火星兵団
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著者名:海野十三 

「あっ、丸木が、窓からのぞいて、こっちを見ていますよ」
 千二が叫んだ。
「え、どこに。どの窓か」
 博士は、テレビジョンをつけた。配電盤上に、雑誌をひろげたくらいの四角な映写幕が、みどり色に光り出し、丸木艇をうつし出す。
「一ばん、あたまのところです。うす桃色に光っている窓から、丸木がのぞいています」
 博士は、テレビジョンの倍率をたかめて、しきりに映写幕にうつる像を大きくしていく。
「ああ、これか」
 博士は、うなずいた。円い窓に、一つの奇妙な顔がのぞいている。それは、丸木のほんとうの顔だった。つまり耐圧服をぬいで、素顔をみせているのであった。奇妙な火星人の顔であった。
 眼は大きく、くちばしのようなものがとび出し、ひたいのところからは、触角のようなものがぶらさがっている。丸木は火星人としては、かなりの年寄だ。
 宇宙艇の窓から、丸木の目が、あやしくうごく。くちばしが、ぶるぶると、ふるえるところまでが、よく見える。
「なにか、しゃべっているのだな」
 と、博士は、宇宙艇の丸窓を大うつしにうつし出しているテレビジョンを見て、言うのであった。
 博士は手をのばして、配電盤上のスイッチを、ぴちんと入れた。
 すると、天井につってある高声器から、いきなり異様な声がとび出した。
「おい、蟻田。やっと、受信をはじめたか。あいかわらず、あたまのわるい奴だ」
 どくづいているその声は、丸木の声であった。
 博士も、負けてはいない。
「おい、丸木。われわれ地球人類が、いかにつよいかということを、もう十分、さとったであろう。このへんで降参したがいい」
「なにを、蟻田め、それは、こっちで言うことだ。モロー彗星に衝突されれば、地球人類は、みな死んでしまうのだぞ。それを助けてやろうとしているのに、恩を仇でかえすなんてことがあるか。この上は、ゆるせない。その血祭に、まず、貴様ののっているそのロケットを、うちおとして、息の根をとめてやるぞ」
「丸木。こっちは、平気じゃよ。それに反して、わがガス弾が、一発『ドーン』と、お前ののりものにあたれば、たちまち煙となって、おしまいになるぞ。つまり、空中葬になってしまうのだ。このへんで、降参したがいい」
「ばかを言え。おれは、もう、貴様のような人間は、相手にしないことにする」
 丸木のことばは、あやしくふるえていた。
「博士、丸木艇は、速力をはやめていますよ。にげ出すのじゃないかしら」
 千二少年が、さけんだ。
 丸木艇は、とつぜん、長くのびたように見えた。そうして艇全体が、にわかに赤みをましたようであった。丸木艇は、速力をました。
「おや、丸木艇は、あんな方向へ行くぞ。うむ、にげるつもりだな」
 と、蟻田博士が、叫んだ。
「あれあれ、あんなに、丸木艇は小さくなってしまいましたよ。ぐずぐずしていると、見失ってしまいますよ」
 と、千二は、気が気でない。
「うむ、たしかに、にげるつもりだ。――おい、新田、撃方(うちかた)やめ。今よりわが大空艇は、丸木艇を追いかける。速度をあげるから、すこし気もちがわるくなるかもしれん。みな、しんぼうするのだぜ」
「はい。しんぼうします」
 先生と千二は声を合わせて、答えたのであった。
「よろしいな。では追撃にうつる」
 博士は、そう言うと、エンジンの速度をあげた。ぐぐうっと、三人のからだは、うしろへ吹きとばされるように感じた。そうして気味がわるい頭痛がして、汗が出た。大空艇は、急に速度をはやめたのである。
「にげる、にげる。丸木艇は、だんだん地球からとおざかっていくぞ」
 博士は、丸木艇の航跡を測りながら、宇宙図のうえに、鉛筆でしるしをつけていく。
「地球から、とおざかっていくと言いますと、火星へ戻るつもりですかな」
 と、先生が尋ねた。
「さあ。もうすこし、丸木艇の行方を見ていなければ、たしかなことは言えないが……」
「博士、さっき丸木艇が、だいぶん大きく見えだしましたが、今また、ずんずん小さくなって行きますよ」
 千二が、注意した。
「うむ、そうか。丸木艇は、またにげ足を、はやめたんだな。いや、負けてはいないぞ」
 博士は、また速度をあげた。エンジンの音が、にわかに大きくなった。
 そのとき、空が急に暗くなってきた。星がダイヤモンドのようにきらめきだした。
「先生、どうしたのでしょうか。日が暮れだしたのか、急に真暗になりましたよ」
 千二が、驚いて、叫んだ。
「ふん、おかしいね。日が暮れたのにしては、おかしい。下を見ると、あのとおり、地球は、まぶしく太陽の下に光っている。なにしろ太陽も、ちゃんと、ああして空に輝いているのだからねえ」
「先生、どうしたのでしょうか、これは……」
「さあ、おかしいねえ。ここは太陽の下にいながら日が暮れ、地球の上は、ぎらぎら光って、真昼なんだ」
 二人が、そんなことを言いあっていると、博士が、
「お前たちは、なにを、ばかなことを言っているのか」
「は、あまり、ふしぎですから……。まさか、まだ成層圏(せいそうけん)へ来たわけでもないでしょうと思いますから……」
「なにを言っとるか。もう、われわれは成層圏の中にいるのだ。成層圏にはいったればこそ、夕暮みたいな景色になったのだ」
「えっ、もう成層圏へ来ていたのですか。たいへん早いですなあ」
 先生は、びっくりした。
「先生、成層圏て、なんのことですか」
 千二が、おどおどして、きいた。
「成層圏というのはね、千二君、地上からはかって、大体二十キロぐらいから上の空のことだ。そのあたりには、空気が非常にうすくなるから、太陽の光が、ちらばらない。だから、空は暗く見えるのだ」
「太陽の光が、散らばらないとは、なんのことですか」
「つまりたくさんのガラス玉をとおして、光を見ると、どこから見てもぎらぎら光って見えるだろう。空気はガラス玉と同じはたらきをするのだ。太陽の光を、空気の粒がちらばらせるので、空気のある空は、明かるいのだ。空気のないところでは、太陽の光がちらばらないから、空は暗く見えるのだ」


   61 火星行(かせいこう)


 新田先生が、千二少年に、成層圏のはなしをしている間に、大空艇は、どんどんすすんで、あたりは、いよいよ暗さをくわえていった。空気が、いよいようすくなったのである。
 先生は、千二少年のため、はなしをしてやるのに、つい夢中になっていたが、このとき、はっと気がつき、操縦席にいる蟻田博士の方を、ふりかえった。
 博士は、じっと映写幕をみつめていた。博士の手は、いつの間にか、操縦桿を放れていた。再び自動操縦に戻っていたのである。
