無口な女の子とやっちゃうエロSS 八言目 at EROPARO
[bbspink|▼Menu]
[前50を表示]
350:名無しさん@ピンキー
10/02/08 15:30:01 6D1o+Bkp


                    /:::::::::::::::::::::::::::::::::;イ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::、
                         ′::::::::::::::::::::::::::::::::/ |:::::!::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::、
                      /::::::::::::::::::::::::::::::::::::,:′ ! ::!:::::::::::::::::::::|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::、
                  /:::::/::::::::::::::::!::: |:::::/     !::|';:::::::::::::::::l:|.!:::::::::::::::::::::::::::::::::::::、
                    /:::;:イ::::::::::::::::::|、/|::/`丶、  !:|.l:::::::::::::::: |:! ';:::::::::::::::::::::: : : : : : 、
                     ,':::/ / :::::::::::::::::|ア"て`ヽ、、ヽ.!| !::::::::::::::: |! |:::::::::::::::::: : : : : : : :.、
                 i::/ / ::::::::/!::::::::lヽ.{:::い:リY   ! ヽ::::::::::ム!,,__!:::::::::::::::: : : : : : : : :.、
                  i/ /:::::::::人|::::::::i. ´ ー'       \://__|:/|::::::::: : : : : : : : : : 、
                / / :::::::::::::::|::::::::ト、             ,イ::い リ`ヽイ:::: : :./:: : : |\: :、
                / :::::::::::::::: \::::l ',              ゝ=シ, 、'" ':::: : :/|:::: : :,   \
                 /::::::::::::::::::::::ハ \          /            /::: : :/: !:::::::,'
                  / :::::::::::::::::::::::::ハ                    /:::: : /:::',|:::::/  こんな時どういう顔をすればいいか
                  / :::::::::::::::::::::::::::: ヘ.     マ_ー_、         <'::::.: /::::::::|:::ハ   わからないの…
              ―= ―|::::::::::::::::「 ̄:|.\     -          .イ:/::::.∠-==|/ ̄`丶
       /:. :. :. :. :. :. :. :. : !::::::::::::::::|:.:..λ  ヽ       _...:ァ'´:. /ィ":. :. :. :. :/ :. :. :. :. :. \
      / :. :. :. :. \ :. :. :. :. |::::::::::::::::|:.:.:.:.:}.   丶--‐  ´/:.:.:.:.:.:.:.:./ :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. : ヽ
     /:. :. :. :. :. :. :. :ヽ :. :. :. ヽ::::::::::::::!:.:.:.: !',          /:.:.:.:.:.:.:.:.:.l:. :./:. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. ヽ
   /:. :. :. :. :. :. :. :. :. : ヽ :. :. :. ヽ:::::::::ヽ:.:.: | }       /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:. / :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. ヽ
  / :/:. :. :. :. :. :. :. :. :. :. ヽ:. :. :. :.ヽ ::::::::ヽ:.:l '       /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.| /:. :' :. :. :._:._:._:._:._:. :. :. :. :. :. :. :ヽ
. /:./. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :.ヽ : :. :. : }::::::::::::ヽ! \   / /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|/:. '. :. /:. :. :. :. :. :.:`丶、:. :. :. :. :ヽ
. ! :l :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. ヽ: : :. :. |:::::::::::::::ヽ      /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:! /.:. ,. : : . :. :. :. :. :. :. :. :. \ :. :. :. :. i
. |:. !:. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. }:. :. :. :|::::::::::::::::::}    /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|/:. :/:. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. :.}:. :. :. :. i

351:名無しさん@ピンキー
10/02/11 03:36:17 8BXLRdkz
病んに走るとアレだが、実際無口っ子の笑顔は最高だと思う。

352:名無しさん@ピンキー
10/02/12 21:19:44 bgdZYRjw
やべ、萌えた

353:名無しさん@ピンキー
10/02/13 16:02:06 JphDVf/q
ここの保管庫ってずっと滞ってるのか?

354:名無しさん@ピンキー
10/02/14 03:39:25 QH9gZ8vG
 高校は今現在、昼休みの時間。
 男子も女子も、教室でじっとするにはまだ元気を持て余す年頃だ。
 人は散り散りで、ここには幼馴染同士の男女を除き、誰もいなかった。
 ちょきん、ちょきん、と、テンポよくハサミの音がする。
 手を添えながら、無精な彼の、若白髪を切っているのだ。
「なぁ?」
 返事の代わりに、物音がしん、と停止する。
「お前まめだな」
 そう言うと、受け流すように作業は再開された。
「白髪なんて放っといて良いのに」
 背中で呟く相手を、彼女は気に留めない。
 ちょきん、ちょきん。
 無言の散髪は、続く。

 真後ろにイスを付けて、やや前のめりに白髪を切る彼女。
 やがて目立つ部分は無くなったのか、席を立つ。
 隣を通る際、その手に包まれた物を、彼は見せてもらった。
「うわ、俺相当病んでるな」
 その少なくなさに、感想をつける。
 彼女はそれだけ聞くと、教室の右端にあるゴミ箱に、物を捨てに行った。
 そして戻ってくると、また彼の背中側に。
「とりあえず、ありがとさん。で、何企んでる?」
 と訊くと、彼の首周りに細い腕が、伸びてきた。
 息遣いが至近距離になり、確認出来る特別な感情。
「便宜を、はかりたい」
 繊細で透き通るような声。
 それはどこか悪戯っぽい響きで、彼の耳に届いた。

 彼は手さげに手を突っ込むと、巾着を取り出した。
「ほれ、見返り」
 黙って受け取る彼女だったが、表情は見る見るうちに、明るく染まる。
「昔っからそうやって、チョコ催促好きだよな」
 バレンタインも近づく週末。
 今年は当日が日曜なので、一日早めのプレゼント。
 傍から見ればやや図々しい逆チョコにも見えるが、以前から二人には、習慣着いていたものだ。
「!」
 彼女が袋を開くと、中には銀紙に包まれた、如何にも手作りといった感じの物が四つ。
「ま、普段金かけることなんて、お前に何かしてやるくらいだし?」
 照れ臭そうな、しかしどこか陰のある皮肉にも聞こえる台詞。
 包み紙を開くと、香りもデザインも上品で手の込んだ、一口サイズのチョコレートが顔を出す。
「この間スイスのチョコレートショップ特集やってたから、それ参考にな」
 
 一つを、味わうように小さくぱくり。
 どちらも顔が思わず綻んで、和んでしまう。
「ん? 俺にも半分?」
 彼女は是非にと言わんばかりに頷く。
 そして、その手から直接、チョコレートを口に運んでもらう。
「美味いな。手前味噌だけど」
 柔らかく溶けていく甘さを、二人で共有する。
 そんな発想が出来る関係は、単なる幼馴染に留まらない。
「あ、その丸い奴の中は、レーズンソースな。コニャックの代わり」
 随分と凝っているものである。
 これ? と目で訊く彼女に、彼はそうと答えた。
 ぱくり。
「美味いか?」
 やはり半分だけ齧った彼女。
 と、中のソースが流れ出て、唇に少しだけ付いた。
 その部分だけ、てかてかとまるでルージュを塗ったように、光る。
「零れたぞ」
 彼は手を差し伸べて、相手の下唇を、指で軽く拭った。

