【異形化】人外への変 ..
2:1
09/05/06 21:02:39 Qol5p+gg
前スレ埋まったら使って下さい。
3:名無しさん@ピンキー
09/05/06 22:04:02 yWRNP9UI
スレ立て乙&前スレ投下GJ!
久しぶりにハァハァした
やっぱ鳥はいいなぁ
4: ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:30:19 PPS03S0X
>>1
新スレおよび前スレでの新作お疲れさまです。
私も短い話を考えていたところでして、まだ書きかけなのですがちょっと投下してみます。
5:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:32:41 PPS03S0X
今年の梅雨は明けるのが遅くて、七月も末だというのにまだじめじめと関東と東北に
雨を降らせている。
家にいる分にはそれでも構わなかったけど、宿泊学習の最中にまで降るのは勘弁して
欲しい。
いや、いっそ降るなら土砂降りになってくれればよかったのだ。なまじ歩ける小雨
だから、一番ひどいことになっている。
「きゃっ!」
隣で足を滑らせた友達の手を素早く掴んで転ぶのを防いだ。
「ごめんね、早苗ちゃん」
「しょうがないって。気をつけてても危ないよ、これは」
東北地方のとある山。二千メートル近くある山の、頂上まで登る予定。二泊三日の
宿泊学習、その二日目に控えし最大の、そして生徒にとっては最悪のイベントがこれ。
ここまで歩いてきた限りは傾斜も緩やかで道幅も広いが、それでもじめついた山道は
あちこちで生徒を転ばせている。
「精神鍛錬だか何だか知らないけど、事故が起きたらどうするのやら」
入ってからわかったことだが、うちの高校は旧制中学時代からの伝統がどうのこうのと
ずいぶんアナクロなことをほざく教師が多い。
「そうだねー。この先はもっと急で危なくなるって話なのに」
あたしに相槌を打つ友達は、その後声をひそめた。
「前に先輩から聞いた噂なんだけどね、十年くらい前に変なことが起きたらしいよ」
「何よ変なことって」
「女の子が急斜面で足を滑らせて、そのまま姿が消えちゃったんだって」
「……マジ?」
6:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:34:14 PPS03S0X
そんな事故を起こしておいてまだ続けるってどういう了見だ。
「でも、誰が落ちたのかわかんないの」
「え?」
「しばらく捜索したんだけど全然見つからなくて、後で確認したら一年生全員いて、
誰も怪我とか汚れたりとかしてないの」
宿泊学習は一年生しか参加しない。
ライトノベルとかでたまに見かける設定を思い出す。人間の存在そのものを消し去る
何らかの力。さっきまで確かにそこにいたはずの人を、友達も先生も家族も誰も認識
できなくなる。存在したという事実自体が消されてしまうから。
「……オチは? 二年生が混ざってたってところ?」
そんな嫌な想像を打ち消したくて訊いたのに、返ってきたのはきょとんとした顔。
「オチとかないよ?」
「……こんな時に怪談なんてよしてよ。あたしそういうの苦手なんだから」
「へえ、早苗ちゃんにも苦手なものってあるんだー」
「あるに決まってるでしょ」
「だって早苗ちゃんすごいもん。頭いいし、黒髪のきりっとした美人さんだし、剣道
強いし、こないだは駅前で不良の群れやっつけたんでしょ?」
「群れって、相手は一人だったわよ」
どんな伝言ゲームだか。
「とにかく、あたしは平凡なの。怪談とかホラーとか大嫌いだし、嫌いな生き物見れば
悲鳴上げてパニック起こすし」
7:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:36:01 PPS03S0X
その先のちょっとした広場で最後の休憩を取った後、頂上へ向けて出発。もう三十分も
すれば頂上で食事をしているはずだと自分に言い聞かせて、だるい足を無理に動かす。
急峻な崖にほんのわずか彫りこんだような狭い山道。石ころだらけの道は泥も混じり、
こんなとこで足を滑らせたら派手に滑落しそうで本当に危険だ。なのに横合いの斜面
からは無闇に枝だの草だのが生い茂っていて、邪魔でしかたない。
ペースが乱れてきて、前後の間隔はかなり開いている。あたしは友達と二人、うっすら
靄の立つ光景の中を歩いていた。
「ところで、早苗ちゃん……さっき言ってた、嫌いな、生き物って、何?」
「そんな息切らしながらする質問じゃないでしょ」
剣道部のあたしだってすでにしんどくて、応答するのも疲れるのに。いや、つらいから
こそ気を紛らわせたいのかもしれないけど。
「口にするのも嫌なのよ。生物の教科書もあれが載ってるページがあったらマジックで
塗り潰して折り畳んでホチキスで留めるし、ほんと、文字列に触るのも嫌なくらい」
「それは、また、徹底してる、ねー」
だから、よたよた歩きながら答えるのはやめなさい。後ろから見ていて不安になる。
「でもそうなると、けっこう、メジャーな生き物、だね。青虫、とか?」
「ちょっと近いけど、違うわよ」
「うーん、毛虫、かな?」
「こんなとこで変な想像させないでってば」
「ごめんごめん、何か、頭がぼーっとしてきて……うわっ!」
言わんこっちゃない!
再び足を滑らせた彼女の腕をまた掴む。
けれどあたしも疲れてた。踏ん張りきれず、バランスを崩しそうになる。
あたしまで落ちるわけにはいかない。
とっさに横の斜面へと手を伸ばす。強く握りしめた枝は、あたしと友達の重みをしっかり
支えてくれた。
8:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:37:21 PPS03S0X
「大丈夫?」
「う、うん。ごめんなさい、早苗ちゃん」
「そんなのいいから、早く戻って! こら、だからってあたしの髪掴まない!」
さっきまで邪魔に感じていた枝が、今はひたすらありがたい。斜面に片足取られそうに
なっていた彼女も無事体勢を立て直せた。安全を確認してからその手を離す。
「あ、危なかった……」
「ちょっと、休みましょ。今のはあたしもさすがにびびったわ」
「う、うん……」
と。
あたしは、まだ枝を掴んでいた手に妙な感触を覚えた。
ひんやりと冷たくて。
ぬるりとしていて。
何か、動いている。
全身の毛が、逆立つ。
恐る恐る、視線を向ける。
いた。
五センチほどの、生き物。
黒紫色で、テカテカぬるぬるとしている体。
ゆっくりと、わたしの手の甲を、這っている。
間違いない。
あたしの最も嫌いな生き物。
ナメクジ。
「嫌、嫌、嫌嫌嫌ーっ!!!!」
「ど、どうしたの早苗ちゃん?!」
あたしは悲鳴を上げて暴れ回り、足を滑らせて斜面を転がり落ちた。
「早苗ちゃん!」
頭上から友達の悲鳴が聞こえた。
9:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:38:37 PPS03S0X
取り返しのつかない状態になってから、やっと頭が回り出す。
普通こういうのって、何か前兆があるもんじゃない? 黒猫が前横切るとか、鴉に
鳴かれるとか、靴紐が切れるとか。
ああ、けど、とにかく、そんなもの関係なしに、あたしは転がり落ちていく。
斜面は急で、何かを掴む余裕なんてない。草と泥に塗れながら加速しつつ、あたしは
どこまでも転がっていく。
今は手の甲の存在を考える余裕なんてない。いや、さっきから転げ回っていたうちに
どこかで取れたんじゃないかという気もするし。
いずれ林に入れば木にぶつかって止まると思うけど……このスピードだと、果たして
無傷で済むんだろうか?