「博士、丸木艇はどうしましたですか」
 先生は、それをたずねた。
「丸木艇は、さかんに逃げていくわい」
「逃げていきますか。どこへいくのでしょうか」
「さあ、今のところでは、なんともわからないが、多分、火星へ戻るかもしれないよ。君は無電を注意していてくれ」
「はい。どこの無電を……」
「丸木艇が、やがて、火星と通信するかもしれない。それを、こっちでも、ききとってくれ。何か、参考になることがあろうからなあ」
「はい、わかりました」
 博士は、先生をガス砲から無電機の方へ、うつしたのであった。
 千二の顔が、博士の方へ向いた。
「博士、ぼくは、どうしますか」
 蟻田博士は、千二の方をみて、にっこり笑い、
「千二。お前、髪床やさんになってくれぬか」
「えっ、髪床やさん」
「そうじゃ。丸木艇においつくまでには、まだちょっと時間があるから、お前、わしの後へ廻って、髪をつんでくれ」
 博士は、妙なことをいいだした。
「博士、おしゃれをするのですか。ぼくには、髪床やさんは、できません」
「なあに、わけなしじゃ。ここに便利な電気鋏(でんきばさみ)があるから、これでぐるぐるとやってくれればいい」
 成層圏のとこやさん――千二は、このへんな仕事を言いつかって、博士のうしろに廻った。
「待て待て。とこやさんがやるように、肩のところへ、白い布をかけてくれ」
「博士。ぜいたくを言っては困りますよ。ここは、成層圏ですからね」
「成層圏はわかっているが、とこやさんを、やってもらうには、やっぱり、白い布をかけた方がいいよ。そこにある機械おおいを取って、肩にかけてくれ」
「へい。これですか、機械おおいは……」
 千二少年は、機械の上にかけてあった油くさいきれをとって、いい気な博士の肩にかけてやった。
「ふん、なかなかいいぞ。うまく鋏(はさみ)をつかって、こののびた髪を、わしが言うように、切ってくれ」
 千二は、博士があまりのんきなので、おどろいた。そうして、鋏をしきりにつかって、長くのび切った髪を、つんでいった。
 博士は、いろいろと口やかましく、千二の鋏のつかいかたに、文句を言った。しかし、そのうちに博士の髪かたちは、ととのっていった。
 博士は、やがて一変して、若々しくなった。
「博士、ずいぶん、若くなられましたねえ。十歳ぐらいも、若くなりましたよ」
 と、となりの座席にいる新田先生が言った。
「そうじゃろう。なあに、もう、おかしくなったまねをしている必要も、なくなったからのう」
 千二は、すっかり仕事をなしおえた。成層圏で髪を刈ったのは、わが蟻田博士ぐらいのものであろう。
 このとこやさわぎが、先生や千二の心を、大へんやわらげた。博士は、ほんとうのところは、髪を刈りたかったのではなく、二人の気持を、らくにするために、むりに髪を刈れと言ったのかもしれない。……
 大空艇は、いま暗黒の空間を、ひたむきに飛んでいる。
 博士は、髪のかたちをととのえ、すっかり若くなって、座席についた。先生も千二も、それを見てにこにこしている。いよいよ一同の意気は高い。
 映写幕には、外がうつっている。まっくらな中に、うす桃いろの丸木艇が、うつっている。博士は、目盛盤を動かして、ピントを合わせた。
 丸木艇が、くっきりと、映写幕の上にうつった。
「丸木艇は、いよいよ、火星へにげてかえるつもりだな」
 と、博士は、うめくように言った。
「博士、どうなさいます」
「どうするとは?」
「丸木艇に、おいつけますか。おいつけないときは、地球へ戻るのですか、それとも、あくまでも、丸木艇をおいかけていくのですか」
「どこまでも、追いかけていくのだ」
 博士は、はっきり言った。
「え、すると、火星までいくのですか」
「そういうことになるかもしれない、もしこっちが、追いつけなければ……」
「はあ」
 先生は、おどろいて、博士の顔を見直した。
「博士、火星へいくのですか。おもしろいですねえ。一度、いってみたいと思ってたんです」
 千二は、にこにこ顔であった。
 先生は、笑う気持になれなかった。火星旅行は、地球の上の飛行機の旅のように、かんたんにはいかない。第一、火星の気候は、たいへんちがっている。それから、すんでいるのは人間ではない。植物の進化した生物だ。彼らは、丸木みたいに、すぐれた知識をもっている。そういう火星人のたくさんすんでいる中へ、三人でいって、どうするのであろう。いわんや、丸木は、自分たちを恨んでいるのではないか。そう思うと、火星行は、いやな気がする。
「博士、火星までいって、大丈夫ですか」
 と、先生は、それを聞かないではおられなかった。
「大丈夫かどうか、わからない。しかし、今となっては、火星であろうが、どこであろうが、丸木艇を追いかけていくしか、方法がないのだ」
「そうでしょうか」
「丸木は、地球に対して、はじめて戦いをいどんだ敵だ。この宇宙の侵入者を、ここで撃ちおとしておかなければ、地球人類の大恥である。わしは、あくまで、丸木艇を撃墜し、丸木を、やっつけてしまうのだ」
 博士の決心は、岩よりもかたい。火星人と戦って、どちらが勝つか負けるか、わからないのである。しかも、博士は、丸木艇を追って、進撃するのであった。
「博士、火星へでも、どこへでも、いきましょう。先生もいきましょう」
 千二は、新田先生を、はげますように言った。そう言われて、先生も、いやとは言えなくなった。
「もちろんですとも。どこへでも、いきますよ。われわれは、大宇宙にある第一線部隊ですね」
「うむ、そうだ。だから、どんなことがあっても、負けられんのじゃ」
 博士は、拳をふりあげて、言いはなった。
 千二は、この時、望遠鏡のプリズムをうごかして、大空艇の後方を見わたした。
「ああ、見える。地球が見える」
 千二は、思わず、ため息をついた。
 見える見える、地球が、大きな球のかたちをして、雲にとりまかれつつ、宙に浮いている。雲の間から地表が見える。地表は、まぶしいまでに、明かるく光っている。アメリカ大陸らしいものが見える。なんという壮観であろう。
 雲が、ぱっと光ったように見えた。とたんに、雲のさけ目から、へんな青白い光りものが見えた。それはモロー彗星だった。
 丸木艇を追って、大空艇は、なおも、まっくらな空間を、まっしぐらに飛んでいく。
「博士、こんなに追いかけているのに、一向追いつきませんねえ」
 と、先生が言えば、蟻田博士は、
「うむ、困ったものじゃ。実を言えば、これぐらいの速度を出すエンジンで、十分だろうと思っていたが、今となっては、不十分だとわかった。今さら言っても仕方がない」
 博士は、設計に不十分な点があったことを、すなおに認めた。
「じゃ、いくら追いかけても、だめでしょうか」
