岩石の間
著者名:島崎藤村
「お前もナカナカ隅へは置けなく成ったよ」
二人とも鼻へ皺(しわ)を寄せて笑った。
「お前のお友達は、それで何て言ったネ」と高瀬は聞いた。
「旦那(だんな)さんが今洋行してますから、ちと高瀬さんにも遊びに被入(いら)しって下さいって」
「俺にか。旦那さんが居るから遊びに来いッてんなら解ってるが、旦那さんが留守だから遊びに来いは可笑(おか)しいじゃないか」
復た二人は笑った。
鞠子は大工さんの家の娘にも劣らないほど、いたずらに成った。北風が来れば、槲(かしわ)の葉が直(す)ぐ鳴るような調子で、
「畜生ッ。打(ぶ)つぞ」
髪を振って、娘は遊び友達の方へ走って行った。
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