雪の女王
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◇暇つぶし何某◇

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著者名:アンデルセンハンス・クリスチャン 

 第一のお話

   鏡とそのかけらのこと


 さあ、きいていらっしゃい。はじめますよ。このお話をおしまいまできくと、だんだんなにかがはっきりしてきて、つまり、それがわるい魔法使(まほうつかい)のお話であったことがわかるのです。この魔法使というのは、なかまでもいちばんいけないやつで、それこそまがいなしの「悪魔(あくま)」でした。
 さて、ある日のこと、この悪魔は、たいそうなごきげんでした。というわけは、それは、鏡をいちめん作りあげたからでしたが、その鏡というのが、どんなけっこうなうつくしいものでも、それにうつると、ほとんどないもどうぜんに、ちぢこまってしまうかわり、くだらない、みっともないようすのものにかぎって、よけいはっきりと、いかにもにくにくしくうつるという、ふしぎなせいしつをもったものでした。どんなうつくしいけしきも、この鏡にうつすと、煮(に)くたらしたほうれんそうのように見え、どんなにりっぱなひとたちも、いやなかっこうになるか、どうたいのない、あたまだけで、さかだちするかしました。顔は見ちがえるほどゆがんでしまい、たった、ひとつぼっちのそばかすでも、鼻や口いっぱいに大きくひろがって、うつりました。
「こりゃおもしろいな。」と、その悪魔はいいました。ここに、たれかが、やさしい、つつましい心をおこしますと、それが鏡には、しかめっつらにうつるので、この魔法使の悪魔は、じぶんながら、こいつはうまい発明(はつめい)だわいと、ついわらいださずには、いられませんでした。
 この悪魔は、魔法学校をひらいていましたが、そこにかよっている魔生徒どもは、こんどふしぎなものがあらわれたと、ほうぼうふれまわりました。
 さて、この鏡ができたので、はじめて世界や人間のほんとうのすがたがわかるのだと、このれんじゅうはふいちょうしてあるきました。で、ほうぼうへその鏡をもちまわったものですから、とうとうおしまいには、どこの国でも、どの人でも、その鏡にめいめいの、ゆがんだすがたをみないものは、なくなってしまいました。こうなると、図にのった悪魔のでしどもは、天までも昇(のぼ)っていって、天使(てんし)たちや神さままで、わらいぐさにしようとおもいました。ところで、高く高くのぼって行けば、行くほど、その鏡はよけいひどく、しかめっつらをするので、さすがの悪魔も、おかしくて、もっていられなくなりました。でもかまわず、高く高くとのぼっていって、もう神さまや天使のお住居(すまい)に近くなりました。すると、鏡はあいかわらず、しかめっつらしながら、はげしくぶるぶるふるえだしたものですから、ついに悪魔どもの手から、地の上へおちて、何千万、何億万、というのではたりない、たいへんな数に、こまかくくだけて、とんでしまいました。ところが、これがため、よけい下界(げかい)のわざわいになったというわけは、鏡のかけらは、せいぜい砂つぶくらいの大きさしかないのが、世界じゅうにとびちってしまったからで、これが人の目にはいると、そのままそこにこびりついてしまいました。すると、その人たちは、なんでも物をまちがってみたり、ものごとのわるいほうだけをみるようになりました。それは、そのかけらが、どんなちいさなものでも、鏡がもっていたふしぎな力を、そのまま、まだのこしてもっていたからです。なかにはまた、人のしんぞうにはいったものがあって、そのしんぞうを、氷のかけらのように、つめたいものにしてしまいました。そのうちいくまいか大きなかけらもあって、窓ガラスに使われるほどでしたが、そんな窓ガラスのうちから、お友だちをのぞいてみようとしても、まるでだめでした。ほかのかけらで、めがねに用いられたものもありましたが、このめがねをかけて、物を正しく、まちがいのないように見ようとすると、とんださわぎがおこりました。悪魔はこんなことを、たいへんおもしろがって、おなかをゆすぶって、くすぐったがって、わらいました。ところで、ほかにもまだ、こまかいかけらは、空のなかにただよっていました。さあ、これからがお話なのですよ。
[#改ページ]

