火星兵団
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著者名:海野十三 

 丸木の返事は、あいかわらず、ぶっきらぼうであった。
「僕には、昼だか夜だか、どっちだかわからないんですよ。だって、僕は、厳重な目かくしをされているんだもの」
「ああ、そうだったね」丸木は、ようやく思い出したらしい。「いまは夜だよ。外は、真暗(まっくら)で、どの家も戸をしめているよ。そんなことを聞いて、一体どうする気だ」
「そして今、幾時?」
「時刻か、さあ、幾時だかわからない」
「おじさんは、時計をもっていないの」
「時計? 時計なんか持っているものか。おい千二。東京へ近くなったから、もうお喋りしちゃならんぞ」
「えっ、もう東京の近くまで来たの」
 千二は、丸木の足のはやいのにおどろいた。さっきから、まだものの二十分とたっていないのに、はや東京の近くへやって来たというのだ。そんなばかげた話はない。千二は、丸木がうそをついているのだと思った。
 丸木は、かまわず、どんどんと駈けつづけた。しばらくして、丸木はこえをかけた。
「おい千二、もう東京の中だ。買物をするのには、銀座がいいのだろうね」
「さあ、僕はよく知らない。だって僕は、そう幾度も東京へ来たことがないんだもの」
「なあんだ。お前は、こんな近い東京をよく知らないのか。とにかく、銀座へ出よう。さあ、このへんなら、人通りがないから、お前の目かくしを取るには、いい場所だ」
 そう言うと、丸木ははじめて足をとめた。そうして袋の中にはいっていた千二は、丸木の肩から下された。
「今、中から出してやるし、目かくしもとってやるが、その前に一つ、きびしく言っておくことがある」
 丸木は言葉のおしりに、力を入れて言った。
 千二は、丸木が何を言出すかと、だまって、待っていた。
「いいか。忘れないように、よく聞いているんだぞ。ここでお前のからだを自由にしてやる。しかし買物が終らないうちに逃出したりすると、お前の命があぶないぞ。命が惜しければ、よく言うことを聞くんだ。わかったか」
 千二は、丸木からおどかされて、ほんとうのところは、腹が立った。
(なにを、この野郎!)
 と思った。千二少年も日本人である。むやみにおどかされて、それでおめおめ引込んでいるような、弱虫ではない。だが、この場合、千二は、丸木ととっくみあいをする時ではないと思ったので、
「僕、逃げたりなんかしないよ」
 と答えた。
「逃げないと言ったな。よし、その言葉を忘れるな。ふふふふ。やっぱり人間という奴は、命がおしいとみえる」
 と、丸木は、ふふふふと、鼻の先で笑いながら、千二を袋の中から、ひっぱり出した。
「さあ、ちゃんと立ってみろ。うしろを向いて、しっかり立てと言うんだ」
 千二の足は、ふらふらだった。袋の中で、へんな工合に足をまげていたので、足が変になっていた。
 丸木は、千二の頭の後で、ごとごとやっていたが、そのうちに、千二の目の中に、ぱっと夜の光が飛びこんで来た。
 うつくしい広告灯の灯だった。銀座が、千二のすぐ目の前に立っていた。
「あっ、ほんとうにもう東京へ来たんだ。丸木さん、僕たちは、さっき千葉県にいたはずだけれど、どうしてこんなに早く東京へ着いたの」
「そんなこと、どうでもいいじゃないか」
 すぐ横で、丸木のこえがした。
 千二が、横をふりむくと、そこには、例の黒ずくめの服装をした丸木が、眼鏡をきらきらさせて、立っていた。
「さあ、薬屋へいくんだ。いいかね。逃げると承知しないぞ」
 そう言って丸木は、千二の手を握った。
 それは氷のように冷たい手だった。いや、丸木は革の手袋をはめているらしい。
 二人の立っているところは、銀座裏の掘り割りのそばで、人通りはなかった。だからこの二人は、怪しまれることもなしに、こんな会話をすることが出来た。
「薬屋へいって、なにを買うの」
「ボロンという薬だ。ボロンの大きな壜を、二、三本買いたいのだ」
「ボロンを、どうするの。何に使うの」
「おだまり。お前は、早く薬屋をさがせばいいのだ」


   6 悪人(あくにん)丸木(まるき)


 丸木におどかされながら、千二は、賑やかな銀座の通に、ようやく一軒の薬屋さんを見つけて、その店先をくぐった。
 千二は薬剤師らしい白い服を着た店員に、
「あのう、ボロンの大壜(おおびん)を二、三本売ってくれませんか」
 と、おそるおそる言った。
「ボロン? ボロン? 硼素(ほうそ)のことですか」
「さあ……」
「白い粉末になっているやつでしょう」
「さあ、どうですかねえ」
 千二は、何も知らないので、弱ってうしろをふり向いた。すると、店先で、他人をよそおっていた丸木が、
(それだ、それだ)
 という意味を千二につたえるため、うなずいてみせた。千二は、元気づいて、
「ああそれですよ。白い粉末のボロンです」
「精製のものと、普通のものとありますが、どっちにしましょうか」
「さあ、精製のと普通のと、どちらがいいのでしょうかねえ」
 千二は、またうしろをふり返った。すると丸木は、手を上にあげて、信号をした。精製の方のがいいという意味らしい。
「いい方を下さい」
「はい、承知しました。三本でよろしいのですね。では一本、ただ今二円三十銭ですから、三本で、六円九十銭いただきます」
「六円九十銭ですとさ」
 千二は、丸木の方をふり返って、そう言った。
 すると、おもいがけなく、丸木が急に、そわそわしだした。
 たいへんあわてているのであった。彼はしきりに胸のところを叩いている。何かよほど困ったことがあるらしい。
「丸木さん、一体どうしたの」
 千二は、丸木のところへやって来て、わけをたずねた。
 丸木は、いかめしい姿に似合わず、ひどくあわてている。その様子が、ますますはげしくなった。
「おい千二。お前、金を持っていないか」
「僕? 僕は、お金なんかすこしも持っていない。なにしろ、魚をとりにいくために家を出かけたので、お金なんか一銭も持っていないですよ」
「そうか。それは、どうも困った」
「丸木さんは、お金を持っていないの。なくしたんですか」
「いや、お金のことは知っていたが、ついそれを用意することを忘れた。そうだ、買物をする時には、お金がいるんだったなあ。ああ、大失敗だ」
 丸木は、ひとりでさわいでいる。
「じゃあ、ボロンを買うのは中止ですね」
「それは困る。どうしても、ボロンを買っていかなければ、困ることがあるのだ」