手足の一、二本骨折するくらいなら御の字、下手したら命の危険すら……。
天地が目まぐるしく入れ替わる中、あたしは敢えて行く先に目を向けようとした。
……え?
あたしが転がり込もうとしている前方には、唐突に闇がわだかまっていた。大きさは
直径二メートルくらいだろうか。へたくそなCGみたいに周囲から浮いている。
何よあれ?
と叫ぶ間もなく。
あたしはその闇にすっぽりと吸い込まれた。
10:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:42:10 PPS03S0X
「巫女様じゃ、新たな巫女様じゃ!」
闇に呑まれた瞬間にあたしは気を失っていたらしい。
「これでもう十年は安泰じゃな!」
「めでたいめでたい!!」
老人らしき声に、中年っぽい声やもっと若い声が唱和する。男性だけでなく女性の声も
多く混じっている。
意識が戻ると、あたしは仰向けに寝ていて、周囲を何人もの人間に取り囲まれている
みたいだった。
「先代たちをはよう呼んで来い!」
「もうカロリーナが行ったよ」
全員日本語をしゃべっている。
言ってることはよくわからないけど、とにかく助けてもらったらしい。
あたしは目を開き、身を起こした。
…………。
……何が起こっているのかわからない。
ありのままに目の前の風景を述べると、あたしは毛布の敷かれた石の台の上に寝かされて
いた。服装はジャージのまま。汚れもまだ残っている。それはまあいい。
そこはずいぶん大きい建物の中の広場のようで、光源はよくわからないのだが、周囲は
適度に明るい。空気はやや湿っているが、冷房が効いているのか涼しくて不快ではない。
そこもまあいい。
ただ、あたしの周囲にいる老若男女は、どうも日本人には見えなかった。
黒い髪に黒い瞳の人はけっこう多いのだが、たいていバタ臭い顔立ちをしている。他の
人は赤毛だったり金髪だったり青い瞳だったり白い肌だったり黒い肌だったり。
そして服装は、まあ、日本で見られる普通の洋装が大多数。ところどころに和服だの
何やらファンタジー的な不思議な服装だのも混入してるけど。
11:『行方早苗の新たな人生』 ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:47:05 PPS03S0X
「おお、お目覚めになられた!」
「ようこそ巫女様!!」
そんな人たちが、全員怖いくらい流暢な日本語で話しかけてくるのは、吹き替え洋画の
画面の中に迷い込んだみたいに強烈な違和感があった。
ここは本当に日本なんだろうか。
一体あたしに何が起こったのだろう。
「この小さな世界へようこそ。それでも住めば都だと思うわよ、きっと」
そんな人々の奥から姿を現してあたしに話しかけてきたのは、たぶん日本人と思われる
女性だった。
二十代半ばくらいだろうか。穏やかな笑みを浮かべている。
「あの……」
「私は久慈陽子。あなたのお名前は?」
「あたしは……行川早苗、です」
「そう。これからよろしくね、早苗ちゃん」
「……はあ」
何がよろしくなんだか。さっさと宿泊先か学校か家に連絡して迎えに来てもらわないと。
「あの……ここ、どこです?」
携帯電話を探そうとしたが見つからない。荷物はどこかよそへ置かれているようだ。
「ポートスパンの奥地、赤竜山脈の中の地下空洞。ポートスパンってのは、この辺りじゃ
かなり大きな国らしいわ。もっとも、私も外に出たことはないんだけど」
「………………はい?」
「ここ、私たちの住んでた世界じゃないのよ」
12: ◆eJPIfaQmes
09/05/07 03:48:37 PPS03S0X
今回はここまでです。まだ変身させてなくてすみません。
13:名無しさん@ピンキー
09/05/07 09:49:39 0YQs3dJB
期待だね!
なんか早苗→巫女→カエル
のイメージが有るなぁ
14:maledict ◆sOlCVh8kZw
09/05/07 16:24:57 NivxC1ei
>>5-11◆eJPIfaQmes様
期待高まる導入ですね。状況の設定がシンプルかつなめらかで、すっと入り込めました。
陽子さんというのが先代の巫女さんでしょうか?
大嫌いな生き物をしっかり設定しているあたり、著者の意地悪な意図を
読み込みたくなりますが、これはあくまで次のお楽しみですね。期待です。
15:maledict ◆sOlCVh8kZw
09/05/07 16:27:11 NivxC1ei
>>14様
あ、そうか。じゃんけん?…??
16:名無しさん@ピンキー
09/05/07 23:27:39 KoEzXqZW
>>13
東h(ry
17:maledict ◆sOlCVh8kZw
09/05/10 14:09:34 c++pr+8N
長いのを四つくらい分割で投下します。
「猿神退治異聞」の続編です。
設定等で前作と微妙に変わっているところもあります。
(矛盾はないと思いますが)
前作、「猿神」=異形の主、「野人」=それ以外の異形
というように書き分けている部分があった気がしますが、
「野人」というのが異形っぽくないので異形の呼び名を
「猿神」に統一しました
また、ご指摘があったので、ただの毛深い人間ではなく、
人間の獣性と狡猾な功利性が肥大し良心が麻痺した変異体
…という設定を強調するために変化のポイントを一点増やしました。
一瞬で精神変化が終わるパターンでちょっとつまらないと思う向きも
おありでしょうが、ご容赦下さい。
タイトルは「猿神退治異聞・しっぺい太郎編」です。
18:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(1/12)
09/05/10 14:10:21 c++pr+8N
人身御供の儀式から嫁が「無事に生還」した日の夜。遅くまで続いた宴会の後、
嫁は猿神としての本性を現し、まずは夫を獣化させた。猿神のどす黒い
増殖本能に衝き動かされた二人は、次なる犠牲者を求め、母屋に眠る
嫁の両親の元へ向かった。
静まりかえった深夜、いや、もう早朝に近い時刻。猿神と化した夫が音もなく
義父母の寝室に忍び込む。夫は人間の姿に化けているが、先ほどの行為そのまま
の全裸であった。外から漏れる、白みかけた空の光にぼんやり浮かび上がった
その姿は、誰が見ても尋常ではない。
夫は狂気に満ちた目で、すやすやと寝ている義母の布団をはぎ、その下の
きゃしゃな体にのしかかりながら言った。
「義母上、義母上、わしは生まれ変わりました。これより、義母上もわしらの
仲間に加えてあげましょう!」
酒臭い男の声に気づいた義母が異変に気づき、驚いて声を上げる。
「誰?…婿殿?…」
義母といっても後妻で、娘婿の五歳上に過ぎず、その肉体は張りと艶を十二分に
たたえている。義母は、自分を組み伏せ衣類をはだけようとしている全裸の婿に、
うろたえながらも気を張って声をかける。
「婿殿?酔ってらっしゃるんですか?離れなさい!無礼講とはいえ、していい
ことといけないことのけじめはあります!」
だが婿は行為をやめる様子を全く見せず、すそをまくり、両足を押し開く。
義母は悲痛な大声を出す。
「おやめなさい!婿殿!婿殿!!」
異変に気づいた義父が跳ね起きる。
「婿殿?……貴様!何を!」
義父の目には、薄暗がりの中、愛娘を奪った男が、自分の妻をも奪おうとして
いる姿が映った。義父のうちに本能的といってもいい怒りが生まれ、義父はその
怒りにまかせ、下劣な婿につかみかかろうとした。
19:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(2/12)
09/05/10 14:10:53 c++pr+8N
婿は平然として義母を犯す作業を続行しつつ、近づいてきた義父の鼻面を軽く
右手で小突いた。人間をはるかにしのぐ腕力が猛烈な勢いで義父の体を押し返し、
義父は鼻から大量の血を流しながら床に転がった。婿はその間に、とうとうその
魔羅を義母の中に押し入れてしまった。
「…ああっ、お前さま!…あぁぁ…」
義母が悲痛そうに夫を呼ぶ。だがその声の調子にはすでに猛烈に高まり来る
快楽の震えが混入している。
ゆっくりと腰を動かしながら、新婿は愉快そうに義父に声をかける。
「お義父上には、我らが主じきじきに『勢液』を授けて頂きましょうぞ」
その声と共に、婿の妻、義父の娘が部屋に入ってくる。一糸もまとわぬ美しい
人間体だが、その目には妖艶で邪悪な狂気が宿っている。
「父上、わたしとしたかったのでしょう?隠しても無駄です。ずうっと前から
気づいていましたわ」
そして娘は、床に倒れている実の父に覆い被さり、その下半身を露出させる。
そのとき、義母がすさまじい恐怖の悲鳴を上げる。
「きゃあああああっ!ひいいっ!!ひいいっ!!ば…化け物!」
義母の上の婿は、猿神としての真の姿を露わにしていた。巨大な体躯、ごつごつ
した肉体、全身を覆う白い毛、強靱な下あご、長い犬歯、そして紫色の瞳。
ヒトという種のもつ邪悪さと狡猾さだけを何倍にも増幅させ、その代償に良心や
情愛など大事なものを根絶させた、危険きわまりない畸形的変異体であった。
「ほう。化け物ですか?でも…おう…義母上、あなたさまも…ふう…すぐにその
化け物になるのですぞ…んふ。わしが果てたときに…ふおぉ…あなた様の中に
注ぎ込まれる『勢液』が…んぐ…あなたを我らが仲間に作りかえるのです…う、
う、う、おう」
ひときわ巨大になった魔羅をものすごい勢いで動かしていた婿が、早くも
果てた様子だった。
20:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(3/12)
09/05/10 14:11:12 c++pr+8N
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
義母は強烈な勢いで胎内と意識の中に流れ込んでくるどす黒い「勢液」の奔流に、
我を見失い、狂乱の叫びをあげていた。その肉体は見る間に巨大になり、
全身は白い毛に覆われた。そしてその美しい目鼻立ちはそのまま、顔の下半分が
野獣のそれへ変形し、その瞳は狂乱をはらんだ紫色に変色していった。
そのまま、うつろな目で天井を見上げる妻の変わり果てた姿を唖然として
見ている義父の上で、実の娘が言った。
「さあ、次はお父様の番よ」
父のむき出された魔羅は、猿神の秘術か、それとも父自身の秘められた願望
だったのか、固く屹立していた。娘はそれをずぶずぶと自分の中に導き入れ、
完全に飲み込むと、うれしそうに言った。
「それでは、始めましょう」
言いながら娘は猿神の主としての真の姿に戻っていった。娘の姿に父親が
恐怖と悲嘆の叫びを上げた。魔羅を飲み込んだ娘の秘部は、巨大化後もますます
強力に中のものを締め付け、強引に快楽を絞り出した。
「お父様、さあ、早く果てなさい。果てたとき、あなたの中に勢液が浸透しますわ」
強烈な快感と底知れぬ恐怖が、父の心の中で激しく葛藤した。
「…ぐう、いやじゃ…わしはいやじゃ……猿神の仲間など、なるものか…」
村人を苦しめ続けてきたおぞましい猿神への怒りが、父の抵抗への意志を支えて
いた。だがそれも、とどまることなく高まり続ける快楽のうねりの中に沈められて
いく。そして、枕元に立った別の影が、その最後の意志を強烈に揺さぶる。
「おまえ様!わたしも生まれ変わりました!どうぞ、早くおまえ様も!そして猿神
同士として、改めて媾い合いましょうぞ」
新たに生まれたメスの猿神はそう言って枕元にかがみ込み、夫の唇に濃厚な接吻
を与えた。
「うぉ…うぉ…うほぉぉぉぉぉぉ」
男は果て、その心身にどす黒い勢液が浸透していった。
21:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(4/12)
09/05/10 14:11:33 c++pr+8N
その晩の内に、宴会後酔いつぶれていた数人の村人が猿神の仲間に引き入れ
られた。翌日には、山から下りてきた、かつての人身御供の犠牲者たちが、
村のあちこちで密かに男たちを獣化させ始めていた。晩には、その日に猿神と
なった者の恋人や配偶者、それに子供たちがおぞましい化け物へと変えられた。
猿神の新たな主であるあの嫁、「おん母様」と呼ばれるようになる猿神は、
人間時代から聡明な女性だった。やすやすと欲望に流されることなく、怜悧に、
狡猾に、この村の住人を残らず仲間に引き入れるべく、猿神たちに厳重に指令を
出し、その指令が新たな獣化者に伝わるよう周知させた。
「十分な数に達するまでは、あまり表だった動きはだめ。逃亡者を出してしまうと
後々面倒なことになりかねない。しばらくの間は普通の夜這いや、ひと気のない
道で襲うくらいにしておきなさい」
古き猿神とは異なる、合理性に貫かれた「掟」に忠実に、猿神たちは人知れず
その仲間を増やしていった。
22:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(5/12)
09/05/10 14:11:56 c++pr+8N
まずは独身の男女の間に急激に獣化が広まった―
「ここなら誰もいないわね」
「本当にいいのかい?」
「うふふ。今まで、さんざんじらしてごめんね」
「あいつは?あいつとは本当に何でもなかったの?」
「ふふ、野暮なこと聞かないの」
「ごめん。…ああ、きれいだよ…こんなふうになってるのか…ふう、ふう…
いくよ。……ん、ん、ん………うわあ!化け物!離せ!離れろ!」
「ふふふ。そんなこと言わないで。あんたも仲間になれば、よさがわかるように
なるわ。ほら、ほら、ほら」
「ぁぁぁぁぁぁ、やだ!…いやだ!…化け物の仲間になんて…………あっ…っ
…ぐっ…」
また既婚者も、周辺部の孤立した住居に住まう者、夫が山などへ出て家を空ける
家、浮気性の夫や妻などが、たやすく猿神たちに籠絡されていった。人間に化身
した猿神は妖艶な性的魅力を放ち、男女ともそれに簡単に屈していったのだった。
宴会の場なども格好の「狩り」の場だった。宴席が進むにつれ、猿神の男女が
そっと獲物を誘い出す。猿神の数が十分多い場合は、宴席のまっただ中で狂乱の
儀式が始まる。
23:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(6/12)
09/05/10 14:12:23 c++pr+8N
猿神と化した子供たちもまた、子供の世界で自らの使命を果たしていった―
「やだ!何するの!…いやああ!化け物!」
「ちょっとの我慢だよお姉ちゃん。すぐに気持ちよくなって、気が付くと
お姉ちゃんも僕たちの仲間だ」
「いや!離して!…くっ!なんて力!まだ六つなのに…」
「これが猿神の力さ。姉ちゃんも仲間になれば同じ力を出せるようになるよ。
…でも、そうなったら抵抗なんてしたくもなくなるよ。猿神の仲間を増やしたい
と思うようになるよ」
「…いやあぁぁぁ!そんなのいや!やめてえ!やめてえ!…ああ…ぁ…」
