三十年後の世界
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著者名:海野十三 

 そういって艇長の方を向いたのは、観測団長のカンノ博士だった。
「うむ。まず、大丈夫らしいね。では着陸の用意をさせよう」
 艇長はマイクを手にとりあげて、その用意方(よういかた)を全艇へつたえた。
「さあ、忙しくなったぞ」
 と、カンノ博士は正吉にしばらくの別れを告げて、操縦室から去った。
 着陸の用意は、二十四時間かかった。
 いまはカコ技師も、はればれとした顔つきになって、喫煙室(きつえんしつ)へ来て、煙草をうまそうに吸いながら、だれかれと話しあっている。
「こんどは装甲車(そうこうしゃ)を五台出動させることができる。だから上陸班は十分に活動ができると思う」
「装甲車というと、どんなものですか」
「一種の自動車さ。そしてガソリンではなく原子力エンジンで動く。それから外側が厚さ十センチの鋼板で全部包んである」
「じゃあ、戦車ですね」
「戦車は砲をつんでいる。これは砲はつんでいないから、戦車ではない。やはり、装甲車だ」
「なぜこんな乗物を使うんですか。敵がいるわけでもないのでしょう。なぜそんな厚い装甲がいるんですか」
「それはね、第一に隕石(いんせき)をふせぐために、これくらいの厚い装甲が必要なんだ」
「隕石というと、流れ星のことでしょう。あんなものはこわくないではありませんか。地上に落ちてくるのは、ほとんどないのですから」
「いや、ところがそうではない。地球の場合だと、空気の層があるから、隕石はそこを通りぬけるとき空気とすれ合って、ひどく高温度になり、多くは地上につかないうちに火となって燃えてしまう。しかし月世界には空気がないから隕石は燃えない。そのまま月の上へ落ちてくる。君たちの頭の上へこれが落ちて来たら、頭が割れて即死(そくし)だ。だからそんなことのないように装甲車に乗って上陸するんだ。分ったかね」
「なるほど。隕石に気をつけないと、あぶないですね。すると私たちは月世界の上を、この二本の足で歩かないのですか」
「歩くことも出来る」
「だって、隕石が上からとんで来て、大切な頭がぐしゃりとやられたんでは……」
「ひとりで歩く場合には鋼鉄(こうてつ)のかぶとをかぶって歩く。中くらいの隕石ではあたってもこのかぶとでふせぐことができる」
「ああ、そんなものも用意してあるんですね」
「そうだ。それに、本艇には隕石を警戒している隕石探知器というものがあって、隕石が降ってくると、千キロメートルの彼方で早くもそれを感知して電波で警報を発する。この警報はかぶとをかぶって歩いている連中にも受信できるようになっている。だからこの警報を聞いたら、大急ぎで、反対の側の山かげや地隙(ちげき)にかくれるとか、または本艇へかけもどって来れば、一そう安全だ。だから君たち、心配はいらないんだよ」
 カコ技師の話は、はじめて月世界へ行く連中を安心させるいい話だった。
 だが、月世界と地球とは、いろいろなところにおいて様子がたいへんかわっているので、まだまだ面くらうことがたくさんあるはずであった。
 やがていよいよ、月世界に着陸する時間が来た。
 艇は、いま向きをかえ、月面と平行にとんでいる。雲の海附近にかなり広い沙漠帯(さばくたい)があってそこが着陸に便利だと知れていた。
 その着陸コースに三度目にはいった時に、艇は前部からガスの逆噴射(ぎゃくふんしゃ)を開始し、だんだん速度をゆるめると共に浮力をつけた。そこらは操縦のお手ぎわだった。そしてついに見事に雲の海に着陸した。
 もし下手な着陸をやれば、月面に衝突して、たちまち艇は一個の火の塊(かたまり)となって、全員もろとも消えてなくなるであろう。
「よかった。おめでとう」
「艇長。おめでとう」
 艇内には、よろこびのことばが飛んだ。
 正吉は、さっきから窓によって、はじめて見る月世界の景色に魂(たましい)をうばわれている。
(ああ、ずいぶんすごいところだなあ。高い山、くらい影、木も草もない。これがほんとの死の世界だ。空はまっくらだ。あそこに輝いているのは太陽らしい。ここは雲の海だというが、水一滴(いってき)ない。こんなところに一週間も暮したら、気がへんになって死にたくなるだろうなあ)
 だが正吉は、やがてこの死の国のような月世界で、ふしぎな者にめぐりあい、一大事件の中にまきこまれるなどとは、夢にも思っていなかった。


   空気服(くうきふく)


「全員空気服をつけよ」
 艇長からの命令が、各室へつたわった。
「さあ、空気服だ。かぶと虫の化けものになるんだ。やっかいだな」
「やっかいだって。でも、空気ににげられちまって死ぬよりはましだろう」
「もちろん死ぬよりはましさ。だが、空気服はきゅうくつだから、ぼくはきらいさ」
 空気服というのは、身体のすっぽりはいる潜水服みたいなもので、あたまに潜水兜(せんすいかぶと)に似たかぶとをかぶる。しかし空気服についているかぶとは、前半分ほど透明だ。
 空気服の中には地球の上と同じほどの濃(こ)さの空気がはいっている。そしてたえず空気をきれいにし、不足の酸素を補給する。空気服は特製の人造ゴムまたは軽硬金属板(けいこうきんぞくばん)で出来ていて、外界と服の中とは、完全に気密――つまり空気が逃げる穴や隙間(すきま)がない。
 それからこの空気服は、かなりの圧力にたえるように、しっかりした材料で作られている。
 空気服の特長は、もっとある。月世界は非常に寒い。そこで空気服の中は、いつも摂氏(せっし)十八度に温められてある。
 まだ仕掛がある。空気のない月世界などでは、音を出すことができない。音は空気の波であるから、空気がなければ音は出ないわけだ。そうすると、人と人とは、声で話をすることができない。しかしおたがいに思うことを、相手に通ずることができないと困る。そこで空気服の附属品として無線電話機がとりつけてある。くわしくいうと極超短波(きょくちょうたんぱ)を使う無線電話機で、耳のところに小型の高声器(こうせいき)があり、のどの両脇にマイクロホンがあたっていて、空気服を着ている人は空気服の中で普通にしゃべれば、それがマイクロホンと器械を通じて電波となり、他の人々の器械に感じ、耳のそばの高声器から、ことばとして聞えるのであった。
 空気服には、この外に、かんたんな食事をとり、また水や牛乳やレモン水などをのむ仕掛が、かぶとの内側にとりつけてあり、その外いろいろおもしろい仕掛もあるが、くわしく話しているときりがないから、このへんにしておこう。
 そういう便利で重宝(ちょうほう)な空気服を、乗組員の全部がつけろという命令である。これは着陸のとき、万一艇が破損して、艇内の空気が外にもれてしまうようなことがあっても、この空気服を着ていれば平気でいられる。そればかりか、空気服をつけている者は、破損の箇所(かしょ)を応急修理するために活動ができる。だから空気服を全員につけさせるのだ。
 点検が行われた。空気服のつけ方が正しいか悪いかをしらべるのだ。もし悪い者があると、すぐつけ直す。そうしておいてやらないと、万一のとき空気服が役に立たない。艇長マルモ・ケンはすぐれた宇宙探検家であるからして、こういう大事なことに、深い注意を払(はら)うのだった。
 空気服点検もおわった。全員異状がない。
「着陸用意。全員部署(ぶしょ)につけ」
 ロケットはだんだん高度を下げていった。一たん艇内にたたみこんであった翼を出し、これにも噴射ガスが月の面にあたって、反射してくるのをあて、一種の浮力(ふりょく)としてはたらかせる。その外にも、ガスを月の面(おもて)の前後に叩きつけて、スピードのかわるのを、人体にちょうどいい程度に調節する。
 それでも、かなりのスピードが出ていた。雲の海というところは、やや黒ずんだ沙漠であるが、それが艇の下を洪水のように流れていく。
 が、ついに艇は、月の面にふれた。とたんにガスの放出はとめられ、艇は滑走(かっそう)で前進する。艇の通りすぎるうしろには、もうもうと砂煙があがって、まるで艇が火災を起したようだ。
 やがて艇は停った。その下三分の一が、雲の海の砂にうずもれた状能で、停止した。
「やれやれ。無事着陸したぞ」
「えっ、無事着陸しましたか。月世界へついたんですね」
「もちろんのことさ。ほかのどこへ着陸するものかね」
「ああ、うれしい。さっそく地球にのこして来た家族へ電話をかけたいものだ」
「それは間もなく許されるだろう。その前に本艇が着陸した目的の仕事を片づけてしまわねばならない」
「その目的というのは、何ですね」
「今に分るよ。見ておいで」
 高級艇員と、こんど初めて月世界旅行について来た若い艇員との間に、こんな話がとりかわされている。
 正吉少年の姿が[#「姿が」は底本では「艇が」]見えない。
 いや、いや。装甲車が用意されているそばに、彼は立っていた。


