金属人間
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著者名:海野十三 

(手がかりらしいものは、なんにもない。犯行だけが、二つ、いや三つもある。こんなことではこの事件はいつとけるかわからない。ぼやぼやするなよ、長戸検事)
 そんな声が、検事の頭の中でどなり散らしている。これまで彼が現場へのぞめば、事件解決のかぎとなる証拠物(しょうこぶつ)を、たちどころに二つや三つは見つけたものである。そして犯人はすぐさま図星(ずぼし)をさされるか、そうでないとしても、犯人のおおよその輪廓(りんかく)はきめられたものである。
 しかるに、こんどの場合にかぎり、そうではなく、さっぱり犯人の見当がつかないのである。そればかりか、事件そのものの性質がよくのみこめないのだ。
 が、そんなことで考えこんで、多くの時間をつぶすわけにはいかない。事件の性質がどうあろうと、お三根はむごたらしく斬殺(きりころ)されて冷たいむくろとなって隣室によこたわっているんだし、部下の川内警部は足を斬られて、げんに足をひいてうしろからついてくる。田口巡査はほおを切られて、あのとおり、かっこうのわるいガーゼを顔にはりつけているのだ。検事はいよいよくさらないでいられなかった。
 だから検事としては、このうえは、あやしい針目博士の研究室の中を徹底的に家探しをして、犯人としての、のっぴきならぬ証拠物件を手に入れたいものと熱望していた。
 かぎをまわす音が検事の胸をえぐった。
 気がつくと、針目博士が研究室のドアの錠(じょう)をはずし、そこを開いた。そして博士はゆっくりと部屋の中へすがたを消した。検事は全身がかっとあつくなるのをおぼえた。取りおさえるか逃がすか、それはこれからの室内捜査のけっかできまる。
「なぜ、すぐはいらんのだ。しりごみしていてどうする」
 検事は、入口のところに足をとめてしまった田口巡査を、低い声で叱(しか)りつけた。しかし検事は冷汗(ひやあせ)をもよおした。ぐずぐずしている自分の方を、もっときびしく叱りつけたいことに気がついたからである。
 田口巡査は、はっとおどろいて、ウサギのようにぴょんとひとはねすると、研究室の中へとびこんだ。とたんにかれは、
「あっ」
 という叫び声を発した。
 長戸検事の顔は、いっそう青ざめた。そしていそいで部下のあとを追って中へはいった。
「うむ」
 検事はうなった。あやうく大きな叫び声が出そうになったのを、一生けんめいに、のどから下へおしこんだ。
 かれらはいったいなにを見たのであろうか。
 それはなんともいいようのない奇妙な光景であった。窓のないこの部屋の四つの壁は、隣室(りんしつ)につうずる二つのドアをのぞいたほかは、ぜんぶが横に長い棚(たな)になっていた。下は床のすこし上からはじまって、上は高い天じょうにまでとどいて、ぜんぶで十段いじょうになろう。
 そしてこの棚の上に、厚いガラスでできた角型(かくがた)のガラス槽(そう)が、一定のあいだをおいてずらりとならんでいるのだったが、その数は、すくなくとも四、五百個はあり、壮観(そうかん)だった。
 しかもこのガラス槽の中には、それぞれ活発に動いている生物がはいっていた。検事が最初に目をとどめたガラス槽の中には、頭のない大きなガマが、ごそごそはいまわっていた。もっともそのガマは、背中にマッチ箱ぐらいの大きさの、透明な箱を背おっていた。その箱の中には、指さきほどの灰白色のぐにゃぐにゃしたものがはいっていたが、検事はそこまで観察するよゆうがなく、ただふしぎな頭のない大きなガマがガラス槽の中で、あばれまわっているのにびっくりしたのであった。
 検事は、おどろきの目を、つぎつぎのガラス槽に走らせた。その結果、かれのおどろきはますますはげしくなるばかりだった。かれはもうひとつのガラス槽の中において、たしかに木製(もくせい)おもちゃにちがいない人形が、やはり透明な小箱を背おってあるきまわっているのを見た。
 それはゼンマイ仕掛けの人形とはちがい、どう見ても昆虫(こんちゅう)のような生きものに思えた。
 つぎのガラス槽の中では、やはり頭のないネズミが、透明の小箱を背おって、人間のように直立し、のそりのそりと中を散歩しているのを見た。またそのお隣のガラス槽(そう)の中では、一本足のコマが、ゆるくまわりながら、トカゲのように、あっちへふらふら、こっちへちょろちょろと走りまわっているのを見た。なんという奇怪な生物の展覧会場であろう。
 いや、展覧会場ではない、これは針目博士が、他人にのぞかせることをきらっている密室のひとつなのであるから、極秘(ごくひ)の生きている標本室(ひょうほんしつ)といった方がいいのだろう。
 検事はこのふしぎな生きものの世界へとびこんで、あまりの奇怪さに自分の頭がへんになるのをおぼえた。それから後、かれは一言も発しないで銅像のように立ちつづけた。するとその部屋が急に遠くへ離れてしまったような気がした。音さえ、遠くへ行ってしまった。かれは自分が卒倒(そっとう)の一歩手前にあることをさとった。が、どうすることもできなかった。