 丸木は、今はもう自分に代って、千二に用事をしてもらっていることが、がまん出来なくなった。彼はいきなり薬剤師の白い服をつかまえ、
「ねえ君、金はあとでとどけるから、ボロンを渡してくれたまえ」
 薬剤師はおどろいた。いきなりお客さんに、自分の服をひっぱられたのだから。
「あっ、そう乱暴しちゃ服がやぶれますよ。はなして下さい」
「ぜひ、ぜひボロンをたのむ」
 丸木は、必死であった。
「いや、いけません」
 年のわかい薬剤師はすこし怒っているらしく、きっぱり丸木のたのみをしりぞけた。
「そう言わないで。あとから君にも、たっぷりお礼をする」
「いや、だめです。お金を持って来なければ、ボロンでも何でもお渡し出来ません」
「どうしても、だめか」
 と、丸木はうらめしそうに、薬剤師をにらみつけた。
「お金を持って来ない人に、どんどん薬を上げていたのでは、商売になりませんや。じょうだんじゃありませんよ」
 と、若い薬剤師は、丸木にからかわれたとでも思ったのか、本気になって、怒っている。
「ふふん。どうしてもだめか」
 丸木は、あらあらしい息で、またうなった。全く気味のわるい人物である。
「ああ金! 金さえ持って来れば、ボロンを売ってくれるんだな」
「もちろんですよ。たった六円九十銭ぐらいのお金に、おこまりになるような方とも見えません。じょうだんはおよしになって下さいよ。本気のお買物なら、もう午後九時も近くなりましたから、早くお願いいたします」
「金は、今ここに持っていないのだ。だが、すぐあとから持って来る。金を持って来れば、かならずボロンの大壜を三つ渡してくれるね」
「そんなに、くどくおっしゃって下さらなくとも、大丈夫です。かならずお渡しいたします」
「きっとですぞ。きっとだ! もしそれをまちがえたら……」
 と言いかけて、丸木は、後の言葉をのみこみ、
「いや、すぐにお金を持って来る。待っていてくれたまえ」
 おし問答のはて、丸木は薬屋の店をとび出した。
「おい千二。お金を手に入れなければならないんだ。さあ、お前も来い」
 何を考えたか、丸木は、千二の手を取ってどんどん走りだした。
 もう午後九時は近い。が、銀座通は、昼間のように、たいへんにぎやかであった。
 丸木はその人込の中をわけていく。一体彼は、なぜお金を持っていないのであろうか。
 丸木は、千二の手を引いたまま、夜の銀座通の人波をかきわけて、どんどん前へ歩いていく。
「丸木さん、どこへいくの」
 千二が、心配になって聞くと、
「だまっておれ。声を出すと、ひねりころすぞ」
 丸木は気がいらいらしているらしく、ひどい言葉で、千二をしかりつけた。千二は、丸木の冷たい手から、自分の手をはなそうと試みたが、丸木の手は、まるで大きな釘抜のように、千二の手をしめつけていて、はなすことが出来なかった。
 丸木の歩調が、少しばかり遅くなった。彼はしきりに、いろいろなものを売っている店先に、目を向けている。そこには、美しく飾られた飾窓をのぞきこんでいる人もあれば、中で何か買物をしている人も見える。
「ああ、金だ、金だ」
 丸木は、時々ひとりごとを言った。
 そのうちに、丸木はぴったりと足を止めた。
「どうしたの、丸木さん」
「しっ、だまっておれと言うのに……」
 この時丸木の目は、大きな鞄店の中で、りっぱなハンドバッグをたくさん前に並べ、どれを買おうかと、しきりに見ている一人の年の若い、洋装の女の上に釘づけになっていた。
 やがて、その洋装の女は、中で一番りっぱな鰐革のハンドバッグを買った。その時かの女は、抱えていた白い蛇の革のハンドバッグの中から、たくさんの紙幣をつかみだして、店員に支払った。
「ああ金だ。たくさん金を持っている」
 丸木は、またうなった、そうして、買物をして出ていくその洋装女の後姿をふりかえって、じっとみつめていたが、
「おい千二。ここで待っていてくれ」
 と言った。
 丸木は、千二に向かって、ここに待っていてくれと言うのだ。
「ああ、待っていますよ」
 千二は、ひょっとすると、この間に、丸木の手から逃出すことが出来はしないかと思ったので、そう返事をした。
「すぐ、おれはここへ帰って来る」
 そう言置いて、丸木は千二をはなすと、すたすた歩き出した。
(どこへいくのだろう?)
 千二は、その時ふといやな気持になった。丸木は、さっき見とれていた、あの洋装女から、金を借りるつもりではないかと思ったのである。だしぬけにそんなことを頼まれては、さぞかし女の人は驚くだろう。
 千二は、たいへん心配になった。
「おうい、丸木さん」
 千二は、じっとしていられなくなって、丸木の後を追いかけた。
 だが、丸木の姿は、いつの間にか人込のなかに吸いこまれて、どこへいったのか、わからなくなった。それでも千二は、あっちへいったり、こっちへかえったり、いやな胸さわぎをおさえつつ、しきりに丸木の姿をさがしもとめたのだった。しかし、それは、遂にむだに終った。
 千二は、またいつの間にか、元の所へもどって来た。
「おい、千二」
 だしぬけに呼ばれて、千二はびっくりした。それは丸木だった。いつの間にか、丸木が帰って来ていたのだった。
「ああ、丸木さん。どうしたの」
「どうしたって、ふふふふ」と、丸木は、へんな笑い方をして、「お金はこんなにある。さあ、これを持っていって、あの薬屋で、ボロンの大壜を三本買ってくれ」
 そういう丸木の手には、たくさんの紙幣(さつ)が握られていた。不思議なことである。どこでこんな大金をつくったのか。
 どこから手に入れたか、丸木の握っている大金!
「丸木さん。このお金は、どこから持って来たんですか」
 千二は、息をはずませて、たずねた。
「ふふふふ。さっき、洋装の美しい女がいたのを、知らなかったかね。あの女が持っていた金だよ」
「はあ、そうですか。あの女の人が、丸木さんに貸してくれたというんですか」
「貸してくれたって。いや、ちがうよ。あの女の持っていたのを、こっちへもらって来たんだ。そんなことはどうでもいいじゃないか」
「すると、丸木さんは、あの女の人から、お金を取ったんですね。女の人は、きっと怒ったでしょう」
「ふん、怒ったかどうだか、ちょっとなぐりつけたら、おとなしくなって、地面に寝てしまったよ」
「えっ、そんなことをしたんですか。丸木さんはいけないなあ。女の人をいじめたりしちゃ、いけないですよ。もし、死んでしまったら、どうします」
「死ぬ? はははは、死ぬことが、そんなにたいへんな問題かね」
 丸木は、悪いことをしたと思わないのか、声高く笑った。
(ああ、悪い奴だ。丸木さんは、とんでもない悪人だ!)