村人の十分な獣化が進んだ頃、「最後の仕上げ」が始まった。集落中心部の
比較的人口の密集した、こっそり襲うには難しかった地域の数世帯を、獣化を
終えた残りの村民が襲ったのである。
夕刻にはまだ早い午後、声を掛け合い集結した猿神たちの群れは何手かに分かれ、
目指す何軒かの家を大勢で取り囲む。農作業をしていた住人は異形の襲来に怯え、
家の中へ退却する。包囲を狭めた猿神たちは、丸く輪をなし、中の住人に聞こえる
ように、不気味な歌を合唱し始める―
あのこと、このこと、聞かせるな
しっぺい太郎に聞かせるな…
不気味な歌が続く中、何人かの猿神が扉をこじ開け、恐怖に震えている中の家族を
引きずり出す。やがて猿神の群れは合流し、広い農地に大きな輪を作り、犠牲者を
輪の中に囲い込む。そして輪の中央で恐怖に震える家族たちを囲み、なおもあの歌
を歌う。
24:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(7/12)
09/05/10 14:12:46 c++pr+8N
あのこと、このこと、聞かせるな
しっぺい太郎に聞かせるな…
歌われている「しっぺい太郎」が何者であれ、それが猿神の弱みであろうことは
子供にも分かる。人間をはるかに凌ぐ知力を誇る猿神たちが、なぜこのような一見
不合理な行動をとるのか?―動物行動学者ザハヴィの「ハンディキャップ理論」
が一つの説明を提供するであろう。その理論によれば、ある状況下では、自分の
弱みをあえてさらし、それによって自分の力を誇示する、という行動は、純粋な
損得勘定という観点から見ても十分に引き合う、合理的な選択肢である。一見
直観に反するこの理論は数学的にも証明されている。猿神たちは本能によってか、
知性によってか、そのような合理的戦略を発見し採用したのである。
ひとしきり歌が終わると、狂乱の宴が始まる。
はじめに、一体の猿神が若い娘に襲いかかる。かばおうとする家人を跳ねのけ、
強引にその衣類をむしり取ると獣化の儀式を行う。怪物に変わっていく娘を恐怖の
目で見つめる村人。生まれ変わった娘は、人間だった頃袖にされた、隣家の息子を
襲う。息子は母親を獣化させ、先ほどの娘は二人目の獲物に自分の幼い弟を選ぶ。
現在犠牲になりつつある、最後まで残った住人は、比較的貞操観念の厚い、
家族仲のよい善良な家族ばかりであった。しかし、勢液の力は、そんな彼らを
次々にあさましい獣に変えていった。その事実をはっきりと認識させられた残りの
人々は、激しい恐怖にうち震えながら、自分の番がめぐってくる瞬間を待たされる
しかなかった。
25:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(8/12)
09/05/10 14:13:08 c++pr+8N
やがて取り囲む輪からも猿神が参加し、宴は狂乱の度を増す。震えながら抱き合う
夫婦は強引に引き離され、別々の男女の手で獣化される。狂乱して逃げ出そうと
した女には、取り囲む猿神たちにその場で獣化が施される。子供をかばい、抱き
すくめている母親は、その姿勢のまま衣類を脱がされ、後から勢液を注入される。
獣と化した母親は、嬉々として最初の犠牲者に我が子を選ぶ。
ねずみ算式に獣化は進み、人間のままの者が一人もいなくなっても宴はやまない。
獣化のためではなく、おのが情欲を満たすための無差別な交わりが続く。男も、
女も、老人も、幼児も、誰もが見境なく己の情欲を他の猿神にぶつける。
…だが、宴の最中、一体の猿神が好色そうな声を発したことで、雲行きが変わる。
「わしの娘はどこじゃ?わしはあいつと媾いたいぞ!」
ついさっき獣化された男だ。かつて温厚で娘思いだった父親は、今ではそんな
鬼畜の言葉を平然と発する存在になっている。
「どこにもいなかったのですか?…あ、そう言えば、今朝、思い詰めた顔で『家を
出て行く』と言っていました。別に出ていく様子はなかったので、だだをこねて
いるだけだと気にもしなかったのですが…」
母親だった猿神が答える。
それを機に、猿神の群れに波紋が広がる。
「逃がした?」
「逃がした?」
「何人だ?一人か?」
「いや三人だ。十五の娘、十一の娘、五歳の小僧だ」
「逃がしてなるものか」
「どこかへ飛び出したらしいぞ」
「探せ!」
「探せ!」
26:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(9/12)
09/05/10 14:13:33 c++pr+8N
家を空けることなどまずなく、黙々と農作業を手伝うおとなしい娘たち、
それゆえに、今の今まで獣化の魔の手を免れてきた娘たちは、この日に限り、
へそを曲げて家を飛び出した。それが幸いしたのだ。
猿神たちは娘を探そうと村中に散っていった。「家を飛び出した」の言葉があった
ため、この場に残る者はいなかった。そして、それもまた幸いなことだった。
なぜなら、気の弱い娘たちは、結局家を飛び出す勇気が出ず、納屋の中に隠れて
いたからであった。
扉の隙間から、納屋の外で起きている異常な光景を長女は見ていた。目の前で、
長女が未だ目にしたことのない男女の肉の交わりが繰り広げられ、やがて、優しく
貞潔な両親が心身ともにあさましい猿の化け物に変えられていくのを、長女は
見届けなければならなかった。猿神を殺した祟り、いやむしろ、猿神への人身御供
という仕方で抑えられていた何かが一気に吹き出したのだ。長女にはそんな気が
していた。次女には見せたくなかったが、やむを得なかった。幸いなことに、
末っ子はしばらく前からぐっすり寝込んでいて、起きる様子はなかった。
猿神が姿を消すと、長女は末っ子をおぶり、そっと納屋を抜け出した。この村は
もうだめだ。どこか別の村に逃げなければならない。そう思った長女は、林の中を
通り、村の外へ続く道を目指した。
追っ手の盲点であったのか、長女たちはかなり順調に進むことができた。だが、
少し開けたところに出たとき、折り悪く、向こう側の丘に追っ手の姿が確認された。
今のところこちらに気づいてはいない。しかしもしも見つかれば、ここに包囲網の
焦点が合わされ、逃げようがなくなるに違いない。引き返すにしろ、先に進むにしろ、
時間がかかってしまう。今すぐどこかに身を隠さねば。焦った長女は、目についた
廃屋らしきところに駆け込んだ。
27:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(10/12)
09/05/10 14:14:04 c++pr+8N
廃屋の中は薄暗く、獣くさいような、青臭いような、奇妙な臭気がした。
追っ手のいる丘の様子を見ようと中に進んだ長女たちを、扉の横にいた誰かが
呼び止めた。
「あら。猿神から逃げてここに入ったわけ?うふふ。ここがどこだか知らないようね?」
ぎくっとして振り向く長女と次女の目に入ったのは、粗末だがどぎつい模様の
衣装を着た女だった。
「知ってるわ。あのカタブツの娘さんたちでしょ?ふふ。お父上から、この辺に
出入りしちゃいけない、って言われてない?」
長女は思い出した。村はずれに、男たちに体を提供し、その代償に金品を
受け取って生計を立てる、あさましい女がいる。方角的に、まさにここがその女の
居場所であるに違いなかった。
次女はきょとんとしていたが、長女は自分がどこに迷い込んでしまったかはっきり
認識し、ぞっとした。普通に考えて、こんな商売をしている女が、人間のままで
