赤いくつ
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著者名:アンデルセンハンス・クリスチャン 

 次の日曜日に、人びとはうちつれてお寺にいきました。そして、カレンも、いっしょにいかないかとさそわれました。けれどもカレンは、目にいっぱい涙をためて、悲しそうに松葉杖をじっとみつめていました。そこで、人びとは神さまのお声をきくために出かけましたが、カレンは、ひとりかなしく自分のせまいへやにはいっていきました。そのへやは、カレンのベットと一脚(きゃく)のいすとが、やっとはいるだけの広さしかありませんでした。そこにカレンは、さんび歌の本を持っていすにすわりました。そして信心ぶかい心もちで、それを読んでいますと、風につれて、お寺でひくオルガンの音(ね)が聞こえてきました。カレンは涙でぬれた顔をあげて、
「ああ、神さま、わたくしをお救いくださいまし。」と、いいました。
 そのとき、お日さまはいかにもうららかにかがやきわたりました。そしてカレンがあの晩お寺の戸口のところで見た天使とおなじ天使が、白い着物を着て、カレンの目の前に立ちました。けれどもこんどは鋭い剣のかわりに、ばらの花のいっぱいさいたみごとな緑の枝を持っていました。天使がそれで天井にさわりますと、天井は高く高く上へのぼって行って、さわられたところは、どこものこらず金の星がきらきらかがやきだしました。天使はつぎにぐるりの壁にさわりました。すると壁はだんだん大きく大きくよこにひろがっていきました。そしてカレンの目に、鳴っているオルガンがみえました。むかしの坊さんたちやその奥さまたちの古い像(ぞう)も見えました。信者のひとたちは、飾りたてたいすについて、さんび歌の本を見てうたっていました。お寺ごとそっくり、このせまいへやのなかにいるかわいそうな女の子のところへ動いて来たのでございます。それとも、カレンのへやが、そのままお寺へもっていかれたのでしょうか。――カレンは、坊さんのうちの人たちといっしょの席についていました。そしてちょうどさんび歌をうたいおわって顔をあげたとき、この人たちはうなずいて、
「カレン、よくまあ、ここへきましたね。」といいました。
「これも神さまのお恵みでございます。」とカレンはいいました。
 そこで、オルガンは、鳴りわたり、こどもたちの合唱の声は、やさしく、かわいらしくひびきました。うららかなお日さまの光が、窓からあたたかく流れこんで、カレンのすわっているお寺のいすを照らしました。けれどもカレンのこころはあんまりお日さまの光であふれて、たいらぎとよろこびであふれて、そのためはりさけてしまいました。カレンのたましいは、お日さまの光にのって、神さまの所へとんでいきました。そしてもうそこではたれもあの赤いくつのことをたずねるものはありませんでした。





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