三十年後の世界
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著者名:海野十三 

「いや、ちがいました。これは本物の海の中をのぞいているのですね」
 遠くまで見えた。こんな大きな水族館の水槽はないであろう。
「お分りでしたね。つまりこのように、わが国は今さかんに海底都市を建設しているのです」
「海底都市ですって」
「そうです。海底へ都市をのばして行くのです。また海底を掘って、その下にある重要資源を掘りだしています。大昔も、炭鉱で海底にいて出るのもありましたね。
ああいうものがもっと大仕掛になったのです。人も住んでいます。街もあります。海底トンネルというのが昔、ありましたね。あれが大きくなっていったと考えてもいいでしょう」
 正吉は海底都市から出かけて、ふたたび上へあがっていった。
 とちゅうに停車場があって、たくさんの小学生が旅行にでかける姿をして、わいわいさわいでいた。
「あ、小学生の遠足ですね。君たち、どこへ行くの」
「カリフォルニアからニューヨークの方へ」
「えっ、カリフォルニアからニューヨークの方へ。僕をからかっちゃいけないねえ」
「からかいやしないよ。ほんとだよ。君はへんな少年だね」
 正吉は、やっつけられた。
 そばにいた区長がにやにや笑いながら、正吉の耳にささやいた。
「ちかごろの小学生はアメリカやヨーロッパへ遠足にいくのです。この駅からは、太平洋横断地下鉄の特別急行列車が出ます。風洞(かざあな)の中を、気密(きみつ)列車が砲弾(ほうだん)のように遠く走っていく、というよりも飛んでいくのですな。十八時間でサンフランシスコへつくんですよ」
「そんなものができたんですか。航空路でもいけるんでしょう」
「空中旅行は、外敵(がいてき)の攻撃を受ける危険がありますからね。この地下鉄の方が安全なんです。なにしろ巨大なる原子力が使えるようになったから、昔の人にはとても考えられないほどの大土木工事や大建築が、どんどん楽にやれるのです。ですから、世界中どこへでも、高速地下鉄で行けるのです」
「ふーン。すると今は地下生活時代ですね」
「まあ、そうでしょうな。しかし空へも発展していますよ。そうそう、明日は、羽田空港から月世界探検隊が十台のロケット艇(てい)に乗って出発することになっています」
 正吉は大きなため息をついてひとりごとをいった。
「三十年たって、こんなに世界や生活がかわるとは思わなかったなあ。こんなにかわると知ったら、三十年前にもっと元気を出して、勉強したものをねえ」
 あとで分った話によると、例のモウリ博士は月世界探検に行ったまま、遭難(そうなん)して帰れなくなっているということだ。こんどの探検隊が、きっと博士を救い出すであろう。


   宇宙探検隊


 正吉は、その日以来、宇宙旅行がしてみたくてたまらなくなった。
 三十年前、やがて月世界へ遊覧(ゆうらん)飛行ができるようになるよと予言する人があったら、その人はみんなから、ほら吹きだと思われたことであろう。それが今は、ほんとに出来るのだという。なんという進歩であろう。
 正吉は、そのことを東京区長のカニザワ氏と、大学病院のサクラ女史とに相談してみた。すると二人は、そういうことはカンノ博士にたのむのが一番いいであろうと教えてくれた。
 そうだ、カンノ博士。
 博士とは、しばらくいっしょにならないが、カンノ博士こそは、正吉少年を冷凍球(れいとうきゅう)から無事にこの世へ出してくれた恩人の一人で、有名な生理学の権威(けんい)である。
「ほんとに行きたいのかね、正吉君」
 カンノ博士は、人のよさそうな笑顔で、正吉を見まもった。
「ぜひ行きたいのです。三十年のながい間、ぼくは眠っていて、知識がうんとおくれているのです。ですからこんどは、今の世の中で、一番新しいものを見て一足(いっそく)とびに学者になりたいのです」
 正吉は、子供らしい欲望をぶちまけた。
「ほんとに学者になるつもりなら、一足とびではだめだよ。こつこつと辛抱づよくやらなければね。宇宙旅行だってそうだ。見かけは花々しく見えるが、ほんとうに宇宙旅行をやってみれば、はじめから終りまで辛抱競争(しんぼうきょうそう)みたいなものだ。ちっともおもしろくはないよ」
 カンノ博士のことばは、じつに本当のことであったけれど、正吉には、博士が正吉の宇宙旅行を思いとどまらせようと思って、つらいことばかり並べているのだと思った。
「ぼくは辛抱するのが大好きなんです。三十年も冷凍球の中に辛抱していたくらいですからね」
「ああ、そうか、そうか、それほどにいうのなら、連(つ)れていってやるかな」
「えっ、今なんといったんですか」
 正吉はあわててたずねた。カンノ博士は、いよいよニヤニヤ笑顔になって正吉を見ていたが、やがて口を開いた。
「じつはね、私たちはこんど、かなり遠い宇宙旅行に出かけることになった。お月さまよりも、もっと遠くなんだ。早くいってしまえば火星を追いかけるのだ。そのような探検隊が、一週間あとに出発することになっているが、君を連れていってやっていい」
「うれしいなあ。ぜひ連れてって下さい」
「しかし前もってことわっておくが、さびしくなったり、辛抱(しんぼう)が出来なくなって、地球へぼくを返して下さい、なんていってもだめだよ」
「そんなこと、誰がいうもんですか」
 正吉は、胸を張(は)ってみせた。
「大丈夫かい。それから火星を追いかけているうちに、火星人のためにわれわれは危害(きがい)を加えられるかもしれない。悪くすればわれわれは宇宙を墓場(はかば)として、永い眠りにつかなければならないかもしれない。つまり、火星人のため殺されて死ぬかもしれないんだが、これはいやだろう。見あわすかい」
「いや、行きます。どうしても連れてって下さい。たとえそのときは死んで冷たい死骸(しがい)になっても、あとから救助隊がロケットか何かに乗って来てくれ、ぼくたちを生きかえらせてくれますよ。心配はいらないです」
「おやおや、君はどこでそんな知識を自分のものにしたのかね。たぶん知らないと思っていったのだが……」
 カンノ博士は小首をかしげる。
「先生は忘れっぽいですね。この間、大学の大講堂で講演なさったじゃないですか。――今日外科(げか)は大進歩をとげ、人体を縫合(ぬいあわ)せ、神経をつなぎ、そのあとで高圧電気を、ごく短い時間、パチパチッと人体にかけることによって、百人中九十五人まで生き返らせることが出来る。この生返り率は、これからの研究によって、さらによくなるであろう、そこで自分として、ぜひやってみたい研究は、地球の極地に近い地方において土葬(どそう)または氷に閉(とざ)されて葬られている死体を掘りだし、これら死人の身体を適当に縫合わして、電撃生返り手術を施(ほどこ)してみることである。すると、おそらく相当の数の生返り人が出来るであろう。中には紀元前何万年の人間もいるであろうから、彼らにいろいろ質問することによって、大昔のことがいろいろと分るであろう。そんなことを、先生は講演せられたでしょう」
「ハハン。君はあれをきいていたのか」
「きいていましたとも、だから、もう今の世の中では、死んでも死にっ放しということは、ほとんどないことで、死ぬぞ、死んだらたいへんだ、なんて心配しないでよいのだと、先生の講演でぼくは分ってしまったんです。ですから連れてって下さい」
「よろしい。連れていってあげる」
「ウワァ、うれしい」
 正吉はよろこんで、カンノ博士にとびついた。