   博士、怪物を説(と)く


 長戸検事(ながとけんじ)が気がついてみると、かれはいつのまにか長いすによこたわっていた。そばでがやがやと人ごえがする。
「これをお飲みなさい。元気が出ますから」
 検事の鼻さきに、ぷーんと強い洋酒のにおいがした。こはく色の液体のはいったコップがかれの目の前につきつけられている。血色(けっしょく)のいい手がそのコップをにぎっている。誰だろうかと検事がその声の主をあおいでみるとそれは針目博士(はりめはくし)だった。そしてそのまわりに、検事の部下たちの頭がいくつもかさなりあっていた。長戸検事は、びっしょりと冷汗(ひやあせ)をかいた。
「いや、もう大丈夫です」
「やせがまんをいわずと、これをお飲みなさい」
「いや、ほんとにもう大丈夫だ」
 検事は、強く洋酒のコップをしりぞけて、長いすからきまりわるく立ちあがった。
「だからぼくは、あらかじめご注意をしておいたのです。こんな見なれない動物をごらんになって、気持が悪くなったのでしょう」
「いや、そうじゃない。じつは昨夜からかぜをひいて気持がわるかったのだ。この部屋へはいったとき、異様(いよう)なにおいがして、頭がふらふらとしたのだ。心配はいらんです」
 検事は強く弁明をした。かれは強引(ごういん)にうそをついた。このうそを、ほんとうだと自分自身に信ぜしめたいと願った。けっして、この奇妙な標本を見て気持がわるくなったのではないと思いたかった。そうでないと、これから先、この奇妙な標本と取っ組んで、事件の真相をしらべあげることはできなかろう。かれは、つらいやせがまんをはったのである。
 かれの配下たちの中にも、ふたりばかり脳貧血(のうひんけつ)を起こした者があった。それはもっともだ。誰だって、こんな奇妙な標本に向かいあって五分間もそれを見つめていれば、脳貧血を起こすことはうけあいだ。
 脳貧血を起こさない連中の筆頭には、川内警部がいた。かれは顔をまっかにして、憤激(ふんげき)している。どなり散らしたいのを、一生けんめいにがまんしているという顔つきで、針目博士の一挙一動からすこしも目をはなさず、ぐっとにらみつけていた。
「針目博士。この動物はなぜここに集めてあるのですか」
 長戸検事は職権(しょっけん)をふたたびふるいはじめた。
「ぼくの研究に必要があるからです」
「博士の研究とは、どういう研究ですか」
「そうですね。それはお話しても、とてもあなたがたには理解ができないですね」
 針目博士は、回答をつっぱねた。
「理解できるかできないかは問題がいです。説明してください」
「じゃあ申しましょう。これはぼくが本筋の研究にかかるについて、その準備のため作った標本です。つまり本筋の研究そのものじゃないのですよ。いいですね」
 と、博士はねんをおして、
「そこでこの標本をごらんになればわかるでしょうが、この動物たちは、自分が持って生まれた脳髄(のうずい)を持っていないのです。そうでしょう。みんな頭部を斬り取られています。そしてかれらは他の動物の脳髄をもらって、それをかわりに取りつけています。あの透明な小箱の中にあるのは他の動物の脳髄なのです。それを取りつけて、生きているのです。おわかりですか」
「よくわかります」
 長戸検事は、反抗するような声で、そういった。ほんとうは、かれには何のことだか、よくのみこめなかったのだけれども。
「ほう。これがよくおわかりですか。いや、それはけっこうです」
 針目博士は、目をまるくした。皮肉でもないらしい。
「これなどは、おもちゃの人形に、ニワトリの脳髄を植えたものですよ。もちろん人形の手足その他へは神経にそうとうする電気回路をはりまわしてありますから、そのニワトリの脳髄の働きによって、この人形は手足を働かすことができるのです。気をつけてごらんなさればわかりますが、この人形の歩きかたや、首のふりかたなどは、ニワトリの動作によく似ているでしょう」
「そのとおりですね」
 そう答えた検事の服のそでを、うしろからそっと引いた者がある。そしてつづいて、検事の耳にささやく声があった。それは川内警部であった。
「この標本や博士の研究は、こんどの殺人傷害事件(さつじんしょうがいじけん)には関係ないようではありませんか。それよりも、早く奥の部屋をしらべたいと思いますが、いかがですか」
 そういわれて、検事も警部のいう通りだと思った。そこで一行は奥へ進むこととなった。


   大きな引出(ひきだし)


 この部屋から奥へ通ずるドアが二つあった。左手についているのは、物置へ通ずるもので、これはあとで捜査(そうさ)することとなった。
 まっ正面のドアのむこうに、博士の一番よく使うひろい実験室があった。一行はドアを開いてその部屋へ通った。
 それは十坪ほどあるひろい洋間だった。
 ざつぜんと器械台がならび、その上にいろいろな器械や器具がのっている。まわりの壁は戸棚と本棚とで占領されている。天じょうは高く、はじめは白かった壁であろうが、灰色になっており、大きな裂(さ)け目(め)がついている。
 まえの部屋もそうであったが、この部屋にも窓というものがない。天じょうの上の古風なシャンデリアと、四方の壁間にとりつけられた、間接照明灯(かんせつしょうめいとう)が、影のない明かるい照明をしている。
「この部屋は、何のためにあるのですか」
 検事が針目博士に質問した。ここには、まえの部屋で見たような、奇怪な標本が目にうつらないので、検事はいささか元気をもりかえしたかたちであった。
「ごらんになるとおり、ぼくが実験に使う部屋です」
「どういう実験をしますか」
「どういう実験といって――」
 と博士は笑いだした。
「いろんな実験です。数百種も、数千種も、いろいろな実験をこの部屋ですることができます。みんな述(の)べきれません」
「その一つ二つをいってみてください」
 検事はあいかわらずがんばる。
「そうですね。細胞の電気的反応をしらべる実験を、このへんにある装置をつかってやります。もうひとつですね。ここにあるのは生命をもった頭脳から放射される一種の電磁波を検出する装置です。ことに、劣等な生物のそれに対する装置です。ことに、劣等な生物のそれに対して検出しやすいように、組み立てたものであります。これぐらいにしておきましょう。おわかりになりましたか」
「今のところ、それだけうかがえばよろしいです。それでは室内をいちおう捜査しますから、さようにご承知ねがいたい」
「職権をもってなさるのですから、とめることはしません。しかしたくさんの精密器械があるのですから、そういうものには手をつけないでください。万一手をつける場合は、ぼくを呼んでください。いっしょに手を貸して、こわさないようにごらんに入れますから」
「参考として、聞いておきます」
「参考として聞いておく? ふん、あなたがたに警告しておきますが、この部屋の精密器械に対して、ぼくの立ち合いなしに動かして、もしもそれをこわしたときには、ぼくは承知しませんよ。場合によって、あなたがたをこの部屋から一歩も外に出さないかもしれませんぞ」
 針目博士は、にわかにふきげんとなって、きびしい反抗の態度をしめした。そしてかれは、すみにすえてある大机の向うへ行って、どこかこわれているらしい回転いすの上に、大きな音をたてて腰をかけた。そしてタカのような目つきになって、検事たちの方へ気をくばった。
 検事は、こんな場合にはよくなれているので、相手がかんかんになればなるほどこっちは落ちつきを深めていった。そして部下たちに、この部屋をじゅうぶんに捜索し、れいの事件に関係ありと思われる証拠物件があったら、さっそく検事を呼ぶようにと命令した。
 それから捜査がはじまった。一同は、これまであつかいなれない器械器具るいだけに、どうしらべてよいのやら、こまっているようであった。しかしこころえ顔の係官たちは、床の上にはらばいになって器械台の下をのぞきこんだり、戸棚の引出(ひきだし)をぬきだしたりして、どんどん仕事を進めていった。
 だが、思うようなものはすぐには見つからなかった。
 この部屋の、博士がいま腰をおろしているのと、ちょうど対角線上の隅(すみ)にあたるところに、一部に黒いカーテンがおりていた。それを開いて中へ入った川内警部は、そこにもやはり大きな引出が、三段十二個になってならんでいるのを発見した。その引出は、そうとう大きかった。しかしかぎもかかっていなかった。引出にはそれぞれ番号札がついていた。
 警部が、その引出のひとつに手をかけたとき、誰も気がつかなかったが、針目博士の口のあたりには、あやしいうす笑いがうかんだのであった。もちろん川内警部は、それに気がつくはずもなく、引出のとってに力をいれて、ぐっと引きだした。
「おや、これは何だ!」
 警部は、すっとんきょうな声をあげた。彼の顔からすっかり血の気が引いてしまった。
 見よ、その半びらきになった引出の中には、黄いろくなった人間の足が二本ならんでいた、いや、足だけではない。裸体(らたい)のままの死骸(しがい)がそこにはいっているにちがいなかった。
 事件はいよいよ奇怪な段階に突入した。いったいこれは何者の死体なのであろう。針目博士の身辺にいよいよ疑問の影がこい。


