火の鳥
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著者名:太宰治 


 成功であつた。劇団は、「鴎座。」劇場は、築地小劇場。狂言は、チエホフの三人姉妹。女優、高野幸代は、長女オリガを、見事に演じた。昭和六年三月下旬、七日間の公演であつた。青年、高須隆哉は、三日目に見に行つた。幕があく。オリガ、マーシヤ、イリーナの三人の姉妹が、舞台にゐる。やがて、オリガの独白がはじまる。はじめ低くて、聞えなかつた。青年は、暗い観客席の一隅で、耳をすました。とぎれ、とぎれに聞えて来る。
 ――あの日、寒かつたわね。雪が降つてゐたんだもの。――あたし、とても生きてゐられないやうな、――でも、もうあれから一年たつて、あたしたちもその時のことを、楽な気持で思ひ出せるやうになつたし、――(時計が十二時を打つ。)
 ゆつくり打つ舞台の時計の音を、聞いてゐるうちに青年は、急にきよろきよろしはじめて、ちえつ、ちえつと、二度もはげしく舌打して、それから、つと立つて廊下に出た。
 僕は、あんな女は好まない。僕は、あんな女を好かない。あいつは、所詮ナルシツサスだ。あの女は、謙虚を知らない。自分さへその気になつたら、なんでもできると思つてゐる。なぜ、あいつは、くにを飛び出し、女優なんかになつたのだらう。もう、あの様子では、須々木乙彦のことなんか、ちつとも、なんとも、思つてゐない。悪魔、でなければ、白痴だ。いやいや、女は、みんなあんなものなのかも知れない。よろこびも、信仰も、感謝も、苦悩も、狂乱も、憎悪も、愛撫も、みんな刹那だ。その場限りだ。一時期すぎると、けろりとしてゐる。恥ぢるがいい。それが純粋な人間性だ、と僕も、かつては思つてゐた。僕は科学者だ。人間の官能を悉知してゐる。けれども僕は、断じて肉体万能論者ではない。バザロフなんて、甘いものさ。精神が、信仰が、人間の万事を決する。僕は、聖母受胎をさへ、そのまま素直に信じてゐる。そのために、科学者としての僕が、破産したつて、かまはない。僕は、純粋の人間、真正の人間で在りさへすれば、――
 などとあらぬ覚悟を固めたりしはじめて、全身、異様な憤激にがくがく震へ、寒い廊下を大胯で行きつ戻りつ、何か自分が、いま、ひどい屈辱を受けてゐるやうな、世界のひとみんなからあざ笑はれてゐるやうな、ゐても立つても居られぬ気持で、こんなときに乙やんが生きてゐたらな、といまさらながら死んだ須々木乙彦がなつかしく、興奮がそのままくるりと裏返つて悲愁断腸の思ひに変じ、あやふく落涙しさうになつて、そのとき、
「よう、」と肩を叩いたのは、助七である。「あなたは、初日を見なかつたね?」
 ――あたし、あなたの心持が、よくわかつてよ、マーシヤ。さちよのオリガが、涙声でさういふのが、廊下にまで聞えて来る。
「素晴らしいね。」助七は、眼を細めて、「初日の評判、あなた新聞で読まなかつたんですか? センセーシヨン。大センセーシヨン。天才女優の出現。ああ、笑つちやいけません。ほんたうなんですよ。おれのとこでは、梶原剛氏に劇評たのんだのだが、どうです、あのおぢいさん涙を流さんばかり、オリガの苦悩を、この女優に依つてはじめて知らされた、と、いやもう、流石のぢいさん、まゐつてしまつた。どれ、どれ、拝見。」背後のドアをそつと細めにあけ、舞台を覗いて、「何か、かう、貫禄(くわんろく)とでも、いつたやうなものが在りますね。まるで、別人の感じだ。ああ、退場した。」ドアをぴたとしめて、青年の顔をちらと見て、不適に笑ひ、「うまい! 落ちついてゐやがる。あいつは、まだまだ、大物(おほもの)になれる。しめたものさ。なにせ、あいつは、こはいものを知らない女ですからな。」
「あなたは、毎日、見に来てゐるの?」
「さうさ。」青年の無表情な質問に、助七は、むつとしたらしく、語調を変へた。「おれは、てれ隠しに、かうしてはしやいでゐるんぢやないんだぜ。君たちと違つて、おれは正直だ。感情をいつはることが、できない。うれしいのだ。ほんたうに、うれしいのだ。をどり出したいくらゐだ。社の用事なんか、どうにでも、ごまかせるのだから、毎日ここへやつて来て、廊下の評判を聞いてゐる次第です。軽蔑し給ふな。」
「それは、あなたは、うれしいだらうな。」高須は軽く首肯し、それでもやはり無表情のままで、「だんだん、あの人も、立派になつてゆくし。」