 千二は、あきれてしまった。
「おい千二、何をぐずぐずしているのか。金が手にはいったんだから、すぐボロンを買うんだ。さあ、一しょにいってくれ」
 丸木の冷たくてかたい手が、千二の手くびをにぎった。千二は、丸木にひきずられるようにして、人影もようやく少くなった銀座の通を走った。そうして、例の薬屋の店先まで来た。その時丸木は、驚きの声をあげた。
「おや、この家だと思ったが、店がしまっている」
 薬屋の店は、もうしまっていた。そうであろう。商店法により、午後九時を過ぎると、店をしまう規則になっている。
 丸木は、ぷんぷんおこりだした。
 そうして、薬屋の戸を、われるようにどんどん叩いた。
「もしもし、さっきの店員の人。金を持って来たから、ボロンを売ってくれたまえ」
 店の中では、人の話しごえが聞えるが、だれも丸木にこたえる者がなかった。
「もしもし、さっき君は、金を持って来れば売るとやくそくしたじゃないか。さあ、ボロンを売ってくれたまえ」
 すると店内から、ばかにしたようなこえで返事があった。
「もう九時を過ぎましたから、商店法の規則で、品物はうれません。明日(あした)にして下さい」
 これを聞いて、丸木は、獣のようにおこりだした。
「おいおい、金を持って来れば、売ると言ったのに、それじゃあ話が違う。ぐずぐず言わないで、この戸をあけろ」
「そりゃ売ると言いましたが、今晩のうちに売るとは言わなかったですよ。商店法なんですから、なんといってもだめです」
「なにっ、どうしても売らないと言うのか。今になって売らないと言うなら、この戸を叩きこわして、はいるぞ」
「そんな乱暴なことをやっちゃ、だめですよ。しかしこの戸は、あなたのような乱暴な人をはいらせないために、かなり丈夫に出来ているんです。お気の毒さまですが、あなたの手が痛いだけですよ」
 店員もなかなか負けていない。丸木は、それを聞くと、益々たけりだした。
「これだけ言っても、言うことをきかないなら、わしは、好きなとおりにやる。お前などを相手にせんぞ!」
 そう言うと、丸木は二、三歩さがり、きっと戸をにらんだ。
 驚いたことに、戸はめりめりと鳴った。今にもこわれそうだ。
 丸木は、からだでもって、薬屋の戸にぶっつかる。
 見ている千二は、びっくりした。
「丸木さん、およしなさい」
 千二は、一生けんめい、丸木をとめにかかったが、丸木の耳には、もう千二の言葉などは、全く聞えないらしい。
 そのとき、千二は、妙な音を聞いた。
 ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう。千二は、その妙な音を聞きながら、
(あれ、あの音は、どこかで聞いた音だぞ)
 と思った。しかし彼はすぐさま、そのことを忘れてしまった。そのわけは、丸木が、ついに、めりめりと薬屋の戸をおしたおしてしまったからである。
「あっ、乱暴者!」
「おい、みんな、力を借せ。こいつを取りおさえて、交番へつきだすんだ」
 奥で顔をあらっていた店員たちも、どっと店にとび出した。そうして、十人近い人数で、一人の丸木をとりまいた。
 だが、丸木はすこしも、ひるまない。長い外套の下から、足をだして、店員たちを蹴たおした。丸木に蹴られた店員は、だれでも、ううといったきり、二度とおきあがって来なかった。
 残った店員たちは、この烈しい丸木のけんまくに、すこしおそれをなして、後へひきさがる。
 その間に、丸木は、薬の壜を並べた棚のところにとんで行って、壜の上にはってあるレッテルを一々見ては、ちがっていると見えて、かわるがわる両手につかんで、店員の方へなげとばす。劇薬も毒薬もあったものではない。さわぎは、ますます大きくなった。
 そのうちに、丸木は、大きな声でさけんだ。
「ああ、あった。ボロンの壜があったぞ」
 と、丸木は、その場におどりだした。
 その時、丸木の後頭部めがけて、野球のバットが飛んで来て、ぐわんと大きな音をたてた。店員の一人が、この乱暴者を静かにさせるため、ありあわせのバットで、丸木の後から、なぐりつけたのだった。
 だが、丸木は、それには一向驚かなかった。そうしてボロンの壜を大事そうに、幾度もなでまわした。
「あれっ、こいつ! びくともしないぞ。へんだなあ」
 店員は、もう一度力まかせに、バットを振って、丸木の頭をなぐりつけた。丸木の頭は、ぐわんといった。そのはげしい音では、頭が破(わ)れたかと思ったが、やはり丸木は平気だった。しかし、どうしたわけか、その時から丸木の首は、急に曲ってしまった。たいへん妙な工合で、まるでおもちゃの人形の首を、ぎゅっと曲げたような恰好であった。
 丸木は、それでも平気であった。首を曲げっ放しで、ボロンの壜を腹のところに抱えると、表へとび出した。
 店頭には、もちろん、このさわぎをみようというので、弥次馬連中が、わいわい集って来て、店内をのぞいていたが、丸木は、おそれ気もなく、その連中を垣でもおしたおすように突きのけて、一散に戸外に走り出したのだった。
「おうい、待て。薬品どろぼう、待て!」
 店員と弥次馬連中が一しょになって、丸木の後を追いかけた。店をしめて、静かになったばかりの銀座は、とんだことから、火事場のようなさわぎになった。
「あれっ、いないぞ。どこへ行ったんだろう!」
「おい薬品どろぼう、こっちへ出てこい」
 出て行くものもないだろうが、とにかくどこへ逃込んだか、丸木の行方はわからなくなった。


   7 やみとひかり


 銀座に起った怪事件については、あくる朝の新聞は、たいへん大きな見出しで、でかでかと書きたてた。
「怪人、銀座に現れ、薬屋を荒す」
「怪事件におびえた昨夜の銀座通」
「共犯者の少年、逮捕さる」
 など、いろいろな見出しで書きたてられたが、「共犯者の少年」とは外(ほか)ならぬ千二のことであった。
 千二は、逃げそこなって、警視庁にひかれて行ったのである。
 その朝刊に、もう一つ銀座の怪事件が、並んで出ていた。
「宵の銀座に、奇怪な殺人。被害者は、若きタイピスト」
 各紙ともこの二つの事件は、別々の事件として新聞に並べて書きたてられた。
 ただ一つ、東京朝夕新報という新聞だけは、この二つの事件を一つと考えていいような風に、記事を書いた。
「怪人、深夜の銀座をあらして逃走す。美人殺害、薬屋の店員はあやうく鬼手をのがれた。満都の市民よ、注意せよ」
 この方の新聞記事は、かなり市民を驚かした。犯人が逃走したまま、まだつかまらないから、注意をするようにと書いたことが、市民の胸に、大きな不安を植えつけたのだった。
 かわいそうなのは、千二少年だった。その前夜から、へんな目にあい通しであった。そのあげく、怪人丸木にこきつかわれ、共犯者ということになり、警視庁の留置場(りゅうちじょう)へ、放りこまれてしまったのである。
 千二は、冷たい壁にとり囲まれた留置場に、しょんぼりと坐っていた。彼は悪い夢をまだ見つづけているような気がしていた。
 千二は、警視庁の留置場へほうりこまれたのち、ほんのちょっと調べられただけで、あとはそのまま留置場の中に、忘れられたようにとめおかれた。
「うそをつくな。うそをついている間は、一カ月でも二カ月でも、ここへほうりこみっぱなしだ。一つ、よく考えなおしてみろ」
 そういう言葉を、千二は、痛いほどつよく、小さい胸におぼえている。それは、取調が終って、再び留置場にほうり込まれる前に、掛官の大江山課長から、なげつけられた言葉だ。
 だが、千二は、なにもうそなどはついていない。ほんとうのことを答えたのであるが、課長が、それをほんとうにしないだけのことだった。
 千二のことも新聞に出た。
 ある新聞には、千二の顔が大きく出ていた。それはどこでとった写真か、千二が見たら、きっとなげくに違いない写真だった。
 その写真は、一年前、成田町でとったものだ。その時、写真屋さんの店へ上ったのは、千二ただ一人ではなかった。新田(にった)先生も、一しょだった。つまり新田先生が、小学校をおやめになって、大阪へ行かれるのを、成田町まで千二が送って来て、そうしてその別れの記念にとった写真であった。新聞社は、どこからか、その記念写真をさがし出して来て、千二の顔だけを大きく伸ばして、写真版につくりあげたのである。思出のふかい写真から、複製したものだったのである。
