小熊秀雄全集-06
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著者名:小熊秀雄 

    24

権太郎はその時倒れた犬小屋から
橇を曳きだしてきて
山林官の体をその上に横たへ、
犬たちの首輪を海豹製の
引綱にそれぞれつなぎ
すべての準備が終つたとき
先頭犬太郎を最後に綱につけ、
己れも橇にまたがつた。
皮の鞭をピューと空にふると
犬達は一斉にひきだした、
犬は矢のやうに
海岸に添つて走りだした、
トウ、トウ、トウ、トウと絶えず叫び
アイヌは橇の上で
犬達を適宜に激励し、勇気づけ、
橇は十里の路を隣り村まで
負傷者の手当と救援を求めるためにとんでゆく、
二度三度この軽快な橇は
雪の上に転覆した、
すると犬達はピタリと停まる、
先頭犬はたえず神経を昂揚させ
驚ろくべき神経の緻密さを示しながら
主人の意志を正しく
犬たちに伝へる、
アイヌは犬の訓練の
技術のありつたけを傾け
負傷者の苦悶の声をのせて
橇は海伝ひに雪明りの路を飛んでゆく。



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