこだったかなあ)
 新田先生は、ぐんぐん前進して、ついに腹ばいのまま、穴のふちのところまですすみ寄った。さすがに、これから先は、先生もよほどの覚悟をもってのぞまなければならない。先生は、その覚悟をつけるためか、二、三度大きい息をした後、思い切って、穴の方へそっと頭をさしのべた。今こそ、穴の中の光景が、見えるところへ来たのである。
 さあ、先生は、穴の中に一体何を見たであろうか。
(ああ――)
 先生は、石像のように、固くなった。大きなおどろきが、先生をそうしてしまったのである。
 見よ! 穴の中には檻が見えた。
 その檻の中には、何やら暗いなかにうごめくものがあった。
 ぽうっとうす桃色に光っているが、先生が、その怪しいうごめく物の形を、はっきり見きわめるには、かなり手間がとれた。
(ああ、不思議な動物だ! 見たこともない怪しい動物だ! 一体、あれは何であろうか!)
「見たか、千二君」
 と、新田先生は、千二を後から抱きながら、おどろきを伝えた。
 千二は、無言で、うなずくばかりであった。
 うすぼんやりした光を放っているその怪物は、何だか大蛸(おおだこ)のようなところがあった。頭がすこぶる大きくて、目玉がとび出しているところは、蛸そっくりであった。
 だが、蛸とは似ていないところもあった。それは、その大きな頭の上から、二、三本の角みたいなものが出て、それがしきりに動いていることだった。いや、角というよりも、蝶や甲虫などの昆虫類が頭部に持っている触角に似ていて、しきりにそれが動くのであった。
「不思議な動物じゃないか」
 新田先生は、たいへん感心して、はじめに感じた恐しさを、どこかへ忘れてしまったようであった。
 千二は、やはりうなずくばかりであった。
 その怪物は、はじめ床の上に、ぐにゃりとなっていたが、しばらくすると、むくむくと立上った。そうして、ぶらぶらと室内を歩き出したものである。
 その時、また奇怪なことを発見した。その動物には、人間や獣にあるような胴というものが見当らなかった。いや、胴はあるにはあるがたいへん細く、そうして短く、枕ぐらいの大きさもなかった。
 足はあった。その足を使って怪物は立上り、床の上をゆらゆらと動いているのだった。
 その足のまわりに、長い手のようなものがぶらぶらしているのが見えたが、その長い手はむしろ、蛸の八本の足に似ていて、ぐにゃぐにゃしていた。しかし、ずいぶん細い手であった。
 細いのは手だけではない。足もまたひょろ長いが、乾大根のように細い。
「どうも、不思議な動物だ」
 と、新田先生は、低くささやいた。
「熱帯地方にいるくも猿は、手や足がたいへん長い。胴は、ほんのぽっちりしかないように見える。だから、くも猿かしらんと思ったが、そうでもなさそうだ」
「先生、やはり大蛸ではないのですか」
 千二は、やっと、自分の考えを言ってみた。蛸とはちがったところがあるが、しかし、蛸に一ばんよく似ているのであった。
「そうだね。蛸と思えないこともないが、蛸にしては、檻の中で、あんなに活発に生きているのが変だね。何かあれに似たものがいたが、はて何であったろうか」
 と、新田先生は、しばらく考えていたが、
「ああ、そうそう。これは熱帯地方にあるものだが、たこの木という植物がある。これは、今見えているあの怪しい動物のように、小さいものではなく、大きな木だけれど、そのたこの木のかっこうが、どこやらあの動物に似ている」
「先生、今下に見えているのは動物ですねえ。そのたこの木は、植物なんでしょう。たこの木と言っても、動けないのでしょう」
「もちろん、そうだ。地面に生えている大きな木だから、動けるはずはない。千二君、先生は、形のことだけを考えて、たこの木に似ていると言ったんだよ」
 いくら考えても、この不思議な動物の正体は、わかりそうもなかった。
「ああ、先生」
 と、その時千二が叫んだ。
「何だい、千二君」
「先生、一ぴきだけかと思ったら、まだ奥の方に、もう一ぴきいますよ」
「なに、二ひきだって。どれどれ」
 檻の奥の、うす暗いところを見ると、なるほど、もう一匹の怪しげな動物が、眠っているのか、丸くなっている。
 地底にうごめく二匹の怪しい動物!
