或る女
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著者名:有島武郎 

          木村
             木村……
 ぞっとして寒気(さむけ)を覚えながら、葉子は闇(やみ)の中に目をさました。恐ろしい凶夢のなごりは、ど、ど、ど……と激しく高くうつ心臓に残っていた。葉子は恐怖におびえながら一心に暗い中をおどおどと手探りに探ると事務長の胸に触れた。
「あなた」
 と小さい震え声で呼んでみたが男は深い眠りの中にあった。なんともいえない気味わるさがこみ上げて来て、葉子は思いきり男の胸をゆすぶってみた。
 しかし男は材木のように感じなく熟睡していた。
(前編 了)



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