   警部じれる


「おう、ここにも死骸(しがい)がかくしてある」
 警部のそばにいた若い巡査が、おどろきの声をあげた。
 針目博士は、しらぬ顔をして、回転いすに腰をかけている。
 警部は、その死骸いりの大きな引出をひっぱり出した。消毒薬くさいカンバスにおおわれて若い男の死体がはいっていた。しかしその男の頭蓋骨は切りとられていて、その中にあるはずの脳髄もなく、中はからっぽであった。
 警部は、この死体が、学術研究の死体であることに気がついた。
 ねんのために、おなじような他の引出をかたっぱしからひっぱり出してみた。するとほかに、男の死体が一つ、女の死体が二つ、はいっていることがわかった。
「この死体は、どうして手にいれましたか」
 川内警部は、やっぱりそのことを針目博士にたずねた。
「研究用に買い入れたんです。証書もあるが見ますか」
「ええ、見せていただきましょう」
 警部はけっきょくその死体譲渡書(したいゆずりわたししょ)が、正しい手つづきをふんであることをたしかめた。
 死体がこの部屋に四つある。そのうえに、もう一つなまなましい死体を、博士はほしく思ったのであろうか。
 警部は、針目博士がいよいよゆだんのならない人物に見えてきた。このうえは、こんどの事件に直接関係のある証拠をさがしだして、なにがなんでも博士を拘引(こういん)したいと思った。
「針目さん。あなたのお使いになっている部屋は、まだありますか」
 長戸検事が、タバコのすいがらを指さきでもみ消して、博士にたずねた。
「あとは、第二研究室と倉庫と寝室の三つです。やっぱり見るとおっしゃるんでしょう」
「そうです、見せていただきますよ」
「どうしても見るんですか」
 博士の顔がくるしそうにまがった。
「見せろというなら見せますが、あなたがたがこの室や標本室でやったように、室内の物品に無断(むだん)で手をつけるのは困るのです。じつは第二研究室では、ぼくでさえ、非常に注意して、足音をしのび、せきばらいをつつしみ、はく呼吸(いき)もこころしているのです」
「それはなぜです。なぜ、そんなことをする必要があるのですか」
 長戸検事が、口をはさんだ。
 すると博士は、吐息(といき)とともに、遠いところをながめるような目つきになって、
「おそらく今、世界でいちばん貴重(きちょう)な物が、そこに生まれようとしているのです。荘厳(そうごん)と神秘(しんぴ)とにつつまれたその部屋です。あなたがたは、もしその荘厳神秘の中にひたっている主(あるじ)を、すこしでも、みだすようなことがあれば、あなたがたはとりもなおさず、地球文明の破壊者(はかいしゃ)、ゆるすべからざる敵でありますぞ」
 それを聞いていた川内警部は、口のあたりをあなどりの笑(え)みにゆがめて、
(ふん、邪宗教(じゃしゅうきょう)の連中が、いつも使うおどかしの一手だ、なにが神秘(しんぴ)だ。わらわせる)
 と、心の中でけいべつした。
「なんです、生まれ出ようとしている荘厳神秘のあるじというのは……」
 検事は、顔をしかめて、博士を追う。
「生命と思考力とをもった特別の細胞が、人間の手でつくられようとしているのだ。もしこれに成功すれば、人間は神の子を作ることができる」
 博士は、わけのわからないことをつぶやく。
「カエルの脳髄(のうずい)を切りとって、それを他の動物にうつしうえることですか」
 検事は、一世一代の生命科学の質問をこころみる。
「そんなことはいぜんから行われている。ぼくが研究していることは、すでに存在する生命を、他のものに移し植えることではない。生命を新しくこしらえることだ。生命の創造だ。細胞の分裂による生命の誕生とはちがうのだ。それは神が、神の子をつくりたもうのだ。それではない、この場合は、人間の意志のもと、人間の設計によって、新しい生命を創造するのだ。ローマの詩人科学者ルリレチウスの予言したことは、二千年を経(へ)たいま、わが手によって実現されるのだ。自然科学の革命、世界宗教の頓挫(とんざ)、人間のにぎる力のおどろくべき拡大……」
 川内警部は、にがり切って長戸検事のそでをひいた。
「検事さん、あれは気が変ですよ。ちんぷんかんぷんのねごとはやめさせて、となりの部屋部屋を、どんどん洗ってみようじゃありませんか。さもないと、この事件はさっぱり片づきませんよ。迷宮入(めいきゅうい)りはもういやですからね」
 そういわれて、長戸検事も警部の意見にしたがう気になった。さっぱりわけのわからない博士のうわごとに、頭痛のするのをこらえているのは、ばかな話だと思った。
 検事は、つぎの部屋を見るから案内するようにと、博士にいった。博士は、いすからのそりと立ち上がった。
 どんな光景が、つぎの部屋に待っていることか。


