英国メーデーの記
著者名:岡本かの子
一人はトラックによぢ下りて線路に軌条蹄鉄(メタルシューズ)を嵌め、それに繋がる小箱の外側に取り付けた十二の電球が一せいに燃えることによつて線路の電汁(ジュース)はまた多汁(ジューシー)であることを検査してゐた。その一人は電光に鋭く明暗の二面に対立させられた顔をこつちへ振り向けて言つた。
「日本のマダム。あなたはわたし共の仕事に好奇心を持つておゐでのやうですね。わたし共からのお土産(スーベニア)として面白い事実を聴かせてあげませう。この地下鉄(チューブ)のトンネルの中には冬でも蚊がいるんですぜ。トンネルの中は暖かいから。わし共は昼よく眠た健康な身体を運んで毎晩蚊に食物を供給してやりに行くのです。鼠ですか? 鼠はあんまりゐませんよ。」
附記、これは一九三〇年の英国メーデーの記事です。稚拙な文章もその当時のまゝです。
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