怪星ガン
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著者名:海野十三 

 と、少佐は傷の手当をうけおわるのが待っていられないというようすで、艇長に報告をはじめた。
 艇長テッド博士は、非常におどろいた。
 そばに、それを聞いていた人たちも顔色をかえた。
 聞きおわった艇長は、何おもったか、ものをもいわず、いそいでそこを去った。そして司令室にはいった。
「いそぎの命令だ、各艇に時限爆薬がかくされているおそれがある。各艇はすぐさま艇内を全部しらべろ。六号艇の爆破の原因は、時限爆薬のせいとわかった」
 隊長は僚艇に無電で命令をつたえた。
 たしかにそのおそれがあった。六号艇が特別にねらわれる理由はないようだ。だから時限爆薬は、他の九台の艇にもかくされているおそれはじゅうぶんであった。
 この命令をうけた各艇は、ふるえあがった。そんなぶっそうなものがあっては一大事だ。各艇は総員を集め、大至急で艇内の捜査をはじめた。
 そのけっか、隊長テッド博士のはやい命令がよかったことがわかった。というのは、第二号艇と第三号艇と、それから博士が乗組んでいる司令艇と、この三台の艇内に、やはり時限爆薬がかくされていたことがわかった。
 そのあぶないお客さまは、ただちに艇外に放りだされた。それは木箱にはいっていて、機械の部分を入れた箱のように見えた。もう五分間探しあてるのがおそかったら、司令艇は六号艇とおなじ運命におちいったことであろう。じつにあぶないところであった。


   社会事業家ガスコ氏


 艇内捜査と時限爆薬のかたづけがすんだあとで、艇長テッド博士は、数名の幹部とゲーナー少佐と、そのほかに特別に帆村荘六を招いた。
「集まってもらったのはほかでもないが、さっきの時限爆薬事件だ。なぜあんなものがかくされていたか、これについて諸君の意見を聞かせてもらいたい。じつにこれはにくむべき陰謀事件であるからねえ」
 そこで一同は、あの事件のてんまつを復習し、そしていろいろと意見をのべて、事件の奥に何者がかくれているかを探しだそうとした。
「出航のまえに、じゅうぶん調べたんだがなあ。まったくふしぎだ」
「密航者しらべをしたときに、怪しい品物がまぎれこんでいるかどうか、それもいっしょに厳重にしらべるよう僚艇に伝えたんですがねえ」
「もし、そういう品物がまぎれこんだとすれば、それはやはり出航のすぐまえのことだと思います。つまり乗組員が家族に送られて艇を出たりはいったりしましたからねえ。もしそういうすきがあったとすれば、それはそのときですよ」
 これは帆村荘六の意見だった。
「まあ、こうだろうという話は、それぐらいでいいとして、じっさい見たことで、怪しいと思ったことがあったらのべてもらいたい」
 隊長テッド博士は、議論よりも事実のほうが大切だと思った。
「べつに怪しい者が出入りしたとは思いませんがねえ。みんな家族なんですから」
「出入(でい)りの商人もすこしは出入りしたね」
「招待客もすこしは出入りしました」
「顔を緑色のスカーフでかくした男がうろうろしていましたね。松葉杖をついていましたから、みなさんの中にはおぼえていらっしゃる方もありましょう」
 帆村がいった。
「あっはっはっ」と同席のひとりが笑った。
 帆村は、なぜ笑われたのかわかりかねて、その人の顔をふしぎそうに見た。
「それはガスコ氏だ」
「ガスコ氏とは?」
 帆村いがいの人びとは、にやにや笑いだした。
「ガスコ氏というのは、こんどの救援事業に、名をかくして六百万ドルの巨額を寄附してくれた風変りの富豪だ。金鉱のでる山をたくさん持っている」
 この説明には、帆村も苦笑した。そういう有力なる後援者とは知らなかった。その方面のことは、かれと仲よしのカークハム編集長も教えてくれなかったのだ。この重大なことをなぜ教えようとはしなかったか、ふしぎなことである。
 そのとき帆村は、ふと気がついたことがあった。
「……名をかくし六百万ドルを寄附したということですが、それならば、なぜみなさんはそれがガスコ氏であることをご存じなのですか」
 帆村は探偵だけに、どうもわけがわからないと思ったことは、わけのわかるまで探しもとめなければ気がすまないのだった。
「それはね、帆村君」とテッド博士が口を開いた。
「出発の日の朝になって、ガスコ氏は本隊へ電話をかけてきて、きょうはじぶんも気持がよいので、こっそり救援隊の出発を見送りにいく。しかし微行(びこう)なんだから、特別にわしをお客さまあつかいしてもらっては困る。それからあの匿名寄附者(とくめいきふしゃ)がわしであることは、今回救援に出発する少数の幹部にだけは打ちあけてくれてもよい――こういう電話なんだ。それで幹部だけは、あの匿名寄附家がガスコ氏であることを当時わたしから聞かされて知ったのだ。きみには知らせるわけにゆかなかったが、まあ悪く思うな」
「なるほど」
 帆村はうなずいた。もっともな話である。帆村荘六は通信社から特にたのんだ便乗者(びんじょうしゃ)にすぎない。隊の幹部ではない。
「それで隊長は当日、ガスコ氏をこの艇内へ案内せられたのですか」
「ちょっとだけはね。氏はほんのわずかの間艇内を見たが、まもなくおりてゆかれた。わたしは氏を迎えたとき、氏が『挨拶(あいさつ)はよしましょう。ていちょうな取扱いもしないでください。近所のものずき男がやってきているくらいの扱い方でけっこうです。わしはすぐ失敬します』といった。氏はきょくりょく知られたくないようすで、スカーフを取ろうともしなかった」
「そこなんだが……」と帆村はまえへ乗りだしてきて、「どなたか、その時刻からのち、ガスコ邸(てい)へ電話をかけて、ガスコ氏と話をされたことがありましたか」
「さあ、どうかなあ」
 帆村のだしぬけな質問に、隊長テッド博士はすこし面くらいながら、幹部たちの顔を見まわした。
「わたしはその後一度もガスコ氏に連絡しないのだが、諸君はどうか」
 その答えは、あのとき以後誰もガスコ氏と話したり連絡した者がないとわかった。
「そうなると、これは調べてみるひつようがありますね。隊長。ガスコ氏を電話に呼びだして話をしてみてください」