 新田先生と千二とは何だか、夢を見ているような気がしてならぬ。
「ねえ、千二君。あの動物のそばへよって、もっとよく見たいものだね」
「ええ」
「どこか、そのへんに、下りるところがあるのではないか。さがしてみようよ」
「ええ」
「ああ、千二君、こわければ、先生について来なくてもいいよ」
「いえいえ、僕、一しょに行きます。しかしねえ、先生。あの怪しい動物は一体何でしょうか。先生は、すこしも、見当がついていないのですか」
 千二は、熱心にたずねた。
「まだ、わからない。全く、わからない」
「そうですか」
 と、千二は、ちょっと考えていたが、
「実はねえ、先生。僕はさっき先生が、穴の中にへんな動物がいる、と言われたので、のぞきましたね。その時、僕は、それは火星の動物じゃないかしらと思ったのです。つまり、いつか、火星のボートに残っていた、怪しい奴のことを思い出して、また、あれと同じかっこうをした奴ではないかと思ったんです」
「うむ、うむ。それは、なかなかいいところへ気がついた。それで……」
「それで、穴の中をのぞいて、よく見たのですが、違っていました」
「違っていた?」
「そうです、たしかに、違っていました。火星のボートに乗っていた奴は、僕と組みうちしたことがありますが、それは体が、たいへん固いやつでした。まるで、鉄管のような固い体を持っていました。それから、大きさも、ずっと大きいやつでした」
「ふうむ、そうかねえ」
 先生は、小首をかしげた。
 新田先生と千二少年とは、あくまでも、その地底の怪物の正体をつきとめる決心をして、穴の中へ下りていく道を探した。
 ところが、その道は、どこにあるのか、なかなか見つからなかった。
 そんなことで、まごまごしていた二人は、とうとう、かなりの時間を費してしまった。
 もちろん、新田先生は、蟻田博士がやがてかえって来るだろうから、早くこの地下室を引上げなければならないと思っていたのであるが、ふと気がついてみると、もうぐずぐずしておられないほど、時間がたったことがわかった。
「千二君。もう、ここを引上げよう。ぐずぐずしていて、蟻田先生に見つかると、たいへんなことになるから……」
「ええ、わかりました。でも、残念ですねえ。もっと、あの怪物をよく見たいのですが」
「仕方がない。この次のことにしよう」
 二人は、ふたたび例の狭い階段の下へ来た。そうして、千二少年が先に、先生がその後からついて、その曲った階段をのぼって行った。
「おや」
 先に立って階段をのぼって行く千二が、とつぜん叫んだことである。
「どうした、千二君」
「先生、どうも、へんですよ」
「何が、へんかね」
「だって、階段をのぼりきったところは、天井で、ふさがっているんです」
「天井で、ふさがっているって。それはどういう意味かね。この階段の上には、さっき僕たちがはいった床の割目があるはずだ」
「それが、ないのですよ」
「なにっ」
 先生は、驚いて、懐中電灯を上に向けた。なるほど、これはへんだ。階段の口は、いつの間にかしまっていた。


   23 国際放送


