空家の冒険
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著者名:ドイルアーサー・コナン 

そこで僕が考えるには、モラン大佐はもちろん不正をやっていたに相違なかったのだ。この事は僕は以前から、気がついていたことであった。それでこのアデイア青年殺害の日は、モラン大佐はアデイア青年に、その不正行為を看破されたに相違ない。そこで実によく想像されることは、アデイア青年は、そーっとモラン大佐に、早速倶楽部員たることを辞し、併せて今後は一切骨牌を手にしないと云うことを条件とし、もしこれを容れない場合は、その不正事実を暴露すると嚇したに相違ないことだ。何しろアデイア青年のような若い者に、その親しく知っている、しかもごく年長の者を、現(あらわ)に誹謗すると云うことは考えられないことだからね。まあおそらくはこの想定は大差無いと思う。しかし倶楽部からの除名と云うことは、その骨牌の不正利得で生活しているモラン大佐にとっては、まさしく身の破滅である。そこでモラン大佐は、アデイア青年が、相手の不正行為のために、誤魔化された利得の計算を、正しく計算し直している時に、殺害してしまったのである。アデイア青年がドアに鍵をかけたのは、夫人たちが闖入して来ないように、――なお更に、自分が書きつけている人々の名前や、貨幣などについて、五月蝿(うるさ)い追求を避けるためであったと思う。以て如件(くだんのごとし)なんだが、さてこれで級第かね?」
「ふむ、なるほど、そう云われれば、ずいぶんよく筋道が立っているね」
「まあこうしたことは、審理によって、いよいよ確証され、あるいは覆されよう。まあとにかくかくして、モラン大佐はもう、吾々の煩累となることはなくなったし、あのフォン・ヘルダー[#「ヘルダー」は底本では「ヘルダン」]の有名な空気銃は、警視庁の陳列館の、珍品として並べられよう。そしてこのシャーロック・ホームズ先生はまた、ロンドンの複雑した生活の齎(もたら)す幾多の興味ある問題の検討に、思うままに生涯を捧げることが出来ることになったと云うわけだ」




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