「いや、そうともかぎらない。丸木艇が、もし故障でもおこしてくれれば、しめたものだが……」
「なるほど、そうですか。しかし、丸木艇も、なかなか調子よく、にげていくじゃありませんか」
「うむ、敵ながら、感心していたところだ。もうあと百キロばかり間をつめることができれば、ガス弾がとどくんだがなあ」
「ほう、あと百キロですか」
 すると、千二が、測距機で、彼と我との間を読んで、
「ええ、丸木艇は、百三十キロのところをとんでいますよ」
「ふふん、そうか。あと百キロぐらい、宇宙の大きさにくらべると、何でもないがなあ」
 と、先生はくやしがった。
 その時、博士は、めずらしく座席から、立上った。
「博士、どこへいかれます」
「おお、わしは、ちょっとここを留守にするよ。新田、お前、しばらくここをあずかっていてくれ。すぐに戻ってくるから」
「承知しました。しかし博士は、どちらへ……」
「ちょっとした用事じゃ。すぐ戻る」
 博士は、行先を言わないで出ていった。


   62 怪しい影


 博士が、出ていって、部屋には、新田先生と千二との二人きりになった。
「先生、博士は、どこへいかれたんですか」
「さあ、どこだかなあ。博士は、ことさら返答をさけたようだ」
「髪をつんだり、座席を立ってどこかへいったり、なんだか博士の様子が、へんですねえ」
「そうだね。へんだと言えば、へんだが、まさか、まちがいはあるまいと思うが……」
 先生は、そう言うよりほかなかった。
 二人は、しばらくだまっていた。
「ねえ、先生」
「なんだ、千二君」
「博士は、はじめから火星へいくつもりでは、なかったのでしょうか」
「はじめから、火星へいくつもり? どうしてだい」
「つまりですね、地球は、あと二、三日したら、モロー彗星に衝突されて、こわれてしまうでしょう。だから、博士は、粉々になる地球の上にいて死んでしまうのはいやだから、その前にこの大空艇にのって地球をはなれ、火星へいくつもりじゃなかったのでしょうか」
「なるほどねえ、それは、ちょっと理窟になっているねえ。ははあ、博士は、そういうつもりで、地球をはなれたのかしらん」
 先生は首をかしげて考えこんだ。
 すると、しばらくして、また千二が言った。
「先生は、火星へいったことがありますか」
「いや、いったことなんかないよ。第一、人間が火星へいけるなんて、よっぽど先のことだと思っていた。そうして、たとえ人間が火星へついたにしろ、大空艇から出て、火星の表面をあるくのは、なかなかむずかしいことじゃないかねえ」
「そうですか。火星と地球とは、気候やなんかが、ちがうのですね」
「ああ、たいへんちがうのだ。空気はあるけれど、非常にうすい。一日のうちに、たいへん寒くなったり暑くなったりするのだ」
「それじゃ万一火星へついても、だめですね。ぼくたち人間は、火星におりても、いきがくるしくて、死んじまいますね」
 千二少年は、こまったような顔をして、新田先生を見た。
「そういうわけだね。丸木など火星人たちは、地球へくるについて、たいへん用意して来た。ドラム缶のような固いいれもののなかにはいり、地球のつよい大気の圧力が、自分たちのからだに、じかにあたらないようにしているのだ。それほどの用心をしてこそ、あのように、地球の上を、らくに歩いたり、平気でくらしていたのだ。だから、逆に、われわれが、火星の上におりて、安全に生きているためには、やはり用意がいるわけだね」
「用意というと、やはり何か着るのですか」
「もちろん、着る必要もあろうし、第一、空気がうすいのだから、酸素のはいったタンクのようなものを、持っていく必要があるとおもうね」
「先生、ぼくは、そんなものを持っていませんが、じゃあ、火星へおりられませんね」
「持っていないのは、千二君だけじゃないよ。先生だって、持っていない」
「じゃあ、博士は持っているでしょうか」
「ああ、博士かね。そうだなあ、博士は、火星にいたことがあるというから、きっと持っているとおもうが、はっきりしたことはしらない」
「先生、こんなことは、ないでしょうか。火星へついて、博士だけが下へおりて、いってしまう。あとに、先生とぼくとは、いきがくるしくなって、死んでしまう……」
「そんなことがあっては、たまらないね」
 と、先生は、ちょっと顔をくもらせたが、
「あ、そうだ。わたしたちの前にもう一人、火星へいっている男がいるのだよ。あの男はどうしたかしらん」
「へえ、ぼくたちの前に、火星へいっている人があるのですか。だれです、その人は……」
 と、千二少年は、おどろいた。
「それはね、佐々刑事だよ。警視庁にいた元気のいい刑事さんだ」
 と、新田先生は、説明した。
「ああ、あの人ですか。山梨県の山中で、火星の宇宙艇をうばって、逃げた人でしょう」
「そうだ、あの人だ。一時は、佐々刑事の無電がはいったものだが、このごろしばらく佐々刑事から、たよりをきかない。今どうしているのだろうか。おお、そうだ。この受信機で、佐々刑事の電波をさがしてみよう」
「それがいいですね」
 と、千二も、さんせいした。
 そこで、新田先生は、受話機を頭にかけ、受信機をはたらかせてみた。そうして、この前うけた時におぼえた波長のところへ、目盛盤をまわしてみた。
「どうですか。はいりますか」
「いや、きこえないね。このへんで、たしかにきこえたはずだが、今日は、ぴいっという、うなりの音も出ない」
 新田先生は、さらに、増幅器を加えたりしたが、空間は、寝しずまったようにしずかであった。
「だめだねえ。とにかく、佐々刑事の電波は今出ていない」
 先生は、ちょっと、がっかりしたかたちであった。
 ちょうど、その時、扉がひらいて、博士がかえって来た。
「博士、異状はありません。ひきつづき丸木艇のあとを追っています」
 と、先生は、すぐ報告をした。そうして、席を博士にゆずった。
 博士は、どうしたわけか、のぼせたように、頬を赤くしていた。そうして席につくと、すぐさま二人の方へ顔をむけて、
「まだまだ、道中はながいから、お前たち、こっちの寝室へいって、ねてきなさい」
 と早口で言った。
 蟻田博士は、千二と新田先生とに、寝室へ引取って、寝てこいというのだ。
 二人は、博士の言葉がだしぬけだったので思わず、目と目を見合わせた。だが、火星まで、丸木艇を追っていくときまれば、まだまだ先はとおい。ここらで休息をしておくことは、いいことであろうと思ったので、新田先生は、
「じゃあ千二君、あとを博士におねがいして、しばらく、寝てこようではないか」
 と、千二をさそった。
 もちろん、千二は、先生の言葉にしたがった。二人は、寝台のついている別室にはいった。