あるはずがないのである。
長女が戦慄して立ちつくすうち、乱暴に扉が開かれ、猿神と化した男が首を
覗かせた。男は娼婦の顔を見ると少し意外そうに言った。
「お?いたのか。なあ、大変なことになったんだ。ガキが三人、逃げ出したらしい。
こっちに来ていないか?」
娼婦はにこにこと笑いながら、後ろ手に何かを掴んだ。そして、男に言った。
「ちょうどいいところに来たねえ。たった今捕まえたとこさ。見てごらん。ほら」
そう言って娼婦は男に手招きし、部屋の隅でがたがたと震えている姉妹を指さした。
猿神の男はにたりと笑い、娼婦に話しかけた。
「でかした!おめえは女だから、当然、そこの二人は『まだ』なんだよな。へへ、
じゃあ、おれ様がごぼ、うぐ、なにしやが」
28:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(11/12)
09/05/10 14:14:23 c++pr+8N
言い終える前に男は絶命した。娼婦の手に握られた奇妙な刀が男ののど元を
えぐったのだ。倒れ伏した猿神の男の首を、娼婦は手にした刀で切り落とす。
しかも、まるで豆腐を切るように素っ気ない動作でざくざくと切る。同じ手つきで
娼婦は猿神の腕や胴体にも刃を当て、奇妙にも血の出ないまま、男の体は十個ほどの
肉の塊に切り分けられる。
女が長女に言う。
「ちょっと手伝っとくれ。発つ鳥じゃないが、これを片づけてから出かけたいんでね」
そう言うと女は猿神の頭部をかかえて家の裏に出て、そこにある古井戸にそれを
投げ込む。長女と次女も自分たちがすべきことに気づき、剛胆にもまだ寝ている
末っ子を床に寝かせると、猿神の肉片を古井戸に投げ込む手伝いをし始める。
部屋が片づくと、娼婦は例の丘の様子を小屋の中から確認し、姉妹に声をかける。
「さあ、出かけるよ」
何が何だか分からないながら、この娼婦が敵ではないことだけははっきりしていた。
ようやく目覚め、ぐずる末っ子の手を引きながら、姉と妹は娼婦と共に小屋を出た。
「あいつらがいつ追って来るかもしれない。あたしがしんがりを勤めよう。行き先は、
ここから指示するよ」
娼婦はそう言って、進行方向についての指示を出しながら最後尾につく。どこか
はっきりした目的地があるようである。
29:猿神退治異聞・しっぺい太郎編一(12/12)
09/05/10 14:14:59 c++pr+8N
その後、二度ほど追っ手に見つかったが、例のだまし討ちで簡単に撃退した。
死体はやはりばらばらにして深い谷底へ捨てた。
「一対一ならまず何とかなる。そろそろ追っ手もいなくなるさ。所詮小娘と小僧だ
からね。いつまでもかかずらわりやしないよ。それに、やつらはあんたらの家を
襲った後は都を目指すと言っていたが、こっちは都と逆方向だ。…まあ、あたしも
含め、何人かいないのに気づくかもしれないが、まだ先のことだろうし、まさか
返り討ちに会ってるとは夢にも思わないさ」
姉妹の目はいつしか、猿神を難なく殺してきた奇妙な刀に注がれる。鉄ではなく、
何か骨のような白い物質でできている、いわゆる脇差しほどの小さな刀だ。
姉妹の視線に気づいた娼婦が言う。
「この刀かい?しっぺい太郎さ!」
<二へ続く>
30:maledict ◆sOlCVh8kZw
09/05/10 17:08:03 zqeBTP9W
思いがけず時間ができたので、ちょっと早いですが続きいきます。
なお、時代考証その他はかなりいいかげんです。
31:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(1/14)
09/05/10 17:10:33 zqeBTP9W
娼婦は道すがら不思議な刀「しっぺい太郎」の話をした。
「あたしなりに関心をもって旅の客やらに色々聞いてみたんだが、しっぺい太郎に
ついては色々な話がある。人の名前だと言っている人も多い。中には、犬の名前だ
というやつさえいる。だけど、実際に猿神を殺せるところを見ると、この刀こそ
本当のしっぺい太郎なんだと思う。
これは子供のとき死んだ母の形見なんだ。もともとは、母の姉、つまりあたしの
伯母に当たる人がある旅人からもらったものだ。そのとき伯母には『白羽の矢』が
立っていてね。伯母に惚れたらしい旅人は、なんとか伯母を救おうと、八方手を
尽くしてこれを探し出してきた。しかしうちの祖父母は信心深い頑固者で、猿神の
祟りを恐れ結局こいつは使わず、可哀想に、伯母を猿神に差し出しちまったんだ。
そんな祖父母への反発か、母は幼いときからあたしに剣術の基礎を習わせ、
いざあたしに白羽の矢が立ったら、これで猿神を刺し殺しなさいと言い聞かせて
育てた。…両親を流行り病で亡くしてから、結局あたしはさっさと生娘を捨てて、
白羽の矢とは無縁の、男を抱いては貢ぎ物をいただく、結構なご身分になった
わけだけどね…」
長女はそこまで聞き、考え込みながら娼婦に言った。
「あなたがそうなった後も、何人もの女性が猿神に捧げられたわ。あなたが使わない
なら、いけにえにされる女の人たちにこれをあげようとは思わなかったの?」
娼婦は苦笑して言う。
「こりゃ厳しいね。…いや、正直、今なら、そうしておけばよかったと思う。
だけどね、実を言うとあたしは、母にはすまないけど、ほんのつい最近まで、
この刀がほんとに凄いものだとは、真面目に信じちゃいなかったんだよ。見て
ごらんこの刃。鉄じゃない。それに、まるっきりのなまくらで、指に当てても
傷一つつかない。あたし自身が自分の責任で使うならともかく、これから命を
差し出す覚悟をした娘たちに、そんな当てにならないものを渡してぬか喜びを
させるのは、かえって残酷だと思ったんだ」
32:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(2/14)
09/05/10 17:11:07 zqeBTP9W
末っ子が「おんぶ」とせがむ。数えで五歳の子に山道はきつい。順番で次女が
末っ子をおぶる。娼婦は他人であるし、「用心棒」の動きが鈍るといけないので、
末っ子が疲れたと言うたび、姉と妹が交互に彼をおぶっているいのだ。
娼婦が話を続ける。
「この刀の威力を知ったのはつい数日前さ。実はその日は、朝から何か胸騒ぎが
してね。今思えばこの刀が呼んだんだね。布団の横にこいつを隠していたんだ。
そして…まあ想像はつくだろうが、その日、猿神になった男が客に来たんだ。
最初に見たときは度肝を抜かれたよ。上で腰を振っている男がいきなり巨大な
猿の化け物になって、言うんだ『おまえさんもすぐに勢液を流し込んで俺たちの
仲間にしてやる!』。あたしはもう、子供時代からの習い性で、横にあったこいつで
斬りつけた。心の一方で、斬れるはずない、と思いながらね。ところが、大根、
いや豆腐でも切るようにあっさり斬れちまった。しかも、知っての通り、返り血も
出さずにだ。危なかったよ。もう少し遅れて、あの男が最後までいっちまってたら、
あたしも猿神にされてたんだからね。
それからは、猿神になった男ばかり来るようになってね。『もうあたしは猿神さ』
と言えば帰っていくこともあったし、それでもやりたいというやつには、念のため
変化してもらってから、こいつで斬り殺しては裏の古井戸に入れてた。そんなことを
してるうち、今朝になって『最後の仕上げをやる』という通達が回ってきた。
いい機会だから、やつらがあんたらの家を襲っているすきに、村をさっさと
