火星兵団
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著者名:海野十三 

 もちろん怪人丸木はすぐさま、この湖へひきかえしたのにちがいない。ボロンの壜は火星のボートの中に持ちこまれたことであろう。それからしばらくして、火星のボートは湖の底から、空へ向けて飛出したものと思われる。
 新田先生のすぐれた頭脳の力は、遂にここまで、怪事件を解いた。しかし先生も、ボロンがなぜ火星のボートに入用であるか、それについては知らなかった。


   10 異常現象(いじょうげんしょう)


 新田先生は、東京へ引返した。
 そのわけは、千二の父親が、真夜中に天狗岩のそばで見た火柱というのが、どうやら「火星のボート」と言われた怪ロケットの出発するところだったらしいので、さっそくこれは東京へ帰って、別な方面から調べたがいいと思ったからである。
 両国駅のホームで電車から下りた新田先生が、階段を下りて外に出ようとした時、
「やあ新田さん、どうしました」
 と、声をかけられた。
 その声のする方をふり向いて見ると、そこには背広服の紳士が立っていて、やあと帽子を取った。
「やあ――」
 と、新田先生は挨拶を返したが、その紳士の顔は、どこかで見たおぼえがありながら、どうも思い出せなかった。
「はて、あなたは、どなたでしたかしらん」
「おや、もうお忘れですか。私は、捜査課長の大江山ですよ」
「ああ、そうだ。大江山課長でしたね。いや、これは失礼しました」
 と、先生は、その失礼をわびたが、その後で首をかたむけ、
「しかし、どうもおかしいですね。僕がお目にかかった大江山さんは、もっとお年をめしていた方のようでしたが……おつむりなども、きれいさっぱりと禿げておられましてね」
 それを聞いて、大江山課長は、苦笑した。そうして課長は、新田先生の耳のそばへ口をよせると、低い声で、
「いや、はげ頭は、あれは、私が変装していたんですよ。初めて人に会う時は、相手がどんな人かわからないから、あのように変装してお目にかかることにしているのですよ。私は、あんな禿げ頭の年寄ではありません。どうか、よく見直してください。はははは」
 両国駅頭で、大江山課長と禿頭問答をやった新田先生は、急になんだか和やかな気持になった。
「大江山さん。僕はいま千二少年の父親をみまって、東京へ帰って来たところですが、あの千蔵さんは大怪我をしていますよ」
「そうだそうですね。それを聞いたので、私たちもこれから、あっちに出かけるところだが、あなたに先手をうたれたわけですね。それで、何かへんな噂を聞かなかったですか」
「ああ聞きました。火柱の一件でしょう」
 そこで新田先生は、千蔵のうわごとについて話をした。そうして自分の考えを、みんな課長の前にのべたのであった。
「ふん、そうですか。よく聞かせてくだすった。たいへんわれわれの参考になります」
と、大江山課長は一向こだわる様子もなく、新田先生の話を喜び、
「だが、そうなると、これまでわれわれが、蟻田(ありた)博士の予言をばかにしていたことが、後悔されて来ますよ。私は、博士が変になったんだろうとばかり思っていたが、これは、改めて考え直す必要がある」
「蟻田博士は変ではないはずです。僕も、むかし教わったことがあって、よく知っています」
「ほう、あなたは、蟻田さんの門下だったんですか。これはふしぎな縁だ。そういうことなら、あなたに一つ、お願いしたいことがあるんだが……」
 課長は、ちょっと言いにくそうに、あたりを見廻した後、
「新田さん、怒っちゃあいけませんよ。実は私たちは、蟻田博士が変だと思ったので、極秘のうちに、博士を病院に入れてあるのです」
「えっ、博士を、……」
「何しろあのとおり、火星兵団さわぎをまきおこした本人のことですから、帝都の治安取締上、そういう非常手段をとらないわけに、いかなかったのです」
「ああ、僕は新聞で読んで、蟻田博士が御自分で家出をして、行方不明になってしまったことと思っていましたが……」
 と、新田先生は、ため息をついた。
 大江山課長は、かざりけのない態度で、その時の苦しい立場を説明し、
「そこで、あなたにお願いというのは、蟻田博士を病院から出して、博士の屋敷へお帰ししますからしばらく博士の様子を見てくれませんか」
「はあ、様子を見ろとおっしゃいますと、どういうことですか」
 新田先生は、課長の言う意味を問いただした。
「ああ、それは、こういう意味です。実は、われわれは、蟻田博士の言われることは、ありもしないことだと思っていたのです。しかし、こういうことになって、火星のボートか何か知らないが、ともかく妙なものが、やって来たり、飛んでいってしまったりするものですから、博士の言うところを、もう一度考え直してみなければなりません。そこで幸い、あなたが博士の門下生だということですから、あなたにお願いして、それを調べていただきたいのです」
 と言って、課長は、ためいきをつき、
「こういう天文学のことなどになると、われわれ素人には、ほんとうのことか、うそのことか判断がつきませんのでね」
 と、苦笑いをした。
 新田先生は、大きくうなずいて、
「よろしい。そういうことなら、僕もおよばずながら、それをやってみましょう。そうすることは、同時に、旧師に対する門下生のつとめでもあるのですから。しかし、千二君は、なるべく早く出していただきたい」
 すると、大江山課長は言った。
「これから千二君は、大事に扱うことにします。今すぐに出すわけにはいきません。が、これは別にわけがあるのです」
「別のわけとは、どんなことですか」
 新田先生は、大江山課長の顔を見た。
「それは、例の怪人丸木が、まだつかまらないからです。千二君を外へ出したは、とたんに怪人丸木が現れて、千二君を、殺したはというのでは、かわいそうですからね」
「怪人丸木は、千二君を殺しましょうか」
「それは、新田さん、私たちが犯罪についての経験の上から言って、たしかに起りそうなことなんですよ。丸木については、千二君が一番よく知っているのですからね。千二君が、この警視庁から外へ出たことを、怪人丸木が知ると、必ず、少年を殺そうと思うに違いありません」
「なるほど。そういえば、そういうことになりそうですね。ああかわいそうに……」
 新田先生は、気の毒な千二の身の上を思って、胸の中があつくなった。
「でも、課長さん」
 と、新田先生は、しばらくして言った。
「あの怪人丸木は、火星のボートに乗って、もう逃げてしまったんではないのですか。あれもきっと、火星のまわし者かなんかでしょうから……」
 すると、大江山課長は、首をかしげて、
「さあ、そこが大事のところなんですが、銀座事件があってから、まだ幾日もたっていないので、それは何とも言えません。私どもの経験によると、とにかく、ここ四、五日は様子をみていなければ、安心できません。その間に、丸木が、ひょっくり姿をあらわすかもしれないのです」