 第二のお話

   男の子と女の子


 たくさんの家がたてこんで、おおぜい人がすんでいる大きな町では、たれでも、庭にするだけの、あき地をもつわけにはいきませんでした。ですから、たいてい、植木(うえき)ばちの花をみて、まんぞくしなければなりませんでした。
 そういう町に、ふたりのまずしいこどもがすんでいて、植木ばちよりもいくらか大きな花ぞのをもっていました。そのふたりのこどもは、にいさんでも妹でもありませんでしたが、まるでほんとうのきょうだいのように、仲よくしていました。そのこどもたちの両親は、おむこうどうしで、その住んでいる屋根うらべやは、二軒の家の屋根と屋根とがくっついた所に、むかいあっていました。そのしきりの所には、一本の雨どいがとおっていて、両方から、ひとつずつ、ちいさな窓が、のぞいていました。で、といをひとまたぎしさえすれば、こちらの窓からむこうの窓へいけました。
 こどもの親たちは、それぞれ木の箱を窓の外にだして、台所でつかうお野菜をうえておきました。そのほかにちょっとしたばらをひと株うえておいたのが、みごとにそだって、いきおいよくのびていました。ところで親たちのおもいつきで、その箱を、といをまたいで、横にならべておいたので、箱は窓と窓とのあいだで、むこうからこちらへと、つづいて、そっくり、生きのいい花のかべを、ふたつならべたように見えました。えんどう豆のつるは、箱から下のほうにたれさがり、ばらの木は、いきおいよく長い枝をのばして、それがまた、両方の窓にからみついて、おたがいにおじぎをしあっていました。まあ花と青葉でこしらえた、アーチのようなものでした。その箱は、高い所にありましたし、こどもたちは、その上にはいあがってはいけないのをしっていました。そこで、窓から屋根へ出て、ばらの花の下にある、ちいさなこしかけに、こしをかけるおゆるしをいただいて、そこでおもしろそうに、あそびました。
 冬になると、そういうあそびもだめになりました。窓はどうかすると、まるっきりこおりついてしまいました。そんなとき、こどもたちは、だんろの上で銅貨(どうか)をあたためて、こおった窓ガラスに、この銅貨をおしつけました。すると、そこにまるい、まんまるい、きれいなのぞきあなができあがって、このあなのむこうに、両方の窓からひとつずつ、それはそれはうれしそうな、やさしい目がぴかぴか光ります、それがあの男の子と、女の子でした。男の子はカイ、女の子はゲルダといいました。夏のあいだは、ただひとまたぎで、いったりきたりしたものが、冬になると、ふたりのこどもは、いくつも、いくつも、はしごだんを、おりたりあがったりしなければ、なりませんでした。外(そと)には、雪がくるくる舞(ま)っていました。
「あれはね、白いみつばちがあつまって、とんでいるのだよ。」と、おばあさんがいいました。
「あのなかにも、女王ばちがいるの。」と、男の子はたずねました。この子は、ほんとうのみつばちに、そういうもののいることを、しっていたのです。
「ああ、いるともさ。」と、おばあさんはいいました。「その女王ばちは、いつもたくさんなかまのあつまっているところに、とんでいるのだよ。なかまのなかでも、いちばんからだが大きくて、けっして下にじっとしてはいない。すぐと黒い雲のなかへとんではいってしまう。ま夜中に、いく晩も、いく晩も、女王は町の通から通へとびまわって、窓のところをのぞくのさ。するとふしぎとそこでこおってしまって、窓は花をふきつけたように、見えるのだよ。」
「ああ、それ、みたことがありますよ。」と、こどもたちは、口をそろえて叫(さけ)びました。そして、すると、これはほんとうの話なのだ、とおもいました。
「雪の女王さまは、うちのなかへもはいってこられるかしら。」と、女の子がたずねました。
「くるといいな。そうすれば、ぼく、それをあたたかいストーブの上にのせてやるよ。すると女王はとろけてしまうだろう。」と、男の子がいいました。
 でも、おばあさんは、男の子のかみの毛をなでながら、ほかのお話をしてくれました。
 その夕方、カイはうちにいて、着物(きもの)を半分(はんぶん)ぬぎかけながら、ふとおもいついて、窓のそばの、いすの上にあがって、れいのちいさなのぞきあなから、外をながめました。おもてには、ちらちら、こな雪が舞(ま)っていましたが、そのなかで大きなかたまりがひとひら、植木箱のはしにおちました。するとみるみるそれは大きくなって、とうとうそれが、まがいのない、わかい、ひとりの女の人になりました。もう何百万という数の、星のように光るこな雪で織(お)った、うすい白い紗(しゃ)の着物(きもの)を着ていました。やさしい女の姿はしていましたが、氷のからだをしていました。ぎらぎらひかる氷のからだをして、そのくせ生きているのです。その目は、あかるい星をふたつならべたようでしたが、おちつきも休みもない目でした。女は、カイのいる窓のほうに、うなずきながら、手まねぎしました。カイはびっくりして、いすからとびおりてしまいました。すぐそのあとで、大きな鳥が、窓の外をとんだような、けはいがしました。
 そのあくる日は、からりとした、霜日(しもび)よりでした。――それからは、日にまし、雪どけのようきになって、とうとう春が、やってきました。お日さまはあたたかに、照(て)りかがやいて、緑(みどり)がもえだし、つばめは巣をつくりはじめました。あのむかいあわせの屋根うらべやの窓も、また、あけひろげられて、カイとゲルダとは、アパートのてっぺんの屋根上の雨(あま)どいの、ちいさな花ぞので、ことしもあそびました。
 この夏は、じつにみごとに、ばらの花がさきました。女の子のゲルダは、ばらのことのうたわれている、さんび歌をしっていました。そして、ばらの花というと、ゲルダはすぐ、じぶんの花ぞののばらのことをかんがえました。ゲルダは、そのさんび歌を、カイにうたってきかせますと、カイもいっしょにうたいました。

「ばらのはな さきてはちりぬ
 おさなごエス やがてあおがん」

 ふたりのこどもは、手をとりあって、ばらの花にほおずりして、神さまの、みひかりのかがやく、お日さまをながめて、おさなごエスが、そこに、おいでになるかのように、うたいかけました。なんという、楽しい夏の日だったでしょう。いきいきと、いつまでもさくことをやめないようにみえる、ばらの花のにおいと、葉のみどりにつつまれた、この屋根の上は、なんていいところでしたろう。
 カイとゲルダは、ならんで掛けて、けものや鳥のかいてある、絵本をみていました。ちょうどそのとき――お寺の、大きな塔(とう)の上で、とけいが、五つうちましたが――カイは、ふと、

◇ピンチです!◇
■暇つぶし何某■

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