鰊漁場
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著者名:島木健作 

人家が絶えて、道は片側が山、片側が原野であるところへ来た。はじめてこの町へ入った当時の積雪は跡形なく消えて、ものかげに汚れた雪がのこっているだけだった。黒土には黄いろい草が萌え、いたやかえで、おおなら、かしわなどの木の芽が芳しい香りを匂わせていた。源吉はいくどもふりかえっては積丹岳を仰ぎ見た。山裾からすでに半ば以上あらわれたうす紫いろの山肌が、やわらかい春の陽のなかにけぶっていた。[#20字下げて、地より1字あきで]――一九三四年五月――
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