   新月号(しんげつこう)離陸


 やっぱり東京の空港から、探検隊のロケット艇は出発した。
 艇の名前は、「新月号」という。
 新月号は、あまり類のないロケットだ。艇(てい)の主要部は、球形(きゅうけい)をしている。
 その外につばのようなものが、球の赤道にあたるところにはまっている。そしてこれはどこか風車か、タービンの羽根ににている。
 空気のあるところをとぶときは、このつばの羽根が、はじめ水平にまわり、離陸したあとは、すこしずつ縦(たて)の方へ傾(かたむ)いていって、斜(なな)めに空を切ってあがる、なかなかおもしろい飛び方をする。
 そして、もう空気がほとんどないところへ来ると、このつばの羽根が、球から離れる。
 そのあとは球(きゅう)だけとなる。この球がロケットとして、六個の穴からガスをふきだして、空気のない空間を、どんどん速度をあげて進んでいくのだ。
 球形の外郭(がいかく)には、たくさんの窓があいている、もちろん穴はあいていない。厚い透明体の板がこの窓にはまっている。そしてこの窓は暗黒の中に美しい星がおびただしく輝いている大宇宙をのぞくために使う。
 新月号のこの球の直径は、約七十メートルある。だから両国の国技館のまわりに、でっかい円坂をつけたようにも見える。
 この新月号は、ただひとりで宇宙の旅をすることになっていた。
 こういう形のロケットは、今まであまり見受けなかったことで、あぶながる人もいた。学者の中でも、疑問をもっている人があんがい少なくなかった。
 しかし、この新月号の設計者である、カコ技師は、安全なことについては、他のどのロケットにもまけないといっていた。そして、それを証明するために、自分も機関長として、新月号に乗組み、この探検に加わることとなった。
 それでは、新月号の艇長は、いったい誰であろうか。これこそ宇宙旅行十九回という輝かしい記録をもつ有名な探検家マルモ・ケン氏であった。カンノ博士は、観測団長だった。
 スミレ女史が通信局長であった。女史は、正吉を冷凍から助けだしてくれた登山者中の一人であった。
 こうして新月号に乗組んだ者は、正吉をいれて総員四十一名となった。
「はじめて宇宙旅行をする者は、地球出発後七日間は、窓の外を見ることを許さない」
 こういう命令を、マルモ艇長(ていちょう)は、出発の前に出した。
「なぜ、あんな命令を出したんだろう」
 と、正吉はおもしろくなかった。飛行機に乗って離陸するときでさえ、たいへん気持がいい。ましてや、このふうがわりの最新式ロケット艇の新月号で離陸せるときは、さぞ壮観(そうかん)であろう。だからぜひ見たい。
 また高度がだんだん高くなって、太平洋と太西洋とがいっしょに見えるようになるところもおもしろかろう。ぜひ見たい。
 なぜマルモ艇長は、それを禁ずるのであろうか。しかも一週間の永い間にわたって外を見てはいけないというのはなぜだろう。
 正吉は、カンノ博士にあったとき、その話をした。すると博士はニヤリと笑って、
「フフフ、それは艇長の親心というものだ。艇長は君たちのことを心配して、そういう命令を出したんだ。まもった方がいいね」
 と艇長の肩を持った。
「なぜ七日間も、窓から外をのぞいちゃいけないんですか、ぼくはその理由を知りたいです」
「それは……それは、今はいわない方がいいと思う。艇長の命令がとけたら、そのとき話してあげるよ」
 それ以上、カンノ博士は何もいわなかった。
 正吉と同じ不満を持った、初めての宇宙旅行組の者が二十人ばかりいた。それぞれ、こそこそ不満をもらしていたが、先輩たちは何も説明しなかった。みんな艇長からかたく口どめされているのだった。
 見るなといわれると、どうしても見たくなるのが人情であった。正吉は、そのうちこっそりと外をのぞいてやろうと決心した。


   窓の外には


 新月号は夜明けと共に地球をはなれて空中へとびあがったが、その出発の壮観を見た者は、あまり多くなかった。
 それから新月号はぐんぐんと上昇を続け、成層圏(せいそうけん)に突入した。成層圏もやがて突きぬけそうになって高度二十キロメートルを越えるあたりでは、あたりは急に暗くなり、夜が来たようであった。しかし、本当の夜が来たのではなく空気がすくなくなって、そのところでは太陽の光がいわゆる乱反射(らんはんしゃ)をして拡散(かくさん)しないために、あたりは暗いのであった。
 しかし太陽は上空に、丸く輝いている。それはちょうど月が夜空に輝いているに似ていて、太陽そのものは輝いているが、まわりは明るくないのだ。
 そのころ星の群は一段と輝きをまし、黒い幕の上に、無数のダイヤモンドをまき散らしたようであった。
 このような光景が、このあといつまでも続くのであった。
 昼も夜もない暗黒の大宇宙であった。しかし太陽はやっぱり空を動いて見える。
 大宇宙は、このように静かだ。生きているという気がしない。むしろ死んでいるように見える。それはあたりがあまりに暗黒であるのと、太陽にしても星にしても、暗黒の広い空間にくらべて、あまりに小さくて淋(さび)しいからであろう。
 が、もしこのとき、目をうしろにやったとしたら、どうであろう。彼はびっくりさせられるであろう。
 艦長が妙な命令を出したのも、じつはうしろをふりむいてびっくりさせないためであったのだ。
 それはちょうど出発後四日目のことであった。正吉は、窓の外をのぞく絶好の機会をつかんだ。
 通路を歩いていると、頭の上で、へんな声をあげた者がある。
 何だろうと思って、正吉は上を見た。
 すると、通路の天井の交錯(こうさく)した梁(はり)の上に、一人の男がひっかかって、長くのびているではないか。
「あぶない」
 正吉は、おどろいた。放っておけば、あの人は、梁(はり)の間から下へ落ち、頭をくだくことであろう。早く助けてやらねばと思った。
 他の者をよぶひまもない。正吉は、傍(かたわら)の柱にとびついて、サルのように上へのぼっていった。木のぼりは正吉の得意とするところだ。
 天井までのぼり切ると、あとは梁を横へつたわって進んだ。まるでサーカスの空中冒険の綱わたりみたいだ。
(早く、早く。あの人が梁から落ちれば、もうなんにもならない)
 じつにきわどいところで、彼の身体は梁でささえられている。まるで天秤(てんびん)のようだ。
 正吉は、やっとのことで、その人の身体をつかまえた。つかまえたのと、その人が息を吹きかえしたのとほとんど同時であった。
「あーァ」
 その人は呻(うな)った、見るとそれは料理番の若者で、キンちゃんとよばれている、ゆかいな男であった。
「キンちゃん。どうしたの。しっかり」
 正吉は、梁のむこうへ落ちて行きそうなキンちゃんの身体を、一所懸命おさえながら、キンちゃんをはげました。
「あッ、こわいこわい、おれは気が変になる。助けてくれッ」
 キンちゃんは、両手で顔をおさえて変なことを口走る。
「キンちゃん。おかしいよ、そんなにさわいじゃ。ぼくは小杉だよ」
「小杉?」
 キンちゃんは、ようやく目をあいて、正吉を見た。そしてホッと大きな溜息(ためいき)をついた。おなじみの正吉の顔を見て、安心したのであろう。
「こんなところで、何をしていたの」
 と正吉がきくと、キンちゃんはまた顔をしかめて苦しそうにあえぎだした。
「こわい、こわい、正ちゃん。その窓から外を見ない方がいいよ。気が変になるよ」
「あッ、そうか。君は窓から外を見たんだね。艇長に叱(しか)られるよ」
 正吉はそういったが、見ると窓のおおいが破れている。キンちゃんが破ったものだろう。正吉は急に外が見たくなった。
「正ちゃん、およしよ。だめだ、外を見ちゃ……」
 と、キンちゃんがとめるのにもかまわず、正吉は、とうとう窓から外を見た。
「あッ、あれは……」
 正吉の肩が大きく波打っている。顔は、まっさおだ。
 正吉は何を見たか。
 大きなビルを四、五十あつめたくらいの大きさの、まんまるい黄色に光る球を見たのであった。
 それは地球だ。地球だった。
 地球の大きな球が、空間に、つっかえ棒もなしにいるところは凄(すご)いというか、恐ろしいというか、艇長が外を見るなと命令したわけが、やっと分った。


