王さまと靴屋
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著者名:新美南吉 

「それでは、こゆびのさきほどばかだとはおもわないか。」
と王さまはまたたずねました。
「おもわないよ。」
とマギステルじいさんはこたえて、靴(くつ)のかかとをうちつけました。
「もしおまえが、王さまはこゆびのさきほどばかだといったら、わしはこれをやるよ。だれもほかにきいてやしないから、だいじょうぶだよ。」
と王さまは、金の時計をポケットから出して、じいさんのひざにのせました。
「この国の王さまがばかだといえばこれをくれるのかい。」
とじいさんは、金づちをもった手をわきにたれて、ひざの上の時計をみました。
「うん、小さい声で、ほんのひとくちいえばあげるよ。」
と王さまは手をもみあわせながらいいました。
 するとじいさんは、やにわにその時計をひっつかんで床(ゆか)のうえにたたきつけました。
「さっさと出てうせろ。ぐずぐずしてるとぶちころしてしまうぞ。不忠者(ふちゅうもの)めが。この国の王さまほどごりっぱなおかたが、世界中にまたとあるかッ。」
 そして、もっていた金づちをふりあげました。
 王さまは靴屋(くつや)の店からとびだしました。とびだすとき、ひおいの棒(ぼう)にごつんと頭をぶつけて、大きなこぶをつくりました。
 けれど王さまは、こころを花のようにあかるくして、
「わしの人民(じんみん)はよい人民だ。わしの人民はよい人民だ。」
とくりかえしながら、宮殿(きゅうでん)のほうへかえってゆきました。




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