 その寝台というのは、ちょっと風がわりな形をしていた。それは、ちょうど列車の網棚を、もっと深くしたようなかっこうになっていて、体を入れると、すっぽりとはいり、下に垂れさがる。しかも取附けられたその寝具の蒲団は、体を入れたあとで、蒲団の合わせ目をそろえ、内部から、チャックという金具を引くと、まるで袋のようになってしまうのであった。
「先生、この蒲団は、おもしろいですね。なぜ、こんなことになっているのでしょう」
 と、千二が言うと、先生は、
「これかね。これは、つまり天井と床とが、逆になっても、ちゃんと寝ていられるように、つくってあるのさ。そうだろう。逆になれば、反対に、ぶらりと、さがるのだよ」
 と、説明をこころみた。
「なるほど、おもしろい寝台だなあ」
 千二は、目から上を、蒲団の外に出して、笑っていたが、そのうちに、つかれが出て、ぐっすり寝こんでしまった。
 それからあと、どのくらい、眠ったのか、千二は、よくおぼえていない。ふたたび気がついたときは、千二は、だれかに、しきりに名をよばれていた。
「おい千二君。へんなことがあるから、ちょっと起きたまえ」
 千二は、ねむい目をこすって、寝台の中から、首を出した。
「あ、先生。どうしたのですか」
 と、先生の顔を見ると、先生の顔色は、まっ青であった。ただごとではないらしい。
「おい、千二君。博士のようすが、へんなのだ。われわれは、かくごをしなければならないぞ」
 先生は、そう言って、いたましい顔をした。
「どうしたのですか。くわしく、話をして下さい」
 千二には、わけがわからなかった。とにかく千二は、ふとんを開いて下へおりた。
「いいか、千二君。おどろいてはいけない。この大空艇には、いつの間にか火星兵団のやつが、しのびこんでいたのだ。しかも、二人だ」
「えっ。火星兵団のやつばらが、ここにいるのですか」
「そうだ。しかも、その二人は、博士を両方からかこんでいる。博士は、なれなれしく、二人と話をしている。何を言っているのか、話はあついガラスにへだてられて、わからないがね。とにかく、博士は、火星兵団のやつと、一しょに組んでいるらしい。いや、それにちがいない」
「そうですか。博士は、また、気がかわったのかしら」
「われわれを、控室へひきとらせたのも、われわれが、操縦室にいては、都合がわるいからだ。もう、こうなれば、かくごをきめて、たたかうだけたたかって、たおれるばかりだ」
「そうかなあ。博士は、なぜそんなに、急に気がかわったんだろうなあ」
 と、千二は、いつまでも小首をかしげている。
「千二君。君は博士の変心が、信じられないらしいね。では、あそこまで来て、あの部屋をのぞいてごらん。すると、それがわかるから……」
「じゃあ、火星兵と博士が話をしているのが見えるところまで、つれていってください」
 と、千二は、先生に言った。
「よろしい。しずかに、足音をしのばせて、こっちへ来たまえ」
 先生は、せまい廊下を、先に立った。
 まったく、困ったことだ。この大空艇に、火星兵がのりこんでいるなんて。
 これが、地上でおこったことなら、博士と火星兵とをそこへのこして、一時にげだす手もあったが、このように、空中での出来ごとである。しかも、空中といっても、あたり前の空中ではない。このあたりは、もう空気がない空間である。外へにげだすことは出来ない。空気がないから、死んでしまうだろう。それに、第一、代りのロケットも、なんにもないのである。
 千二は、先生のあとから、ついていった。そうして足音をしのばせつつ、ようやく操縦室の次の部屋まで来た。
 先生は、扉の上についている小さいのぞき窓のふたを、そっと、よこにうごかした。
「ほら、まだ、三人とも、話に夢中だ。さあ、ここから、のぞいてみたまえ」
 千二の背のたかさでは、その窓が、すこし高すぎた。爪さきで、のび上ってみても、目の高さが、窓にとどかなかった。そこで千二は、そこにあった木箱をつんで、その上にのって、はじめて窓に目をあてることが出来た。
「あっ、ほんとうだ。あっ、火星兵だ。火星兵が二人、博士と話をしている」
 千二は、おどろいて、口の中で叫んだ。
 博士のそばに立っている二人の火星兵は、例のとおり、大きいあたまを、ふとい胴の上にのせていた。つまり、その胴は、地球の気圧にたえるように、つくられてあったのだ。火星兵は、しきりに、例の細い手足を、いそがしく、うごかしていた。
 なにを話しているのか、さっぱりきこえない。しかし博士は、二人の火星兵を、たいへん、ていねいにとりあつかっているようすだ。
 蟻田博士は、二人の火星兵と向きあって、しきりに話をつづけている。
(博士は、火星兵団と、ひそかに手をにぎり合っているのだ)
 と、新田先生は、そう思いこんでいた。だから、寝ていた千二少年を、ゆりおこして、博士のこのけしからぬ有様を見せ、さいごのかくごを、きめるようにすすめたのである。
 千二も、まさかと思ったが、窓の中をのぞいて見ておどろいた。
「ほんとですね。あれは、たしかに、火星兵です」
「君にも、そう見えるだろう。さあ、これから、われわれは、どうしてあの火星兵をやっつけるかという問題だが……」
「先生、ガス砲弾を、あの火星兵に、ぶっつけてやればいいではありませんか。手榴弾(てりゅうだん)をなげつけるような工合にねえ」
「さあ、そいつは、どうかな。手榴弾をなげつけるようにはいくまい。なにしろ、ガス砲というやつは、外を飛んでいるやつをうつには都合がいいが、こうして、敵が艇内にいるのでは、ガス砲の向けようがない。どうも工合がわるいね」
 先生と千二が、顔をよせて、そんなことを言っているとき、いきなり、扉があいて、蟻田博士が顔を出した。
「お前たち、そこでなにをしているのか。一体、どうしたわけじゃ」
 と、博士は聞いた。
 先生と千二とは、困ってしまった。
 なにしろ、だしぬけに扉があいたものだから……。
 先生は、もう仕方がないと、かくごして、
「博士。私たちが、ここでなにをしていたかというよりも、博士、あなたこそ、その部屋で、なにをしておられたのですか。あそこにいる二人の火星兵は、一体どうして、ここへはいって来たのですか」
 それを聞くと、博士は、
「なんだ、あの火星人のことか」
 と、意外にも、にっこり笑った。


   63 ロロとルル


 新田先生が、蟻田博士を、するどく問いつめると、意外にも、博士はにこにこしているのだ。
「博士、わたしは、まじめに申しているのですよ」
 先生は、しんけんな顔で言った。
「いや、わしもまじめだよ。まあ、こっちへはいれ。ここにおられる二人の火星人のことなら、そんな心配は無用じゃ」
 博士はそう言って、先生と千二との顔を、おだやかな目つきでながめた。
(一体、これはどうしたんだろう?)