 大江山課長は、火星のボートがいなくなったから、丸木も一しょに逃げたと、そうきめることは、まだ早すぎると思っていた。
 新田先生には、どっちがほんとうだか、よくわからなかった。とにかく課長の頼みもあることだし、彼も前から、旧師蟻田博士のことが気にかかっていたところなので、その足で、蟻田博士に会いにいくことにした。
 新田先生は、その足で、蟻田博士が入れられている病院へいった。
 大江山課長は、両国駅にはいるのを一時見合わせ、病院へ電話をかけて、博士を出すように命令をした。そうして新田先生に、一人の警官をつけて、案内させた。
 とつぜん退院のゆるしが下って、蟻田博士は、喜ぶやら怒り出すやら。
「けしからん奴どもじゃ。わしを、まるで囚人のように、こんなところへおしこめておいて、今になって、もう出てもよろしいとは、なんという、勝手な奴どもじゃ。わしを、一体なんと思っているのか」
 その時、新田先生が、博士の前にいって御機嫌を取らなければ、博士はなおも、檻の中から出たライオンのように、あばれまわったことであろう。
「あっ、新田か。貴様まで、わしを変だというのか。け、けしからん」
「いや、蟻田博士。そういうわけではありません。もうただ今から、お屋敷にお帰りになれるのです。私がお供をいたします」
「ふふん、その手にはのらんぞ。そんなことを言って、貴様はわしを、またどこかの牢へぶちこむつもりなんだろう。弟子のくせに、けしからん奴じゃ」
「いえいえ、そうではありません。全くもって、私はそんなけしからんことはいたしません。さあ、御機嫌をお直しになって、お屋敷へお帰りのほどを」
 蟻田博士は白いあご鬚をふるわせつつ、暫く新田先生の顔をじっとみつめていたが、
「おお、新田。貴様はわしをだますのじゃないだろうな。だましてみろ。――あとで、うんと、思いしらせてやるから。――とにかく、だまされたと思って、出かけるか」
 蟻田博士は、そこに立ちながら医者や看護婦の顔色を用心ぶかくじろりじろりとにらみつつ、一歩一歩玄関の方へあるいていった。
 新田先生は、けわしい眼つきの蟻田博士を、なだめすかして、ともかく博士邸へつれもどった。
「けしからん。実にけしからん」
 と、ぶつぶつ言いどおしだった博士も、久しぶりに、わが家の前に下りたつと、急に機嫌がなおったようであった。博士は、すたすたと鉄門をあけて、邸内へはいっていった。番をしていた警官の一人が、おどろいたような顔をして、裏手からとびだして来たが、蟻田博士は、その方へ、じろりとけわしい目を向けた。
「け、けしからん。わしの屋敷を、刑務所にするつもりだな。わしはゆるせん」
 新田先生はまた困った顔をしたが、一しょについて来た警官が、番をした警官を呼んで、博士の相手にはならず、そのまま自動車に乗り、ぶうーつと警笛をあとに残して、帰ってしまった。
 それでも博士は、まだ心をゆるめず、
「おい、新田」
「はい」
「お前、そのへんを、よく見てまわれ。もし人間がいたら、どんな奴でもかまわないから、箒でぶんなぐってやれ」
「はいはい。承知いたしました」
 新田先生は、博士をこの上おこらせてはいけないと思い、博士の言われるままに、邸内をぐるっとまわってみることにした。
 裏手にまわってみると、博士の研究室になっている異様な形の天文台がある。
 屋根は丸くて、これが中で、モートル仕掛でうごくのである。そうして屋根は二つにわれる。その間から、博士のご自慢の反射望遠鏡が、ひろい天空をのぞくのである。
 博士の研究室には、りっぱな機械がそろっているが、その天文台の外は、庭一面、草がぼうぼうと生えている。ほとんど足をふみこむすきもないほどである。垣などはこわれたままである。
 蟻田博士の天文台のまわりを、新田先生は幾度か足を草にとられながら、廻ってみた。
 もちろん、誰一人として、そこにひそんでいる者はなかったし、警官の姿も見えなかった。
 新田先生は、天文台をひとまわりして、博士邸の表に出た。そうして、あらためて玄関をはいって、博士の姿を研究室に見出したのであった。
 蟻田博士は、新田先生に言いつけた見張のことなどは、もうすっかり忘れてしまったかのように、室内の機械を調べるのに夢中であった。
 壁の上に、ガラスにはいった自記機械があった。自記機械というのは、人が見ていなくても観測した結果が、長い巻紙の上に、インキでもって、曲線になって記録せられる機械である。例えば、室内の温度が一日のうちに、どう変ったかというようなことを知りたい時、人が寒暖計のそばにつききりで、一々水銀の高さを読んで記さなくとも、この自記機械にかけておくと、巻紙が廻るにつれ、ペンが長い曲線をかいて、室内温度がどう変ったか記してくれる。
 蟻田博士は、この自記機械をあけ、中から巻紙をひっぱって、それを見るのに夢中になっている。
「博士。よく見廻りましたが、もうお屋敷のうちには、誰もいませんですから御安心なさいませ」
 と、新田先生は、博士の後から、声をかけた。
 ところが、蟻田博士は、それには、返事をしない。
 そうして、なおも夢中になって、その自記機械から、巻紙様(よう)のものを長くひっぱり出して見ている。その目は異様な光をおびていた。
「博士。それは、何を自記する機械ですか」
 新田先生は、博士の後に近づいた。
 博士は、新田先生に声をかけられ、びっくりしたようであった。
「誰かっ?」
 と、けわしい目で振返って見て、そこに新田先生が立っているのを見ると、
「なんだ、お前か」
「先生。お屋敷の内には、ほかに、もう誰もいないようでございますよ」
「そうか。だが、油断は出来ないぞ。もし誰かの姿を見つけたら、すぐわしに知らせるのだぞ」
 そう言いながらも、博士は長い巻紙を手に取って、自記曲線を見入っている。
「博士。それは何を測ったものなんですか」
 新田先生は、再び同じことを蟻田博士に尋ねた。
「これか」
 と、博士は、巻紙のような記録紙の上をぽんと手で叩いて、
「わしが留守にしている間に、大変な異常現象が起っていたんだ」
「えっ、大変な異常現象とは?」
「異常現象が起ったとは、つまり、この宇宙の中に、あたりまえでない出来事が起っていたんだ」
 博士の目の中には、いらいらした気持が、はっきりと見られた。それを見て、新田先生も、なにかしらぞっとした。
「博士。宇宙の中に、あたりまえでない出来事が起っていた、とおっしゃるんですか。それは、一体どんなことなんですか」
 博士は、なおも長い記録紙を、くりかえし広げて見ていたが、
「とにかく、これは地球始って以来の大事件が、近く起るぞ。というわけは、わしのかねて注目していたモロー大彗星(だいすいせい)の進路が、急に変ったのじゃ」
「はあ、モロー彗星の進路が、急に変ると、大事件が起るのですか」


   11 モロー彗星(すいせい)


 モロー彗星が、急に進路を変えたからといって、さわいでいる蟻田博士だった。それがなぜ大事件になるのか、新田先生には、わけがわからなかった。