「えつへつへ。」助七は、急に相好(さうかう)をくづした。「知つてゐやがる。それを言はれちや、一言もない。あなたは、まだ忘れてゐないんだね。おれが、あいつを立派な気高い女にして呉れ、つて、あなたに頼んだこと、まだ、忘れてゐないんだね。こいつあ、まゐつた。いや、ありがたう、ありがたう。こののちともに、よろしくたのむぜ。」言ひながら、そつとドアに耳を寄せて、「あ、いけない。□ルシーニンの登場だ。おれは、あの□ルシーニンの性格は、がまんできないんだ。背筋が、寒くなる。いやな、奴だ。」青年の肩を抱きかかへるやうにして、「ね、むかうへ行かう。楽屋にでも遊びに行つてみるか。」歩きながら、「□ルシーニン。鼻もちならん。おれは、たうとう、せりふまで覚えちやつた。」えへんと軽くせきばらひして、「――さうです。忘れられて了ふでせう。それが私たちの運命なんですから。どうにも仕方がないですよ。私たちにとつて厳粛な、意味の深い、非常に大事のことのやうに考へられるものも、時がたつと、――忘れられて了ふか、それとも重大でなくなつてしまふのです。――ちえつ、まるで三木朝太郎そつくりぢやねえか。――そして、我々がかうやつて忍従してゐる現在の生活が、やがてそのうちに奇怪で、不潔で、無智で、滑稽で、事によつたら、罪深いもののやうにさへ思はれるかも知れないのです。――いよいよ、三木だ。へどが出さうだ。」
「もし、もし。」水兵服着た女の子に小声で呼びとめられた。
「あのう、これを、高野さんから。」小さく折り畳まれた紙片である。
「なんだね。」助七は、大きい右手を差し出した。
「いいえ。」青白い顔の眼の大きいその女の子は、名女優のやうに屹つと威厳を示して、「あなたでは、ございません。」
「僕だ。」高須は、傍から、ひつたくるやうにして、受け取り、顔をしかめて開いて見た。紙ナプキンに、色鉛筆でくつきり色濃くしたためられてゐた。
 ――さつき、あたしの舞台に、ずいぶん高い舌打なげつけて、さうして、さつさと廊下に出て行くお姿、見ました。あなたのお態度、一ばん正しい。あなたの感じかた、一ばん正しい。あたしは、あなたのお気持、すみのすみまで判ります。あたしは、舞台で、あたしの身のほど、はつきり、知りました。まあ、あたしは、一体なんでせう。自分がまるで、こんにやくの化け物のやうに、汚くて、手がつけられなくて、泣きべそかきました。舞台で、私の着てゐる青い衣裳を、ずたずた千切り裂きたいほど、不安で、ゐたたまらない思ひでございました。あたしは、ちつとも、鉄面皮ぢやない。生ける屍、そんなきざな言葉でしか言ひ表はせませぬ。あたし、ちつとも有頂天ぢやない。それを知つて下さるのは、あなただけです。あたしを、やつつけないで下さい。おねがひ。見ないふりしてゐて下さい。あたしは、精一ぱいでございます。生きてゆかなければならない。誰があたしに、さう教へたのか。チエホフ先生ではありませぬ。あなたの乙やんです。須々木さんが、あたしにそれを教へて呉れました。けれども、あなたも教へて下さい。一こと、教へて下さい。あたし、間違つてゐませうか。聞かせて下さい。あたしは、甘い水だけを求めて生きてゐる女でせうか。あたしを軽蔑して下さい。ああ、もう、めちやめちやになりました。あたしを呼んでゐます。舞台に出なければなりません。十時に――
 と、書きかけて、そのままになつてゐた。
 高須は顔を蒼くして、少し笑ひ、紙片を二つに裂いた。
「見せろ。あひびきの約束かね?」
「君には、これを読む資格がない。」はつきりした語調で言つて、さらに紙片を四つに裂いた。「あなたのひいきの高野幸代といふ役者は、なかなかの名優ですね。舞台だけでは足りなくて、廊下にまで芝居をひろげて居ります。」
「そんなこと言ふもんぢやないよ。」助七は当惑気に、両手を頭のうしろに組んで、「いや味(み)だぜ。さちよも、一生懸命に書いたんだらう? 逢つてやれよ。よろこぶぜ。」
 助七に、ぐんと背中を押され、青年は、よろめき、何かあたたかい人間の真情をその背中に感じ、そのままふらふら歩いて、一人で劇場の裏にまはつていつた。生れてはじめて見る楽屋。

        ☆