 と、千二少年は、先生のうしろで目をぱちくり。
 博士と話をしていた二人の火星人は、さっきから、何か頭をよせて、ひそひそと語りあっていたが、この時二人して、博士のそばへやって来た。
 二人は、博士に何かしゃべった。それは火星語であった。何かたずねたようすである。
 博士はうなずいた。そうして、火星語でこたえた。
 すると、二人の火星人は、一しょに、頭をふって、うなずいた。それは、安心しましたという風に見えた。
 博士は、先生と千二の方に向かい、
「いま、こちらが心配して、わしにあいさつがあった。『この二人の人間は、何かおこっているようだが、どうしたのですか』と、言われるのだ。わしは、『どうぞ、ご心配のないように。この二人は、わしの子供と孫みたいなものですから、べつに、けんかをしているのでも、なんでもないのです』と、言ったのだ」
「なに者ですか。博士が、そんな、ていねいなことばをつかう火星兵は……」
 と、先生が言うと、博士は、
「火星兵ではないよ、火星人ではあるけれども……」
「では、なに者……」
「ロロ公爵とルル公爵だ。火星から、地球へ亡命して来ておられる方だ」
「ああ、ロロとルル……」
 新田先生は、気がついた。
 博士は、ロロ公爵とルル公爵と言ったが、この二人の火星人は、先ごろまで火星をおさめていた女王さまの二人の子供であった。この二人が、博士邸の地下室で、うごめいていたところを、新田先生は、見たことがあった。あのとき、ロロの方は、丈夫であったけれど、ルルの方は、大けがをしていた。博士はルルをなおすために、アルプスまで、くすりになる草をとりにいったことがあった。
「ああ、あのロロさんとルルさんなら、私は、お話をしたことがあります。ああ、そうでしたか」
 と、先生は、はじめて、安心のいろをうかべた。
 しかし千二には、なんのことやら、わけがわからない。千二は、先生のそでをひいた。
「先生、どうしたのですか。なにが、安心なんですか」
「ああ千二君。ロロさんとルルさんなら、こういうわけだ」
 と、そのときのことを、かいつまんで千二に説明した。
「そうですか。博士はこの前、火星へいったとき、この二人の遺児をたすけて、地球へつれてきたのですか。すると、博士は、この二人の火星人には、大恩人なんですね」
「そうだ。だから、火星兵とは、ちがうのだ。安心していいよ」
「でも、このロロさんとルルさんは、火星兵と同じすがたを、しているではありませんか。なぜでしょう」
「なるほど、これはどういうわけかな。ひとつ、博士にうかがってみよう」
 先生が、このことを博士にききただすと、博士は、
「いや、地球と同じ空気の中では、こうしたものを着ていないと、からだにさわるのだ。わしは、火星兵が着ているのに似せて、特別製のを作ってさしあげたのだ」
 と言った。
 大空艇の中は、だいぶん、にぎやかになった。博士と先生と、ほかに千二が加わり、今またロロ公爵とルル公爵という二人の火星人があらわれて、一行は五名となった。
 はじめは、ちょっと気まずい思いをしたけれど、よく考えてみれば、おたがいに、火星兵団の丸木を敵にまわしている身の上だから、やがて、まもなく仲よしになった。
 ふしぎな光景の晩餐会が、この大空艇でひらかれた。そこは、天文に関係のある写真額が四方の壁にかかっている部屋で、この大空艇の中で、一番ひろい部屋であった。まるいテーブルが、真中にあって、五名は、これをかこんだ。
 博士が正面、その右に先生、左に千二少年。そのお向かいに、ロロとルルの二人の火星人が座をしめた。
 はじめ、テーブルの上には何もなかった。
(これは、どうなるのかなあ。天井から、お料理の皿が、降ってくるのかしら。へんな宴会だ)
 と、千二はふしぎに思って天井を見上げたり、博士の顔を、よこ目でみたり。
 すると、博士が、
「では、これから始めます。今日は、とくべつに、とっておきのいいお料理を出して、ロロ公爵とルル公爵の御健康を祝すことにいたします」
「どうもありがとう」
 ロロ公爵とルル公爵とは、おぼつかない日本語で、あいさつをした。
(へんだなあ。いいお料理というが、なんにも出てこないじゃないか)
 千二は、先生の顔を見た。そのとき、先生は目顔で、しっと叱った。それで、千二は、しまったと思った。手をきちんと膝の上におき、顔を前に向けた。ところが、おどろいたことに、いつの間にか千二の前には、お料理をもった大きな鉢がある。
「うわあっ、いつのまに、こんなごちそうが、出てきたのだろう」
 と、千二は、自分のまえに、とつぜんあらわれたごちそうの鉢をながめて、目をぱちくり。
「千二。それほど、驚くことはないよ。ほら、テーブルの真中を見ているがいい。ごちそうの鉢が、どんなふうに出てくるか、よくわかるじゃろう」
「え、テーブルの真中ですか」
 博士に言われて、千二は、テーブルの真中を見た。
 テーブルの真中に、とつぜん、ぽかりと穴があいた。それは、大きな丸いおぼんが、はいるくらいの大きな穴であった。
 すると、下から、ごちそうの鉢が、せりあがってきた。
「おやおや、出てきたぞ」
 鉢が、テーブルのうえまであがると、こんどはその鉢は、すうっと走りだして、新田先生のまえへいって、ぴたりととまった。
「やあ、このごちそうの鉢は、化物の一種だな。鉢が、ひとりで、テーブルのうえを走るんだもの」
 千二は、驚いて言った。
「なあに、鉢が走るのじゃない。テーブルのうえに張ってある耐水セロファンの帯が、鉢をのせたまま、うごくのじゃ。つまり、工場でつかっているベルトコンベヤーみたいな仕掛じゃ」
「ベルトコンベヤーって、なんですか」
「それを知らんかね。工場へいけば、どこでも使っているよ。たくさんの職工さんが並んでいる仕事机のよこを、はばのひろい帯が、たえずうごいているのじゃ。一人の職工さんが、自分の加工した製品を、このベルトの上にのせると、ベルトは、たえずうごいているから、その製品をのせて先の方へはこんでいく。ベルトの端には別の職工さんがまっていて、ベルトではこばれた製品をおろすといったわけじゃ」
「ああ、名は知らなかったけれど、その仕掛なら、知っていますよ」
 千二は、ベルトコンベヤーのことを、一つおぼえた。
 つまり、このベルトコンベヤーと同じことに、テーブルの真中からあらわれたごちそう入りの鉢が、それをたべる人の前まで、はこんでくれるのであった。動く帯と、テーブルの地の色とが、同じ黄色であったから、その帯が動いていることが、千二にはわからなかったのである。
「博士、やっと、わかりました。そういう仕掛のあることを知らないと、まるで魔術をみているようですね」
