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著者名:岡本かの子 

桜花(はな)の山はうしろに高し見はるかす淡墨いろのたそがれの海

いそがはしく吾(われ)を育ててわが母や長閑(のど)に桜も見で逝(ゆ)きませしか

十年(ととせ)まへの狂院(きやうゐん)のさくら狂人(きちがひ)のわれが見にける狂院のさくら

狂人のわれが見にける十年まへの真赤きさくら真黒きさくら

狂人(きちがひ)よ狂人(きちがひ)よとてはやされき桜花(さくら)や云(い)ひし人間(ひと)や笑ひし

ふたたびは見る春無(な)けむ狂人(きちがひ)のわれに咲きけむ炎の桜

わが夫(つま)よ十年(ととせ)昔のきちがひのわが恐怖(おそれ)たる桜花(はな)あらぬ春

ねむれねむれ子よ汝(な)が母がきちがひのむかし怖れし桜花(はな)あらぬ春

人間の交友(まじわり)のはてはみな儚(はか)な桜見つつし行きがてぬかなし
(来よと宣(の)らせる佐藤春夫氏に厚く謝しつつ)桜花(はな)あかり廚(くりや)にさせば生魚(なまざかな)鉢(はち)に三ぼん冴(さ)えひかりたり

生ざかな光りて飛べりうす紅(べに)の桜の肌の澄(す)みの冷たさ




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