 高野さちよは、そのひとつきほどまへ、三木と同棲をはじめてゐた。数枝いいひと、死んでも忘れない、働かなければ、あたし、死ぬる、なんにも言へない、鴎は、あれは、唖(おし)の鳥です、とやや錯乱に似た言葉を書き残して、八重田数枝のアパアトから姿を消した。淀橋の三木の家を訪れたのは、その日の夜、八時頃である。三木は不在であつたが、小さく太つた老母がゐた。家賃三十円くらゐの、まだ新しい二階建の家である。さちよが、名前を言ふと、おお、と古雅に合点して、お噂、朝太郎から承つて居ります、何やら、会(くわい)があるとかで、ひるから出かけて居りますが、もう、そろそろ、帰りませう、おあがりなさい、と小さい老母は、やさしく招いた。顔も、手も、つやつやして、上品な老婆であつた。さちよは、張りつめてゐた気もゆるんで、まるで、わが家に帰つたやう、案内する老母よりさきに、階下の茶の間へさつさとはひつて、あたかも、これは生きかへつた金魚、ひらひら真紅のコオトを脱いで、
「おかあさまで、ございますか。はじめてお目にかかります。」とお辞儀して、どうにも甘えた気持になり、両手そろへてお辞儀しながら、ぷつと噴き出す仕末であつた。
 老母は、平気で、
「はい、こんばんは。朝太郎、お世話になります。」と挨拶かへして、これものんきな笑顔である。
 不思議な蘇生の場面であつた。
 長火鉢へだてて、老母は瀬戸の置き物のやうに綺麗に、ちんまり坐つて、伏目がち、やがて物語ることには、――あれは、わたくしの一人息子で、あんな化け物みたいな男ですが、でも、わたくしは信じてゐる。あれの父親は、ことしで、あけて、七年まへに死にました。まあ、昔自慢してあはれなことでございますが、父の達者な頃は、前橋で、ええ、国は上州でございます、前橋でも一流中の一流の割烹店でございました。大臣でも、師団長でも、知事でも、前橋でお遊びのときには、必ず、わたくしの家に、きまつてゐました。あのころは、よかつた。わたくしも、毎日毎日、張り合ひあつて、身を粉にして働きました。ところが、あれの父は、五十のときに、わるい遊びを覚えましてな、相場ですよ。崩れるとなつたら、早いものでした。ふつと気のついた朝には、すつからかん。きれい、さつぱり。可笑(をか)しいやうですよ。父は、みんなに面目ないのですね。さうなつても、まだ見栄張つてゐて、なあに、おれには、内緒でかくしてゐる山がある。金(きん)の出る山ひとつ持つてゐる、とまるで、子供みたいな、とんでもない嘘を言ひ出しましてな、男は、つらいものですね、ながねん連れ添うて来た婆にまで、何かと苦しく見栄張らなければいけないのですからね、わたくしたちに、それはくはしく細々とその金の山のこと真顔になつて教へるのです。嘘とわかつてゐるだけに、聞いてゐるはうが、情ないやら、あさましいやら、いぢらしいやら、涙が出て来て困りました。父は、わたくしたち、あまり身を入れて聞いてゐないのに感附いて、いよいよ、むきになつて、こまかく、ほんたうらしく、地図やら何やらたくさん出して、一生懸命にひそひそ説明して、たうとう、これから皆でその山に行かうではないか、とまで言ひ出し、これには、わたくし、当惑してしまひました。まちの誰かれ見さかひなくつかまへて来ては、その金山のこと言つて、わたくしは恥づかしくて死ぬるほどでございました。まちの人たちの笑ひ草にはなるし、朝太郎は、そのころまだ東京の大学にはひつたばかりのところでございましたが、わたくしは、あまり困つて、朝太郎に手紙で事情全部を知らせてやつてしまひました。そのときに、朝太郎は偉かつた。すぐに東京から駈けつけ、大喜びのふりして、お父さん、そんないい山を持つてゐながら、なぜ僕にいままで隠してゐたのです、そんないい事あるんだつたら、僕は、学校なんか、ばかばかしい、どうか学校よさせて下さい、こんな家、売りとばして、これからすぐに、その山の金鉱しらべに行かう、と、もう父の手をひつぱるやうにしてせきたて、また、わたくしを、こつそりものかげに呼んで、お母さん、いいか、お父さんは、もうさきが長くないのだ、おちぶれた人に、恥をかかせちやいけない、とわたくしを、きつく叱りました。わたくしも、さう言はれて、はじめて、ああさうだつたと気がついて、お恥づかしい、わが子ながら、両手合せて拝みたいほどでございました。嘘、とはつきり知りながら、汽車に乗り、馬車に乗り、雪道歩いて、わたくしたち親子三人、信濃の奥まで、まゐりました。