「おい、新田。地球が遂に粉みじんになる日が来るぞ」
「えっ、なんですって」
 新田先生は、びっくりして、博士の顔を見なおした。先生は、自分の耳を疑(うたぐ)ったのである。地球が粉みじんになる。……と聞えたように思ったので。
「なんだといって、それだけのことじゃ。地球が、粉みじんに、くだけてしまうのじゃ」
「先生、それはじょうだんですか。それとも、小説かなんかの話ですか」
 新田先生には、博士の言葉がまだのみこめなかった。
 そうでもあろう。地球が粉みじんになる日が来るなんて、そんなばかばかしいことが、あるであろうか。
 さもなければ、蟻田博士は、やはり病院にはいっている方が、いい人なのではなかろうか。つまり博士は、変になっているのではなかろうか。
 新田先生はどっちに考えていいのか、たいへん迷った。
 蟻田博士は、記録紙を机の上にのせると、ていねいに巻いていった。そうしてそれを大事そうに側の金庫の中にしまった。その間、博士は一言も発しなかったが、それが終ると深いため息をついて、新田先生の方を見た。
「おい、新田。お前には、このことがのみこめないかもしれない。が、よくお聞き。さっきも言ったように、かねて注意を払っておいたモロー彗星が、わしの留守中、急に進路を変えたのだ。その結果モロー彗星の新しい進路は、これから地球が通っていくはずの軌道と交るのだ。しかもその交る時刻に、モロー彗星も、地球も、その軌道の交点に来るのだ。だから、両方は大衝突をする!」
「地球とモロー彗星とが、大衝突をするとおっしゃるのですか」
 新田先生はびっくりして、思わず博士の腕をつかんだ。
 博士は、悟りきった人のように平気な顔で、
「そうだ。やっと、わかったかね」
「つまり、地球の軌道と、モロー彗星の軌道とが交っていて、どっちかが、その交点を早くか遅くか通ってしまえばいいのだが、不幸にも、地球とモロー彗星とが、同時に、その交点を通る。それでその時大衝突が、起るというわけですか」
「そうだ、そうだ。全くその通りだ。地球の人類にとって、こんな大きな不幸はあるまいなあ」
「そこで、大衝突をやって、地球は粉みじんになってしまうのですか」
「そうだとも。モロー彗星の芯(しん)は、地球の大きさにくらべて八倍はある。これは、さしわたしの話だ。そうして、その心は、どんなもので出来ているか、まだよくはわからないが、とにかく非常な高熱で燃えている、重い火の塊(かたまり)だと思えばいい。そういうものが、地球の正面から、どんとぶつかれば、地球はどうなるであろうか。衝突後も元のままの地球であるとは、もちろん考えられない」
「地球は、幾つかに壊れるのでしょうね。日本と、アメリカとが、別れ別れになったりするのでしょうね。しかしわれわれ人類は、そうなっても、ちゃんと生きておられるでしょうか」
 新田先生は、恐しい想像の中に、思わずおののいた。
「いずれ日本とアメリカとが、別れ別れになると言っても、それが二つの小さな地球の形になるとは思われない。今のところ、わしの考えでは、地球は粉みじんになって、そうして、いくつかの火の塊になってしまう」
「えっ、火の塊ですか。するとわれわれ人類は。……」
 蟻田博士は、モロー彗星が地球にぶつかった時は、地球は幾つかの火の塊になってしまうであろうと、大胆な見通しをつけた。
「そうなれば、もちろん、地球上の生物は、一ぺんに焼けてしまって、ただもやもやした煙になってしまうだろうなあ」
 蟻田博士は、平然と、まるでひとの事のように言う。
「博士、それでは、大衝突をすると、地球上の人間も、牛も、馬も、犬も、猫も、みんな死にたえてしまうと、おっしゃるのですか」
「そうだよ」
「やっぱりそうですか。地球上のありとあらゆる生物が、死滅するのですか。ああなんという恐しいことだ」
 新田先生は、もう立っても坐ってもおられなくなって、椅子の上に、やっと自分の体をささえた。
「蟻田博士。ほんとうにそんな恐しい時が来ますか」
「もちろん来るさ」
「ああ、なんとかしてその大衝突を、防ぐことは出来ないものでしょうか。だって、余りにも悲惨です」
「相手は、地球だのモロー彗星だ。その大衝突を防ぐことは、とても出来ない相談だ。そんな大きな物体を、右とか左とかに動かす力を、人間が持っていないことは、お前もよく知っているだろう」
「それにしても、それでは、出来事が余りに悲惨です。歴史も、文化も、みんな煙と化して、なくなってしまうのです」
「仕方がないよ。人間の力は、とても自然の力には及ばない。それともお前は、人間が、そんなえらい生きものだと思っているかね。列車を走らせたり、ラジオで通信したり、戦車を千台も並べて突撃させたりは出来るだろうが、宇宙にみなぎる力に比べれば、そんなことは、ほんのちっぽけな力さ」
 なるほど、大宇宙の中で、地球とモロー彗星とがぶつかるその大きな力に比べると、大砲の威力も、爆弾の破壊力も、まるで大男に蚤が食いついた程の力にも値しないことは、よくわかる。新田先生は、もうその後を尋ねる元気もなくなった。
「どうだ、新田。いよいよ地球の文明も、これでおしまいになるよ。人間どもは、日ごろこの宇宙の中で、一等えらいもののように思っていたろうが、これで、いかに弱いものだか、わかる日が来るのじゃ。全く、気の毒みたいなものじゃ」
 と、蟻田博士は、自分だけは人間でないような口ぶりであった。
 新田先生はそれを聞いて、いやになってしまった。自分の足の下にふまえている地球が、こわれてしまうなんて、とんだことになったものである。しかも、その地球がこなごなにこわれることを、じっと見ながら死んでいくのだ。なんという恐しいことであろうか。
(全く、こうなると、人間というものの力は、ずいぶん小さいものだ。蟻が人間の指の下で、おしつぶされるよりも、もっと簡単に、人間たちは、モロー彗星の衝突で、みな殺しにされてしまうのだ。ああ、なんというみじめな人間の力であろうか」
 新田先生は、心の中で、泣きの涙になっていた。
「さあ、そうなると、わしも、新しい仕事が出来て、いそがしくなったぞ」
 と、蟻田博士は、手を後に組んで、落着かない様子で、部屋をあちこちと歩き廻る。
「まず、第一に用意しておかなければならないことは、地球の最期(さいご)を映画にうつして、後の世まで残しておくことじゃ。はて、どうしてそれをやりとげたらいいじゃろうか。これは、なかなかむずかしいぞ」
 博士は、ひとりごとを言って、また歩き廻る。
 新田先生は、不審(ふしん)の面持だ。
(地球の最期を映画なんかにおさめたって、どうにもならないではないか。なぜといって、地球そのものが、モロー彗星の衝突で、煙のように消えてしまうのだから。へんなことをいう博士だ)
 そう思って、蟻田博士の方をじっと見ていると、博士は、そんなことは一向気にかけない様子で、今度はしきりに天体望遠鏡をのぞきこんでいる。
「ほう、モロー彗星の形がだいぶん変って来たぞ。なるほど、これで観測の結果が正しいことがわかって来た」