   三重(さんじゅう)のドア


 第二研究室へはいりこむのは、たいへんめんどうであった。
 ドアだけでも、三重になっていた。
 しかもそのドアは、どういう必要があってかわからないが、大銀行の地下大金庫のドアのように、厚さが一メートル近くあるものさえあった。第三のドアが、いちばんすごかった。
 それをあけると、がらんとした部屋が見えた。水銀灯(すいぎんとう)のような白びかりが、夜明け前ほどのうす明かるさで、室内を照らしつけていた。
 博士は、らんらんとかがやく眼をもって、係官たちの方をふりかえった。そして、自分のくちびるに、ひとさし指をたてた。それからその指で、自分の両足をさした。いよいよ室内へはいるが、無言(むごん)でいること、足音をたてないことを、もういちど係官たちにもとめたのであった。
 それから博士は、足をそっとあげて、室内へはいった。
 長戸検事も、それにならって、しずかに足をふみいれた。
 川内警部は、ことごとに、鼻をならしたり、舌打(したう)ちをしたりして、針目博士(はりめはくし)に反抗の色をしめしていたが、第二研究室にはいるときだけは、検事にならって、しずかにはいった。
 そのあとに、三人の部下がはいった。
 はいってみると、この部屋は天じょうがふつうの部屋の倍ほど高く、ひろさは三十坪ばかりであった。がらんとした部屋と思ったが、それは入口の附近の壁を見ただけのこと、それはいちめんに蝋色(ろういろ)に塗られて、なにもなかった。
 左を向いて、奥正面と、右の壁とが、陳列室よりも、もっとひろい棚(たな)があり、まえにドアつきの四角い陳列棚(ちんれつだな)が、それぞれ小さい番号札をつけて、整然とならんでいた。壁のいちめんに、百個ぐらいの棚がある。
 左の壁は、電気装置のパネルが、ところせましとばかりはめこんであり、背の高い腰かけが一つおいてある。
 部屋のまん中に、箱がたのテーブルがひとつおいてある。そしてその上に、ガラスでつくった標本入れの箱が一つのっている。
 これだけの、べつに目をうばうほどの品物も見あたらない部屋だったが、気味(きみ)のわるいのは、この部屋の赤や黄を欠(か)く照明と防音装置だった。それにあとで検事たちも気がついたことだが、気圧がかなり低かった、係官のなかには、鼓膜(こまく)がへんになって、頭を振っている者もあった。
 博士は、係官を手まねきして、陳列棚の前を一巡(いちじゅん)した。
 陳列棚のうちそのドアが開かれて、壁の中におし入れてあるものは、ガラス容器が見られた。検事や警部は、前へ進んで、一生けんめいにその中をのぞきこんだ。
 ふたりは、目を見あわせた。
 ガラス箱の中には、下の方にかたまったゼラチンのようなものが、三センチほどの厚さで平(たい)らな面を作っており、その上に、つやのある毛よりも細い金属線らしいものがひとつかみほど、のせてあった。
(何でしょうか)
(何だかわからないねえ)
 警部と検事とは、目だけでそんなことをかたりあった。
 それに類するものが、他のガラス箱の中でも見られた。
 警部は検事に耳うちをした。それから警部は針目博士を手まねいた。
「これは何ですか。説明を求めます」
 警部が声を出したので――その声はかれ、川内警部にしては低い声だったが、針目博士の顔色をかえさせた。博士はあわてて警部を戸口に近いところへひっぱって行き、
「こまるですなあ、そう大きな声を出しては……」
「職権(しょっけん)を行使(こうし)しているのに対し、きみはそれをとやかくいう権利はない」
「こまった人だ。あとで後悔しても追っつかんのですぞ」
 と博士は悲しげにまばたいて、
「これらのものが何であるかは、さっきもちょっといいかけましたが、あとで隣の部屋で申しあげます」
「いや、いまいいたまえ、あとではごまかされる」
 そういっているとき、検事もふたりのそばへ歩みよった。
「この部屋には、よほど大切な試験材料がおいてあるらしいね」
「試験材料というよりも、わたしが全霊全力(ぜんれいぜんりょく)をうちこんで作った試作生物(しさくせいぶつ)なんです」
「あの針金(はりがね)の屑(くず)みたいなものは何ですか。あの中に、その生物がかくれているんですか」
「そうではないのです……。いくどもお願いしますが、説明はあとで隣室(りんしつ)ですることでおゆるしください。もしもかれらをくるわせて、悪魔のところへやるようなことがあったら、まったく天下の一大事ですからね」
 警部が検事のわきばらをついた。やはりこの博士は気が変だよというつもりだった。警部の顔に、決心の色が見えた。かれは、いつもの大きな声になって、博士にいった。
「陳列棚に戸のしまっている棚がたくさんある。あれもいちいち開(ひら)いて見せなさい」
 博士のおどろきは絶頂(ぜっちょう)にたっした。かれはふるえる自分の指をくちびるに立てた。そしてあきらめたというようすで、ふたりをさしまねいた。
 博士のうしろに勝ちほこった川内警部と、いよいよむずかしい顔の長戸検事がついていく。


   おそろしい異変


 針目博士は、陳列棚(ちんれつだな)の前に立って、戸のしまっている棚を一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)イと八つかぞえた。その小さい戸の上には、骸骨(がいこつ)のしるしと、それから一、二、三の番号とが書きつけてあった。
 博士は、用心ぶかく「骸骨の一」の戸を、しずかに手前へ引いた。
 中には、おなじようなガラス器があり、それの中に見られたものは、よく見ないとわからないほどの細い針金でもって、だ円形(えんけい)のかごのような形を、あみあげたものだった。
 検事にも警部にも、それはすこしも、おどろきをあたえないものだった。
「骸骨の二」の戸を開くと、そこにもやはり細い針金ざいくのかごのようなものがあった。これは三稜(さんりょう)の柱(はしら)のようであった。
 川内警部は、早くもその前を通りすぎて、つぎなる戸の前へ行ったが、長戸検事はその前に足をとどめて、首を横にかしげた。彼はその三角形の柱が、なんだか背のびをしたように感じたからである。
「骸骨の三」には、やはり針金で、クラゲのような形をしたものがはいっていた。警部はいよいよがまんがならないというふうに、鼻をならした。博士がおどろいて、警部の方をふりかえり、嘆願(たんがん)するようにおがんだ。それから「骸骨の四」の戸のまえへ進んで、それを開いた。
 とたんに博士の顔が、大きなおどろきのためにゆがんだ。博士いがいの者にはわからないことだったが、「骸骨の四」のガラス箱の中はからっぽだったのである。
 博士は顔色をかえたまま、係官をつきのけるようにして、左側の壁にはめこんである配電盤の前にかけつけた。そしてほうぼうのスイッチを入れたり、計器の針の動きをにらんだり、ブラウン管の緑色の光りの点の位置を、目盛りで読んだりした。
「針目さん。なにか起こったのですか」
 検事が博士のそばへ寄って、低い声でいった。
「大切にしていたものが、なくなりました。いったいどうしたのか、わけがわからない……」
 すると川内警部がやってきて、博士の腕をむずとつかんだ。
「きみ、ごまかそうとしたって、そうはいかないよ。あと骸骨(がいこつ)の戸(と)は五、六、七、八と四つあるじゃないか。早く開いて見せなさい」
「あ、そんな大きな声を出しては――」
「これはわしの地声(じごえ)だ。どんなでかい声を出そうと、きみからさしずはうけない」
 警部がどなるたびに、配電盤の計器の針がはげしく左右にゆれた。
 そのときだった。室内にいた者はきゅうにひどい頭痛(ずつう)にみまわれた。誰もかれも、ひたいに手をあてて顔をしかめた。
 それと同時に、骸骨のしるしのつけてあった陳列棚から、すーっと黒い煙が立ちのぼった。しかし「骸骨の四」のところからは出なかった。
「もう、いけない。危険だ。みなさん、外へ出てください」
 博士が叫んで、さっき一同のはいって来た戸口の方をゆびさした。しかしその戸は、しっかりしまっていた。
「どうしたんです、針目博士」
 検事がおどろいてたずねた。
「もうおそいのです。警部さんが、この部屋にねむっていた大切なものの目をさましてしまった。えらいことが持ちあがるでしょう。早くその戸口から逃げてください」
 そういう間も博士は、まん中にすえてあったテーブルの横戸(よこど)を開き、その中から潜水夫のかぶとのようなものを引っ張り出して、すっぽりとかぶった。それから両手に、大げさに見えるゴムの手袋をはめ、同じくテーブルの横からたいこに大きなラッパをとりつけたようなものをつかみ出し、たいこの皮のようなところを棒で力いっぱいたたきつづけた。しかしそれは音がしなかった。そのかわり、ラッパのような口からは、銀白色(ぎんはくしょく)の粉(こな)が噴火(ふんか)する火山灰(かざんばい)のようにふきだし、陳列棚の方からのびてくるきみのわるい黒い煙をつつみはじめた。
 黒い煙は、いったん銀白色の膜(まく)につつまれたが、まもなくそれを破って、あらしの黒雲(くろくも)のように――いや、まっくろな竜(りゅう)のように天じょうをなめながら、のたくりまわった。このとき頭痛が一段とひどくなって、もう誰も立っていられなかった。いや、例外がある。針目博士だけは、足をぶるぶるふるわせながらも立っていた。
「でよう。この部屋からでよう」
 長戸検事が叫んだ。すると川内警部ははっていって戸口を押した。戸口はびくともしなかった。
 それを博士が見たものと見え、とぶようにかけて来て、ハンドルをまわして戸をあけると、五人はあらそうようにして、外へとび出した。
 五人の係官が出てしまうと、戸はもとのようにしまった。博士がしめたのである。
 検事たちは、まだ二つのドアを開かねばならなかった。文字どおり必死で、ようやくドアを開いて、第一研究室へ出ることができた。一同の足は、そこでもとまらなかった。あきれ顔の人たちや他の警官の前をすりぬけて、一同は庭へころげ出た。
 そしてほっと一息ついたおりしも、天地もくずれるような音がして、目の前にものすごい火柱(ひばしら)が立った。第二研究室が、大爆発を起こしたのだった。なにゆえの爆発ぞ。針目博士はどうしたであろうか。