   奇怪な事実


 帆村荘六は、いったい今なにを考えているのであろうか。ガスコ氏を電話でよびだして、どうしようというのだろう。隊長テッド博士は無電技士に命じて、ガスコ邸をよびださせた。
 まもなく電話はつながった。でてきた相手は、ガスコ氏の執事(しつじ)のハンスであった。
 電話で、相手にたずねることがらは、そばから帆村が隊長にささやいた。
 はじめははんぶんめいわくそうな顔をしていた隊長だったが、電話の話がだんだんすすむにつれ、おどろきの色をあらわし顔は赤くなり、また青くなった。
 というのは、執事の話によると『旦那さまはこのところ持病の心臓病のためずっと家に引きこもっておられること、去る十三日も一日中ベッドの上に寝ておられ、ぜったいに外出されたことはないし、外出がおできになるような健康体ではない』ことをのべたからである。そして『去る十三日』というのは、テッド博士のひきいる救援隊が地球を出発した日のことであった。だから博士のおどろいたのも、むりではない。
 博士は、もしや聞きちがいかと思っていくどもくりかえし、おなじことを執事に聞いたが、執事はぜったいにまちがいでないこと、またそんなにうたがわれるなら主治医に聞かれたいと、すこし怒ったような声でこたえた。
(すると、出発当日、艇のそばへ姿をあらわし、じぶんと手をにぎったガスコ氏と名乗る松葉杖の人はいったい誰だったのかしらん)
 隊長の服の袖をひく者があった。そのほうを見ると帆村荘六だった。(話はもうそのへんでいいから、電話をお切りなさい)と目で知らせている。そこでテッド博士は、執事にていちょうに挨拶をしてガスコ氏の病気がはやくなおることを祈り、そのあとで電話を切った。
 一同は、もう笑う者もない。みんなかたい顔になってしまった。
 博士が、ためいきとともにいった。
「わたしはゆだんをしたようだ。わたしは本隊の出発当日、身許(みもと)の知れない覆面の人物を本艇や僚艇に出入りすることを許したようだ」
 そのあとは、しばらく誰もだまっていた。まことに気持のわるい発見だ。
 やがて帆村荘六が口をひらいた。
「ガスコ氏だと見せかけたその覆面の人物こそ、時限爆薬を投げこんでいったにくむべき犯人にちがいないと思います。その怪人物を至急捕えなくてはなりません。おゆるしくだされば、わたしはすぐにニューヨーク・ガゼットのカークハム氏に連絡して、検察当局へ届けてもらいます」
「いや、こうなれば、わたしも責任上、公電をうって、この怪事件についての新しい発見を報告しなければならない」
 そこで隊長からいっさいのことが地球へむけて通信せられた。
 読者は、その怪しい松葉杖の人物が、スミス老人によって、宇宙の猛獣使いとよばれたことをおぼえていられるだろう。
 スミス老人は、ほかの人たちが知らないことを知っており、ほかの人たちよりもずっとまえから、あの松葉杖の男に目をつけていたのである。
 だが、スミス老人は、かの怪人物についてどれだけのことを知っているのか、今はまだわかっていない。
 テッド博士からの報告により、検察当局ではさっそく大捜査(だいそうさ)をはじめた。
 だが、だいぶ日がたっていることでもあり、かんじんの人物が覆面しており、そして服装はといえば、ふだんのガスコ氏とおなじようであったので、その本人を探しだすのはたいへんむずかしかった。
 せめてスミス老人か、老人のまわりに集まっていた婦人連とでも連絡がつけば、すこしは手がかりらしいものも見つかったであろうが、あいにく検察当局はこれらの人びとに出会う機会がなかった。
「ガスコ氏に似た怪人物の手がかりが見つからない。もっと資料を送っていただきたし」
 そういう暗い報告が、検察当局からテッド博士のもとへとどいた。


   遭難現場近し


 三根夫(みねお)は、音(ね)をあげないつもりであった。しかしとうとうがまんができなくなって、三根夫は帆村荘六(ほむらそうろく)にうったえた。
「おじさん。どうもたいくつですね」
 帆村荘六は、本から顔をあげて、目をぐるぐるまわしてみせた。
「そんなことは、いわない約束だったがね。それにミネ君は、いろんなおもちゃを艇内へ持ちこんでいるじゃないか」
「それと遊ぶのも、もうあきてしまったんです」
 オルゴール人形、パチンコ、車をまわす白鼠(しろねずみ)ども――これだけのものを持ってはいったのであるが、もうあきてしまった。
 白鼠の小屋の掃除をするのが、一番たいくつしのぎになる。といっても、これをいくらていねいにしてみても、ものの二十分とはかからない。
 白鼠は、はじめ七ひきであったが、まもなく三びき死んで四ひきとなった。しかしその後はどんどん子鼠が生まれて、一時は五十ぴき近くになった。
 五十ぴきにもなると、食物の関係や、場所の関係があって、それ以上にふやせないことになった。そこでそれ以上にふえると、かわいそうだが、かたづけることにした。
 白鼠の運動を見ているのは、楽しい時もあったが、地球を出発してからもはや百日に近い。白鼠の車まわしに見あきたのもあたりまえだろう。
「ねえ、帆村のおじさん。いったいいつになったら『宇宙の女王(クィーン)』号に追いつくんですか」
「さあ、それはいつだかわからないが『宇宙の女王』号が消息をたった現場まではあと二、三日でゆきつくそうだよ」
「えっ、それはほんとうですか」
 三根夫は、『宇宙の女王』号の姿ばかりを追っかけていた。しかしよく考えてみると、それは今どこにいるかわからない。遭難しないで動いているとしても、あれから四カ月ちかくの日が過ぎたことであるから、その間にどこまで飛んでいったかわからない。
 また遭難してじぶんの力で動けなくなったとしても、地上とはちがうんだから、それから四カ月ものながいあいだ、おなじ空間にじっとしているとは思われない。どの星かの重力にひかれて動いていったことだろう。それもそろそろと動くのではなく、谷間に石を投げ落とすときのように加速度をくわえて飛んでいったかも知れない。
 が、帆村のおじさんの話によって、そこまで探しあてるまえに、遭難地点の附近をしらべる仕事があることに気がついて、三根夫はなんだかきゅうにたいくつから救われたような気がした。あと三、四日で『宇宙の女王』号の遭難地点にたっするとは、なんという耳よりな話であろう。
 三根夫は、いまやすっかりきげんがよくなった。このところさっぱり訪問をしなくなっていたところの操縦室へも、たびたび顔をだすようになった。
 そのかいがあった。
 それは翌日のことであったが、操縦士のところへ遠距離レーダー係から、
「前方に宇宙艇らしい形のものを感ずる、方位は……」
 と知らせてきたので、にわかに艇内は活発になった。
 もちろん隊長テッド博士も操縦室へすがたをあらわし、手落ちなく僚艇へ知らせ、監視を厳重にした。
 艇内では、この話でもちきりだ。
「やっぱり『宇宙の女王』号は、遭難現場附近にいたね」
「どんなことになっているかな。生き残っている者があるだろうか」
「それはどうかなあ。でもみんな死にはしないだろう」
「すると、この附近に『怪星ガン』もうろついていなければならないわけだね」
「カイセイガンて、なんだい」
「こいつ、あきれた奴だ。怪星ガンを知らないのか。『宇宙の女王』号が最後にうってよこした無電のなかに、おそるべき怪星ガンが近づきつつあることを、知らせてきたじゃないか」
「ああ、あれなら知っているよ。『宇宙の女王』号を襲撃した空の海賊――というのもおかしいが、おそるべき宇宙の賊だもの。きみの発音が悪いんだよ」
「あんな負けおしみをいっているよ」
 そんなことをいい合っているうちに、救援隊の九台のロケット艇はどんどん宇宙をのりこえていった。そしてやがてテレビジョンのなかに、かの宇宙艇らしきものの姿が捕えられた。
「おや、これはどうもちがうね。『宇宙の女王』号ではないようだ」
 テッド博士は、誰よりも先に、そういった。
「そうですね。形がちがいますね。もっと横を向いてくれると、はっきりわかるんですが……」
 まもなく、かの宇宙艇は針路をかえて横になった。
「なあんだ。あれはギンネコ号じゃないですか、宇宙採取艇(さいしゅてい)の……」
「そうだ、たしかにギンネコ号だ。救援の電信を受取って、現場へいそいでくれたんだな。なかなか義理(ぎり)がたい艇だ」
「ギンネコ号に聞けば、なにか有力な手がかりがえられるでしょう」
「無電連絡をとってくれ」
 隊長が命令をだした。
 はたしてギンネコ号は、どんなことを伝えてくれるであろうか。『宇宙の女王』号について、ギンネコ号はなにを知っているだろうか。また怪星ガンについてはどうであろう。
 おそるべき魔の空間は近いのだ。いや、じつはもうほんの目と鼻との間にせまっているのだ。
 テッド博士以下、誰がそのことについて気がついているだろうか。ミイラとりがミイラになるという諺(ことわざ)もある。
 怪星ガンの魔力はいよいよ救援隊のうえにのしかかろうとしているのだ。