   偵察(ていさつ)ロケット


 七日以後は窓もひらかれ、外をのぞいてもさしつかえないことになった。そのころ地球は、ずっと形が小さくなり、小山ぐらいの大きさとなったので、恐ろしさが減(へ)った。もうあれを見て発狂したり、気絶(きぜつ)する者もなかろう。
 地球は小さくなったが、いよいよ光をまして白く輝く大陸の輪郭(りんかく)もよく見える。しかし球という感じがだんだんなくなって、平面のような感じにかわっていった。
「キンちゃん、あれから後、いくど気絶したの」
 正吉がそういって料理番のキンちゃんをからかうと、キンちゃんは顔をまっ赤(か)にして、
「あのとき一ぺんこっきりだよ。そんなにたびたびやって、たまるものか。それよりか、今日の夕食にはすごいごちそうが出るよ」
「すごいごちそうというと、お皿の上に地球がのっかっているといった料理かね」
「また地球で、わしをからかうんだね。地球のことはもう棚(たな)にあげときましょう。さて今夜の料理にはね、牡牛(おうし)の舌の塩づけに、サラダ菜(な)をそえて、その上に……」
「雨ガエルでも、とまらせておくんだね」
 正吉は、じょうだんをいって、食堂から出ていった。
 廊下(ろうか)の曲(まが)り門(かど)のところで、正吉は大人の人に、はちあわせをした。誰かと思えば、それは藍(あい)色の仕事服を着て、青写真を小脇に抱えているカコ技師であった。
「あ、あぶない。正吉君、なにを急いでいるのかね」
「いま、食堂ですてきに甘いものをたべて来たので、元気があふれているんです。ですからこれから艇長のところへ行って探検の話でも聞かせてもらって来るつもりなんです。艇長のすごい話はこっちがよほど元気のときでないと、聞いているうちに心臓がどきどきして来て気絶しそうになりますからね」
「このごろどこでも気絶ばやりだね。だから僕もいつもこうして気つけ用のアンモニア水のはいった小さいびんをポケットに入れてもっている」
 そういってカコ技師は、透明(とうめい)な液のはいっている小びんを出してみせた。
「それを貸して下さい。それを持って艇長のとこへ行ってきますから……」
「だめだよ、正吉君、艇長はいまひるねをしておられる。一時間ばかり、誰も艇長を起すことは出来ないのだ」
「ああ、つまらない」
「つまらないことはないよ、機械室へ来たまえ。これから偵察ロケットを発射させるんだから」
「偵察ロケットですって。それは何をするものですか」
「本艇のために、目の役目をするロケットだ。このロケットには人間は乗っていない。電波操縦(でんぱそうじゅう)するんだ。だからこのロケットはうんと速度が出せる。これを発射して、本艇よりも先に月世界の表面に近づかせる。いいかね。ここまでの話、分るかね」
「ええ、分ります」
「その偵察ロケットには、テレビジョン装置がのせてある。だからそれがわれわれの目にかわって月世界の方々を見る。それが電波に乗って本艇へとどく。本艇ではそのテレビ電波を受信して、映写幕にうつし出す。つまりこれだけのものがあると、本艇の目がうんと前方へ伸びたと同じことになる。たいへんちょうほうだ」
「なぜ、そんなことをするんですか」
「これは、もし前方に危険があったときは、偵察ロケットが感じて知らせてよこす。本艇はさっそく逃げることができる。偵察ロケットの方は破壊されてもかまわない。それには人間が乗っていないのだからね」
「音も聞けるわけですね。偵察ロケットにマイクをのせておけばいいわけだから」
「技術上は、そういうこともできる。しかしこの場合、音をきく仕掛はいらない」
「なぜですか」
「だって、月世界には空気がない。空気がなければ、音はないわけだ」
「ああ、そうでしたね」


   月の噴火口(ふんかこう)


