今昔ばなし抱合兵団
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著者名:海野十三 

     8


 それから十年のち、すなわち七十×年八月八日、私は日記を書く代(かわ)りに、金博士に対して次のような手紙を書いたのだった。
 炯眼(けいがん)なる金先生足下(そっか)。まず何よりも、先生の御予言(ごよげん)が遂に適中(てきちゅう)したことを御報告し、且(か)つ驚嘆するものです。
 金先生足下。ピポスコラ族には、遂に昨日面接しました。それは全く唐突(だしぬけ)のことでありました。
 私は洪(こう)青年と、長距離鑿岩車(さくがんしゃ)にのって、十年ほど前から、地中放浪(ちちゅうほうろう)の旅にのぼりましたが、昨日の昼頃、車を停めてしばし休憩をしていますと、ふしぎにも、地中のどこかで、どすんどすんと地響がするではありませんか。私たちはおどろいて、顔の色をかえました。
 私は、遂に敵の地底戦車にとり囲(かこ)まれたのだと悲観しましたのに対し、洪青年は、こんなところに地底戦車隊がいるとは思えないと主張してゆずらず、その揚句(あげく)、遂に洪青年の意に従って、われわれは敢然(かんぜん)、鑿岩車を駆って、怪音(かいおん)のする地点に向け、最後の突撃を試みました。
 やがて、一段と大きく岩の崩(くず)れる音とともに、われわれは思いもかけない明るい部屋の中に突入したのです。私は愕(おどろ)きの目をみはりました。そこは大きな洞窟(どうくつ)で、猿とも人ともつかぬふしぎな動物が居合わせました。しかしその動物は別にわれわれに危害を加える様子はありませんでした。
 私の予(か)ねて勉強しておいた前世古代語(ぜんせいこだいご)が役にたって嬉しいことでした。彼等は自(みずか)ら、これがピポスコラ族であることを申立てました。彼等は二十万年前に、地中へ潜(もぐ)ったと申して居りました。その当時は、地上や空には恐竜(きょうりゅう)などの恐ろしく大きな動物が猛威(もうい)をふるい、地底深くには大土竜(おおもぐら)(それが退化して今日残っているのが例のもぐらもちです)に攻めたてられ、遂に上下谷(じょうげきわ)まって横に向いて逃げるうち、このところに安全洞(あんぜんどう)を見出して、穴居(けっきょ)動物となり果(は)てたことが分りました。
 すべて、金先生の仰有(おっしゃ)ったとおりです。そこで私は洪君とはかり、これから何とかしてこの土地でピポスコラ族にならい穴居生活をつづけることになりました。もしもどこかで、洪君のためによき配偶(はいぐう)が見つかるならば、われわれ人類は、やがてネオピポスコラ族という新しい種族(しゅぞく)をつくり、この地中に、繁栄することでありましょう。




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