   宇宙採取艇(さいしゅてい)


 いよいよギンネコ号との距離がちぢまった。
 救援隊長テッド博士は、九台の艇にたいし、全艇照明を命じた。
 この号令が各艇にとどくと、九台の救援艇の全身は光りにかがやいて明かるく巨体をあらわした。つまり艇の外側が、つよい照明によって光りをうけて輝きだしたのである。
 九台の救援艇の編隊群は三つにわかれていたが、このときあざやかに美しくその姿を見せた。各艇の乗組員は、それを見ようとして丸窓のところへ集まり、かわるがわる外をのぞいて僚艇の姿をなつかしがった。
 ああ、もしいま六号艇もこの編隊のなかに姿を見せていたら、どんなにうれしいことだろうかと、ゲーナー少佐をはじめ遭難の六号艇の乗組員だった者は、おなじおもいに胸をいためた。
 それにしてもにくいのは、艇内に時限爆弾を仕掛けていった謎の悪漢(あっかん)だ。きゃつは、どうやら社会事業家ガスコ氏に変装し、松葉杖をつき、緑色のスカーフで顔をかくして、テッド隊長たちをあざむいたのだ。『宇宙の女王(クィーン)』号を助けにゆく救援隊のじゃまするなんて、その悪漢はいったいどんな身柄の人物なのであろうか。
 いま、司令艇のテレビジョンの映写幕のうえには、ギンネコ号のすがたが豆つぶほどの大きさにうつっている。ギンネコ号も、このうちの救援隊のほうへ艇首をむけて走っているのだが、あと一時間しないとそうほうは出会えない。
 映写幕を見あげている人びとの中に、三根夫少年もまじっていた。そばに帆村荘六も、しずかに椅子に腰をおろしていた。
「帆村のおじさん。ギンネコ号は宇宙採取艇なんですってね」
 三根夫が帆村に話しかけた。
 帆村は、少年のほうへふりむいて、だまってうなずいた。
「その宇宙採取艇というのは、どんなことを仕事にするロケットなんですか」
「ああ、それはね」
 と帆村はひくいが、しっかりした声で甥(おい)のほうへ口を近づけて語りだした。
「この宇宙には、わが地球にない鉱物などをふくんだ星のかけらが無数に浮かんでいるんだ。その星のことを、宇宙塵(うちゅうじん)と呼んでいる学者もあるがね、とにかく名は塵(ちり)でも、わが地球にとってはとうといもので、宇宙に落ちている宝と呼んでもいいほどだ。ギンネコ号のような宇宙採取艇はそういう宇宙塵をひろいあつめるのを仕事にしているロケット艇なんだ。これは商売としてもなかなかいいもうけになるし、われわれ地球人にとっては、たいへん利益をあたえるものなんだ。つまり地球にない資源が、宇宙採取艇のおかげで手にはいるわけだからねえ」
「じゃあ、隕石(いんせき)を拾うのですね」
「いや、隕石だけではない。もっといいものがいく種類もある。なかには、まだわれわれ地球人のぜんぜん知らない物質にめぐりあうこともある。たとえばカロニウムとかガンマリンなどは、地球にないすごい放射能物質で、ともにラジウムの何百万倍の放射能をもっている。こんな貴重な物質がどんどん採取できれば、じつにありがたいからね。それを使って人類はすごい動力を出し、すごいことができる」
「そんなら国営かなんかで、うんと宇宙採取艇をだすといいですね」
「うん。だがね、そういう貴重な宇宙塵は、なかなか、かんたんには手に入らないんだ、何千か何万かの宇宙塵のなかに、ひとかけら探しあてられると、たいへんな幸運なんだからね。宇宙採取艇で乗り出すのは、昔でいうと、金鉱探しやダイヤモンド探しいじょうに、成功する率はすくないんだ。宇宙塵採取やさんは、世界一のごろつき連中だと悪口をいわれるのも、このように貴重な宇宙塵を見つけだすことがたいへんむずかしいからだ。まあ、そんなところで話はおわりさ」
 帆村荘六の説明は、三根夫をかなり、ふあんにおとしいれたようであった。三根夫は、眉(まゆ)をよせていった。
「じゃあ、おじさん、これからぼくたちが出会うことになっているギンネコ号も、やっぱり宇宙のごろつきなんですね。すごい連中が乗組んでいるんですね」
 そういうすごい連中と、こんなさびしい宇宙でであうなんて気持のいいことではないと、三根夫は思ったのだ。
 すると帆村がいった。
「いや、宇宙採取艇のみながみな、ごろつきだというわけではない。それにギンネコ号なら、たぶんこのおじさんの知っている鴨(かも)さんという艇長が乗組んでいるはずで、あの人は、けっしてごろつきではない」
 それを聞いて三根夫は、やっと安心した。