   勝手がちがう話


「さあ、乗った」
 そういったのは、カンノ博士だった。観測班長だ。
 博士も正吉も、さっきまで着ていた空気服をぬいでいた。装甲車に乗る者は、それを着ないでいいのだ。もちろん用心のために持っているが、それは装甲車の中が、気密になっているからである。
 装甲車は、みんなで十台あった。一台をのこして、九台が出かけるように命令されている。正吉少年が乗りこんだ装甲車は、一号車であった。いよいよ出かけるときになって、隊長マルモ・ケン氏が乗りこんだ。この一号車長は、カンノ博士だった。
「出発」
 号令と共に、空気服を着ている艇員が、三重戸の一つを、電気の力であけた。空気がもれないように、戸のあわせ目が複雑な構造になっていた。一号車は中へ進む。すると次の戸があった。
 一の戸が閉まる。二の戸が開く。
 一号車は、またその中へはいる。すると三の戸につきあたりそうになった。
 その三の戸も、開かれた。その外は、まぶしい月世界の風景があった。
 一号車は、音もなく、外へゆらゆらと出て行く。そのあとに三の戸が閉った。
 一つの装甲車が外に出るまでに、このようなことが数回くりかえされる。
「どうだね、正吉君。月の世界は、あまり気持のいいところじゃなかろう」
 カンノ博士は正吉にいった。
 正吉は小窓から外を熱心にながめていたが、
「墓場(はかば)に日があたっているような風景ですね」
 と、いった。
「ははは。おもしろいことをいう。とにかく月世界には、空気が全(まった)くないから、かすむということがない。近くの景色も、遠方の景色も、どっちも同じにはっきり見えるんだ。だから景色にやわらか味というものがない。春雨(はるさめ)にかすむとか、朝霧(あさぎり)の中から舟が出てくるなどという風景は、この世界には見えない」
 なるほど、博士のいうとおりだ。
「先生、いまはなんですか、夜なんですか」
「君はどっちだと思う」
「それが今、分らなくなったんです。山脈がまぶしく輝いていますね。空はまっくらです。地球の満月の夜の景色に似ているけれど、空気のないところでは、どこでも空はまっくらなんでしょう。するとあのまぶしく光る山脈は、太陽の光で照らされているのか、それとも月の光で照らされているのか、どっちだか分らない……」
「待ちたまえ、正吉君。月の光で照(て)らされているというのは、へんだろう。だってここは月の上なんだからね」
「ああ、そうか。これはしくじった」
 と正吉は声をたてて笑った。
「月の光じゃなくて、地球の光というのが正しいですね。つまりわれわれが今いる月は、太陽か地球かに照らされてるんでしょう」
「そのとおりだ。そこでさっきのだが、今は昼なんだ。だから山脈をまぶしくしているのは太陽なんだ」
「えッ、やっぱりこれが月世界の昼間なんですか。へんてこですね」
 正吉には、いろいろと、めずらしく感ずることばかりだった。
 これは後の出来事であるが、正吉は太陽がさっぱり西の山へ沈まないので、ふしぎに思って、カンノ博士にきいた。すると博士は笑って、
「二十四時間待っても、太陽は西の山へは沈まないよ、月世界では二週間ぶっつづけに昼間なんだ。そして次の二週間が夜なんだ。夜はこわいぞ。ものすごくて、さびしいよ」
 と説明してきかせた。
 とにかく勝手がちがうことばかりだ。
 もう一つ、正吉が面くらった話をしよう。それは地球を見たのだ。地球は、地球で見る満月の十倍以上も大きい明るい球(きゅう)に見えたが、満月と同じ形ではなく、かたわれ月ぐらいのところだった。つまり一部分が、月のために影になっているのだ。
 その地球が、さっぱり動かないのであった。同じ方向の、同じ高さの中天に輝いていて、そこにいつまでもじっとしているのである。地球から見た月はよく動くから、月から見た地球もさぞ走るだろうと思ったが、そうでないのだ。
 ただ、満月――いや満地になったり、三日月――ではない三日地になったり、日に日に影の大ききがちがっていくだけだった。
「ふーン。どうも気がへんになりそうだ、しょうがない」
 正吉は、そういって、頭を抱(かか)えることが初めのうちはよくあった。
 料理番のキンちゃんと来たら、その理屈がさっぱりのみこめないので、正吉ほどにおどろいていなかったようである。
 こんな話は後の話だ。さて九台の装甲車は、みんなロケットの外に出た。
 無電の命令が伝えられる。
 と、一号車を先頭にして、九台の装甲車は月の上を走り出した。どこへ行くのであろうか。
 それはともかく、こうして走っていると、地球の、どこかの沙漠を夜、走っているのと大して気分がちがわない。