 博士は、やがて地球がこわれ、そうして自分も死ぬことが、さらに気にならないらしい。そういう落着きは、学者だからそうなのか、それとも又別にほかのわけがあるのか、今のところ、どっちともわからない。
「もし、蟻田博士」
「なんじゃ。大事なところじゃ。あまり口をきくな」
「だって、そういう大事件が迫っていると聞けば、もっと詳しく博士から伺っておきたくなります。博士。一体モロー彗星が、地球に衝突するのは、何月何日のことですか」
 新田先生は、モロー彗星が地球に衝突する日までが、なるべく長いことを祈りながら、最も大事なことを博士に尋ねた。
「衝突の日のことか。つまり地球最期の日は何月何日かと聞くのじゃな。ふふふ、それはなかなか重大問題じゃ。うっかり答えることは出来ない」
「博士。ぜひ教えていただきたいです。それによって、僕たちは、用意をしなければなりません」
「なに、用意をする? 用意って、なんの用意をするのか。お前たちがどんな用意をしようと、結局むだなことじゃ。おとなしく死んでしまうがいい」
 博士は、地球とモロー彗星との衝突する日を、なかなか言おうとはしなかった。新田先生は、ますますいらいらして来るのだった。
「もし、博士。なぜそれをおっしゃって下さらないのですか」
「まあ、いいよ。そんなことを聞いても、なんにもなりはしない」
 博士は、頑として言わなかった。
「まだ一年ぐらい先ですか」
「さあ、どうかな」
「それとも一箇月後でしょうか」
「さあ、どうかな」
 博士は、同じことを言いながら、望遠鏡にしがみついている。
「どうしても、おっしゃって下さいませんか。では、よろしい。僕は、誰かほかの天文学者のところへいって、それを聞いて来ます」
 新田先生はとうとうおこってしまった。いつもは決しておこらない先生だったが、地球が粉みじんになるという恐しい話を聞いたので、少し取りみだしたかたちであったと、先生のために言いわけをしておきたい。
 それを聞くと、博士は初めて望遠鏡から目を離した。そうして新田先生のそばへ近づき、両手を後に組んで、若い弟子の顔をのぞきこむようにして、
「はははははは、お前は、この師の学力が、どんなに大きく、かつ深いものであるかを知らないとみえるのう。まあ、やってみるがいい。誰のところでもいい、天文学者という学者のところを歴訪して尋ねてみるがいい。恐らく、それに答えてくれる学者は、一人もいないであろう。いや、第一、モロー彗星が地球に衝突することすら、誰も気がつかないであろう。ふん、自慢じゃないが、世界広しといえども、わしよりえらい天文学者は、ただの一人もいないのじゃ」
 そう言って、蟻田博士は、ここちよげに、からからと笑った。
 蟻田博士の、恐るべき自信!
 モロー彗星と地球とが、やがて衝突するだろうことを知っているのは、世界広しといえども自分一人だと言う。
 あまりにも、大きなことを言いすぎるではないか。
 だが、新田先生は、博士が大ぼらを吹いているのだと、一がいには、きめられないと思った。なぜなら、博士が実にすぐれた学者であることは、その昔、博士の下(もと)で助手のようなことをしていたので、そのころからよく知っている。そのころアメリカのウィルソン山の天文台に、テーラーという博士がいたが、その人こそ、その頃における世界一の天文学者だった。そのテーラー翁がなくなるすこし前に、蟻田博士のところへ一通の手紙が来た。新田先生も、あとでその手紙を見せてもらったけれど、その文中にこんな文句があった。
(ああ、自分は、初めて安心ということを知った。それは自分の亡きあと、あなたのような天才的天文学者がいるから、天文学については、心配がいらないということを発見したからである。蟻田博士よ、どうかあなたは世の中の評判を気にしたり、またえらくなったり、金持になったりすることを願ったりしないで、一命をただひたすら学問のために捧げてもらいたい。世の中からわる口を言われても、学問の上のことでは、決して、弱くなってはいけない。そうすることが、世界人類のため、真の幸福をもたらす道であるからである)
(自分は恐れる。あなたの上に、あるいは、世間の非難が集中する時が来るのではないかと。なぜなれば、あなたはきっと、オリオン星座附近に横たわる、千古の秘密について興味をもち、そうしてついに一つの恐しい答えを得るかも知れないからだ。その恐しい答えこそ、世界人類が常日頃願っている幸福をにぎりつぶし、大暗黒を与えるものであるかも知れないからだ)
 テーラー老博士の手紙の中には、こうした意味ぶかい文句があったのである。

 モロー彗星と地球との衝突は、もうさけることの出来ないものだ――と、蟻田博士は信じきっている。だが、その衝突が、いつ起るのやら、それについては、口をかたくむすんで、語ろうとしない博士だった。
 新田先生は、どうかして、その衝突の予想日を、博士から聞出したいと、あれやこれやと、手を考えた。
「もし、博士。僕にもお手伝をさせて下さい。モロー彗星の位置の計算でもやりましょうか」
 すると、博士は笑って、
「ふふん、お前なぞにそんなむずかしいことが、出来るはずがないよ。手伝ってくれるというのなら、この望遠鏡で、モロー彗星の様子にかわりがないか、それを気をつけていてくれないか」
 そう言って、博士は望遠鏡を新田先生にゆずった。
 もちろん博士は、その望遠鏡の使い方について、一通りのことを新田先生に、教えてやらなければならなかった。また、モロー彗星が、これまでどんな風に形を変えていったか、それについても、写真や観測表でもって、大体の知識を入れてやらねばならなかった。おかげさまで、新田先生は一気に最新の天文学をのみこむことが出来た。
 そこで、新田先生は、ひとりで、望遠鏡を動かすことになった。
 ただ残念なことには、モロー彗星のいるところが、今ちょうど太陽面の近くにあり、そのうえ雲が邪魔をしているので、はっきり見えないことだった。しばらく時間をまつよりほか、仕方がない。
 その代り、新田先生は、望遠鏡をいろいろと動かして見ることが出来た。博士が世界一を誇るだけあって、じつにすばらしい明かるい望遠鏡だった。そのうちに、新田先生は、異様なものを、望遠鏡の中にとらえた。


   12 三つの獲物(えもの)


 湖畔に起った怪事件を取調べるため、かねて千葉へ出張中だった大江山捜査課長は、一日向こうに泊り、その翌日の夕刻、東京へ帰って来た。
 帝都は、今ちょうど暮れたばかりで、高層ビルジングのあちこちの窓には、電灯の火が明かるくかがやき、その下で、いそがしい仕事をかたずけるため居残りをしている社員たちの姿さえ、はっきり見られた。
「課長、すぐ本庁へ行かれますか」
 と、自動車の運転をしている警官がたずねた。
「ああ、すぐ本庁へたのむ」
 課長としては、こういうわけのわからない事件の報告は、なるべく早くすませておかないと、気が落ちつかないのであった。いってみてよかった。これまでに手がけた事件とちがって、全く妙ちきりんな事件である。警視総監も、さぞ驚かれることであろう。