 偵察ロケットは、三台も発射された。
 それは小型のロケットで、砲弾のような形をしていた。
 あと十二時間すると、月の上空へ達するそうである。
 この光景はテレビジョンにおさめられ、地球へ向けて放送された。
「月世界って、そんなに危険なところですか。大地震でもあるのですか」
 正吉はカコ技師のそばからまだはなれない。
「もう地震はないね。月世界はすっかり冷えきって、死んでしまった遊星(ゆうせい)だから」
「じゃあ、強盗(ごうとう)でもあらわれるのですか」
「まさか強盗は出ないよ。いやしかし、強盗よりももっとすごい奴があらわれる心配がある」
「なんですか、そのすごい奴というのは……」
「それはね、われわれ地球人類でない、他の生物が月世界へやってくるといううわさがあるんだ。この前にも、ある探検隊員は、それらしい怪しい者の影をみて、びっくりして逃げて帰ったという話である。また、ある探検隊員は月世界で行方不明になったが、さいごに彼がいた地点では格闘(かくとう)したあとが残っている。またそこに落ちていた物がわれわれ人類の作ったものではないと思われる。そういうことから、他の遊星の生物がかなり、前から月世界へ来ているではないか。それなら、これから月世界へ行くには、よほど警戒しなくてはならないということになったのだ」
 カコ技師の話は、正吉をおどろかせた。この宇宙は、地球人類だけが、ひとりいばっていられる世界だと思っていたのに、それが今は夢として破れ去り、ほんとうは他の星の生物たちといっしょに住んでいる雑居(ざっきょ)世界だということが分りかけた。これはゆだんがならない。また、考えなおさなければならない。もしや宇宙戦争が始まるようになっては、たいへんである。
 正吉は、そんなことを考えていると、なんとなく気分がすぐれなくなった。カコ技師はすぐそれを見てとった。
「正吉君。いやにふさぎこんでしまったじゃないか。とにかく人間は、どんなときにも元気をなくしてしまってはおしまいだよ。そうそう、いま映画室でポパイだのミッキー・マウスの古い漫画映画をうつしているそうだから、行ってみて来たまえ。そして早く、にこにこ正ちゃんに戻りなさい」
 カコ技師にいわれて、正吉は、そのことばに従った。
 映画はおもしろくて、おなかをかかえて笑った。すぐそばに、正吉よりもっと大きな声で笑いつづける者がいた。よく見ると料理番のキンちゃんであった。
 映画がすむと、キンちゃんが、室内競技場へ行こうと、さそってくれた。正吉は、いっしょに行った。そこには非番の艇員たちが、声をあげて遊んでいた。正吉たちもその仲間にはいって、バスケットボールをしたり、ビール壜(びん)たおしをやったりした。そして時間のたつのが分らなくなった。
 カコ技師が、いつの間にか正吉のうしろに来ていて、声をかけた。
「例の偵察ロケットがね、さっきから月世界の表面に接触(せっしょく)したよ。あのロケットが送ってよこすテレビジョンが、いま操縦室の映写幕にうつっているから、見にこない」
「えっ、もう見えていますか。行きますとも」
 カコ技師について操縦室へはいっていくと、そこには本艇の主だった人々がみんな集っていた。そして副操縦席のうしろの椅子に腰をおろして計器番の上にはりだした映写幕にうつるテレビジョンを見ながら、意見を交換していた。
 映写幕の上には、大きな丸い環(かん)が、いくつもうつってそれがゆるやかに下から上へ動いていく。
「いま見えているのは知っているね。月の表面にある噴火口といわれるものさ」
「ああ、本で見たことがあります」
 正吉はカコ技師にもたれながら答えた。噴火口のまわりの壁は、ずいぶん高くそびえている。そして右側に、黒々とした影をひいている。
「映写幕の左上の隅のところにあるのがアポロニウスという噴火口だ。その下の方――つまり北のことだが、危難(きなん)の海という名のついた海のあとさ。ほら、だんだん大きな噴火口が下の方からあらわれてくる……」
 大きな噴火口があらわれては、消える。
 画面が急にかわった。映写幕の右の方に月の面(めん)が大きく弧線(こせん)をえがいてうつった。ここにはまたもっと大きい噴火口が集っている。
「さっきのと、ちがう別の偵察ロケットのテレビジョンに切りかえられたんだ。今うつっているのは月の南東部だ。まん中へんに見える細長い噴火口がシッカルトだ。直径が二百五十キロもある。壁の一番高いところは二千七百メートル。大きいだろう」
「すごいですね」
 白く光る月面を見ていると、なんだか身体がこまかくふるえてくるようだ。
「そのずっと左の方に有名なティヒヨ山が見える。高さは五千七百メートル。四方八方へ輝条(きじょう)というものが走っているのが見える」
「ぼくたちは、どこへ着陸するのですか」
「予定では、『雲の海』のあたりだ。そうだ、雲の海は、いま画面のまん中あたりの下の方にある。つまりティヒヨ山から北東の方向へ行ったところにある」
「すごいですね」
「こわくなりゃしない? こわければ上陸しないで、本艇に残っていていいんだよ」
「いいえ、ぼくはだんぜん上陸します。でないと月世界まで来た意味がありませんもの」


   ついに着陸


 偵察ロケットはだんだん高度を低くし、月面に近づいていった。そしてていねいにいく度もいく度も同じ地域の上空をとんだ。
「大丈夫のようです。別にかわったものを見かけませんから」
 そういって艇長の方を向いたのは、観測団長のカンノ博士だった。
「うむ。まず、大丈夫らしいね。では着陸の用意をさせよう」
 艇長はマイクを手にとりあげて、その用意方(よういかた)を全艇へつたえた。
「さあ、忙しくなったぞ」
 と、カンノ博士は正吉にしばらくの別れを告げて、操縦室から去った。
 着陸の用意は、二十四時間かかった。
 いまはカコ技師も、はればれとした顔つきになって、喫煙室(きつえんしつ)へ来て、煙草をうまそうに吸いながら、だれかれと話しあっている。
「こんどは装甲車(そうこうしゃ)を五台出動させることができる。だから上陸班は十分に活動ができると思う」
「装甲車というと、どんなものですか」
「一種の自動車さ。そしてガソリンではなく原子力エンジンで動く。それから外側が厚さ十センチの鋼板で全部包んである」
「じゃあ、戦車ですね」
「戦車は砲をつんでいる。これは砲はつんでいないから、戦車ではない。やはり、装甲車だ」
「なぜこんな乗物を使うんですか。敵がいるわけでもないのでしょう。なぜそんな厚い装甲がいるんですか」
「それはね、第一に隕石(いんせき)をふせぐために、これくらいの厚い装甲が必要なんだ」
「隕石というと、流れ星のことでしょう。あんなものはこわくないではありませんか。地上に落ちてくるのは、ほとんどないのですから」
「いや、ところがそうではない。地球の場合だと、空気の層があるから、隕石はそこを通りぬけるとき空気とすれ合って、ひどく高温度になり、多くは地上につかないうちに火となって燃えてしまう。しかし月世界には空気がないから隕石は燃えない。そのまま月の上へ落ちてくる。君たちの頭の上へこれが落ちて来たら、頭が割れて即死(そくし)だ。だからそんなことのないように装甲車に乗って上陸するんだ。分ったかね」
「なるほど。隕石に気をつけないと、あぶないですね。すると私たちは月世界の上を、この二本の足で歩かないのですか」
「歩くことも出来る」
「だって、隕石が上からとんで来て、大切な頭がぐしゃりとやられたんでは……」
「ひとりで歩く場合には鋼鉄(こうてつ)のかぶとをかぶって歩く。中くらいの隕石ではあたってもこのかぶとでふせぐことができる」
「ああ、そんなものも用意してあるんですね」
「そうだ。それに、本艇には隕石を警戒している隕石探知器というものがあって、隕石が降ってくると、千キロメートルの彼方で早くもそれを感知して電波で警報を発する。この警報はかぶとをかぶって歩いている連中にも受信できるようになっている。だからこの警報を聞いたら、大急ぎで、反対の側の山かげや地隙(ちげき)にかくれるとか、または本艇へかけもどって来れば、一そう安全だ。だから君たち、心配はいらないんだよ」
 カコ技師の話は、はじめて月世界へ行く連中を安心させるいい話だった。
 だが、月世界と地球とは、いろいろなところにおいて様子がたいへんかわっているので、まだまだ面くらうことがたくさんあるはずであった。
 やがていよいよ、月世界に着陸する時間が来た。
 艇は、いま向きをかえ、月面と平行にとんでいる。雲の海附近にかなり広い沙漠帯(さばくたい)があってそこが着陸に便利だと知れていた。
 その着陸コースに三度目にはいった時に、艇は前部からガスの逆噴射(ぎゃくふんしゃ)を開始し、だんだん速度をゆるめると共に浮力をつけた。そこらは操縦のお手ぎわだった。そしてついに見事に雲の海に着陸した。
 もし下手な着陸をやれば、月面に衝突して、たちまち艇は一個の火の塊(かたまり)となって、全員もろとも消えてなくなるであろう。
「よかった。おめでとう」
「艇長。おめでとう」
 艇内には、よろこびのことばが飛んだ。
 正吉は、さっきから窓によって、はじめて見る月世界の景色に魂(たましい)をうばわれている。
(ああ、ずいぶんすごいところだなあ。高い山、くらい影、木も草もない。これがほんとの死の世界だ。空はまっくらだ。あそこに輝いているのは太陽らしい。ここは雲の海だというが、水一滴(いってき)ない。こんなところに一週間も暮したら、気がへんになって死にたくなるだろうなあ)
 だが正吉は、やがてこの死の国のような月世界で、ふしぎな者にめぐりあい、一大事件の中にまきこまれるなどとは、夢にも思っていなかった。