   意外な発見


 二時間ばかり走って、装甲車は停った。
 前に、ひどく高い山が見える。山頂(さんちょう)がきらきらと輝いている。
「どうするんですか。下りるんでしょうね」
 正吉がカンノ博士にきいた。
 同じ車に乗っている他の人たちの中には、空気服を着はじめた者もあるから、正吉は、ははあと察(さっ)したのである。
「下りることは下りるが、その前に隕石がとんでいないかどうかをレーダーで調べておく必要がある。今、あそこでやっているのが、そうだ」
 なるほど、通信員が、レーダーの電波の反射を見ている。
「あ、一つ来ますよ。すぐ近くまで落ちて来ています」
 と、その通信員がいった。
 そのことばが終るか終らないうちに、正吉は思いがけないものを見た。目の前の山の頂きが、とつぜんぱっと赤く光ったのである。
「あッ、隕石が山にぶつかった」
 カンノ博士の声。正吉は息をのんだ。
 隕石のぶつかった山頭から雪崩のように隕石が崩(くず)れ落ちるのが見えた。どれが隕石やら、月山のかけらやら見分けがつかない。
「まあ、よかった。ここへ落ちて来なくてよかった」
 カンノ博士は吐息(といき)をした。
 通信員がレーダー観測の結果を知らせて来た。
「隕石はもう見あたりません」
 もう大丈夫だ。カンノ博士はマルモ隊長にそれを報告した。
「作業班、出発用意」
 作業班の人々は、急いで空気服をつける。カンノ博士もマルモ隊長も、空気服をつけた。正吉少年もつけた。キンちゃんが正吉のそばへ来て笑う。
「人間がイカに化けたようだなあ。銀色の大イカだ。月の怪物があんたを見つけたら、これはごちそうさまといって、手足をむしって、ぱくぱくたべてしまうぜ。こわい」
 正吉はふんがいして、両手をキンちゃんの胴中(どうなか)へまわして、ぎゅうとしめつけた。
「あいたたたた」
 キンちゃんは、大げさに顔をしかめて、悲鳴をあげた。
「わる口をいうと、おみやげを持ってかえってやらないよ」
「えッ、お土産。ああ、そうか。坊や、いい子だからお土産うんと持って来てくんなよ。ウサギの子でもいいし、ウサギがついた餅でもいいからね」
 月の中にウサギが住んでいると思っている、キンちゃんだった。
 装甲車の戸があいた。マルモ隊長とカンノ博士のあとについて正吉は外に出た。
 はじめて月の表面に足をおろして歩くのであった。変な気持だった。身体がいやにかるく、今にもふわッと浮きあがりそうであった。そうでもあろう。ここでは重力が、地球の場合の六分の一なのだ。物の重さが六分の一に減ったように感じるのだ。
 徒歩の一行は十名ぐらいだった。
 そのあとへ六台の装甲車がついてくる。あと三台は、さっきのところに待っている。その中に正吉の乗っていた一号車もあった。
 一行は、山のすそを左の方へぐるっとまわっていった。よく見ると、道がついていた。かたい岩がけずられて、道跡になっている。その上に黒ずんだ三センチほどの厚さでたまっている。
 もちろん草も生えていなければ、虫が鳴いているわけでもない。自分の足音さえ聞えないのだ。
 ぐるっと山のふもとをまわりこむと、目の前に洞門(どうもん)があらわれた。
「ああ、あんなものがある」
 正吉はびっくりした。洞門の中から、がんじょうな鉄の扉も見える。月の世界にそんな建造物があろうとは思わなかった。
 そばへ近づくと、ますますおどろきは大きくなった。鉄の扉には、日本文字が、うす彫(ぼ)りで並んでいた。「新につぽん探検隊月世界倉庫第九号」
 こんなところに、探検隊の倉庫があったのか。いったい中には、何がはいっているのであろうか。
「おや、これはおかしいぞ。門の扉がこわれている。どうしたんだろう」
 カンノ博士の声が、電波にのって、正吉の受話器にもひびいた。なるほど、扉の下が大きくひんまげられて、犬くぐりよりもやや大きい三角形の穴があいている。一同はそばへ走りよったが、またつづいてカンノ博士の声。
「おや扉の中に、白骨死体(はっこつしたい)がある。誰だろう。こんなところで死んでいる人間は……」


   消(き)えうせた燃料(ねんりょう)


 なぞの人骨はそのままにしておいて、急ぐ方の仕事にとりかかった。
 鉄扉へ、装甲車の中にある発電機から、電気が通じられると、洞門の扉はぎいぎいと上へまきとられて、入口はあいた。
 四台の装甲車は、その中へはいっていった。カコ技師が若い技術員をさしずして、発電室で電気を起させた。間もなく内部には、あかるく電燈がついた。そして洞穴(どうけつ)利用の倉庫がどんなものか、はっきり見えた。
 正吉少年は、さっきから空気服に身をかため、カコ技師のうしろについて、あっちへ行ったり、こっちへ来たりしていたが、電燈がぱっとついたときに、「おお」とおどろきの声をあげた。
 じつに大仕掛の倉庫であった。まるで地底の大工場へ行ったような気がする。各種のエンジンの予備品が、数も知れないほどたくさん、ずらりと並んでいた。その部品も、番号札をつけて、棚(たな)という棚をうずめつくしている。
「ねえ、カコさん。なぜこんなに、たくさんの機械るいをたくわえておくのですか」
 正吉少年はたずねた。もちろん電波を使っての会話だ。
「それはね、宇宙探検の途中で、ロケットがこわれることがよくある。そのとき地球までひっかえすことができない場合もある。だから月の世界に、修理材料や、とりかえ用のエンジンなどをたくわえておけば、地球まではもどれない故障ロケットも月世界に不時着して、故障をなおすことができる。それでわれらの探検隊は、ここに倉庫をおいてあるのだ。ここだけじゃない、月世界には、みんなで十五箇所に倉庫を持っている」
 カコ技師は、そういって正吉に説明をした。なるほど、もっともなことだ。火星へ行き、また金星へとぶようなとき、この世界の月倉庫は、たいへん重大な役割をするわけである。これほどの行きとどいた注意と、用意がなければ、宇宙探検などという壮挙(そうきょ)は成功しないのだ。なんでもいいから、ロケットは宇宙探検に成功するというわけではないのだ。
「すると、わがマルモ探検隊の乗っているロケットも、ここで故障が起ったんですか」
「いや、故障ではない。われわれの場合は、燃料の一種とするための鉱物を、この倉庫においてあるので、それを取りに来たのだ」
「やっぱりウラニゥムみたいなものですか」
「まあ、そうだね」
「地球を出るときにつんで行けばよかったのに、どうしてそうしないのですか」
「地球には、そのルナビゥムという貴重な鉱物がすくないのだ。この月の中には、かなりうずもれていると思われる」
 ルナビゥムとカコ技師は、正吉のまだ耳にしたことのない鉱物の名をいった。
 ルナビゥムについて、正吉はもっと話を聞きたいと思ったが、そこへ四台の装甲車がしずしずとはいって来て、カコ技師がたいへん忙しくなったので、もう話しかけられなくなった。
 カコ技師は、次の部屋へ通ずるげんじゅうな扉を、一つ一つ開いていった。倉庫は奥の方までかなりたくさんの部屋がつながっているようであった。
 ほりだしたルナビゥムを貯蔵してある部屋は、一番奥の部屋であった。その部屋へ通ずる扉をカコ技師が開いて、中をのぞきこんだとき、彼は電気にかかったように、からだをふるわせた。
「おやッ、これはへんだぞ」
 彼がおどろいて棒立(ぼうだ)ちになっているところへ隊長のマルモ・ケンやカンノ博士などがはいって来た。
「ほう。これはどうしたのかな」
「ルナビゥムがないじゃありませんか。この前、あれだけ集めて、この部屋にいれておいたのに……」
 隊長とカンノ博士もびっくりぎょうてんした。カコ技師はそのことを誰より先に気がついて棒立ちになっていたわけだ。
「これは一体どうしたというのでしょう」
「困ったね。ルナビゥムがないと、探検をこれから先へ進めることができない」
「誰がぬすんでいったのでしょう」
「この部屋から盗むことは、まず不可能なんですがね」
「そうかもしれんが、山ほどつんであったルナビゥムが見えないんだから、ぬすまれたに違いなかろう」
「これはどうもゆだんがなりませんよ。さっきの人骨のことといい、洞内の扉がひん曲っていたことといい、今またこの部屋からルナビゥムがぬすまれていることといい、これはたしかにみんな関係のあることなんですよ」
 カンノ博士は、探偵のようなことを口走った。
 そのうしろについて、この場の様子を見入っていた正吉にも、これは重大事件であることがよく分った。
(月世界にもやっぱり、どろぼうやごうとうがいるのかなあ?)
 正吉はそう思ってため息をついたが、そのどろぼうやごうとうよりも、もっとすごい者がこの月世界にいて、この場を荒したことを知ったら、そんな軽いため息だけではすむまい。


