無口な女の子とやっち ..
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90:「サンタガール」
08/12/25 23:41:15 MT52stPx
息を飲んだ恵介の首筋に、不意にひやりとした物がくっつけられる。恵介はヒっと飛び上がった。
冷たいものの正体はビールジョッキだ。顔を服と同じぐらい赤くした、サンタクロースの
仕業である。
サンタクロースはひげが泡だらけになるのも構わず、ごくごくと喉を鳴らしてジョッキを
一瞬で空っぽにした。そして、身を寄せ合ったままの二人にウインクする。
「プハ……ホホ。サンタクロース、ドリンク、トゥーマッチ。ふたりのコト、何モ知ラナイ、
覚エテナイ」
「かあああ! サンタマジ男だわ! 見ざっル、言わざっル、聞かざっル。ジャパンの諺!」
もはやじゃれ合う酔っ払いと化したサンタクロースとマスターの言葉を聞いた恵介の顔に、
今度こそ幸せが蘇った。
クリスも涙でせっかくの白い顔が真っ赤だが、もう悲しみの雫が頬を伝うことは無い。

「クリス……」
「ケイスケ! ケイスケ!」

知っている日本語がそれだけのように、クリスが泣き腫らした顔で恵介の名を何度も呼ぶ。
二人は、身体がくっついて二度と離れないぐらいに、もう一度強く抱き合った。
そしておでこをこすりつけ、いたずらっぽく見詰め合うと、自然と唇を重ね合った。

「かああ、てめェケイスケ! オジサンにもチッスさせろおい―ぐぇ」
完璧に出来上がったマスターが飛び掛ろうとして、空中でハエの如く叩き落される。
後ろから現れたのは、マスターを撃墜したフライパンを携えた奥さんだ。マスターを虎の
絨毯の如く踏み敷きながら、ふたりに近づく。
「ほら。もうお店始めるから。コドモはさっさと雪で遊んでらっしゃい!」
呆れ顔の奥さんはエプロンのポケットをまさぐると、いつぞやの紙切れを恵介の手に
丸め込んで握らせた。忘れもしない、テーマパークのチケットだ。
「ったく。ゴミ箱からサルベージしておいたわよ。感謝しなさい?」
「奥さん……!」
「はいはい、開店かいてーん」
感謝をする間も無く、奥さんはカンコンコンとフライパンをノックした。
ついでにサンタクロースを見上げて、冗談ぽくにらみつける。
「ったく、あんたも! これから仕事だってのに、そんなに呑んで大丈夫なワケ!?」
「ホホ、ノンプロブレン、ママさん。平気デス」
でも……と、サンタクロースは指を鳴らして奥さんに言った。
「キャラメルモカ、一杯欲シイですネ。クリスティアナに、美味しィ聞イテマス!」
「ふうん。しっかりとツケとくからね」
「ホホウ、厳シイ!」
「また来なさいってこーと!」

そんなやり取りを見ていた恵介とクリスは、同時にクスクス笑いあった。気持ちまで
通じ合ったかのような心地のまま手を取り合って、店のドアを抜け夜空を眺める。
「キレイ……デすネ」
「うん」
ふたりは冷たい空気を孕んだ夜空から舞い降りる粉雪をしばらく目で追っていたが、
やがてクリスの青い瞳が、恵介へと注がれた。
いつも色々な物を映しては、全てを幸せに変えていったクリスの瞳が、今はじっと恵介
だけに向けられている。そうして幸せになるのは、恵介も一緒だった。

「ケイ……メリークリスマス」
「メリークリスマス。クリスティアナ」

もうこれ以上言葉は要らない。
そんな気持ちを視線で絡み合わせたふたりは顔を赤らめ、もう一度、そっと互いの唇で
生まれたばかりの愛を確かめ合うのだった。


〜おすまい〜


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