355:名無しさん@ピンキー
10/02/14 03:46:24 QH9gZ8vG
「ん?」
 彼女は思わず、手首を掴んでいた。
 そしてその先の、ソースが付着した指にそっと、顔を近づけた。
 ぺろ、と舌で舐めとる。
「そんな勿体無がんな。まだ家にたくさんあっから」
 しかし、直向に口数は少ない。
 何を考えているかを表情の、微妙な動きで察しなければいけない。
 だからその度、まじまじと見つめ合って、そして我に返るように恥らってしまう。
 今もまた、そんな風にして視線が流れる二人。
 どきどきと胸が興奮を告げ、顔は薄らと赤くなる。
「悪ぃ」
 しかし健気に、首を横に振る。

 初心な模様に痺れを切らしてか、彼女は欠片をまた、彼の口に。
「あーん」
 半ば押し込むように、そして深く、手先まで咥えさせるように入れる。
 指が唾で、しっとりと濡れる。
「何か、甘いな。って、当たり前か」
 濡れた指を見つめ、彼女を見つめる。
 言葉はないが、笑っている。温かな含みに、何重にも救われるような、心地。
 友人のいない彼の、たった一人の理解者。
 白髪を育むほどに日常にストレスを溜めて、それでも彼女がいる。
 いや、彼女しかいない、のかもしれない。
「せっかく作ったんだから、全部食べて良いのに」
 それでも強がってしまう、男の性。
 しかし彼女も、例え無口でもそんな彼を理解し、支え、癒している存在である。
 気丈に受け止めて、笑う。

「で、お前、指」
 え? と間の抜けた表情。
「ったく、何してんだか。汚ねえだろ」
 そう言って、ポケットからハンカチを取り出す。
 しかし彼女は、それをぼんやりと見つめると、自分の口元にやった。
 ちゅ。
「おいおい」
 どこか甘ったるい仕草に、彼は呆れながらも、愛しさを覚える。
 しかしハッとして、彼女の指をハンカチで、やや乱暴に拭いだす。
「あーあやり辛い。やっぱお前はずるい。俺ばっか喋らせて」
 本音を吐露するように、言った。
「たまにで良いから、何か言ってくれよ。不安になるから」
「じゃあ、好き」
 簡潔な一言が、的確に心を貫く。
 緩んだ時間の上で、彼は短く溜息を吐いた。
 嫌なのではなく妙に嬉しくて、もどかしいような切ないような感情に、少しだけ苛立っているのだ。

 やがて、彼は切り出した。
「馬鹿」
 一言で返し、後は体を抱き寄せ、自ら包み込むだけ。
 どちらが男で女かよく分からない関係だが、それでも絆に隙間はない。
 瞬く間に、冬場の羽毛布団みたいに温かく柔らかで、心落ち着く空間が作り上げられた。
 彼の胸の中にそれは小さく収まって、何故かとても貴く思えて、力がこもる。
 そしてチョコレートの余韻を、ほんの僅かだが受け取る。
「う、ん」
 彼女からの、バレンタインデー・キス。
 目を瞑ると、時間は二人だけのものになる。
 甘く、そしてほんの少し苦い味に誘われて強く、しっかりと認識し合う。
 他にはいない、これからもずっと、大事な人だと。


おしまい

356:名無しさん@ピンキー
10/02/14 05:54:31 inxMGetv
GJ

あああああああああああああああああああああああああああああああ
俺もチョコ欲しいいいいいいいいい

357:名無しさん@ピンキー
10/02/14 10:07:34 TOee3drk
直接的な行為はないのに、なんとエロい雰囲気
すヴぁらしい

358:名無しさん@ピンキー
10/02/15 00:04:41 a9dUiew4
凄くイイ!!
無口彼女かわいすぎる

359:名無しさん@ピンキー
10/02/16 05:16:33 VyO4LqHt
ああ、この雰囲気がなんともたまらん……。

360:名無しさん@ピンキー
10/02/17 01:39:04 YXwwz8li
GJ
いいよいいよー

361:名無しさん@ピンキー
10/02/19 07:53:18 UvcrQjkO
手を差し出したら指を甘噛みしてくる無口っ子

362:名無しさん@ピンキー
10/02/19 13:07:17 N1Iqpk7k
>>343
よい。ヤナハラー的に

363:名無しさん@ピンキー
10/02/19 21:33:09 tRDgtMdt
GJです

364:名無しさん@ピンキー
10/02/19 22:14:33 eGKLHKK9
GJなんだぜ
それと>>361
そいつで一本糖化してくれ

365:名無しさん@ピンキー
10/02/19 23:12:38 vFhrZ+WX
GJ

366:名無しさん@ピンキー
10/02/21 01:02:22 picFX91O
オリンピックも中盤だが、無口っ娘が観戦してる様を想像するだけで萌える
一言も口に出さないのに表情と動きは饒舌だとなお良し

>>364
お兄さん甘えスレの住人だろw

367:名無しさん@ピンキー
10/02/24 03:33:41 hPo8rTEj
>>361
「―っ!?」
びたん
「んなっ!? ……何も無いところで転ぶなよ、心臓に悪い」
「……………………いたい」
「大丈夫か? ほれ」
すっ
「…………はむっ」
かぷっ
「…………何故俺の指を食う」
「あむあむ、あむあむ…………いひゃい」
「なら掴まれよ!!」

368:名無しさん@ピンキー
10/02/25 06:40:09 WzdhsTyQ
なにこれかわいい

369:名無しさん@ピンキー
10/02/26 06:44:41 OtDp5cml


370:名無しさん@ピンキー
10/02/27 04:48:37 McDMpTJf
「……………………ゆび、おいしい」

371:名無しさん@ピンキー
10/02/27 23:59:46 UFOaWLNQ
「指を舐めたいの?」
こくりと頷く
「はい、どうぞ」
人差し指をしゃぶる
「!」
目を見開く
”知覚と快楽の螺旋”が流れる
脳内に数式が展開する
物語の断片が一つ一つ繋ぎ合わされていく
全てを集約した答が天才的に導かれる
「―!!」
「何か閃いたのかね」
しゃぶるのを止める
そっと口を離し唾で濡れた指を見る
そして彼の顔を見る
「……そう、これはつまり、君のことが、好き」
彼の体を抱き締めてキスをする
「ぷは」
舌と舌との間に白いアーチがこさえられる
「……私の唾液が、こんなにも、粘っこい」
「意味が分からない…」
「……つまり(ry

372:名無しさん@ピンキー
10/03/01 00:34:32 JAHWFcoh
萌えた

373:名無しさん@ピンキー
10/03/02 21:07:30 JUT8mjif
投下したい
でも
勇気が出ないんだ・・・

374:名無しさん@ピンキー
10/03/02 21:48:06 86p6X/g5
いいから投下しろ。話しはそれからだ。

375:名無しさん@ピンキー
10/03/03 03:05:57 iZv3U2u2
書いてくれたら、功労賞あげる

376:雨が降るころに・・・
10/03/03 18:18:34 cJFxuP2l
 >>374
 >>375
タイトルはこんな感じです。

377:名無しさん@ピンキー
10/03/03 18:47:22 qaMGqw11
374
375
ではないが、投下するんだ! このスレに新しい風を!