逃げ出そうと支度をした。そこにあんたらが転がり込んできたってわけさ」
自分だけ逃げ出すというのは、身勝手と言えば身勝手な話ではある。だが彼女を
責められる者はいるまい。しかも彼女は結局、足手まといになりかねない少女たちを
見捨てることもなく、彼らの護衛を引き受けながら旅を続けているのである。
33:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(3/14)
09/05/10 17:11:34 zqeBTP9W
しばらく下りて歩いていた末っ子がまた「おんぶ」と言い出した。姉妹の疲労も
かなりのものである。娼婦が何度か繰り返した提案をまた言う。
「なあ、あんまり無理しなさんな。あたしがおぶるよ。追っ手ももう来ないようだし」
姉が拒む。
「いいえ。それはできません。色々お世話になったのに、これ以上迷惑はかけられません」
「いいから、任せな。いいかい、あんたらが疲れた方が足手まといなんだよ!」
きつい言葉だが、それは本心というよりも、疲れた姉妹にこれ以上無理を
させないための殺し文句だった。
姉妹はやむを得ず、という様子で、しかしたしかにほっとしながら、しゃがんで
背中を差し出す娼婦に、末っ子を委ねる。
そうして歩き始めてすぐ、最後尾の娼婦が突然声を上げる。
「…ぐっ………こ…このガキ!?…くあ………」
思わず振り向く姉妹の目に映ったのは、悪鬼のごとき形相で背中の幼児に目を
向けている娼婦の姿だった。娼婦はしっぺい太郎を抜き、高く掲げ、幼児に
狙いを定めている。姉妹が思わず揃って声を上げる。
「何するの!?やめて!!」
だがそのとき、娼婦の背中から、耳を覆いたくなるほど下品な、幼い笑い声が響く。
「うっひっひっひっひ、今日の朝、林で友達と遊んでる内に猿神にしてもらったんだ。
へへへ、僕を斬っても、もう手遅れだよ。もう勢液出ちゃった。気持ちよかった。
これでお姉さんも猿神だ。このときをずっと待ってたんだよ!姉ちゃんたちを猿神に
しても、すぐに斬り殺されちゃうからねえ。油断したね。うっひっひ…うぐ」
脳天からしっぺい太郎を垂直に振り下ろされ、末っ子は絶命した。
34:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(4/14)
09/05/10 17:12:05 zqeBTP9W
娼婦の下半身は着物がずたずたになっており、そこに大人の男性ほどの獣の足が
後ろから回されていた。末っ子が下半身を猿神に変化させ、強靱な足で着物を引き裂き、
その巨大化した魔羅で後ろから娼婦を犯したのである。
娼婦は末っ子の猿神をひきはがし地面にたたきつけると、鬼気迫る形相で姉に
近づき、ぜいぜいと息を切らしながら、しっぺい太郎を手渡して言った。
「これはあんたに預ける。これから大事な話をするが、時間はあんまりない」
胎内の勢液は、娼婦の姿を猿神に変えつつあった。だが、娼婦は、強固な精神力で
変化の進行を抑え込んでいるようだった。
「聞きな。あたしなりに、いろんな話を総合した限り、どうも、しっぺい太郎と
呼ばれる何か、あるいは誰かが別にある、あるいはいるらしいんだ。…くっ、うぐ…
…あたしは、もし本物があるなら、そっちこそ本物のしっぺい太郎じゃないか、
と思っていた。この刀はこれで『本物』には違いないのだろうが、だとしても
これは完全じゃないんだろう。そして、本物のしっぺい太郎はわりとすぐ近く、
山二つ向こうの村はずれの『紅善寺』という寺にある、らしい。…ぐっ
…あたしはそこに行こうとしていた。…あんたがそこに行くんだ。
う…くはっ…。推測するに、そこにあるのはこんな小刀じゃなく、ちゃんとした
太刀じゃないかと思う。あんたに剣の腕はないだろうが、その太刀を手に入れて、
たとえぼんくらでも、侍を雇えば…。金なら、ちょっとした蓄えが、ここのたもとに
入ってる。ぐ…使っとくれ」
娼婦の猿神への変化は、徐々にだが着実に進み続けている。
「…うぐ…。これで、伝えるべきことは伝えた。さあ、すぐにあたしを斬るんだ!
もうほとんど猿になっちまった今のあたしなら、多分、豆腐みたいに斬れるよ」
35:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(5/14)
09/05/10 17:12:39 zqeBTP9W
姉は躊躇している。娼婦が怒ったように言う。
「斬るんだよ!もたもたしてると、あたしは心の底まで猿神になっちまうんだよ!
そうしたら、もうあんたらを助けることなんてできない。…ぐわあ!…早く、
早くするんだ!」
娼婦はかがんで首を差し出す。姉は刀を娼婦ののど元に当てる。だが、それを
突き通す踏ん切りがつかない。娼婦の変化は着実に進行している。その全身は白い
毛に覆われ、体躯は徐々にその大きさを増している。但し、その瞳だけはまだ黒い。
「なあ、頼む。あたしはこんな仕事をしてるからこそ、けじめとか、義理とか、
人としての道理とか、そういうものを大事にしてこれまで生きてきたんだ。心を
猿神に冒されたら、そういうものがなくなっちまう。…ぐう」
一瞬紫に変わりかけた瞳が、また黒に戻る。
「猿神にされちまった男たちを見てすぐに分かったよ…。あいつらは、欲望と
小賢しい知恵だけを発達させて、良心とか愛情とか、大事なものを捨てちまった
化け物なんだ。そんな風になっちまったやつらに、この国を乗っ取らせちゃならない。
そして、しっぺい太郎はそのための切り札なんだ。今あたしを殺さないと、それが
猿神の手に渡っちまうんだよ!さあ!やりな!!」
覚悟を決めた姉が、ほとんど猿神に変化し終えた娼婦ののどに刀を突き刺す。
突きがまだ甘いと判断した娼婦は、最後の力でこまのように体を一回転させる。
ぐるんと回りながらその首がごとんと地面に落ちる。
「いやあああ」
姉妹は思わず叫ぶが、気を取り直してその首を拾い上げる。
―娼婦の顔には、その黒い瞳が証すとおり、人間のままの心で死ねた満足感か、
安らかな微笑みが浮かんでいた。
36:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(6/14)
09/05/10 17:13:06 zqeBTP9W
姉妹の目の前には、恩人である娼婦と、幼い弟の死体が転がっていた。いずれも
猿神に変化している以上、本来ならば彼らをしっぺい太郎でバラバラに解体し、
谷底に捨てねばならない。しかしそれはどうしてもできなかった。だから二人は、
夜中までかけて林に穴を掘り、死体を埋葬した。それから、娼婦が自分用に用意
していたにぎりめしやその他の保存食を分けて食べ、くたくたになった体を林の
中で休め、朝まで眠った。追っ手はやはりもう来ないと見てよさそうだった。
翌日、二人は朝から歩き続け、隣村に着いたのは夕方だった。親戚の家に転がり
込んだ二人は、親に叱られて家出をしてきた、と嘘を言い、食事と布団にありつき、
翌朝、やっぱり家に帰るとまた嘘を言って、山向こうの村を目指した。猿神の脅威を
警告すべきかとも思ったが、小娘の言葉を信じてくれる見込みは低かった。それで
結局二人は、何も言わずに親戚の家を後にした。弁当の他、土産にするからと言って
干し芋を多めにもらい受け、途中の食料に備えた。
山向こうの村に着いたのは五日後だった。行き倒れに近い状態でたどり着いた
二人を、親切な夫婦が介抱してくれた。妹は疲労のあまり熱を出しており、安静の
