猟奇の街
著者名:佐左木俊郎
看護人が笑いながら言った。そして、彼女を引き立てようとした。
「坊やを返してください。坊やと松島を返してください」
「この人は死んだ赤ちゃんを、まだ生きていると思っているのだわ」
看護婦は気の毒そうに微笑みながら言った。
「で、この人の言う、その松島という人はいったいどうしたんだい? 生きているのかい? 死んだのかい?」
看護人が真面目な顔で訊いた。
「それがはっきり分れば、この病人は治せるって院長先生はおっしゃっているのよ」
「はっきり分かれば治るんですって? よし! おれが行って話してやる。はっきりと、何もかも話してやる。洗い浚(ざら)い話してやる」
彼は叫ぶように言いながら、ひどく昂奮(こうふん)した。彼は顔を赤くして、投げ出すような歩調で看護婦たちのほうへ歩み寄っていった。
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