378:雨が降るころに・・・
10/03/03 19:34:37 cJFxuP2l
投下してみます

379:名無しさん@ピンキー
10/03/03 19:44:20 4TbWqFEJ
一応下げた方がいいかも
メル欄に半角で「sage」って入れればおk

380:雨が降るころに・・・
10/03/03 20:03:20 cJFxuP2l
人気がない、暗い通り道
そこに潜む影二つ
「・・・いいか、しくじるなよ?」
「え〜っと・・ターゲットは誰でしたっけ?」
「土田霙(つちだみぞれ)。朝倉高校ではなかなかの美人ってウワサだ。」
「へぇ〜、そいつをレイプするんスか・・・」
「おっと・・来たぜ・・・」
2人に気づかずに、いかにもおとなしそうな少女が歩いて来る
(すっかりと遅くなってしまった・・最近物騒になってきたから早く帰らないと・・・)
「・・・いくぞ。」
その手には、ナイフが握られていた・・・
そして、
何も知らない少女に毒牙を向ける・・・

381:雨が降るころに・・・
10/03/03 20:06:43 cJFxuP2l
今日はここまで、土田さんは、
レイプされない予定です。

382:名無しさん@ピンキー
10/03/04 11:42:05 fkLGezat
「……………」
「ん?今日も外は寒そうだって?」
「………(こくり)」
「天気予報であったかいって言ってたぞ。もう春だな」
「……………」
「え、おまえ花粉症だっけ?初耳だぞ?」
「………(こくこく)」
「皮膚まで痒いから少しでも外気に触れる部分を減らしたい?」
「………(こくり)」
「もっとくっついてもいいか?」
「………(じー)」
「まずは服を着ろ」
「……………」

くっつく理由を必死で捏造する無口っ子

383:名無しさん@ピンキー
10/03/05 22:42:53 uVKHOFnj
ふにふにほっぺたを突くと、「なによう?」って言いたそうに無言で睨んでくる従妹。
でも止めたら止めたでチラチラこっち見てくる。可愛い。

384:名無しさん@ピンキー
10/03/06 21:49:52 cbvSjgY+
無口な幼女は良いな

385:名無しさん@ピンキー
10/03/07 17:44:14 VWE9fFz0
無口な小学生の女の子

386:名無しさん@ピンキー
10/03/07 18:51:02 NMKdK5S2
机向かって仕事してると、静かに扉開けてトテトテと近寄ってきて、
机の下に潜り込んでそこからぐりぐり身をねじりながら登ってきて
膝の上に収まり無言で見上げてきて、微笑んであげると安心したように
笑って絵本を読み出す無口幼女と申されたか

387:名無しさん@ピンキー
10/03/07 20:23:12 oR5bm2Vi
かわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

388:名無しさん@ピンキー
10/03/07 22:21:06 VWE9fFz0
>>386
可愛い過ぎるw

389:名無しさん@ピンキー
10/03/08 01:46:58 vc5oHm89
 今日も従妹が遊びに来た。
 はいはい、今日は何ですか?
 お膝に乗っけて? しょうがないなぁ。
 軽い体を抱っこして、よいしょ、と。
 組んだ膝の上に座らせると、彼女は背中から体を預けてくる。
 僕はその体に、シートベルトのように腕をかけながら、タンスに持たれかかる。
 あ、背中痛くしないようにクッション一枚。

 彼女は本を持っていた。
 ”やさしい落語・千両みかん”
 ちなみに昨日は”時そば”だった。
 読み聞かせには些か、易しくない題目だけど、まぁ良いや。
 それじゃあ、読みますよ?
 僕は彼女の頭越しに、そんな落語の本を開いて、朗読を始めた。
 
 彼女は時々、姿勢を整えようと体を動かす。
 その度、黒い髪が首の辺りを触る。
 くすぐったいよ? と、読むのを中断して言ってみる。
 ふふ、と小さく笑う彼女。
 気を取り直して、話を続ける。
 読み進めていくと、少し喉が渇いてきた。
 みかんでも食べたいなって思うけど、まぁここは我慢。

 最後に三袋のみかんを持ってドロン、というオチ。
 これで終わり。面白かった?
 横顔を向けて、彼女は頷いた。
 そうだよね。換金出来ないのにね。
 本を閉じ、一息吐く。
 え? まだ何か、本があるの?
 ”まんじゅうこわい”

 読んでいる内に、彼女の体がかく、かく、と振れだした。
 呼びかけても反応は薄い。
 やがて、穏やかな寝息が漏れ始めると、僕も読むのを止めて目を瞑った。
 本を置いて、もう一度腕をシートベルトして、柔らかな幸せを独り占め。
 夕食を作らないといけない時間だけど、もう少しだけ。
 もう少しだけ。

 手首を揺すられて、目が覚めた。
 何? 放して?
 あら残念。もうお帰りですか。
 いや、違った。
 彼女は体を返すと、重そうな目蓋のまま、前から僕に乗っかかってきた。
 反るような格好で、くっつく。

 器用だけど、これじゃかわいそう。
 しょうがないので僕は、タンスを諦める。
 彼女の体を抱いたまま、徐々に仰向けになるように、体を倒す。
 お昼寝準備完了。
 ん? なーに?
 もぞもぞと、よじ登ってきた。
 眠たげな顔がにゅっと登場し、僕を見下ろす。
 彼女は目を閉じると、そのまま首元に顔を埋めて、力尽きた。
 ただし、一度だけ、僕の唇を奪った後に。
 全く、あまり物は言わない癖に、どうしてこうも、愛しくさせてくれるのか。 
 でも、ありがとう。
 おやすみ。


おしまい

390:名無しさん@ピンキー
10/03/08 13:11:13 INEvvk3h
| 三_二 / ト⊥-((`⌒)、_i  | |
 〉―_,. -‐='\ '‐<'´\/´、ヲ _/、 |
 |,.ノ_, '´,.-ニ三-_\ヽ 川 〉レ'>/ ノ 
〈´//´| `'t-t_ゥ=、i |:: :::,.-‐'''ノヘ|
. r´`ヽ /   `"""`j/ | |くゞ'フ/i/
. |〈:ヽ, Y      ::::: ,. ┴:〉:  |/
. \ヾ( l        ヾ::::ノ  |、   素晴らしいGJだ
 j .>,、l      _,-ニ-ニ、,  |))
 ! >ニ<:|      、;;;;;;;;;;;;;,. /|       ___,. -、
 |  |  !、           .| |       ( ヽ-ゝ _i,.>-t--、
ヽ|  |  ヽ\    _,..:::::::. / .|       `''''フく _,. -ゝ┴-r-、
..|.|  |    :::::ヽ<::::::::::::::::>゛ |_   _,.-''"´ / ̄,./´ ゝ_'ヲ
..| |  |    _;;;;;;;_ ̄ ̄   |   ̄ ̄ / _,. く  / ゝ_/ ̄|
:.ヽ‐'''!-‐''"´::::::::::::::::: ̄ ̄`~''‐-、_    / にニ'/,.、-t‐┴―'''''ヽ
  \_:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ /  /  .(_ヽ-'__,.⊥--t-⊥,,_
\    ̄\―-- 、 _::::::::::::::::::::__::/  /  /   ̄   )  ノ__'-ノ
  \    \::::::::::::::`''‐--‐''´::::::::::/  / / / ̄ rt‐ラ' ̄ ̄ヽヽ
ヽ  ヽ\   \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/      /   ゝニ--‐、‐   |
 l   ヽヽ   \:::::::::::::::::::::::::::::::/           /‐<_  ヽ  |ヽ


391:名無しさん@ピンキー
10/03/08 14:43:39 vc5oHm89
 おまけ・裏

 首筋に舌を這わす従妹。
 上から落ちないように体を支えているつもりが、僕の手は彼女の腰に。
 そこ、弱いんだって。
 知ってて、やってるの?
 顔に尋ねると、悪戯っぽく笑う。
 このう、と頭を押さえると、や、と小さく抵抗する。
 知っててやってるなら、容赦しない。

