半七捕物帳
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著者名:岡本綺堂 

 この長い話をしてしまって、半七は新らしい位牌のまえに線香を供えた。

「お話はまあこれぎりなんですがね」と、半七老人はひと息ついて云った。「もう一つ不思議なことは、紋作と冠蔵が一度に居なくなったので、芝居の方では急に代り役をこしらえて、いよいよ十二月の初めから初日を出すと、三段目の幕が今明くという時に、師直と判官の首が一度にころりと落ちたそうです。冠蔵と紋作の執念が残っているのか、人形にも魂があるのか、みんなも思わず慄然(ぞっ)としたそうですが、興行中は別に変ったことも無くて、大入りのうちにめでたく千秋楽になりました。兎欠脣の定吉という奴も、そのあくる年の正月にやっぱり酒の上で喧嘩をして、相手に傷を付けたので、吟味中に牢死しました。これも何かの因縁かも知れません」




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