「そうだ。科学知識のない人や、勉強の足りない人は、なんでも魔術だと思うのだよ。百年も前に死んだ人を、今の世の中に、もう一度息をふきかえさせてみると、この大空艇などはもちろんのこと、ロケットでも飛行機でもテレビジョンでも、みんな魔術としか、見えないだろう」
 と、蟻田博士は、しみじみ言った。
 その間に、ごちそうは、順番に、みんなの前に並んだ。あとからあとへと、いろいろなごちそうが、穴の中から、せりあがってきた。いずれもみな深い器の中にはいっていた。これは大空艇が、ときどき左右にゆれるせいであった。
「さあ、始めましょう。ではロロ公爵とルル公爵の御健康を祝して、乾杯します。おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 一同は、杯をあげた。
 そのとき、ロロ公爵が立ちあがり、
「ちょっと、ごあいさついたします。わたくしと弟ルルとは、すでに命のあやういところを、蟻田博士に、助けていただき、地球へつれてこられました。それからこっち、五年という長い月日を、いろいろと力づけてくださったり、ことに弟の病気をなおしてくださって、まことにありがたいことです」
 と、ロロ公爵は、頭を下げた。
 ロロ公爵のあいさつは、なおもつづいた。
「わが火星には、生物がいます。地球にも、人間というりっぱな生物がいます。このひろびろとした宇宙をみわたしますと、ずいぶんたくさんの星が見える。何億か何十億か、ほんとうのところは、とてもかぞえきれないでしょう。しかるに、そのうえに、生物がすんでいることがわかっているのは、わが火星と地球だけである。しかも、火星と地球とは、きわめて近くにいる。現在の距離は、たった五千六百万キロである」
 ロロ公爵は、たった五千六百万キロだと言った。
(五千六百万キロが、たったかしら)
 と、千二は、目をぱちぱち。
 公爵は、ことばをつづけて、
「そういうわけで、火星と地球とは隣組同志であります。もし宇宙に隣組とか隣保班とかをつくるのだったら、わが火星と地球とは、同じ組にはいるべきはずです。助けられたり助けたりの、そういうお隣同志でありながら、両方がけんかをしているのは、よくないことです」
「なるほど」
 と、新田先生が言った。すると、ロロ公爵は、先生の方へ、ちょっと頭を下げて、
「地球の方には、火星をくるしめようと思っている人はないらしいが、火星の方には、地球をくるしめようと思っている者がいます。むかしから、そういう者がいたのです。ことに今、地球がたいへんな災難にあって、くるしんでいるその足もとにつけこんで、火星の生物は、わるいことをしようとしている。火星兵団などというものが、それです。ちょっと聞くと、しんせつのようですが、ほんとうのところは地球の人間や馬、牛などを、自分のところへもっていって、それを家畜として、かずをふやし、そのうえで、ぱくぱくたべてしまうつもりである。じつにおそろしい火星の生物どもです」
 と、ロロ公爵は、こえはわるいが、なかなかうまくしゃべるのであった。


   64 地球よ、さようなら


 大空艇の宴会は、たいへん、うまくいった。
 博士をはじめ、新田先生に千二、それからロロとルルの二人の火星人公爵とは、すっかり仲よしになってしまった。
『宇宙の隣組』――という考えで、ロロ公爵は、地球と火星とは、おたがいに、手をにぎりあって行きたいと言ったが、それはなかなかいいことばであった。
 そう言ううちにも、大空艇は、ずんずんと宇宙を飛んで、火星に近づいて行った。
 前方を行く火星兵団長丸木の乗った宇宙艇の針路は、もうちゃんとわかっていた。彼は火星へにげもどるのである。そのことは、丸木艇の針路をしらべていくことによって、蟻田博士には、もうはっきり、わかっていたのである。
 丸木艇が、火星に行くものとすれば、別に、こっちも、いつも操縦席についていなくともよろしい。ジャイロスコープを利用した自動操縦器に、万事をまかせておけば、大空艇は、どんどんと宇宙を走り、火星に近づいて行くのである。
 なにしろ大空艇の速力が、もっと早くなるようだと、どこかで丸木艇に追いつけたのであるが、ここへ来て、丸木艇の方が、大空艇よりもすこし速度が速いことがわかった。そういうことになれば、あとは、自動操縦器にまかせて、火星へつく日をまつより外はない。
 火星へは、いつになればつくのであろう。
 宴会がはてたのち、千二は、新田先生と一しょに大空艇の望遠鏡に目をあてて、丸木艇の姿をうしろから、ながめていた。
「先生、丸木艇は、あいかわらず、全速力で飛んで行くようですね」
「そうだねえ。だいぶん小さくなったような気がする。丸木艇は、なかなかスピードが出るなあ」
「先生、佐々刑事はどうしたのでしょうか」
 と千二は、ふと、佐々刑事のことを思い出した。
「ああ、佐々刑事か。あの人は、どうしたろうな」
 と、新田先生も、佐々刑事のことを思い出して、望遠鏡から、目を放した。
 いつだか、佐々刑事あてに無電を打ったけれど、一向へんじがなかった。
「先生、あの人は火星の宇宙艇にのっているはずですが、べつに用意もしていないから、火星についても外に出られないでしょうね」
 千二は、前からそのことを心配していたのだ。
「さあ、そのことだよ。火星は、空気がうすいから、そのままでは外に出られないわけだ。成層圏をとぶ時のように、酸素吸入器をつけて、下におりるより、仕方がないだろうね。そのままでは、酸素が足りなくなって、たおれてしまうだろう」
「そうなると、佐々刑事は、いよいよ気の毒ですね。きっと困っているのでしょうね」
 ひょっとしたら、佐々刑事は、火星へついたはいいが、そこで一命をおとしたのではないかと、千二は、そこまで思ったけれど、それは言うのをひかえた。新田先生が、また心配をするといけないと思ったからであった。
「先生、地球はどうなったでしょうね。それから、大江山隊は、どうしたでしょうね」
「おお、そのことだよ。火星へいくことばかりに気をとられていて、地球のことは、わすれていた。大江山隊は、どうしたろうなあ」
 そこへ、博士がはいって来た。
「なにを話しているのか」
「大江山隊のことを思い出して、心配していたところです」
「ああ、大江山突撃隊のことか。あれなら心配なしだ」
「はあ、心配なしですか。どうなったのか、博士は、ご存じですか」
「大江山隊は、とうとうがんばって、火星の宇宙艇群を撃退したよ。わしはちゃんと、それを見て知っている」
「博士はいつ、それをごらんになったのですか」
 大江山突撃隊が、火星兵団を撃退したのを、博士が見たというので、新田先生がふしぎがった。
「わしは、そういう大切なものは、けっして見おとさないよ。君のように、いつもびくびくはらはらしていたのでは、すぐ目の前に起きていることさえ、気がつかんだろう」