 一旦は優しく、細やかな髪を撫でる。
 けれどすぐ彼女を横に寝かし直し、ぐっと顔を寄せる。
 口を唇で強引に塞ぐ。最初はつつくように、そして徐々に長いキスへ。
 左腕を枕にして、右手で彼女の小さな顔や上半身を、撫で回す。
 息が少し荒くなって、それでも息継ぎの後に、今度は舌を入れる。
 熱い。そして、背徳感。
 思わず気持ち半ばに、口内を犯すのを止めた。

 仰向きに戻って、呆然と天井を見つめる。
 そんな僕の手を、動かす二つの小さな手。
 人差し指の先に濡れたものが触れる。
 それは触れては離れを繰り返し、そして段々と、触れる時間が長くなる。
 やがて、まるで味わうように絡みだすのは、彼女の舌。
 物足りないの? 何も言わない。
 ただ、目が合わさった時、彼女の求めていることは、避けられない気持ちだと、気付く。

 僕は彼女をきつく抱き締めた。
 もう一度満足のいくまでキスをして、舌を湿らせる。
 自分と相手の興奮が、同じ方向へと向いていると知った時、二人は体を、肌を探り合い、またより深い心の奥を探り合う。
 トレーナーの中に手を突っ込むだけでは満足出来なくて、密着しながら脱がす。
 ひらひらのミニスカートはそのままに、今度は下半身へ。
 ゆっくり付け根の辺りに手を這わせ、そして筋をなぞる。
 息は荒い。
 トーンの高い息遣いが彼女。低いのが僕。

 カラータイツと下着を順に取り去り、僕もまた、服を脱ぐ。
 嫌? もう、止めてほしい?
 彼女は首を、健気に横に振るだけ。
 剥き出しの竿は見境無くも真上を差して、”繋がり”を待っている。
 まずは指で、少しだけ慣らす。
 直に触れる彼女の秘部は小さく、そして滑らか。
 徐々に感じ始めていたのか、切ない声が途切れ途切れ、漏れる。

 彼女もまた、本能からか僕の竿を手に取っていた。
 弄られる下半身に感じながら、包んで捏ねるような両手使い。
 若干の震え。
 抑えられない欲情が液となって先から零れて、竿をぬるぬると覆っていくのが分かる。
 それは彼女の手を汚しつつ、満遍なく塗り広げられていく。
 発作のような吐息。
 びくん、と彼女の体が痙攣し、そして脱力した。

 手前まで指を入れたところで、果てた彼女。
 大丈夫?
 しかし、僕を見る目は潤んでいて、それが絶対的に、やるせない。
 好きだよ。
 そして全部、自分のものに、してしまいたい。
 外から中まで、きっと、ずっと、好きになれる。

392:名無しさん@ピンキー
10/03/08 14:44:39 vc5oHm89
 きつい痛みは、どこか現実味がない。
 貫く時、彼女の声にならない悲鳴が、僕を責めた。
 けれど引き返す道は、もうない。
 愛撫をしながら、好きを囁きながら、何度も中を広げて、そこに挿す。
 無茶なことに必死になって、後がどうなるかも知らず、また顧みることも出来ない。
 それなりに入った辺りで、今度は上下に扱く。
 押し潰されそうな、竿と心。
 確かな快感と不確かに渦巻くたくさんの感情で飽和した、息苦しさ。

 やがて、込み上げてくるものを感じた。
 止めない。
 来い。
 !!
 熱い。
 何かが、弾けた。
 自分の竿から彼女の中に、熱は全てそこに奪われていくかのよう。

 ぐちゃぐちゃのままに、僕は彼女を抱き締める。
 何一つ拒否しないで、そして今も、彼女は僕を抱き締め返してくれている。
 もしかして? いや、違うよね。
 僕は、彼女の名前を呼ぶ。
 呼び捨てにされ、一瞬戸惑う。
 しかし、彼女は言葉の変わりに、僕の体を強く、ぎゅっと締める。
 好きだよ。
 もう一度、ぎゅっとされる。
 好きだよ。
 ぎゅっ。
 好き。
 ぎゅっ。
 好き。
 ぎゅっ。

 改めて彼女の顔を見ると、涙で汚れながらも、口元は緩んでいた。
 嬉しいの? どうして?
 しかし答は、唇で返してくる。
 短いキスと、嬉しそうな吐息。
 何故こんなにも、大人を知っているんだろう。
 え? まだしばらくこうしていてほしい?
 勿論良いよ。僕も、そう思っていたから。
 そしてまた、抱き締める。

 愛らしい彼女は、今僕にとっては絶対無二の、子。
 けれど唯一、足りないものがある。
 どうしても、その言葉を聞きたい。
 僕には全てを受け入れて、体を許してくれる彼女。
 何度も確認したけど、偽りはないようにしか見えない。
 ただ言葉では、まだ彼女の本当の気持ちを、聞いていない。
 どうしたら?
 僕は、すべすべの肌を余さず、小さな胸も自分にしっかり押し付けて、足を絡めた。
 そして、これ以上ないくらいの思いをぶつけるように、強く抱いてみた。

 思わず気持ちが詰まって、軽く溜息が出た。
 すると彼女は、涙が出そうな僕の目元から頬に、撫で下ろすように触れた。
 視線が合わさって、それは何故か今更ピュアな、甘酸っぱい感情を呼び起こす。
 何?
 その時、彼女は僕に、どんな幸せよりも幸せなものをくれた。
「すき」


おしまい

393:名無しさん@ピンキー
10/03/08 17:03:44 zzjUE1DF
すばらしすぎてなんと言ったらいいのかわかんないぜ・・・

乙!

394:名無しさん@ピンキー
10/03/08 20:31:48 JV2W0Msq
エロいな…
なんというGJ

395:名無しさん@ピンキー
10/03/10 18:15:56 fq4uG+Vg
更なる投下期待

396:名無しさん@ピンキー
10/03/16 05:12:04 IbST7vno
無口なキス魔っ子

397:名無しさん@ピンキー
10/03/16 05:17:00 n0hCbNS+
あまみか

398:名無しさん@ピンキー
10/03/16 17:43:59 G7IYP65z
お前らってコリラックマみたいな女が好きなんだよな?

399:名無しさん@ピンキー
10/03/16 20:17:23 J//3nnir
朝起きたらベッドに姉が潜り込んでいた
まあいつものことだけど

400:名無しさん@ピンキー
10/03/18 16:35:54 snjjXWIQ
………ほしゅ

401:名無しさん@ピンキー
10/03/18 22:36:50 pLdbr2Fv
400
sageましょう


でもどっか抜けてて
無口な君が好き

402:名無しさん@ピンキー
10/03/19 11:18:27 3j0c+rcy
 

403:名無しさん@ピンキー
10/03/21 04:47:03 LUdOlx0I
無口ツンデレ幼馴染み

404:名無しさん@ピンキー
10/03/21 10:36:25 eW0p5HVN
>>403
「紅」を読んで銀子に萌えて来るんだ


405:名無しさん@ピンキー
10/03/22 00:18:36 AXoL0EQ6
銀子は無口かな?小言キャラな気が(笑)
無口ツンデレと言えば……

ちょんちょん
男「ん、なに?」
女「…………」
男「……?手がどうかした?」
ぶんぶん
男「……あぁ!なんだ、そゆこと?」
女「…………」
男「まだここらは寒いからねー」
女「…………」そわそわ
ぎゅっ
男「はい、これで二人ともぬくぬくだ」
女「………………………………ぷいっ」


こんな感じ?