   空気服(くうきふく)


「全員空気服をつけよ」
 艇長からの命令が、各室へつたわった。
「さあ、空気服だ。かぶと虫の化けものになるんだ。やっかいだな」
「やっかいだって。でも、空気ににげられちまって死ぬよりはましだろう」
「もちろん死ぬよりはましさ。だが、空気服はきゅうくつだから、ぼくはきらいさ」
 空気服というのは、身体のすっぽりはいる潜水服みたいなもので、あたまに潜水兜(せんすいかぶと)に似たかぶとをかぶる。しかし空気服についているかぶとは、前半分ほど透明だ。
 空気服の中には地球の上と同じほどの濃(こ)さの空気がはいっている。そしてたえず空気をきれいにし、不足の酸素を補給する。空気服は特製の人造ゴムまたは軽硬金属板(けいこうきんぞくばん)で出来ていて、外界と服の中とは、完全に気密――つまり空気が逃げる穴や隙間(すきま)がない。
 それからこの空気服は、かなりの圧力にたえるように、しっかりした材料で作られている。
 空気服の特長は、もっとある。月世界は非常に寒い。そこで空気服の中は、いつも摂氏(せっし)十八度に温められてある。
 まだ仕掛がある。空気のない月世界などでは、音を出すことができない。音は空気の波であるから、空気がなければ音は出ないわけだ。そうすると、人と人とは、声で話をすることができない。しかしおたがいに思うことを、相手に通ずることができないと困る。そこで空気服の附属品として無線電話機がとりつけてある。くわしくいうと極超短波(きょくちょうたんぱ)を使う無線電話機で、耳のところに小型の高声器(こうせいき)があり、のどの両脇にマイクロホンがあたっていて、空気服を着ている人は空気服の中で普通にしゃべれば、それがマイクロホンと器械を通じて電波となり、他の人々の器械に感じ、耳のそばの高声器から、ことばとして聞えるのであった。
 空気服には、この外に、かんたんな食事をとり、また水や牛乳やレモン水などをのむ仕掛が、かぶとの内側にとりつけてあり、その外いろいろおもしろい仕掛もあるが、くわしく話しているときりがないから、このへんにしておこう。
 そういう便利で重宝(ちょうほう)な空気服を、乗組員の全部がつけろという命令である。これは着陸のとき、万一艇が破損して、艇内の空気が外にもれてしまうようなことがあっても、この空気服を着ていれば平気でいられる。そればかりか、空気服をつけている者は、破損の箇所(かしょ)を応急修理するために活動ができる。だから空気服を全員につけさせるのだ。
 点検が行われた。空気服のつけ方が正しいか悪いかをしらべるのだ。もし悪い者があると、すぐつけ直す。そうしておいてやらないと、万一のとき空気服が役に立たない。艇長マルモ・ケンはすぐれた宇宙探検家であるからして、こういう大事なことに、深い注意を払(はら)うのだった。
 空気服点検もおわった。全員異状がない。
「着陸用意。全員部署(ぶしょ)につけ」
 ロケットはだんだん高度を下げていった。一たん艇内にたたみこんであった翼を出し、これにも噴射ガスが月の面にあたって、反射してくるのをあて、一種の浮力(ふりょく)としてはたらかせる。その外にも、ガスを月の面(おもて)の前後に叩きつけて、スピードのかわるのを、人体にちょうどいい程度に調節する。
 それでも、かなりのスピードが出ていた。雲の海というところは、やや黒ずんだ沙漠であるが、それが艇の下を洪水のように流れていく。
 が、ついに艇は、月の面にふれた。とたんにガスの放出はとめられ、艇は滑走(かっそう)で前進する。艇の通りすぎるうしろには、もうもうと砂煙があがって、まるで艇が火災を起したようだ。
 やがて艇は停った。その下三分の一が、雲の海の砂にうずもれた状能で、停止した。
「やれやれ。無事着陸したぞ」
「えっ、無事着陸しましたか。月世界へついたんですね」
「もちろんのことさ。ほかのどこへ着陸するものかね」
「ああ、うれしい。さっそく地球にのこして来た家族へ電話をかけたいものだ」
「それは間もなく許されるだろう。その前に本艇が着陸した目的の仕事を片づけてしまわねばならない」
「その目的というのは、何ですね」
「今に分るよ。見ておいで」
 高級艇員と、こんど初めて月世界旅行について来た若い艇員との間に、こんな話がとりかわされている。
 正吉少年の姿が[#「姿が」は底本では「艇が」]見えない。
 いや、いや。装甲車が用意されているそばに、彼は立っていた。