   事件迷宮(めいきゅう)に入る


 第二研究室の爆発のあと、針目博士のすがたを見た者がない。
 爆発による被害は、さいわいにも第二研究室だけですんだ。それはまわりの壁が、ひじょうにつよかったせいで、爆発と同時に、すべてのものは弱い屋根をうちぬいて、高く天空(てんくう)へ吹きあげられ、となりの部屋へは、害がおよばなかったわけだ。
 焼跡は一週間もかかって、いろいろ念入りにしらべられた。
 だが、この室内にあったものは、すべてもとの形をとどめず、灰みたいなものと化(か)していた。よほどすごい爆発を起こし、圧力も熱もかなり出たらしい。なにしろ鋼鉄(こうてつ)の棒(ぼう)ひとつ残っていないありさまだった。
 捜査は、とくに針目博士の安否(あんぴ)に重点(じゅうてん)をおいておこなわれたが、前にのべたように博士のすがたは発見できなかった。また人骨(じんこつ)の一片(いっぺん)すら見あたらなかった。
 もしや博士は地下室へでものがれたのではないかと、焼跡(やけあと)を残りなく二メートルばかり掘ってみたが、出てくるものは灰と土ばかりで、なんの手がかりもなかった。
「どうもこのようすでは、博士は爆発とともにガス体(たい)となり、屋根をぬけて空中へふきあげられちまったんじゃないかね」
 川内警部は、おしいところで重大容疑者(じゅうだいようぎしゃ)に逃げられてしまったという顔で、こういった。
 長戸検事はしょんぼりと立ちあがった。
「みんな引揚(ひきあ)げることにしよう。もうわれわれの力にはおよばない」
 これをもって、お三根殺害事件(みねさつがいじけん)をはじめ二つの怪傷害事件(かいしょうがいじけん)も、いまはまったく迷宮入(めいきゅうい)りとなってしまった。
 だが、事件捜査は、ほんとに終ってしまったわけではなかった。
 その筋では、どういう考えがあったものか、この事件の捜査をこれまでどおり検察当局の手でつづけるとともに、それと平行して、私立探偵の蜂矢十六(はちやじゅうろく)に捜査を依頼したのであった。
 私立探偵蜂矢十六!
 この若い探偵について、一般に知る人はすくない。しかし検察係官の中には、蜂矢十六を認めている人が、かなりある。かれの特長は、科学技術と取り組んでおそれないこと、かんがするどいこと、推理力にすぐれていること、それから、ひとたび獲物(えもの)の匂(にお)いをかいだら、猟犬(りょうけん)のように、どこまでも追いかけ、追いつめることなどであった。
 だがかれにも欠点はあった。それはまず第一に年が若いために、古いものにあうとごまかされやすいこと、どんどん走りすぎて足もとに注意しないために、溝(みぞ)へおっこちるようなことがあること、すこしあわてん坊であること、それからタバコをすいすぎることなどであった。かれはひとりの少年を助手にもっていた。それは小杉二郎(こすぎじろう)という、ことし十四歳になる天才探偵児(てんさいたんていじ)であって、この少年がいるために、蜂矢はずいぶんあぶない羽目から助かったり、難事件をとくカギをひろってもらったりしている。
 しかし蜂矢探偵は、めったにこの少年とともに外をあるかない。ふたりはたいていべつべつにわかれて仕事をする。これは蜂矢探偵の考えによるもので、べつべつにはなれていたほうが、おたがいの危険のときに助けあうこともできるし、また事件の対象を両方からながめるから、ひとりで見たときよりも、正しく観察することができるというのであった。
 これはなかなかいい考えであった。
 さて蜂矢十六は、この事件のこれまでのあらましを、長戸検事の部屋で、検事からひと通り聞いた。検事は人格の高い人であったから、自分たちの失敗やら、とくことのできなかったことを、つつまずにすべて蜂矢につたえた。そしてそのあとで、なにか蜂矢のほうで質問があれば、それに答えるといった。
 それに対して蜂矢はつぎのことを聞いた。
「第二研究室の爆発が起こるまえ、針目博士が皆さんを案内して、その部屋にはいったときのことですがね、博士の態度に、なにか変ったことはありませんでしたか」
「さあ、かくべつ変ったということも――いや、ひとつあったよ」
 と検事はぽんと手のひらをたたき、
「すっかりわすれていたが、いま思いだした。それはね、あの第二研究室にはいると、博士はきゅうにおとなしくなったんだ。その前までは博士は気が変ではないかと思ったほど、ごう慢(まん)な態度でわたしを叱(しか)りつけ、悪くいい、からみついてきた。しかるにあの第二研究室へはいると同時に、博士はまるで別人のように、おとなしい人物になってしまったのだ」
「ふーむ、それは興味ぶかいお話ですね。しかしどういうわけで、そんなに態度が一変(いっぺん)したのでしょうか」
「それはわたしにはとけない謎だ」
「あなたはあの部屋へはいると、きゅうにはげしい頭痛におそわれたのでしたね」
「部屋へはいってすぐではなかった。すこしたってからだ。五分もしてからだと思う。それにさっきもいったように、この頭痛はわたしだけでなく、あとからきくと他の同僚たちも、みんなおなじように頭痛におそわれたそうだ。これと博士の態度とに、なにか関係があるのかな。いや、それほどにも思われないが……」
「そのとき博士のほうはどうだったでしょう。やっぱり頭痛になやんでいたようすでしたか」
「ちょっと待ちたまえ」
 と検事は腕ぐみをしたが、まもなく首を左右にふって、
「いや、針目博士は頭痛になやんでいるような顔ではなかったね」
「それはどうもおかしいですね」
 このちょっとしたことがらが、後になってこの事件解決のかぎになろうとは、気のつかないふたりだった。