   宇宙のめぐりあい


 はてしれぬ広々とした暗黒の宇宙だ。その宇宙のなかの一点においてめぐりあう二組の宇宙旅行者だった。
 救援艇隊では、テッド隊長の命令によって、各艇の外側に照明をうつくしい七色の虹のような照明にかえた。各艇は輪になって、そのまん中にギンネコ号を迎える隊形をとった。
 相手のギンネコ号の方は、そんなはでなことをしなかった。艇首に三つばかりの色のついた灯火(とうか)をつけ、『ワレ、貴隊ニアウヲ喜ブ』という信号をしめしただけであった。そしてひどく型の古い艇身に、救援隊側からのサーチライトをあびながら、輪形編隊(りんけいへんたい)のなかにとびこんできたが、そのかっこうはなんとなくきまり悪そうに見えた。
 ギンネコ号が、いったん救援艇の輪のまん中を通りぬけると、こんどは救援隊はあざやかに大きく百八十度の大旋回をして、ギンネコ号のあとを追った。そしてやがてそれに追いついて、再びまえのようにギンネコ号をまん中にはさみ、救援艇九台がそのまわりをとりかこんだ。
 そうほうのスピードは、ずんと低いところにたもたれた。こういうかっこうでゆっくりと暗黒の宇宙をただよいながら話をしようというのであった。
 隊長テッド博士は礼儀正しい人物であったから、ギンネコ号の艇長にたいし無電をもってていちょうなあいさつを送ったうえ、失踪(しっそう)した『宇宙の女王(クィーン)』号のことについていろいろと貴艇の知っておられるところをおうかがいしたいから、こちらから副隊長のロバート大佐外四名の隊員を貴艇へ派遣することをゆるされたい。そのように申し送った。
 これにたいするギンネコ号からの返事はかなり手間どった。救援隊の若い者は、ギンネコ号にたいし、なぜはやく返事をよこさないのかとさいそくの無電を打ちたがったことは一度や二度ではなかったが、テッド隊長は、まあ、まあ、そう相手をいそがせないほうがよかろうと、さいそくの無電を打たせなかった。
 三十分もしてから、やっとギンネコ号からの返事がきた。
「本艇は、有力な資料をほとんど持っていない。貴隊から使者のくるのはさしつかえない。ただし五名は多すぎるから、三名にしてもらいたい」
 この返事を記した受信紙の周囲にあつまった若い者は、ギンネコ号の無礼にふんがいし、こちらから送る使者のかずに制限をくわえるのはどういうわけかと、ねじこもうと叫んだ者もあったほどだ。だがこれもテッド隊長のことばによってようやくしずまって、それから三名の使者の人選が発表された。
 それによると、第一は副隊長のロバート大佐、第二にポオ助教授。この人は、『宇宙の女王』号の艇長であるサミユルの門下生のひとりだ。それから第三に、みんなを意外におもわせたが、帆村記者がえらばれた。
 これを聞いた三根夫少年は、帆村荘六の横(よこ)っ腹(ぱら)をつっつき、
「おじさんはいいなあ。うらやましいなあ」
 といったが、帆村は笑いもせず怒りもせず、無神経な顔つきで、首を微動もさせなかった。
「それではこれから三名にでかけてもらおう。なにかお土産(みやげ)を持っていってあげたがいいね。新聞と雑誌と、それから果物をいく種類か」
 テッド隊長は、こまかく気をつかった。
 一行はでかけた。
 司令艇の側壁(そくへき)の一部が、するすると動きだしたと思うと、それは引戸のように艇の外廓(がいかく)のなかにかくれ、あとに細長い楕円形(だえんけい)の穴がぽっかりとあいた。
 するとまもなくその穴から、円板(えんばん)のようなものがとびだした。それは周囲から黄色い光りを放ちまるで南京花火(ナンキンはなび)のようにくるくるまわって、闇をぬって飛んだ。
 これは円板式の軽ロケットで、汽船が積んでいるボートにあたるものだ。くるくるまわっているのはその周囲のタービンの羽根のような形をしたところだけで、まん中のかなり厚味のあるところは廻らない。その中にこの円板軽ロケットの乗組員たちや三名の使者がはいっているのだった。
 ぱっぱっと黄色い光りの輪のまわるのを見せながら、円板ロケットは大きい弧(こ)をえがいたあとで、調子よくギンネコ号のうしろから近づいていった。ギンネコ号は知らん顔をして飛びつづけている。しばらくの間、円板ロケットはギンネコ号の下に平行になって飛んでいたが、そのうちに円板ロケットからは、ぽんと引力いかりがうちだされた。
 それは円板の中央あたりからとびだしたものであるが、樽(たる)のような形をし、うしろに丸い紐(ひも)のようなものをひっぱっていた。
 しかしこれを見ると、紐ではなくて伸びちぢみのする螺旋(らせん)はしごであった。その先についている大樽みたいなものは、艇内から送られる電気力によって、相手のギンネコ号の艇壁(ていへき)にぴったり吸いついた。この引力いかりは、すごい吸引力を持っていて、艇内で電気を切らないかぎり、けっして相手から放れはしないという安心のできる宇宙用のいかりであった。
 これでギンネコ号は、側壁の扉を開かないわけにゆかなかった。
 すると円板ロケットの中から、三人の人影があらわれ、やや横に吹き流れた螺旋(らせん)はしごの中を上へのぼっていった。そしてはしごをのぼりつめると、ギンネコ号の横っ腹にあいた穴の中へもぐりこんでいった。
 このありさまは、救援隊の僚艇から集中するサーチライトによって、はっきりと見えた。そしてその三人の人影が、ものものしい宇宙服に身をかためていることも、双眼鏡でのぞいた人々の目にはうつった。


   よくばり事務長


「ものものしいかっこうですが、お許しください」
 円板ロケットから、ギンネコ号の中へ乗り移ったロバート大佐は、うしろにしたがうポオ助教授と帆村とのほうへ手をふりながら、ギンネコ号の人々にあいさつをした。
 そこは三重の扉を通りぬけたあとの、ふつうの大気圧の部屋であったから、ギンネコ号の人たちはふつうのかっこうをしていた。かれらは日本人ばかりではなかった。むしろ日本人はすくなく、その他の国々の人が多く、まるで人種の展覧会のようにも見えた。
「そのきゅうくつなカブトをおぬぎなさい。それからその服も……」
 そういったのは、やせて背の高い白毛の多い東洋人だった。どこからくだに似ている。
「いや、はなはだ勝手ですが、このままの服装でお許しねがいます。脱いだり着たりするのには、はなはだやっかいな宇宙服ですから」
 と、ロバート大佐は釈明(しゃくめい)をしてから、じぶんの名を名乗り、ふたりの随員(ずいいん)を紹介した。そして、
「あなたは艇長でいらっしゃいますか」と聞いた。
 するとらくだに似た東洋人は、首を左右にふって、
「いや、わしは艇長ではありません。事務長のテイイです」
「ははあ、事務長のテイイさんですか。それで艇長に、お目にかかりたいのですが……」
「艇長はこのところ病床(びょうしょう)についていまして、お目にかかれんです。それで艇長はその代理をわたしに命じました。ですからなんなりとわたしにいってください」
 そういうテイイ事務長のことばに、ロバート大佐はふまんの面持でうしろの随員のほうへふりかえった。
「すると、ご持病で苦しんでいられるのですか」
 そういって聞いたのは帆村だった。
「ええ、そうなんです」
 事務長は、するどい目でちらりと帆村の顔をぬすんで答えた。
「胆石病なんですね」
「胆石病――ああ、そうです、胆石病です。あの病気、なかなか苦しみます」
 事務長のことばに、なぜかあわてたようなところがあった。
 そこでロバート大佐は『宇宙の女王』号のことについて、事務長の知っているかぎりのことを話してくれとたのんだ。
「当局からの依頼の無電によって、わがギンネコ号は、ばくだいなる損失をかえり見ず、指定されたその現場へ急行したのです。それには正味(しょうみ)三十五日かかりましたよ。しかもそれからこっちずっとこのあたりを去らないで、あなたがたのおいでを待ったわけですから、本艇はじつに二百日に近いとうとい日数を、なんにもしないでむだにおくったのです。この大きな損失は『宇宙の女王』号の持主か当局かがかならず弁償(べんしょう)してくれるんでしょうね」
 テイイ事務長の話は、女王号のことから離れて、じぶんの艇のうけた損失にたいするつぐないを要求する強い声にかわった。
 ロバート大佐は、不快をしのんで、それはとうぜん弁償されるでありましょうと答え、そしてこのギンネコ号が現場へきて何を見たかについて話してくれるよう頼んだ。
「それは話さんでもないがね、弁償のことが気になってならんのだ」
 と事務長はうたがいぶかい目で大佐を見すえてから、
「この現場へきたが、わたしたちは『宇宙の女王』号の姿を発見することができなかったし、そのほか、その遺留品(いりゅうひん)らしい何物をも見つけることができなかったのです。といって、けっして捜査の手をぬいたわけではない。いく度もいく度も、おなじところをくりかえし探したのだが、さっぱり手がかりなしだ。まことにお気の毒です」
 この話によると、ギンネコ号は何の手がかりをもつかんでいないことになる。大佐の失望は大きかったが、気をとりなおし、
「レーダー(無電探知器)で探してみられなかったですか」と聞いた。
 すると事務長は、ぴくりと口のあたりを動かし、ちょっといいよどんだ風に見えた。
「レーダーによっても手がかりなしだった。しかし大佐どの。われわれはレーダーを倹約したのではなく、当局から捜査依頼のあった日からきょう貴隊にあうまでの二百日ほどの長期間にわたって、レーダーを一秒間たりとも休めないで捜査をつづけたのですぞ。そのけっか、本艇では高価なるブラウン管を二十何本、いや三十何本かを、とにかくたくさんのブラウン管をだめにしてしまった。この代価もぜひとも払ってもらわねばしょうちできんです」
 どこまでいっても、よくばった話ばかりであった。