 博士は、先生にとって、いたいところをついた。だが博士と先生とを、一しょにして言うことは、先生がかわいそうである。博士はなにもかも知って知りぬいているし、新田先生は、知らないことばかりにぶつかるので、平気にとりすましてはいられないのである。千二となると、この少年は、なまじなんにも知らぬだけに、かえって先生よりも、ずっと楽な気持でいた。
 だから、三人の中で、このところ一番やつれの見えるのは、新田先生であった。それも、やむを得ないことで、先生にたいして同情しなくてはならない。
「博士、地球とモロー彗星の関係は、そののち、どうなったでしょうか」
 おお、モロー彗星のことか! 先生も千二も、ともに丸木艇を追うのにいそがしく、モロー彗星のことさえ、すっかり忘れていたのであった。さっきの晩餐会が、先生の気持をゆるめ、そうして今まで忘れていた大切なことを、一度に思い出させたのであった。
 先生が、それを口にすると、千二少年も、にわかにそれに気がつき、
「ああ、そうだ。モロー彗星は、もう地球に衝突するところでしたね。ああ、たいへん。どうなったでしょうね」
 と言って、先生の顔と博士の顔を、見くらべた。
「ああ、モロー彗星のことか」
 と、博士は、なにごとかを考えるかのように、顔をあげて天井の隅を見つめた。
「わしの記憶に、まちがいがなければ……」
 と、蟻田博士は、大きく息をして、
「モロー彗星が地球と衝突するのは、あと二十四時間後の出来事だ」
 と言って、新田先生と千二との顔を見まわした。
「えっ、あと、二十四時間後ですか。もうそんなに、さしせまりましたか。もっとも我々は、丸木艇とたたかうことに夢中になっていて、時間のたつのを、すっかり忘れていました」
「多分、それにまちがいがない。なお、くわしいことは計算表を見てもいいし、望遠鏡で測って見てもいい」
 すると、千二が、
「博士、我々が火星につくのと、モロー彗星が地球に衝突するのと、どっちが先ですか」
 と、たずねた。
「さあ、それは、だいたい、同じ時刻になろう。いや、火星につく時刻の方が、すこし、早いかもしれない」
「ここから、地球へ引きかえすと、モロー彗星の衝突する前に、地球にもどれますか」
 博士は、首を左右にふった。
「あ、もう、間に合わないのですか」
「そうじゃ。もうおそい。地球のことは、あきらめなければならない」
「えっ。もう、どうしても、地球の上にすんでいる人たちは、すくえないのですか」
「どうも、しかたがない。残念だけれど」
「ぼくだけが、大空艇に乗るんじゃなかったなあ」
 千二は、そう言って、下を向いた。少年は、きっと父親のことを思い出したのであろう。
「博士」
 と、新田先生は、博士の腕をつかんで、
「すると、あと二十四時間後には、生きのこった地球の人間は、わたしたち三人だけということになってしまうのでしょうか」
 と、しんけんな顔で言った。
「そうだ。われわれ三人は、地球の最後の生きのこり者となるかも知れないのだ」
 蟻田博士は、新田先生の問いに答えて、そう言った。
「はーあっ、そうですか」
「ふうん」
 千二少年は、先生と顔を見合わせて、大きなためいきをついた。
 あれほど多い地球の上の人間が、蟻田博士と新田先生と千二少年との、たった三人になってしまうとは、何というさびしいことであろうか。いや、さびしいなどということは、後まわしとすると、実に驚くべき大事件である。地球が生まれて二十億年になる。そうして人間の祖先があらわれて八十万年になる。このかがやかしい歴史をもつ地球がくだけて、たった三人の人間しか生きのこらないとすれば、一体、何と言っていいかわからないが、のこる三人の上に、たいへんな重荷を背負うことになる。そうではないか。生きているうちに、この三人は二十億年の地球の歴史を書きのこしておかねばならないのだ。三人が死んでしまえば、地球のことは、全くだれも知った者がいなくなるのである。ことごとく地球の歴史を書くなんて、そんなことは、とても三人の力で、出来そうもない。
 ああ、地球はついに、空中で火花が消え去るように、消えてしまうのであろうか。
 蟻田博士は、どういうものか、前からこの地球の崩壊ということについて、あまり気にかけていないが、新田先生はそうはいかなかった。先生は千二をうながすと、地球のよく見える下の部屋の窓のところへいった。
「おお、見える。あれが、地球だ。もうお月さまよりも小さくなった。ああ、こっちに、斜に金の箒(ほうき)をたおしたように見えるのが、にくいモロー彗星だ」
 千二も、まっくらな空に、気味わるくにらみあっている二つの星をながめて、ぞうっとした。
「あと、二十四時間で、ふたたび、あの美しい地球が見られなくなるのか」
 窓のところに、千二少年の手をひいて立つ新田先生は、そぞろに悲しかった。今まで忘れたり、がまんをしていたのが、ここで、急に先生の胸の中に、悲しいものをなげちらしたのだ。
 千二も、さっきから、さびしい思いにとざされていた。
 しかし、ここで新田先生のひどく悲しんでいる様子を見ると、少年は、この上自分が悲しがってはならないと思った。そうして、出来るなら先生をなぐさめてさしあげたい。もっと元気にしてあげたいと思ったのである。
「ねえ、先生。地球のことは、もう、僕たちの力でどうにもならないんですから、あきらめましょうよ。先生のお父さんやお母さんや、それから、しんるいの方もお友だちも、たくさんいらっしゃるのでしょうが、もう、こうなっては、しかたがないではありませんか」
「うむ。――千二君に慰めてもらおうとは、思っていなかったよ」
 と、新田先生は、顔をあげて、のどを、ごくりと鳴らした。
「いや、もう、悲しまないよ。今、もう地球のために悲しみじまいだと思って、最後の悲しみを味わっただけさ」
 と、先生は、涙をはらい、
「しかし、今にして私たちは、日頃勉強の足りなかったことを、しみじみと感じる。地球の上に、蟻田博士のような学者がもう一万人――いや一千人でも五百人でもいい、それだけの学者がそろっていて、そうして思う研究がやれたら、わが地球は、火星に襲撃されたり、モロー彗星につきあたられたりしないで、よかったんだ。きっと、それを防ぐ手があったに違いない」
 あと二十四時間後に崩壊し去るであろうところの地球の姿を、新田先生と千二少年とは、しばし無言のまま眺めつくした。
 あの美しいまん丸なすがたも、今しばらくのことである。また、今この大空艇からは、光る地球の面に、アジヤ大陸の一部が、ぼんやりとした輪郭を雲間から見せているが、あのあたりに、祖国日本の国があるのだ。それも、もう間もなく見られなくなるのである。
 千二少年は、新田先生をはげますため強いことを言ったが、こうして、最期に近い地球の顔を見ていると、やっぱり胸がふさがり、あつい涙がこみあげてくる。
(お父さん!)
