小熊秀雄全集-13
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著者名:小熊秀雄 

日本でもゼイタクな詩人は
文字を引き廻すことにかけては
天才だが、
さつぱり人間の真実を語つてゐない、
風がもつてくるウナリに耳傾けて
少しは嵐の気配を知つてもよいのに
彼等は焼けたフライパンの上で
徒にとびはねる油のやうに
身の置きどころないよと
騒ぎまはつてゐるだけだ、
皮肉に冷静に歌はう
支那と日本のプロ詩人よ、

雷(7) 青緑の野原
静かな川
茫茫な海
大自然よ、
お前は原始の平和へ
くり返すことも出来るか
やかましい恐怖の騒音
一本の草さへも怖気がする、
又歴史の新段階への前夜に
空前的(ママ)激しい突変
処々に伝へてる
爆発のシグナルを、
我々も具体的
正確的に準備しなければならん、
歴史に背負はされる
重大な役割を。

小熊(8)反逆的な夜明け前の
ただならぬ陣痛は
巣の中からきこえてくる、
雌鶏よ
われらが蹠をもつて
歴史を押へよ、
羽毛をまきちらして
いま何を激しく
雌鶏たちは身ぶるひしてゐるか、
この瞬間のために
鶏舎の中の鶏共は
みな汗を掻いて
合唱(コーラス)してゐる
新しい苦痛よ、
お前は生れた、

雷(9) 私は涙の流れを忘れた
腹の飢えを忘れた
喜びも、悲しみも
恐れも、又死ぬことも。
まるで、山山への狩猟者のやうに
発現(ママ)されぬ処への探険者のやうに
又戦場への(ママ)出発してゐる兵士のやうに。
私は自信をもつて
自分の勇気と毅力を加へる
最後の目的を到達しようと、
出来なくても
新らしい時への奉仕を
尽くさねばならん。

小熊(10)人々の生活の茫然へ
わたしは何かを投げいれよう
火薬のやうなものを
跳ねとぶものを、思想を、
そして私へ与へられた仕事は
人々の生活へ衝撃を与へることだ、
愚劣な到底ガマンの出来ない
人々の生活の反覆性を
誰が一方で支配してゐるか
我々はそれを知つてゐる、
私はこの支配へ貢ぎ物をする、
到底受けとることの出来ない
はげしい特別な思想を――、

雷(11)我々はどうしてもまけない
まけだらうかとも思はぬ
ある場合に襲撃すべきか
退守すべきかの術を択ぶだけだ。
それは気取るではなく、
決闘の精神がする(ママ)である
我々の信条を厳守するために
我々の生きるべき途へ
まつしぐらに進むために
理想の世界を憧れながら、
探射(ママ)燈で
まつ暗い夜幕をつぶして
遙かに伸びて行く航路をひらく、
太陽が大地を支配するまでに。

小熊(12)たたかふ術、政治はなだらかな自然さか
坦々たる路を坦々と
悠々たる川を悠々と
岩石にふれた瞬間
反逆的な思想は光彩を発して
飛沫は高く天にのぼる、
瞬間的な喜びへ
すぐ訣別の時がやつてくる、
あゝそして喜びや失望やらが前後して
美しく光つて河下へ下る


ハンマーマンの歌

力のかぎり
打撃(う)つことの
悦こびよ、ハンマーマン

整(ママ)確に
打撃(う)つことの
勝利よ、ハンマーマン

快楽は
打撃(う)つことの
労働よ、ハンマーマン

ハンマーマン
ハンマーマン

われらは鉄の友
われらは火の主人(あるじ)
われらこそは
ハンマーマン


便乗丸船長へ

君は次から次へと
波へ乗ることの巧みな
便乗丸の船長だ、
君はいつも地の利を応用する
またいつも太陽を背にして
このマブシイものを利用しながら
指導者ぶつて
号令をかけることを忘れない
ヒステリックにそして叫ぶ
――指路をさへぎるものは
 すべて罰当りだ――と
しかし我々はフンと笑つてやる、
君は海には悪擦れするほど
馴れてはゐるが
きつと一度はほんとうの海の塩辛い味を
知ることがあるだらう――。




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