小熊秀雄全集-08
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著者名:小熊秀雄 

正しく翳るものとの下
で愛は完全な正しい
太陽の光の下の表現であつてほしい、
からだと心をよじらせながら
どこまでも着かず離れず愛し合はうとする
あなたの気持が判らない、
わたしは別れてゆかう
あなたからのお土産である
心の混乱を抱へて――、
古い道徳愛の形式の洞穴(ほらあな)から
あなたは出ない
どんなに私を悲しませるか、
火遊びの相手として
私を焼き殺すのは
あまりに私が可哀さうでせう、
でなければ時間に休息がないやうに
あなたと私との愛にも休息がない
賭けるべきものは賭けるべきだ。


ゴシップに就いて

私の一挙手、一投足は晒されてしまつた、
いまさら容子ぶつて
テーブルスピーチも嫌なことだ、
好きなあなたは露出(むきだ)しに愛さう、
あなたとの散歩も怖れない、
あなたは少し怖れてゐるやうだ、
ゴシップの乱れとぶことを、
私は北海道の吹雪の荒れた中で
かつて私は雪の中に埋れた
木を焚ものにするためにひきだしてゐたとき
自然も人間も誰も私を愛してくれなかつた、
不幸な貧乏人の子せがれであつた、
今都会でいささかの詩をつくり
寵児らしくふるまつてゐる、
そしてあなたたちにも愛されてゐる、
そして私のゴシップを
探してゐる耳が沢山ゐる
なんの怖れることがあらう、
真直に立つてあるいてゐるとはいふものの
私はさかさはりつけのやうな
貧しい生活をやつてゐるのだ、
上からでも下からでも
私の行動を自由に観察してくれ給へ、
なんの怖れることがあらう、
ゴシップの傍杖を喰ふことが
怖ろしかつたら
愛人よ、
御自由に御引取り下さい、
私はさびしい北国の村で
海のどうどうといふ岸打つ波音に
楯ついて何年かすごしてきた、
世間の噂は自然のあの波音より
大きいやうなことも
永遠につづくやうなこともあるまい。



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