   黒バラの目印(めじるし)


 大佐は随員と協議した。
 とにかく、きょうはこれで引きあげることにしようではないかと決まった。
 そこで帆村から、お土産の贈り物である新雑誌[#「新雑誌」は底本のママ。文脈からは「新聞と雑誌」と思われる。]と果物のかごとを事務長にわたして、席を立った。
 このとき事務長は、喜びの顔をするまえに、ふあんな目つきで新聞のページをぱらぱらとめくった。
「では事務長。またおじゃまにあがるかもしれませんから、よろしく。なお、今から二十四時間は、ぜひともいっしょに漂泊(ひょうはく)していただきたいのですが、――これは国際救難法にもとづいての申し入れなんですが、もちろんごしょうちねがえましょうね」
 ロバート大佐は、最後の重要事項をあいてに申し入れた。
「本艇の行動は自由です。しかしいまの件は、わたしがしょうちしました。二十四時間たったあとは、どうするかわかりませんよ。もっとも本艇はできるだけ貴隊の捜査に協力する決心ですから安心してください」
 テイイ事務長は、このように答えた。
 これで会見はおわって、三人の使者は引きあげたのだが、そのとちゅうで、どうしたわけかポオ助教授が「あっ」と声をあげた。
 すると、帆村が、
「これは失礼。うっかりして足を踏んで、すみません。どうもすみません」
 と、助教授のからだを抱えるようにして、ひらあやまりにあやまった。
 まもなく三重扉であった。それを一つ一つ開いてもらい、気圧の階段を通りぬけて三名は外に出、螺旋はしごを下りて円板ロケットの中へかえりついた。
 機関員たちは、螺旋はしごの電気を切り、はしごを中へとりこんだ。そのときには、円板ロケットはすでにギンネコ号の艇壁からはなれて、また周囲に火花のような光りを散らしながら、暗黒の空を大きく切って飛んでいた。
 円板ロケットのなかで、三人の使者がめいめいの席についたとき、
「帆村君。さっきはどうしたの。ぼくのほうがおどろいたよ」
 と、ポオ助教授が、待ちかねたという顔つきで、そういった。
 帆村はにやりと笑った。
「あのようにしないと、相手にかんづかれるおそれがあったからです。ポオ助教授。あなたは、あのときギンネコ号の室内に意外なものを発見して、おどろきの声をあげられたのですね」
「ほう。これは気がつかなかったが、いったいどういうことかね」
 ロバート大佐が、からだをまえに乗りだしてきた。そのときポオ助教授は、椅子にふかくもたれて、さっきのことを思い出そうとつとめるのか、しばらく目をとじていたが、やがて目を開いて、意外なことを語りだした。
「まったく帆村君の想像のとおり、ぼくは意外なものをあの部屋のなかで見つけたのです。それは発光式の空間浮標(ブイ)です。はじめその上にカンバス布(ぬの)がかけてあって見えなかったのですが、ぼくたちが帰るとき、テイイ事務長の身体がカンバスにさわって、その布が動いて横にずれた。それで下にあった空間浮標が見えたんです」
「ほう。それはもしや『宇宙の女王(クィーン)』号のものじゃなかったのか」
 大佐は先をいそいで、質問の矢をはなつ。
「そうなんです、あの器具は、ぼくが五十箇だけ用意をして女王号にとどけたんです。そしてそれに書きこんでおいたしるしは、黒いバラの花でした。さっきぼくが見たとき、カンバスの下から出ているあの浮標のうえに、たしか、その黒いバラのしるしのあるのをみとめました」
 この話は、大佐をおどろかした。
「すると、ギンネコ号は、女王号の空間浮標をひろって、知らぬ顔をしているんだな」
「そうなりますね。ごしょうちでしょうが、あの空間浮標は、宇宙の一点にいかりをおろしたように動かないで、その一点をしめす浮標なんですが、しかしもう一つの使い道があります。それは遭難したときなど、その遭難現場を後からきた者に教える役もします。そういうときには、艇から外へほうりだすまえに、重大な遺書を中へ入れるのがれいになっています」
「では、ギンネコ号は、女王号の遺書をぬすんで、知らん顔をしているのか。じつにけしからんことだ。いったい、なぜこんなことをするのか。よし、これから引き返して持ってこよう」
「まあ、お待ちなさい、ロバート大佐」と、帆村は大佐をとめた。
「だが、このまま本艇へもどっては、わたしの責任がはたせない」
「いやいや、相手はとってもすなおにもどすとは思われません。というのは、あのギンネコ号にはゆだんのならぬ連中が乗組んでいると思われるからです。とても一筋縄(ひとすじなわ)ではゆきますまい」
「しかし帆村君。きみの知っている人格者が艇長をしているという話だったじゃないか」
「そうなんですが、その鴨(かも)艇長がきょうは姿を見せなかったのですから、ふしぎです。かれは病気でも、こんな重大なときには、われわれを病床へでも迎えて、会うほどの責任感の強い人物なんです。それがきょうはでてこないのですから、ゆだんはなりません」
 帆村のことばが、たしかめられる時がまもなくくるのだ。あやしむべきギンネコ号の行動。
 ギンネコ号と怪星ガンとは、なにか関係があるのであろうか。