 課長の乗った自動車は、お濠を右に見て、桜田門の向かいに立ついかめしい建物の玄関に着いた。この建物こそ、わが帝都を護る大きな力、警視庁であった。
 課長は、一旦(いったん)、自室へはいったが、すぐ席から立って、総監室へはいった。
 課長は、なかなか出て来なかった。彼が出て来たのは、それから約一時間もたった後のことだった。総監も、課長の報告によって事件の重大性に驚き、今後のため、いろいろと念入な打合わせが、行なわれたものらしい。
 課長が自席へ帰って来ると、それを見かけた佐々刑事が、課長のところへ飛んで来た。
「やあ、課長。ごくろうさまですなあ。で、その火星の火柱とか、火星の化物とかいう怪しいものの正体は、わかりましたか」
 課長は、それに返事をするかわりに、首を左右にふった。
「えっ、やっぱりわからないのですか。課長にもねえ」
 大江山課長は、溜息をついた。
 そうして佐々刑事に向かって、
「おい、皆にここへ集ってもらってくれ。千葉出張の獲物について報告をするから」
「ははあ、獲物についての報告ですか。獲物とは、そいつはすばらしい話だ」
 佐々は、大仰に驚いて、課内の幹部の机を一々走ってまわった。
 まもなく、課長の机の前後左右は、部下の主だった警官によって、ぐるっと取りかこまれた。
 課長は、そこで、いつになく深刻な顔つきで、一同をぐるっと見まわしたあとで、
「千葉へ出張して、掴んで来たことについて報告をする。結局獲物は、たった三つである」
 と言って、課長は、机の上を指先で、ことんと叩いた。
「その第一。火柱(ひばしら)の発見者で、そのために大怪我をした友永千蔵という男は、怪我をした場所がよくないらしいが、目下気が変な状態にある。どうにも、手のつけようがない。だが、怪我の方は、重傷ではあるが、致命傷ではないそうで、このまま死ぬ心配はない」
 課長はそこでちょっと口を切って、
「第二の収穫は、こういう拾い物だ」
 と言って、鞄の中に手を入れて、やがて机の上に放り出したものをみれば、木の葉蛙の背中のような、色のまっ青な、長さ一メートルあまりの鞭のようなものであった。
 課長を取りかこんでいた幹部警官たちは、俄(にわか)にざわめきたった。そうして首をのばし、目をみはって、その気味のわるい色をした鞭のようなものをみつめた。
「課長。これは一体、何ですか」
 部下の一人が、たまらなくなって、課長に質問を放った。
「さあ、お前たちは、これを何だと思うかね」
 大江山課長は、机の上にのせたその気味のわるい青い鞭のようなものを指して、周囲に集った警官たちの顔を、ずっと見まわした。
「はて、何でしょうかね」
「一種の紐だな」
「どこかについていた紐が、ちぎれたのじゃありませんかね」
「どうもわからない。とにかく、いやらしい青い色だ」
 課長について千葉へ出張していた部下たちも集って来て、皆の説をおもしろげに聞入る。千葉で拾って以来、一体これは何だろうかと、さかんに議論をやったらしい。
「ねえ、課長。それは、火星の化物の遺失物ですよ」
 とつぜん、大きな声でどなった者がある。それは、いつも元気のいい佐々(さっさ)刑事であった。遺失物というのは落し物とか、忘れ物とかいう意味であった。
「よう、佐々、お前はなかなか目がきくぞ。今日は、特製ライスカレーを食べたんだな」
 一座は、どっと笑った。
 佐々刑事と特製ライスカレーの関係は、庁内でたいへん有名であった。彼はずっと前、或る事件のため、一年近く遠く南の方に出張していた。わが南洋領の諸島を廻り、それから更に南下して、ジャワ、スマトラ、ボルネオ、セレベスという四つの大きな島をぐるぐる廻って来た。そのとき彼は、みやげにカレーの粉を石油缶に五杯も持って帰り、同僚にも分け、もちろん大江山課長にも呈上した。残りは、大事にしまってある。そうして、時々そのカレー粉を出してニウムの鍋にとき、自分でライスカレーを作って食べる。
 それが有名な佐々の特製ライスカレーだが、それについてまだ話がある。
 彼は、特製のライスカレーを、うまそうに食べる。七分づきの御飯は食堂からとりよせるのであるが、この上にぶっかける黄色なカレーの汁の中には、いろいろなものがはいる。鳥のこともあれば豚の時もあり、じゃがいものはいっていることもあれば、玉葱(たまねき)のはいっていることもある。
 なおその上に、彼はいろいろな香の物をきざんで、混ぜあわすのである。黄色く押しのかかった古漬の沢庵や、浅漬のかぶや、つかりすぎて酸っぱい胡瓜や、紅しょうがや、時には中国料理で使う唐がらし漬のキャベツまでも入れる。香の物は、なるべくたくさんの種類がはいっているのがいいそうである。
 ぽっぽっと、湯気の立つ皿の上をながめて、彼は、まだ食べない先から、盛に、ごくりごくりと唾をのみこんでいる。
 こうして用意がすっかり出来る。そこで彼は大きなため息を二つ三つして、はじめて瀬戸物製の大きなスプーンを左手に握るのである。彼は、左ききである。
「ああ、これゃ熱くて、口の中が火になるぞ!」
 彼は、頬をふくらませて、皿の上にもうもうと立昇る白い湯気を、ふうっと吹き、そうして山のように盛上ったライスカレーへ、左手に握った瀬戸物のスプーンをぐさりと突立てるのである。あとはただ夢中で、馬のように食う。――これをやると、佐々の頭は、急にたいへんによくなるそうである。
 当人はそれでいいが、迷惑をするのは机を並べている同僚だ。なにしろ、これだけのカレー料理を、佐々は自分の机の上で作るのである。誰がなんと言っても、彼は、断然自分の机の上で作る。そのために、彼のカレー料理が始ると、捜査課の中は、カレーのにおいがぷんぷんする。時には、警視庁の建物全体がカレーくさくなる。
 佐々刑事の自席料理のため、恐るべきカレーの毒ガスが、警視庁のどの部屋といわず、どの廊下といわず、はいこんでいくのであるから、これまで幾度も問題になった。
 だが、当人は、何と言われようと平気であった。この特製のカレー料理を食べると、元気が出て頭がよくなる。その結果、犯人を早くつかまえることが出来る。そうなれば、警視庁のために喜ばしいことである。だからライスカレーの手製はやめられない。――というのが佐々刑事の言分(いいぶん)であった。

 とにかく彼は、だれからなんと言われても、一向気にしないたちだった。そうして思ったことを、どんどんやっていく。だから、成功することも多かったけれど、失敗することもまた多かった。
 失敗したときは、彼はちょっとはずかしそうな顔をして、自分の首すじを平手でとんと叩く。が、いつまでも悲観しているようなことがなく、間もなく猛犬のように立ちあがる。そうして目的へ向かって突進する。機関銃の弾丸みたいな男であった。
 佐々刑事のことを、私はあまり長く書きすぎたようである。
 大江山課長の机の上に置いた青い鞭のようなものを見て、
(それは、火星の化物の遺失物だ!)