   鉱脈(こうみゃく)へ前進


 さあ、ルナビゥムがぬすまれた今、どうしたら一番いいであろうか。
 そのことについて隊長は、幹部の人たちを集めて、その場で協議した。
「たいへんな仕事になりますが、ルナビゥムの鉱脈(こうみゃく)のあるところへ行って、もう一ぺん掘るんですなあ。なにしろルナビゥムがなくては、どうすることも出来ませんよ」
「その仕事は、なかなかこんなんだ。それに日数が相当かかるかもしれん。あまり日数がかかることは困る。こんどの探検は、残念だけれど一時中止として、地球へ引返すことにしたらどうでしょう」
 隊長は、この二つの案を聞いていて、どっちも正しいと思った。どっちになるか、それを決定することはむずかしい。
「待って下さい」
 とカンノ博士がいった。
「私は、それを決める前に、この事件の真相を調べるのがいいと思いますね。誰がそれをしたか、何のためにしたか、そして倉庫からぬすまれたルナビゥムは今どこにあるか。そういう事柄(ことがら)が分ったら、われわれが今の場合どうすればいいかということが、自然に分るでしょう」
「なるほど、もっともなことだ。しかしカンノ君。事件を調べるのにどの位の日数がいるだろうか。それが問題だ」
「それはやって見なければ分りませんが、私にこれから四時間をあたえて下さい。出来るだけのことをさぐってみます。装甲車を一台と四、五人を私にかしておいて下さい。そしてその間に他の装甲車でもって、ルナビゥムを掘りに行って下さい。私は四時間あとにそこへ追いつきますから……」
 カンノ博士は、つつましく、そういった。しかし博士は自信をもっているらしかった。
「では、そうしよう。人選をしたまえ、カンノ君」
 隊長が許した。
「ぼくを、その一人に採用して、ここへ残していって下さい」
 正吉は、まっさきに名乗りをあげた。
「なんだ、少年がここに残りたいのか。よろしい。正吉君は員数外だ。希望なら残ってよろしい」
 マルモ隊長は笑いながら、正吉の希望をいれた。
 カンノ博士は、そこで五人の人選をした。カコ技師の外は、大した腕のある者はいなかった。
 それが決って、隊長以下は三台の装甲車に乗り、いそいでこの倉庫第九号から出ていった。あとはカンノ博士ほか六名が残った。
「われわれは一時、探偵になったわけです。しっかり頭をはたらかせて、なぞを早くといて下さい。まず人骨の方から調べにかかりましょう」
 博士は倉庫の入口の方へ歩きだした。六名の者は、そのあとに従った。人骨はさっきのとおり洞門のそばに横たわっていた。風化(ふうか)して、ばらばらになっていた。しかし骨片の位置とその数からして、一人の人間の骨であることが誰にもよく分った。
「ねえ諸君。こういうことを、おかしいと思いませんか」
 とカンノ博士がすいりの糸口をほどきはじめた。
「この人骨は空気服もなんにも着ていないです。すると、行き倒れになった他の探検隊員だとは考えられないです。もしそうなら空気服ぐらいは、ちゃんとからだにつけているはずですからね」
「なるほど」
 他の隊員もあいづちをうった。
「するとこの人骨の主は、自分でこの洞門(どうもん)の扉をやぶり、中へはいってこの位置でぜつめいしたとは思われません。つまり何者かが、この人骨の主の死体をこの中へ投げこんでいったとしか考えられないのです。そうは思いませんか」
「いや、それにちがいないと思います。博士のすいりは、なかなかするどいですね」
「すると、何者がこんなことをしたか、扉をあのように曲げることも、ふつうの人力(じんりょく)ではできません」
 博士がことばをとめた。誰も意見をいう者がない。
「ぼくたち探検隊員をおどかすために、こんなことをしたのではないでしょうか」
 正吉少年がいった。そんな気がしたからである。
「おどかしのために……」
 博士も他の隊員も、正吉のことばに、びくっ、としたようである。
「そうかもしれない。月世界にはいろいろ、とうとい物がある。われらマルモ探検隊だけに独占させてはならないと思って、われわれを競争相手と考えている者もいるでしょう。その連中が、われわれに対してけいこくをこころみたのかな。それにしても人骨をほうりこんで行くとは、なんというやばんなやり方だろう」
 博士はそういってまゆをひそめた。


   かすかな人名(じんめい)