いま、思ひ出しても、せつなくなります。信濃の山奥の温泉に宿をとり、それからまる一年間、あの子は、降つても照つても父のお伴して山を歩きまはり、日が暮れて宿へかへつては、父の言ふこと、それは芝居と思へないほど、熱心に聞いて、ふたりで何かと研究し、相談し、あしたは大丈夫だ、あしたは大丈夫だと、お互ひ元気をつけ合つて、さうして寝て、また朝早く、山へ出かけて、はうばう父に引つぱりまはされ、さんざ出鱈目の説明聞かされて、それでも、いちいち深くうなづいて、へとへとになつて帰つて来ました。何もかも、朝太郎のおかげです。父は、山宿で一年、張り合ひのある日をつづけることができて、女房、子供にも、立派に体面保つて、恥を見せずに安楽な死に方(かた)を致しました。ええ、信濃の、その山宿で死にました。わしの山は見込みがある、どうだい、身代二十倍になるのだぞ、と威張つて、死んでゆきました。まへから、心臓が、ひどく悪かつたのです。木枯(こがら)しのおそろしく強い朝でしてな。あはれな話ですね。けれども、あの子は、見どころあります。それから母子ふたりで、東京へ出て、苦労しました。わたくしは、どんぶり持つて豆腐いつちやう買ひに行くのが、一ばんつらかつた。いまでは、どうやら、朝太郎も、皆様のおかげで、もの書いてお金いただけるやうになつて、わたくしは、朝太郎が、もう、どんな、ばかをしても、信じてゐる。むかし、あれの父をあんなに大事にかばつて呉れたこと思へば、あの子が、ありがたくて、もつたいなくて、あの子のことだつたら、どんなことがあつても、たとへあれが、人殺ししたつて、わたくしは、あれを信じてゐる。あれは、情の深い子です。ほんとに、よろしくお願ひします。
 さう言つて、軽くお辞儀をし、さちよも思はずそつとお辞儀をかへして、ゆくりなく顔を見合せ、ほ、ほと同時にはなやかに笑つて、それから二人、気持よく泣いた。
 十時に三木が、酔つてかへつた。久留米絣に、白つぽいごはごはした袴をはいて、明治維新の書生の感じであつた。のつそり茶の間へはひつて来て、ものも言はず、長火鉢の奥に坐つてゐる老母を蹴飛ばすやうにして追ひたて、自分がその跡にどつかと坐つて、袴の紐をほどきながら、
「何しに来たんだい?」坐つたままで袴を脱いでそれを老母にほふつてやつて、「ああ、お母さん。あなたは、ちよつと二階へ行つてろ。僕は、この子に話があるんだ。」
 二人きりになると、さちよは、
「自惚れちや、だめよ。あたし、仕事の相談に来たの。」
「かへれ。」家に在るときの歴史的さんは、どこか憂欝で、けはしかつた。
「御気嫌、わるいのね。」さちよは、平気だつた。「あたし、数枝のアパアトから逃げて来たの。」
「おや、おや。」三木は冷淡だつた。がぶがぶ番茶を呑んでゐる。
「あたし、働く。」さう言つて、自分にも意外な、涙があふれて落ちて、そのまま、めそめそ泣いてしまつた。
「もう、僕は、君をあきらめてゐるんだ。」三木は、しんからいまいましさうに顔をしかめて、「君には、手のつけられない横着なところがある。君は、君自身の苦悩に少し自惚れ持ち過ぎてゐやしないか? どうも、僕は、君を買ひかぶりすぎてゐたやうだ。君の苦しみなんざ、掌(てのひら)に針たてたくらゐのもので、苦しいには、ちがひない、飛びあがるほど苦しいさ、けれども、それでわあわあ騒ぎまはつたら、人は笑ふね。はじめのうちこそ愛嬌にもなるが、そのうちに、人は、てんで相手にしない。そんなものに、かまつてゐる余裕なんて、かなしいことには、いまの世の中の人たち、誰にもないのだ。僕は知つてゐるよ。君の思つてゐることくらゐ、見透(とほ)せないでたまるか。あたしは、虫けらだ。精一ぱいだ。命をあげる。ああ、信じてもらへないのかなあ。さうだらう? いづれ、そんなところだ。だけど、いいかい、真実といふものは、心で思つてゐるだけでは、どんなに深く思つてゐたつて、どんなに固い覚悟を持つてゐたつて、ただ、それだけでは、虚偽だ。いんちきだ。胸を割つてみせたいくらゐ、まつたうな愛情持つてゐたつて、ただ、それだけで、だまつてゐたんぢや、それは傲慢だ、いい気なもんだ、ひとりよがりだ。真実は、行為だ。愛情も、行為だ。表現のない真実なんて、ありやしない。愛情は胸のうち、言葉以前、といふのは、あれも結局、修辞ぢやないか。