 と言った佐々の言葉は、たしかにあたっていた。
 その青い鞭のようなものは、大江山課長が、天狗岩の附近から拾って来たものであるが、全くめずらしい品物なので、果して火星の生物が、天狗岩のところへ来ていたとすると、それが落していった、と考えると、一応話のつじつまが合うのであった。
 だが、火星の生物の遺失物であるのはいいとして、それがどんな用につかわれる品物か、それがよくわからない。
 火星の生物が、天狗岩の附近に落していった青い鞭のようなものは、一体何に使う品物か、謎を秘めたまま大学へ送られることとなった。
 つまり、大学へ持っていって、材料や形などから、それがどんな用に使われる品物かを、研究してもらうためだった。
 大江山課長は、一通りの報告を終えたあとで、次のような注意を、部下一同に与えた。
「はじめ、蟻田博士が、火星の生物に注意をしろとか、火星兵団というものがあるから気をつけなければいけないなどと言出した時には、私は、何を言うかと、実は、博士を気が変な人あつかいにしていたが、その後、つづいて起ったいろいろの怪事件――と言うと、千二少年が天狗岩で会った怪塔・怪物事件、怪人丸木が銀座でボロンを買うため殺人を犯した事件、それから千二の父親千蔵が、見て大怪我をしたという火柱事件などであるが、それらの事件を通じて、よく考えてみると、どうもこれは何かあるらしいのだ」
 と言って、課長は、あらためて、部下一同の顔を、ずっと見廻した。一座は、しいんとなって、課長の口から出て来る稀代の怪事件に関する、一言一句も聞きもらすまいとしている。
 大江山課長は、言葉をついで、
「確かに、何かがあるのだ! 果して、これは火星の生物か、火星のボートかわからないけれど、とにかく前代未聞の怪しいものが、東京附近へまぎれ込んだことだけは、疑う余地がない」
 課長は、そこで、溜息をついて、
「それでわれわれは、ここで一大決意を固めなければならないと思うのだ。それは、一日も早く、この前代未聞の謎をつきとめることだ。この解決の近道は、目下行方不明の怪人丸木を逮捕することにあると思う」
 大江山課長は、重大決意のほどを、部下一同に語りつづける。
「もう一度言う。この際一日も早く、怪人丸木を捕えよ。そうして、捜査に当っては、仮に火星人なるものが、我々の住んでいるこの地球へ紛れこんでいるものとして、ぬかりなく用意をととのえるのだ。これまでに次々と起った事件をふりかえってみると、怪人丸木にしても、火星人にしても、かなり狂暴性を発揮している。だから、お前たちは必ずめいめいにピストルか催涙弾(さいるいだん)を身につけておれ」
 これを聞いていた一同は、深刻な顔つきでうなずいた。めいめいに、ピストルか催涙弾を身につけておれ、などという命令は、共産党本部へ突入した時の外(ほか)、受取ったことがない。
「課長、彼等を殺してしまっては、何にもならんじゃないですか。ぜひ生捕(いけどり)にしろと、なぜ命令しないのですか」
 佐々刑事は、いささか不満の顔つきであった。
「うん、生捕に越したことはない。だが、彼等は、我々の決意を知ると、将来においては、もっと狂暴なふるまいをするだろうと思う。君がたに命がけで活躍してもらいたいことはもちろんだが、しかし一方において、私としては、ここにいる君がたのうちの一人でもを、冷たい骸(むくろ)にするに忍びない。だから十分用意をととのえるように」
 悪人たちからは、鬼課長として恐しがられている大江山警視だったが、部下の身の上を思うその言葉の中には、限りない慈愛の心があふれていた。
「おれは、必ず生捕ってみせる。おれも生き物なら、相手だって、生き物なんだから。生き物の息の根をとめるには、こうしてぐっとやれば、わけなしだ」
 と、佐々は柔道の手で締めるまねをした。
 怪人丸木と火星の生物との検挙命令を発しおわった大江山捜査課長は、その時、急に思い出したらしく、
「おおそうだ。あの子供は、どうしているかね。千二少年は?」
 と、かたわらを向いてたずねた。
「ああ、千二少年ですか。あれは……」
 と言って、掛長が、あとのことばを、口の中にのんだ。その刹那に、掛長は、鋭敏に、何ごとかを感じたようであった。
「あれは! あれは、どうかしたのか」
 と、大江山課長も席から立って、掛長のそばによった。
「あれは、今朝、放免いたしました」
「なに、千二少年を留置場から出したのか。ほう、一体、誰が千二少年を出せと命令したのか」
「これは驚きました。課長が、今朝ほど、電話をこちらへおかけになって、放免しろとおしゃったので、それで、出したようなわけですが、もしや課長は、それがまちがいであると……」
「大まちがいだよ、君」
 と、大江山課長は掛長の肩に手をかけて、ゆすぶった。よほど、あわてたものらしい。
「おい君。私(わし)は、そんな電話をかけたおぼえがないんだ。その話をくわしくしてくれたまえ」
「いや、それは驚きましたな」
 と、掛長は、あきれ顔でその先を語り出した。
 その話の要点は、つまり、今朝ほど、全く課長にちがいない声でもって、電話があったというのに過ぎなかった。その声も、言葉のしゃべり方も、全く課長にちがいないので、
「すぐ千二少年を放免しろ」というその命令にしたがったのだという。その話を聞いて、大江山課長の顔は、急に青くなった。


   13 りっぱな自動車


 千二少年は、どうなったろうか。
 その朝、彼は、突然ゆるされて、留置場を出た。
「おい、千二君、もう二度と、こんなところへ来るのじゃないよ」
 と、佐々刑事が言った。
「ええ、もう二度と、来やしませんよ。だいいち、今度だって、僕は何にもしないのに、まちがって、こんなところに入れられたんですからね」
「まちがって入れられた、などと思っていちゃ、いけないよ。だって千二君、君の連(つれ)の丸木という男は、確かに人を殺して逃げたんだからね」
「でも、僕は、何にもしないのです」
「何にもしないかどうか、証拠がないから、はっきり身のあかしが立たないじゃないか。とにかく、課長からすぐ放免せよという電話でもなかった日には、まだまだ共犯のうたがいでもって、ここへ止めおかれるところだよ。くれぐれも、これからのことを注意したまえ」
「はい」
「あの丸木なんかと、一しょに、悪いことをやるんじゃないよ。それから一つ、君にたのんでおくが、もし君が、どこかで丸木を見かけたら、すぐこの私(わし)のところへ、知らせてくれ。どこからでもいいから、電話をかけてくれればいいんだ。ほら、この名刺に電話番号が書いてある」
 千二は、佐々にいろいろと、たしなめられたり、たのまれたりして、警視庁を出ていったのである。