   勝手がちがう話


「さあ、乗った」
 そういったのは、カンノ博士だった。観測班長だ。
 博士も正吉も、さっきまで着ていた空気服をぬいでいた。装甲車に乗る者は、それを着ないでいいのだ。もちろん用心のために持っているが、それは装甲車の中が、気密になっているからである。
 装甲車は、みんなで十台あった。一台をのこして、九台が出かけるように命令されている。正吉少年が乗りこんだ装甲車は、一号車であった。いよいよ出かけるときになって、隊長マルモ・ケン氏が乗りこんだ。この一号車長は、カンノ博士だった。
「出発」
 号令と共に、空気服を着ている艇員が、三重戸の一つを、電気の力であけた。空気がもれないように、戸のあわせ目が複雑な構造になっていた。一号車は中へ進む。すると次の戸があった。
 一の戸が閉まる。二の戸が開く。
 一号車は、またその中へはいる。すると三の戸につきあたりそうになった。
 その三の戸も、開かれた。その外は、まぶしい月世界の風景があった。
 一号車は、音もなく、外へゆらゆらと出て行く。そのあとに三の戸が閉った。
 一つの装甲車が外に出るまでに、このようなことが数回くりかえされる。
「どうだね、正吉君。月の世界は、あまり気持のいいところじゃなかろう」
 カンノ博士は正吉にいった。
 正吉は小窓から外を熱心にながめていたが、
「墓場(はかば)に日があたっているような風景ですね」
 と、いった。
「ははは。おもしろいことをいう。とにかく月世界には、空気が全(まった)くないから、かすむということがない。近くの景色も、遠方の景色も、どっちも同じにはっきり見えるんだ。だから景色にやわらか味というものがない。春雨(はるさめ)にかすむとか、朝霧(あさぎり)の中から舟が出てくるなどという風景は、この世界には見えない」
 なるほど、博士のいうとおりだ。
「先生、いまはなんですか、夜なんですか」
「君はどっちだと思う」
「それが今、分らなくなったんです。山脈がまぶしく輝いていますね。空はまっくらです。地球の満月の夜の景色に似ているけれど、空気のないところでは、どこでも空はまっくらなんでしょう。するとあのまぶしく光る山脈は、太陽の光で照らされているのか、それとも月の光で照らされているのか、どっちだか分らない……」
「待ちたまえ、正吉君。月の光で照(て)らされているというのは、へんだろう。だってここは月の上なんだからね」
「ああ、そうか。これはしくじった」
 と正吉は声をたてて笑った。
「月の光じゃなくて、地球の光というのが正しいですね。つまりわれわれが今いる月は、太陽か地球かに照らされてるんでしょう」
「そのとおりだ。そこでさっきのだが、今は昼なんだ。だから山脈をまぶしくしているのは太陽なんだ」
「えッ、やっぱりこれが月世界の昼間なんですか。へんてこですね」
 正吉には、いろいろと、めずらしく感ずることばかりだった。
 これは後の出来事であるが、正吉は太陽がさっぱり西の山へ沈まないので、ふしぎに思って、カンノ博士にきいた。すると博士は笑って、
「二十四時間待っても、太陽は西の山へは沈まないよ、月世界では二週間ぶっつづけに昼間なんだ。そして次の二週間が夜なんだ。夜はこわいぞ。ものすごくて、さびしいよ」
 と説明してきかせた。
 とにかく勝手がちがうことばかりだ。
 もう一つ、正吉が面くらった話をしよう。それは地球を見たのだ。地球は、地球で見る満月の十倍以上も大きい明るい球(きゅう)に見えたが、満月と同じ形ではなく、かたわれ月ぐらいのところだった。つまり一部分が、月のために影になっているのだ。
 その地球が、さっぱり動かないのであった。同じ方向の、同じ高さの中天に輝いていて、そこにいつまでもじっとしているのである。地球から見た月はよく動くから、月から見た地球もさぞ走るだろうと思ったが、そうでないのだ。
 ただ、満月――いや満地になったり、三日月――ではない三日地になったり、日に日に影の大ききがちがっていくだけだった。
「ふーン。どうも気がへんになりそうだ、しょうがない」
 正吉は、そういって、頭を抱(かか)えることが初めのうちはよくあった。
 料理番のキンちゃんと来たら、その理屈がさっぱりのみこめないので、正吉ほどにおどろいていなかったようである。
 こんな話は後の話だ。さて九台の装甲車は、みんなロケットの外に出た。
 無電の命令が伝えられる。
 と、一号車を先頭にして、九台の装甲車は月の上を走り出した。どこへ行くのであろうか。
 それはともかく、こうして走っていると、地球の、どこかの沙漠を夜、走っているのと大して気分がちがわない。


   意外な発見


 二時間ばかり走って、装甲車は停った。
 前に、ひどく高い山が見える。山頂(さんちょう)がきらきらと輝いている。
「どうするんですか。下りるんでしょうね」
 正吉がカンノ博士にきいた。
 同じ車に乗っている他の人たちの中には、空気服を着はじめた者もあるから、正吉は、ははあと察(さっ)したのである。
「下りることは下りるが、その前に隕石がとんでいないかどうかをレーダーで調べておく必要がある。今、あそこでやっているのが、そうだ」
 なるほど、通信員が、レーダーの電波の反射を見ている。
「あ、一つ来ますよ。すぐ近くまで落ちて来ています」
 と、その通信員がいった。
 そのことばが終るか終らないうちに、正吉は思いがけないものを見た。目の前の山の頂きが、とつぜんぱっと赤く光ったのである。
「あッ、隕石が山にぶつかった」
 カンノ博士の声。正吉は息をのんだ。
 隕石のぶつかった山頭から雪崩のように隕石が崩(くず)れ落ちるのが見えた。どれが隕石やら、月山のかけらやら見分けがつかない。
「まあ、よかった。ここへ落ちて来なくてよかった」
 カンノ博士は吐息(といき)をした。
 通信員がレーダー観測の結果を知らせて来た。
「隕石はもう見あたりません」
 もう大丈夫だ。カンノ博士はマルモ隊長にそれを報告した。
「作業班、出発用意」
 作業班の人々は、急いで空気服をつける。カンノ博士もマルモ隊長も、空気服をつけた。正吉少年もつけた。キンちゃんが正吉のそばへ来て笑う。
「人間がイカに化けたようだなあ。銀色の大イカだ。月の怪物があんたを見つけたら、これはごちそうさまといって、手足をむしって、ぱくぱくたべてしまうぜ。こわい」
 正吉はふんがいして、両手をキンちゃんの胴中(どうなか)へまわして、ぎゅうとしめつけた。
「あいたたたた」
 キンちゃんは、大げさに顔をしかめて、悲鳴をあげた。
「わる口をいうと、おみやげを持ってかえってやらないよ」
「えッ、お土産。ああ、そうか。坊や、いい子だからお土産うんと持って来てくんなよ。ウサギの子でもいいし、ウサギがついた餅でもいいからね」
 月の中にウサギが住んでいると思っている、キンちゃんだった。
 装甲車の戸があいた。マルモ隊長とカンノ博士のあとについて正吉は外に出た。
 はじめて月の表面に足をおろして歩くのであった。変な気持だった。身体がいやにかるく、今にもふわッと浮きあがりそうであった。そうでもあろう。ここでは重力が、地球の場合の六分の一なのだ。物の重さが六分の一に減ったように感じるのだ。
 徒歩の一行は十名ぐらいだった。
 そのあとへ六台の装甲車がついてくる。あと三台は、さっきのところに待っている。その中に正吉の乗っていた一号車もあった。
 一行は、山のすそを左の方へぐるっとまわっていった。よく見ると、道がついていた。かたい岩がけずられて、道跡になっている。その上に黒ずんだ三センチほどの厚さでたまっている。
 もちろん草も生えていなければ、虫が鳴いているわけでもない。自分の足音さえ聞えないのだ。
 ぐるっと山のふもとをまわりこむと、目の前に洞門(どうもん)があらわれた。
「ああ、あんなものがある」
 正吉はびっくりした。洞門の中から、がんじょうな鉄の扉も見える。月の世界にそんな建造物があろうとは思わなかった。
 そばへ近づくと、ますますおどろきは大きくなった。鉄の扉には、日本文字が、うす彫(ぼ)りで並んでいた。「新につぽん探検隊月世界倉庫第九号」
 こんなところに、探検隊の倉庫があったのか。いったい中には、何がはいっているのであろうか。
「おや、これはおかしいぞ。門の扉がこわれている。どうしたんだろう」
 カンノ博士の声が、電波にのって、正吉の受話器にもひびいた。なるほど、扉の下が大きくひんまげられて、犬くぐりよりもやや大きい三角形の穴があいている。一同はそばへ走りよったが、またつづいてカンノ博士の声。
「おや扉の中に、白骨死体(はっこつしたい)がある。誰だろう。こんなところで死んでいる人間は……」