だまつてゐたんぢや、わからない、さう突放(つつぱな)されても、それは、仕方のないことなんだ。真理は感ずるものぢやない。真理は、表現するものだ。時間をかけて、努力して、創りあげるものだ。愛情だつて同じことだ。自身のしらじらしさや虚無を堪へて、やさしい挨拶送るところに、あやまりない愛情が在る。愛は、最高の奉仕だ。みぢんも、自分の満足を思つては、いけない。」また、番茶を、がぶがぶ呑んで、「君は一たい、いままで何をして来た。それを考へてみるがいい。言へないだらう。言へない筈だ。何もしやしない。僕は、君を、もう少し信頼してゐた。あの山宿を逃げるときだつて、僕は、気まぐれから君に手伝ひしたのぢやないのだぜ。君に、たしかな目的があつて、制止できない渇望があつて、さうして、ちやんと聡明な、具体的な計画があつての、出京だとばかり思つてゐた。それが、どうだ、八重田数枝のとこに、ころがりこんで、そのまんま、何もしやしない。八重田数枝は、あんな、気のいいやつだから、だまつて、のんきさうに君を世話してゐたやうだつたが、でも、ずいぶん迷惑だつたらうと思ふよ。君が精一ぱいなら、八重田数枝だつて、自分ひとりを生かすのだけで、それだけで精一ぱい、やつとのところで生きてゐるのだ。少しは、人の弱さを、大事にしろよ。君の思ひあがりは、おそろしい。僕だつて、君に、いくど恥をかかされてゐるかわからない。あんな、薄汚い新聞記者と、喧嘩させて、だまつて面白がつて見てゐやがつて、僕は、あんなやつとは、口きくのさへいやなんだぜ。僕は、プライドの高い男だ。どんな偉い先輩にでも、呼び捨(すて)にされると、いやな気がする。僕は、ちやんと、それだけの仕事をしてゐる。あんな奴と、決闘して、あとで、僕は、どんなに恥づかしく、くるしい思ひしたか、君は知るまい。生れてはじめて、あんなぶざまな真似をした。君は、一たい僕をなんだと思つてゐるのだ。八重田数枝のところに居辛(ゐづら)くなつて、そうして、こんどは僕の家へ飛び込んで来て、自惚れちやだめよ、仕事の相談に来たの、なんて、いつもの僕なら、君はいまごろ横つつらの二つや三つぶん殴られてゐる。」三木は流石に、蒼くなつてゐた。
 さちよは、ぼんやり顔をあげて、
「殴らないの?」
「寝て起きて来たやうなこと言ふなよ。」苦笑して、煙草のけむりを、ゆつくり吐いた。「かへり給へ。僕は、言ひたいだけのことは、言つたんだ。あとは、もつぱら敬遠主義だ。君も少しは考へるがいい。かへれ。路頭に迷つたつて、僕の知つたことぢやない。」
 もぢもぢして、
「路頭は、寒くて、いや。」
 三木は、あやふく噴き出しさうになり、
「笑はせようたつて、だめさ。」言ひながら、はつきり負(ま)けたのを意識した。
「さちよ、ここにゐるか。」
「ゐる。」
「女優になるか。」
「なる。」
「勉強するか。」
「する。」
 三木の腕の中で、さちよは、小声で答へてゐた。
「ばかなやつ。」三木は、さちよのからだから離れて、「おふくろと、どんな話をしてゐた?」いつもの、やさしい歴史的さんに、かへつてゐた。
「あたし、お母さん好きよ。」さちよは、髪を掻きあげて、「これから、うんと孝行するの。」
 さうして、三木との同棲がはじまつた。三木は劇壇に、奇妙な勢力を持つてゐた。背後に、元老の鶴屋北水の頑強な支持もあつて、その特異な作風が、劇壇の人たちに敬遠にちかいほどの畏怖の情を以て見られてゐた。さちよの職場は、すぐにきまつた。鴎座である。そのころの鴎座は、素晴しかつた。日本の知識人は、一様に、鴎座の努力を尊敬してゐた。一座の指導者は、尾沼栄蔵、由緒正しき貴族である。俳優も、一流の名優が競つて参加し、外国の古典やら、また、日本の無名作家の戯曲をも、大胆に採用して、毎月一回一週間づつの公演を行ひ、日本の文化を、たしかに高めた。元老、鶴屋北水の推薦と、三木朝太郎の奔走のおかげで、さちよは、いきなり大役をふられた。すなはち、三人姉妹の長女、オリガである。いいかい、オリガは、センチメントおさへて、おさへて、おさへ切れなくなる迄おさへて、幕切れで、どつとせきあげる、それだけ心掛けて居ればいいのだ、あとは尾沼君の言ふこと信仰し給へ、あれは偉い男だ。それから、ほかの役者の邪魔をしないやうに、ね。三木は、それだけ言つて、あとは、何も教へなかつた。三木には、また、三木の仕事があるのである。二階の六畳に閉ぢこもつて、原稿用紙、少し書きかけては、くしやくしやに丸めて壁に投げつけ、寝ころんで煙草吸つたり、また起き上つて、こつこつ書いたり、毎夜、おそくまで、眠らずにゐる。何か大きい仕事にでも、とりかかつた様子である。さちよも、なまけてはゐなかつた。毎日、毎日、尾沼栄蔵のサロンに、稽古に出かけて、ごほんごほん変なせきが出て、ゆたかな頬が、細くなるほど、心労つづけた。