 そこは、桜田門のそばであった。千二はふたたび自由の天地に放たれたことを喜び、まるで小鳥のように、濠端をとびとびしながら、日比谷公園の方へ駈出していった。
 公園の垣根のところまで来ると、千二は、そこに一台のりっぱな自動車が、運転者もいないで放りっぱなしになっているのに気がついた。

 公園のそばに、放りっぱなしになっている無人自動車は何であったろうか。
 千二は、人一倍機械なんかが好きであったから、このりっぱな自動車を見ると、そのまま通りすぎることが出来なくなって、自動車の窓のところから、内部をのぞきこんだ。
 美しいスピード・メーターがついているし、ハンドルも、黒光りにぴかぴか光っていて、まだ倉庫から町へ走り出して間もない外国製の自動車であることが、千二にもよくわかった。
「ふうん、ずいぶん、りっぱな自動車もあればあるもんだなあ」
 彼は、ガラス戸におでこをこすりつけながら、思わずひとりごとを言った。
「ああ、ぼっちゃん。少々ごめんなさい」
 不意に、千二のうしろで声がした。
 千二は、きまりが悪くなった。振りかえって見ると、そこには、からだの大きな、そうしてきちんとした服と帽子に身なりをととのえた運転手が立っていて、扉についている取手(とって)を、がたんとまわすと、その扉をあけた。
 この運転手は、運転台へ乗りこむつもりであることが、よくわかった。
「ぼっちゃん、これに、乗せてあげようかね」
「えっ」
「乗りたければ、乗せてあげるよ」
 千二のうしろに立っていた運転手は思いがけないことを申し出た。
「だって、僕は……」
 千二は、乗りたいのは山々であった。しかし、せっかく警視庁から放免されたところである。へんなことをして、また間違いをしてはならないと、乗りたい心をおさえたのであった。
「いいから、お乗りなさい。さあ、早く、早く」
 千二は、運転手に腕をつかまれたまま、車内の人となった。
 はじめから、このりっぱな自動車に乗りたい心であったが、これでは、何だかこの運転手のため、無理やりに、運転台へ乗せられてしまったようなものである。
 千二は、何だかちょっと不安な気もちになった。そういえば千二の腕をつかんだ運転手の力は、あんまり力がはいり過ぎて、こっちの腕が折れそうであった。
「動くよ」
 運転手は、しわがれた声で言った。
 すると自動車は、たちまち勢いよく公園のそばを離れた。そうして日比谷公園の角を右へ折れると、芝の方へ向かってスピードをあげた。
「すごいスピードだなあ」
 千二は、感心して、運転台のガラスから、商店や街路樹や通行人がどんどん後へ飛んでいくのを、おもしろく見まもった。
 だが、しばらくいくと、変なことが起った。
 それは、白いオートバイが、後から追いかけて来たことである。そうして、千二の乗っている自動車の前を通り過ぎると、うううっと、すごい音のサイレンを鳴らした。オートバイの上には、風よけ眼鏡をつけた逞しい警官が乗っていたが、手をあげて、こっちの自動車に「とまれ!」の合図をした。
(ははあ、この運転手さんがスピードを出し過ぎたから、それで、おまわりさんに、ストップの号令をかけられたんだな。かわいそうに、この運転手さんは、おまわりさんに叱られた上、罰金をとられるだろう)
 と、千二は気の毒になって、運転手の方をふり返った。
 すると、運転手は車をとめるかと思いの外、車外の警官をじっと睨(にら)みつけると、かえってスピードをあげて、たちまちオートバイを追越した。
 千二は驚いた。
 白いオートバイの警官からストップを命令されたのにもかかわらず、自動車は彼を乗せたまま、ぐんぐんスピードをあげて逃出したからだ。
「ねえ、運転手さん。おまわりさんが、ストップしろと命令しましたよ。早くとめないと、大変ですよ」
「おだまり、千二!」
「えっ!」
 千二は、また驚いた。
 運転手から、彼の名を呼ばれて、二度びっくりであった。
「運転手さんは、どうして僕の名を知っているんですか」
 と千二は、となりに並んで腰をかけている運転手の顔を見た。
 運転手は、中腰になって、正面をにらんでいた。車は、町の信号も何もおかまいなく、怒れるけだもののように走っていく。
 その時千二は、運転手の横顔を見て、心臓がとまるほど驚いた。
「あっ、丸木さんだっ!」
 丸木だ! 怪人丸木だ! 運転台でハンドルを握っているのは、この前千二がひどい目にあわされた怪人丸木であったのだ。
「静かにしろ、お前が、そばからうるさいことを言うと、この自動車のハンドルが、うまくとれやしない。もし衝突でもしたら、大変じゃないか」
 丸木も、かなり、あわてていることが、彼の言葉によって、よくわかった。
「でも、丸木さん。おまわりさんにつかまると、大変なことになるから、早く自動車をおとめよ」
「いや、とめない。もしとめると、わしは、また人間を殺すだろう。なるべく、手荒いことはしたくないからなあ」
 そう言って丸木は、スピードをさらにあげて、芝公園の森の中に自動車を乗入れた。
 芝公園の森の中にとびこんだ自動車は、小石をとばし、木の枝をへし折って、森かげをかけぬける。
 公園の出口が見えた。
 非常召集の命令が出たとみえ、森の出口のところには、棒をもった警官隊がずらりと人垣をつくって通せん坊をしているのが見えた。
「あっ、あぶない!」
「なに、かまうものか。向こうの方で、この車に轢かれたがっているのだから」
 怪人丸木は怒ったような口調で、このような言葉を吐くと、あっという間に自動車を、その人垣の中におどりこませた。
「ああっ!」
 千二は、もう目をあけていられなくなった。彼は、両手で自分の目をふさいだ。
 自動車の前のところへ、何かぶつかったような音を聞いた。車体はぎしぎしとこわれそうな音を立てた。
 だが、千二が、ふたたび目をあけてみると、自動車は、相かわらず、すごいスピードで町を走っていた。
「どうしたの、丸木さん」
 と千二は、とてもしんぱいになって、丸木にたずねた。
「こら、だまっていろというのに。――もうすこしだ。下りるかも知れないから、もっとわしのそばへよって来い」
「えっ」
「はやく言いつけたとおりにしろ。さもなければ、お前の命がなくなっても、わしは知らないぞ」
「いやです。ま、待って下さい」
 自動車は、その時さびしい坂道をかけあがっていた。人通はない。
 その時、自動車は、くるっと左へまがって、きり立ったような坂をのぼり始めた。その時千二は、その坂道の行手に、「危険! とまれ! このうしろは崖だ!」と書いてある立札が、立っているのを見た!