   残念がる助教授


 ポオ助教授は、司令艇へ帰ってきても、こうふんをつづけていた。
 帆村荘六は、助教授をなだめるのに一生けんめいだった。三根夫少年は、三人の使者がかえったと知って帆村のところへとんできたが、その場のようすに、三根夫自身も息のつまるような緊張をおぼえたことであった。この息づまるような空気は、救援隊長テッド博士をまん中にした幹部会議の席にまでもちこまれた。
 三人の使者のなかで、一番上席のロバート大佐が、ギンネコ号に使いにいったけっかわかったことについて、一通りの説明をし、そのあとでポオ助教授の肩へ手をおいて、
「……そこでポオ助教授から、見おぼえのある『宇宙の女王(クィーン)』号の空間浮標(ブイ)がギンネコ号の隅にあったことについて、くわしく話をしてもらおう。ポオ君、おちついて話したまえ」
 と、助教授に発言をうながした。
 待っていましたとばかり、助教授の長身が席からぬっくと立ちあがった。
「あれは、わたしが試験して『宇宙の女王』号へ届けた空間浮標にちがいないのです。形も見おぼえがあり、塗りの色もそうでしたし、さらにまちがいないことは黒バラの目印がついている。黒バラは、『宇宙の女王』号のマークなんですからねえ」
 助教授はそういって、卓子(テーブル)のうえを、とんと一つたたいた。ならんでいる人たちの中には、大きくうなずく者もあった。隊長テッド博士は上半身をまえへのりだした。
「そういうたしかな証拠があるかぎりは………」
 とポオ助教授はいよいよこうふんの色をしめし、
「ギンネコ号はうそをついていると断定しないわけにはいかない。ギンネコ号は、現場へかけつけたが『宇宙の女王』号を一度も見なかったといっている。うそです、それは。……ギンネコ号はたしかにわが『宇宙の女王』号に出会っている。あるいはその漂流物かもしれないが、それを手に入れている。しかし相手はそれを白状しないのです。まったく、許しておけないゴロツキどもです」
 幹部たちには、助教授のことばの中にある重大性がよくわかった。
「だからです」とこのときポオ助教授はロバート大佐のほうを指し、
「なぜわれわれがギンネコ号のなかにいる間に、あなたはそのてんについて、相手に質問してくださらなかったのか。まったく、大事な機会を逃がしたと思う。あのとき問いただせば、なまずみたいにぬらりくらりしたテイイ事務長といえども、顔色をかえて、泥をはくしかなかったと思う。しかるに大佐は、それをしなかった」
 助教授のとなりにいた帆村が立って、隊長に発言の許可をえたのち、口をひらいた。
「いまポオ助教授が大佐にたいしふまんをのべられましたが、それについて、じつはわたしも責任があります。それはわたしは『空間浮標』のことは、われわれが知らないでギンネコ号を引きあげていったと、相手に思わせる必要があると思ったからであります。もし、それをいいだせばギンネコ号の連中は、ロバート大佐をはじめわたしたち三名を、やすやすと引きあげさせなかったでしょう。わたしはギンネコ号が、秘密をもったいやな宇宙艇であることを、艇内にはいると同時にさとったのです」
 帆村は、横の椅子に腰をおろしたポオ助教授を気の毒そうにながめながら、
「ですから、ポオ助教授が、あの黒バラ印の空間浮標を見つけて、おどろきのあまり声をたてようとされたとき、それをさせてはたいへんと、わたしは失礼をもかえりみず、ポオさんの足を踏み、それをわたしがおわびするさわぎでもって、ポオさんがおどろきの声をあげたのをごまかしてしまったのです。いや、助教授、あのときは失礼いたしました」
 そういって帆村はわびた。
「……それからわたしはいそいでこのことを大佐に知らせ、そしてこの場は、知らんふりをして引きあげるのがいいと思うと申しあげようとしたんですが、さすがに大佐は、さっきからのことも、またわたしの申しあげようとしたこともさとっておられ、余(よ)にまかせておけと合図をされたのです。ですからポオ助教授のふんがいされることはもっともながら、いま申しあげた事情によって、どうかわかっていただきたい」
 と、帆村はあいさつをして、席にもどった。
 助教授は、まだじゅうぶんにのみこめないといった顔だ。
 そのとき隊長テッド博士は、あらたまった口調になって、次のとおりのべた。
「このたびの処置は正しかったと思う。そしてギンネコ号にたいしては、いろいろと対策をかんがえておかなければならない。そして黒バラ印の空間浮標の一件については本国へ向かっての報道を禁止する。事態は重大である」
 この部屋の隅で傍聴をしていた三根夫も、このとき思わず身ぶるいがでた。たがいに助けあう友だちの艇と思ったギンネコ号が、意外にもゆだんのならないゴロツキ艇であるらしく、それが身ぢかにいる間は、いつこっちに害をくわえるかもしれず、ほかに警察力もないこの宇宙の一角において、生き残りの九台の救援艇隊にふりかかる運命は、どんなにきびしいものであろうかと心配されるのだった。


   ギンネコ号離脱(りだつ)


 その夜、帆村と上下のベッドにはいった三根夫は、上のほうから下へ声をかけた。
「ねえ、帆村のおじさん。ギンネコ号はゆだんのならないゴロツキ艇だってね」
「まあ、そうとしか思えないね」
 帆村の返事は、ぶっきら棒だ。なにか帆村は考えごとをしていたにちがいない。そこへ三根夫が声をかけて、じゃまをしたから、帆村はぶっきら棒の返事をしたのであろう。
「でも、まえにおじさんは、あの船には鴨(かも)艇長がのっている。鴨艇長はいい人だから、あの宇宙艇はいい人ばかり乗っているんだろうといったでしょう。おぼえているでしょう。その話とゴロツキ艇の話とは正反対ですね」
「そのことだ」と帆村は低くうなるようにいった。
「とにかく鴨艇長が乗っているかぎり、正義と親切の艇であるはずだ。だからおかしい。艇長は病気をしているとテイイ事務長の話だったが、病気をしているくらいで、乗組員があんなゴロツキみたいに悪くなるはずはないんだがなあ」
「ギンネコ号は、『宇宙の女王(クィーン)』号の遺留品をしこたまひろって、知らん顔をしているんじゃないですか。そういうことをするのを、『猫ばばをきめる』というでしょう。なまえがギンネコだから、きっとネコばばをするのはじょうずなんだろう」
「ははは。ギンネコだからネコばばはじょうずか。これは三根夫クン[#「三根夫クン」は底本のママ。文脈上からは「ミネ君」(前出)もしくは「三根クン」(後出)が妥当と思われる。]、考えたね。ははは」
 笑わないことひさしい帆村がかるく笑ったので、三根夫もうれしかった。
「とにかくもうすこしギンネコ号のようすを見たうえで、『宇宙の女王』号とどんな関係にあるかをつきとめるしかない。そうだ、もう一度テッド博士にご注意をお願いしてこよう」
 そこで帆村は、またベッドから起きあがると、服を着かえて、隊長のところへでかけた。
 さてその夜のことであるが、救援艇隊はひそかにギンネコ号の行動を監視していた。
 監視といってもテレビジョンでのぞいているのを主とし、そのほかに、ほんのわずかだけ弱いレーダー電波をギンネコ号にむけて、その位置を注意していた。レーダー電波を、あまり強くかけると相手が気をわるくする。ことにギンネコ号をおこらせ、現場から遠くへ離脱(りだつ)するこうじつを相手にあたえてはこっちの大損であるから、電波でギンネコ号をさぐることはなるべく目だたないようにしていた。
 夜にはいって一時間ほどすると、(時計の針のうえだけでの夜だ、その時間には当直のほかはみんな睡(ねむ)ることにしていた)当直の監視員がさわぎだした。
「たいへんです。ギンネコ号がわれらの艇団からはなれてゆきます」
 まずはじめに、テレビジョンでそれを見つけた。すぐさまレーダーでも探知してみると、なるほどギンネコ号は、さっきまでこっちの九艇の中心あたりにいたのに、いまはどんどん前進してそこからはなれていく。
「うむ。たしかにギンネコ号は動きだした。国際救難法により二十四時間は救援隊から離脱できないことになっているのに、ギンネコ号は、法規をやぶるつもりか」
 このことは、すぐさま幹部にまで報告された。隊長テッド博士をはじめ、みんな起きてきた。そして協議がはじまった。
「法規にはんするから、ギンネコ号に反省をもとめようか」
「まあ、もうすこしようすを見てからにしたほうがいい」
 隊長は、そういって、ふんがいする部下たちをおさえた。
 ところがギンネコ号は、だんだんに速度をはやめて、はなれてゆく。刻々おたがいの距離はひらいていった。
 時計をじっと見ていた隊長は、三十分して無電でもってギンネコ号に連絡させた。
 それにたいしてギンネコ号は、返事をうってこなかった。
 それから三十分して、テッド隊長は、いよいよたがいの距離を大きくしたギンネコ号にたいし法規をたてに、警告をこころみた。
 ところが、それにたいしてもギンネコ号は返事をしてこなかった。そしてますます速度をまして、こっちの救援隊の位置からはなれていった。
 救援隊員のなかには、ひどくおこりだして隊長はすぐ全艇に命令をだし、最高速度でギンネコ号のあとを追わせるべきだと論じた。最高速度で追いかけるなら、追いつける自信がじゅうぶんにあった。
 だが隊長は、それを命令しなかった。
 ギンネコ号が、こっちへ返事の無電をうってきたのは、五回目の警告のあとだった。その返事は、人をばかにしたようなものだった。
「本艇は、貴艇団のまん中において安眠することができない。また、いうまでもなく、本艇の行動は自由である。されど貴艇団にやくそくする、明日九時、本艇はふたたび、貴艇団のまん中へ引きかえすであろう。ギンネコ号艇長」
 貴艇団のなかでは安眠することができないとは、よくもぬけぬけといえたものである。