 日本時間で言えば、その日の真夜中のことであるが、ロンドンとベルリンとから、同時に、驚くべき放送がなされた。
 ロンドンでは、時の王立天文学会長リーズ卿がマイクの前に立ち、また一方、ベルリンでは、国防省天文気象局長のフンク博士がマイクの前に立った。
 この二人の天文学の権威ある学者は、一体何をしゃべったのであろうか。不思議なことに、二人の話の内容は、はんこで捺(お)したように同じであった。違っていたのは、
「わが英国民諸君、および全世界の人類諸君よ!」
 というリーズ卿の呼びかけの言葉と、
「わがドイツ民族諸子、および全世界の人類諸君よ!」
 というフンク博士の呼びかけの言葉だけだった。
「ああ、諸君。本日ここに、諸君を驚かすニュースを発表しなければならない仕儀となったことを、予は深く悲しむものである。諸君よ、諸君が今足下に踏みつけている地球は、遠からずして、崩壊するであろう。従って、わが人類にとって一大危機が切迫していることを、まず何よりも、はっきり知っていただきたい」
 と言って、ここで講演者は言いあわせたように、しばし言葉をとどめ、
「なぜ、われわれの地球が崩壊しなければならないか、それを語ろう。わが太陽系は、非常な速力を持ったモロー彗星の侵入をうけている。われわれは、本日念入な計算の結果、わが地球が、このモロー彗星との衝突を避け得ないという、真に悲しむべき結論に達した。われわれは、直ちに善後策の研究をはじめたが、如何なる有効な損害防止方法が発見されるか、それは神のみ知ることである。ちなみに、モロー彗星との衝突は、来る四月の初である」
 講演者の声はふるえていた。
 ロンドンとベルリンとからの驚くべきニュース放送は、まだつづいた。
「われわれは、近くこの対策について、国際会議を開くつもりで、もうすでにその仕事を始めた。八十億年のかがやかしい歴史の上に立つわれわれ地球人類は、今こそあらんかぎりの智力をかたむけて、やがて来らんとする大悲劇に備えなければならない!」
 マイクの前の講演者は、ここで、一きわ声をはりあげた。
「われわれは、決して、悲しんでばかりいてはならないのだ。この非常時において、何かのすばらしい考えが飛出さないものでもない。そうして、大悲劇をいくぶんゆるめ、たとい地球が崩壊しても、幾人かの幸運者は、後の世界に生残るかもしれない。われわれのゆく手は、全く暗黒ではないと思うから、この放送を聞かれた方々は、大いに智慧をしぼり、いい考えが出たら、私のところへお知らせねがいたい。お知らせ下さった避難案は、われわれの会議にかけ、よく研究してみるであろう」
 と、ひろく一般から、来るべき災難をさける方法をつのり、おしまいに、
「わが愛する地球の全人類よ。どうか、最後まで元気であれ。そうして、人類の恥になるようなことはしないように」
 と、言葉を結んだのであった。
 驚くべきニュースであった。
 一般の人々にとっては、まさに寝耳に水をつぎこまれたような大きな驚きであった。
 地球が、近く崩壊するのだ!
 モロー彗星というやつが、われわれの住んでいる地球にぶつかるのだ!
 大宇宙におけるその衝突は、来る四月だ!