 正吉は、人骨(じんこつ)にもなれ、こわごわながら、そばへよって人骨をながめた。
「おや、ハンカチを持っているぞ、この人骨は……」
 骨は白く、ハンカチーフも白いので、今まで気がつかなかったが、ばらばらの人骨の下に一枚のハンカチーフが落ちていたのだ。
 この正吉の発見に、カンノ博士たちもおどろいてそばによった。そして博士は骨を横にのけて、ハンカチーフをひろいあげた。そしてひろげたり、裏がえしたりしていたが、
「あッ、ハンカチーフには、名前が書いてある。すみのあとがうすくなっているが、たしかにこれは名前だ」
 と、おどろいた様子。
「なんという名前ですか」
「待ちたまえ。ええと、モウリクマヒコと書いてあるらしい」
「えっ、モウリクマヒコですって、ちょっとそのハンカチーフを見せて下さい」
 そういったのは、正吉少年だった。
「さあ、よくごらんなさい」
 正吉はハンカチーフを見て、顔色をかえた。
「あ、これはぼくのおじさんのハンカチーフです。毛利久方彦(もうりくまひこ)といって、理学博士なんです」
「ああ、あの毛利博士。私も知っていますよ」
 とカンノ博士がいった。
「しかし博士は十四、五年前にどうしたわけか行方不明になったままで、その後消息(しょうそく)を聞いたことはなかった、するともしや……」
 博士の声がかすれた。
「すると、この人骨はおじさんの骨なんでしょうか。おじさんは、たしか探検に出かけたまま帰らないといっていましたがこの月世界へ来ていたんですね。しかしおじさんは、なんというなさけない姿になったものでしょう。おじさん、おじさん」
 正吉は人骨のそばにひざまづいて、涙をぽろぽろと流した。
 これには、他の人たちもげんしゅくな気持におそわれて、もらい泣きをした。
 その中でカンノ博士はちらばった人骨をよせあつめ、頭蓋骨の骨片をハンカチーフの上にのせていたが、その手をとめて急に目をかがやかした。
「ちょっと、これはおかしいぞ」
「なにがおかしいのですか」
「この人骨はね、君のおじさんの毛利博士(もうりはかせ)ではないよ、安心したまえ」
「ええッ、どうして、そんなことが分るんですか」
 正吉は、ふしぎに思って、聞きかえした。
「ちゃんと分るんだ。この人骨は現代の日本人の骨ではない。ずっと古い昔の人骨だ。それも百年前ではない。すくなくとも五万年ぐらい前の人骨だ。骨の形で、そう判定ができるんだ。五万年前の人骨、どうだね。君のおじさんの毛利博士の骨でないことは証明されたろう」
「ははあ、そうですか」
 正吉をはじめ、聞いていた他の隊員も、ほっと、安心のため息をついた。
「すると、おじさんはまだ生きているのかな。おじさんのハンカチーフが月世界に落ちているとすれば、どこかこの近所におじさんがいるかもしれない」
 正吉は、新しい希望をつかんだような気がした。しかしそれは同時に、新しい心配の種でもあった。
 カンノ博士は、ほかのことを考えていた。
(なぞの人物は、なぜ五万年も前の古い人骨をもって来て、洞門の中に投げこんでいたのだろうか。それはどういう考えなんだろう)
 なぞは、その外にもあった。五万年まえの人骨がどうして手にはいったのであろうか。それからそれへと考えていくと、ぶきみなおもいに、背中がぞーツと寒くなって来る。
 カンノ博士は人骨問題はそれくらいにして、ルナビゥムを入れてあった倉庫をもう一度よく調べて、どこかに異常でもあるのではないか、それを発見したく思い、隊員たちに、奥へ行くことを命じた。
 が、そのときであった。とつぜん、外に待たせてあった装甲車が発した警報が、カンノ博士たちのところへ届いた。
「なんの警報」
 といぶかう折しも、警報信号が消えて、電波にのった運転手の声がひびいた。
「たいへんです。マルモ隊長など九台の装甲車が、トロイ谷のところで、かいぶつの一団にとりかこまれてしまって、危険におちいっているとの無電がはいりました。すぐこの装甲車へ帰って来て下さい」
 運転手の声は不安にふるえていた。
 正に一大事だ。ぐずぐずしてはいられない。カンノ博士は一同をひきいて、洞門の外へとび出した。外はまっ暗だった。黒いうるしでぬりつぶしたような暗黒の世界だ。急に夜のとびらが下りたものらしい。
 さて探検隊の前途には何があるのか。その恐ろしき怪物の一団とは何物の群であろうか。


   トロイ谷(だに)


 話は、すこし前にもどる。
 トロイ谷(だに)へ向ったのは、マルモ探検隊長のひきいる二十五名の隊員で、九台の装甲車にのっていた。けわしい岩山を、いくたびか上ったり下りたりして、隊員の幹部にはなじみの深いトロイ谷へついた。
 一同はしっかりと空気服をしめ直し、地上へ下りた。車の中からは、採掘具(さいくつぐ)がとりだされ、めいめいの手に一つずつ渡った。これは圧搾空気(あっさくくうき)ハンマーに似た形をしていたが、原子力で動くものであるから、長い耐圧管(たいあつかん)もなければ、ボンベもなく、構造はずっとかんたんになっていた。
 全く、原子力時代となった故(ゆえ)に、交通機関ばかりではなく、土木も建築も製造工業も、たいへん楽になってしまい、昔の人に聞かせたら、それはでたらめの夢だ、といって信じないであろうことが、今はごくかんたんにやりとげることができるのだ。
 一同は、早い時間のうちに、必要なだけのルナビゥムを掘り出す必要があったから、マルモ隊長までが、その原子力ハンマーを操(あやつ)って、ルナビゥムを掘りにかかった。
 さいわいに、この前掘った旧坑が、そのまま残っていて、ルナビゥム鉱は、青白く光っていたので、すぐに仕事にとりかかれた。全員は夢中になって働いた。
 それがよくなかった。
 こういう場合、やっぱり監視員を立たせておくのがよかったのだ。全員が掘っているため、彼らは自分たちの様子をうかがっている異様(いよう)ないでたちの一団がそば近くにいることに気がつかなかった。
 その異様ないでたちの一団は、トロイ谷を見下ろす峰々から、そっとマルモ隊を見まもっていた。
 彼らは、全身を甲虫のようなもので包んでいた。頭や両手、両足のあるところはマルモ隊の人々と同じであったがしかしそれは、マルモ隊員がつけている空気服みたいにすんなりとしたものでなく、わら人形のからだに鉄板(てっぱん)をうちつけたような感じのするものだった。そしてその鉄板は、横へ長いものが重なり合っていると見え、甲虫(かぶとむし)のからだのようであった。
 その頭部は、しいの実のように、大部分は円筒形であるが、上は、しいの実のようにとがっていた。そしてまん中あたりに、目の穴ではないかと思われるものが二つあった。
 それが目だとすると、狐(きつね)の目のようにつりあがっているといわなくてはならない。
 そういう異様ないでたちの一団が、みんなでかれこれ四、五十名も、峰々から下をうかがっているのであった。太陽の光が、彼らの頭やからだの側面を、くっきりと照らし出していた。
 とつぜんあたりが暗くなった。
 太陽が没(ぼっ)したのである。そして夜が来たのだ。
 月世界においては、空気がないために、地球上の日暮のように、じわじわ暗くなるようなことはなく、いきなり暗くなる。たそがれのうす明りなどというものはなく、いきなり闇がおとずれるのだ。
 日の暮れるのを、異様な一団は待っていたようである。暮れると同時に、異人(いじん)の中から一人が立ち上った。と、彼のからだがほたるいかのように光った。全身に、光の点々があちらこちらにあらわれ、それが明滅(めいめつ)する。
 と、そのそばにいた他の異人が、またすっと立ち上って、全身をほたるいかのように光らせる。
 間もなく、異様な一団の全部が、みんな自分のからだを気味わるく光斑(こうはん)で明滅させるようになった。
 すると最初にからだを光らせた者が、急に光の明滅をとめた。そのかわり彼の首の下のところに、光の輪が出来た。それはもう明滅しない。彼は峰を越して、そろそろと下りはじめた。他の異人たちも、いつしか同じように、首の下だけに光の輪をこしらえ、頭目(とうもく)らしい者のあとについて斜面(しゃめん)を下っていった。彼らの動作は、いかついからだのわりに身がるに見えた。
 一方、マルモ探検隊の方は、急に日が暮れたものだから、一同はそれぞれ空気兜(くうきかぶと)のひたいのところにつけてある電燈をつけた。これがつくと、すぐ正面にあるものには光があたって、明るく見える。
 それから、九台の装甲車のヘッドライトを全部つけて、ルナビゥムの野天掘(のてんぼ)りの坑区を照らさせた。そして仕事をすすめたのであった。そこへとつぜん、どどどどとすごい地ひびきをさせてあらわれた異人の群だ。口もきかずに探検隊員めがけて組みついた。
「あッ何者だ」
「なにをするッ。あ、隊長。あやしい奴です」
「らんぼうするな、しかたがない。隊員はこっちへ固(かた)まれ。そしてらんぼうする相手に反抗しろ」
 マルモ隊長は、ついに争闘(そうとう)を命令した。
 このらんぼうなる異人の一団は、何者であろうか。