   錫箔(すずはく)のかべ


 それにしても、この返事がギンネコ号から発せられたので、救援隊としては、これいじょうに文句がいえない。で、そのままにして、引きつづきギンネコ号の位置に気をつけていることにした。
 そしてテッド博士以下の幹部も、またベッドへかえった。
 帆村荘六はベッドにかえらなかった。そして監視班の当直がつめている部屋の中へはいった。三根夫少年も、帆村につよくねだって、そのうしろへついていった。
 四名で当直をしていた。
 テレビジョンへ一人、レーダーへ一人ついていた。あとの二人のうち、一人は電源などに気をつけていたし、もう一人は記録をとっていた。
「たいへんですね。なにかあれば、ぼくと三根夫が伝令になって、隊長でも誰でも起こしてきますからね」
 と、帆村は当直の人びとにいった。
 あいかわらずギンネコ号は、遠くへはなれつつあった。
「帆村のおじさん。ギンネコ号は、うまいことをいって、にげてしまうんじゃない」
 三根夫は心配でしかたがなかった。
「さあ、何ともはっきりしたことはいえないが、さっきあのように返事をよこしたんだから、まさかほんとうににげはしまい」
 そう答えた帆村も、レーダー手が新しい距離を測定してそれを曲線図にかいたのを見るたびに心配に胸がいたんだ。
 それは十二時近くであった。
「あッ、たいへんだ」
 と、レーダー手が、おどろきの叫び声をあげた。
 帆村はすぐ椅子からとびあがって、レーダー手のところへいった。
「どうしたんですか」
 するとレーダー手は、ブラウン管の膜面におどるエコーの映像を指してダイヤルをまわしながら、
「これごらんなさい、ギンネコ号がおびただしい電波妨害用の金属箔(きんぞくはく)をまきちらしたようです。このへんいったい、そうとうひろく、エコーがもどってきます」
「なるほど。とうとうみょうなことをはじめたな」
 ギンネコ号がまきちらしたらしい電波妨害用の金属箔というのは、よく飛行機などが敵の戦闘機に追いかけられたとき空中にまきちらす錫箔(すずはく)などをいう。これをまくと、レーダーの電波は錫箔にあたって反射し、レーダー手のところへかえってくる。そしてそのむこうにいるかんじんの飛行機は、空中にひろがる錫箔のかげを利用して、うまくにげてしまうのである。
 だからギンネコ号がそれをまけば、かなりひろい空間にわたって錫箔のかべができてしまい、ギンネコ号はそのかべの向うでにげてしまうことができる。つまり、こっちがその錫箔のかべをむこうへつきぬけないかぎり、とうぶんレーダーは何のやくもしなくなるのだった。
 テレビジョンの方も、視界がうんと悪くなって、ギンネコ号の姿を見うしなってしまった。
 まさに一大事である。
 やっぱりギンネコ号はにげるつもりだったんだな。
 帆村は隊長テッド博士のところへとんでいって、きゅうをつげた。
「ふーむ。これはもうほうっておけない」
 隊長はついに命令を発し、救援艇の第三号と第五号と第七号の三台に、全速力をもってギンネコ号のあとを追いかけ、電波妨害用の金属箔のむこうへ出、状況をよく見て報告するようにと伝えた。
 そこで三台のロケット艇は、隊列からぬけると、うつくしい編隊を組んで、ギンネコ号のあとを追いかけた。
 だが、彼(かれ)と我(われ)との距離は、いまはもうかなりへだたっていた。だからこの三台の追跡隊が、金属箔のかべのところまでいくには、四時間もかかって、午前五時となった。
 ようやく金属箔のかべをつきぬけたのはいいが、そのむこうにまた金属箔のかべがあった。何重にも、それがあったのである。だからそのうるさいかべの全部をつきぬけるには、それからまた二時間もかかった。
「何かご用でもありますか。いそいで本艇を追っかけておいでになったようだが……」
 とつぜん追跡隊へ無電がかかってきて、ギンネコ号からのいやみたっぷりな問いあわせであった。
「ええッ」
 といって、追跡隊の人たちも、この返事にはつまった。じつに間のわるい話であった。
 こっちをからかいながら、ギンネコ号は、いぜんとはうってかわって、いやにきげんがいい。
 ふしぎなことであった。