 この放送を聞いた人は、はじめはとても信じられなかった。これはラジオドラマの一節じゃないかと、幾度もうたがってみたのであるが、不幸にも、それはラジオドラマでないことが、だんだんはっきりして来た。
 ロンドンとベルリンとから放送された地球崩壊の警告講演は、もちろん地球の隅々にまでも達した。
 その国際放送は、すぐさま録音せられ、そうして自国の言葉に訳され、時をうつさず再放送されたのであった。
 新聞社は、驚くべき手まわしよさで、このことを号外に出した。
 各国市場の株は、がたがたと落ちた。
 銀行や郵便局には、貯金を引出す人々が押掛けて来て、道路は完全にその人たちによってうずまった。自動車も電車も、みな立往生である。
 わりあいに落着いて、パイプを口にくわえて、この有様を見ていた老いたイギリス人が、がてんがいかないという風に首をふりながら、
「あいつら、何をさわいでいるのか、わしには、とんとわからん。地球がこなごなにこわれてしまうものなら、いくら札束を持っていても何にもならんじゃないか」
 すると、そばを通りかかったアメリカ人らしい若者が、
「おじいさんには、わからないのかね。僕は、銀行にあずけてある金を全部引出して、さっそく大きい風船をつくるのだ。ガスタンクほどもある大きいやつをね」
「ほほう、そうかね。そうして、その風船をどうするのかね」
「つまり、彗星が地球に衝突すると、地球が、こなごなになるでしょうがな。とたんに僕は、その大きな風船にぶらさがるのさ。すると、足の下に踏まえていた地球がなくなっても、僕は安全に宇宙に浮かんでいられるというわけさ」
 若者は、とくいになって言った。
「そうかね。それもいいが、わしは、彗星が地球にぶつかる時、お前さんの風船だけを残していかないだろうと思うんじゃが……」
 と老人が言うと、若者は、な、なあるほどと言って、とたんに腰をぬかしてしまった。
 モロー彗星が地球に衝突するという放送ニュースは、日本の国際無電局でもアンテナにとらえることが出来た。
 その驚くべきニュースは、事柄が事柄だけに、一時発表がとめられた。そういうことをいきなり発表すると、国内の人々がどんなに驚き、そうして騒ぎ出すかも知れなかった。また、そのようなニュースが、あるいは嘘であるかも知れないので、ともかくも、よく調べた上にしなければならないと、当局者は考えたのである。
 それで、この驚くべきニュースは、まずわが国の、一ばんえらい天文学者の集っている学会へ知らされ、ほんとか嘘か、これについて問合わせがあった。また一方では、警視庁のようなところへも知らせがあって、騒ぎの起らないように注意をするようにと、上からの命令があった。
 大江山捜査課長のところへも、すぐさま知らせがあった。課長は、ちょうど、麻布の崖下で、崖から落ちた例の自動車事故の事件について、夜もいとわず、怪漢の行方について取調をしているところだったが、この驚くべきニュースを受けると、現場はそのままにして、急いで本庁にもどった。
「課長、さっきから、面会人が待っておりますが……」
 と、部下の刑事巡査が、外から帰って来た課長の姿を見るなり、言ったことであったが、課長は、気ぜわしそうに首を振ると、
「ううん、面会人なんか後だ。それどころじゃない。まず、大変な事件の報告を聞くのが先だ」
 と言って、奥の総監室に姿を消した。
 総監は、真夜中にもかかわらず出て来ておられた。これは、それほど大きい事件であった。
 何の打合わせがあったかわからないが、それから三十分ほどたって出て来た大江山課長の顔色は、いつになく、朱盆のように赤かった。
 総監室を出て来た大江山課長は、たいへん興奮のありさまであった。
 彼は、すぐさま自分の席にとって返すと、首脳部の警部たちを集めて、何ごとかを命令した。すると、その首脳部の警部たちは、共にうなずいて課長の前を下った。どの人の顔も緊張しきっていた。警部たちは、そのまま外に出て行った。
 だんだんと、モロー彗星事件の波紋は広がって行く。警部たちは、まためいめいに自分の部下を集めて、鳩のように首をあつめ、何事かを伝えた。
 それから、電話掛と無電掛がたいへんいそがしくなった。驚くべき警報と、何事かの密令とが、方々にとんで行ったのである。
 そのうち、警官たちは一隊又一隊、剣把をとってどやどやと外に出て行った。庁内は、もう胸くるしいほどの緊張した空気で、満ち満ちていた。
 その時、課長室の扉があいて、大江山課長が、顔を出した。
「おい、佐々刑事はいるかね」
 机の上で電話をかけていた掛長が、
「いや、ここにはおりません」
「どこへ行ったのか、君は知らんか」
「はい、佐々君は、やはり麻布の崖の下で、警戒と捜索にあたっているはずであります」
 課長は、なるほどとうなずき、
「そうか。電話をかけて、すぐ彼に帰って来いと、言ってくれ」
「はい、かしこまりました」
 課長が、また室内に引きこもうとすると、当番の刑事巡査が飛んで行って声をかけた。
「課長。あの面会人ですが、いつまでおれを待たせると言って怒っていますが……」
「ああ、面会人だ。どこの誰かね、その気の短い面会人は?」
「蟻田(ありた)――だと、申していました」


   24 博士怒る


 モロー彗星が、わが地球に衝突する――という国際放送を受けて、にわかに、色めき立ったわが警視庁!