必要があった。かどわかしにあったのだが、すきを見て逃げ出してきた、と言ったら、
それ以上は追求しないでくれた。
姉は夫婦に紅善寺について聞いてみた。
「紅善寺?…ああ、あの山奥の寺か。へんくつな坊さんが一人でやってる寂れた
寺だよ。そんなところに、何の用が?」
「…死んだ母のお墓が、そこにあるという話を聞いたのです。一度お参りをしたくて」
正直に話してもいいのではないか、と思ったが、結局やめた。彼らを取り巻く状況は
あまりにも異常すぎるのだ。
37:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(7/14)
09/05/10 17:13:34 zqeBTP9W
姉は熱を出した妹を夫婦に委ね、紅善寺へ向かった。紅善寺は深い山奥にあり、
たどり着くまでに何時間もかかった。
本堂をのぞき込むと、よぼよぼの住職が座禅を組んで座っている。姉は声をかける。
「あの…お尋ねします…しっぺい太郎のことで…」
住職は目をつむったまま冷たく返事する。
「若い娘か。白羽の矢が立ったか?残念だが、おまえの望んでいるようなものは
ここにはない。腹をくくり、いけにえになるか、さもなければこのまま逃げ出す
ことだ。第一おまえさん、しっぺい太郎を何だと思ってる?」
少女が答える。
「わたしの知っているしっぺい太郎は、猿神だけを斬り殺せる、不思議な刀です。
そしてそれは今、手元にあります」
住職の顔色が変わり、目を開け、少女の方を見る。少女は刀を鞘から抜き、住職に
見せる。刀を見た住職は驚きで目を見開く。
「おお!おお!それは!まさしく!…これは、どこから?」
「わたしが来たのは山二つ向こうの村です。二十数年前、わたしの村を尋ねた旅人が、
どこかから手に入れてきたそうです」
住職は感慨深げに言う。
「そうか。そんなに近くに来ていたとは。犬神の血に引かれる、という話はほんとう
だったのじゃな…。
だが、それがあれば十分じゃろう。わしが太鼓判を押すが、その刀は本物じゃ。
あんたが人身御供にされるとき、それを密かに身につけ、それで猿神を殺せばいい」
38:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(8/14)
09/05/10 17:13:53 zqeBTP9W
少女は言った。
「わたしや身内が人身御供にされるというわけではないんです。事態はもっとずっと
深刻です。村人のほとんど全員が猿神になってしまいました。そして、他の村を
襲いながら、都に攻め込もうとしています」
住職は絶句した。
「まさか…いや、ありうることじゃ。時代は少しずつ進んでいる。もう猿神の掟が
守られる時代ではないのだ。…しかし…猿神は掟と共に滅ぶべきだったのじゃ…何が
狂ってしまったのか…」
そのまま住職は黙り込んでしまった。姉は住職になおも問いかけた。
「この刀とは別に、このお寺にも『しっぺい太郎』と呼ばれる何かがあると聞き
ました。それはこんな小刀ではなく、ちゃんとした太刀ではないか、とある人は
言いました。わたしはそれを手に入れ、誰か頼もしいお侍を見つけ、猿神を退治
できないかと思っています」
それを聞いた住職は娘をにらみつけた。
「仮にここに太刀があっても、そんなことは無理じゃ。刀が一本や二本あった
ところで、そこまで数が増えた猿神を退治することなどできん。じゃが…」
なおも黙り続けていた住職は、やがて独り言のようにつぶやき始めた。
「…犬神の血はわしと共に永久に葬り去るつもりじゃった。それは猿神に劣らず
危険な存在じゃ。…だが、毒をもって毒を制すとも言う。…ううむ。ううむ」
しばらく悩んでいた住職は、やがて目を大きく開き、姉をじっと見つめて問い
かけた。
「娘さん。あんたは猿神が憎いか?命が惜しいか?どんなおぞましい運命でも
甘受する覚悟があるか?」
39:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(9/14)
09/05/10 17:14:18 zqeBTP9W
少女ははっきり答えた。
「猿神はわたしの家族や友人を異形の怪物に変えてしまいました。弟と、心を
通わせた大事な人は猿神のせいで死にました。今のわたしには妹しかいません。
妹を守るためなら、命は惜しくありません。どんなおぞましい運命でも、必要な
ことならば、耐える覚悟はあります!」
「その言葉に嘘がないな?ならばしっぺい太郎の真実をあんたに知らせよう。そして、
本物のしっぺい太郎をお目にかけよう」
住職はそう言うと、奥から立派な鞘に収められた太刀らしきものを持ち出してきた。
そしてそれを持って本堂を出て、少女の前に立った。
数時間後、少女はまた長い時間をかけて山を降り、妹の待つ家へと急いでいた。
その手には、長い鞘に収められたしっぺい太郎が握られていた。少女の手にあるのは
一つの、とても強い力だった。だが、それを行使するかどうか、いつ行使するかは
少女の選択に委ねられていたのだ。
家が近づくと少女は異変に気づいた。家の前に大勢の人が立っている。
近づいた少女は愕然とした。立っていたのは、少女の両親と隣近所の住人だった
からだ。少女の目に、彼らが泣き叫びながら獣化させられていった姿は未だに強く
焼き付いている。それが夢まぼろしでなければ、目の前の彼らはみな、人間に
化けた猿神なのだ。
そして、そうであることはほとんど間違いがなかった。目の前の人々は一様に、
下卑た、酷薄な、猿神特有の薄ら笑いを浮かべながら、あの優しい夫婦と、あろう
ことか、少女の妹を、全裸に剥いて拘束していたからである。そして、立ちつくす
少女に向けてひときわ下品な笑い声を上げる内、誰もの目が紫色に変色していった。
40:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(10/14)
09/05/10 17:14:40 zqeBTP9W
「お姉ちゃん…」
涙ぐむ妹はまだ獣化させられてはいないようだった。それはその横で怯えている
優しい夫婦も同じだった。だが、夫婦を拘束していた少女の両親は、にやりとして
顔を見合わせると、各々が拘束している相手の両足を開き、自分の着物の前をはだけ、
股ぐらに導き、怯える夫婦に面白そうに声をかけた。
「ふふふ、娘が世話になったようで」
「これはほんのお礼です」
不本意な膣に、好色な陰茎がずぶりと挿入され、同時に、不本意な陰茎が強引に
充血させられ、淫猥な膣にずぶりと挿入された。そしてやはり同時に、少女の両親は
着物をびりびりと引き裂きながら猿神としての真の姿に戻った。そして巨大な雄と
雌の猿神は、哀れな夫婦を自分の股ぐらに抱え、激しく前後に揺すり始めた。他の者
たちはにやにやと笑いながらそれを見ていた。
「ぎゃあああああああ」
「おおおおおおおおお」
恐怖と快楽の入り交じった絶叫を夫婦は上げる。やがて無理やり絶頂へと運ばれた
二人はびくんびくんと震えながら猿神に変わっていく。地面に下ろされ、顔を上げた
とき、二人の紫色に変じた目には狂気が宿り、その口元には酷薄で好色そうな薄ら
笑いが浮かんでいた。
「げへへ、こりゃいいやあ」
「なるほど。これがあの娘を助けたお礼、ってことだったのね。情けは人の
ためならずってホントのことなのね。うふふ」
もう、姉妹を介抱してくれた、あの優しく穏和な夫婦はどこにもいなかった。
41:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(11/14)
