蠅男
著者名:海野十三
若き夫婦は、感激のいろを現わして、この素朴ながら念の入った贈物を感謝した。
ベルの音がハタと止った。いよいよ発車である。見送りの人たちは、いいあわせたように両手をあげて、二人の新しい生活の門出に万歳をとなえた。
「帆村探偵、ばんざーい」
「花嫁糸子さん、ばんざーい」
いまは夫と仰ぐ帆村荘六とチラリと目を見合わせて、新婦糸子は羞(はずか)しそうにパッと頬を染めた。
それを望んで、見送り人たちの中から、また大きな賑やかな拍手が起った。
列車は測(はか)りきれない幸福を積んで、徐々(じょじょ)に東へ動きだした。
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