 その騒ぎの中に、大江山課長をたずねて来た蟻田博士が、あまり待たされるので、とうとうおこり出したという知らせであった。
「おお、蟻田博士だったのか、その面会人は……」
 と、課長も大へん驚いたが、
「そうだ、ちょうどいい。博士に、すぐ会おう。今、すぐお目にかかるからと、そう言ってくれ」
 と言えば、課長の前にかしこまっていた取次の刑事巡査は、ほっとした面持で、
「はい、そう申します。いや、どうも、あの蟻田博士という人は、扱いにくい人で困りましたよ」
 と言って出て行ったが、間もなく入口のところで、その巡査の言争う声が聞えた。
「もし、蟻田博士、困りますなあ。こっちへ、はいることはなりません」
「いいやかまわん。大江山氏がすぐに会うというのだから、わしの方で、はいって行くのは、一向かまわんじゃないか」
「だめです、博士。応接室でお待ち願います」
「おうい、まあいい、博士をこっちへお通し申せ」
 博士は、相変らずなかなか強情であった。白髪あたまをふりたてて、つかつかと大江山課長の前に近づくなり、
「おお、大江山さん。留置場にいる千二という少年に会いたいのだ。すぐ会わせてくれたまえ」
「千二少年ですか。彼は……」
 と言いかけて、
「博士は少年に何用ですか」
「うむ、千二が、一しょにつれになっていた丸木という怪漢について、話を聞きたいのだ」
「丸木? 博士は、丸木について、何をお知りになりたいのですか」
 と、大江山課長は、博士を怒らせないように、ていねいな言葉でたずねた。
「そんなことを、君たちに言ってもわからんよ。早く千二少年に会わせてくれ。その上で、君たちは、わしたちの話を、よこで聞いておればいいじゃないか」
「それでもけっこうです。が、博士。あの丸木という奴は、一体、何者なんですかねえ」
「丸木は、一体何者だと言うのか。ふふん。君たちは、わしを変だと思っている。だから、わしが言って聞かせてやっても、一向それを信じないだろうから、言わない方がましだよ」
「いえ、博士。ぜひとも教えていただきたいのです。私は、今までたいへん思いちがいをしておりました。博士に対して、つつしんでおわびをいたさねばなりません」
 課長は、そう言って、頭を下げた。
 すると博士は、びっくりしたように、目をみはったが、やがてにやりと笑い、
「ふふん、そういう気になっているんなら、まだ脈があるというものだ。だが、今さらわしが話をしてやっても、君たちに、どこまで、わしの言うことを信じる力があるかどうか、うたがわしいものじゃ」
「博士。私は、しんけんに、お教えを乞います。あの丸木という人は、何者なんですか」
「あの丸木かね。あれこそ、火星兵団の一員だよ」
「えっ、火星兵団の一員?」
 よくやく博士から釣りだした答えであったけれど、課長は、事の意外に、思わず大きなこえで反問した。
「そうだとも。火星兵団のことについては、ずっと前に、わしが君たちに警告した。そうしてわしは変だと言われたが、丸木こそ、その一員にちがいないと思うのだ」
 博士は、たいへんなことを言出した。
(丸木という怪人こそ、火星兵団の団員だ!)