   大暗闘(だいあんとう)


 なにしろその異人(いじん)たちはなかなか力があって、マルモ探検隊員は圧迫されがちであった。その上に人数も相手の方が倍ぐらい多いのである。形勢はよくない。
 隊員たちは武器を持っていないわけでなかった。だがマルモ隊長は、それを使うことを命じなかった。隊長としては、出来るだけ平和的手段でもって事をかたづけたかったからである。だが、困ったことに、相手とはことばが通じない。電波を出して、
「もしもし、君たち、らんぼうは、よしたまえ。話があるなら聞きますよ」
 と呼びかけても、相手はさっぱり感じないのであった。
 その上、相手は力がある。マルモ隊長は、隊員を一つところにあつめて円陣(えんじん)をつくり、まわりからおどりかかって来る相手めがけて、そのへんにころがっている大きな岩石をなげつけさせた。そうして相手を近づけないようにするためだった。
 月世界の上では、同じ大きさに見える岩石(がんせき)でも、地球の上で感ずる重さの六分の一にしか感じない。だから大きな岩石を隊員はかるがると持ちあげて遠くまでなげとばすことが出来た。
 ところが異人たちは、それには閉口(へいこう)せず、遠まきにして目を光らかせ、すきをみては、とびこんで来た。岩石をなげつけられても、けがをして血を出すようでもなかった。
「ははあ、こっちが疲れるのを待っているのだな」
 マルモ隊長は、そう気がついて、どきんとした。なにしろ相手は、ますます活発(かっぱつ)にあばれてみせるのだった。
 そのうちに、相手の一部が、場所をかえて、装甲車の方へ近づいていった。
「あ、装甲車をうばわれては、たいへん」
 マルモ隊長はおどろいて、隊員の半分をさいて装甲車の方へ急行させた。
 その人たちは、装甲車の中にはいって、それを運転して走りだした。すると異人たちは、それを追いかけた。平地なら装甲車はどんどん走れるが、ここはトロイ谷(だに)である。道はでこぼこしている上、どっちへ走ってもすぐ崖(がけ)につきあたりそうになる。そうなるとスピードが出せない、いつの間にか装甲車の上に異人たちが三、四人ずつのって、天井をこわそうと、大きなこぶしをふりあげて、がんがんと叩く。そこを叩きわられてはたいへんだ。
 上にのっている異人たちを、銃でもって射ちおとしたいと思ったが、上にのっているのでは射ちようがない。おまけに夜の闇は深くて、相手の姿をしかと見つけるのも容易なことではなかった。
(これは手おくれとなったかな。もっと早く、武器をとって相手をおっぱらうのがよかったかな)
 隊長も、さすがに暗い気持ちになった。
 たしかに手おくれに見える。このままでは、一同は、異人群のために捕虜になるか、うち殺されるかのどっちかだ。
 ああ、重大なる危機来る!
 そのときだった。とつぜん異人たちがさわぎだした。装甲車の上にいた異人(いじん)が四人、五人、風にさらわれたように吹きとばされたのである。とまたつづいて四、五人が、下にもんどりうってつきおとされた。
「や、カンノ君が、かけつけてくれたぞ。カンノ君は機銃(きじゅう)で異人たちを射っているそうだ」
 マルモ隊長の受話器にも、他の隊員の受話器にも、カンノ博士の声がはいって来て、一同をはげました。
 カンノ博士と正吉少年と、その他に三名の隊員が、装甲車の上から、異人たちにもうれつな機銃の射撃をおくっていた。他の一人の隊員は、その装甲車を操縦した。ヘッドライトは消して近づいたので、異人たちは、ふいをくらった形だった。
 この機銃は、普通のように金属の弾丸を射ち出す機銃ではなかった。これに使っている弾丸は、銃口から射ち出されると同時に、その弾丸の中で摂氏五百度の熱を発生するようになっていた。しかもこの弾丸は、この熱の発生と共に弾丸の外側がぐにゃりとしたゴムのように軟化し、あたった物にぺったりと付着するのであった。そうして、叩き落とそうとしても離れないのだ。
 しかし二時間たてば、熱も消え、ぽろりと落ちる。――これは熱弾(ねつだん)というが、別に「お灸(きゅう)の弾丸」ともいわれるものであった。相手の生命をとるというほど危険なものでなく、二時間ばかり相手を熱さになやませるだけだ。つまりこの弾丸の命中したものは二時間お灸をすえられているようなもので、従って、力なんか出せない。この熱弾の中には、二種の薬品がはいっていて、発射されると同時にこの二つが作用して、あの高熱を発するようになっているのだ。
 そのような熱弾をくらった異人たちは、びっくり仰天。
「あっ、あつい、あつい」
「わあ、あつい。助けてくれ」
 とでもいうかのように、目を白黒、からだをゆがめて大地をころがり、どことも知れず、闇の中にみんな姿を消してしまった。