   消(き)えうせた燃料(ねんりょう)


 なぞの人骨はそのままにしておいて、急ぐ方の仕事にとりかかった。
 鉄扉へ、装甲車の中にある発電機から、電気が通じられると、洞門の扉はぎいぎいと上へまきとられて、入口はあいた。
 四台の装甲車は、その中へはいっていった。カコ技師が若い技術員をさしずして、発電室で電気を起させた。間もなく内部には、あかるく電燈がついた。そして洞穴(どうけつ)利用の倉庫がどんなものか、はっきり見えた。
 正吉少年は、さっきから空気服に身をかため、カコ技師のうしろについて、あっちへ行ったり、こっちへ来たりしていたが、電燈がぱっとついたときに、「おお」とおどろきの声をあげた。
 じつに大仕掛の倉庫であった。まるで地底の大工場へ行ったような気がする。各種のエンジンの予備品が、数も知れないほどたくさん、ずらりと並んでいた。その部品も、番号札をつけて、棚(たな)という棚をうずめつくしている。
「ねえ、カコさん。なぜこんなに、たくさんの機械るいをたくわえておくのですか」
 正吉少年はたずねた。もちろん電波を使っての会話だ。
「それはね、宇宙探検の途中で、ロケットがこわれることがよくある。そのとき地球までひっかえすことができない場合もある。だから月の世界に、修理材料や、とりかえ用のエンジンなどをたくわえておけば、地球まではもどれない故障ロケットも月世界に不時着して、故障をなおすことができる。それでわれらの探検隊は、ここに倉庫をおいてあるのだ。ここだけじゃない、月世界には、みんなで十五箇所に倉庫を持っている」
 カコ技師は、そういって正吉に説明をした。なるほど、もっともなことだ。火星へ行き、また金星へとぶようなとき、この世界の月倉庫は、たいへん重大な役割をするわけである。これほどの行きとどいた注意と、用意がなければ、宇宙探検などという壮挙(そうきょ)は成功しないのだ。なんでもいいから、ロケットは宇宙探検に成功するというわけではないのだ。
「すると、わがマルモ探検隊の乗っているロケットも、ここで故障が起ったんですか」
「いや、故障ではない。われわれの場合は、燃料の一種とするための鉱物を、この倉庫においてあるので、それを取りに来たのだ」
「やっぱりウラニゥムみたいなものですか」
「まあ、そうだね」
「地球を出るときにつんで行けばよかったのに、どうしてそうしないのですか」
「地球には、そのルナビゥムという貴重な鉱物がすくないのだ。この月の中には、かなりうずもれていると思われる」
 ルナビゥムとカコ技師は、正吉のまだ耳にしたことのない鉱物の名をいった。
 ルナビゥムについて、正吉はもっと話を聞きたいと思ったが、そこへ四台の装甲車がしずしずとはいって来て、カコ技師がたいへん忙しくなったので、もう話しかけられなくなった。
 カコ技師は、次の部屋へ通ずるげんじゅうな扉を、一つ一つ開いていった。倉庫は奥の方までかなりたくさんの部屋がつながっているようであった。
 ほりだしたルナビゥムを貯蔵してある部屋は、一番奥の部屋であった。その部屋へ通ずる扉をカコ技師が開いて、中をのぞきこんだとき、彼は電気にかかったように、からだをふるわせた。
「おやッ、これはへんだぞ」
 彼がおどろいて棒立(ぼうだ)ちになっているところへ隊長のマルモ・ケンやカンノ博士などがはいって来た。
「ほう。これはどうしたのかな」
「ルナビゥムがないじゃありませんか。この前、あれだけ集めて、この部屋にいれておいたのに……」
 隊長とカンノ博士もびっくりぎょうてんした。カコ技師はそのことを誰より先に気がついて棒立ちになっていたわけだ。
「これは一体どうしたというのでしょう」
「困ったね。ルナビゥムがないと、探検をこれから先へ進めることができない」
「誰がぬすんでいったのでしょう」
「この部屋から盗むことは、まず不可能なんですがね」
「そうかもしれんが、山ほどつんであったルナビゥムが見えないんだから、ぬすまれたに違いなかろう」
「これはどうもゆだんがなりませんよ。さっきの人骨のことといい、洞内の扉がひん曲っていたことといい、今またこの部屋からルナビゥムがぬすまれていることといい、これはたしかにみんな関係のあることなんですよ」
 カンノ博士は、探偵のようなことを口走った。
 そのうしろについて、この場の様子を見入っていた正吉にも、これは重大事件であることがよく分った。
(月世界にもやっぱり、どろぼうやごうとうがいるのかなあ?)
 正吉はそう思ってため息をついたが、そのどろぼうやごうとうよりも、もっとすごい者がこの月世界にいて、この場を荒したことを知ったら、そんな軽いため息だけではすむまい。


   鉱脈(こうみゃく)へ前進


 さあ、ルナビゥムがぬすまれた今、どうしたら一番いいであろうか。
 そのことについて隊長は、幹部の人たちを集めて、その場で協議した。
「たいへんな仕事になりますが、ルナビゥムの鉱脈(こうみゃく)のあるところへ行って、もう一ぺん掘るんですなあ。なにしろルナビゥムがなくては、どうすることも出来ませんよ」
「その仕事は、なかなかこんなんだ。それに日数が相当かかるかもしれん。あまり日数がかかることは困る。こんどの探検は、残念だけれど一時中止として、地球へ引返すことにしたらどうでしょう」
 隊長は、この二つの案を聞いていて、どっちも正しいと思った。どっちになるか、それを決定することはむずかしい。
「待って下さい」
 とカンノ博士がいった。
「私は、それを決める前に、この事件の真相を調べるのがいいと思いますね。誰がそれをしたか、何のためにしたか、そして倉庫からぬすまれたルナビゥムは今どこにあるか。そういう事柄(ことがら)が分ったら、われわれが今の場合どうすればいいかということが、自然に分るでしょう」
「なるほど、もっともなことだ。しかしカンノ君。事件を調べるのにどの位の日数がいるだろうか。それが問題だ」
「それはやって見なければ分りませんが、私にこれから四時間をあたえて下さい。出来るだけのことをさぐってみます。装甲車を一台と四、五人を私にかしておいて下さい。そしてその間に他の装甲車でもって、ルナビゥムを掘りに行って下さい。私は四時間あとにそこへ追いつきますから……」
 カンノ博士は、つつましく、そういった。しかし博士は自信をもっているらしかった。
「では、そうしよう。人選をしたまえ、カンノ君」
 隊長が許した。
「ぼくを、その一人に採用して、ここへ残していって下さい」
 正吉は、まっさきに名乗りをあげた。
「なんだ、少年がここに残りたいのか。よろしい。正吉君は員数外だ。希望なら残ってよろしい」
 マルモ隊長は笑いながら、正吉の希望をいれた。
 カンノ博士は、そこで五人の人選をした。カコ技師の外は、大した腕のある者はいなかった。
 それが決って、隊長以下は三台の装甲車に乗り、いそいでこの倉庫第九号から出ていった。あとはカンノ博士ほか六名が残った。
「われわれは一時、探偵になったわけです。しっかり頭をはたらかせて、なぞを早くといて下さい。まず人骨の方から調べにかかりましょう」
 博士は倉庫の入口の方へ歩きだした。六名の者は、そのあとに従った。人骨はさっきのとおり洞門のそばに横たわっていた。風化(ふうか)して、ばらばらになっていた。しかし骨片の位置とその数からして、一人の人間の骨であることが誰にもよく分った。
「ねえ諸君。こういうことを、おかしいと思いませんか」
 とカンノ博士がすいりの糸口をほどきはじめた。
「この人骨は空気服もなんにも着ていないです。すると、行き倒れになった他の探検隊員だとは考えられないです。もしそうなら空気服ぐらいは、ちゃんとからだにつけているはずですからね」
「なるほど」
 他の隊員もあいづちをうった。
「するとこの人骨の主は、自分でこの洞門(どうもん)の扉をやぶり、中へはいってこの位置でぜつめいしたとは思われません。つまり何者かが、この人骨の主の死体をこの中へ投げこんでいったとしか考えられないのです。そうは思いませんか」
「いや、それにちがいないと思います。博士のすいりは、なかなかするどいですね」
「すると、何者がこんなことをしたか、扉をあのように曲げることも、ふつうの人力(じんりょく)ではできません」
 博士がことばをとめた。誰も意見をいう者がない。
「ぼくたち探検隊員をおどかすために、こんなことをしたのではないでしょうか」
 正吉少年がいった。そんな気がしたからである。
「おどかしのために……」
 博士も他の隊員も、正吉のことばに、びくっ、としたようである。
「そうかもしれない。月世界にはいろいろ、とうとい物がある。われらマルモ探検隊だけに独占させてはならないと思って、われわれを競争相手と考えている者もいるでしょう。その連中が、われわれに対してけいこくをこころみたのかな。それにしても人骨をほうりこんで行くとは、なんというやばんなやり方だろう」
 博士はそういってまゆをひそめた。