   大学生、雨谷(あまたに)君


 せっかく蜂矢探偵の登場を、みなさんにお知らせしたが、ここで蜂矢探偵のことをはなれて、べつの事件についてお話しなくてはならない。それというのが、まことに前代未聞(ぜんだいみもん)の珍妙なる事件がふってわいたのである。
 東京も、中心をはなれた都の西北早稲田(わせだ)の森、その森からまだずっと郊外へいったところに、新井薬師(あらいやくし)というお寺がある。そこはむかしから目(め)の病(やまい)に、霊験(れいけん)あらたかだといういいつたえがあって、そういう人たちのおまいりがたえない。
 しかし筆者は、いまここにお薬師(やくし)さまの霊験をかたろうとするものではなく、そのお薬師さまの裏のほうにある如来荘(にょらいそう)という、あまりきれいでないアパートの一室に、自炊生活(じすいせいかつ)をしている雨谷金成(あまたにかねなり)君をご紹介したいのである。
 雨谷君は大学生であった。
 だがその時代は、学生生活はたいへん苦しいときであったうえに、雨谷君の実家は大水(おおみず)のために家屋(かおく)を家財(かざい)ごと流され、ほとんど、無一物(むいちぶつ)にひとしいあわれな状態になっていた。しかしかれの両親とひとりの兄は、この不幸の中から立ちあがって、復興(ふっこう)のくわをふるいはじめた。二男の雨谷金成君も、今は学業をおもい切り、故郷にかえって、ともにくわをふろうと思って家にもどったところ、
「金成(かねなり)や、おまえは勉強をつづけたがいいぞ。そのかわりいままでみたいに学資や生活費をじゅうぶん送れないから、苦学(くがく)でもしてつづけたらどうじゃ」
 と皆からいわれ、それではというので、その気になってまた東京へひきかえした金成君だった。
 金成君は、それから友人たちにもきいて歩いたけっか、にぎやかな新宿へ出、鋪道(ほどう)のはしに小さな台を立て、そのうえに、台からはみだしそうな、長さ二尺の計算尺を一本よこたえ、それからピンポンのバットぐらいもある大きな虫めがねを一個おき、その横に赤い皮表紙の「エジプト古墳小辞典(こふんしょうじてん)」という洋書を一冊ならべ、四角い看板灯(かんばんとう)には、書きも書いたり、

 ――古代エジプト式手相及び人相鑑定
 三角軒ドクトル・ヤ・ポクレ雨谷狐馬(あまたにこま)。なやめる者は来たれ。
 クレオパトラの運命もこの霊算術(れいさんじゅつ)によりわり出された。エジプト時代には一回に十五日もかかった観相(かんそう)を、本師は最新の微積分計算法(びせきぶんけいさんほう)をおこない、わずかに三分間にて鑑定す。
 見料(けんりょう)一回につき金三十円なり。ただしそれ以外の祝儀(しゅうぎ)を出さるるも辞退せず。
               敬白。

 と大変なことが書いてある。
 三角軒ドクトル・ヤ・ポクレの雨谷狐馬とは、いったいなんのことやらわけがわからないが、そこはその新宿(しんじゅく)という盛(さか)り場(ば)のことゆえ、わけのわからない人間もかなりたくさん歩いている。
「エジプト式の占師(うらないし)なんて、はじめてお目にかかるね。話のたねにちょいとみてもらおう」
 などと寄ってくる。
 そのおかげで雨谷君は、開店第一日には純所得(じゅんしょとく)として金二百八十円をもうけ、二日目には金三百九十円をといううなぎ上りの収入をえた。これが午前中は学校の講義を聞き、午後一時から店を出して夕がた六時ごろまでのかせぎであった。なかなかぼろいもうけだと、かれは気に入った。
 雨谷君の商売の話をくわしく書けばおもしろいのだが、それは本篇の事件にはあまり関係がないので、あまりのべないこととし、関係のあることだけを書きつづるが、三日目にはかれは思い切って、おなじ露店商(ろてんしょう)から電気コンロとお釜とお釜のふたとを買って如来荘(にょらいそう)へもどった。
 かれの考えでは、いままではほかの食堂で露命(ろめい)をつないでいたのであるが、露店商売をはじめてみると、なかなか時間が惜しくて、店なんかあけていられないし、それにあの商売はとても腹がへるので、食堂で食うよりも自分でめしをたいて食った方が、経済であるという結論をえたので、いよいよ文字どおり自炊生活(じすいせいかつ)をはじめることにしたのである。
 その夜八時ごろから、一時間ばかりかかって、とてもやわらかいめしができた。それを茶わんで、じかにしゃくって、こんぶのつくだにをおかずに、
「ああ、うまい、うまい」
 と六ぱいもたべて満腹した。
 満腹(まんぷく)すると、雨谷君の両方のまぶたがきゅうに重くなり、すみにたたんで積んであった夜具(やぐ)をひきたおすと、よくしきもせず、その中へもぐりこんでしまったのだ。
 珍妙(ちんみょう)なる怪異(かいい)は、そのあとにはじまったのである。
 お釜がとつぜん、ことこと左右にからだをゆすぶったのである。そして、ゆすぶっては休み、休んではゆすぶった。お釜のふたがだんだんずれて、やがて大きな音をたてて下に落ち、茶わんとさらをこわしてしまった。
 雨谷君は、その音におどろいたか、ぱっとはね起きたが、お釜の方をちょっと見ただけでまたドーンと横に倒れて、ぐうぐうと眠ってしまった。


   大金(おおがね)もうけの種(たね)


 お釜は、ことこと、ことこと、と左右にからだをゆすぶっている。
 お釜の中にネズミがはいっているわけではなかった。またお釜のかげで、ネコがからだを動かしているわけでもなかった。お釜は、ひとりでからだをゆすぶっているのだった。
 それは運動力学の法則に反しているように思われた。他からの力がくわえられないで、金属製の釜が動くはずはなかった。
 それとも電気の力か、磁気(じき)の力が、そのお釜にはたらいているのであろうか。いやいや、そんな仕掛けは、この部屋の中に見あたらない。
 動くはずはないのに、お釜は実際ことことからだをゆすぶっている。
 動いているのがほんとうであるかぎり、お釜には力がはたらいているのだと思わなくてはならない。その力はいったいどこにはたらいており、そしてその力の源(みなもと)はどこにあるのだろうか。
 お釜の持主である大学生雨谷(あまたに)君は、なんにも知らず、なんにも考えないで、しきりにいびきの音を大きくしているだけだった。
 そのうちにお釜は、はじめにおしりをすえていた場所よりも、すこし前の方へ出てきた。そしてあいかわらず、からだを左右にぐらぐらとゆすっている。
 それは一時間ばかりかかったが、お釜は壁ぎわから出発して、たたみ一枚を縦(たて)に旅行し、そして夜具のはしからはみ出している雨谷の足首のそばにまで接近した。そのとき雨谷君は寝がえりをうった。かれの太い足が動きだして、いやというほどお釜にぶつかった。
「あいたッ」
 おどろいてかれは目をさまし、ふとんをはねのけて、その場にすわりなおした。そしてしきりに目をぱちぱちして、あたりを見る。
「ありゃりゃ、お釜をひっくりかえしたぞ」
 お釜はひっくりかえり、おしりが上に、さかさまになっていた。
「あああ、ごはんがたたみの上へぶちまかれちまった」
 彼はお釜をおこし、その中へ、たたみの上に散らばっているごはんをもどした。そしてそのお釜を持って、壁のところへ行きそこへおこうとして、またびっくり。
「おやおや、茶わんとさらがこわれている。誰がこわしたんだろう。また買いなおすと、三十円ぐらいかかる。たまらないや」
 そういいながら、雨谷はお釜をはじめの場所へおき、重いふたをかぶせた。そして寝具をちゃんとしきなおした。まくらもおいた。
「さあ、ねるとするか」
 彼は上着のボタンに手をかけた。
 そのときであった。がたんと音がした。釜のふたが下へすべり落ちたのである。
「おや……」
 彼は目をまるくした。ふしぎなことを発見したからである。ふたを落としたお釜が、ことことン、ことことンと左右にからだをふりながら、前へはいだしてくるではないか。
 雨谷君はびっくりしたが、彼はもともと勇気があったから、立ちあがってお釜をつかみあげた。そして中を見たり、ひっくりかえしておしりを見たり、こーンとたたいたりして、お釜をしらべた。
 異常はなかったし、中に動物がはいっていない。彼はお釜を下においた。
 下におかれた釜は、しばらくすると、またかたことと、からだをゆすぶり出した。
「ふーン、ふしぎだなあ」
 雨谷はおどろいて天眼鏡(てんがんきょう)を出すと、動く釜をしげしげながめた。かれはしきりに頭をふった。釜は元気づいてカニのようにたたみの上をはいまわる。
 雨谷君は、とつぜん天眼鏡(てんがんきょう)をひっこめてぽんと膝をうった。
「うふン。これはすばらしい金もうけが見つかったぞ。エジプト手相よりは、ずっともうかるにちがいない。二十世紀の奇蹟今様文福茶釜(いまようぶんぶくちゃがま)――ではない文福釜(ぶんぶくがま)。……文福釜では弱い。そうだ文福茶釜二世あらわる。さあいらっしゃい。見料は見てからでいいよ、見ないは末代(まつだい)までのはじだ。得心(とくしん)のいくまでゆっくり見て、見料はたった三十円だ。写真撮影、写生、録音、なにしてもようござんすよ。いらっしゃい、いらっしゃい、というのはどうだ」
 大学生雨谷君は、すっかり香具師(やし)になったつもりである。
 さあ、彼の大金もうけの計画は、うまく成功するだろうか。それにしてもふしぎなのはその釜であった。いったいどんな秘密を、この釜が持っているのであろうか。