406:名無しさん@ピンキー
10/03/22 20:35:20 mlCJxiO8
リメンバー醜悪祭
絶対に許さないよ

どちらかと言えば漫画版の切彦じゃね

407:名無しさん@ピンキー
10/03/25 19:39:49 SmvTJkUC
キリヒコと聞くと
仮面ライダーを思い出す俺


何故か日曜は早起き君

408:名無しさん@ピンキー
10/03/25 20:55:05 SBgtx4a3
>>403
とりあえずお前は落ち着け
そんでこれ貼っとくから息抜きに使っとけ
URLリンク(www.deliv-stage.com)

409:名無しさん@ピンキー
10/03/26 01:43:39 OqBMQYEh
>>407
俺は最低野郎の方かな

410: ◆6x17cueegc
10/03/27 03:16:11 d8x2H1ST
こなさんみんばんわ。新年度を迎える前にありったけの逃避エネルギーをブチ込みに来ました

注意点は特に無し
ではどうぞ

411:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:16:50 d8x2H1ST
 寒い。こんな時期にわざわざ屋外球場までオープン戦を観戦しに来なくてもいいではないか。
「……?」
 寒い寒いと股に手を差し込んで身体を揺らしている俺と対照的に、彼女はグラウンドを注視していた。毛糸の
帽子で耳まで隠し、異様に長いマフラーをきっちり巻いて、手袋をはめて、持ち込んだ魔法瓶から湯気の立つ中
身をコップに注いでいた。
「……野球場って持ち込み禁止なんじゃないの?」
 それくらい分かっている、といった素振りでコップの中身を啜る。漂ってくる香りからしてミルクティーらし
い。
「寒くて、風邪引くから」
 今年は季節外れの寒気のお陰で、オープン戦終盤の今の時期でも雪が降りそうな気温だった。
「ところでそれを俺にくれたりしな……ダメですかそうですか」
 つーんとそっぽを向かれたので諦める。仕方がないので売店にでも行くか、と立ち上がると、コートの裾を捕
まれた。
「売店で飲み物買ってくるだけだから」
「ほんと?」
「本当本当」
「……煙草吸ってきたら、怒る」
 うぐ、と喉を鳴らしてしまう。彼女は喉が弱いとかで俺にも禁煙を頼むのだ。最初のうちは俺もヘビースモー
カーというわけではないので何ともなかったのだが、こう常日頃から一緒にいると……我慢も結構辛いものだ。
 ちなみに、一本くらいバレないと思うのは喫煙者の思い上がり、とは嫌煙者である彼女の言い分である。
「分かりました、買ったらすぐに戻ってくるから。俺も新戦力見たいしね」
 そう言って俺は人もまばらな観客席を抜け、熱心な応援団を横目に見ながら売店へ駆け込んだ。

 試合も終盤、両軍の選手は既に半数ほどが入れ替わっていた。
 お目当ての大物移籍選手やベテランはとっくの昔にベンチに引っ込んでいるし、目を引く新人も分からない俺
は手持ち無沙汰だった。
 一方の彼女は急に吹き出した海沿いの風に飛ばされそうな最新の選手名鑑とにらめっこをしている。代打で出
てきた若手のデータを調べているらしい。
「どんな選手?」
「……ウエスタンはこっちじゃ滅多に見れないから」
 要するに分からないわけか。こういう冊子には数字しか載っていないからな。
「打つと思う?」
「当然」
 伝統あるトラーズの一員なのだから打ってくれないと困る、という意味だ。付き合ってからもうすぐ3年、こ
れくらいのことは分かるようになってきた。阿吽の呼吸、ツーカーの関係という奴だ。俺は彼女のいい嫁になれ
る自信がある。
「どんな選手なの?」
「えっと―」
 また膝に置いた分厚い名鑑に目を落とす彼女の肩を抱き寄せる。
「よく聞こえない」
「……んっとね?」
 俺に見えるように持ち上げると、名鑑のページを指さす。
「なになに、『50m5秒台の走力と意外性のあるバッティング』? なんかよく見る文言だなあ」
「だね」
 未だ活躍の見られない選手につけられがちなコメントだった。あとは『300kgを誇る背筋』『ベンチプレスで
120kgを軽々と上げる肉体』『最速148km/hのストレート』あたりがよくあるか。実績がないので目に見える数字
以外に書くことがないのだ。
 これが次第に『二軍ではレギュラー』や『一軍定着を目指す』になり、『レギュラー候補』『不動のレギュ
ラー』『チームの顔』『タイトルを狙う』と推移していく。当然『未完の大器も後が無くなった』となる選手の
ほうが圧倒的に多いのだが。
 そんな風に名鑑を眺めているとスタンドが沸いた。慌てて辺りを見回すと、さっきの若手がダイヤモンドを小
走りで駆け抜けていた。どうも向こうの外野スタンドに叩き込んだらしい。
「……まさに意外性だね」
「……うん」
 彼女はいい場面に出会えなかったことに疲れたのか、俺のほうへ体重を預けてまた名鑑に集中し始めた。

412:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:18:10 d8x2H1ST
 * * * * * *

「何か食べて帰る? ……ああ、ここまで来たんだし、ちょっと寄ってみようか」
 街灯に掲げられた中華料理の看板を指さす彼女にそう返すと、また袖を引かれる。何か間違えたのだろうか。
「……持って帰る」
「テイクアウトしなくても食べて帰ればよくない?」
「おウチで食べよ?」
 驚いて彼女の目を覗き込むと視線を逸らされた。
「……その、あの」
「テイクアウトだけじゃ足りないかもなあ」
「え?」
「食べちゃうぞ? なんちゃって」
 彼女は一瞬息を呑んで、それから俺の手を握った。

 * * * * * *

 彼女は俺の家にやって来ると、一番最初にTVの前のソファに腰を落ち着けた。間髪入れずにリモコンを手に取
り何か操作している。
 一応俺の部屋なんだけどな、と苦笑しながら持って帰ってきた料理を適当に皿に出し、順番にレンジに放り込
んでいく。音から察するに、彼女の見ているのはどうやら野球専門チャンネルのようだった。
「おーい、どれくらい食べる?」
 彼女は無言のまま頭の上に両手で丸を作る。『いっぱい』の意味だ。冷蔵庫からタッパーに詰めた冷飯も出し
てきて、茶碗も用意する。
 チン、といういい音が響く。中身を入れ替えて、熱々のほうをソファ前のローテーブルへ持っていくと、彼女
はちらりとこちらへ視線を遣って、一つ向こうへずれた。
「まだ残ってるからいいよ」
「……手伝う?」
「いやいいよ。レンジは一つだけだから、手伝ってくれてもそんなに変わらないしね」
 言いながらTV画面を見る。野球ニュースの時間のようで、ちょうどさっき観てきた試合の順番が回ってきた。

『オープン戦も終盤になって、この季節外れの寒さには観客も辟易しているのか、人肌恋しと寄り添っています
 ―』

 一瞬の出来事ではあったが間違いなく俺達だった。思わず皿を取り落としそうになる。
「……録画」
「いや、恥ずかしいから」
 彼女はテーブルに置いた酢豚のようなものの塊をひょいっと持ち上げて口に運ぶ。もぐもぐやりながら自分の
隣を軽く叩いた。この試合だけでも一緒に観よう、という意思表示だった。
「はいはい」
 その場所へ腰を下ろすともたれてくる。さっき画面に映ったそれと同じ格好だった。

『―しかしそんな寒さをよそに、開幕一軍枠を巡った争いは日に日に激しさを増しています。スタメンをほぼ
 手中にしている選手達は軽い調整を意識してか、5回までに殆どがその打席を終え―』