 初日が、せまつた。三木は、こつそり尾沼栄蔵のもとへ、さちよの様子を聞きに行つた。帰つて来てからさちよに、君がうまいんぢやないんだ、他の役者が下手くそなんだ、尾沼君は、さう言つてゐた。君は、こんどの公演で、きつと評判になるだらう、けれども、それは、君がうまいからぢやないんだ、日本の俳優が、それだけ、おくれてゐるといふことなんだ、さう言つてゐた。いいかい、ちつとも君がすぐれてゐるわけぢやないんだから、かならず、人の讃辞なんか真(ま)に受けちやいけないよ。叱りつけるやうな語調で言つて聞かせて、それでも、その夜は、珍らしく老母とさちよを相手に、茶の間でお酒たくさん呑んだ。
 初日、はたして成功である。二日目、高野幸代は、もはや、日本的な女優であつた。三日目、つまづいた。青年、高須隆哉の舌打が、高野幸代の完璧の演技に、小さい深い蹉跌を与へた。
 高須隆哉が楽屋を訪れたときには、ちやうど一幕目がをはつて、さちよは、楽屋で大勢のひとに取り巻かれて坐つて、大口あいて笑つてゐた。煙草のけむりが濛々と部屋に立ちこもり、誰か一こと言ひ出せば、どつと大勢のひとの笑ひの浪が起つて、和気あいあいの風景である。高須は、その入口に佇立した。
 さちよは、高須に気がつかず、未だ演技直後の興奮からさめ切らぬ様子で、天井あふいでヒステリツクな金切声たてて笑ひこけてゐた。
「ちよつと、あなた、ごめんなさい。」
 耳もとで囁き、大きい黒揚羽(くろあげは)の蝶が、ひたと、高須の全身をおほひ隠し、そのまま、すつと入口からさらつていつて、廊下の隅まで、ものも言はず、とつとと押しかへして、
「まあ。ごめんなさい。」ほつそりした姿の女である。眼が大きく鼻筋の長い淋しい顔で、黒いドレスが似合つてゐた。「さちよと、逢はせたくなかつたの。あの子は、とても、あなたのことを気にしてゐる。せつかく評判も、いいところなんだし、ね、おねがひ、あの子を、そつとして置いてやつて。あの子、いま、一生懸命よ。つらいのよ。あたしには、それが判る。あら、あなたは、あたしをご存じない。」顔を赤くして、「ごめんなさい。あなた、高須さんね。さうでせう? あたし、ひと目見て、はつと思つたの。ほんたうに、あたし、はじめてなのに、でも、すぐわかつた。須々木乙彦の、御親戚。どう? あたし、なんでも知つてゐるでせう?」数枝である。芝居がはじまつて、この二、三日、何かと気がもめて、けふはホオルを休んで楽屋に来てゐる。

        ☆

 その夜、ああ、知つてゐるものが見たら、ぎよつとするだらう。須々木乙彦は、生きてゐる。生きて、ウヰスキイを呑んでゐる。昨年の晩秋に、須々木乙彦は、この銀座裏のバアにふらと立ち寄つた。さうして、この同じソフアに腰をおろし、十九のさちよと、雨の話をした。あのときと、同じ姿勢で、少しまへこごみの姿勢で、ソフアに深く腰をおろし、いま、高須隆哉は、八重田数枝と、ウヰスキイ呑みながら、ひそひそ話を交してゐる。ソフアの傍には、八(や)つ手(で)の鉢植、むかしのままに、ばさと葉をひろげて、乙彦が無心に爪で千切(ちぎ)りとつた痕(あと)まで、その葉に残つてゐる。室内の鈍い光線も八つ手の葉に遮ぎられて、高須の顔は、三日月の光を受けたくらゐに、幽かに輪廓が分明して、眼の下や、両頬に、真黒い陰影がわだかまり、げつそり痩せて、おそろしく老けて見えて、数枝も、話ながら、時をり、ちらと高須の顔を横目で見ては、それが全く別人だ、といふことを知つてゐながら、やはり、なんだか、いやな気がした。似てゐるのである。数枝も、乙彦を、あの夜ここで一緒に呑んで、知つてゐた。乙彦は、荒(すさ)んだ皮膚をして、さうして顔が、どこか畸形の感じで、決して高須のやうな美男ではなかつた。けれども、いま、このバアの薄暗闇で、ふと見ると、やはり、似てゐる。数枝には、血のつながりといふものが、ひどく、いやらしく、気味わるいものに思はれた。