   金属Qの謎


「どうかね。なにか手がかりをつかんだかね」
 長戸検事は、役所へたずねてきた蜂矢十六探偵の顔を見ると、目をすばしこく走らせてそういった。
「あなたのお気に召さない、例の方面をほじくっているんですがね」
 と、蜂矢探偵は検事の机の横においてあるいすに腰をおろして、にやりと笑った。
「ははあ、また“金属Q”の怪談(かいだん)か。きみも若いくせにおばけばなしにこるなんて、おかしいよ。良くいっても、きみがおとぎばなしをひとつ作ったというにすぎない」
 検事は、いまいましそうに、エンピツのおしりで前にひろげてある書類をぽんぽんとたたく。
 金属Qとは? それは本篇のはじめにご紹介したが、針目博士の日記と研究ノートのなかから蜂矢探偵がひろいあげた謎にみちた物件であった。
 金属Q!
 それはほんとうに実在するのか。それとも針目博士が頭の中にえがいていた夢にすぎないのかそのどっちか、よくはわからなかった。第一、博士の書き残してあるものを読みあさっても、金属Qなるものがどんなものやら、そしてどんな性質をもっているものやら、そこらがはっきり書いてない。そのうえに、博士の書いてある説明は現代において、普通に知られている理学(りがく)の範囲(はんい)をかなりとび出していて、解(かい)することがむずかしい。正しいのか、まちがっているのか、それさえ判定がつきかねる。
 だが、蜂矢十六は、そういうわけのわからないものの中に、自分も共にわからないでころがっているのは、おろかであると思った。じぶんは探偵だ。金属Qの理学に通じ、その論文を完成するのは、世の学者たちにまかせておけばいい。じぶんは身をもって金属Qという、怪(あや)しき物件(ぶっけん)にぶつかり、それを手の中におさえてしまえば、それでいいのであった。そしてそれはいそがねばならない。
 そこで蜂矢は、すこぶる大胆(だいたん)に、つぎの仮定を考えた。
 一、金属Qという怪物件(かいぶっけん)が実在(じつざい)する。
 二、金属Qは、人造(じんぞう)されたものである(針目博士だけが、それを創造(そうぞう)することができるらしい)。
 三、金属Qは、生命(せいめい)と、思考力(しこうりょく)とを持っている。
 蜂矢は、この三つの条件をそなえた金属Qが実在すると、かりに信じ、これをレンズと見なし、そのレンズを通してこれまでの怪事件を、見なおしたのであった。そのけっか、長戸検事のところへ出むいて、もう一度おとぎばなしをする必要を感じたのだ。
「検事さんもごらんになった、あの第二研究室の中の棚に並んでいた、へんな試作物(しさくぶつ)のことですがね。たしか『骸骨(がいこつ)の一』から『骸骨の八』までの箱がならんでいたそうですが、あの中にあったへんな試作物こそ、金属Qの兄弟だったんじゃないですかね」
「ふーン」
 検事は、天じょうのすみを見あげて、ため息ともうなり声ともつかない声を発した。
 ――そうだ。たしかにじぶんは「骸骨の一」とか「骸骨の二」とか札のついていたものを見物(けんぶつ)した。それは、すこぶるかんたんな立体幾何学的(りったいきかがくてき)な模型(もけい)のような形をしていた。
 大小三つの輪が、からまりあっているような、そしてかごのできそこないみたいにも見えるものがあった。あれがたしか「骸骨の一」であった。
 それから、三本の直線の棒が平行にならんでいて、そのあいだに助骨(ろっこつ)のように別のみじかい棒が横にわたっていて、もとの三本の直線の棒をしっかりとささえていた。それが「骸骨の二」であったと思う。じぶんは、ふしぎに思ったので、よく見て、いまもわすれないでいるのだ。
 そのつぎに「骸骨の三」は前の二つのものよりずっと複雑なものだった。いやにまがりくねった透明(とうめい)の糸みたいなものが走っていて、なんだかクラゲのような形をしていた。
 さてそのつぎの「骸骨の四」という仕切りの中を、針目博士が開いて、おどろきの目をみはったのだ。その箱の中には、かんじんの物件(ぶっけん)がはいっていなかった。
“どうしたのだろう。わけがわからない”
 と博士が叫んだ。その直後、さっきからじりじりと焦(じ)れていた川内警部が、火のついたような声で叫んだため、なにかそれが刺(し)げきとなったらしく、博士は“危険だ、みなさん外へ出てください”と追い出し、そしてそのあとであの爆発が起こったのだ。してみれば、「骸骨の四」が紛失(ふんしつ)していたことがひとつの手がかりかもしれない。いま、蜂矢探偵が、あのへんな透明な針金細工(はりがねざいく)のようなものを、金属Qの兄弟ではないかとうたがっているのも、根拠(こんきょ)のないことでもないと思われる。そこで検事はいった。
「……もし、そうだったら、どうしたというのかね」
「殺人事件の起こるまえに、金属Qだけは、第二研究室から逃げ出していたんです。博士は、それに気がつかないでいた。その金属Qは、お手伝いさんの谷間三根子(たにまみねこ)の部屋にもぐりこんでいた。そして彼女を殺したのです。三根子の両手両腕、肩や胸などに傷がたくさんついていますが、あれはみな、金属Qとわたりあったときにできた傷だと思うんです。どうですか」
 蜂矢は、にやにやと笑った。そのとき検事の方は、さっきとはちがってかたい表情になっていた。だが、黙(もく)していた。