「そういやトラーズのクリンナップって、オープン戦になかなか顔出さないよね」
「その……腰痛持ちだから、冷やすのは、ダメ、なのかも」
 彼女はさっき塊をつまんだ指を舐めながら身体を縮める。
「寒い?」
 ふるふると首を振る。
「……でもくっついてないとこ、冷たい」
 一旦立ち上がり、それからわざわざ俺の股間の前のスペースに腰掛けた。ずり落ちないかこっちが心配になっ
てしまう。
「……抱っこ」
「はいはい」
 落ちるか心配するくらいなら腕で押さえておいてほしい。そういうことなのだろう。肩の上から腕を伸ばし、
お腹の前で繋ぐ。

413:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:18:32 d8x2H1ST
『―目を引いたのは新入団の選手達。特にトラーズのリードオフマンとセンターのポジションを狙う柴山選
 手。8回、代走出場から回ってきた打席でこの一発―』

「見逃したの、これだね」
 彼女は返事をする代わりに手を握ってきた。ついでに背もたれの扱いを受けて腹が押される。
「それにしてもすごい一発だね。大卒1年目の選手とは思えない」
「……意外性」
「確かに」
 だんだんずり下がってきていた彼女を抱き直して、俺も酢豚のようなものをつまむ。行儀は悪いが料理は旨
かった。

『―この一発で試合も決まりました。トラーズはオープン戦、久しぶりの勝ち星です』

 口の中をごくりと飲み込むと遠くのほうでレンジが鳴った。取りに行こうと腰を浮かすと、彼女は更にこちら
側に体重を預けてきた。あからさまに邪魔をしている。
「……行っちゃヤだ」
「ヤだって言われてもな」
 そりゃ俺だって面倒くさいけど、まだいくつか皿が残っているのにそういうわけにもいかないだろう、と苦笑
する。ついでに料理をつまんだ指も拭きたい。
「というわけだから、ちょっとだけ我慢しててください」
 子猫をあやすように、汚れていないほうの手で喉のところをさすってやるが、返ってそれが癪に障ったよう
だった。汚れているほうの腕を捕まれて指に噛みつかれる。
 痛い、と反射的に顔をしかめてしまうがそれは早とちりだった。噛みつかれたのではなく、舐め回されている
のだと気付くまでにそんなに時間はかからなかった。
「……くちゅ、くちゃ……これで、きれい?」
 不安そうにこちらを見上げてくる彼女を、俺は無言で押し倒した。
「ど、したの?」
「……分かっててやってるだろ」
「……ちょっとだけ?」
 ちょっとでも分かってれば十分だ。食べちゃうぞ、と囁いてその唇を塞いだ。

『見事なホームラン、柴山選手のインタビューです。<ええ、打ったのはストレートだと思います……>』

 キスをしながら、そちらに意識を取られているのを感じる。短い吐息は聞こえてくるものの、どうにも気が
入っていない。
「一旦、待ったほうがいい?」
「……ごめんね?」
「いいよ。明日も休みだし、がっつく必要もないだろ?」
 そうは言いながらも、俺は彼女の身体をまさぐる手を止めない。肌着代わりに来ていたTシャツの下へ手を伸
ばし、すべすべとしたお腹を撫でる。

『……続いてはラビッツとベアーズの対戦をお送りします。くしくも昨年の日本一を争った―』

 気が逸れるのは今度は俺の番だった。思わず手を止めてしまうと、彼女の顔色が途端に曇る。
「……ヤ」
 彼女はリモコンへ手を伸ばしてTVの電源を消してしまった。
「私だけ、見てくれなきゃ、ヤ」
 我侭な要求であることは彼女自身も分かっていたらしい。顔を赤く染め、逸らしてしまう。
「見るよ」
 ほんのり染まった頬へ指を這わせこちらを向かせる。
「そういう子だって知ってて付き合ってるんだから。……好きなんだから」
 彼女は小さく頷いて、汗を流したい、と言った。

414:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:19:11 d8x2H1ST
 シャワーヘッドを彼女の頭の真上に持っていくと抱きつかれた。
「……あったかい」
 それはシャワーのお湯が温かいのか、俺の体温がそうなのか。
 お湯をかけながらじっと彼女のことを眺めていると、不思議そうにこちらを見上げてくる。お前は浴びないの
か、と目が語っていた。
「かわいいな、と思ってさ」
「…………?」
「水も滴るいい女?」
 俺の胸に埋めるようにして顔を隠してしまう。お互い素っ裸なのにまだ何か恥ずかしいのか、とからかうと、
憮然とした顔で睨まれた。
「どれだけ言っても言い足りないくらいかわいいと思ってるんだけどなぁ」
 シャワーヘッドを金具にひっかけて、両腕で彼女を抱きしめる。腕の中でくすぐったそうに身を捩るのを、逃
がさないように優しく身体を密着させる。
「……俺、もうこんなだ」
 勃起したそれを相手の臍に押しつけて認識させる。ガチガチの棒が臍の溝を抉ったからか、彼女は少し驚いた
顔をして見せた。
「このまま……食べちゃおうかな」
「……ここで?」
「うん」
 おでこに口づけて胸を軽く揺する。人差し指で先端を弄ると顔を歪め、喉の奥で呻いた。そんなことを言わな
いでほしい、と目で訴えかけてくる。
「何か困るの?」
「……困らない。けど、がっつかないって言ってたから」
「それは、アレだ、ごめんなさい」
 彼女の両腕ごと抱きしめて動きを封じる。
「……どっちの意味?」
「嘘ついてました。今すぐ挿れたいです」
「……ばか」
 さっきの言葉信じてたのに、と半ば呆れた様子で詰られる。
 ここまで来たらこうなったって仕方ないじゃないか。そう囁き返すと彼女は一瞬戸惑った表情を見せた。なん
でそうなるのか、といった様子だ。
「君がかわいいから、こうなるんだよ?」
 彼女は顔を赤くして口を閉ざしてしまった。その代わりにおずおずと手をこちらの―分身の先端へ伸ばして
きた。

415:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:19:33 d8x2H1ST
 今まで何度もそうしてくれたのに、彼女はまだ恥ずかしいようだった。頬を染め、おっかなびっくりといった
様子で、掌に取ったボディソープを先端の出口で捏ねる。快感で喉の奥が鳴る。
 お返しに胸へ手指を這わせた。柔らかい。撫でるだけでなくて掴んで軽く揉む。
「ん、ばか」
 今は私が責める番なのだから止めてほしい。そう視線で抗議してくるのと同時に、手の動きが変わった。皮の
内側に指を入れてぐるりと回していく。
「……きれいに、しないとね?」
 ボディソープを泡立てながら亀頭をマッサージする。刺激が強すぎて奥歯を噛みしめて耐えるが、どうしても
声が出てしまう。
 彼女はそういう反応を横目に見ながら、根元のほうへ泡を伸ばしていく。全体をぬるぬるにしてそれをまた刷
り込んでいく。
「おっきくなってきたね」
「そりゃ、気持ちいいからね」
「……えっち。こんなに、火傷しそうなくらい熱くしちゃって」
 裏筋を中指と人差し指でくすぐりながら親指を鈴口へ強く押しつけ、挑発するような目つきで俺をまた詰る。
 こういうときだけ見られる、珍しい彼女の一面だった。こう強気になるのは、他にはトラーズに関係した話題
くらいなので、少しは俺の存在も彼女の中での優先順位が高くはなっているのだろう。
「……今すぐしたいんだ?」
「したいよ、見ての通り」
「えっち」
「ごめんなさい」
 一方の俺はというと、強気に出る彼女への対応がまだよく分かっていない。基本的に言われるがままだ。それ
はそれで気持ちいいから構わないのだけど、機嫌を損ねるのも面倒なもので。
「こんなに熱いの、私の中に入れちゃうんだ」
「ごめんなさい」
「……悪いと思ってる?」
「思ってます」
 その返答に彼女は満足したらしく、口の端を軽く持ち上げて鼻を鳴らした。今回はどうやら成功したらしい。
「……なら、許す」
「ありがとうございます」
 恭しく一礼すると、彼女はむー、なんて声にならない声をあげながら抱きつかれる。
「……ばか」
 今度はやりすぎたらしい。……どうもツボが分からないなあ。