09/05/10 17:15:05 zqeBTP9W
父親だった猿神が長女に言う。
「…というわけで、わしらはこの村の住人を猿神化するために来たんだ。着いたのは
ほんの今し方だが、もう他の仲間があちこちに散って仕事を始めている。
偶然なんだろうが、おまえたちが逃げた方角はたしかに的確だった。村を出た村人の
大半は都に向かい、こっち側に来たのは少数だからな。だが、全部が都に向かった
わけではない。我らがおん母さまは周到に知恵をめぐらすお方でな。他の方角すべて
にも少数の猿神を派遣するのを怠らなかった。少数を送り込んで、多少時間は
かかっても村全体を仲間にできれば、結局使える人材は飛躍的に増えるからな。
実際、わしらはつい昨日まで隣村を襲っていたんだ。今、集団でこの村を襲って
いる主力は隣村の連中さ。これが終われば次は二つの村を同時に襲える。その次は
四つの村だ」
母親だった猿神が先を続ける。
「ただ、あたしらが他でもなくここにいるのは偶然じゃないわ。こっちの村に続く
道に、気になる土まんじゅうを見つけた者がいてね。掘り返してみたらうちの
末っ子と、そこにいる古株の姉さんの、姪御さんの死体が出てきた。それで、
ここに来る人員としてあたしらが選ばれたのよ」
母親が指さした「古株の姉さん」に目を向けた少女ははっとした。あの娼婦が
生き返ってそこにいるように錯覚したからだ。しかしすぐにそれが、あの娼婦では
なく、彼女の話に出てきた、人身御供にされてしまったその伯母だということに
気づいた。見た目は姪と大差ないが、それより何十歳も年上なのだ。
42:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(12/14)
09/05/10 17:15:55 zqeBTP9W
娼婦の伯母が口を開いた。
「うちの姪はちょっと厄介なものをもっていたようでね。ああ、たしかそれだよ。
しっぺい太郎!あたしらは、あんたからそれを取り上げる特別な任務を負ってるのさ。
あたしの姪と、あんたの弟はあり得ない切り口で斬られていた。察するに、よく
分からない仕方で姪からそれを奪ったあんたらが、追ってきた姪と、姪が獣化させた
あんたの弟を殺して逃げた。そんなとこだろ。よくも姪を。それに、実の弟を手に
かけるとは、ろくでもない娘だね」
違う…全然違う…。少女は歯ぎしりする。だが、そんな抗弁をしても今は何も
ならない。
父親だった猿神が言う。
「言っておくと、わしらはおまえに危害を加えるつもりはない。むしろおまえたちを
迎えに来たんだ。いいか、それをよこして、妹と一緒にわしらの仲間になりなさい。
おまえはいい子だ。わしのいいつけに背いたことはないはずだろ?
おまえが抵抗しているのはわしらの姿か?それは見た目で人を判断するろくでなし
の考え方だ。わしらは普通の人間より賢いし、ふつうの人間よりも力がある。
そういう真実を見ないで、相手を見た目や習慣で忌み嫌うような、そんな子に育てた
つもりはないつもりだ。な?おまえたち二人が猿神になれば、また家族一緒だ。
ちょっと姿や生活は変わったとはいえ、前と同じように仲良く幸せに暮らせるんだ」
父親の言葉は理路整然としていた。少女は動揺し、父の言葉に説得力を感じ始めて
いた。考えてみれば、あの娼婦が殺した弟以外、家族を殺されたわけでもない。
父の言うとおりかもしれない。意固地になっているのは自分の方かもしれない。
…しかしそんな理に適った思考に、少女は心のどこかで激しい違和感を覚えていた。
この違和感の原因は何だ?何が…
43:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(13/14)
09/05/10 17:16:31 zqeBTP9W
そのとき、少女は父親の股間の魔羅が激しくいきり立っているのに気づいた。
そしてその目が明らかに好色な視線で自分の全身をなめ回すように見ているのが
分かった。それを悟ったとき、少女の脳裏にあの娼婦の言葉が生々しくよみがえった。
―あいつらは、欲望と小賢しい知恵だけを発達させて、良心とか愛情とか、
大事なものを捨てちまった化け物だ―
…そうなのだ。あの娼婦は、あんな仕事をしながらも、人として大事なものを
内面で守り抜いていた。それに比べて、目の前の獣はどうだ?この、父だった猿神が
口にする、「見た目より心」とか「家族愛」とか、そういった美しい言葉は、みな、
自分の娘と媾うことを正当化するためのこじつけであり、へりくつだ。内心の醜い
欲望をきれい事で塗り固める。いや、あらゆるきれい事や建前を、欲望の正当化に
しか使わない。そんな醜く汚い存在が猿神なのだ!こんな存在になってしまった
父母たちは、この世から消えてなくならねばならない!
少女は絶叫した。
「うるさい!この、欲にまみれたエテ公ども!」
少女に、父親の理路整然とした説得を否定せしめたのは、思春期の少女特有の
潔癖で純粋な理想主義である。年齢がもう少し上か下にずれていれば、違う反応を
とっていた可能性も大きい。その意味では、しっぺい太郎が思春期の少女の手に
握られていた、というこの偶然が、その後のこの惑星の歴史を大きく変えた、
と言っても過言ではないのだ。
44:猿神退治異聞・しっぺい太郎編二(14/14)
09/05/10 17:17:24 zqeBTP9W
少女はしっぺい太郎をかかげ、その鞘を抜いて地面に投げ捨てた。しっぺい太郎は
長く赤黒い肉質の棒に変わっていた。どくん、どくん、と脈打つそれは、生きて
いるようにしか見えなかった。
あの娼婦の伯母が目を丸くする。
「おや、あたしが知っているのとはずいぶん違うねえ。…でも、剣がどんなに立派に
なったとしても、剣術の心得もないあんたが、この人数相手にどこまで戦えるの
かしらねえ」
その声を合図に、少女の故郷の村人たちは一斉に猿神の姿に変わり、少女を包囲
する。優しい夫婦が獣化したあたりで気を失ってしまった妹は、「後のお楽しみ」
という感じで、家の中に寝かせられた。
じりじりと少女に迫る猿神たち。本能に刻まれているしっぺい太郎への警戒心が、
彼らを牽制している。実のところ彼らも、しっぺい太郎の正体を明確に知っている
わけではなく、ただ激しい恐怖の感情と共にその名を覚えているに過ぎない。しかし、
どれほど恐ろしい武器であれ、この人数で一斉に襲いかかれば、とても全員を
斬り殺すことなど不可能だ、ということもみなが自覚していた。
少女は、しかし意外な行動をとった。掲げた赤黒い棒を自分の側に向け、先端を
自分のへその辺りに押し当てた。そして叫んだ。
「見ろ!おまえらの天敵、しっぺい太郎の真の姿を!」
<三へ続く>
45:maledict ◆sOlCVh8kZw
09/05/10 20:18:56 zqeBTP9W
早いですが、続きいきます。分割しなくともよかったかもしれません。
なお、書き忘れましたが以前のスレに投下した下記の作品の続編でした
(下記は自サイトへの転載です)
猿神退治異聞
URLリンク(book.geocities.jp)
猿神退治異聞・幕間
URLリンク(book.geocities.jp)
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3954日前に更新/481 KB
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