   殺人者の追跡


「そののちになって、川内警部が足首の上を斬られ、田口巡査はほおを斬られましたね。あれもみな、金属Qのやった第二、第三の事件なんです。これはどうです」
 蜂矢探偵は、いよいよ検事のほうへ向きなおって、検事の答えはどうかと、目をすえる。
 検事は、目をとじた。そして無言(むごん)だ。
「そう考えると、針目博士邸(はりめはくしてい)における三つの殺人傷害事件(さつじんしょうがいじけん)も、かんたんに答が出てしまうのですがねえ。どうです検事さん。このおとぎばなしを採用なさったらどうですか」
 検事が、やっと目をあけた。かれは、エンピツのおしりで書類のうえをぴしりとうった。
「だめだ。いくら答がうまく出ようと、仮定のうえに立つ答は、ほんとの答とはいえない。金属Qがはたして谷間三根子を殺したか、川内君を斬り、田口巡査を斬ったか。そのところの証明ができないかぎり、その答を採用するわけにはいかん。まさか検事が全文おとぎばなしの論告はおこなえない」
 そうはいったが、検事も「もし犯人が金属Qならば」の仮定をおいて、答がずばりとでるその明快(めいかい)さには、心をうごかされているようすであった。
 蜂矢はかるくうなずいた。その仮定さえ証明できれば、検事も了解(りょうかい)すると見てとったからである。
「さあ、その仮定(かてい)が真(しん)なりという証明ですが、これは針目博士に会って聞けば、一番はっきりするんです。しかし困ったことに針目博士は姿を消してしまった」
「針目は死んだと思うか、それとも生きていると思うか、どっちです」
「みなさんの調査では、針目博士はからだを粉砕(ふんさい)して、死んだのだろうという結論になっていますね。ぼくもだいたいそれに賛成します」
「だいたい賛成か。すると他の可能性も考えているの」
「これは常識による推理ですが、針目博士はあの部屋の爆発危険(ばくはつきけん)をかんじて、あなたがた係官を隣室(りんしつ)へ退避(たいひ)させた。そしてじぶんひとり、あの部屋にのこった。博士のこの落ちつきはらった態度はどうです。博士はじぶんが助かる自信があったから、あの部屋にのこったんです。そう考えることもできますでしょう」
「それは考えられる。だがあのひどい爆発は、われわれがあの部屋を去るとまもなく起こった。博士が身をさけるつもりなら、なぜそのあとで、われわれのあとを追って出てこなかったのであろうか。そうしなかったことは、博士は爆発から身をさけることができなかったんだ。それにあの爆発は、じつにすごいものだったからね」
 検事は、そのときのことを思い出して、ため息をついた。
「あなたがたから見れば、爆発はたいへんすごいものであり、爆発はあッという間に起こったと思われるでしょう。しかし針目博士はあの部屋のぬしなんだから、そういうことはまえもって知っていたと思うんです。だから、いよいよわが身に危険がせまったときに、博士は非常用の安全な場所へ、さっととびこんだ。ただしこれは、あなたがたのあとについて、隣の部屋へのがれることではなかった。つまり、べつに博士は非常用の安全場所を用意してあり、そこへのがれたと考えるのはどうでしょう」
「そういう安全場所のあったことを、焼跡(やけあと)から発見したのかね」
「いや、それがまだ見つからないのです」
「それじゃあ想像にすぎない。われわれとて、もしやそんな地下道でもあるかと思ってさがしてみたが、みつからなかった」
「わたしは、もっともっとさがしてみるつもりです」
「いくらさがしても見つからなかったらどうする。それまでこの事件を未解決のまま、ほおっておくわけにはゆくまい」
「そうです。博士の安否(あんぴ)をたしかめるほかに、他のいろいろな道をも行ってみます。そのひとつとして、わたしは金属Qを追跡(ついせき)しているのです」
「え、なんだって、金属Qを追跡しているって。きみは正気(しょうき)かい」
 長戸検事は目をまるくして、蜂矢探偵の顔を見つめた。
「検事さん。わたしはもちろん正気ですよ」
「だってどうして金属Qを追跡することができるんだい。そんなものは、どこにもすがたを見せたことがない」
「さあ、そこですよ。金属Qのすがたを見た者はない。また金属Qのすがたがどんな形をしているか、それを知っている人もないようです。ですが金属Qは、まず第一に谷間三根子を殺害(さつがい)しました。あの密室をうちやぶって、中へとびこんだ連中は、室内に金属Qのすがたを発見することはできなかったが、そのすこしまえに金属Qが電灯のかさにあたって、かさをこわす音は耳で聞きました。そうでしょう」
 蜂矢の話は、事件のすじ道をたしかに前よりもあきらかにしたように思われ、検事も心を動かさずにいられなくなった。蜂矢はつづける。
「つまり、金属Qは、相当のかたさを持っているが、すがたは見えにくいものである。このように定義(ていぎ)することができます。このことを裏書するものは、つぎの警部と田口巡査の負傷です」
「あ、なるほど」
「見えない金属Qは、あの室内にとどまっていたんですが、きゅうにふとんのしたかどこからかとび出した。そのとき川内警部の足首の上を、すーッと斬った。そして金属Qは室外へとび出したのです。そこは廊下です。廊下を博士の居間(いま)のある、奥のほうへととんでいく途中、田口巡査のほおを斬った。そうでしょう。こう考えて行けば、われわれは金属Qを追跡していることになる。そう思われませんか」
 蜂矢の顔は、真剣だった。


   「骸骨(がいこつ)の四」とQと


「なるほど。そう考えると、すじ道がたつ。感心したよ、蜂矢君」
 検事はポケットからタバコを出して、火をつけた。
「さあその先です」
 と蜂矢はこぶしでじぶんの手のひらをたたいた。
「それから先、金属Qはどこへ行ったかわからない。わかっているのは、あなたがたが、博士に談判して、倉庫や研究室をおしらべになったことです。それから爆発が起こったというわけです」
「ちょっとまった、蜂矢君。れいの『骸骨の四』ね。第二研究室の箱の中からすがたをけしていて、針目博士がおどろいたあれだ。あの『骸骨の四』と金属Qとはおなじものだろうか。それとも関係がないものだと思うかね」
 検事も、いつの間にか、蜂矢のおとぎばなしに出てくる仮定を、しょうしょう利用しないではいられなくなったらしい。
「ああ、そのことですか。わたしは問題をかんたんにするため、いちおうその『骸骨の四』と金属Qとが同一物であったと仮定します。もしこの仮定がまちがっていたところで、たいしたあやまりではないと思います。同一物でないとしても、両者は親類ぐらいの関係にあるものと思います」
「ふーン。そうかね」
「つまりどっちも博士の研究物件なんです。そしてどつちも生命(せいめい)と思考力(しこうりょく)とを持っているものと考えられる。いや、その上に活動力(かつどうりょく)を持っているんです。『骸骨の四』は、金属Qと同一物であるか、そうでないにしても、金属Qは『骸骨の四』から生まれた子か孫かぐらいのところでしょう。けっして他人ではない」
 蜂矢のほおが赤く染まった。
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