   覆面(ふくめん)の怪人物


 さすがのテッド博士以下の救援隊幹部も、また名探偵といわれたことのある帆村荘六も、ギンネコ号がひそかにやってのけたはなれ業(わざ)には、まだ気がついていない。
 そのはなれ業のことを、ここですこしばかり読者諸君にもらしておこうと思う。
 ギンネコ号が金属箔のかべを作ったあとのことであるが、流星かと見まごうばかりの快速ロケットが、救援隊とは反対の方向からギンネコ号にむかってどんどん距離をちぢめてくるのが、ギンネコ号にわかった。
 テイイ事務長などは、そのしらせを受けると、大満悦(だいまんえつ)であった。そしてギンネコ号を、そのほうへ最高速力で近づけるとともに、うしろにはたえずレーダー妨害用の金属箔の雲をまきちらした。
 快速ロケットはだんだん接近し、午前三時半頃には、ついにギンネコ号といっしょになった。たくみなる操縦によって、その快速ロケットは、ひらかれたるギンネコ号の横腹(よこはら)のなかに収容されたのであった。
 見かけは古くさいギンネコ号には、意外に高級な仕掛けがあったのだ。
 そしてこの快速ロケットは、銀色の葉巻のような形をしたもので、全長はギンネコ号の十何分の一しかなく、せいぜい一人か二人乗りのロケットらしかった。
 テイイ事務長に迎えられて、快速ロケットのコスモ号から姿をあらわしたのは、身体の大きな緑色のスカーフで顔をかくした人物だった。
「間にあったんだろうな」
 その覆面の人物は、きいた。
「はあ、見事におまにあいになりました。やっぱり親分はたいしたお腕まえで……」
「これこれ、親分だなんていうな。きょうからスコール艇長とよべ。おおそうだ。艇長室はきれいになっているだろうな」
「はいはい。それはもうおいでを待つばかりになっております。ええと……スコール艇長」
 スコール艇長はマフラーの中で顔をゆすぶって笑った。
「よし、満足だ。安着祝(あんちゃくいわ)いに、みんなに一ぱいのませてやれ」
「え、みんなに一ぱい?」
「おれの乗ってきたコスモ号のなかに、酒はうんとつんできてやったわい」
「うわッ、それはなんとすばらしい話でしょう。さっそくみんなに知らせてやりましょう」
「ちょっと待て。顔の用意をするから、おまえもうしろを向いてくれ」
 やがて、もうよろしいと、スコールの声に、テイイ事務長がふりかえってみると、そこには顔全部が灰色の髭(ひけ)にうずまったといいたいくらいの人のよい老艇長がにこにこして立っていた。
「あッ」と事務長はおどろいた。
「ふふふ、これならおれだという事はわかるまい。重宝(ちょうほう)なマスクがあるものだ」
 このへんでおさっしがついたことであろうが、快速ロケットのコスモ号で今ここについたスコール艇長こそ、社会事業家のガスコ氏によく似ており、またスミス老人が宇宙の猛獣使いと呼んだ怪人物にもよく似ていた。
 いや似ているどころか、まさにその人であったのである。
 素性(すじょう)ははっきりわからないが、どうやらすごい悪漢(あっかん)らしい。救援隊の第六号艇を爆破させたのも、またほかの僚艇に時限爆弾をなげ入れていったのも、この人物のやったことである。
 何故(なにゆえ)に、かれスコール艇長は、そのようなひどいことをするのか。またかれのいまかぶっている仮面(マスク)の下には、どんな素顔があるのか。それはともに一刻もはやく知りたいことではあるが、もうすこし先まで読者のごしんぼうをお願いしなくてはならない。
 さて、朝の午前九時から、ギンネコ号は針路をぎゃくにして、救援艇隊の主力が向かってくるほうへ引っかえしていった。
「なあんだギンネコ号はやくそくどおり、ちゃんと引っかえしてきたじゃないか」
 テッド隊長も、気ぬけがしたように、近づくギンネコ号の姿を見て、指先をぴちんと鳴らした。
「きょうはひとつわしがギンネコ号へでかけて、れいの空間浮標の件をかたづけてしまう。帆村君、きみもついてきてくれ」
 なにも知らないテッド博士は、そんなことをいって、きげんがよかった。その日こそ、じつは驚天動地(きょうてんどうち)の一大事件が救援艇隊のうえに襲いかかろうとしているのに、まだ誰もその運命に気がついていないらしい。あぶない、あぶない。


   宇宙線レンズ


 ギンネコ号の事務長テイイは、じぶんの机のまえで、うつらうつらしていた。昨夜らいのガスコ氏いや、いまではスコール艇長のもってきたふるまい酒をのみすぎて、ねむくてたまらないのだった。
「事務長。ちょっとこっちへきてもらいたいね。相談したいことがある」
 いきなり戸があいて、ひげだらけの老人がはいってきた。スコール艇長だった。
「はい。ただ今」
 事務長テイイは、ともかくもへんじだけをして椅子からとびあがったが、よろよろとよろけて足を机の角(かど)でうって、ひっくりかえった。
「事務長。だらしがないね。きょうはさっそく重大行動をとらねばならないのに、そんなふらふらじゃ困るね。よろしいわしがすぐなおしてやる」
 そういったかと思うと、スコール艇長はいきなり事務長のえりがみをつかんでかるがると宙吊(ちゅうづ)りにした。そしてとなりの浴室の戸をあけて、中へつれこんだ。
 それからしばらく、生理的なテイイの声がげえげえと聞こえていたが、そのあとで水がばちゃばちゃはねる音がした。と、戸があいて艇長が事務長を猫の子のようにぶらさげてあらわれ、長椅子のうえにほうりだした。
 テイイが死にかかっているようにぐったりしていると艇長はどこから取り出したか、いばらの冠(かんむり)みたいなものを手に持って事務長の頭にかぶせた。そしてその冠のうえについている目盛盤をうごかした。すると事務長は、電気にふれたように、ぴくッとなり、棒立ちになってとびあがった。かれの頭髪は箒(ほうき)のように一本一本逆立ち、かれの目は、皿のように大きく見ひらかれている。
「あ、あ、あ、あ、あッ」
 かれは唇をぶるぶるふるわせたあとで大きいくしゃみを一つした。するとかれの頭から冠がぽんとはねあがった。スコール艇長はそれをすばやくじぶんの服の中にかくしてしまった。
「ふふふ。人間というやつは、あわれなもんだて、脳や神経の生理について、なんにも知っていない。ふふふ」
 艇長ははや口で、ひとりごとをいった。
「艇長、いまなにかおっしゃいました」
「おお、きみの気分はよくなったかと聞いたんだ」
「そうでしたか。おかげさまで、気分がはっきりしました」
 事務長は、そういって満足してしまった。もしスコール艇長のあのひとりごとを、他の人間が聞いていたら、さぞふしんに思ったことであろうに。
 そこで事務長は、怪艇長のうしろにしたがって、艇長室へはいった。ふたりは、せまいが、ふかぶかとした弾力のつよい椅子に腰をおろして向きあった。その椅子は重力に異常のあったときに、からだを椅子にしばりつけるための丈夫なバンドがひじかけのところについているものだった。
「さて、事務長。あのテッド博士のひきいる残りの九台の救援ロケットは、すこしもはやく破壊してしまわなくてはならない」
「はあ、なるほど」
 あんまりはっきりした話なので、さすがの古狸(ふるだぬき)のテイイ事務長も、かんたんな返事しかいえなかった。
「わしがこんど持ってきた器械に、宇宙線レンズというのがある。これは太陽をはじめ、他の大星雲などからもとんでくる強烈な宇宙線を、みんな集めてたばにするんだ。そうしてたばにした宇宙線を、地球じょうで一番かたい金属材料としてしられているハフニウムG三十番鋼(こう)にかけると、どんな場合でも、まず百分の一秒間に、まっ赤に熱し、たちまち形がくずれてどろどろになり、そしてつぎの瞬間に全体が一塊のガス体となって消え失(う)せる。どうだ、宇宙線レンズはすごい力を持っているだろう」
「へへえッ、それがほんとうなら、大した破壊力を持っていますね」
「破壊力だけで感心してはいけない。またかなり遠方まできくんだ。原則からいうと、無限大の距離でもとどくんだが、まだすこし集めて一本にする技術が完全というところまでいっていないので、まず、四、五千メートル以内なら有効にはたらく」
「四、五千メートルまでなら、じゅうぶん使い道がありますよ。やくに立ちます」
「やくに立たないものなんか、わしは持ってこない。
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