 と、千二は心の中で呼んでみた。
(お父さんは、今どうしているだろうなあ。お父さんは、地球がこわれることを知っているのだろうか。それを知っているとしたら、今、どんな気持でいるだろうか。もしや、『千二や、千二や』と、ぼくの名を呼びつづけているのではないかしらん)
 千二もやはり人の子であった。強くなくてはいけないと思いながらも、やはり父親とのわかれは、つらかった。
 なんとかして、彼の父親を助ける工夫はないものか。いや、地球人類の命をすくう法はないものであろうか。
 二十億年の年月を経た地球が、宇宙のぶらつき者のモロー彗星にうちあたられ、目にもとまらぬ速さで、一団の炎となり果てるとは、まことに夢のような話である。
「おお、お前たち、そこで、何をしているのか」
 とつぜん、うしろに蟻田博士のこえがした。千二は、博士がうらやましかった。地球が、やがてこわれるというのに、涙一滴こぼすどころか、平気なのである。
「なあんだ、二人ともめそめそして……」
 博士は叱りつけるように言った。
 博士に叱られて、新田先生と千二とは、涙をふいた。
「なあんだ、お前たちのその顔は……」
「博士、あなたは、地球に家族もなければ、なんの心のこりもないのでしょう。だから、地球の最期が来ても、涙一滴出さずにいられるのです。私や千二君などは……」
「おい新田、待て。そういうとわしは、なんだか鬼みたいな人間に聞えるではないか。わしにも家族はある」
「え、博士に家族がおありですか。それは失礼ですが、ほんとうですか」
「全く失礼なことをいう奴じゃ。家族のない人間は、未完成というか、感心出来ないよ。わしには家族があって、ちゃんと地球の上に住んでいる」
「そうでしたか。しかし博士は、その家族の方のために、一滴の涙もこぼされないのは、どういうわけですか」
 先生は、不思議そうにたずねた。
「ここで、いくらたくさんの涙をこぼしてみても、どうにもならないではないか。ええ、そうだろう」
「しかし……」
「まあ、お聞き。わしに言わせれば、人間が悲しんだり、それからまた体を楽にしたりすることは、死んでからあとのことにすればいいのだ」
「えっ、なんでしょう、今おっしゃったことは?……」
「これが通じないかなあ。つまり、人間は死んでしまえば、そのあとにはもう用事もなくなるし、たずねてくる者もない。そこで、死んでからゆっくり悲しめばいいし、また休んだり楽をしたりすればいい。生きている間に、悲しんだり楽をしようとしたりするのは、大まちがいというものだ。生きている間は、そんなことは後まわしにして、どんどん働くのだ。生きているうちにやる仕事は、たくさん残っている」
 と、博士は、青年のような元気で言った。


   65 二つの月


 大空艇は、ついに火星の領空に達した。
「着陸の用意だ」
 と、博士はひとりでいそがしい。
 火星のロロ公爵とルル公爵は、にわかに元気づいたようである。
「おい、新田と千二君。お前たちに、これをわたしておく」
 と、博士は二人を呼んだ。
 二人が博士の側へいってみると、そこには、潜水服についている潜水かぶとのような形のものが三個、床の上におかれてあった。
「博士、これは何ですか」
 と、千二は、不思議な顔。
「これを頭にかぶるのじゃ。いや、まだ今からかぶらなくてもいいが、大空艇が火星に着陸し、いよいよ火星の地面の上を歩く時には、これをかぶるのじゃ。そうしないと、われわれ地球の人間は息が苦しくなる。火星の表面では、空気が少いのだからなあ」
「ああ、すると、これは酸素を出すマスクですね」
「そうだ。このかぶとの横に、耳のような筒が左右にぶらさがっているが、この中には固形酸素がはいっているのだ。その上にある弁を動かせば、かぶとの中に出てくる酸素の量がかわるから、好きなようにやってみるがいい」
 博士はそれから、かぶとを二人にかぶらせて、かぶりかたを教えたり、弁の動かしかたを教えたりした。
「どうだ、わかったか」
「ええ、わかりました。しかし、この重いかぶとをかぶると、僕は歩けないなあ。子供用のかぶとはないのですか。これは大人用でしょう」
 と、千二は困った顔だ。
「いや、子供用というのはない。用意してなかったのだ。しかし、見かけは重いが、火星の上ではそんなに重くはないよ」
 大空艇は、流星のように火星の表面へ落ちていった。
「あと三時間で着陸だ」
 と、博士は言った。
 火星は、いつの間にかどんどん大きくなり、そのころには、もう、たらいぐらいの大きさになっていた。実に、どんどん早く大きくなる。
 大空艇は、かなりものすごい落下速度を出しているが、速度の変りかたがうまくいっているので、からだには、あまりこたえない。
 千二は、火星に近づいたので、何だか、急に嬉しくなった。彼は、火星の見える窓にのびあがって、しきりに眺めている。
 だが、変なことに、火星のおもては、地球のようにはっきりしない。何となく、どんよりと曇っている感じだ。
 ちょうど、苔(こけ)のついた古い金魚ばちの中へ、地球儀をほうりこんで、それを外から見ているような感じだ。
 千二は、そのことを新田先生に話した。すると先生は、
「それはね、火星の外側は、塵(ちり)のようなものが、たいへんたくさん集っていると、ある学者が発表したことがある。だから、その火星塵(かせいじん)の、あつい層を下へつきぬけなければ、火星の表面は、はっきり見えないわけだ」
「火星塵の、あつい層ですか。地球にはないものが火星にはあるのですね」
「そうだ。地球と火星とは、形こそ似ているが、違うことはいろいろたくさんあるよ。ほら、あそこをごらん。火星のお月さまが見える」
「えっ、どこですか」
「あそこだ」
 先生の指さすところをよく見ると、なるほど、月らしいものが浮いている。
「ああ、あれが火星の月か」
 と言ったが、千二は、へんな顔をして、
「先生、あれはなんでしょうか。こっちの方からも、月のようなものが出て来ましたよ」
 と、左の方を指さした。
 見たところ、ちゃんと月の形をしている。それが、はじめの月と反対の方向に、ぐんぐんとまわりだしたのである。
「ああ、あれも、火星の月だ。小さい方の月だ」
「えっ、小さい方の月? すると、火星には、大きい方の月もあるのですか」
 千二は、ますます不思議そうな顔であった。
「そうなんだ、千二君。君は、火星に二つの月が、ついてまわっていることを、知らなかったのかねえ」
「二つの月ですって。お月さまは、一つだけのものだと思っていました。火星には、月が二つもあるのですか」
「そうだよ。小さい月がデイモス、大きい方の月がホボス、そういう名なんだ」
「へんな名前ですね。一度じゃあ、おぼえられないや」
 と、千二は、首をふった。
「デイモスにホボスだよ」
「あっ、先生、こっちの大きいお月さまは早いですね。もう、あんなに動きましたよ」
「そうだ。ホボスの方は、たいへん早くまわるのだ。一日のうちに、火星のまわりを三回ぐらいまわるのだ。デイモスの方は、一日では火星のまわりを、まわりきらないのだ。三十時間しないと、一回分まわらないのだよ」
「火星って、実に不思議な国ですね。お月さまが二つあったり、それがたがいに反対にまわったり、それから一方のがのろのろしていて、他方のがかけ足で三回もまわったり、ああ、ぼくらの地球とは、まるで違うのですねえ」
 千二が、目をまるくして火星の月をみていると、その二つの月は、ぐんぐん近づいて衝突しそうに見えた。
「あっ、お月さまの衝突だ!」
 千二は、思わず、そう叫んだ。火星の二つの月が、反対の方向からだんだん近づいて、衝突するかのように見えたのである。
「大丈夫。衝突なんかしないよ。地球とモロー彗星の場合とちがうのだ」
 新田先生はそう言ったが、千二が見ていると、たしかにその通り、衝突すると見えた二つの月は、いつの間にか左右にわかれ、今度は、少しずつ離れだした。
「なるほど、衝突はしなかったですね」
 千二は、かんしんして言った。
「地球とモロー彗星も、あのように、うまく衝突しないで、すれちがえばいいのだが……」
 と、新田先生は、しみじみと言った。どうも先生の頭には、いつも地球のことが、こびりついているようであった。
 操縦室では、蟻田博士が、ロロ公爵とルル公爵に対し、熱心に話を続けている。
「……それじゃ、やっぱり、カリンの岬に大空艇を着けますかね」
 と、博士が言えば、
「それがいいですよ。カリンの岬なら、丸木なんかが攻めて来ようとしても、ちょっと手間がとれますからねえ」
 と、ロロ公爵が賛成した。
「あそこには、水底に洞窟(どうくつ)がありましたね」
 と、蟻田博士がたずねた。
「そうです。カリン下の洞窟のことですね。あそこは、かくれるのに持って来いのところです」
「洞窟と岬との間には、抜道のようなものがありましたね」
「ああ、ありますとも。五つの扉をあけないと通れませんが、階段がついていますよ」
「その扉は、どうすればあくのでしたかねえ」
「呪文を唱えればいいのです」
「その呪文は」
「ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレと言えばいいのです」
「むずかしい呪文ですなあ。
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