 だが、千二は、彼の顔が新聞に出たことは知らない。だから、その写真が使われたことさえ、知らないのだ。
 しかしながら、新田先生の方では、千二の顔を新聞の上に発見して、たいへんおどろいた。そうして顔をまっかにして、怒りの声を発した。
「こんなばかなことが、あってたまるものか。あの千二君が、共犯者だなんてことがあるか!」

 千二少年のつよい味方が、一人あらわれたのである。
 新田先生は、つい一年前に別れた教え子の千二が、とんでもないうたがいをうけ、警視庁に入れられたことを朝刊で知り、その場で東京へいこうと決心した。それはもちろん千二のために弁護して、留置場から一刻も早く出してやりたいためだった。
「あの千二君が、あんなむさくるしい留置場にはいっているのだと思うと、かわいそうで、たばこをすう気さえ起らなかった」
 と、後に新田先生は、その頃のことをふりかえって、思出話をなさったことである。
 とにかく、その朝先生はすぐに電話を日本空輸にかけた。それは東京行の旅客機に乗れるかどうかをたずねたのである。たとえ一時間でも一分間でも、早く千二の困っている東京へいきたいと、新田先生は飛行機でいく道を選んだのである。
 幸いに、座席が一つあった。予約してあった客の一人が、急に都合がわるくなって、それに乗らないことになったのである。新田先生は、すぐそれに乗りこんだ。
 この新田先生というのは、千二少年の組に理科を教えていた先生である。一年前に、小学校をよして、大阪へいった。大阪では、教鞭をとるのではなかった。大阪帝国大学工学部の聴講生となって、さらに勉強をしようというのであった。新田先生の専攻するのは、ロケットであった。
 ロケットというのは、飛行機と同じように、空中に飛びまわる新しい乗物である。まだ研究が完成していないので、あまり大きなものはないが、行く行くは、地球の旅行にも、あるいはまた宇宙を飛びまわるにも、このロケットがたいへん都合のいい乗物であった。
 新田先生は、お昼前、無事に東京羽田の空港に着いた。
 新田先生は、東京の羽田空港で旅客飛行機から下りると、すぐその足で、とるものもとりあえず、千二少年の留置されている警視庁へ駈けつけた。
「何の用ですかね」
 と、受附の警官はたずねた。
 そこで先生は、じつは、これこれしかじかと、千二少年のことをのべ、あの少年は自分のいい生徒だったから、殺人事件を一しょにやるような悪い子供ではない、ぜひ許してやっていただきたいと、まごころを面(おもて)にあらわして言った。
 受附の警官は、たいへんいい人であった。新田先生の話に、すっかり同情して、
「そうですか。そういうことなら、誰よりもまず捜査課長の大江山警視にあって、よく話をしたらいいでしょう。ちょっとお待ちなさい。今会えるかどうか、私が聞いてあげましょう」
 と言って、親切にも、他の来訪客を待たせておいて、大江山課長へ話をしてくれた。
 その口添がきいたのか、課長は、すぐ新田先生に会ってくれることになった。
 先生が、みちびかれてはいったのは、応接室ともちがう小さな部屋だった。壁は防音材料で出来、となりへ話が洩れないようになっていた。その壁に、一枚の鏡がかかっているのが、どうもこの部屋に似合わしからぬものだったが、これは、この部屋からみると鏡としか見えないが、隣室から見るとこの部屋の様子がすっかり見えるという、一種の魔法の鏡であった。
 また机の下には、マイクロホンが隠してあった。ひとり言を言ったり、悪者同士が話をすると、その話はすぐ警官の前においてある高声機から、大きな声になって出るという仕掛であった。
 さすがに、警視庁だけあって、最新の仕掛がしてあり、悪人を調べるのには、すきがない。外に応接室がなかったので、新田先生はここへ案内されたわけであった。
 新田先生が待っていると、そこへ一人の痩せぎすの、背のひょろ高い背広の紳士がはいって来た。顔は若々しいのに、頭はすっかり禿げている。ちょっと見ると、老人だか若いのか、わからない。
「やあ、どうも待たせましたね」
「はあ、あなたは一体どなたで……」
「私が大江山警視です」
「はあ、あなたが大江山さんですか。これはとんだ失礼をいたしました」
 警視庁のいかめしいお役人といえば、さぞかし金ピカの服に、サーベルをがちゃがちゃさせていると思っていたのに、これはまた、たいへんくだけた姿、くだけた物腰だった。新田先生は、正直にそのことを言ってお詫びすると、課長は笑って、
「いや、皆さんがそう思っとるので、困りものですよ。警視庁の役人は、善良な市民諸君のため、悪い者をおさえるのが役目なんです。悪い者に対しては容赦しませんから、こわい顔をしますが、善良な市民諸君に対しては、親類のように思って接しています。実際の役柄から言って、そうなんですからね。子供たちには、それがよくわかると見え、おまわりさんと言って慕(した)ってくれます。大人(おとな)の人には、まだよくわかってもらえないようで、残念ですがね」
 と言い、光のある自分の頭をつるりとなでた。
「大江山さん、私の元の教え子の千二少年のことでうかがったのですが、千二少年は殺人共犯者となっていますが、彼はそんなことをするような生徒ではありません。どうか、放してやっていただきたいものです」
 新田先生は、そう言って、頭を下げた。
「さあ、そのことですよ、新田先生」
 と、課長は、にわかに別人のように、きつい顔になって、
「私も、千二君が、そのような悪人でないことは、大体認めている。しかし、どうも今困ったことがある!」


   8 先生と教え子


 新田先生が大江山課長から聞いたところによると、怪人丸木の行方は、さらに、わからないそうである。
「これは困ったことです。我々は捜査陣を広げて、銀座怪盗(と課長はそう呼んだ)を探しているのですが、どうもわからない。彼をとらえないうちは、気の毒ながら千二少年を、ゆるすわけにはいかんのです」
 新田先生も、それを聞いて、なるほどと思った。そこで、仕方なく、千二をぜひ、今自由の体にしてくれと、頼むことは、一時見合わせることにして、その代り、千二に一目あわせてくれるように頼んだ。
 大江山課長は、まだ誰にも面会をゆるしていないが、特に新田先生には、それをゆるすことになった。
 じめじめとしたうすぐらい留置場で、先生と教え子とは、手に手をとりあって泣いた。あまりの情なさとなつかしさに、どちらも言葉は出ず、涙の方がさきに立ったのである。
 やがて、先生は、しわがれた声で千二の名を呼んだ。
「おい、千二君」
「先生!」
「誰がなんと言おうとも、この先生だけは、君が悪者でないことを信じているよ」
「先生、ありがとうございます。僕は、うれしいです」
 千二と新田先生とは、また強く手をにぎりあった。
「先生、聞いてください。あの丸木という怪しい人が、僕を、僕の村からこの東京まで、むりやりに連れて来たんです。そうして、あのようなひどいことをやったんです。ですが先生、僕は、あの丸木という人が、どうもただの人間でないと思うのです」
「ただの人間でないと言うと、どんな人間だと言うのかね」
「火星のスパイじゃないかと、思うのです」
「えっ、火星?」
 新田先生は、いきなり火星が飛出して来たので、目をまるくした。
「火星? 火星のスパイとは、一体それは、どういうことかね」
 新田先生は、目をまるくして、千二の顔をじろじろと見た。
「先生、これは、僕がいくら警視庁の人に話をしても、誰も信じてくれないことなのですが、二、三日前の夜、僕の村へ、火星の生物が、やって来たらしいんですよ」
「なに、火星の生物がやって来た。ふん、そうかね。それで……」
 新田先生も、この話には、ちょっと困ったようであった。いくらなんでも、火星の生物が、この地球にやって来るなんて、そんな突拍子(とっぴょうし)もないことは考えられないからである。