 警報によりオートバイの警官はふえ、隊をなし、怪人丸木と千二少年ののった自動車を追いかけたが、やっと追いついてその自動車の姿を見ることが出来た時には、警官たちは心臓がぎゅっとちぢまるような恐しい光景にぶつかった。
「あっ、あぶない!」
 それは、例の「危険! この先に崖がある!」の立札が立っている坂道横町へ曲ったとたんのことであった。
 見よ、その時ちょうど丸木たちの乗っている自動車は、すでに、坂をのぼりきり、つきあたりのところに立っていた柵をがあんとはねとばし、車体は腹を見せ、砲弾のごとく空中に舞上っていた。
「あっ、崖から飛出した! もう、だめだ」
 警官隊は、オートバイをそこへころがすと、一せいに飛下り、息をとめて、大椿事(だいちんじ)を見まもった。
 自動車は、そのまま右へ傾き始めたが、その時、意外なことが起った。
 それは、自動車の運転手席の左の扉がさっと開き、そこから怪人丸木の上半身が、ぬっと出て来たのだった。
「あっ、あいつ、やっぱり逃げおくれたんだな。かわいそうに、もう飛下りたって、どうもなりゃせん。どっちみち、死ぬばかりだ」
 丸木は、この時、なぜ自動車の扉をあけて上半身を乗出したのか。警官たちには、丸木が逃げおくれたものとしか思われなかった。
 空中をもがく自動車は、頭の方を下にすると、そのまま落ちていった。丸木は、まだ助るつもりか上半身を乗出して、死にものぐるいであたりを見まわしている。
「うっ、かわいそうに、見ちゃおられないなあ」
「とても、助る見込はない」
 警官たちも、ひどく同情した。
 崖から、まっさかさまに落ちていくその自動車には、千二少年も乗っているはずであった。丸木が死ぬのは、自らまねいた罰で、仕方がないとして、かわいそうなのは千二少年であった。
 警官たちは、崖のところにしがみついて、自動車がこれからどうなるかと、はらはらしながら見まもっている。
 この崖は、高さが七、八十メートルもあった。ちょうどま下は原っぱで、その向こうには、川が流れていた。川といっても、大きいどぶ川ぐらいのもので、川幅もせまく、深さもいくらでもなかった。丸木のしがみついている自動車は、どうやらこの川のうえに落ちそうに見えた。
 やがて、どうんと大きな音が聞えた。
 それは、丸木の自動車が、川のすぐそばの堤のうえに落ちて、ガソリンタンクがこわれると同時に火を発したためであった。川の中に落ちるかと思ったのに、それよりもずっと手前に落ちたのである。
「あっ、焼けるぞ、自動車が。おい皆、すぐ、あそこへいって、火を消すんだ」
 崖のところに腹ばって下を見ていた警官たちは、号令一下、すぐさま起上って、またオートバイにうち乗った。今度は下り坂で、車がすべろうとするのを、一生けんめいにブレーキをかけながら、隊伍堂々と下へ下りていった。
 あの恐しい墜落ぶり、そうしてあのはげしい火勢では、乗っていた者は、だれ一人として助るまいと思われた。
 自動車は、赤い焔と黒い煙とにつつまれて、はげしく燃えつづける。そのガソリンの煙が、大入道のようなかっこうで、だんだん背が高くのびていった。このさわぎに、駆けつけた近所の人たちも、その煙の行方をあおぎながら、
「ああ、あんなに高くなった。蟻田博士の天文台の屋根よりも、もっと高くなった」
 と言って指をさした。なるほど、その崖の上に、あの奇妙な形をした、蟻田博士の天文研究所のまるい屋根が霞んでいた。


   14 恐(おそろ)しい日


 窓の外に、そのような椿事(ちんじ)がひきおこされているとはつゆ知らず、天文研究所では、蟻田博士と新田先生とが、しきりにむずかしい勉強をやっていた。
「おい、新田」
 と、博士が、めずらしくやさしい声で、新田先生を呼んだ。
「はい、ただ今」
 新田先生は、そう言って、自分の席を立上ると、博士の机の前へいった。
 博士の大きな机の上は、本とノートとで一ぱいだ。まるで、本の好きなどろぼうがはいって散らかしたように、机の上には、ページをひらいた本の上に、また他の本がひらいて置かれ、そのまた上に、ノートがひらいてあるという風で、ほんとうの机よりも十センチぐらいは高くなっている。だから博士は廻転椅子をぐるぐるまわして、だんだん椅子を高くして、坐っている。
 新田先生が、机の上をのぞこうとしたというので、博士は、またどなりちらした。困った博士である。
 新田先生は、二、三歩後へ下って、ていねいにおじぎをした。
「どうも、失礼いたしました」
「お前は、どうもけしからんぞ。わしのやっていることを盗もうとして、いつもどろぼう猫のように目を光らせておる」
「どうもすみません」
 新田先生は、博士が病気のため気が立っていると思うから、なるべくさからわないようにしている。
 それを見て、博士は、また少しきげんを直し、
「せっかく、わしがお前をえらくしてやろうと思っているのに、お前は……」と言いかけて、後は口をもごもごと動かし、「あのなあ、お前が知りたいと言っていた、地球とモロー彗星とが衝突する日のことじゃが……」
 新田先生は、思わず、全身に電気をかけられたように思った。蟻田博士が、どうやら、ついに地球とモロー彗星との衝突する日のことについて、話そうとしているらしい。
「はあ、はあ」
「なにが、はあはあじゃ。もう、教えてやろうかと思ったが、やっぱり教えないでおくか」
 博士は、どこまでも意地悪で、つむじまがりであった。こういう人につきそっている新田先生の気苦労と来たら、たいへんなものである。教え子の千二少年をたすけ、そうして博士だけが知っているところの、今地球に迫りつつある、恐しい運命について知るために、新田先生は辛抱して、この天文研究所におきふししているのだった。
「教わりたくないのか。だまっていては、わからんじゃないか。おい、新田」
「は、はい」
 返事をすれば怒るし、また、返事をしなくても怒る博士だった。
「どうか、教えていただきます」
「ふん、では、かんたんに、わしの研究の結果だけを話そう」
 博士は、白いあごひげをつまみながら、
「モロー彗星と地球とがぴたりと接触するのは、来年の四月四日十三時十三分十三秒のことである」
「えっ、来年の四月四日、十三時十三分十三秒?」
 四月なら、今からまだ約半年先のことである。明日や明後日(あさって)でなくてまあよかったと、新田先生は胸をなでおろした。
 十三時――というのは、一日を午前・午後で区別せず、一日は二十四時間として言いあらわしたもので、十三時は、ちょうど午後一時にあたる。つまり、来年の四月四日午後一時十三分十三秒のことである。
「どうじゃ。四、四、十三、十三、十三――と、数字が妙な工合につづいている。数字までが恐しい運命を警告しとる!」
 来年の四月四日十三時十三分十三秒に、地球は、モロー彗星にぶつかって、粉々になってしまう――と、蟻田博士の言葉である。
 これを博士の机の前で聞かされた新田先生は、わが耳をうたがった。
「博士、来年の四月四日に、地球とモロー彗星が衝突することに間違はありませんか」
「間違? このわしの言葉に、間違があるとでも言うのか。お前は、わしの言葉を信じないのか。わしの天文学に関する智力を知らないのか」
「知らないことはありませんが……」
「そんなら、それでいいではないか。わしを疑うような言葉をつかうでない。もし疑わしいと思うなら、何なりと尋ねて見ろ。たちどころに、その疑いをといてやる」
 蟻田博士の自信は、巌(いわお)のようにゆるがなかった。博士の自信に満ちた様子がうかがわれると、それだけに新田先生は悲しくなった。
「すると、四月四日の衝突ののち、我々地球の上に住んでいる人間は、一体どうなりますか」
「そんなことは、わしに聞くまでもない」
「すると――すると、やはり我々は一人残らず死ぬのですね。死滅ですね」
「そうだ、その通りだ」
 博士は、こともなげに、あっさりと返事をした。新田先生の胸は、しめつけられるように苦しかった。いよいよ来る四月四日かぎりで、地球とともに人類も滅びるのだ。こんなに永い間、いろいろと苦労をつづけて来た人類が、あっさりと滅び、その光輝ある歴史も何も、全く闇の中に葬られてしまうのである。そんな恐しいことがあっていいだろうか。いや、人類の好くと好かないとにかかわらず、現にモロー彗星は、刻々地球に追っているのだ。
「助かる方法はないでしょうか、博士」
 蟻田博士は、だまって、鉛筆で、白い紙のうえを叩いている。
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