   月人(げつじん)の説


 マルモ隊長をはじめ、救われた人々は、大よろこびであった。
 カンノ博士や正吉たちをとりまいて、感謝のことばをおくった。
「あんなおもしろいことは、今までになかったですよ。あいつらは、今もなお、お灸(きゅう)をからだにくっつけて、『あつい、あつい』と悲鳴を挙げているんだと思うと、おかしくておかしくて……」
 そういって笑いこける正吉少年だった。
 みんなも笑った。
「熱弾が、こんなところで最初の手がらをたてようとは、思わなかったねえ」
 と、この熱弾機銃の発明者であるカンノ博士も、にやにや笑っていた。
「さあ、急いでここを引揚げよう。ああいう敵があると分ればぐずぐずしていられない。みんな急いで装甲車へ乗れ。そして急ぎ本艇へかえるのだ」
 マルモ隊長は、引揚げを号令した。
 掘りだしたルナビゥムは、必要量の三分の一にすぎなかったが、今はそれでがまんするほかなかった。一同は前のとおり装甲車に分乗し、急いでトロイ谷(だに)をはなれた。
 一号車の中で、マルモ隊長を中にして、カンノ博士などの幹部や正吉が、今日とつぜん現われた怪しい相手について、意見をのべあった。
「地球をくいつめた強盗団の一味ではないでしょうか」
「彼らはみんなばかに力が強かったですよ。そしてからだもずっと大きく見えた」
「すると何国人(なにこくじん)のギャングかな」
「いや、あれは、われわれの世界の人間ではないと思う」
 そういったのは、マルモ隊長だった。
「地球をくいつめた強盗団ではないとおっしゃるのですか」
「うん。早くいえば、月人だと思う。つまり月世界に住んでいる人間なんだ」
「それは、おかしいですね。月は死の世界で、冷(ひ)えきっています。そして空気もなければ水もない。それなのに、月の世界に住んでいる人間があるんですか」
 これは正吉の質問だった。
 すると、マルモ隊長は、にっこりとうなずいて、
「もっともだ。そういう疑問を持つのは。だがね、この死の世界と見える月にも、あんがい生物が住んでいられるかもしれない。実は今までわしは、月世界には生物なしという考えでいたので、今日まで問題にしていなかったが、今日ばかりは恐(おそ)れいったよ、カンノ君」
 マルモ隊長はカンノ博士を見で、微笑(びしょう)した。
「カンノ博士が、どうしたんですか」
 正吉が、たずねる。
「月世界に生物が住んでいられるかもしれないというのは、実にカンノ君のたてた説なんだよ。君、話してやりたまえ」
「はあ。それでは、かんたんに申しますが、元来月は、地球の一部がとび出して、この月となったのです。おそらく今太平洋があるところあたりから、抜けだしたのであろうといわれています。ことわっておきますが、これは私の説ではなく、昔から天文学者の研究で唱(とな)えられている学説の一つです」
 正吉はカンノ博士の、この奇抜な説に、ひじょうな興味をおこして、前にからだをのりだした。
「これから後が、私の説なんですが、しからば月が地球を離れるとき、動物も植物もいっしょに持っていったに違いない。そして条件さえ、よければ、月の上で、しばらくはその動物や植物が繁殖(はんしょく)し、繁茂(はんも)したに違いない」
「おもしろいなあ」
「そのうちに、月世界の上にある大異変が起って、だんだん冷却してきた。そこで動物や植物の多くは死んで行き、枯れていった。しかし動物の中で、文化の進んでいた者――つまり人間でしょうね、この人間たちは早くも身をまもることを考え、その仕事にとりかかった。どうしたか分からないが、その人間たちの子孫は今も月世界の中に住んでいると考えられないこともない。たとえば、地中深くもぐりこんで、地熱を利用して生活し、あるいはまた別に熱を起し、空気を作り、食物を作って相当高級な生活をしているのではあるまいかとも考えられる」
「でも、その頃の人間は、あまり文化が進んでいなかったのでしょう」
 正吉のねっしんな質問だ。
「いや、そうともいえない。五千年以前における人間の文化のことは、ほとんど知られていないが、それより以前に住んでいた人類がすばらしい文化を持っていたことが、方々から出る遺跡によって、ぼつぼつ知られはじめている。そういう古い文化民族は、ふしぎにもみんな全滅しているのが多いらしい。どういうわけで絶滅したのか。おそろしい流行病にやられたか、洪水や氷河期のような天災でやられたのか、とにかく何かのおそろしい事件のために絶滅したらしい。しかも、何度もこんなことが、別々の時代にくりかえされたらしい。それを思うと、この月世界の人間も、かなり高い文化を持っていたのではないかと思われる。だから月人は、ばかになりませんよ」
 カンノ博士のことばに、正吉は今までにない感動をおぼえた。月人は、きっと実在するのにちがいない。


   ハンカチーフの研究


 やっとのことで、装甲車隊は、宇宙艇「新月号」が待っているところへ帰りつくことができた。
「ああ、よく帰って来たね」
「ずいぶん心配していたよ。ここに残っている私たちは、ついに悲壮(ひそう)なる最後の決心をしたほどだ」
「いや、心配させてすまなかった。みんな、助かったよ。ありがとう。ありがとう」
 迎える者も迎えられる者も、ともに涙をうかべて、抱きあった。
 装甲車は、すぐさま宇宙艇の中に格納(かくのう)せられた。
 マルモ隊長は、厳重な見張をするように命令した。それは、例の月人たちが、いつ逆襲(ぎゃくしゅう)してくるか分からなかったからである。
 トロイ谷で掘って来たルナビゥムは、大切に倉庫へしまいこまれた。
「どうだい。今日採(と)ってきたルナビゥムだけで、これから火星を廻って、地球へもどるのに十分だろうか」
 隊長は、機械長のカコ技師にきいた。
「とてもだめですね。どうしても、今日採(と)ってきた量の三倍は入用(にゅうよう)ですね」
「あと、どれだけいるのか。それでは、明日もう一度トロイ谷へ行って掘ることにしよう」
「しかし隊長。トロイ谷へ行くことは、たいへん危険だと思いますが……」
「危険は分っている。しかし火星へ行くのをやめて、このまま地球へ引っ返すこともできないと、みんなはいうだろう」
「それはそうですね」
「そうだとすれば、われわれはもう一度危険をおかさなくてはならない」
「やっぱり、そういうことになりますかなあ。あの倉庫第九号に貯えておいたルナビゥムが盗まれないであれば、こんな苦労をしないですんだのですがね。あれを盗んだ犯人は、もう分かったのですか」
「カンノ君が調べていたんだが、その調べの途中で、僕たちがトロイ谷から救いをもとめたので、カンノ君は捜査(そうさ)をうち切って、われわれの方へかけつけたのだ。そういうわけだから、カンノ君はまだ犯人をつきとめていないだろう」
 隊長とカコ技師がそういって話をしているところへ、正吉がひょっくり顔を出した。
「あ、隊長。お願いです。ぼくをもう一度、倉庫第九号へ行かせて下さい」
「あぶないよ、それは。しかし、どうしてもう一度行きたくなったのか」
「ぼくは、おじさん毛利博士の最後を見とどけたいのです。あの倉庫をもっとよく探せば、おじのことが分かると思うのです。それにカンノ博士も、ぼくもいっしょに行ってもいいといっておられます」
「なに、カンノ君までが、そういうのか。みんな自分の生命をそまつにするから困る。もし一人がたおれると、その人だけの損ではなく、わが探検隊全体が弱くなるんだから、そこを考えて自重(じちょう)してもらわないと困る」
「はい」
 そういわれると、正吉はそれでも行かせてくださいとは、いいかねた。そして、しおれて、カンノ博士のところへ戻っていった。
 カンノ博士は、正吉の方へちらりと目をやっただけで、また机に向かった。
 机の上には、顕微鏡がある。それから化学実験用の道具が並んでいるが、これは四角い鞄の中にはいっていて、いつでもこれをしまって、鞄の形にして携帯できるようになっている。
 博士が顕微鏡を使ってのぞいているのは一枚のハンカチーフであった。これは倉庫第九号の入口のところで拾ったもので、五万年前の人骨が横たわる下にあったものだ。
「うん、よしよし。なるほどなあ」
 博士はひとりごとをいった。
 正吉は、何事だろうと、博士のそばへそっと寄(よ)っていった。すると博士は、気がついて正吉を手招きした。
「おい君、私は今一つ、発見したよ。このハンカチーフの主――つまり君のおじさんの毛利博士は、少なくとも今から三ヶ月前までは生きていたという事実が分かった。それはこのハンカチーフについている博士の身体からの分泌物(ぶんぴつぶつ)の蒸発変化度(じょうはつへんかど)から推定して今のようにいうことができるんだ。どうだね、この発見は君に何か元気を加えることにはならないだろうか」
「ああ、そうですか。しかし三ヶ月前まで生きていたことが分かっても、大したことではありませんね。今、生きているかどうか、それを知りたいです」
 正吉は、あまりうれしがらなかった。
「ふーン。君はこの発見を、その程度の値打にしか考えないのか。私なら、もっとよろこぶがなあ。つまり三ヶ月前に生きているものなら、今も生きているだろうとね。三ヶ月なんか、この月世界ではなんでもない短い期間だよ」
「そうでしようか。ぼくは、おじが現在生きている姿を見せてくれるまでは、うれしがらないでしょう」

