春の枯葉
著者名:太宰治
それじゃ僕はちょっと、あの(と歌声のほうを指さし)チンピラの音楽団のほうへ行って、妹をつかまえて、事の真相を問いただしてみましょう。つまらない悪戯(いたずら)をしやがって。(言いながら気軽に上手(かみて)より退場)
風さらに強く吹く。
歌声いよいよ近づく。
(節子)(奥田を見送り、それから、しゃがんで野中の肩をゆすぶる)もし、もし。風邪(かぜ)をひきますよ。さ、一緒に帰りましょうね。(野中の手をとり)まあ、こんなに冷くなって。すみませんでしたわね。わたくしが悪かったのよ。あなた、どうなさったの? (顔を近寄せる)あなた! (狂乱の如く野中の顔、胸、脚など撫(な)でまわし)もし、あなた! (突然立ち上って上手に走り)奥田先生! 奥田せんせい! (また馳(は)せかえり、野中の死体に武者振りついて泣く)すみません、すみません。あなた、もういちど眼をあいて。わたくしは、心をいれかえたのよ。これからはお酒のお相手でも何でもしようと思っていましたのに、あなた! (号泣する)
風。枯葉。歌声。
――幕。
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