 しかし千二は、熱心に、そのことを語り出した。
 あの湖水(こすい)へ、夜おそく、うなぎを取りにいったこと、妙な音が聞えたこと、光り物がしたこと、うす桃色に光る塔のようなものが、天狗岩の上に斜に突立っていたこと、それから、妙な鳴き声の、不思議な動物がはいまわっていたこと、千二がそれと取組みあいをやって、天狗岩の上から水面へ落ちたこと、気がつくと、へんなにおいのする部屋にいて、そこへあの丸木と名のる怪人が出て来たこと、その丸木が、「火星の生物が隣にいる」と言い、また「これは火星のボートだ」というような意味のことを言ったこと、丸木に捕えられ、はるばる東京の銀座までボロンという薬品を買うため、丸木は千二を案内人として連れて来たこと、それから例の大事件となったことなど、怪奇きわまるこの数日の間の出来事を、千二はくわしく新田先生に話をしたのであった。
 それを聞いていた新田先生は、はじめのうちは、笑いながら聞いていたが、そのうちに、だんだんまじめな顔になり、おしまいごろには、膝を千二の方へ乗出して、ほうほうと驚きの声をあげて、聞入った。
「ほう、そうか。千二君。これは笑いごとではない、大変な事件かも知れないよ」
 新田先生は、息をつめて、千二の顔を見つめた。
「先生は、わかって下すったんですね。僕、うれしいです」
 と、千二は、永い間の自分ひとりの驚きが、初めてほかの人にもわかってもらえたことを嬉しく思った。
「ところで、その丸木とかいう怪人物だが――」
 と、新田先生は、頭を左右に振って、
「丸木こそ、実に不思議な人間だ。さっき千二君は、火星のスパイかも知れないと言ったが、とにかく彼をつかまえさえすれば、何もかもわかるだろうと思う。よし、大江山課長さんにも、そう言って、よく頼んでおこう」
 千二少年は、又、その時心配そうに、
「ねえ、先生。僕は、もう一つ心配していることがあるのです」
「心配していることって、なに?」
「外でもありません。お父さんのことなんです。お父さんは、僕がいなくなったので、心配していると思うのです」
「あっ、そうか。お父さんは、さぞ心配しておられるだろう。君のお父さんは、まだここへ来ないのかね」
「ええ、何の話もないんですから、まだ来ないのでしょう。きっと僕がいなくなって、お魚を取るのに、大変いそがしくなったためでしょう」
「しかし、それは、どうも変だね」
 と、新田先生は、首をかしげた。
 なぜといって、千二君が警視庁へあげられたことは、新聞にも出たことだから、お父さんは知らないはずはないのだ。それを知ればお父さんは、千二君がどうしているかと思って、すぐここへ駈けつけて来るであろう。ところが、まだお父さんが来ないというのは不思議という外ない。
(これは、よほどの大事件だ。ゆだんをしていると、たいへんなことになるぞ!)
 と新田先生は、腹の中で、おどろいたのだった。
 だが、千二の前で、心配そうな顔を見せることはいけないと考え、心配の方は、自分の腹の中にだけしまい、
「千二君、何も心配しないがいいよ。そこで、先生は決心したよ」
「決心? 先生は何を決心されたのですか」
「それはね、千二君のため、先生は、この奇怪な事件を解こうと決心したんだ。君の味方になって、働くんだ。警視庁でも、もちろんしっかりやって下さるだろうが、それだけでは、十分とはいくまい。先生は当分、大学の聴講をやめて、君のため、怪人丸木氏にまつわる謎や、そのほかいろいろとふしぎなことを、出来るだけ早く解いてみようと思うんだ」
「先生、すみません」
 千二は、言葉すくなに、先生にお礼を言った。が、彼の大きなうれしさは、両眼からぽたぽたと落ちる涙が、それをはっきり語っていた。
「なあに、お礼なんか言わなくてもいいよ。僕は、自分の教えた生徒が、苦しんでいるのをじっと見ていることは出来ない。生徒がいくら大きくなっても、またえらくなっても、やはり先生は先生だ。生徒のためになるように働くのが、やはり、先生のつとめなんだ」
「先生、ありがとうございます。父にもよろしく言って下さい」
「よしよし、心配するな。君も、そのうちここから外へ出してもらえるだろうが、それまでは、じめじめした気持をすてて、元気でいなければだめだよ。では、失敬」
「先生、もうおかえりになるんですか」
「うん。僕は、これから例の事件について、活動を始めるつもりだ。たとい半日でも、一時間でも、君を早く自由の体にしてやりたいからね」


   9 ああ天狗岩(てんぐいわ)


 千二少年のため、新田先生は、ついに立ちあがったのだ。
 先生は、大学の勉強をしばらくやめることにして、教え子のうえにふりかかった怪事件をとこうと決心した。まことにうれしい新田先生の気持だった。
 先生は、警視庁を出ると、すぐその足で東京駅にかけつけ、省線電車で千葉へ急行した。先生は、まず千二の父親に会うつもりであった。
 駅を降りてのち、先生は畠と畠との間の道を、例の湖の方へ、てくてくと急いだ。その道すがら、先生は千二のことを何と言って話をすれば一等心配をかけないですむかしらんと、いろいろと考えてみた。
 だが、それは、なかなかむずかしいことであった。親一人子一人の仲で、父親は千二のことを目に入れても痛くないほど、かわいがっているのである。その千二が、警視庁の留置場にいることを知ったら、父親はどんなに悲しむか知れない。
 新田先生の足は、だんだん重くなった。
 ふと気がついて見ると、このさびしい田舎道を、湖の方に向かって、大勢の人々が行きつかえりつしているのであった。
「はて、ばかににぎやかだなあ。お祭でもあるのかしらん」
 そう思いながら歩いていると、行きかう二人の話が、ふと先生の耳にはいった。
「どうも、えらいこったね。まだ千二のことを知らんのか」
「知るもんか。千蔵はあのとおりの体だ。そこへ倅の千二のことを聞かせちゃ、かわいそうだよ。悪くすりゃあ、それを聞いたとたんに、ううんといっちまうかもしれないよ」
「そうかもしれないね。あの怪我で、血をたくさん失って、からだがひどく弱っとるちゅうことだ。言わないのがええじゃろう」
 新田先生は、胸をつかれたように、はっと思った。
 行く人々の話によると、千二の父親は大怪我をしたらしい。一体、どうして大怪我などをしたものであろうか。
 怪我をしたればこそ千蔵は、千二のことも知らないし、東京へ駈けつけもしないでいるのだ。
 千二は、しきりに父親のことを心配していたが、やはり、それはとりこし苦労ではなく、ほんとのことだった。
「もしもし、千蔵さんがどうかしたのですか」
 新田先生は、一人の青年団服の男に声をかけた。その男は、けげんな顔をして、新田先生の顔をながめていたが、
「大怪我をしたんですよ。今うちで、うんうんうなっていますよ」
「ああ、そうですか。どうしてまた、そんな大怪我をしたんですか」
 青年団服の男は、目をぱちくりして、
「へえ、あなたは何も知らないんですね。第一、なぜこのような人出がしているんだか、知らないのでしょう」
「ええ、何にも知りません。しかし、私は千蔵さんのところへ用があって、これから、いく者なのです」
「ははあ、なるほど。では、親類の方ですね」と、かの青年は、ひとり合点をして、「それなら話してあげましよう。千蔵さんは、ゆうべ火柱(ひばしら)にひっかけられて、大怪我をしたのですよ」
「えっ、火柱ですか? 火柱というと……」
「火柱というと、火の柱です」
 と、青年団服の男は、わかったような、わからないようなことをいった。
「ああ、火柱がどこに立ったのですか」
「天狗岩という岩が、湖の上に出ているのです。すぐその側から、びっくりするような大きな火柱が立って、そばにいた千蔵さんがやられてしまったんですよ」
 新田先生は、道行く人の話を聞いてびっくりした。千二の父親が、ゆうべ火柱でやられたというのだ。
「はてな、天狗岩というと、聞いたような名だぞ」
 先生は、千蔵の家へ急ぎながら、道々考えた。
 天狗岩とは?