 高須には、未だ気がつかない。数枝に、無理矢理、劇場から引つぱり出され、さうして数枝の悪意ない、ちよつとした巫山戯(ふざけ)た思ひつきが、高須をここへ連れこんだ。この薄暗いバアは、乙彦と、さちよが、奇態な邂逅したところ、いま自分の腰かけてゐるこの灰色のソフアは、乙彦が追ひつめられて、追ひつめられて、天地にたつた一つの、最後に見つけた、鳥の巣、狐の穴、一夜の憩(いこ)ひの椅子であつたこと、高須は、なんにも知らなかつた。
 しづかに酔つて、
「かへらせたら、いいのだ。女優なんて、そんな派手なことさせちや、いけないのだ。国へかへらせなければ、いけないのだ。」
「でも、――」言ひ澱んで、「いいえ、酔つて絡(から)むわけぢやないのよ。ごめんなさいね。でも、――男の人つて、どうして皆そんなに、女のこととなると変に責任、持ちたがるのかしら。どうして皆、わかり切つたお説教したがるのかしら。あなたは、さちよが、いままで、どんなに苦しい生活を、くぐり抜け、切り抜けして生きて来たか、ご存じ? さちよだつて、もう、おとなよ。子供ぢやない。ほつて置いたつて大丈夫。あたしだつて、はじめは、あの子に腹が立つた。女優なんて、とんでもない、と思つてゐた。やはり、あなたと同じやうに、国へかへつたはうが、一ばん無事だと思つてゐた。だけど、それは、あたしの間違ひ。だつて、さちよが国へかへつて、都合のよいのは、それは、あたしたちのはうよ。あの子は、ちつとも仕合せでない。あなただつてさうよ。やつぱり、どこか、ずるいのよ。けちな、けちな、我利我利(がりがり)が、気持のどこかに、ちやんと在るのよ。あなたが勝手に責任感じて、さうして、むしやくしやして、お苦しくて、こんどは誰か、遠いところに居る人に、その責任、肩がはりさせて、自身すずしい顔したいお心なのよ。さうなのよ。」言ひながら、それでも気弱く、高須の片手をそつと握つて、顔色をうかがひ、「ごめんなさいね。うち、失礼なことばかり言つて。」さつと素早く、ウヰスキイあふつて、「でも、ねえ。あの子を、いま田舎へかへすなんて、やつぱり、残酷よ。よく、そんなこと、言へるのね。あの子を国へかへしちやいけない。あなたは、あの子が、去年どんなことをしたか知つてるわね。どんなに笑はれたか、知つてゐるわね。東京は、いそがしくて、もう、そんなこと忘れたやうな顔してゐて呉れるけど、田舎は、うるさい。あの子は、きつと座敷牢よ。一生涯、村の笑はれもの。田舎の人つたら、三代まへに鶏ぬすまれたことだつて、ちやんと忘れずに覚えてゐて、にくしみ合つてゐるんだもの。」
「ちがふ。」高須は、落ちついて否定した。「ふるさとは、そんなものぢやない。肉親は、そんなものぢやない。僕は、ふるさとを失つた人の悲劇を知つてゐる。乙やんには、ふるさとが無かつた。君も、ごぞんじだらうと思ふが、乙やんは、僕の伯父の、おめかけの子だ。生みの母親と一緒に転々した。それは苦労した。僕は知つてゐる。あの人は、偉くなることに努めた。自分を捨てた父親を、見かへしてやらうと思つてゐた。ずば抜けて、秀才だつた。全く、すばらしかつたなあ。勉強もした。偉くならなければいけないと思つてゐたのだ。歴史に名を残さうと考へた。けれども、矢尽き、刀折れて、死ぬる前の日、僕に、親孝行しろ、と言つた。しのんで、しのんで、つつましく生きろ、と言つた。僕は、はじめ冗談か、と思つた。けれども、このごろになつて、あ、あ、と少しづつ合点できる。」
「いいえ、そんなんぢやない。」数枝は、なかなか譲らない。酔ひと興奮に頬を染めて、「あなたは、それでいいの。ご立派な御家庭に、なに不自由なくお育ちになつて、立派に学問もおありなさることだし、ちやんと御両親もそろつておいでのことでせうし、それは須々木乙彦でなくつたつて、あなたには、親孝行なさるやう、お家を大事になさるやう、誰だつて、しんからそれをおすすめするわ。だけど、あたしたちは、ちがふの。そんなんぢやない。一日一日、食つて生きてゆくことに追はれて、借銭かへすことに追はれて、正しいことを横目で見ながら、それに気がついてゐながら、どんどん押し流されてしまつて、いつのまにか、もう、世の中から、ひどい焼印(やきいん)、頂戴してしまつてゐるの。さちよなんか、もつとひどい。あの子は、もう世の中を、いちど失脚しちやつたのよ。屑(くづ)よ。親孝行なんて、そんな立派なこと、とても、とても、できなくなつてしまつたの。したくても、ゆるされない。名誉恢復。そんな言葉をかしい? あはれな言葉ね。だけど、あたしたち、いちど、あやまち犯した人たち、どんなに、それに憧(あこ)がれてゐるか。そのためには、いのちも要らない。どんなことでも、する。」ふつと声を落して、「さちよは、可愛さうに、いま一生懸命なのよ。あたしには、わかる。あの子を少しでも偉くしてあげたい。」