   かすかな人名(じんめい)


 正吉は、人骨(じんこつ)にもなれ、こわごわながら、そばへよって人骨をながめた。
「おや、ハンカチを持っているぞ、この人骨は……」
 骨は白く、ハンカチーフも白いので、今まで気がつかなかったが、ばらばらの人骨の下に一枚のハンカチーフが落ちていたのだ。
 この正吉の発見に、カンノ博士たちもおどろいてそばによった。そして博士は骨を横にのけて、ハンカチーフをひろいあげた。そしてひろげたり、裏がえしたりしていたが、
「あッ、ハンカチーフには、名前が書いてある。すみのあとがうすくなっているが、たしかにこれは名前だ」
 と、おどろいた様子。
「なんという名前ですか」
「待ちたまえ。ええと、モウリクマヒコと書いてあるらしい」
「えっ、モウリクマヒコですって、ちょっとそのハンカチーフを見せて下さい」
 そういったのは、正吉少年だった。
「さあ、よくごらんなさい」
 正吉はハンカチーフを見て、顔色をかえた。
「あ、これはぼくのおじさんのハンカチーフです。毛利久方彦(もうりくまひこ)といって、理学博士なんです」
「ああ、あの毛利博士。私も知っていますよ」
 とカンノ博士がいった。
「しかし博士は十四、五年前にどうしたわけか行方不明になったままで、その後消息(しょうそく)を聞いたことはなかった、するともしや……」
 博士の声がかすれた。
「すると、この人骨はおじさんの骨なんでしょうか。おじさんは、たしか探検に出かけたまま帰らないといっていましたがこの月世界へ来ていたんですね。しかしおじさんは、なんというなさけない姿になったものでしょう。おじさん、おじさん」
 正吉は人骨のそばにひざまづいて、涙をぽろぽろと流した。
 これには、他の人たちもげんしゅくな気持におそわれて、もらい泣きをした。
 その中でカンノ博士はちらばった人骨をよせあつめ、頭蓋骨の骨片をハンカチーフの上にのせていたが、その手をとめて急に目をかがやかした。
「ちょっと、これはおかしいぞ」
「なにがおかしいのですか」
「この人骨はね、君のおじさんの毛利博士(もうりはかせ)ではないよ、安心したまえ」
「ええッ、どうして、そんなことが分るんですか」
 正吉は、ふしぎに思って、聞きかえした。
「ちゃんと分るんだ。この人骨は現代の日本人の骨ではない。ずっと古い昔の人骨だ。それも百年前ではない。すくなくとも五万年ぐらい前の人骨だ。骨の形で、そう判定ができるんだ。五万年前の人骨、どうだね。君のおじさんの毛利博士の骨でないことは証明されたろう」
「ははあ、そうですか」
 正吉をはじめ、聞いていた他の隊員も、ほっと、安心のため息をついた。
「すると、おじさんはまだ生きているのかな。おじさんのハンカチーフが月世界に落ちているとすれば、どこかこの近所におじさんがいるかもしれない」
 正吉は、新しい希望をつかんだような気がした。しかしそれは同時に、新しい心配の種でもあった。
 カンノ博士は、ほかのことを考えていた。
(なぞの人物は、なぜ五万年も前の古い人骨をもって来て、洞門の中に投げこんでいたのだろうか。それはどういう考えなんだろう)
 なぞは、その外にもあった。五万年まえの人骨がどうして手にはいったのであろうか。それからそれへと考えていくと、ぶきみなおもいに、背中がぞーツと寒くなって来る。
 カンノ博士は人骨問題はそれくらいにして、ルナビゥムを入れてあった倉庫をもう一度よく調べて、どこかに異常でもあるのではないか、それを発見したく思い、隊員たちに、奥へ行くことを命じた。
 が、そのときであった。とつぜん、外に待たせてあった装甲車が発した警報が、カンノ博士たちのところへ届いた。
「なんの警報」
 といぶかう折しも、警報信号が消えて、電波にのった運転手の声がひびいた。
「たいへんです。マルモ隊長など九台の装甲車が、トロイ谷のところで、かいぶつの一団にとりかこまれてしまって、危険におちいっているとの無電がはいりました。すぐこの装甲車へ帰って来て下さい」
 運転手の声は不安にふるえていた。
 正に一大事だ。ぐずぐずしてはいられない。カンノ博士は一同をひきいて、洞門の外へとび出した。外はまっ暗だった。黒いうるしでぬりつぶしたような暗黒の世界だ。急に夜のとびらが下りたものらしい。
 さて探検隊の前途には何があるのか。その恐ろしき怪物の一団とは何物の群であろうか。


   トロイ谷(だに)


 話は、すこし前にもどる。
 トロイ谷(だに)へ向ったのは、マルモ探検隊長のひきいる二十五名の隊員で、九台の装甲車にのっていた。けわしい岩山を、いくたびか上ったり下りたりして、隊員の幹部にはなじみの深いトロイ谷へついた。
 一同はしっかりと空気服をしめ直し、地上へ下りた。車の中からは、採掘具(さいくつぐ)がとりだされ、めいめいの手に一つずつ渡った。これは圧搾空気(あっさくくうき)ハンマーに似た形をしていたが、原子力で動くものであるから、長い耐圧管(たいあつかん)もなければ、ボンベもなく、構造はずっとかんたんになっていた。

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