(そうだ。千二くんに聞いたのだ)
 やっと先生は、天狗岩のことを思い出した。千二が、その天狗岩の上に、ふしぎな光をはなつ塔のようなものが立っているのを、見たと言っていたが、その天狗岩だ。
 また、千二は、天狗岩の上へのぼっていって、そこで怪しい生物と、組打をやったと言っていた。その生物と、組合ったまま、岩の上からころがり落ちて、湖にはまった。だが気がついて見ると、例の丸木という怪人がそばにいて、これは火星のボートだと言った。
 そういうわけだから天狗岩というのは、この度の事件と、切っても切れないふかい関係のある岩である。
(この岩は、後になって、火星岩と名をかえた。それほど、後になるほど有名になった岩だった)
 その天狗岩で千二の父親が大怪我をしたとは、よくよくつきない縁のある岩である。
 だが、一体千蔵は、どうして怪我をしたのであろうかと、いろいろ考えながら歩いているうちに、ついに千蔵の家の前まで来た。
 たいへんな人だかりであった。村人が、たくさん集っている。みな、心配そうな顔であった。
 新田先生は、人波をわけて、中にはいった。すると、ぷうんと、消毒薬のきついにおいがした。奥には、白いうわっぱりを着たお医者さんが、看護婦相手に病人の手当をしているのが見えた。
「どうもいけない。困ったもんだ」
 と、千蔵を見ているお医者さまが言った。
 新田先生は、玄関に立って、それを聞いていた。
「困りましたわねえ」
 と、そばについている看護婦が言った。
「なんとか気のつく方法は、ないものですかなあ」
 と言ったのは、勝手の方から、氷ぶくろをかえて来た中年の男だった。近所の人らしい。
 新田先生は、そこでしずかに礼をして、はいっていった。先生が名乗をあげると、お医者さんをはじめ次の部屋へつめかけている人までが、親切な先生が、とおく来てくれたことを感謝した。
 その時、お医者さまの話では、千蔵がここにかつぎこまれて後ずっと人事不省(じんじふせい)になっていて、いくら注射をしても、気がつかないので、困っているということだった。
「それは、困りましたねえ」
 と、新田先生も、おなじことを言った。
 お医者さんは、千蔵の脈をじっとかぞえて首をかしげていた。
 氷ぶくろを持って来たり、こまごました用事をしていたのは、千蔵の家のとなりに住んでいる佐伯さんという人だったが、彼は、新田先生に向かい、
「この千蔵さんは、天狗岩の上で、ひっくりかえっていたんです。あのとおり大怪我をして、虫の息だったんです。出血多量というやつで、今朝がたに輸血までしたのですが、ここらで気がついてくれればいいのですがねえ」
 と言った。
 それを聞くと、新田先生は、
「では、千蔵さんは、なぜ怪我をしたか、まだそのわけを、だれにも話していないのですか」
「そうです。なにしろ千蔵さんが、人事不省のままここへかつぎこまれたのですから、よくわからないですが、とにかくお聞きでしたろうが、火柱にやられたらしいと噂しています」
 そう言っている時、お医者さまが、
「あっ、うまいぞ。口を動かしはじめた。注射がきいて来たのかもしれない」
 と言ったので、隣室につめかけている者も、それを聞いて、よろこびのこえをあげて、千蔵のまわりに集って来た。
「ああっ、ああっ」
 千蔵は苦しそうに声をあげ、そうしてうす目をひらいた。
「さあ、千蔵さん。しっかりするんですよ」
 と、お医者さまは、千蔵の手を、かるく叩いた。
「あっ、火柱(ひばしら)だ。湖の中から、火柱が飛出した。あっ、火柱が飛ぶ。火柱が飛ぶ」
 千蔵は、へんなことを口ばしって、そうして身もだえをした。
「おい、千蔵どん。気をしっかり持つんだよ」
「おい千蔵さん。わしが見えないか」
 素朴な近所の人たちは、気の毒な千蔵をとりまいて、しきりに声をかけた。
 お医者さまは、それをとどめて、
「ちょっとお待ちなさい。千蔵さんは、よほど興奮しているようですから、それがおさまるまで、また元のところで、しばらく様子を見ていて下さいませんか」
 そう言ったので、皆は元の隣の部屋にうつった。新田先生も、それについて、千蔵の枕元から去ったが、先生は、
「はてな」
 と言って、じっと腕ぐみをして、考えこんだ。それは、さっき千蔵が、うわごとのように言った言葉の謎を、どう解いていいかという問題だった。先生は、その言葉の中に、千蔵がその夜でくわしたおそろしい事件が、はっきり織りこまれているように思われるのである。
 新田先生は、病床にねている千蔵のうめき声を聞きながら、ふかい考えにしずんだ。
 さっき千蔵が言ったうわごとは、たいへん意味があるように思われた。
(火柱だ、湖の中から火柱が飛出した。あっ、火柱が飛ぶ!)
 これだ、これだ。
「そうか。うむ、そうかもしれないぞ」
 新田先生は、膝をとんと叩いた。先生は今千蔵のうわごとから、たいへんな意味を拾い出したのであった。
(火柱だ!)