 お詫びにと背中から下半身へ手を伸ばす。弾力のあるお尻の肉を掴んで揉みながら、少しずつ本命に向けて進
んでいく。後ろの穴に指を引っかけてこじる。
「う、あ……?」
 彼女が戸惑っているうちにシャワーで自分自身の泡を洗い流し、用の済んだシャワーヘッドはそのまま彼女自
身に押し当てる。
「……んぅ!?」
 敏感なところへ押しつけられて彼女は腰を引いた。恨みがましい涙目で睨みつけられたが、さっきの彼女の言
葉を借りるなら今度は俺の番なわけで。
「きれいにしないといけないでしょ?」
「でも、くすぐったい……」
 足腰に力が入らないのか、体重をこちらに倒してしがみついてくる。お尻に回した腕で支えながらシャワーで
いじめるのは止めない。
「くすぐったいだけなら我慢しようか」
「ば、ばかぁ……」
「聞こえないなあ」
 更に腰を引いて逃げようとするので壁に押しつけて逃げ場をなくす。さっきまでの強気が嘘のようだ。
「やめて……?」
「どうして?」
「……シャワーより、直接、してほしい、から」
「そんなことしたらがっついちゃうよ?」
 胸も唇も俺のものにさせてくれてるのに、これ以上なんて歯止めが利かなくなる。それは今までに何度もして
分かっているだろうに。
「もう、がっついてる、よぉ……」
 弱々しく言葉を吐き出して視線を合わせてくる。俺はごめんな、と呟いてシャワーヘッドを所定の位置に据え
付けると、彼女の唇を貪った。

416:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:20:20 d8x2H1ST
「挿れるよ」
 向き合って立った姿勢のまま、張りつめっぱなしの俺と、とろとろにとろけた彼女を合わせる。一瞬視線を合
わせると首肯が返ってきた。それを合図に腰を入れ込む。
「んっく……」
 彼女が整った眉を歪める。さっきの、悪いと思っているのか、という問いは半分本音なのだろう。まだ異物感
に慣れずにいるのが伝わってくる。
「大丈夫?」
 無言ではあったがこくりと一度頭が揺れる。
「痛いなら、今からでも我慢するぞ?」
「……ばか」
 えっちなことしたいって、我慢出来ないって言ったくせに。そう瞳が責める。
「ごめんな」
 少しでも楽な体勢にしてやろうと両足を抱えて持ち上げて、壁に押しつけるようにして身体を支えてやる。胸
が押されるほどくっついて、柔らかい彼女のほうだけが潰れる。
 何事か言いたそうな目に吸い込まれるようにして顔が近寄る。興奮で息が上がる。
「……ケダモノ」
「……ごめん」
「……許すけど」
「……ごめん!」
 お湯を張り始めたバスタブに押し込むようにして更に深く繋がった。

 彼女がいとおしくて、たまらなくて、無我夢中で腰を降る。中の一番奥を小突く。かき回す。派手に出入りさ
せる。いろんな方法で彼女を愉しみたい。
 そんな欲望に突き動かされている俺を、彼女は罵倒する。言葉で、視線で、態度でバカにして、それでも受け
入れてくれるのだからまだ一応は愛想を尽かされていないのだと、そこで再確認をする。きっと彼女の俺に対す
る評価は一時期の『ダメ虎』に通じるものがあるのだろう。
「……ね、今日」
 抱きついて肩に顔を埋めていた彼女が呟く。
「……んっあぁっ……中で、いいよ?」
 それを聞いた俺は、更にピッチを早めた。

417:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:20:47 d8x2H1ST
 * * * * * *

 翌朝。
 昨晩は一緒のベッドで二つの意味で寝た。そのため何か朝早くからゴソゴソやっていることに気がついてはい
たのだが。
「……おはよう」
「おはよ」
 我が家のソファにちょこんと座った彼女は、液晶TVに釘付けだった。見ていたのは昨日の夜にも見ていた野球
専門チャンネルである。
「朝メシ、何がいい? 食パンと牛乳くらいしかないけど」
 近所に喫茶店もあるからそこで済まそうか、などとの提案も全くの上の空。
「……もしもし?」
「なに?」
 視線はTVに留まったままだから、邪魔をするなという態度のつもりなのだろう。
「お前、ケーブルが目的でウチに来ただろ」
 ソファの後ろに立って頭の上に手を置くと、ようやく視線がこちらへ向いた。
「バレた?」
「バレてた」
 彼女のアパートは大家がしみったれなのか立地条件が悪いのか、BS放送こそ受信できるものの未だにTVはアナ
ログしか観られない、というのは彼女が以前に言っていたことだ。更に言えば、毎週末ウチに来てTVにかじりつ
いていれば、バカバカ言われる俺だって気がつく。
「……ごめんね」
「いいよ、気にしてない」
 頭の上に置いたままだった手で撫でる。
「……ウチに住む?」
 俺の言葉に、流石に彼女も驚いたらしい。
「毎週末が毎日になるだけだし、幸いなことにここ、使ってない部屋もあるし」
 一応ルームシェアになるんだろうか。そう言うと彼女はソファを立ち上がり、こちらへ振り向いた。
「いいの?」
「君が気に入れば、だけど」
 ソファを飛び越えて俺へダイブしてきた彼女を受け止めると、気に入らないはずがない、と耳元で囁かれた。

418:オープン戦 ◆6x17cueegc
10/03/27 03:24:15 d8x2H1ST
と以上です。
投下目標がパ・リーグ開幕までに→セ・リーグ開幕までに
とどんどん推移していくのを他人事のように楽しんでたらすっかり両リーグ開幕。ご覧の有様だよにならなくてよかった


以下本当にどうでもいい話

・途中で「ウエスタンはよく分からない」と言わせている件について
 このお話は東京23区内っぽい街が舞台なので、中京以西で行われている二軍戦(ウエスタンリーグ)は分からないという意味です
 筋金入りのファンになると昼は二軍戦を観に行き、夜は一軍戦を観に行くなんて猛者もいますが、
 流石に関西っぽい場所に本拠地があるだろうトラーズの二軍戦は観に行けないのです
 ラビッツとトラーズだけはケーブルで二軍戦をたまにやってますが、女のアパートにそんなものはありません

・野球専門チャンネル
 そんなもんあったら真っ先に加入してますがなにか

・柴山選手
 モチーフは骨折しちゃった2年目のあの人。書き始めたときは元気だったのに……

何が言いたいかっつーと、現実をもじったフィクションだから、変な描写があっても許してくださいってこと

419:名無しさん@ピンキー
10/03/27 04:09:12 lKAqRBPf
>>418
うふふふ GJでございます

420:名無しさん@ピンキー
10/03/27 08:10:14 ZZ4ZBiD4
かわいいいいい!!!


421:名無しさん@ピンキー
10/03/27 09:47:41 lBZPCHB1
鳥肌が立つバカップル、GJ!