 蟻田博士は、大江山課長の前で、そのように言切ったのだった。
 火星兵団――というのは、さきに蟻田博士が宇宙からひろいあげた言葉であった。そうして、蟻田博士は、そのことを放送したため、大事件を起したことは、読者も知っておられる通りである。だが、大江山課長は、この火星兵団のことをちょっと忘れていたかっこうだ。今、博士の口から、火星兵団という言葉を聞いて、はっと思い出したのであった。
(そうだ。この蟻田博士が、いつかこの火星兵団のことで、ばかばかしい警告放送をやったことがあったが……)
 大江山課長は、火星兵団のことを、前の時のように、今もばかばかしいと、片附けるわけにいかなくなった。先ほど警視総監の前で、モロー彗星が、やがて地球に衝突すると聞いてからは、宇宙というものを、あらためて見なおさないわけにはいかなくなったのだ。
 昨日までのわが捜査課は、主として日本内地だけをにらんで仕事をしておればよかった。ところが、今日からは、大江山課長は、地球の外に果てしなくひろがる大宇宙にまで目を光らせなければ、すまないことになったのである。
(火星兵団? そうだ。これをあらためて考えなおす必要がある!)
 しかも、課長の驚きはそればかりではない。蟻田博士は、火星兵団員というものがあると言放ったのだ。そうして、この間から、捜査課をあげて、みんなで手わけして大童(おおわらわ)で探しているあの怪人丸木が、その火星兵団員だという蟻田博士の言葉は、二重三重に大江山課長を驚かせ、そうして、彼のあたまを、ぼうっとさせてしまった。
「ふうん、たいへんなことになった」
 と、課長はとうとう本音をはいた。
「早く千二少年に会わせて下さらんか」
 と蟻田博士は、白い髭の中から唇を動かした。
「ええ」
 と、大江山課長は返事をしたが、千二少年は、もうこの警視庁にはいないのである。
 そのことを博士に言うと、博士はたいへん怒った。
「じょうだんじゃない。さっきから、千二少年に会わせてくれと言っているのに、いないならいないと、なぜ早く教えないのか」
 これには、課長もまいった。博士の怒るのは道理であった。だが課長としては、自分が今困っている問題につき、博士から一刻も早く知識をすいとりたかったのである。それは課長の利益だけではなく、広く日本人のためになることでもあったから、そうしたのである。はじめから、千二はいないと答えれば、博士は、そうかと言って、そのまま帰ってしまったであろう。でも博士の怒りは、なかなかしずまらなかった。
「うーん、けしからん。君たちはいつでもそうだ。このわしを、だましては喜んでいる」
「博士、それは違います。警察官がだますということは、ぜったいにありません。どうか、考えちがいをしないように願います」
「いや、いつもわしをだましているぞ。この後は、君たちが何を聞いても、わしはしゃべらないぞ。そうして、わしはわしで勝手に思ったことをする」
 博士は、いよいよきげんが悪い。ステッキをにぎつている博士の手は、ぶるぶるとふるえて、今にも課長の机の上の電話機を叩きこわしそうである。低気圧がやって来たようなものだ。
 これには、さすがの課長も困ってしまった。が、ふと思いついた一策!
「蟻田博士。あなたに、おもしろいものをごらんに入れましょう」
 博士は、おこってしまって、席を立ちかけたところだった。そこへ、とつぜん課長から声をかけられたのだった。
「おもしろいものを見せるって?」
 博士は、その言葉にすいつけられたように、後へかえりかけたが、
「いや、もうその手には乗らないぞ。わしは、もう君たちとは会わんつもりだ」
 課長は、博士の言葉にはかまわないで、後にあった金庫をあけて、一つの長い箱を持出した。
「博士、さあ見て下さい。これは、火星の生物が落していったものです。一体、これは何だと思いますか」
 課長が箱の中から取出したものは、いつか千葉の湖畔でひろって来た不可解な、むちのようなものだった。課長には、それが何であるか見当がつかなかった。また、課員に見せて智慧をしぼらせたがやはりわけがわからない。
 仕方がないので、それを、鑑定してもらうため大学へ送ったが、あいにくその方の先生が旅行中で、鑑定が出来ないことがわかったので、ふたたび課長のところへもどって来たものだった。それを思い出したので、課長は、博士に見せることにしたのだった。

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