「おやおう。だいぶんごきげんよろしくないようだ。そんなに悲観してしまっては困るね」
 せっかくカンノ博士がわざとそういったのだと思い、よろこぶ気になれなかったのである。


   迫(せま)る怪影(かいえい)


 警鈴(けいれい)が、この宇宙艇「新月号」の隅(すみ)から隅までに響きわたったのは、その直後のことであった。
「あッ、警鈴(けいれい)だ」
「なんだろう、今頃警鈴が鳴るなんて……」
 正吉もカンノ博士も、共に耳をそばだてて、警鈴の次に高声器からとび出してくるはずのアナウンスを待ちうけた。
「月人(げつじん)一名が本艇右舷の第三門口を破壊しようとかかっている――艇長命令。全員直ちに配置につけッ」
 さあ、たいへん。月人の来襲(らいしゅう)である。
 来襲した月人は、今のところたった一人だというが、ゆだんはならない。第一番に偵察者がやって来て、そのあとに雲霞(うんか)のようにおびただしい月人隊がおし寄せるのかもしれない。
 カンノ博士は、すぐ操縦室にとんでいった。正吉も、博士のあとについて、その室へはいったが、彼はテレビジョンの下へいって、月人を見ようとした。
 見える、見える、
 たしかに月人だ。トロイ谷で見かけたとおりの月人の姿をしたものが、第三門口を、拳(こぶし)でがんがん叩いている。カブト虫みたいな気味のわるい身体。上がとんがったのっぺらぼうの頭。その上に黄いろく光って見えるキツネのようにつりあがった二つの目。たしかに月人だ。
「早く撃ったがいい。艇をこわして、中へはいってこられたらたいへんだ」
「そうだ。やっつけた方がいい。トロイ谷で、きゃつらは勝ったように思っているのだ。こっぴどくやっつけてやるがいい。」
 隊員たちは、トロイ谷で月人からひどい目にあわされたので、今こそ月人をたおして、地球人の威力(いりょく)を見せるときだと、いきまいている。
 マルモ隊長の耳にも、隊員たちの声がはいった。しかし、彼はおちついたおだやかな人物であったから、一人の月人をここで倒すよりも、もっと外にいい方法はないものかと、もう一度考えた。
 そのときだった。正吉が隊長の腕に飛びついたのは。
「隊長さん。あの月人は、ぼくのおじの毛利博士だと思います。だから、手荒なことはしないようにして下さい。」
 正吉のことばは、隊長をおどろかすのに十分であった。
「なに、あれが毛利博士だって。それが、どうして君に分る。」
「そういう気がしてならないんです。それにああして戸を叩く格好が、おじに違いないと思うんです。中へいれた上で、よく調べることにしてください。」
「だが、もしほんとうの月人だったら、困ったことになるよ。そのとき君の立場がなくなるが、いいかね」
「ええ、いいですとも。ぼくは自分の責任をとります」
 正吉は思い切ったことをいった。
 それというのも、さっきカンノ博士の説明を聞いてからこっち、なんだかおじの毛利博士がまだ生きているような気がしてきたのだ。実はあのとき正吉は、カンノ博士の説をあまり信じないようなことは、いったものの。
「隊長。あの月人の姿をした者は、正吉がいうとおり、たしかにわれわれと同じ地球人ですよ。ああいう戸を叩く仕草は、地球人独特の仕草です。月人なら、あんなことはやらないでしょう。ですから、戸口を壊(こわ)して侵入するつもりなら、体当りするとか、すごい道具を持ってくるとか、もっと大げさなことをやると思いますよ」
 そういったのは、カンノ博士だった。博士はいつの間にか正吉のうしろに立っていたのだ。
「なるほど。よろしい。君たちの意見に従って、あの疑問の人物を、中にいれてみよう」
 隊長は、そこで命令を発した。
 命令が出たので、隊員は反対するのを即座(そくざ)にやめた。そして厳重警戒のもとに、戸口を開いて、かの疑問の月人を艇内にいれた。
 かの人物は、両手をあげて、よろめきながらはいって来た。そして急いで自分のかぶっていた兜(かぶと)をぬいだ
 ああ、その下から現われたのは、正しく地球人の顔だった。苦労にやつれた白髪(しらが)の老人の顔だった。
「あ、おじさん。ぼくです。正吉です」
 老人の方へかけだしていった少年こそ、もちろん正吉であった。


   事態は重大


 おそるべき敵と思ったのが、そうでなくて、なつかしい地球人だった。しかも探検家として尊(とうと)い経歴を持つ毛利博士だったのである。
 艇内は、恐怖よりとつぜん歓喜(かんき)に変わって、どっと歓声があがった。
「おお、ようこそ、毛利博士」
「ほう、やっぱりあんたじゃったか、マルモ君」
 毛利博士――これからはモウリ博士と書くことにしよう――そのモウリ博士とマルモ隊長とは手をとりあってふしぎな再会をよろこびあった。
「正吉までに会おうとは思わなかった。正吉をよく世話して下されて、お礼のことばもないですわい」
 モウリ博士は、正吉の顔を穴のあくほど見つめる。そうでもあろう。正吉を冷蔵球(れいぞうきゅう)の中に入れで日本アルプスの山中においたまま、約束の二十年後にその球を開いてやることも出来ず、今までそのままにしておいたのであるから、ここで正吉に会って博士がびっくりするのも無理ではない。
「正吉君との間には、積(つ)もる話があるでしょう。まあ、ゆっくりお話なさい」
 と、隊長はいった。
「いや、話は山ほどあるが、そんなことをしていられないのじゃ」
「と、おっしゃると何か――」
「重大事があるから、わしは危険をもかえりみず、老衰(ろうすい)した身体にむちうって駆(か)けつけてきたのですわい。そのことだ、そのことだ。マルモ君早くこの土地をはなれないと、月人の大集団が、この宇宙艇を襲撃して、全員みな殺しになるよ」
「それはどうして――」
「分っているじゃないか。月人たちはトロイ谷のことをたいへん恨(うら)みに思っている」
「いつ来襲するのでしょうか、月人たちは」
「今、さかんに武器や空気服をそろえにかかっている。あと二、三時間たてば、かならずここに押しかけてくるだろう」
「えっ、たった二、三時間しか、猶予(ゆうよ)がありませんか」
「二、三時間あれば、この月世界から離陸することはできるじゃろう」
「それはできますが、本艇はルナビゥムをもっとたくさん手にいれなくては予定の宇宙旅行ができないのです。実は倉庫第九号に、そのルナビゥムがかなり豊富に貯蔵してあったのですが、こんど来てみると、それがそっくり盗まれているのです。全く困りました」
「ああ、あの倉庫のルナビゥムのことか」
「おや。モウリ博士は、あの倉庫のことをご存じですかな」
「知っていますよ。あれも月人がやったことです。あとでくわしく話すが、あの倉庫のことを、たいへん気にしているのです。もちろんルナビゥムの用途(ようと)についても、彼らは勘(かん)づいていますのじゃ。
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