422:名無しさん@ピンキー
10/03/27 18:19:29 pdXulve4
今まで付き合ってきたのがオープン戦で、同居始めるのが開幕戦なのかなーとか思った
となるとCSと日本シリーズは・・・

423:名無しさん@ピンキー
10/03/27 18:35:19 786Oz5LC
流石のGJです。

しかし昨シーズンよく別れなかったなあw

424:名無しさん@ピンキー
10/03/27 18:41:01 lBZPCHB1
>>422いや、その前に地獄のロードが待ってるぞ!

425:名無しさん@ピンキー
10/03/28 00:08:18 df/zU6mi
>>423
ぶっちぎりで突っ走ってた巨人と唯一互角だったのが阪神じゃなかったか
まあフィクションと言ってるし、もしかしたら去年もデッドヒートを演じた世界なのかもw

426:名無しさん@ピンキー
10/03/28 04:16:43 MrZ8Gac5
某投手のメジャー行きのときは、荒れたんだろうな…。

427:名無しさん@ピンキー
10/03/28 07:27:23 0RZAXyzE
長年ファンだったベテランキャッチャーが
メジャー帰りのキャッチャーに退けられたのは心苦しく思ってるんだろうな

でも勝てば嬉しいからさらに複雑に

ああ無口っこ可愛いよ無口っこー

428:名無しさん@ピンキー
10/03/28 17:16:12 9jHilBAP
かっ飛ばせ、夜のホムーラン(

429:ファントム・ペイン 番外編 ◆MZ/3G8QnIE
10/03/28 17:56:28 iQRekVa7
流れ仏陀切ですが、投下いたします。
非エロ、9レス程度

430:出汁巻き / 厚焼き ◆MZ/3G8QnIE
10/03/28 18:00:17 iQRekVa7
「珍しいやん」
「何がだ」
昼休みの、学園の中ほどに設置されているサロン。
昼食を取る高校生、中学生が散見される中、その一員である北大路侑子は同級生である伊綾泰巳の弁口箱を見て感嘆の声を上げた。
小奇麗なミニおにぎり、鮭の塩焼き、卵焼き、ピーマンのおかか和え、ズッキーニとナスのグリル、プチトマト、そして彩にバジルの葉。
「カラフル。いっつもはじみーな茶色のもんばっかしやのに」
「親父がメタボだからだ。俺の趣味じゃない」
「飯もいつもはべたーって広げてるだろ。今日は手ぇこんでるじゃん」
同席していた快活そうな男子、渡辺綱も侑子に同意する。
泰巳は弁当箱を二人の視線から庇うように横を向いた。
「そういや、今週からずっとだよな。みょーに伊綾の弁当が豪華になったの」
「さては……」
侑子はにやりと笑って泰巳の隣で黙々と箸を運んでいる少女に目を向けた。
短髪の小柄な少女、面々で唯一の中学生、が目を瞬かせる。
侑子のニヤニヤ笑いに半眼を向ける泰巳。
「何が言いたい」
「べっつにー? ただ、ヤスミンも随分絵麻嬢のことが可愛いと見える」
綱は合点がいったと言う風に手を打った。
「ああ、絵麻ちゃんがっこ通い始めたの、月曜だったな」
泰巳はフンと鼻を鳴らす。
「他人の弁当の中身に口出しする馬鹿もいるからな。俺は構わんが、こいつが変な注目を浴びるのは敵わん。
派手な弁当の方が目立たないと言うのも理不尽だとは思うが」
「ヤスミ」
と、黙って弁当を口に運んでいた短髪の少女、伊綾絵麻が口を開いた。
「お弁当、大変だったり?」
「……大した手間じゃない。どれも手抜きだ」
泰巳は憮然としておにぎりを齧った。
「でも旨そうだよなー。伊綾の弁当も。
どれ、一つ味見をば……」
伸びてきた綱の腕を、泰巳の左手が掴んだ。
「ここを血塗られた戦場にしたいか?」
「……トレードでお願いします」
泰巳の卵焼きと綱の豚生姜焼きが交換される。
泰巳は齧ってぼそりと一言。
「……味が濃いな」
『夏場だと傷みやすいですから』
綱の隣で聞き役に回っていた大人しそうな女子、渡辺結が携帯電話に文字を打ち込んで示して見せた。
どうやら生姜焼きは彼女の手によるものらしい。
綱も綺麗に巻かれた出し巻き卵を口に放り込んだ。

431:出汁巻き / 厚焼き ◆MZ/3G8QnIE
10/03/28 18:02:36 iQRekVa7
「ん―。塩っ辛いんだな、伊綾ん家の卵焼き」
「お前は何を言っている。塩辛くない卵焼きなどあるものか」
綱は目を丸くする。
「え……。卵焼きって普通甘いじゃん」
「甘い……?」
今度は泰巳の方が目を丸くする番であった。
「真逆、お前の家では卵焼きに砂糖でも入れるのか?」
「当たり前だろう?」
「は―!? 何でや。ありえへん!」
今度は侑子までもが声を上げた。
「卵焼きゆうたら、醤油塩だし汁以外調味料としてありえんやろ!」
「こいつと同意権と言うのは不本意だが、全く同感だ。
菓子以外で卵液に砂糖を入れる等、牛乳とレモン汁を混ぜるのと大差無い。
排水溝に流すのと同じ事だ」
「おおお、お前らおかしいぞ!
卵焼きのふんわりした食感を生かすためにも、砂糖はぜってー必要不可欠だ!」
二対一で旗色が悪い綱は、妹の方に助けを求めた。
「結! お前もなんか言ってやれよ!
卵焼きには砂糖入れるよな普通!?」
掌を上に向けて、肩をすくめる結。
人それぞれ。そう言うこと。
「お前は俺の味方じゃなかったんですかー!」



それは正しく、起きて然るべき必然の争いであった。
そもそも江戸における卵焼きは、主にデザートに分類されるべきものである。
こちらの卵焼きは砂糖や味醂などで味付けし、しっかり火を入れる事でボリュームを出してふわりとした軽い食感を出す。
白身の加熱による膨張を利用する甘い卵料理はカステラやケーキの概念に通じ、これがデザートと定義されることへの証左となっている。
"甘い"を"旨い"と同一視する当時の江戸庶民にとって、甘く味付けした卵焼きは花見の供や寿司のしめとして重宝すべきものであった。
関東から越してきた江戸っ子の渡辺綱に"卵焼きは甘いもの"と言う固定観念があったとして、誰にそれを責められよう。
対して、上方の卵焼きはオムレツ同様あくまでおかずであり、ご飯と共に食するものとして発達したものである。
半熟の状態で供されるべきこの卵焼きは冷めると当然不味くなり、あまり弁当に向くとは言えない。
夏場故に仕方なく固めに火を入れた泰巳の遣る瀬無い心中は察して余りあるが、別のメニューを選ばなかった彼の落ち度でもあろう。
関西の卵焼きには出し汁による旨みを凝固によって纏め上げつつ、かつ黄身のとろみを生かす絶妙な火加減が要求される。
この火加減を極めるべく血の滲む研鑽を積み上げてきた伊綾泰巳にとって、卵液に砂糖を加えるのは卵焼きに対する冒涜に等しい。
二人にとって互いの見解は全く許容し難いものであり、調理法を巡り相争うことは避け難い宿命であった。
誰も報われる事無い戦いが始まる。
嗚呼、卵焼きを愛する想いは、二人とも同じはずなのに――。




次ページ
最新レス表示
スレッドの検索
類似スレ一覧
話題のニュース
おまかせリスト
▼オプションを表示
暇つぶし2ch

3786日前に更新/480 KB
担当:undef