 千蔵は、ゆうべ火柱をみたんだ。なぜ千蔵は火柱を見たか。それはいつごろかわからないが、とにかく千蔵は例の湖のそばへいっていたので、火柱を見たのである。湖のそばへいったわけは、息子の千二少年が、鰻を取りにいったまま、いつまでたってもかえって来ないので、心配のあまり、見にいったのであろう。そこで火柱を見たというわけだ。
(湖の中から火柱が飛出した)
 火柱は、湖の中から飛出したという。その火柱は、地面の上から出たのではなく、実に湖の中から立ったのであるというのである。湖の中から、なぜ火柱が立ったか。またその火柱は、一体どうしたわけで燃立ったのか。これについて、新田先生はすこぶる大胆な考えだったが、こう考えた。
 この湖の中から、火星ボートが飛出したのにちがいない。その火星のボートというのは、千二の見たという塔のような形をしたもので、それは全体がうす桃色に光っていたというから、それが湖の中から上へ舞上ったので、火柱に見えたのであろう。
 これは、すこぶる大胆な考え方だったけれど、そのように考えると、次の言葉の、
(あっ、火柱が飛出した)
 という意味が、ちゃんと合うのではないか。新田先生が、膝を叩いたのも道理だった。
 新田先生の面(おもて)には、喜びの色が浮かんだ。
 とにかくこれで、千蔵のうわごとから、一つの答えを得た。
(湖の中から、光る火星のボートが飛出した)
 というのが、その答えだ。
 はたして、この答えは正しいかどうか。
 火星のボートは、おそらく空中に飛去ったことであろう。
 一体、なぜ火星のボートは、湖の中にあったのであろうか。それは千二少年が語ったことが、思い合わされる。――つまり、天狗岩の上に立っていた塔みたいなものが急に傾き、そうして、湖の中に落ちるところを見たと言った。そういう千二少年の話から考えてみて、火星のボートは、湖の中に沈んでいたのである。それが、飛出したというわけだろう。
 そのあとで、千二は怪物と取組みあったまま水中に落ちた。そうして気がついてみたら、妙な部屋の中にいた。その妙な部屋というのは、火星のボートの中であった。
 そこで千二は、丸木という怪人から、ボロンという薬品を買いにいくので、一しょにいってくれと頼まれた。そうして丸木は、遂に殺人事件をひきおこしてまで、ボロンを手に入れたのである。
 その丸木は、ボロンの壜を、大事そうに抱えて、走り出したという。彼はそれからどこへいったのであろう。
 もちろん怪人丸木はすぐさま、この湖へひきかえしたのにちがいない。ボロンの壜は火星のボートの中に持ちこまれたことであろう。それからしばらくして、火星のボートは湖の底から、空へ向けて飛出したものと思われる。
 新田先生のすぐれた頭脳の力は、遂にここまで、怪事件を解いた。しかし先生も、ボロンがなぜ火星のボートに入用であるか、それについては知らなかった。


   10 異常現象(いじょうげんしょう)


 新田先生は、東京へ引返した。
 そのわけは、千二の父親が、真夜中に天狗岩のそばで見た火柱というのが、どうやら「火星のボート」と言われた怪ロケットの出発するところだったらしいので、さっそくこれは東京へ帰って、別な方面から調べたがいいと思ったからである。
 両国駅のホームで電車から下りた新田先生が、階段を下りて外に出ようとした時、
「やあ新田さん、どうしました」
 と、声をかけられた。
 その声のする方をふり向いて見ると、そこには背広服の紳士が立っていて、やあと帽子を取った。
「やあ――」
 と、新田先生は挨拶を返したが、その紳士の顔は、どこかで見たおぼえがありながら、どうも思い出せなかった。
「はて、あなたは、どなたでしたかしらん」
「おや、もうお忘れですか。私は、捜査課長の大江山ですよ」
「ああ、そうだ。大江山課長でしたね。いや、これは失礼しました」
 と、先生は、その失礼をわびたが、その後で首をかたむけ、
「しかし、どうもおかしいですね。僕がお目にかかった大江山さんは、もっとお年をめしていた方のようでしたが……おつむりなども、きれいさっぱりと禿げておられましてね」
 それを聞いて、大江山課長は、苦笑した。そうして課長は、新田先生の耳のそばへ口をよせると、低い声で、
「いや、はげ頭は、あれは、私が変装していたんですよ。初めて人に会う時は、相手がどんな人かわからないから、あのように変装してお目にかかることにしているのですよ。私は、あんな禿げ頭の年寄ではありません。どうか、よく見直してください。はははは」
 両国駅頭で、大江山課長と禿頭問答をやった新田先生は、急になんだか和やかな気持になった。
「大江山さん。僕はいま千二少年の父親をみまって、東京へ帰って来たところですが、あの千蔵さんは大怪我をしていますよ」
「そうだそうですね。それを聞いたので、私たちもこれから、あっちに出かけるところだが、あなたに先手をうたれたわけですね。それで、何かへんな噂を聞かなかったですか」
「ああ聞きました。火柱の一件でしょう」
 そこで新田先生は、千蔵のうわごとについて話をした。そうして自分の考えを、みんな課長の前にのべたのであった。
「ふん、そうですか。よく聞かせてくだすった。たいへんわれわれの参考になります」
と、大江山課長は一向こだわる様子もなく、新田先生の話を喜び、
「だが、そうなると、これまでわれわれが、蟻田(ありた)博士の予言をばかにしていたことが、後悔されて来ますよ。私は、博士が変になったんだろうとばかり思っていたが、これは、改めて考え直す必要がある」
「蟻田博士は変ではないはずです。僕も、むかし教わったことがあって、よく知っています」
「ほう、あなたは、蟻田さんの門下だったんですか。これはふしぎな縁だ。そういうことなら、あなたに一つ、お願いしたいことがあるんだが……」
 課長は、ちょっと言いにくそうに、あたりを見廻した後、
「新田さん、怒っちゃあいけませんよ。実は私たちは、蟻田博士が変だと思ったので、極秘のうちに、博士を病院に入れてあるのです」
「えっ、博士を、……」
「何しろあのとおり、火星兵団さわぎをまきおこした本人のことですから、帝都の治安取締上、そういう非常手段をとらないわけに、いかなかったのです」
「ああ、僕は新聞で読んで、蟻田博士が御自分で家出をして、行方不明になってしまったことと思っていましたが……」
 と、新田先生は、ため息をついた。
 大江山課長は、かざりけのない態度で、その時の苦しい立場を説明し、
「そこで、あなたにお願いというのは、蟻田博士を病院から出して、博士の屋敷へお帰ししますからしばらく博士の様子を見てくれませんか」
「はあ、様子を見ろとおっしゃいますと、どういうことですか」
 新田先生は、課長の言う意味を問いただした。
「ああ、それは、こういう意味です。実は、われわれは、蟻田博士の言われることは、ありもしないことだと思っていたのです。しかし、こういうことになって、火星のボートか何か知らないが、ともかく妙なものが、やって来たり、飛んでいってしまったりするものですから、博士の言うところを、もう一度考え直してみなければなりません。そこで幸い、あなたが博士の門下生だということですから、あなたにお願いして、それを調べていただきたいのです」