「待て。」青年は、その言葉を待ちかまへてゐた。ゆつくり、煙草に火を点じて、「君は、いま、あの子を偉くしてあげたい、と言つたね。それは、間違ひ、書取(デクテーシヨン)のミステークみたいに、はつきり、間違ひ。人は、人を偉くすることができない。いまの、この世の中は、きびしいのだ。一朝にして名誉恢復、万人の喝采なんて、そいつは、無智なロマンチシズムだ。昔の夢だ。須々木乙彦ほどの男でも、それができずに、死んだのだ。いまは人間、誰にもめいわくかけずに、自分ひとりを制御することだけでも、それだけでも、大事業なんだ。それだけでも、できたら、そいつは新しい英雄だ。立派なものだ。ほんたうの自信といふものは、自分ひとりの明確な杜会的な責任感ができて、はじめて生れて来るものぢやないのか。まづ自分を、自分の周囲を、不安ないやうに育成して、自分の小さいふるさとの、自分のまづしい身内(みうち)の、堅実な一兵卒になつて、努めて、それからでなければ、どんな、ささやかな野望でも、現実は、絶対に、ゆるさない。賭けてもいい。高野幸代は、失敗する。いまのままですすめば、どん底に蹴落される。火を見るよりも、明らかだ。世の中は、つらいのだ。きびしいのだ。一日、一日、僕には、いまのこの世の中の苛烈が、身にしみる。みぢんも、でたらめを許さない。お互ひ、鵜(う)の目、鷹(たか)の目だ。いやなことだ。いやなことだが、仕方がない。」
「負けたのよ。あなたは、負けたのよ。」かん高く叫んで、多少、呂律(ろれつ)がまはらなかつた。よろめいて、耳をふさぎ、「ああ、聞きたくない、聞きたくない。あなたまで、そんな、情ないことおつしやる。ずるい、ずるい。意気地がない。臆病だ。負け惜しみだ。ああ、もう、理屈は、いやいや。世の中の人たちは、みんな優しい。みんな手助けして呉れる。冷く、むごいのは、あなたたちだけだ。どん底に蹴落すのは、あなたたちだ。負けても、嘘ついて気取つてゐる男だけが、ひとのせつかくの努力を、せせら笑つて蹴落すのだ。あなたは、いけない。あなたは、これから、さちよに触(さは)つては、いけない。一指もふれては、いけない。なんて、嘘なのよ。あたしは、とてもリアリスト。知つてゐるのよ。あなたの言ふこと、わかつてゐるのよ。知つてゐながら、それでも、もしや、といふ夢、持ちたいの。持つてゐたいの。笑はないでね。あたしたち、永遠にだめなの。わるくなつて行くだけなの。知つてゐる。ああ、いけない、はつきりきめないで、ね。死にたくなつちやふ。だけど、さちよだけは、ああ、偉くしたい、偉くしたい。あの子、頭がいい。あの子、可愛い。あの子、ふびんだ。知つてゐる? さちよは、いま、ある劇作家のおめかけよ。偉くなれ、なれ。おめかけなんて、しなくてすむやうに、――」
 青年は、立ちあがつてゐた。
「誰です。どこの人です。案内し給へ。」さつさと勘定すまして、酔ひどれた数枝のからだを、片腕でぐいと抱きあげ、「立ち給へ。いづれ、そんなことだらうと思つてゐた。たいへんな出世だ。さ、案内し給へ。どこの男だ。さちよにそんなことさせちや、いけないのだ。」
 円タクひろつた。淀橋に走らせた。
 自動車の中で、
「ばかだ。ばかも、ばかも、大ばかだ。君には、お礼を言ふ。よく知らせて呉れた。」数枝は、不吉な予感に、気が遠くなりさうだつた。「僕は、さちよを愛してゐる。愛して、愛して、愛してゐる。誰よりも高く愛してゐる。忘れたことが、なかつた。あのひとの苦しさは、僕が一ばん知つてゐる。なにもかも知つてゐる。あのひとは、いいひとだ。あのひとを腐らせては、いけない。ばかだ、ばかだ。ひとのめかけになるなんて。ばかだ。死ね! 僕が殺してやる。」
「火の鳥未完」



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