 と言って、課長は、ためいきをつき、
「こういう天文学のことなどになると、われわれ素人には、ほんとうのことか、うそのことか判断がつきませんのでね」
 と、苦笑いをした。
 新田先生は、大きくうなずいて、
「よろしい。そういうことなら、僕もおよばずながら、それをやってみましょう。そうすることは、同時に、旧師に対する門下生のつとめでもあるのですから。しかし、千二君は、なるべく早く出していただきたい」
 すると、大江山課長は言った。
「これから千二君は、大事に扱うことにします。今すぐに出すわけにはいきません。が、これは別にわけがあるのです」
「別のわけとは、どんなことですか」
 新田先生は、大江山課長の顔を見た。
「それは、例の怪人丸木が、まだつかまらないからです。千二君を外へ出したは、とたんに怪人丸木が現れて、千二君を、殺したはというのでは、かわいそうですからね」
「怪人丸木は、千二君を殺しましょうか」
「それは、新田さん、私たちが犯罪についての経験の上から言って、たしかに起りそうなことなんですよ。丸木については、千二君が一番よく知っているのですからね。千二君が、この警視庁から外へ出たことを、怪人丸木が知ると、必ず、少年を殺そうと思うに違いありません」
「なるほど。そういえば、そういうことになりそうですね。ああかわいそうに……」
 新田先生は、気の毒な千二の身の上を思って、胸の中があつくなった。
「でも、課長さん」
 と、新田先生は、しばらくして言った。
「あの怪人丸木は、火星のボートに乗って、もう逃げてしまったんではないのですか。あれもきっと、火星のまわし者かなんかでしょうから……」
 すると、大江山課長は、首をかしげて、
「さあ、そこが大事のところなんですが、銀座事件があってから、まだ幾日もたっていないので、それは何とも言えません。私どもの経験によると、とにかく、ここ四、五日は様子をみていなければ、安心できません。その間に、丸木が、ひょっくり姿をあらわすかもしれないのです」
 大江山課長は、火星のボートがいなくなったから、丸木も一しょに逃げたと、そうきめることは、まだ早すぎると思っていた。
 新田先生には、どっちがほんとうだか、よくわからなかった。とにかく課長の頼みもあることだし、彼も前から、旧師蟻田博士のことが気にかかっていたところなので、その足で、蟻田博士に会いにいくことにした。
 新田先生は、その足で、蟻田博士が入れられている病院へいった。
 大江山課長は、両国駅にはいるのを一時見合わせ、病院へ電話をかけて、博士を出すように命令をした。そうして新田先生に、一人の警官をつけて、案内させた。
 とつぜん退院のゆるしが下って、蟻田博士は、喜ぶやら怒り出すやら。
「けしからん奴どもじゃ。わしを、まるで囚人のように、こんなところへおしこめておいて、今になって、もう出てもよろしいとは、なんという、勝手な奴どもじゃ。わしを、一体なんと思っているのか」
 その時、新田先生が、博士の前にいって御機嫌を取らなければ、博士はなおも、檻の中から出たライオンのように、あばれまわったことであろう。
「あっ、新田か。貴様まで、わしを変だというのか。け、けしからん」
「いや、蟻田博士。そういうわけではありません。もうただ今から、お屋敷にお帰りになれるのです。私がお供をいたします」
「ふふん、その手にはのらんぞ。そんなことを言って、貴様はわしを、またどこかの牢へぶちこむつもりなんだろう。弟子のくせに、けしからん奴じゃ」
「いえいえ、そうではありません。全くもって、私はそんなけしからんことはいたしません。さあ、御機嫌をお直しになって、お屋敷へお帰りのほどを」
 蟻田博士は白いあご鬚をふるわせつつ、暫く新田先生の顔をじっとみつめていたが、
「おお、新田。貴様はわしをだますのじゃないだろうな。だましてみろ。――あとで、うんと、思いしらせてやるから。――とにかく、だまされたと思って、出かけるか」
 蟻田博士は、そこに立ちながら医者や看護婦の顔色を用心ぶかくじろりじろりとにらみつつ、一歩一歩玄関の方へあるいていった。
 新田先生は、けわしい眼つきの蟻田博士を、なだめすかして、ともかく博士邸へつれもどった。
「けしからん。実にけしからん」
 と、ぶつぶつ言いどおしだった博士も、久しぶりに、わが家の前に下りたつと、急に機嫌がなおったようであった。博士は、すたすたと鉄門をあけて、邸内へはいっていった。番をしていた警官の一人が、おどろいたような顔をして、裏手からとびだして来たが、蟻田博士は、その方へ、じろりとけわしい目を向けた。
「け、けしからん。わしの屋敷を、刑務所にするつもりだな。わしはゆるせん」
 新田先生はまた困った顔をしたが、一しょについて来た警官が、番をした警官を呼んで、博士の相手にはならず、そのまま自動車に乗り、ぶうーつと警笛をあとに残して、帰ってしまった。
 それでも博士は、まだ心をゆるめず、
「おい、新田」
「はい」
「お前、そのへんを、よく見てまわれ。もし人間がいたら、どんな奴でもかまわないから、箒でぶんなぐってやれ」
「はいはい。承知いたしました」
 新田先生は、博士をこの上おこらせてはいけないと思い、博士の言われるままに、邸内をぐるっとまわってみることにした。
 裏手にまわってみると、博士の研究室になっている異様な形の天文台がある。
 屋根は丸くて、これが中で、モートル仕掛でうごくのである。そうして屋根は二つにわれる。その間から、博士のご自慢の反射望遠鏡が、ひろい天空をのぞくのである。
 博士の研究室には、りっぱな機械がそろっているが、その天文台の外は、庭一面、草がぼうぼうと生えている。ほとんど足をふみこむすきもないほどである。垣などはこわれたままである。
 蟻田博士の天文台のまわりを、新田先生は幾度か足を草にとられながら、廻ってみた。
 もちろん、誰一人として、そこにひそんでいる者はなかったし、警官の姿も見えなかった。
 新田先生は、天文台をひとまわりして、博士邸の表に出た。そうして、あらためて玄関をはいって、博士の姿を研究室に見出したのであった。
 蟻田博士は、新田先生に言いつけた見張のことなどは、もうすっかり忘れてしまったかのように、室内の機械を調べるのに夢中であった。
 壁の上に、ガラスにはいった自記機械があった。自記機械というのは、人が見ていなくても観測した結果が、長い巻紙の上に、インキでもって、曲線になって記録せられる機械である。例えば、室内の温度が一日のうちに、どう変ったかというようなことを知りたい時、人が寒暖計のそばにつききりで、一々水銀の高さを読んで記さなくとも、この自記機械にかけておくと、巻紙が廻るにつれ、ペンが長い曲線をかいて、室内温度がどう変ったか記してくれる。
 蟻田博士は、この自記機械をあけ、中から巻紙をひっぱって、それを見るのに夢中になっている。
「博士。よく見廻りましたが、もうお屋敷のうちには、誰もいませんですから御安心なさいませ」
 と、新田先生は、博士の後から、声をかけた。

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